説明

シール取付構造及び多段ポンプ装置

【課題】ポンプケーシングの組み立て時のポンプケーシング間の隙間を低減可能なシール取付構造及び多段ポンプ装置を提供すること。
【解決手段】多段ポンプ装置1として、モータ10と、モータ10に接続された回転軸12と、回転軸に複数設けられたインペラ31と、その断面が三角形状に形成された環状のシール部材35と、互いに積層可能、且つ、インペラ31及び回転軸12を収納可能に形成され、積層することで、その断面が三角形状に形成されたシール部材35を収納可能な環状の収納空間50が形成されるケーシング32と、を備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層されるポンプケーシングのシール取付構造及び多段ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、複数のインペラ及びポンプケーシングを有する多段ポンプ装置が知られている。このような多段ポンプ装置は、井戸等で水や温泉水、海水等の湯水を揚水する水中ポンプ(例えば特許文献1)や、高所へ揚水を行う給水ポンプ等が知られている。
【0003】
多段ポンプ装置は、インペラを収納したポンプケーシングを、Oリング等のシール部材を介在させて積層することで構成される。このため、ポンプケーシングには、互いに係合する部位にシール部材を取り付ける収納空間が形成され、当該収納空間を構成するケーシングの外面とシール部材とが密着することで、積層されたポンプケーシング間が密閉されるシール取付構造が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−8791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したシール取付構造及び多段ポンプ装置では、以下の問題があった。即ち、上述した多段ポンプ装置では、インペラ及びポンプケーシングが多段に設けられることから、その増圧した水は高圧となる。このため、シール部材は、硬度が30等のように、硬いものが用いられる。このため、多段ポンプ装置の組み立てにおいて、シール部材を介して順次ポンプケーシングを積層する際に、ポンプケーシングとポンプケーシングとの間に、シール部材による隙間が発生する。この隙間は、ポンプケーシングの段数に応じて増加することから、ポンプケーシングの積層時の高さ寸法が増大するという問題がある。特に、回転軸には、複数のインペラを固定するインペラナットが締結されるが、ポンプケーシングの積層された高さが高くなることから、回転軸及びインペラナットが締結できない虞もある。
【0006】
そこで本発明は、ポンプケーシングの組み立て時のポンプケーシング間の隙間を低減可能なシール取付構造及び多段ポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決し目的を達成するために、本発明のシール取付構造及び多段ポンプ装置は、次のように構成されている。
【0008】
本発明の一態様として、シール取付構造は、その断面が三角形状に形成された環状のシール部材と、互いに積層可能に形成され、前記積層することで、前記シール部材を収納可能に形成され、その断面が三角形状に形成された環状の収納空間が形成されるケーシングと、を備える。
【0009】
本発明の一態様として、多段ポンプ装置は、モータと、前記モータに接続された回転軸と、前記回転軸に複数設けられたインペラと、その断面が三角形状に形成された環状のシール部材と、互いに積層可能、且つ、前記インペラ及び前記回転軸を収納可能に形成され、前記積層することで、その断面が三角形状に形成された前記シール部材を収納可能な環状の収納空間が形成されるケーシングと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポンプケーシングの組み立て時のポンプケーシング間の隙間を低減可能なシール取付構造及び多段ポンプ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る多段ポンプ装置の構成を一部断面で示す説明図。
【図2】同多段ポンプ装置の要部構成を示す断面図。
【図3】同多段ポンプ装置の要部構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態に係る多段ポンプ装置1を、図1〜図3を用いて説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る多段ポンプ装置1の構成を一部断面で示す説明図、図2は同多段ポンプ装置1の要部、特にポンプケーシング32及びシール部材35の構成を示す断面図、図3は同ポンプケーシング32及びシール部材35の構成を示す断面図である。なお、図1、2中、Bはボルトを、Fは流体の流れを、Nはナットを、Vは井戸を、Wは井戸水を、それぞれ示している。
【0013】
図1に示すように、多段ポンプ装置1は、水中モータ10と、吸込ケーシング11と、回転軸12と、ポンプ部13と、吐出ケーシング14と、固定バンド15と、電気ケーブル16と、を備えている。多段ポンプ装置1は、例えば、井戸Vに配置され、少なくともその一部が井戸V内の流体、例えば井戸水Wの水面下に位置する深井戸用水中ポンプである。
【0014】
水中モータ10は、電気ケーブル16を介して外部電源に接続されている。この水中モータ10は、水中モータ10の駆動軸20が、例えば継手21等を介して回転軸12に接続されている。
【0015】
吸込ケーシング11は、水中モータ10の上部に設けられ、ポンプ部13の最下段として配置される。吸込ケーシング11は、略円筒状に形成されるとともに、下部に水中モータ10の外郭部材(モータケーシング)とボルトB等により組み付く組付座23と、この組付座23の上部に設けられた吸込口24と、上端部(上端側)の外周縁に設けられ、後述するポンプケーシング32が係合する上端係合部25と、固定バンド15の一方が固定される挿入溝26とを備えている。なお、上端係合部25は、後述する第2係合部49と同一形状に形成されている。
【0016】
回転軸12は、水中モータ10に継手21を介して接続され、吸込ケーシング11及びポンプ部13内に収納される。回転軸12は、後述するポンプ部13のインペラ31を固定可能に形成されている。なお、回転軸12は、例えば、その外周面が、ポンプ部13の軸受部材34により支持される。
【0017】
この回転軸12は、例えば、その外周面が被覆部により被覆され、この被覆部が実質的な回転軸12の外面を形成する。この被覆部は、例えば、スペーサ28及び後述するインペラ31の挿入部36等により構成され、回転軸12の回転に追従して回転可能に、回転軸12の外周面に固定されている。
【0018】
ポンプ部13は、吸込ケーシング11の上部に複数固定され、その内部に回転軸12を収納可能に形成されている。具体的に説明すると、ポンプ部13は、回転軸12に固定された複数のインペラ31と、インペラ31を収納するポンプケーシング(ケーシング)32と、を備えている。また、ポンプ部13は、インペラ31とポンプケーシング32との間に設けられたライナリング33と、回転軸12とポンプケーシング32との間に設けられた軸受部材と、ポンプケーシング32間にシール部材35と、を備えている。また、ポンプ部13は、シール部材35及びシール部材35を収納する収納空間50を有するシール取付構造を備えている。
【0019】
なおポンプ部13は、図1に示すように、ポンプケーシング32間に、インペラ31を収納せず、流体の流路Fのみを形成するケーシング32aを有していてもよい。
【0020】
インペラ31は、ステンレスや樹脂等で成型され、円板状のベース部、ベース部の中心に設けられ回転軸12が挿入され、且つ、固定されるとともに、回転軸12の外表面の一部を覆う挿入部36、ベース部の一方の主面に設けられた複数の羽根、及び、この羽根を覆い、且つ、その中央部が挿入部36よりも大径に開口するシュラウド、を備えている。
【0021】
挿入部36は、ベース部と一体に設けられると共に、被覆部として回転軸12の外周面の一部を覆う円筒状に形成されている。なお、この挿入部36の外周面は、軸受部材と摺動可能に形成されている。
【0022】
ポンプケーシング32は、有底の円筒状に形成され、吸込ケーシング11、その一次側及び二次側に位置するポンプケーシング32又はケーシング32aを、シール部材35を介して積層可能に形成されている。
【0023】
具体的には、図2に示すように、ポンプケーシング32は、略円筒状に形成された、外郭を形成する側部41と、次段のポンプ部13への流路を形成するベーンが設けられた流路部と、を備えている。
【0024】
また、ポンプケーシング32は、吸込ケーシング11又は側部41の下端部に設けられ、下段(一次側)の吸込ケーシング11、ポンプケーシング32又はケーシング32aと接続する第1係合部48と、その上段(二次側)のポンプケーシング32、ケーシング32a又は吐出ケーシング14の第1係合部48と係合する第2係合部49と、を備えている。ポンプケーシング32は、これら第1係合部48及び第2係合部49を互いに係合させることで、複数段積層可能に形成されている。
【0025】
第1係合部48は、側部41の下端側に配置される端部、さらに言えば、円筒状の端部であって、その内周面および端部にシール溝48aを有している。
【0026】
シール溝48aは、側部41の下面及び内周面との両部に形成された面取り部である。換言すると、シール溝48aは、その内周側の稜部に、その断面形状が三角形状に形成された円環状の切欠きである。
【0027】
第2係合部49は、その断面が方形状に形成され、第1係合部48と係合する円環状の切欠きである。第2係合部49は、その稜部49aが係合した第1係合部48のシール溝48aと対向するとともに、シール溝48aとともにシール部材35の収納空間50を形成する。
【0028】
換言すると、第2係合部49は、側部41の上端側に配置される端部であって、その端面の高さが内周側よりも外周側で低く形成されるとともに、その外周面から第1係合部48の径方向の幅と略同一幅に形成された、第1係合部48と同一形状に切欠する切欠部である。また、第2係合部49は、外周側の端面及び端面から伸びる外周面により形成される稜部49aがシール溝を形成する。
【0029】
第1係合部48及び第2係合部49は、シール溝48a及び稜部49aの外面により、シール部材35を収納する収納空間50を形成する。
【0030】
シール部材35は、その断面が三角形状に形成され、稜部が曲面の円環状のパッキンである。シール部材35は、その外周面が、シール溝48aと略同一傾斜角度に形成された斜面に形成されている。シール部材35は、その内径が第2係合部49の外径と略同一径に形成されている。
【0031】
シール部材35は、その硬度が例えば30に形成されている。このような、シール部材35、第1係合部48及び第2係合部49により、シール取付構造が構成される。
【0032】
吐出ケーシング14は、例えば固定バンド15の他方が固定される下部ケーシング61と、この下部ケーシング61にボルトB等により結合され、吐出配管等に接続されるフランジ部62aを有する上部ケーシング62とを備えている。吐出ケーシング14は、その下端に第1係合部48を備えている。吐出ケーシング14は、上部ケーシング62内に、逆止弁63を備えている。
【0033】
固定バンド15は、帯状のバンド部65と、その両端にナットNにより締結可能に形成されたねじ部66とを有している。この固定バンド15は、吸込ケーシング11、ポンプケーシング32及び吐出ケーシング14を固定可能に形成されている。
【0034】
このように構成された多段ポンプ装置1は、その組立において、図2及び図3に示すように、ポンプケーシング32を積層する際に、シール部材35の傾斜面がシール溝48aと対向するように第2係合部49にシール部材35を挿入後、ポンプケーシング32を積層させる。
【0035】
ポンプケーシング32は、シール溝48aを傾斜面により形成し、当該シール溝48a及び第2係合部49の稜部49aにより三角形状の断面を有するシール部材35の取付空間を形成し、当該取付空間に断面が三角形状のシール部材35を収納する。このため、シール溝48aの傾斜する面と、シール部材35の傾斜する外面とが当接することで、積層されたポンプケーシング32は、積層した一次側のポンプケーシング32と極力近接する。これにより、シール部材35により隣り合うポンプケーシング32間に発生する隙間を低減することが可能となる。
【0036】
特に、多段ポンプ装置においては、ポンプケーシングを複数積層させる構成であることから、硬度が高い(硬い)シール部材を用いるため、ポンプケーシング間に隙間が発生し、段数が増加するに伴ってポンプケーシング間に発生する隙間が増大する。
【0037】
しかし、本実施形態のシール取付構造によれば、三角形状の断面を有するシール部材35の取付空間に断面が三角形状のシール部材35を収納する。このような構成とすることで、多段ポンプ装置1の組立時において、ポンプ部13で発生するポンプケーシング32間の隙間を極力低減することで、硬いシール部材35を用いても、当該隙間による組立時の高さ方向の寸法の増大を防止することが可能となる。また、シール部材35及び収納空間50の断面形状を三角形状とすることで、シール部材35と、第1係合部48及び第2係合部49との当接する面積を確保できることから、シール性能は維持可能となる。
【0038】
上述したように、本発明の一実施の形態に係る多段ポンプ装置1によれば、断面形状が三角形状のシール部材35及びシール溝48aを設けることで、ポンプケーシングの組み立て時のポンプケーシング間の隙間を低減することが可能となる。
【0039】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではない。上述した例では、多段ポンプ装置1は、水中ポンプである構成を説明したがこれに限定されない。多段ポンプ装置1は、陸上に敷設されるポンプであってもよい。即ち、多段ポンプ装置1は、複数のポンプケーシング32が、シール部材35を介して積層される構成であれば適宜設定可能である。この他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…多段ポンプ装置、10…水中モータ(モータ)、11…吸込ケーシング、12…回転軸、13…ポンプ部、14…吐出ケーシング、15…固定バンド、16…電気ケーブル、20…駆動軸、21…継手、23…組付座、24…吸込口、25…上端嵌合部、26…挿入溝、28…スペーサ、31…インペラ、32…ポンプケーシング、32a…ケーシング、33…ライナリング、34…軸受部材、35…シール部材、36…挿入部、41…側部、48…第1係合部、48a…シール溝、49…第2係合部、49a…稜部、50…収納空間、61…下部ケーシング、62a…フランジ部、62…上部ケーシング、63…逆止弁、65…バンド部、B…ボルト、F…流路、N…ナット、V…井戸、W…井戸水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その断面が三角形状に形成された環状のシール部材と、
互いに積層可能に形成され、前記積層することで、前記シール部材を収納可能に形成され、その断面が三角形状に形成された環状の収納空間が形成されるケーシングと、
を備えることを特徴とするシール取付構造。
【請求項2】
前記ケーシングは、その一端側に設けられた第1係合部、及び、その他端側に設けられ、積層する前記ケーシングの前記第1係合部と係合可能に形成された第2係合部を具備し、
前記収納空間は、互いに積層された前記ケーシングの係合する前記第1係合部及び前記第2係合部により形成されることを特徴とする請求項1に記載のシール取付構造。
【請求項3】
前記収納空間は、前記第1係合部の端面及び内周面に形成された傾斜面、及び、前記第2係合部に形成された前記第1係合部と係合可能な円環状の切欠により形成されることを特徴とする請求項2に記載のシール取付構造。
【請求項4】
モータと、
前記モータに接続された回転軸と、
前記回転軸に複数設けられたインペラと、
その断面が三角形状に形成された環状のシール部材と、
互いに積層可能、且つ、前記インペラ及び前記回転軸を収納可能に形成され、前記積層することで、その断面が三角形状に形成された前記シール部材を収納可能な環状の収納空間が形成されるケーシングと、
を備えることを特徴とする多段ポンプ装置。
【請求項5】
前記ケーシングは、その一端側に設けられた第1係合部、及び、その他端側に設けられ、積層する前記ケーシングの前記第1係合部と係合可能に形成された第2係合部を具備し、
前記収納空間は、互いに積層された前記ケーシングの係合する前記第1係合部及び前記第2係合部により形成されることを特徴とする請求項4に記載の多段ポンプ装置。
【請求項6】
前記収納空間は、前記第1係合部の端面及び内周面に形成された傾斜面、及び、前記第2係合部に形成された前記第1係合部と係合可能な円環状の切欠により形成されることを特徴とする請求項5に記載の多段ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−76330(P2013−76330A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214953(P2011−214953)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000148209)株式会社川本製作所 (161)
【Fターム(参考)】