説明

シールド機の組立方法

【課題】 狭隘な空間においても、シールド機の前部の製作及び該前部への発進フードの装着を容易に精度良く成すことができるシールド機の組立方法を提供する。
【解決手段】 地下に形成された空間7にてシールド機を組み立てる方法であって、上記空間7にシールド機の部品10a、10bを順次搬入し、該部品10bを既に搬入された部品10aに上方から差し込むこと及び/又は積み重ねることで上記空間7内にてシールド機の前部11を鉛直に組み立て、該前部11の外周部に発進フード12を上方からスライド可能に装着し、該発進フード12の両側に形成された各開口15、16を挿通させて上記前部11の外周部に支持ピン17を装着し、該支持ピン17を持ち上げて上記前部11及び上記発進フード12を上記支持ピン17を中心に回転させて発進姿勢にするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド機の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド機の発進は、通常、立坑内にシールド機を水平状態で搬入し、このシールド機が立坑壁を掘り抜くこと等によって成している。しかし、この方法では、立坑の内径をシールド機の全長以上としなければ成立しない。そこで、シールド機の全長以下の内径の立坑からシールド機を発進させる発明として、特許文献1に記載されたものが提案されている。
【0003】
この発明は、立坑内にシールド機の部品を順次搬入し、立坑の底部でこれらの部品によってシールド機の前部を発進姿勢である水平状態となるように組み立て、この前部を前進させて立坑壁を掘り抜き、これに伴って上記前部の後方に形成されたスペースを利用して上記前部にシールド機の後部を組み付け、こうして完成したシールド機を発進させるようにしたものである。
【0004】
【特許文献1】特開平9−303081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、立坑からシールド機を発進させて形成された横坑に、分岐坑を形成する計画が生じた。この場合、図5に示すように、立坑1から横坑(本線)用のシールド機を発進させて横坑2を形成し、この横坑2内に分岐用の別のシールド機を搬入し、この別のシールド機を横坑2の途中から側方に発進させて分岐坑を形成する。
【0006】
このように分岐用のシールド機の発進時期は横坑(本線)用のシールド機が立坑1から発進した後となるため、分岐用のシールド機を立坑1内に運び込むときには、立坑1には上面が道路となる覆工板3及び防音壁4等が騒音対策のために設けられた状況となっている。よって、これら覆工板3及び防音壁4等が邪魔になって、分岐用のシールド機を完成した状態で立坑1内に搬入することはできず、分岐用のシールド機を小分割して各部品毎に立坑1内に搬入しなければならない。
【0007】
これらの部品を地上から立坑1の底部に搬入するために、覆工板3の下方や防音壁4の内方に天井クレーン5、6を設けることになるが、これらの天井クレーン5、6は、比較的小型となって吊下能力が小さくならざるを得ない。このため、上記分岐用のシールド機を上記天井クレーン5、6の吊下能力より軽い部品に分割して立坑1の底部に搬入し、各部品を狭隘な立坑1の底部の空間7にて組み立てることになる。
【0008】
この場合、各部品によって分岐用のシールド機を水平状態として精度良く組み立てるには、慎重な作業が要求される。何故なら、上記シールド機の部品は筒状のシールドフレーム、回転カッタ及びジャッキ等から成るが、シールド機を水平状態となるように組み立てるということは、シールドフレームに、回転カッタをその回転軸が水平となるように取り付けると共に、ジャッキをその軸が水平となるように取り付けることになるため、重力の作用により各部品を水平に装着することが困難となるからである。従って、慎重な作業が要求されるが、この作業を狭隘な立坑1の底部にて効率よく行うことは困難である。
【0009】
特に、シールド機の外周部に、発進時に立坑1の内面に取り付けられる発進フード(エントランス)をスライド自在に装着する場合には、この発進フードを狭隘な立坑1の底部にてシールド機の外周部に水平方向から装着することになるが、この際、発進フードの内周面に設けられたシールがシールド機の外周部に片当たりする可能性が高く、シールが損傷し易い。
【0010】
そこで、本発明の目的は、狭隘な空間においても、シールド機の前部の製作及び該前部への発進フードの装着を容易に精度良く成すことができるシールド機の組立方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、地下に形成された空間にてシールド機を組み立てる方法であって、上記空間にシールド機の部品を順次搬入し、該部品を既に搬入された部品に上方から差し込むこと及び/又は積み重ねることで上記空間内にてシールド機の前部を鉛直に組み立て、該前部の外周部に発進フードを上方からスライド可能に装着し、該発進フードの両側に形成された各開口を挿通させて上記前部の外周部に支持ピンを装着し、該支持ピンを持ち上げて上記前部及び上記発進フードを上記支持ピンを中心に回転させて発進姿勢にするようにしたものである。
【0012】
上記支持ピンを、上記前部の重心位置の近傍に装着するようにしてもよい。
【0013】
上記前部及び上記発進フードを上記支持ピンを中心に回転させて発進姿勢とした後、これらを架台に載置し、上記前部を上記発進フードに対してスライドさせることで上記前部の重心位置を上記架台の上方に位置させるようにしてもよい。
【0014】
上記前部の重心位置を上記架台の上方に位置させた後、該架台を発進位置まで搬送するようにしてもよい。
【0015】
上記発進位置が上記空間に接続して形成された横坑内に設定され、上記架台を上記横坑内に搬入するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、各部品を鉛直に組み立ててシールド機の前部を製作し、この前部に上方から発進フードを装着しているので、狭隘な空間においても上記前部の製作及び上記発進フードの装着を容易に精度良く成すことができる。また、鉛直に組み立てられたシールド機の前部及びこれに装着された発進フードを、支持ピン廻りに回転させて発進姿勢としているので、容易に発進姿勢に変更できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
本実施形態に用いられるシールド機は、図5に示す立坑1に接続させて構築された横坑2内に搬入され、この横坑2の側部から水平方向に発進することで横坑2に接続させて分岐坑を構築するための分岐用のシールド機である。
【0019】
図5に示すように、立坑1には、覆工板3及び防音壁4が設置される前に、横坑2用の本線シールド機(図示せず)が搬入され、このシールド機を立坑1の底部から発進させることで横坑2が構築される。横坑2用のシールド機が搬入された後には、騒音対策として立坑1には覆工板3及び防音壁4が設置されるため、これら覆工板3及び防音壁4が邪魔になって上記分岐用のシールド機を完成した状態で立坑1内に搬入できない。よって、分岐用のシールド機を小分割し、各部品を覆工板3及び防音壁4に設けた天井クレーン5、6を用いて立坑1の底部の空間7に搬入し、これら部品によって分岐用のシールド機の前部を組み立てる。この組み立てについて以下詳述する。
【0020】
図1(a)、図1(b)に示すように、立坑1の底部の空間7に、立坑底面1aから所定高さに複数の横桁8を水平に敷設する。上記所定高さは、横坑2の底部より多少高く設定する。
【0021】
横桁8上に、据付架台9を設置し、据付架台9上に、分岐用のシールド機の部品10a(フードブロック)を天井クレーン5(図5参照)に吊下して載置する。この部品10a(フードブロック)に、天井クレーン5に吊下した別の部品10b(カッタブロック)を差し込み及び/又は積み重ねる。これら部品10a、10bは天井クレーン5、6の吊下能力よりも軽いことは勿論である。このように、既に搬入されて据付架台9に設置された部品10aに、天井クレーン5に吊下した部品10bを上方から差し込むこと及び/又は積み重ねることで、据付架台9上に分岐用のシールド機の前部11を鉛直に組み立てる。
【0022】
ここで、上記各部品10a、10bはシールドフレーム、回転カッタ及びジャッキ等の要素から成るところ、これらの部品10a、10bによって上記前部11を鉛直に組み立てるということは、シールドフレームに、回転カッタをその回転軸が鉛直となるように差し込み及び/又は積み重ねると共に、ジャッキをその軸が鉛直となるように差し込み及び/又は積み重ねることになる。よって、組み付けられる各部品10a、10bの要素の軸方向が全て鉛直となり、各部品10a、10bの要素を水平に組み付ける場合と比べ、立坑1の底部の狭隘な空間7においても、容易に精度良く組み付けることができる。
【0023】
据付架台9上に上記前部11を鉛直に組み立てたなら、この前部11の外周部に、天井クレーン5に吊下した発進フード12を、上方からスライド可能に装着する。発進フード12は、天井クレーン5、6の吊下能力よりも軽いことは勿論であり、その下端が据付架台9に取り付けた図示しない金具に引っ掛かることで、下方への落下が防止される。発進フード12は、円筒状に形成されたエントランス部12aと、円筒の前端が横坑2の掘削可能壁の内周面に当接するように馬鞍状に形成された接続部12bとからなる。エントランス部12aの内周面には、この内周面と上記前部11の外周部との間を止水すべく周方向に沿ってリング状に形成されたシール13(エントランスシール)が設けられている。このシール13を挟むようにして、エントランス部12a内周面には、上記シール13を潰れから防護するための隆起部14(樹脂製等)が設けられている。また、発進フード12の接続部12bの両側には、開口15、16(マンホール)が形成されている。
【0024】
これら開口15、16を挿通させて、上記前部11の外周部に支持ピン17を180度間隔で装着する。なお、上記開口15、16を発進フード12のエントランス部12aに設けることは、上記シール13、隆起部14と干渉するため不可能である。支持ピン17は、図例では上記前部11の重心位置Gに合わせて装着しているが、重心位置Gの近傍であれば多少ずれていても構わない。支持ピン17は、図例では筒体からなるが軸体(中身が詰まった中実体)でもよく、溶接・ボルト等によって装着される。
【0025】
支持ピン17を装着したならば、支持ピン17の下方の横桁8上に、リフト装置18を載置する。リフト装置18は、鉛直に配置されたジャッキ18aと、上記支持ピン17の下半円に当接する受け部18bとを備えている。
【0026】
リフト装置18を配置したならば、リフト装置18のジャッキ18aを伸長させて支持ピン17を持ち上げ(ジャッキアップ)、上記前部11を据付架台9から浮かし、据付架台9を取り除く。
【0027】
据付架台9を取り除いたなら、図2(a)、図2(b)に示すように、上記前部11及び発進フード12を上記支持ピン17を中心に90度回転させて発進姿勢である水平状態にする。このとき、上記支持ピン17の取付位置が上記前部11の重心位置Gに合致されているので、上記前部11及び発進フード12は上記支持ピン17廻りの回転バランスが釣り合っている状態であり、人力やクレーン5によって僅かな力を上記前部11及び発進フード12に加えることで、上記前部11及び発進フード12がスムーズに回転する。これにより、上記前部11及び発進フード12を容易に発進姿勢にすることができる。また、発進フード12は、発進フード12の内周面と上記前部11の外周面との間の摩擦力によって、前部11から抜け落ちることなく前部11と一体的に回転する。
【0028】
上記前部11及び発進フード12が水平状態となると、発進フード12の内周面に設けられた上記隆起部14によって前部11の重量が発進フード12に支持され、これにより上記シール13が前部11の重量によって潰されることが防止され、同時に前部11が発進フード12内に同芯に支持される。
【0029】
上記前部11及び発進フード12を回転によって水平状態としたならば、それらの下方に搬送架台19(特許請求の範囲の架台に相当する)を配置する。搬送架台19は、屈曲されたH鋼などからなり、その中央部に上記発進フード12が嵌る凹部19aが形成されており、両端部に走行車輪20が取り付けられている。この車輪20は、上記横桁8上に上記横坑2内に延長するように敷設されたレール21を走行する。
【0030】
搬送架台19を配置したならば、リフト装置18のジャッキ18aを収縮させて支持ピン17を下降させ(ジャッキダウン)、図3(a)、図3(b)に示すように、上記前部11及び発進フード12を上記搬送架台19に載置する。上記前部11は発進フード12を介して搬送架台19に支持されることになる。このとき、上記前部11の重心位置Gは搬送架台19の上方から側方に外れているので、前部11及び発進フード12が発進架台19から転落することを回避するため、発進フード12の下方の横桁8上に補助受台22を配置する。
【0031】
搬送架台19に発進フード12を介して上記前部11を載置したなら、図4(a)、図4(b)に示すように、上記支持ピン17を上記前部11の外周部から取り外し、上記前部11を上記発進フード12に対して後方に(搬送架台19の側方から上方に)スライドさせることで上記前部11の重心位置Gを上記架台19の上方に位置させる。これにより、上記前部11及び発進フード12は、安定的に発進架台19に載置される。なお、補助受台22は役目が終了するので取り除かれる。
【0032】
その後、搬送架台19を上記レール21に沿って移動させ、横坑2内の所定の発進位置の近傍まで搬送する。搬送後、搬送架台19の走行車輪20を取り外し、搬送架台19に載置した上記前部11及び発進フード12を発進位置の掘削可能壁に対向させ、上記発進フード12の先端を掘削可能壁の内周面に溶接する。そして、上記前部11を前進させて掘削可能壁を掘り抜き、これに伴って上記前部11の後方に生じたスペースに、分岐用のシールド機の後部を上記前部11と同様にして組み立てて搬送し、この後部を上記前部11に連結する。こうして、シールド機を完成させて、横坑2から掘削可能壁を掘り抜いて側方に発進させることで、横坑2に接続して分岐坑を構築する。
【0033】
本発明の実施形態は上記タイプに限定されない。
【0034】
上記前部11及び発進フード12を支持ピン17廻りに90度回転させるときの角度90度は例示であり、30度や120度いった任意の鋭角または鈍角でもよい。すなわち、本実施例では分岐用のシールド機(前部11)の発進姿勢が水平であるため90度としたが、発進姿勢が斜め上方又は下方であれば、それにあわせて上記角度を鋭角または鈍角としてもよいのである。
【0035】
また、本発明は、本実施形態のように横坑2から発進する分岐用のシールド機の組立方法に限られず、立坑1から発進する横坑2用のシールド機の組立方法にも適用できる。この場合、図4(a)、図4(b)の状態となった後、搬送架台19を立坑1内の所定の発進位置に搬送し、上記前部11及び発進フード12を発進位置の掘削可能壁に対向させ、以降本実施形態と同様にして発進させる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態であるシールド機の組立方法の第1ステップを示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は側断面図である。
【図2】上記組立方法の第2ステップを示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は側断面図である。
【図3】上記組立方法の第3ステップを示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は側断面図である。
【図4】上記組立方法の第4ステップを示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は側断面図である。
【図5】上記シールド機が組み立てられる立坑底部の空間および組み立てられたシールド機が搬入される横坑を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 立坑
2 横坑
7 空間
10a 部品
10b 部品
11 前部
12 発進フード
15 開口
16 開口
17 支持ピン
19 架台
G 重心位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下に形成された空間にてシールド機を組み立てる方法であって、上記空間にシールド機の部品を順次搬入し、該部品を既に搬入された部品に上方から差し込むこと及び/又は積み重ねることで上記空間内にてシールド機の前部を鉛直に組み立て、該前部の外周部に発進フードを上方からスライド可能に装着し、該発進フードの両側に形成された各開口を挿通させて上記前部の外周部に支持ピンを装着し、該支持ピンを持ち上げて上記前部及び上記発進フードを上記支持ピンを中心に回転させて発進姿勢にするようにしたことを特徴とするシールド機の組立方法。
【請求項2】
上記支持ピンを、上記前部の重心位置の近傍に装着するようにした請求項1記載のシールド機の組立方法。
【請求項3】
上記前部及び上記発進フードを上記支持ピンを中心に回転させて発進姿勢とした後、これらを架台に載置し、上記前部を上記発進フードに対してスライドさせることで上記前部の重心位置を上記架台の上方に位置させるようにした請求項1又は2記載のシールド機の組立方法。
【請求項4】
上記前部の重心位置を上記架台の上方に位置させた後、該架台を発進位置まで搬送するようにした請求項3記載のシールド機の組立方法。
【請求項5】
上記発進位置が上記空間に接続して形成された横坑内に設定され、上記架台を上記横坑内に搬入するようにした請求項4記載のシールド機の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−97334(P2006−97334A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284763(P2004−284763)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【特許番号】特許第3651487号(P3651487)
【特許公報発行日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】