説明

シールド構造体

【課題】既存のケーブルに対して、安価で容易に後付けすることができる新規なシールド構造体を提供する。
【解決手段】銅、アルミニウム、銀、マグネシウムなどの金属を主成分とする電磁波シールド効果を有する金属箔22を帯状の弾性部材24の中に封入し、当該弾性部材24を螺旋状に巻いてチューブ形状に塑性成形することによって、所望のケーブル100に対して必要に応じて後付けすることができる安価なシールド構造体が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルを外部ノイズから保護するためのシールド構造体に関し、より詳細には、既存のケーブルに対して容易に後付けすることができるシールド構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子機器への信号通信・電力供給等を目的とした各種電線は、電磁波や振動など、常に外部からのノイズに晒された状態で使用されている。電線が外部ノイズを拾ってしまうと、伝送中の信号が乱れ、コンピュータなどの精密電子機器においては、最悪の場合、誤作動が生じてしまうことがある。
【0003】
従来、このような外部ノイズの影響を低減すべく、金属箔を使用して電線のシールドを形成することが行われている。この点につき、特開2004−63418号公報(特許文献1)は、電磁波遮断性を有するアルミニウムや銅を主成分とする金属箔テープを信号線に螺旋状に巻き付けてシールド層を形成した2芯平行シールドケーブルを開示する。
【0004】
また、特許第4282759号(特許文献2)は、高い電磁波遮断性、振動吸収性、熱発散性等を備えるマグネシウムを主成分とする金属箔テープを信号線に螺旋状に巻き付けてシールド層を形成することによって、ケーブルを介して侵入する外部ノイズの影響を限界まで排除し、原音を忠実に再現することを可能にする、AV機器接続用シールドケーブルを開示する。
【0005】
一方、既存のシステムからケーブル由来の外部ノイズを排除することを希望するユーザは、現在使用している既存のケーブルを高性能シールドケーブルに切替えることを検討しなければならない。しかしながら、高性能シールドケーブルは一般に非常に高価であるため、ユーザのコスト負担が過大になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−63418号公報
【特許文献2】特許第4282759号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、本発明は、既存のケーブルに対して容易に後付けすることができる新規なシールド構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、既存のケーブルに対して容易に後付けすることができるシールド構造体の構成につき鋭意検討した結果、電磁波シールド効果を有する金属箔を帯状の弾性部材の中に封入し、当該弾性部材を螺旋状に巻いてチューブ形状に塑性成形することによって、安価で着脱が容易なシールド構造体が得られることを見出し、本発明に至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明によれば、金属箔が封入された帯状部材が螺旋状に巻かれてなるシールド構造体が提供される。本発明においては、前記金属箔は、電磁波シールド効果を有する金属箔であり、前記電磁波シールド効果を有する金属箔は、銅、アルミニウム、銀、マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とすることができる。また、本発明においては、前記帯状部材を弾性部材とすることができ、熱可塑性樹脂材料によって形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
上述したように、本発明によれば、既存のケーブルに対して容易に後付けすることができる新規なシールド構造体が提供される。本発明のシールド構造体によれば、既存のケーブル類を有効活用しながら、低コストでノイズ対策を講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態のシールド構造体を示す図。
【図2】本実施形態のシールド構造体の製造工程を説明するための概念図。
【図3】本実施形態のシールド構造体における帯状部材を示す図。
【図4】本実施形態のシールド構造体の装着方法を説明するための概念図。
【図5】ケーブルに装着された本実施形態のシールド構造体の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0013】
図1は、本発明の実施形態であるシールド構造体10を示す図であり、図1(a)は、その側面図および正面図を示し、図1(b)は、その斜視図を示す。図1(a)に示されるように、本実施形態のシールド構造体10は、帯状部材12が螺旋状に巻かれてなるチューブ形状を備えており、その内部にシールド対象となるケーブルを収容するための中空部14が形成されている。本実施形態のシールド構造体10は、図1(b)に示すように、ケーブル100の外周面に装着されることによって、ケーブル100を外部ノイズから保護する。
【0014】
次に、シールド構造体10の製造方法について説明する。図2は、本実施形態のシールド構造体10の製造工程を説明するための概念図である。本実施形態においては、まず、図1に示した帯状部材12を作製する。本工程においては、まず、帯状の金属箔22を用意する。本実施形態における帯状金属箔22は、電磁波シールド効果を有する金属を主成分として含む金属箔であればよく、主成分となる金属としては、銅、アルミニウム、銀、マグネシウムなどの金属単体またはそれらの合金を採用することができる。
【0015】
次に、シールド構造体10の主骨格となる帯状の弾性材料24を用意する。本実施形態における帯状弾性材料24は、常温において適度な弾性を示す材料であればよく、熱可塑性樹脂材料を主成分とすることができる。熱可塑性樹脂材料としては、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などを採用することができ、また、異なる種類の熱可塑性樹脂の混合物を採用することができる。なお、帯状弾性材料24は、用途に応じた強度を持ち、且つ、なるべく薄いものとすることが好ましく、また、その幅は、後に、ケーブルを容易に装着することができるように、適用するケーブルの外径に応じた適切な幅(たとえば、ケーブルの外径に対して1.2〜1.5倍の幅)を採用することが好ましい
【0016】
本実施形態においては、上述した帯状金属箔22に対して一対となる帯状弾性材料24a,24bを用意し、帯状金属箔22を帯状弾性材料24a,24bの間に挟んで圧着することによって帯状金属箔22を作製する。したがって、帯状金属箔22の幅は、帯状弾性材料24の幅よりも若干小さくなるようにすることが好ましい。また、帯状金属箔22は、厚みが厚すぎるとシールド構造体10の可塑性が失われる一方で、箔の厚みが薄くなるほど価格が高くなるので、コストに見合った適切な厚さを採用することが好ましい。本実施形態においては、帯状金属箔22の厚みを、40μm〜100μmとすることができる。
【0017】
図2(a)に例示する製造装置においては、供給ロール30aおよび30bからは帯状弾性材料24a,24bが、供給ロール32からは帯状金属箔22がそれぞれ供給され、これら3本の帯状材料は、ガイドロールを経て、圧着装置34に導入される。導入された帯状弾性材料24a,24bおよび帯状金属箔22は、加圧ロール36,36の間で圧着され一体化されて帯状部材12となる。なお、帯状弾性材料24a,24bと帯状金属箔22との圧着は、アンカーコート剤などの接着促進剤を使用して圧着する方法、熱融着によって圧着する方法などを適宜用いることができる。最後に、圧着装置34から送出された帯状部材12は、巻き取りロール35によって巻き取られる。
【0018】
図3は、帯状部材12の側面図を示す。なお、図3においては、側面の一部を切り欠いて帯状部材12の内部を示している。さらに、図3においては、A−A線における横断面の拡大図を破線で囲んで示している。図3に示されるように、帯状金属箔22は、その長手方向を帯状弾性材料24の長手方向と揃える形で、帯状弾性材料24の内部に封入されている。なお、帯状部材12の作製方法は、上述した態様に限定されるものではなく、押出ラミネート法など、その他の既存の方法を適切に用いて作製してもよい。また、帯状弾性材料24の内部に封入する金属箔の形状は、帯状に限定されるものではなく、一定のシールド面積を確保しうる他の適切な形状を採用することもできる。
【0019】
次に、図3に示した帯状部材12をチューブ形状に成形する。本工程においては、まず、図2(b)に示すように、帯状部材12を線芯37に螺旋状に巻き付けて固定する。なお、線芯37は、適用するケーブルの断面径および長さに応じた適切なものを用意する。次に、線芯37に螺旋状に巻かれた状態で固定した帯状部材12を、図2(c)に示すように、加熱炉38に入れて所定時間加熱する。たとえば、帯状部材12を構成する帯状弾性材料24がポリエチレンである場合には、加熱条件を80℃、5〜10分とし、帯状弾性材料24がポリ塩化ビニルである場合には、加熱条件を130℃、15〜20分とすることができる。
【0020】
上記加熱工程において、帯状部材12(すなわち、帯状弾性材料24)は、熱塑性変形して線芯37の形状に応じたチューブ形状に成形される。その後、変形した帯状部材12を線芯37から取り外して冷却することによって、図2(d)に示すように、帯状部材12が螺旋状に巻かれてなるチューブ形状を備えたシールド構造体10が得られる。なお、本実施形態のシールド構造体10は、ケーブルを一本単位で保護する形態に限定されるものではなく、径の大きい線芯37を使用することによって、複数のケーブルをまとめて収容・結束することができるようにシールド構造体10を作製することもできる。以上、本実施形態のシールド構造体10の製造方法ついて説明してきたが、次に、シールド構造体10の使用方法について以下説明する。
【0021】
図4は、本実施形態のシールド構造体10の装着方法を説明するための概念図である。図4は、シールド構造体10がケーブル100に装着される様子を時系列的に示す。シールド構造体10をケーブル100に装着するにあたり、まず、図4(1)に示すように、帯状部材12の端部を指で引き延ばしてケーブル100の本体部分に引っかける。その後、図4(2)に示すように、ケーブル100の本体部分に接触する部分を適度に引き延ばしつつ、ケーブル100を中心に帯状部材12を回転させながら巻き付けていく。その結果、図4(3)に示すように、ケーブル100の外周を覆う形でシールド構造体10が装着される。
【0022】
本実施形態のシールド構造体10は、その基本骨格となる帯状部材12が適度な弾性を備えているため、指で容易に引き延ばすことができ、また、指を離すとすぐに元の螺旋構造を復元する。したがって、本実施形態のシールド構造体10は、その着脱を極めて容易に行うことができる。また、シールド構造体10のチューブ形状は、フレキシブルな螺旋構造として形成されているため、ケーブルの動きに追随してその形を自在に変えることができる。したがって、取り回しの際にケーブルに対して過大な応力を与えず、ケーブルのユーザビリティを低下させない。
【0023】
図5は、シールド構造体10が装着されたケーブル100を拡大して示す。図5(a)に示されるように、シールド構造体10が装着されたケーブル100の外周は、螺旋状に巻かれた帯状弾性材料24によって覆われることになる。この帯状弾性材料24は、床などから伝わる振動Vを好適に吸収し、ケーブル100を振動から守る。一方、図5(b)は、帯状弾性材料24を透視する形で、その内部に封入された帯状金属箔22のみを示している。図5(b)に示されるように、シールド構造体10がケーブル100に装着されると、ケーブル100の外周は、螺旋状に巻かれた帯状金属箔22によって覆われることになる。この帯状金属箔22の存在によって、ケーブル100は、外部ノイズNから好適に遮断される。すなわち、本実施形態のシールド構造体10によれば、電磁波ノイズおよび振動ノイズの影響を同時に排除すること可能になる。
【0024】
以上、説明したように、本発明のシールド構造体は、従来のシールドケーブルに比べて安価に提供することができ、且つ、所望のケーブルに対して必要に応じて後付けすることができるため、既存のケーブルを有効活用しながら低コストのノイズ対策を実現することが可能になる。
【0025】
なお、本発明のシールド構造体の適用範囲は、特定の用途・規格を有する電線・ケーブルに限定されるものでなく、コンピュータ関連機器の接続用ケーブル、AV関連機器の接続用ケーブルをはじめ、その他のあらゆる電子機器に接続されるケーブルに適用することができる。
【0026】
コンピュータ関連機器の接続用ケーブルとしては、IDEケーブル、シリアルATAケーブル、HDMIケーブル、LANケーブル、モニタケーブル、USBケーブル、IEEEケーブル、SCSIケーブル、プリンタケーブル、コンピュータ関連機器の主電源ケーブル等を例示することができる。
【0027】
また、AV関連機器の接続用ケーブルとしては、AVケーブル一般(オーディオケーブル・ビデオケーブル)、スピーカケーブル、マイクケーブル、D端子ケーブル、HDMIケーブル、ギターケーブルをはじめとする電気楽器用ケーブル、AV関連機器の主電源ケーブル等を例示することができる。なお、AV関連機器の接続用ケーブルに適用するシールド構造体10においては、マグネシウムを主成分とする帯状金属箔22を採用することが好ましい。マグネシウムは、高い電磁波遮断性、振動吸収性、熱発散性に加え、音声信号との相性がよく、原音のもつ質感をほとんど変化させないという特徴を有するため、マグネシウムを主成分とする帯状金属箔22を採用することによって、聴感を著しく向上させることができる。この場合、帯状金属箔22は、マグネシウム含有率が95%以上の合金箔とすることが好ましく、純マグネシウム箔とすることがより好ましい。
【0028】
その他、本発明のシールド構造体は、各種電子機器の接続用ケーブル、主電源ケーブル、アンテナケーブル、電話ケーブル、等に適用することもできる。さらに、本発明のシールド構造体は、電子機器の外部接続ケーブルのみならず、電子機器の内部配線に対しても適用することができる。パーソナル・コンピュータの内部配線で言えば、CPUファンやケースファンなどの冷却装置の電源用ケーブル、ハードディスクドライブやDVDドライブなどの各種ドライブの電源用ケーブル、各種データ用ケーブル、等を例示することができる。
【0029】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その他、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0030】
以下、本発明のシールド構造体について、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0031】
(シールド構造体の作製)
マグネシウム合金箔(幅10mm、厚さ44μm、マグネシウム含有率95〜96%、アルミ3%、亜鉛1%、品番AZ31B、日本金属製)が封入された帯状のポリエチレン材料(幅15mm、厚さ1mm)を使用して、本実施例のシールド構造体を作製した(以下、実施例構造体という)。一方、比較例として、金属箔を含まないポリエチレン材料(幅15mm、厚さ1mm)を螺旋状に巻いた構造体を用意した(以下、比較例構造体という)。
【0032】
(聴感試験)
市販のAC電源ケーブル(TIGLON製/MS-12A,1.2m)を用い、本実施例のシールド構造体のシールド効果を検証した。具体的には、何も装着しないAC電源ケーブル(以下、比較例サンプル1という)、比較例構造体を装着したAC電源ケーブル(以下、比較例サンプル2という)、および、実施例構造体を装着したAC電源ケーブル(以下、実施例サンプルという)をそれぞれ用意し、各AC電源ケーブルを接続したステレオ装置について聴感試験を行った。
【0033】
(試聴結果)
共通のCD音源を再生し、その音を音響機器開発のエンジニアに聞き比べてもらったところ、比較例サンプル1については、音の広がり感が感じられず、一音一音が重なり合った音質との評価を得た。また、比較例サンプル2については、比較例サンプル1に比べると、若干、音の解像度、定位感が良くなったという評価を得た。一方、実施例サンプルについては、比較例サンプル2に比べて、音の解像度が格段に良くなり、S/N比、定位感の向上に加え、位相感も良くなったという評価を得た。
【符号の説明】
【0034】
10…シールド構造体
12…帯状部材
14…中空部
22…帯状金属箔
24…帯状弾性材料
30…供給ロール
32…供給ロール
34…圧着装置
35…巻き取りロール
36…加圧ロール
37…線芯
38…加熱炉
100…ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔が封入された帯状部材が螺旋状に巻かれてなるシールド構造体。
【請求項2】
前記金属箔は、電磁波シールド効果を有する金属箔である、請求項1に記載のシールド構造体。
【請求項3】
前記電磁波シールド効果を有する金属箔は、銅、アルミニウム、銀、マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とする、請求項2に記載のシールド構造体。
【請求項4】
前記帯状部材は、弾性部材である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシールド構造体。
【請求項5】
前記弾性部材は、熱可塑性樹脂材料によって形成される、請求項4に記載のシールド構造体。
【請求項6】
帯状のマグネシウム金属箔が封入された帯状弾性部材が螺旋状に巻かれてなるシールド構造体。
【請求項7】
前記マグネシウム金属箔は、マグネシウム含有率が95%以上である、請求項6に記載のシールド構造体。
【請求項8】
前記マグネシウム金属箔は、純マグネシウム箔である、請求項7に記載のシールド構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−33791(P2012−33791A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173321(P2010−173321)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(310016175)ティグロン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】