説明

ジアセチルポリアミンの分解防止法

【課題】溶液中におけるジアセチルポリアミンの分解を防止する方法を提供する。
【解決手段】アセチルポリアミンを含む溶液中にプロテイナーゼ阻害剤及び/又はペプチダーゼ阻害剤を添加する方法、あるいはジアセチルポリアミンを含む溶液のpHを低くする方法を提供する。本発明を用いれば、ジアセチルポリアミンを含む溶液中のジアセチルポリアミンの分解を抑制し、より正確な測定値を知ることが可能である。また、本発明はプロテイナーゼ又はペプチダーゼを含む試料、たとえば尿や細胞破砕液や、意図せずプロテイナーゼあるいはペプチダーゼが混入してしまう可能性のある測定反応液等にも幅広く適用可能であり、ジアセチルポリアミン測定上、きわめて有用な方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアセチルポリアミンを含む溶液中のジアセチルポリアミンの分解を防止する方法、該方法を利用したジアセチルポリアミンの分解が抑制された溶液、及び該溶液を用いたジアセチルポリアミンの測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアセチルポリアミンは癌の悪性度と相関するマーカーとして知られており(非特許文献1)、たとえばジアセチルポリアミンの一つであるジアセチルスペルミンは腫瘍の悪性度を評価する診断マーカーとして用いられている(特許文献1)。
【0003】
これらのジアセチルポリアミンは物理化学的に安定な物質である上に、アセチル化されたポリアミンの代謝を主に行う特異的なオキシダーゼ(非特許文献2)活性は通常の生体由来の試料中では高くないことから、ジアセチルポリアミンを含む溶液中のジアセチルポリアミンの分解には、これまで特段の注意は払われてこなかった。
【0004】
【特許文献1】WO2004/081569号公報
【非特許文献1】J Biochem. (Tokyo) 2006, 139:315−322
【非特許文献2】Int.J.Biochem. 1981, 13:287−292
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者はジアセチルポリアミンの安定性を詳細に検討した結果、生体由来の試料中におけるジアセチルポリアミンは、従来いわれているような特異的なオキシダーゼではなく、より不偏的に存在するプロテイナーゼあるいはペプチダーゼによって分解されるため、ジアセチルポリアミンの測定において正しい値を得られない可能性があることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ジアセチルポリアミンの分解を防止する方法を見出すべく、鋭意検討を重ねた結果、ジアセチルポリアミンを含む溶液中にプロテイナーゼ阻害剤及び/又はペプチダーゼ阻害剤を添加すること、あるいはジアセチルポリアミンを含む溶液のpHを6.5以下にすることによって溶液中のジアセチルポリアミンの分解を減弱させうることを見出し、本発明を完成させた。したがって、本発明は以下の通りである。
【0007】
(1)ジアセチルポリアミンを含む溶液にプロテイナーゼ阻害剤及び/又はペプチダーゼ阻害剤を添加し、ジアセチルポリアミンの分解を防止する方法。
(2)ジアセチルポリアミンを含む溶液のpHを6.5以下にし、ジアセチルポリアミンの分解を防止する方法。
(3)ジアセチルポリアミンを含む溶液にプロテイナーゼ阻害剤及び/又はペプチダーゼ阻害剤を添加し、かつpHを6.5以下にし、ジアセチルポリアミンの分解を防止する方法。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法でジアセチルポリアミンの分解が抑制されたジアセチルポリアミン含有溶液。
(5)ジアセチルポリアミンを測定するために調製した生体由来の試料である、上記(4)記載の溶液。
(6)上記(4)記載の溶液を用いて、溶液中のジアセチルポリアミンを測定する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法を用いることにより、ジアセチルポリアミンを含む溶液中のジアセチルポリアミンの分解を抑制し、より正確な測定値を知ることが可能である。また、本発明はプロテイナーゼまたはペプチダーゼを含むもしくはその可能性の高い試料、たとえば尿や細胞破砕液、あるいは意図せずプロテイナーゼ又はペプチダーゼが混入してしまう可能性のある測定反応液等にも幅広く適用可能であり、ジアセチルポリアミン測定上、きわめて有用な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書において、以下の用語は次の意味を有するものである。
「ジアセチルポリアミン」とは、ジアセチルスペルミン及び/又はジアセチルスペルミジンを意味し、具体的には、N1,N12−ジアセチルスペルミン、N1,N8−ジアセチルスペルミジンなどを例示することができる。
【0010】
「ジアセチルポリアミンを含む溶液」とは、ジアセチルポリアミンを含む溶液であれば特に限定されない。具体的には、尿、血清、血漿、細胞破砕液等の生体由来の試料、ジアセチルポリアミンを測定する時の反応溶液等を例示することができる。
【0011】
「分解を防止する」とは、後述実施例に示すように、ジアセチルポリアミンを含む溶液を37℃で2時間インキュベーションしたときのジアセチルポリアミンの分解率が15%以下あることを意味し、「分解が抑制された」も同様の意味を意図している。なお、ジアセチルポリアミンの測定上、ジアセチルポリアミンの分解率は小さいほど好ましいものの、分解率が15%以下であれば、測定値、特にイムノアッセイ法における測定値にそれほど大きな影響は与えない。
【0012】
上述したように、本発明方法は、ジアセチルポリアミンを含む溶液にプロテイナーゼ阻害剤及び/又はペプチダーゼ阻害剤を添加するか、ジアセチルポリアミンを含む溶液のpHを6.5以下にするか、あるいはその両方を併用する方法に関するものである。
【0013】
本発明で用いるプロテイナーゼ阻害剤及び/又はペプチダーゼ阻害剤とは、プロテイナーゼ及び/又はペプチダーゼの活性を阻害するものであれば特に限定されない。具体的には、プロテアーゼインヒビターカクテルP2714あるいはP8340(シグマ社)、ベスタチン、カルボキシペプチダーゼインヒビター等を例示することができる。
【0014】
上記阻害剤の添加法、使用濃度などについては、それぞれの阻害剤に添付されている説明文書あるいは既に報告されている方法をそのまま適用すればよい。
【0015】
また、ジアセチルポリアミンを含む溶液のpHを下げる方法としては、測定に影響を与えない方法であれば特に限定されない。具体的には、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液などの目的のpHを有する緩衝液を添加し、ジアセチルポリアミンを含む溶液のpHを6.5以下、好ましくは6以下に調整すればよい。
【0016】
このようにして調製した、ジアセチルポリアミンの分解が抑制されたジアセチルポリアミン含有溶液は、ジアセチルポリアミンの濃度を測定する際のサンプルとして好適であり、このようなサンプルを用いることで、ジアセチルポリアミンのより正確な測定値を得ることが可能である。
【0017】
ジアセチルポリアミンの測定法としては、既に多くの方法が報告されているが、その中でも、イムノアッセイ法は特に簡便で好適である。イムノアッセイによる具体的な測定手順に関しては、公知の文献(例えば、特開2000−074917号公報、WO2004−81569号公報、J.Cancer Res.Clin.Oncol.,123(1997),539−545、J.Biochem.(Tokyo),132(2002),783−788)を参照することができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。なお、試料中のジアセチルスペルミンの分解量(%)は、ELISA法によりジアセチルスペルミンを定量し、算出した。
【0019】
実施例1:プロテイナーゼ阻害剤またはペプチダーゼ阻害剤の溶液への添加によるジアセチルスペルミン分解の減弱
マウスの血球を洗浄後、凍結融解にて破壊したものを5%の濃度となるように生理食塩水に溶解させた。当該マウス血球破砕液に、ジアセチルスペルミンを80μMになるよう添加し、25mMトリス塩酸緩衝液を用いてpH7.4に調整した。この反応液に、プロテイナーゼ阻害剤またはペプチダーゼ阻害剤として、2mlに溶解したプロテアーゼインヒビターカクテルP2714(シグマ社)を0.2%(容量パーセント濃度、以下同様)、P8340(シグマ社)を1%になるようにそれぞれ添加した。この反応液を37℃で2時間反応させた。
【0020】
37℃で反応させる前、阻害剤を添加して反応させた後、阻害剤を添加せずに反応させた後のそれぞれの試料中におけるジアセチルスペルミンの量をELISA法によって測定し、反応によって分解されたジアセチルスペルミンの量を、当初の量で割った比を算出した。
【0021】
下表1は各プロテイナーゼ阻害剤またはペプチダーゼ阻害剤を添加したときの相対的なジアセチルスペルミン分解量を表したものである。この表から明らかなように、プロテイナーゼ阻害剤またはペプチダーゼ阻害剤を添加することで、ジアセチルスペルミンの分解を防止することが可能である。
【0022】
【表1】

【0023】
実施例2:溶液pHによるジアセチルスペルミン分解の減弱
実施例1と同様にして作製したマウス血球破砕液に、ジアセチルスペルミンを40μMになるように添加し、50mMリン酸緩衝液を用いてpH5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、または8.0となるようにそれぞれpHを調整した。その後、反応液を37℃で2時間反応させた。
【0024】
37℃で反応させる前、反応させた後のそれぞれの試料中におけるジアセチルスペルミンの量を実施例1と同様にELISA法を用いて測定し、反応によって分解されたジアセチルスペルミンの量を、当初の量で割った比を算出した。
【0025】
下表2は、反応液のpHを低くしたときの相対的なジアセチルスペルミン分解量を表したものである。この表から明らかなように、pHを6.5以下、好ましくは6以下することで、ジアセチルスペルミンの分解を防止することが可能である。
【0026】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアセチルポリアミンを含む溶液にプロテイナーゼ阻害剤及び/又はペプチダーゼ阻害剤を添加し、ジアセチルポリアミンの分解を防止する方法。
【請求項2】
ジアセチルポリアミンを含む溶液のpHを6.5以下にし、ジアセチルポリアミンの分解を防止する方法。
【請求項3】
ジアセチルポリアミンを含む溶液にプロテイナーゼ阻害剤及び/又はペプチダーゼ阻害剤を添加し、かつpHを6.5以下にし、ジアセチルポリアミンの分解を防止する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法でジアセチルポリアミンの分解が抑制されたジアセチルポリアミン含有溶液。
【請求項5】
ジアセチルポリアミンを測定するために調製した生体由来の試料である、請求項4記載の溶液。
【請求項6】
請求項4記載の溶液を用いて、溶液中のジアセチルポリアミンを測定する方法。