説明

シールドケーブル

【課題】 導体材料に特殊な材料を用いることなく安価に製造することができ、屈曲性を低下させることなく引張り強度を高めて断線発生を低減し、また、所定の電気特性を得ることができるシールドケーブルを提供する。
【解決手段】 内部導体2、絶縁体3、外部導体4を同軸状に配し、外周を絶縁シース5で覆ったシールドケーブルであって、外部導体4は導電性を有する複数本の素線6を編組した編組シールドで形成し、複数本の素線6の一部に、前記の素線6より高い抗張力特性を有する材質の線条体7を用いる。この線条体7は、編組シールドを構成する「打」単位で用いることができ、この場合、高い抗張力特性を有する材質の線条体7は、テープ状に形成してもよい。また、線条体7は、アラミド繊維で形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型のAV機器、情報機器、電子機器等に用いるのに適した可撓性のあるシールドケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型電子機器の発達には顕著なものがあり、産業機器の分野では各種ロボットに代表されるように多くの可動部分を有する制御機器の使用がある。これらの機器は益々高度な性能が要求され、加えて軽量、小型化が求められている。このため、極細の配線用ケーブルに編組シールドを施し、外部へのノイズ放射や外部からのノイズ侵入を防止している。民生機器の分野では、携帯型の音響再生機器に代表されるAV機器等があり、この機器の音声は、同軸ケーブルを用いてイヤホーン(ヘッドホーンを含む)で聴取することも行なわれている。最近では、携帯型テレビ受像機も開発され、その音声をイヤホーンで聴取するとともに、イヤホーン用のケーブルをシールドケーブルで形成し、受信アンテナ等の高周波信号の伝送にも利用している。
【0003】
これらの機器において使用されるシールドケーブルの共通の課題として、繰り返し曲げられたり捻られたりして使用されるため、収納されている導体が断線しやすいという問題がある。これに対して、今までにも各種のシールドケーブル(又は同軸ケーブル)が提案されてきている。例えば、特許文献1には、横巻シールドの素線内に、剛性の大きい金属線を補強のため混合させ、キンク断線を抑制する構成のものがある。また、特許文献2には、編組シールドの素線に銀入り銅合金線を用いることで、屈曲性、捻回性を改善できるとされている。さらに、特許文献3には、編組シールドの素線の一部をプラスチック糸に置き換え、絶縁シースの押出し成形時にシースの熱で融着させて、水密、気密性を持たせたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−334750号公報
【特許文献2】特開2003−132745号公報
【特許文献3】実開昭56−143732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した用途に用いるシールドケーブルとしては、できるだけ細径で柔軟性を有し、且つ曲げに対する抵抗が小さくスムーズな屈曲性を有し、十分な引張り強度を備えていることが望まれる。さらに、低周波に対してはシールド効果を有し、高周波信号を伝送する同軸線としては、低抵抗で減衰の少ない75Ω又は50Ωの特性インピーダンスを持ち、アンテナとしての機能を備え、コスト的にも安価に製造できることが必要とされる。
【0006】
上記特許文献1に開示のシールドケーブルは、シールド乃至は電気的特性主体の金属線の一部を補強主体の金属線に置き換えた構成であるが、補強主体の金属線は、ステンレス鋼線やピアノ線等の剛性の大きいものを用いている。このため、キンク発生は抑制できるとしても、剛性を強めた分だけケーブルの屈曲性や柔軟性が低下する。また、横巻シールドの構成であるため、編組シールドに比べ屈曲時に隙間が生じやすく十分なシールド特性を得ることができない。
【0007】
また、特許文献2に開示のシールドケーブルは、外部導体に銀入り銅合金線という特殊な線材を用いるため、コストが高いものとなる。特許文献3においては、編組シールドの素線の一部をプラスチック糸に置き換えているが、絶縁シースとの融着で水密、気密性を得られるとしても、シールドケーブルの引張り強度を改善することはできない。
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、シールドケーブルの導体材料に特殊な材料を用いることなく安価に製造することができ、屈曲性を低下させることなく引張り強度を高めて断線発生を低減し、また、所定の電気特性を得ることができるシールドケーブルの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるシールドケーブルは、内部導体、絶縁体、外部導体を同軸状に配し、外周を絶縁シースで覆ったシールドケーブルであって、外部導体は導電性を有する複数本の素線を編組した編組シールドで形成し、複数本の素線の一部に、前記の素線より高い抗張力特性を有する材質の線条体を用い、かつ、前記内部導体の一部に、前記抗張力特性を有する材質の補強繊維を用いる。この線条体は、編組シールドを構成する「打」単位で用いることができ、この場合、高い抗張力特性を有する材質の線条体は、テープ状に形成してもよい。また、線条体は、アラミド繊維で形成することができる。さらに、編組シールド上に、導電線を編組シールドの螺旋ピッチより小さい螺旋ピッチで巻き付けてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シールドケーブルの主たる導体としては通常の軟銅線を用い、また、補強用の線条体としても汎用のものを用いることができ、安価に製造することができる。また、シールドケーブルの補強用の線条体に、剛性は小さいが高い抗張力を有する材質のものを用いることにより、屈曲性、柔軟性を低下させることなく引張り強度を高めて断線発生を防止でき、所定の電気的特性も確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の概略を説明する図である。
【図2】本発明の他の実施形態を説明する図である。
【図3】本発明のその他の実施形態を説明する図である。
【図4】本発明によるシールドケーブルの屈曲特性の試験方法を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1により本発明の実施形態の概略を説明する。図中、1はシールドケーブル、2は内部導体、2aは補強繊維、2bは導線、3は絶縁体、4は外部導体(編組シールド)、5は絶縁シース、6は素線、7は線条体を示す。
【0012】
本発明によるシールドケーブル1は、内部導体2を絶縁体3で絶縁し、絶縁体3の外周に外部導体4を同軸状に配し、その外周全体を絶縁シース5で被覆して構成される。内部導体2(中心導体ともいう)は、軟銅又は錫メッキ軟銅等からなる1本の導線で形成されるか、又は、軟銅又は錫メッキ軟銅等からなる複数本の導線を撚り合わせた撚り線で形成される。また、図1に示すように、例えば、補強繊維2aを中心に複数本の軟銅等の導線2bを撚り合わせて形成することもできる。
【0013】
絶縁体3は、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が用いられるが、好ましくは、電気的特性、耐熱性に優れた四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)や、誘電率や誘電損失の少ない架橋発泡ポリエチレンを用いるのが好ましい。絶縁体3の外周に外部導体4を巻き付け、内部導体2と外部導体4の同軸構造による特性インピーダンスとしては、75Ω又は50Ωとなるように、絶縁体3の誘電率が調整される。
【0014】
本発明においては、外部導体4として編組シールドを用いたシールド構造としている。以下、外部導体4を編組シールドという。なお、編組シールドは、横巻シールドと比べて、屈曲時においてもシールドの隙間発生が少なく、適度な柔軟性、折り曲げ強さ、機械的強度を備えた静電シールド方法として知られているものである。編組シールド4は、通常、数本の素線6を1組とし、この組数を「打」数と言い、1打の素線数を「持」数として表示し、全体の素線数は「持数」×「打数」となる。極細シールドケーブルの編組シールドでは、通常、持数は2〜10本とされ、打数は10〜30とされている。本発明においては、このような構成の編組シールドの素線6のうちの一部を、より高い抗張力特性をもつ材質の線条体7で形成する。
【0015】
線条体7は、編組シールド4を構成する素線6と同程度の外径或いは太さとし、素線6の編み込みと同じようにして編組シールド4内に編み込む。この場合、例えば、図1に示すように持数が4なら、その内の1本の素線6を線条体7に置き換え、編組シールド4の全体の1/4を線条体7とする。なお、編組シールド4を構成する素線6より高い抗張力特性をもつ材質の線条体7であれば、金属線、非金属線の何れであってもよい。
【0016】
なお、線条体7に、例えば、合金線を用いるような場合は、金属線に良導電性のメッキ等を施してシールド特性を確保させるようにしてもよい。また、線条体7に、高張力繊維のような非金属材を用いる場合は、例えば、高張力繊維の表面に銅等をコーティングした金属化繊維、或いは、高張力繊維糸に平角線状の銅箔テープをラップ巻した銅箔糸として知られているような線条体を用いてもよい。また、絶縁シース5を押出し機で成形により形成する場合は加熱を伴うので、線条体7には耐熱性のものを用いる。絶縁シース5(外被又はジャケットという場合もある)は、例えば、スチレン系エラストマー等の樹脂を押出し機により成形して形成される。
【0017】
図2は他の実施形態を説明する図で、図2(A)は編組シールド4の「打」単位で、高い抗張力特性をもつ材質の線条体7を用いる例を示す図である。この例のように、図1に示した編組シールド4の各「打」中の1本を線条体7で置き換える代わりに、特定の「打」内の全体を線条体7としても同等の効果を期待することができる。すなわち、編組シールド4を素線6のみからなる「打」と線条体7のみからなる「打」を、混在させて編組する。素線6と線条体7との混合割合は、図1の例と同様にすることで、同様の高い抗張力を持たせることができる。また、製造的にも素線6と線条体7との組合せがシンプルになり、作業ミスを軽減させることができる。
【0018】
図2(B)は、図2(A)の変形例で「打」単位で置き換えられた線条体7を、テープ状線条体7’にして編み込むようにしたものである。また、テープ状線条体7’も、金属又は非金属で形成することができる。金属の場合は、平角線状の金属帯を編組内に編み込み、非金属の高張力繊維を用いるような場合は、予めテープ状に編んだ紐を編組内に編み込んで形成することができる。
【0019】
図1〜図2の何れの場合も、線条体7,7’として、高い抗張力特性と耐熱性に優れたアラミド繊維を用いることができる。このアラミド繊維は、内部導体2の補強繊維としても用いることができるもので、使用材料の共用化を図ることができる。なお、アラミド繊維は、例えば、ケブラー(デュポン
登録商標)やトワロン(帝人 登録商標)等の市販のものを用いることができる。
【0020】
図3は、その他の実施形態を示す図で、図1〜2で説明した編組シールド4の外周に補助用の導電線8を横巻で巻き付けたシールドケーブル1’である。導電線8は、例えば、裸の銅線、銅合金線等を用い、編組シールド4を構成する素線の螺旋ピッチより、小さい螺旋ピッチで編組シールド4の表面に直接巻付ける。この導電線8を巻き付けることにより、シールドケーブル1’が屈曲された際に、編組シールドの素線或いは線条体が移動をして隙間が生じるのを低減させることができる。また、例え、隙間が生じたとしても、導電線8自体が隙間部分を覆ってシールド漏れを防止することができる。
【0021】
上述した本発明によるシールドケーブル1,1’の実施例として、内部導体2を、アラミド繊維等からなる補強繊維2aの周りに、外径0.06mmの裸軟銅からなる導線2bを8本巻き付けて、外径が0.21mmとなるように形成した。絶縁体3にはPFAを用い、外径が0.5mmとなるように形成した。編組シールド4は、外径0.08mmの軟銅線を素線6とし、1打当たりの持数を3、全体の打数を16(右巻き8打、左巻き8打)とし、この内の4打を100デニールのアラミド繊維で形成した。すなわち、編組シールド全体としては、軟銅線の素線数が合計で36本、アラミド繊維の抗張力線が合計で12本を用いる。この場合、編組シールド4の巻き付け外径は、0.9mm程度となる。なお、絶縁シース5としては、スチレン径エラストマーを用いて、外径が1.3mmとなるように押出し機で成形した。
【0022】
また、上記の実施例の比較例として、内部導体2、絶縁体3、絶縁シース5を実施例と同じに形成し、編組シールド4を構成する素線6の全てを軟銅線としたものを作製した。すなわち、編組シールド4は、特に強度補強用の高い抗張力を入れることなく、従来通りの軟質銅の素線で形成した。
【0023】
上述のようにして作製したシールドケーブルを、図4に示す試験方法を用いて評価した。この試験方法は、吊り下げたシールドケーブル1,1’に対して、100gの引張り荷重を加え、外径8mmの丸棒9を両側に配して、それぞれ左右に90度に曲げる。左右の曲げの往復(合計360度の曲げ)を1回として屈曲速度を30回/分として屈曲させる。内部導体の各導線、編組シールドの各素線を直列接続して、導通が無くなるまでの屈曲回数を測定した。
【0024】
この結果、実施例のシールドケーブルは、屈曲特性として合格基準の3000回以上の屈曲で断線がなく、基準を満たすことができた。また、引張り強度としても、基準荷重の980N以上に耐えることができた。これに対し、比較例のシールドケーブルは、200〜1500回で断線が生じ、基準をクリアすることができなかった。また、引張り強度についても、490N〜590Nで断線が生じ基準をクリアすることができなかった。
【符号の説明】
【0025】
1,1’ シールドケーブル
2 内部導体
2a 補強繊維
2b 導線
3 絶縁体
4 外部導体(編組シールド)
5 絶縁シース
6 素線
7,7’ 線条体
8 導電線
9 丸棒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体、絶縁体、外部導体を同軸状に配し、外周を絶縁シースで覆ったシールドケーブルであって、前記外部導体は導電性を有する複数本の素線を編組した編組シールドで形成され、前記複数本の素線の一部に、前記素線より高い抗張力特性を有する材質の線条体が用いられていることを特徴とするシールドケーブル。
【請求項2】
前記線条体は、前記編組シールドを構成する「打」単位で用いられていることを特徴とする請求項1に記載のシールドケーブル。
【請求項3】
前記線条体は、テープ状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載のシールドケーブル。
【請求項4】
前記線条体は、アラミド繊維で形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに1項に記載のシールドケーブル。
【請求項5】
前記編組シールド上に、導電線が前記編組シールドの螺旋ピッチより小さい螺旋ピッチで巻き付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシールドケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−195304(P2012−195304A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−148906(P2012−148906)
【出願日】平成24年7月2日(2012.7.2)
【分割の表示】特願2004−356628(P2004−356628)の分割
【原出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】