説明

シールドコネクタ及びシールドコネクタの組立方法

【課題】シールド電線の皮を剥ぐ長さが短い場合でも端子の挿入作業が容易になるシールドコネクタ及びシールドコネクタの組立方法を提供する。
【解決手段】シールドコネクタ11は、シールド電線37の複数のシールド線端末に圧着した端子13が挿入される複数の端子収容室を備えたインナーハウジング15と、インナーハウジング15を覆うシールド部77とシールド電線37のシース部43を圧着固定するバレル部79とを備えたシールドシェル19と、を備える。インナーハウジング15が、複数の端子群ごとに端子13を挿入可能なアッパーインナーハウジング53と、ロアーインナーハウジング55とに分割される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドコネクタ及びシールドコネクタの組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数本の素線を撚り合わせてなる導体を絶縁被覆層で覆った信号線を複数本有する多芯線型シールドケーブルに接続してなるシールドコネクタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この種のケーブル側のシールドコネクタ501を図6に示す。
シールドケーブル(シールド電線)510は、複数の素線を撚り合わせてなる導体511aの周囲を絶縁被覆層511bで覆った信号線511と複数本の銅素線を撚り合わせてなるドレイン線512とを金属箔503で覆い、さらに金属箔503の外周を絶縁外被514で被覆してなる。
【0003】
シールドコネクタ501は、シールドケーブル510の端末部の信号線511とドレイン線512とを露出させ、これらの端末部を端子520,520,520にそれぞれ接続し、この端子520,520,520を誘電体(インナーハウジング)530の端子収容部531,531,531に収容し、さらに、この誘電体530の外周にドレイン線512に接続した中央に位置する端子520と電気的に導通接続させる金属製の外導体シェル540を装着してなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−173828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、USB2.0(高速伝送用差動コネクタ)などのシールド電線は、図7に示すように、伝送性能、耐ノイズ性能を満足させるため、特殊なシールド電線603が用いられる。このシールド電線603は単体で性能を満足させる構造となっているため、端子605とのつなぎ部625ではシールド電線603の絶縁外被615やシールド箔627の皮629を剥ぐ必要がある。そのため、皮629を剥いでいる部分は、インピーダンス不整合を引き起こし、伝送性能が悪くなるため、皮629を剥ぐ距離は短ければ短いほどよい。
【0006】
しかしながら、シールド電線603の皮629を剥ぐ距離を短くしていると、シールド電線603に端子605を圧着した状態の端子装着シールド電線607をインナーハウジング609に挿入する際、端子605の向きを合わせ、全て(USB2.0の場合は4本)の端子装着シールド電線607を同時に挿入したり、半挿入の状態を意図的に作り、一度揃えるなどの作業が必要になってしまう。これらの同時挿入作業や、半挿入状態の揃え作業は、インナーハウジング609への端子605の組付作業性を低下させた。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、シールド電線の皮を剥ぐ長さが短い場合でも端子の挿入作業が容易になるシールドコネクタ及びシールドコネクタの組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) シールド電線の複数のシールド線端末に圧着した端子が挿入される複数の端子収容室を備えたインナーハウジングと、前記インナーハウジングを覆うシールド部と前記シールド電線のシース部を固定するバレル部とを備えたシールドシェルと、を備えたシールドコネクタであって、前記インナーハウジングが、複数の端子群ごとに前記端子を挿入可能な分割構造を有することを特徴とするシールドコネクタ。
【0009】
上記(1)の構成のシールドコネクタによれば、インナーハウジングが分割されているので、それぞれにシールド電線を圧着した状態の複数の端子を数の少ない端子群ごとに、各インナーハウジングに挿入することができるようになる。これにより、シールド電線の皮を剥ぐ長さが短く、つなぎ部の剛性が高い端子装着シールド電線の場合であっても、小分けした端子群ごとにインナーハウジングに対する挿入方向を変えることができ、隣接する端子装着シールド電線同士の干渉が生じ難くなるので、端子挿入作業が容易となる。
【0010】
(2) 上記(1)のシールドコネクタであって、複数の端子収容室における一部の端子収容室を構成するインナーハウジングの端子挿入側部分が二分割構造とされることを特徴とするシールドコネクタ。
【0011】
上記(2)の構成のシールドコネクタによれば、一部の端子収容室は、端子挿入側部分を開放した状態で、端子を挿入することができるので、全ての端子を同時に挿入する必要がなくなり、端子挿入作業が容易となる。
【0012】
(3) シールド電線の複数のシールド線端末に端子を圧着接続し、複数のインナーハウジングのそれぞれの端子収容室に複数の端子群ごとに前記端子を挿入し、前記複数のインナーハウジングを合体し、合体した前記インナーハウジングをシールドシェルのシールド部に装着し、前記シールド電線のシース部を前記シールドシェルのバレル部で固定することを特徴とするシールドコネクタの組立方法。
【0013】
上記(3)のシールドコネクタの組立方法によれば、従来、一度に挿入されていた端子装着シールド電線の端子が、数の少ない端子群に分けて挿入される。数の少ない端子群では、端子群全体でのつなぎ部の剛性が低く抑えられる。また、多数の端子収容室が隣接していた一体のインナーハウジングに比べ、端子収容室の数が少ないインナーハウジングに分割されるので、複数の端子収容室への端子挿入時に、端子装着シールド電線同士の干渉が生じ難くなり、端子挿入作業が容易となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るシールドコネクタによれば、分割したインナーハウジングの端子収容室には、複数の少ない端子群ごとに端子をそれぞれ挿入することができるので、シールド電線の皮を剥ぐ長さが短い場合でも端子の挿入作業が容易になる。
また、本発明に係るシールドコネクタの組立方法によれば、本数の少ない端子群ごとに端子を各インナーハウジングの端子収容室に挿入した後、これらインナーハウジングを合体してシールドシェルのシールド部に装着することができるので、シールド電線の皮を剥ぐ長さが短い場合でも端子の挿入作業が容易になる。
【0015】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るシールドコネクタの分解斜視図である。
【図2】図1に示したインナーハウジングの要部拡大斜視図である。
【図3】図2に示したインナーハウジングの分割構造の変形例を示す要部拡大斜視図である。
【図4】図1に示したシールドシェルにインナーハウジングを収容した状態の縦断面図である。
【図5】(a)は相手コネクタの斜視図、(b)は(a)に示した相手コネクタの断面図である。
【図6】従来のシールドコネクタの分解斜視図である。
【図7】従来のシールドコネクタの課題を説明するための要部分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るシールドコネクタを図面を参照して説明する。
本実施形態に係るシールドコネクタ11は、USB2.0(高速伝送用差動コネクタ)のケーブル側のシールドコネクタとして好適に用いることができる。
図1に示すように、シールドコネクタ11は、端子13と、インナーハウジング15と、フロントフォルダ17と、シールドシェル19と、シールドシェルカバー21と、アウターハウジング23と、リヤフォルダ25と、を具備する。
【0018】
端子13は、板金加工により成形される。本実施形態では図4に示す箱状の電気接触部27を有する雌端子となる。電気接触部27の内部には接触片29が形成され、接触片29は図5に示す相手雄端子の板状のタブ31と接触する。電気接触部27の上部には後述するハウジングランス33が係止する端子曲げ部35が形成されている。端子13は、シールド電線37に接続されて端子装着シールド電線39を構成する。
【0019】
シールド電線37は、端子13とのつなぎ部41では、シース部43やシールド箔45の皮47を剥ぐ必要がある。皮47を剥いでいる部分は、インピーダンス不整合を引き起こし、伝送性能が悪くなるため、皮47を剥ぐ距離は短ければ短いほどよい。
【0020】
インナーハウジング15は、合成樹脂材により成型される。シールド電線37の複数のシールド線端末に圧着した端子13が挿入される複数の端子収容室49(図4参照)を備える。このインナーハウジング15は、図2に示す複数の端子群51ごとに端子13を挿入可能な分割構造を有する。端子群51とは、略同時に同じ方向から端子収容室49に挿入される複数の端子13のことを言う。
【0021】
本実施形態では、インナーハウジング15がアッパーインナーハウジング53と、ロアーインナーハウジング55との2つに分割される。アッパーインナーハウジング53とロアーインナーハウジング55との接合面57には、双方を仮保持するための仮固定手段が設けられる。仮固定手段としては、凹凸係合部や、アリ溝状とこれに係合する凸条等が挙げられる。図示例ではロアーインナーハウジング55の上面に凹状係合部59が形成され、アッパーインナーハウジング53の下面に図示しない凸状係合部が形成されている。
【0022】
インナーハウジング15の分割構造としては、この他、図3に示すように、複数の端子収容室49における一部の端子収容室49を構成するインナーハウジング15の端子挿入側部分61を二分割構造としてもよい。図示例では、段付インナーハウジング63を形成し、段付インナーハウジング63の段部65に、一部の端子収容室49を構成する端子挿入側部分61を保持可能としている。段付インナーハウジング63と端子挿入側部分61との仮固定には、上記同様の仮固定手段を用いることができる。
【0023】
この変形例に係る分割構造を有したインナーハウジング15によれば、一部の端子収容室49は、端子挿入側部分61を開放した状態で、端子13を挿入することができるので、全ての端子13を同時に挿入する必要がなくなる。
【0024】
インナーハウジング15に形成される端子収容室49には、それぞれの端子13を挿着する。端子収容室49は、図4に示すインナーハウジング15の前面に開口するタブ挿通開口67と連通する。端子収容室49の後方は、端子挿入開口部69としてインナーハウジング15の後部で開口する。端子収容室49の内部には片持ち梁状のハウジングランス33が設けられ、ハウジングランス33は端子収容室49に挿入された端子13の端子曲げ部35に、端子挿入方向の後方から係止することで、端子13を脱落規制して端子収容室49に固定する。
【0025】
フロントフォルダ17は、図4に示す前面板71を有して、インナーハウジング15の前部に挿着される。前面板71には、インナーハウジング15のタブ挿通開口67に一致する複数の窓部73が形成される。前面板71には複数のランス規制片75が突設され、ランス規制片75はハウジングランス33の可撓空間に挿入される。ハウジングランス33は、可撓空間にランス規制片75が挿入されると、係止解除方向の移動が規制され、端子13を二重ロックすることとなる。
【0026】
図1に示すシールドシェル19は、板金材を用いた板金加工により形成される。シールドシェル19は、インナーハウジング15を内方に挿入して覆う箱状のシールド部77を有する。シールド部77の後方には、シールド電線37のシース部43を圧着固定するバレル部79が連設される。端子装着シールド電線39の端子13を挿着したインナーハウジング15は、シールドシェル19に挿入され、端子装着シールド電線39のシース部43がバレル部79に加締め固定される。
【0027】
シールドシェルカバー21は、シールドシェル19に、上方から覆うようにして装着される。シールドシェルカバー21は、両側部に形成した係止穴81を、シールド部77の両側部に形成した係止爪83に係止して、シールド部77に固定される。
【0028】
アウターハウジング23は、合成樹脂材により角筒状に成形される。アウターハウジング23の内方には、シェル装着空間85が形成される。シェル装着空間85には、シールドシェル19に覆われたインナーハウジング15が挿入される。シェル装着空間85に、インナーハウジング15を収容したアウターハウジング23は、後部にリヤフォルダ25が係止される。アウターハウジング23にリヤフォルダ25が係止されることで、インナーハウジング15の脱落が規制されるとともに、インナーハウジング15から導出されたシールド電線37が支持される。
【0029】
図5に示した相手コネクタ87は、相手アウターハウジング89の外側がアウターシールドシェル91によって覆われる。アウターシールドシェル91には基板接続部93が垂設され、基板接続部93は図示しない電子機器の基板に形成されるスルーホールに半田付けされ、同時に基板のグランドに接続される。相手アウターハウジング89の内方には、シールドコネクタ11を受け入れるためのコネクタ嵌合空間95が形成される。コネクタ嵌合空間95には、相手インナーハウジング97が設けられ、相手インナーハウジング97は複数の相手雄端子であるタブ31を収容している。タブ31は、リード部99が図示しない基板のスルーホールに半田付けされて、所定回路に接続される。このタブ31がシールドコネクタ11の端子13と接続されることとなる。相手インナーハウジング97は、相手インナーシェル101によって覆われる。相手インナーシェル101には基板接続部93が垂設され、基板接続部93は図示しない基板のスルーホールに半田付けされ、同時に基板のグランドに接続される。
【0030】
次に、上記構成を有するシールドコネクタ11の組立手順と、シールドコネクタ11の作用を説明する。
シールドコネクタ11を組み立てるには、図1に示したように、シールド電線37の複数のシールド線端末に端子13を圧着接続して、端子装着シールド電線39とする。端子装着シールド電線39の端子13を、複数のインナーハウジング15であるアッパーインナーハウジング53と、ロアーインナーハウジング55のそれぞれの端子収容室49に挿入する。
【0031】
次いで、アッパーインナーハウジング53とロアーインナーハウジング55を合体し、フロントフォルダ17を前方より組み付ける。フロントフォルダ17を組み付けたインナーハウジング15をシールドシェル19のシールド部77に装着する。シールドシェル19に挿着されたインナーハウジング15は、後方から導出されるシールド電線37のシース部43を、シールドシェル19のバレル部79で圧着固定する。
【0032】
バレル部79近傍のシールド線露呈部は、シールドシェルカバー21を装着して覆われる。そして、シールドシェル19をアウターハウジング23に挿着する。最後に、インナーハウジング15を収容したアウターハウジング23に、リヤフォルダ25を係止してシールドコネクタ11の組立を完了する。
【0033】
上述した本実施形態に係るシールドコネクタ11の組立方法によれば、従来、一度に挿入されていた端子装着シールド電線39の端子13が、図2に示す数の少ない端子群51に分けて挿入が可能となる。数の少ない端子群51では、端子群全体でのつなぎ部41の剛性が低く抑えられる。また、多数の端子収容室49が隣接していた一体のインナーハウジング609(図7参照)に比べ、端子収容室49の数が少ないアッパーインナーハウジング53、ロアーインナーハウジング55に分割されるので、複数の端子収容室49への端子挿入時に、端子装着シールド電線39同士の干渉が生じ難くなり、端子挿入作業が容易となる。
【0034】
また、本実施形態に係るシールドコネクタ11によれば、インナーハウジング15が分割されているので、それぞれにシールド電線37を圧着した状態の複数の端子13を数の少ない端子群51ごとに、各インナーハウジング15に挿入することができるようになる。これにより、シールド電線37の皮47を剥ぐ長さが短く、つなぎ部41の剛性が高い端子装着シールド電線39の場合であっても、小分けした端子群ごとにインナーハウジング15に対する挿入方向を変えることができ、隣接する端子装着シールド電線39同士の干渉が生じ難くなるので、端子挿入作業が容易となる。
【0035】
なお、本発明のシールドコネクタ及びシールドコネクタの組立方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0036】
11…シールドコネクタ
13…端子
15…インナーハウジング
19…シールドシェル
23…アウターハウジング
37…シールド電線
43…シース部
49…端子収容室
51…端子群
53…アッパーインナーハウジング
55…ロアーインナーハウジング
61…端子挿入側部分
77…シールド部
79…バレル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド電線の複数のシールド線端末に圧着した端子が挿入される複数の端子収容室を備えたインナーハウジングと、前記インナーハウジングを覆うシールド部と前記シールド電線のシース部を固定するバレル部とを備えたシールドシェルと、を備えたシールドコネクタであって、
前記インナーハウジングが、複数の端子群ごとに前記端子を挿入可能な分割構造を有することを特徴とするシールドコネクタ。
【請求項2】
請求項1記載のシールドコネクタであって、
複数の端子収容室における一部の端子収容室を構成するインナーハウジングの端子挿入側部分が二分割構造とされることを特徴とするシールドコネクタ。
【請求項3】
シールド電線の複数のシールド線端末に端子を圧着接続し、
複数のインナーハウジングのそれぞれの端子収容室に複数の端子群ごとに前記端子を挿入し、
前記複数のインナーハウジングを合体し、
合体した前記インナーハウジングをシールドシェルのシールド部に装着し、
前記シールド電線のシース部を前記シールドシェルのバレル部で固定することを特徴とするシールドコネクタの組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−25956(P2013−25956A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158289(P2011−158289)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】