説明

シールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法

【課題】凍結工法の併用を最小限に抑え、低コストで安全に大深度の分岐・合流部の構築を可能にするシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法を提供すること。
【解決手段】2本のシールドトンネル1の分岐部の後方位置又は合流部の前方位置の2本のシールドトンネル1内から、2本のシールドトンネル1の直径よりも小径の仮設シールド機2を、分岐部又は合流部の外周を覆うように、分岐部又は合流部に向けて順次発進して、分岐部又は合流部を通過させ、分岐部の前方位置又は合流部の後方位置の1本のシールドトンネル1内に回収することにより、分岐部又は合流部の外周を覆う外殻覆工3を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法に関し、特に、未固結地山での大深度シールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大深度の道路や鉄道などのトンネルの分岐合流部は、下水道管渠のように直角に接続するという方法では用途を満たさず、数百mの連続した接続部分が必要であり、シールド機の分岐発進・到達だけでは接続部分を構築することができない。
大深度のトンネルの分岐合流部は、固結地山の場合は大深度では深度に土圧は比例増大しないため、山岳トンネルの技術を応用して、トンネル部分を拡幅掘削して分岐合流部分を構築することが可能である。
これに対し、大深度未固結地山の場合は、土水圧とも増加するので、地中拡幅にはそれらに対抗して安全に施工できる技術が求められる。
【0003】
従来技術で大深度拡幅に好適な補助工法は凍結工法であるが、数百m級の大きな構造物構築に必要な凍結工法は膨大な熱量を必要とし、コストや工期も多大なものとなる。
また、未固結地山、特に粘性土での凍結は凍上・解凍沈下による周辺地山への影響や土圧の増大という課題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法が有する問題点に鑑み、凍結工法の併用を最小限に抑え、低コストで安全に大深度の分岐・合流部の構築を可能にするシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本第1発明のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法は、2本のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法であって、2本のシールドトンネルの分岐部の後方位置又は合流部の前方位置の2本のシールドトンネル内から、2本のシールドトンネルの直径よりも小径の仮設シールド機を、分岐部又は合流部の外周を覆うように、分岐部又は合流部に向けて順次発進して、分岐部又は合流部を通過させ、分岐部の前方位置又は合流部の後方位置の1本のシールドトンネル内に回収することにより、分岐部又は合流部の外周を覆う外殻覆工を施すようにしたことを特徴とする。
【0006】
また、同じ目的を達成するため、本第2発明のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法は、2本のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法であって、2本のシールドトンネルの分岐部の前方位置又は合流部の後方位置の1本のシールドトンネル内から、2本のシールドトンネルの直径よりも小径の仮設シールド機を、分岐部又は合流部の外周を覆うように、分岐部又は合流部に向けて順次発進して、分岐部又は合流部を通過させ、分岐部の後方位置又は合流部の前方位置の2本のシールドトンネル内に回収することにより、分岐部又は合流部の外周を覆う外殻覆工を施すようにしたことを特徴とする。
【0007】
この場合において、シールドトンネルのトンネル壁面に対する仮設シールド機の発進及び回収の角度を25〜60゜に設定することができる。
【0008】
また、外殻覆工が、仮設シールド機の発進及び回収位置において、トンネル壁面に対して外方向に一度膨らみ、シールドトンネルの分岐部又は合流部において縮径して、シールドトンネルのトンネル壁面に対して略平行となるようにすることができる。
【0009】
また、シールドトンネルの分岐部又は合流部において、隣接する外殻覆工が重なり合い、一体となるようにすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本第1及び第2発明のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法によれば、外殻覆工を介して地盤を凍結させることにより、大深度未固結地山の場合でも地盤を安定支持し、分岐部や合流部で地中拡幅工事を安全に施工することができる。
この場合、地盤の凍結は外殻覆工に沿って行えばよいことから、凍結部を削減し、工期やコストを低減するとともに、前記仮設シールド機を回収することにより、さらにコストを低減することができる。
【0011】
また、シールドトンネルのトンネル壁面に対する仮設シールド機の発進及び回収の角度を25〜60゜に設定することにより、シールドトンネルの開口面積を小さくし、その強度を維持することができる。
【0012】
また、外殻覆工が、仮設シールド機の発進及び回収位置において、トンネル壁面に対して外方向に一度膨らみ、シールドトンネルの分岐部又は合流部において縮径して、シールドトンネルのトンネル壁面に対して略平行となるようにすることにより、シールドトンネルのトンネル壁面に対する仮設シールド機の発進及び回収角度を大きくし、シールドトンネルの開口面積を小さくして、その強度を維持しながら、大部分の外殻覆工の径を小さくすることができ、凍結部を削減し、工期やコストを低減することができる。
【0013】
また、シールドトンネルの分岐部又は合流部において、隣接する外殻覆工が重なり合い、一体となるようにすることにより、外殻覆工に耐荷力を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1〜図5に、本発明のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法の一実施例を示す。
【0016】
このシールドトンネルの施工方法は、2本のシールドトンネル1の分岐部又は合流部を施工するもので、2本のシールドトンネル1の分岐部の後方位置又は合流部の前方位置の2本のシールドトンネル1内から、2本のシールドトンネル1の直径よりも小径の仮設シールド機2を、分岐部又は合流部の外周を覆うように、分岐部又は合流部に向けて順次発進して、分岐部又は合流部を通過させ、分岐部の前方位置又は合流部の後方位置の1本のシールドトンネル1内に回収することにより、分岐部又は合流部の外周を覆う外殻覆工3を施すものである。
【0017】
この場合、仮設シールド機2の発進を、2本のシールドトンネル1の分岐部の前方位置又は合流部の後方位置の1本のシールドトンネル1内から行い、分岐部の後方位置又は合流部の前方位置の2本のシールドトンネル1内に回収するようにすることもできる。
【0018】
外殻覆工3は、仮設シールド機2の発進及び回収位置において、トンネル壁面に対して一旦外方向に一度膨らみ、その後戻って、シールドトンネル1の分岐部又は合流部において縮径させ、シールドトンネル1のトンネル壁面に対して略平行としている。
これにより、シールドトンネル1のトンネル壁面に対する仮設シールド機2の発進及び回収の角度を25〜60゜に設定している。
また、シールドトンネル1の分岐部又は合流部においては、隣接する外殻覆工3が重なり合い、一体となるように設けられている。
【0019】
ところで、2本のシールドトンネル1の分岐部又は合流部並びに仮設シールド機2の発進部及び回収部のシールドトンネル1を構成するセグメントは、必要に応じて、他の恒久的な箇所を構成するセグメントと比較して、強度の弱いセグメントを使用することができる。
【0020】
次に、本実施例の施工方法を、道路のシールドトンネルの分岐ランプを例に説明する。
【0021】
まず、図1に示すように、本線シールドトンネル1aと支線シールドトンネル1bを所定の位置まで掘進完了させる。
本線シールドトンネル1aと支線シールドトンネル1bから、仮設シールド機2により小径の仮設ブロックシールド4を本支線間の掘削に必要な本数だけ施工し、本線シールドトンネル1aと支線シールドトンネル1bの長手方向の外殻覆工(ルーフ)3を形成する。
【0022】
仮設ブロックシールド4は、図2に示すように、本線シールドトンネル1aと支線シールドトンネル1bから斜めに発進させるとともに、斜めに到達させ、回収して再利用する。
仮設ブロックシールド4は、外殻覆工3がルーフ形成のため、複数本必要であるが、同一箇所に発進・到達用の開口部を設置するとシールドトンネル1のセグメントの補強が困難である。
そこで、長手方向や周方向に発進・到達位置をずらし、補強可能な開口間隔を確保した上で必要な仮設ブロックシールド4の本数を確保する。
【0023】
仮設シールド機2は、本線シールドトンネル1a又は支線シールドトンネル1bから斜め発進したあと、3次元急曲線掘進を行い、最小限の掘進距離で外殻覆工3に必要な位置まで到達させる。また、図3に示すように、外殻覆工3を施すルーフ区間の掘進が終了次第、発進と同様に急曲線施工にて本線シールドトンネル1a内に回収する。
【0024】
仮設ブロックシールド4は、図4に示すように、断面が俵型の鋼殻5を備えた切削可能な材質からなる略円形断面のセグメント6を用いる。ルーフ区間では、先行する仮設シールドセグメント6の切削可能な材質部分を切削しながら後続の仮設ブロックシールド4を掘削する。
【0025】
仮設ブロックシールド4による外殻覆工3の構築完了後、仮設ブロックシールド4のセグメント表面を部分凍結し、大深度の水圧に対抗する。外殻覆工3の端部の妻部7も凍結にて土留壁を築造する。
仮設ブロックシールド4による本支線シールドトンネル1との接合部は高圧噴射系の補助工法を併用し、仮設ブロックシールド4とシールドトンネル1のセグメントを連結する。
【0026】
この場合、必要に応じて、図4に示すように、仮設ブロックシールド4のセグメント間をPC鋼線8にて連結し、シールドトンネル1のセグメント内で緊結させ、外殻覆工3に耐荷力を付与することができる。
【0027】
外殻覆工3内のシールドトンネル1の上部よりセグメントを撤去し、外殻覆工3とシールドトンネル1との間の土砂を掘削・搬出する。
この場合、図5に示すように、外圧に応じて上半部掘削後に外殻覆工3の内側に中間支柱9を設けて下半を掘削する。
【0028】
掘削完了後、外殻覆工3内に分岐部の構造物10を築造し、外殻覆工3から外防水工を実施する。
そして、外殻覆工3と構造物10との間を高流動化処理した埋戻土で充填する。
止水凍結を完了し、構造物10の内部の仕上げ工を行う。
【0029】
かくして、本実施例のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法は、外殻覆工を介して地盤を凍結させることにより、大深度未固結地山の場合でも地盤を安定支持し、分岐部や合流部で地中拡幅工事を安全に施工することができる。
この場合、地盤の凍結は外殻覆工3に沿って行えばよいことから、凍結部を削減し、工期やコストを低減するとともに、前記仮設シールド機2を回収することにより、さらにコストを低減することができる。
【0030】
また、シールドトンネル1のトンネル壁面に対する仮設シールド機2の発進及び回収の角度を25〜60゜に設定することにより、シールドトンネル1の開口面積を小さくし、その強度を維持することができる。
【0031】
そして、外殻覆工3が、仮設シールド機2の発進及び回収位置において、トンネル壁面に対して外方向に一度膨らみ、シールドトンネル1の分岐部又は合流部において縮径して、シールドトンネル1のトンネル壁面に対して略平行とすることにより、シールドトンネル1のトンネル壁面に対する仮設シールド機2の発進及び回収角度を大きくし、シールドトンネル1の開口面積を小さくして、その強度を維持しながら、大部分の外殻覆工3の径を小さくすることができ、凍結部を削減し、工期やコストを低減することができる。
【0032】
さらに、シールドトンネル1の分岐部又は合流部において、隣接する外殻覆工3が重なり合い、一体となるようにすることにより、外殻覆工3に耐荷力を付与することができる。
【0033】
以上、本発明のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法は、凍結工法の併用を最小限に抑え、低コストで安全に大深度の分岐・合流部の構築を可能にするという特性を有していることから、例えば、大深度未固結地山のシールドトンネルの分岐・合流部の施工に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法の一実施例を示す第1工程図である。
【図2】同第2工程を示す縦断面図である。
【図3】同第3工程を示す斜視図である。
【図4】同第4工程を示す横断面図である。
【図5】同第5工程を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 シールドトンネル
2 仮設シールド機
3 外殻覆工(ルーフ)
4 仮設ブロックシールド
5 鋼殻
6 セグメント
7 妻部
8 PC鋼線
9 中間支柱
10 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法であって、2本のシールドトンネルの分岐部の後方位置又は合流部の前方位置の2本のシールドトンネル内から、2本のシールドトンネルの直径よりも小径の仮設シールド機を、分岐部又は合流部の外周を覆うように、分岐部又は合流部に向けて順次発進して、分岐部又は合流部を通過させ、分岐部の前方位置又は合流部の後方位置の1本のシールドトンネル内に回収することにより、分岐部又は合流部の外周を覆う外殻覆工を施すようにしたことを特徴とするシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法。
【請求項2】
2本のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法であって、2本のシールドトンネルの分岐部の前方位置又は合流部の後方位置の1本のシールドトンネル内から、2本のシールドトンネルの直径よりも小径の仮設シールド機を、分岐部又は合流部の外周を覆うように、分岐部又は合流部に向けて順次発進して、分岐部又は合流部を通過させ、分岐部の後方位置又は合流部の前方位置の2本のシールドトンネル内に回収することにより、分岐部又は合流部の外周を覆う外殻覆工を施すようにしたことを特徴とするシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法。
【請求項3】
シールドトンネルのトンネル壁面に対する仮設シールド機の発進及び回収の角度を25〜60゜に設定したことを特徴とする請求項1又は2記載のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法。
【請求項4】
外殻覆工が、仮設シールド機の発進及び回収位置において、トンネル壁面に対して外方向に一度膨らみ、シールドトンネルの分岐部又は合流部において縮径して、シールドトンネルのトンネル壁面に対して略平行となるようにしたことを特徴とする請求項1、2又は3記載のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法。
【請求項5】
シールドトンネルの分岐部又は合流部において、隣接する外殻覆工が重なり合い、一体となるようにしたことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のシールドトンネルの分岐部又は合流部の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−169924(P2006−169924A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367880(P2004−367880)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年(平成16年)6月30日 「日刊建設工業新聞」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年9月30日 株式会社鴻池組ホームページ(http://www.konoike.co.jp/tec/gd−block.html)にて発表
【出願人】(390036515)株式会社鴻池組 (41)
【Fターム(参考)】