説明

ジアセチレンジアミド化合物

【課題】煩雑な操作を要することなく製造できる有機溶剤のゲル化剤及びその製造方法並びに前記ゲル化剤を用いた光重合性有機ゲルを提供することである。
【解決手段】下記一般式1で表されることを特徴とするジアセチレンジアミド化合物、その製造方法及びそれと有機溶剤から形成されるゲル。式中、nは1〜18、*印の付いた炭素は不整炭素原子であり、一般式1で表される化合物は光学活性体である。
一般式1
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化現象を利用する技術分野に属し、有機溶媒をゲル化するゲル化剤であるジアセチレンジアミド化合物及びそれを製造する方法並びに当該化合物を用いて得られる有機ゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より実用に供されていたゲルとしては主として溶媒として水を含んでゲル化する高分子ゲルで、高吸水性材料や保冷剤として実用化されている。これに対して低分子のゲル化剤を用いて有機溶剤をゲル化する有機ゲルについても研究が行われ、廃油処理剤として実用化されている。さらに、ゲルの特性を利用した新しい機能性材料の研究が盛んに行われており、温度応答性ゲル、導電性ゲル、アクチュエーター、光学材料、記録材料、酵素固定化用担体、メディカル用材料、土壌改良材等さまざまな応用が検討されている。
一方、ジアセチレン基を有する化合物は熱、光、放射線等により重合し、導電性材料や非線形光学材料として注目されているポリジアセチレンを生成することが知られている。低分子ゲル化剤によって形成されるゲルにおいては、一般にゲル化剤が繊維状の集合体を形成し、その繊維が絡み合ってゲルの構造を保っている。ゲル化剤としてジアセチレン化合物を用いれば重合により、ゲル構造の安定化を図ったり、電気的光学的機能性材料であるポリジアセチレン(ジアセチレン重合物)の繊維状構造体が製造でき、導電材料や光学材料への応用が期待できる。
【0003】
ジアセチレン基を持つ糖誘導体を用いたゲル化剤としては例えば、非特許文献1記載のものがあるがこの系は重合後はゲル化能を示さず、得られたポリジアセチレンも赤色(吸収極大は506nmと546nm)で共役長は短い。2ないし3個のジアセチレン基を導入したアミド化合物、例えば、特許文献1記載のものは有機溶媒に対するゲル化剤として優れているが、重合して得られるポリジアセチレンの吸収極大は540nm程度で完全な青膜(吸収極大600nm以上)ではなくオリゴマー程度の重合物しか得られていない。さらにゲル化剤が複数のジアセチレン基を有しているので、得られたポリジアセチレンは互いに架橋した網目構造となり個々の繊維として取り出すことは原理的に不可能である。ジコレステリルジアセチレン化合物、例えば、非特許文献2記載のものは有機溶媒に対するゲル化剤として優れており重合して得られるポリジアセチレンの吸収極大も620nmに達しており共役長の長いものが得られている。しかしその合成にはイソシアノ基を有するカルボン酸エステルを用いており、入手できる試薬が限られている。
【特許文献1】特開2000−248257公報
【非特許文献1】マクロモレキュルス(Macromolecules), 1998, 31, p.9403
【非特許文献2】ラングミュアー(Langmuir), 2000, 19, p.7545
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、煩雑な操作を要することなく製造できる有機溶剤のゲル化剤及びその製造方法並びに前記ゲル化剤を用いた光重合性有機ゲルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、ジアセチレンジカルボン酸化合物と光学活性一級アミンとを縮合反応させてアミド結合を形成させることにより、ジアセチレンジアミド新規化合物を製造しうること、そして、これを用いて光重合性有機ゲルを作ることができることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)ゲル化剤である下記一般式1で表されることを特徴とするジアセチレンジアミド化合物、
一般式1
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、nは1〜18、*印の炭素は不整炭素原子であり、一般式1で表される化合物は光学活性体である。)
(2)下記一般式2で表されるジアセチレンジカルボン酸化合物と下記一般式3で表される光学活性一級アミンとを縮合反応させることを特徴とする(1)記載のジアセチレンジアミド化合物を製造する方法、
一般式2
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、nは1〜18である。)
一般式3
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、*印の炭素は不整炭素原子であり、一般式3で表される化合物は光学活性体である。)
(3)前記(1)記載のジアセチレンジアミド化合物が有機溶媒を含んで固化したことを特徴とするゲル、
(4)前記(3)記載のゲルに紫外光を照射することによりジアセチレンが重合していることを特徴とするゲル、及び
(5)前記(4)記載のゲルに含まれるジアセチレン重合物
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、1段の反応で高収率で煩雑な操作を要することなく、ジアセチレンジアミド化合物を得ることができる。
また、得られた本発明のジアセチレンジアミド化合物は有機溶媒のゲル化剤として有用であり、有機ゲルを形成させることができる。
さらに本発明で得られるゲルは紫外線を照射することによりゲル状態でジアセチレン基が重合し、色が変化するので感光センサー等の用途が期待される。得られた本発明のポリジアセチレン(ジアセチレン重合物)は、繊維状で導電性を有しており、ナノデバイスの配線用材料や異方性光学フィルムの材料としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のジアセチレンジアミド新規化合物は、下記一般式1で表される。
一般式1
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、nは1〜18、*印の炭素は不整炭素原子であり、一般式1で表される化合物は光学活性体である。)
この新規なジアセチレンジアミド化合物は、ジアセチレンジカルボン酸と光学活性1級アミンを縮合反応させアミド結合で結合させたものである。
前記化合物の置換基の一部であるアルキレン基((CH)n基)のnは、1〜18の整数を表すものである。nが18を越える場合には、合成に必要な試薬の入手が困難でかつ生成するジアセチレンジアミド化合物の溶解性が悪いので好ましくない。入手のしやすさから一般的にはnが3〜8の場合が好ましい。特に、重合反応性の高さから3,5又は7の奇数がより好ましい。
前記化合物は光学活性体であり、*印の不整炭素原子はR又はS立体配置のいずれか一方である必要がある。ラセミ体の場合はゲル化の能力が全くないか著しく低い。
本発明のジアセチレンジアミド化合物の具体例を以下に示す。
【0017】
【化5】

(ここでは製造に用いた1級アミンの構造がR異性体の光学活性体である。)
【0018】
【化6】

(ここでは製造に用いた1級アミンの構造がS異性体の光学活性体である。)
【0019】
【化7】

(ここでは製造に用いた1級アミンの構造がR異性体の光学活性体である。)
【0020】
【化8】

(ここでは製造に用いた1級アミンの構造がS異性体の光学活性体である。)
【0021】
【化9】

(ここでは製造に用いた1級アミンの構造がR異性体の光学活性体である。)
【0022】
【化10】

(ここでは製造に用いた1級アミンの構造がS異性体の光学活性体である。)
【0023】
本発明のジアセチレンジアミド化合物は、以下のようにして製造される。
【0024】
【化11】

【0025】
上記一般式2(式中、nは1〜18である。)で示されるジアセチレンジカルボン酸化合物と下記一般式3
【0026】
【化3】

【0027】
(式中、*印の炭素は不整炭素原子であり、一般式3で表される化合物は光学活性体である。)で示される光学活性1級アミンをジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、トルエン等の任意の有機溶媒に溶解し撹拌する。温度は0〜160℃の範囲で選ばれるが、通常は室温〜100℃程度で行えばよい。反応時間は温度によっても異なるが2時間から10日間程度である。各々の化合物の使用量については特に制限はないが、一般式2で表されるジアセチレンジカルボン酸化合物1モルに対して、一般式3で表される化合物は2〜5モルの割合が好ましい。反応生成物の分離は、カラムクロマトグラフィーにより行うことができる。反応速度を高める目的で、ジシクロヘキシルカルボジイミドや水溶性カルボジイミド誘導体などの様々な任意の縮合剤を使用することもできる。前記縮合剤の使用量についても特に制限はないが、一般式2で表されるジアセチレンジカルボン酸化合物1モルに対して、前記縮合剤は2〜5モルが好ましい。
【0028】
このようにして製造されたジアセチレンジアミド化合物はヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジオキサン、四塩化炭素といった様々な有機溶媒をゲル化することができる。ゲル化に際して有機溶媒中ジアセチレンジアミド化合物の濃度は特に制限はないが、0.2〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.4〜2質量%である。得られたゲルは無色透明ないし白色半透明を呈する。また、前記ゲルは、室内光下ではジアセチレン基の重合がほとんど進行することはない。
上記のゲルに紫外光を照射するとジアセチレン基が重合しゲル状態を保ったまま青色、ピンク色、オレンジ色などに変化する。
【実施例】
【0029】
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
N,N'-ビス[3,7-ジメチル-1-オクチル]-5,7-ドデカジイノイルジアミドの合成
5,7-ドデカジイン二酸0.67g(3.0mmol)をジクロロメタン20mlに溶解した(R)-3,7-ジメチル-1-オクチルアミン1.1g(7.0mmol)の溶液に0℃下でゆっくり加え、その後、水溶性カルボジイミド(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド ヒドロクロリド)1.92g(10mmol)を加えた。混合溶液を室温で3日攪拌をした。得られた溶液を1規定の塩酸、飽和炭酸ナトリウム水溶液、水の順で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧除去した。シリカゲルを固定相とし、酢酸エチルと塩化メチレンの混合溶媒(1:1体積比)を移動相とするカラムクロマトグラフィーおよび酢酸エチルからの再結晶で精製して白色結晶0.95g(収率63%)を得た。以下に示す分析結果から構造を確認した。
m.p. 110-111 ℃. 1H NMR (300 MHz, CDCl 3) δ: 0.86 (d, J = 6.6 Hz, 6H), 0.89 (d, J = 6.3 Hz, 12H), 1.12-1.58 (m, 22H), 1.82-1.91 (m, 4H), 2.26-2.36 (m, 8H), 3.20-3.34 (m, 4H), 5.41 (s, 2H). IR (KBr, cm-1): 3315 (NH), 2958, 2924 (CH), 1642 (C=O). 元素分析 計算値(C32H56N2O2): C, 76.75; H, 11.27; N, 5.59. 測定値: C, 76.54; H, 11.17; N, 5.42.
【0030】
実施例2
N,N'-ビス[3,7-ジメチル-1-オクチル]-9,11-イコサジイノイルジアミドの合成
ジカルボン酸として7,9-イコサジイン二酸を用いる以外は実施例1と同様に合成、精製を行って白色結晶(収率61%)を得た。以下に示す分析結果から構造を確認した。
m.p. 101-103 ℃. 1H NMR (300 MHz, CDCl 3) δ: 0.86 (d, J = 6.6 Hz, 6H), 0.89 (d, J = 6.6 Hz, 12H), 1.10-1.70 (m, 32H), 2.16 (t, J = 7.7 Hz, 4H), 2.26 (t, J = 6.9 Hz, 4H), 3.18-3.35 (m, 4H), 5.36 (s, 2H). 元素分析 計算値(C36H64N2O2): C, 77.64; H, 11.58; N, 5.03. 測定値: C, 77.50; H, 11.50; N, 4.86.
【0031】
実施例3
ゲルの形成と光重合
実施例2で得られたN,N'-ビス[3,7-ジメチル-1-オクチル]-9,11-イコサジイノイルジアミドの1.0質量%シクロヘキサン溶液を加熱して調製し、そのまま室温になるまで放置するとゲル化した。このゲルに500W超高圧水銀灯を直接5秒間照射するとゲル状態のまま濃青色に変化した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式1で表されることを特徴とするジアセチレンジアミド化合物。
一般式1
【化1】

(式中、nは1〜18であり、*印の炭素は不整炭素原子であり、一般式1で表される化合物は光学活性体である。)
【請求項2】
下記一般式2で表されるジアセチレンジカルボン酸化合物と下記一般式3で表される光学活性一級アミンとを縮合反応させることを特徴とする請求項1記載のジアセチレンジアミド化合物を製造する方法。
一般式2
【化2】

(式中、nは1〜18である。)
一般式3
【化3】

(式中、*印の炭素は不整炭素原子であり、一般式3で表される化合物は光学活性体である。)
【請求項3】
請求項1記載のジアセチレンジアミド化合物が有機溶媒を含んで固化したことを特徴とするゲル。
【請求項4】
請求項3記載のゲルに紫外光を照射することによりジアセチレン基が重合していることを特徴とするゲル。
【請求項5】
請求項4記載のゲルに含まれるジアセチレン重合物。

【公開番号】特開2006−63045(P2006−63045A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249860(P2004−249860)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】