説明

シームレスベルト

【課題】記録媒体(紙)の搬送性に優れ、かつ、清掃性に優れるシームレスベルトを提供すること。
【解決手段】本発明のシームレスベルトは、ポリイミド系樹脂と、導電性フィラーと、フッ素樹脂フィラーとを含み、該導電性フィラーの平均粒径が100nm〜1000nmであり、該フッ素樹脂フィラーの平均粒径が1μm〜10μmである。好ましい実施形態においては、上記導電性フィラーの平均粒径と前記フッ素樹脂フィラーの平均粒径との比(導電性フィラー:フッ素樹脂フィラー)が、1:4〜1:50である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の画像表示装置では、記録媒体(紙)の搬送や乾燥を行うため、搬送用ベルトが用いられている。具体的には、帯電させた搬送用ベルト表面に記録媒体を静電吸着させて搬送を行う。このような搬送用ベルトとして、種々のベルトが提案されている。例えば、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)からなる絶縁層(外層)およびETFEにカーボンを含有させた導電層(内層)を有する搬送用ベルト(特許文献1)、ポリイミド樹脂を用いた搬送用ベルト(例えば、特許文献2)が提案されている。
【0003】
しかし、帯電させた搬送用ベルトは、表面にインクが付着しやすく、さらに乾燥して固着したインクの清掃性が悪いという問題がある。そこで、記録媒体の搬送性と清掃性とを十分に満足する搬送用ベルトが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−103857号公報
【特許文献2】特開2007−307755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、記録媒体(紙)の搬送性に優れ、かつ、清掃性に優れるシームレスベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシームレスベルトは、ポリイミド系樹脂と、導電性フィラーと、フッ素樹脂フィラーとを含み、該導電性フィラーの平均粒径が100nm〜1000nmであり、該フッ素樹脂フィラーの平均粒径が1μm〜10μmである。
好ましい実施形態においては、上記導電性フィラーの平均粒径と前記フッ素樹脂フィラーの平均粒径との比(導電性フィラー:フッ素樹脂フィラー)が、1:4〜1:50である。
好ましい実施形態においては、本発明のシームレスベルトは、インクジェット用搬送ベルトに用いられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定の平均粒径の導電性フィラーと、フッ素樹脂フィラーとを含むことにより、記録媒体(紙)の搬送性および清掃性に優れるシームレスベルトを得ることができる。具体的には、本発明のシームレスベルトは、特定の平均粒径の導電性フィラーを含むことにより、適度な導電性が付与されて搬送性に優れる。また、特定の平均粒径のフッ素樹脂フィラーを含むことにより、平滑性を損なうことなく優れた撥インク性が付与されたシームレスベルトを得ることができる。このようなシームレスベルトは、優れた撥インク性により、付着したインクが乾燥により固着することを抑制し、かつ、十分な平滑性を有することにより、固着したインクを容易に除去することができるので、清掃性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のシームレスベルトは、ポリイミド系樹脂と、導電性フィラーと、フッ素樹脂フィラーとを含む。
【0009】
A.ポリイミド系樹脂
本発明のシームレスベルトは、ポリイミド系樹脂を含むことにより、難燃性、機械的特性(例えば、強度、難伸長性)および化学的安定性に優れる。また、これらの特性は外部環境により変動しにくい。
【0010】
上記ポリイミド系樹脂としては、任意の適切なポリイミド系樹脂が採用され得る。例えば、テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン化合物との共重合体が挙げられる。
【0011】
上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0012】
上記ジアミン化合物の具体例としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン(PDA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ピペラジン、HN(CHO(CHO(CH)NH、HN(CHS(CHNH、HN(CHN(CH(CHNH等が挙げられる。なかでも好ましくは、p−フェニレンジアミン(PDA)または4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)である。
【0013】
上記ポリイミド系樹脂は、好ましくは、芳香族ポリイミド樹脂である。芳香族ポリイミド樹脂を用いれば、耐熱性および機械強度のより優れるシームレスベルトを得ることができる。芳香族ポリイミド樹脂の具体例としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)との共重合体、BPDAとp−フェニレンジアミン(PDA)との共重合体、BPDA、DDE、およびPDAの共重合体等が挙げられる。BPDA、DDEおよびPDAの共重合体におけるPDA由来の構成単位の含有割合は、DDE由来の構成単位に対して、好ましくは25モル%以下である。
【0014】
B.導電性フィラー
本発明のシームレスベルトは、導電性フィラーを含む。導電性フィラーを含むことにより、シームレスベルトに導電性を付与し得る。また、導電性フィラーの種類、平均粒径および含有量を調整することにより、シームレスベルトの表面抵抗率および体積抵抗率を制御することができる。
【0015】
上記導電性フィラーとしては、任意の適切なものが採用され得る。代表的には、カーボンブラックが採用され得る。
【0016】
上記カーボンブラックは、所望の導電性に応じて任意の適切なものが採用され得る。上記カーボンブラックの具体例としては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチンブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。カーボンブラックは、用途に応じて、酸化処理、グラフト処理等の処理を施してもよい。酸化処理を施せば、酸化劣化を防止することができる。グラフト処理を施せば、溶媒への分散性を向上させることができる。
【0017】
上記カーボンブラックは、市販品を用いてもよい。市販品のチャンネルブラックの具体例としては、デグサ・ヒュルス社製の商品名「Color Black FW200」、「Color Black FW2」、「ColorBlack FW2V」、「Color Black FW1」、「Color Black FW18」、「Special Black 6」、「Color Black S170」、「Color Black S160」、「Special Black 5」、「Special Black 4」、「Special Black 4A」、「Printex 150T」、「Printex U」、「Printex V」、「Printex 140U」、「Printex 140V」等が挙げられる。市販品のファーネスブラックの具体例としては、デグサ・ヒュルス社製の商品名「Special Black 550」、「Special Black 350」、「Special Black 250」、「Special Black 100」、「Printex 35」、「Printex 25」、三菱化学社製の商品名「MA 7」、「MA 77」、「MA 8」、「MA 11」、「MA 100」、「MA 100R」、「MA 220」、「MA 230」、キャボット社製、「MONARCH 1300」、「MONARCH 1100」、「MONARCH 1000」、「MONARCH 900」、「MONARCH 880」、「MONARCH 800」、「MONARCH 700」、「MOGUL L」、「REGAL 400R」、「VULCAN XC−72R」等が挙げられる。
【0018】
シームレスベルト中の上記導電性フィラーの平均粒径(平均2次粒子径)は、好ましくは100nm〜1000nmであり、さらに好ましくは100nm〜500nmであり、特に好ましくは180nm〜300nmである。このような範囲であれば、表面抵抗率および体積抵抗率を所望の範囲に均一性よく制御でき、搬送性に優れるシームレスベルトを得ることができる。なお、本発明において「平均粒径」は、シームレスベルトの断面からSEMにより観察される粒子に外接する円の直径をもとに算出される。
【0019】
上記導電性フィラーの平均1次粒子径は、好ましくは5nm〜100nmであり、さらに好ましくは10nm〜50nmである。
【0020】
上記導電性フィラーの含有量は、導電性フィラーの種類、粒径および分散性、ならびに必要とされる電気特性に応じて、任意の適切な値に設定され得る。導電性フィラーの含有量は、ポリイミド系樹脂100重量部に対して、好ましくは50重量部以下であり、さらに好ましくは1重量部〜30重量部である。このような範囲であれば、表面抵抗率および体積抵抗率を所望の範囲に制御できて搬送性に優れ、かつ、十分な機械的特性を有するシームレスベルトを得ることができる。1つの実施形態においては、導電性フィラーとしてカーボンブラックを用いて、好ましくはその含有量を5重量部未満、さらに好ましくは1重量部〜4重量部とすることができる。このように導電性フィラーとしてカーボンブラックを用いれば、少量の導電性フィラーにより表面抵抗率および体積抵抗率を制御し得るので、機械的特性に優れたシームレスベルトを得ることができる。
【0021】
C.フッ素樹脂フィラー
本発明のシームレスベルトは、フッ素樹脂フィラーを含む。フッ素樹脂フィラーを含むことにより、シームレスベルトに撥インク性を付与することができる。撥インク性を有することで、インクとシームレスベルト表面との接触角が大きくなり、付着面をより小さくすることができ、乾燥によるインクの固着を抑制することができる。このような作用は、シームレスベルトの清掃性に寄与し得る。
【0022】
上記フッ素樹脂フィラーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−へキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等の粉末が挙げられる。なかでも好ましくは、PTFEの粉末である。フッ素樹脂フィラーとしてPTFEの粉末を用いれば、撥インク性に特に優れたシームレスベルトを得ることができる。
【0023】
上記フッ素樹脂フィラーは、市販品を用いてもよい。市販品のPTFE粉末の具体例としては、喜多村社製の商品名「KTL−4N」、「KTL−8」、「KTL−8N」、「KTL−8F」等が挙げられる。
【0024】
本発明のシームレスベルト中のフッ素樹脂フィラーの平均粒径(平均1次粒子径)は、好ましくは1μm〜10μmであり、さらに好ましくは1μm〜8μmである。平均粒子径がこのような範囲のフッ素樹脂フィラーは、シームレスベルトの電気特性のバラツキおよび平滑性への影響が少なく、かつ、分散性に優れる。本発明のシームレスベルトは、上述のように撥インク性に優れることにより、シームレスベルトに付着したインクが乾燥により固着することを抑制し、さらに、十分な平滑性を有することにより、例えば、ブレードでこそげ落とすなどの方法で、この固着したインクを容易に除去することができるので、清掃性に優れる。
【0025】
本発明のシームレスベルト中の上記導電性フィラーの平均粒径(平均2次粒子径)と上記フッ素樹脂フィラーの平均粒径(平均1次粒子径)との比(導電性フィラー:フッ素樹脂フィラー)は、好ましくは1:4〜1:50であり、さらに好ましくは1:5〜1:50であり、特に好ましくは1:5〜1:40である。このような範囲であれば、導電性フィラーとフッ素樹脂フィラーとが互いの作用を阻害することを防ぎ得る。その結果、搬送性および清掃性が特に優れるシームレスベルトを得ることができる。
【0026】
上記フッ素樹脂フィラーの含有量は、ポリイミド系樹脂100重量部に対して、好ましくは1.5重量部〜20重量部であり、さらに好ましくは1.5重量部〜10重量部であり、特に好ましくは1.5重量部〜5重量部である。このような範囲であれば、優れた機械的特性および電気特性を維持しつつ、撥インク性に優れるシームレスベルトを得ることができる。
【0027】
D.シームレスベルトの形成方法
本発明のシームレスベルトの形成方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。例えば、
(1)溶媒中に上記導電性フィラーを分散させて、導電性フィラー分散液を調製し、
(2)導電性フィラー分散液に、上記フッ素樹脂フィラーと、上記テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体と、上記ジアミン化合物とを溶解させた後、重合反応させてポリアミド酸溶液を調製し、
(3)ポリアミド酸溶液を円筒状に展開させた後、加熱して、閉環イミド化反応を進行させることにより、得ることができる。
【0028】
D−1.工程(1)
工程(1)においては、溶媒中に上記導電性フィラーを分散させて、導電性フィラー分散液を調製する。このように、工程(2)のポリアミド酸溶液の調製の前に、あらかじめ導電性フィラーを分散させておくことにより、導電性フィラーが均一に分散した状態でポリアミド酸溶液の調製を行うことができる。その結果、電気特性のバラツキの小さいシームレスベルトを得ることができる。また、分散の時間および/または強度により、シームレスベルト中の導電性フィラーの平均粒径(平均2次粒子径)を調整することができる。
【0029】
上記溶媒としては、有機極性溶媒が好ましく用いられる。溶解性に優れ、後工程の重合反応溶媒と兼用し得るからである。有機極性溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。なかでも、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等のN,N−ジアルキルアミド類が好ましい。導電性フィラーの分散溶媒と後工程の重合反応溶媒との兼用に適しているからである。また、低分子量のN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドであれば、蒸発、置換または拡散によりポリアミド酸溶液から容易に除去することができる。有機極性溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記有機極性溶媒にクレゾール、フェノール、キシレノール等のフェノール類、ベンゾニトリル、ジオキサン、ブチロラクトン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等を単独または組み合わせて混合してもよい。
【0031】
上記導電性フィラー分散液には、さらに分散剤が添加されていてもよい。分散剤の添加により、上記導電性フィラーを上記溶媒中に好適に分散させて、シームレスベルトの表面抵抗率および体積抵抗率の均一性を向上させ得る。上記分散剤は、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の適切な分散剤が採用され得る。上記分散剤の具体例としては、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(N,N’−ジエチルアクリルアジド)、ポリ(N−ビニルホルムアミド)、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、ポリ(N−ビニルフタルアミド)、ポリ(N−ビニルコハク酸アミド)、ポリ(N−ビニル尿素)、ポリ(N−ビニルピぺリドン)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ(N−ビニルオキサゾリン)等の高分子分散剤;界面活性剤、無機塩等が挙げられる。これらの分散剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
上記導電性フィラーの分散方法は、導電性フィラーの種類、および必要とされる導電性フィラーの平均粒径(平均2次粒子径)に応じて、任意の適切な分散方法を適用できる。当該分散方法として、例えば、ボールミル、サンドミル、バスケットミル、三本ロールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル、超音波分散等の方法が挙げられる。上記導電性フィラーの分散状態を調べる方法は、特に制限されず、例えば光学顕微鏡にて観察する方法が挙げられる。
【0033】
上記導電性フィラーの分散時間および分散強度は、例えば、上述の導電性フィラーの平均粒径(平均2次粒子径)が得られる条件に設定される。導電性フィラーの分散時間は、代表的には、4時間〜8時間である。
【0034】
D−2.工程(2)
工程(2)においては、上記導電性フィラー分散液に、上記フッ素樹脂フィラーと、上記テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体と、上記ジアミン化合物とを溶解させ、次いで、重合反応させることにより、ポリアミド酸溶液を得る。ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸は、略等モルのテトラカルボン酸二無水物またはその誘導体と上記ジアミン化合物とが重合反応して得られる。好ましくは、重合反応は、実質的に無水条件下で行われる。ポリアミド酸が加水分解して低分子化することを防ぐためである。なお、ポリアミド酸溶液としては、1種のポリアミド酸を含むものであってもよく、2種以上のポリアミド酸の混合溶液であってもよい。
【0035】
上記重合反応時のモノマー濃度(溶媒中におけるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分の濃度)は、好ましくは5重量%〜30重量%である。
【0036】
上記重合反応時の反応温度は、好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは5℃〜50℃である。また、反応時間は、好ましくは0.5時間〜10時間であり、さらに好ましくは3時間〜9時間である。
【0037】
上記ポリアミド酸溶液の溶液粘度は、好ましくは、B型粘度計で1Pa・s(25℃)〜1000Pa・s(25℃)である。溶液粘度がこのような範囲にあれば、次工程の遠心成形時に均一に溶液を展開することができ、厚みの均一なシームレスベルトを得ることができる。上記ポリアミド酸溶液の溶液粘度は、上記重合反応後に得られたポリアミド酸溶液をさらに加熱、撹拌することにより、所望の粘度とすることができる。当該加熱温度は、好ましくは、50℃〜90℃である。
【0038】
好ましくは、上記ポリアミド酸溶液は、上記重合反応後にイミド化触媒が添加される。イミド化触媒の具体例としては、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミン等が挙げられる。なかでも、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イソキノリン、キノリン、ジエチルピリジンまたはβ−ピコリン等の含窒素複素環化合物が好ましい。なお、イミド化触媒は、あらかじめ有機溶媒に溶解し、希釈してからポリアミド酸溶液に添加してもよい。
【0039】
上記イミド化触媒の使用量は、ポリアミド酸溶液のアミド酸1モル当量に対して、好ましくは0.04モル当量〜0.3モル当量であり、さらに好ましくは0.05モル当量〜0.2モル当量である。触媒の添加量が0.04モル当量以下では触媒の効果が十分ではなく、逆にポリアミド酸の低分子化を招いて硬化を妨げ得るので、シームレスベルトを成形できないおそれがある。また0.3モル当量以上添加しても効果の向上は見られない。
【0040】
上記イミド化触媒は、脱水剤と併用され得る。脱水剤の具体例としては、有機カルボン酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド類、低級脂肪酸ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、およびチオニルハロゲン化物等が挙げられる。
【0041】
上記脱水剤の添加方法としては、例えば、イミド化触媒および脱水剤を共に有機溶媒に溶解し、希釈してからポリアミド酸溶液に添加する方法、ポリアミド酸溶液にイミド化触媒のみ添加しておき、工程(3)の直前に脱水剤を素早く混合する方法等が挙げられる。
【0042】
D−3.工程(3)
工程(3)においては、上記ポリアミド酸溶液を円筒状に展開させた後、加熱して、閉環イミド化反応を進行させる。
【0043】
上記ポリアミド酸溶液を円筒状に展開させる方法としては、例えば、円筒形の金型の内周面または外周面に浸漬法、回転遠心成形法、塗布法(例えば、ノズルによるらせん塗布、スプレー塗布)等によりコートする方法、注形型に充填する方法が挙げられる。なかでも好ましくは、回転遠心成形法により円筒形金型内周面に遠心力により展開させる方法である。このような方法によれば、ポリアミド酸溶液を均一に展開させることができる。金型および注形型は、離型処理等の表面処理が施されていてもよい。また、ポリアミド酸溶液は展開前に脱泡処理が施されていてもよい。
【0044】
上記ポリアミド酸溶液中の溶媒は、展開後、乾燥させて除去し得る。上記ポリアミド酸溶液中の溶媒は、閉環イミド化反応の前に乾燥させて除去してもよく、閉環イミド反応中に除去してもよい。閉環イミド反応の前に乾燥させる場合の乾燥条件は、溶媒の種類、濃度等に応じて適切に設定され得る。代表的には、乾燥温度は50℃〜150℃であり、乾燥時間は10分〜60分である。
【0045】
閉環イミド化反応を進行させるための加熱温度は、好ましくは250℃〜450℃である。低温で加熱を開始し徐々に昇温させてもよい。加熱方法としては、例えば、円筒形金型を回転させながら加熱する方法、高精度の熱風循環を用いて展開層を加熱する方法およびこれらの方法の組み合わせが挙げられる。このような加熱方法によれば、ポリアミド酸溶液への加熱を均等に行うことができ、導電性フィラーの凝集バラツキを抑制することができる。その結果、シームレスベルトの表面抵抗率および体積抵抗率を均一にすることができる。
【0046】
上記のとおり、管状に形成することにより、接合部(フィルムを管状とする際に生じる接合部)を有さないシームレスベルトを得ることができる。このようなシームレスベルトは、周長精度に優れるので良好な画像形成に寄与し得、かつ、耐久性にも優れる。
【0047】
E.シームレスベルト
本発明のシームレスベルトの表面抵抗率(ρs)は、好ましくは1×10〜1×1013Ω/□であり、さらに好ましくは1×1010Ω/□〜1×1012Ω/□である。このような範囲であれば、紙を搬送する際に、紙の吸着性と剥離性とを両立でき、搬送性に優れるシームレスベルトを得ることができる。また、インク等の汚れが搬送される紙に転写され難く、良好な画像形成に寄与し得るシームレスベルトを得ることができる。
【0048】
本発明のシームレスベルトの純水接触角は、好ましくは80°以上であり、さらに好ましくは80°〜120°である。このような範囲であれば、撥インク性に優れるシームレスベルトを得ることができる。
【0049】
本発明のシームレスベルト表面粗さRzは、好ましくは1.5μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下であり、特に好ましくは0.1μm〜0.5μmである。このような範囲であれば、清掃性に優れるシームレスベルトベルトを得ることができる。
【0050】
本発明のシームレスベルトの厚みは、使用目的に応じて任意の適切な値に設定され得る。代表的には、5μm〜500μmであり、好ましくは10μm〜300μmであり、さらに好ましくは20μm〜200μmである。このような範囲であれば、強度および柔軟性に優れるシームレスベルトを得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
(ポリアミド酸溶液の調製)
2000gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、導電性フィラーとして乾燥したカーボンブラック(テグサジャパン社製、商品名:Printex V)142.3gを添加して、ボールミルで6時間(室温)混合した。このNMP中に、496.9gの3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と182.5gのp−フェニレンジアミン(PDA)とを溶解させ、同時に、12.3gのフッ素樹脂(PTFE)粉末(平均1次粒子径:1μm)を加え、室温、窒素雰囲気中で6時間攪拌しながら反応させた。なお、得られるポリイミド系樹脂(固形分)100重量部に対して、添加したカーボンブラックは23重量部に相当し、フッ素樹脂粉末は2重量部に相当する。
このようにして、導電性フィラーおよびフッ素樹脂粉末を分散させた、粘度200Pa・sのポリアミド酸溶液を得た。
【0053】
(成形)
内径300mm、長さ900mmの円筒状金型(SUS製)の内面に、上記ポリアミド酸溶液をディスペンサーで厚み170μmに塗布した後、金型を1500rpmで10分間回転させて均一な塗膜を形成した。
次に、金型を20rpmで回転させながら、金型の外側より100℃の熱風を30分間あてた。その後、300℃まで2℃/分の昇温速度で昇温し、300℃で15分間保持した後、冷却し、金型からベルトを離型し、厚み75μmのシームレスベルトを得た。
【0054】
[実施例2]
フッ素樹脂フィラーとして、平均1次粒子径が8μmのフッ素樹脂粉末(喜多村社製、商品名「KTL−8」)を用いたこと、および、当該フッ素樹脂粉末をポリイミド系樹脂100重量部に対して3重量部となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして、シームレスベルトを得た。
【0055】
[比較例1]
ボールミルの分散強度を上げたこと、および、フッ素樹脂フィラーとして、平均1次粒子径が6μmのフッ素樹脂粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シームレスベルトを得た。
【0056】
[比較例2]
ボールミルの分散強度を下げたこと、および、フッ素樹脂フィラーとして、平均1次粒子径が4μmのフッ素樹脂粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、シームレスベルトを得た。
【0057】
[比較例3]
フッ素樹脂フィラーとして、平均1次粒子径が12μmのフッ素樹脂粉末を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、シームレスベルトを得た。
【0058】
[比較例4]
フッ素樹脂粉末を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、半導電性ベルトを得た。
【0059】
得られたシームレスベルトについて、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
<評価>
1.平均粒径
得られたシームレスベルトの断面をSEMにより観察し、導電性フィラー(カーボンブラック)の粒径を、それぞれ100個測定し、シームレスベルト中の導電性フィラーの平均粒径を算出した。
2.接触角
得られたシームレスベルトの表面に純水を少量滴下して、水滴の両端におけるシームレスベルト表面と水滴との接触角を、自動接触角測定装置OCA20(英弘精機社製)を用いて、測定した。
3.表面抵抗率(ρs)
ハイレスタUP MCP−HT450(三菱油化社製、プローブ:UR)を用いて、25℃、60%RHの条件下、印加電圧500V(10秒後)で測定した。なお、表1に示す値は常用対数値であり、抵抗率の対数が14以上の場合は「over」と示し、抵抗率の対数が7以下の場合は「under」と示した。
4.紙搬送性
得られたシームレスベルトをインクジェットプリンタの紙搬送ベルトとして、ロールに掛け渡して装着し、印刷用紙として普通紙を用いて、室温、湿度50%RHの環境下で6時間、連続印刷し、紙搬送性を評価した。印刷用紙の吸着性および剥離性が良好で、問題なく印刷できる場合を良好とした。一方、印刷用紙の吸着性および剥離性に問題があり、部分的剥離等の不具合が発生する場合を不良とした。
5.撥インク性
インク(エプソン社製、ICBK50)を得られたシームレスベルト上に塗布し、50℃で5分間乾燥させた後、インク付着面を垂直にした際に、乾燥したインクがシームレスベルト上から脱離する場合を良好とした。一方、乾燥したインクがシームレスベルト上に固着した場合を不良とした。
6.清掃性
インク(エプソン社製、ICBK50)を得られたシームレスベルト上に塗布し、クリーニングブレードでシームレスベルト表面のインクを掻き落とす操作を行った後、シームレスベルト上のインク塗布部分に普通紙を供給した際に、普通紙にシームレスベルトからのインクが転写しない場合を良好とした。一方、普通紙にシームレスベルトからのインクが転写する場合を不良とした。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すとおり、本発明のシームレスベルトは、紙搬送性、撥インク性および清掃性に優れる。
【0062】
比較例1に示すとおり、シームレスベルト中の導電性フィラーの平均粒径が小さすぎる場合、表面抵抗率が大きくなりすぎるため、紙搬送性に劣る。一方、比較例2に示すように、シームレスベルト中の導電性フィラーの平均粒径が大きすぎる場合、表面抵抗率が小さくなりすぎるため、紙搬送性に劣る。
【0063】
比較例4に示すとおり、フッ素樹脂フィラーを含まないシームレスベルトは、純水接触角が小さく、撥インク性に劣り、十分な清掃性が得られない。また、比較例3に示すように、フッ素樹脂フィラーの平均粒径が大きすぎる場合は、高い撥インク性を発現するが、十分な清掃性が得られない。これは、粒径の大きいフッ素樹脂フィラーによりシームレスベルトの平滑性が損なわれ、表面の凹凸が固着したインクの除去を妨げているためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のシームレスベルトは、インクジェットプリンタ、電子写真複写機等の画像形成装置における搬送ベルトや転写ベルト等の機能性ベルトとして好適に用いられ得る。好ましくは、インクジェットプリンタ等の液状インクを用いる画像形成装置の搬送ベルト(インクジェット用搬送ベルト)として用いられ得る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系樹脂と、導電性フィラーと、フッ素樹脂フィラーとを含み、
該導電性フィラーの平均粒径が100nm〜1000nmであり、
該フッ素樹脂フィラーの平均粒径が1μm〜10μmである、
シームレスベルト。
【請求項2】
前記導電性フィラーの平均粒径と前記フッ素樹脂フィラーの平均粒径との比(導電性フィラー:フッ素樹脂フィラー)が、1:4〜1:50である、請求項1に記載のシームレスベルト。
【請求項3】
インクジェット用搬送ベルトに用いられる、請求項1または2に記載のシームレスベルト。


【公開番号】特開2011−240616(P2011−240616A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115083(P2010−115083)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】