説明

ジアミノポリカーボネート及びその製造方法

【課題】 本発明は、柔軟性が要求される用途に使用できる程度にガラス転移温度が低くかつ末端へのアミノ基の導入割合が高い、両末端にアミノ基を有するジアミノポリカーボネート、及び、その製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の課題は、一般式(1)で表されるジアミノポリカーボネートにより解決される。(式中、Rは炭素数2〜25の二価の脂肪族炭化水素基、Rは炭素数2〜25の二価の有機基を表し、nは重合度を表す正の整数である。この脂肪族炭化水素基の炭素鎖の一部は分岐鎖構造又は環式構造を形成していてもよく、炭素鎖内部の炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい。)
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリマーの柔軟性付与成分として有用な両末端にアミノ基を有するジアミノポリカーボネート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
末端にアミノ基を有するポリカーボネートとしては、ニトロアルコールを重合開始剤として、環状カーボネートを開環重合させて脂肪族ニトロポリカーボネートを合成し、そのニトロ基を還元して得られる脂肪族アミノポリカーボネートが知られている(非特許文献1)。しかし、このアミノポリカーボネートは、環状カーボネートの開環重合に由来するため、片末端にのみアミノ基が導入されていて、ポリイミド、ポリアミド等のポリマーの主鎖に柔軟性付与成分として導入することができないものである。
【0003】
一方、両末端がアミノ基である芳香族ジアミノポリカーボネートも知られている(特許文献1)。しかし、このものはガラス転移温度が150℃と高く柔軟性が要求される用途には使用することができない。更に、末端へのアミノ基の導入割合は60%程度に過ぎず、末端アミノ基の導入割合が高いポリカーボネートは得られていない。
【0004】
【非特許文献1】Macromolecules,1997,30,6074−6076
【特許文献1】特開平2−107633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、柔軟性が要求される用途に使用できる程度にガラス転移温度が低くかつ末端へのアミノ基の導入割合が高い、両末端にアミノ基を有するジアミノポリカーボネート、及び、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、以下の発明により解決される。
1.一般式(1)で表されるジアミノポリカーボネート。(式中、Rは炭素数2〜25の二価の脂肪族炭化水素基、Rは炭素数2〜25の二価の有機基を表し、nは重合度を表す正の整数である。この脂肪族炭化水素基の炭素鎖の一部は分岐鎖構造又は環式構造を形成していてもよく、炭素鎖内部の炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい。)
【0007】
【化1】

【0008】
2.一般式(1)における「−R−基」が一般式(2)で表される有機基である、前記1項記載のジアミノポリカーボネート。(式中、Rは炭素数1〜19の二価の有機基を表す。なお、この有機基のフェニル基部分は一般式(1)において末端アミノ基に結合する。)
【0009】
【化2】

【0010】
3.数平均分子量が500〜20000である、前記1又は2項記載のジアミノポリカーボネート。
4.末端へのアミノ基の導入割合が90%以上である、前記1〜3のいずれか記載のジアミノポリカーボネート。
5.一般式(3)で表されるジニトロポリカーボネートのニトロ基を還元することを特徴とする前記1項記載のジアミノポリカーボネートの製造方法。(式中、R、R、nは前記と同様である。)
【0011】
【化3】

【0012】
6.ジニトロポリカーボネートが、炭酸エステルと脂肪族二価アルコールとニトロアルコールを反応させて得られるものであるか、ポリカーボネートジオールとニトロ基含有炭酸エステルを反応させて得られるものである、前記5項記載のジアミノポリカーボネートの製造方法。
7.前記一般式(3)で表されるジニトロポリカーボネート。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリマーの柔軟性付与成分として有用に使用できるジアミノポリカーボネートを得ることができる。即ち、本発明のジアミノポリカーボネートは、末端へのアミノ基の導入割合が非常に高く、ガラス転移温度も柔軟性の要求される用途に使用できる程度に低いので、ポリマーの主鎖に導入して効率よく該ポリマーに柔軟性を付与できるものである。更に、本発明のジアミノポリカーボネートは、炭酸エステルと脂肪族二価アルコールとニトロアルコールを反応させるか、ポリカーボネートジオールとニトロ基含有炭酸エステルを反応させることで得られるジニトロポリカーボネートを還元して得られるので、残存塩素量が低く、電子材料用途に好適で環境にも悪影響を与えないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のジアミノポリカーボネートは前記一般式(1)で示され、その数平均分子量は、ポリマーの柔軟性付与成分として使用する場合、500〜20000、更には500〜10000程度であることが好ましい。数平均分子量が20000を超えると、ジアミノポリカーボネートを柔軟性付与成分として使用する際の反応性が低下する。即ち、本発明のジアミノポリカーボネートは、繰り返し単位が−CO−O−R−O−であって両末端がアミノ基であり、数平均分子量が好ましくは上記範囲のものであるが、更に詳しくは、繰り返し単位が−CO−O−R−O−であって、該繰り返し単位のカルボニル基側の末端部に結合する末端基がHN−R−O−基で、他方のエーテル基側の末端部に結合する末端基が−CO−O−R−NH基であり、数平均分子量が好ましくは上記範囲のものである。また、本発明のジアミノポリカーボネートは末端へのアミノ基の導入割合(アミノ化分率)が90%以上、更には95%以上と非常に高いものである。なお、前記一般式(1)において、nは重合度を表す正の整数であり、数平均分子量を満足する数値である。
【0015】
一般式(I)において、Rは炭素数2〜25(好ましくは3〜20)の二価の脂肪族炭化水素基であり、この脂肪族炭化水素基の炭素鎖の一部は分岐鎖構造又は環式構造を形成していてもよく、炭素鎖内部の炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい。二価の脂肪族炭化水素基としては、炭素数2〜25(好ましくは3〜20)のアルキレン基が具体的に挙げられ、例えば、以下のような一般式(4)で表される脂肪族二価アルコールの残基(Rに相当する)が好ましく挙げられる。一般式(4)において、Rは一般式(1)におけると同様である。
【0016】
【化4】

【0017】
・Rがトリメチレン基であるもの:2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール等の残基。
【0018】
・Rがテトラメチレン基であるもの:1,4−ブタンジオール等の残基。
・Rがペンタメチレン基であるもの:1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール等の残基。
・Rがヘキサメチレン基であるもの:1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール等の残基。
【0019】
・Rがヘプタメチレン基であるもの:1,7−ヘプタンジオール等の残基。
・Rがオクタメチレン基であるもの:1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール等の残基。
・Rがノナメチレン基であるもの:1,9−ノナンジオール等の残基。
【0020】
・Rがデカメチレン基であるもの:1,10−デカンジオール等の残基。
・Rがウンデカメチレン基であるもの:1,11−ウンデカンジオール等の残基。
・Rがドデカメチレン基であるもの:1,12−ドデカンジオール等の残基。
・Rがエイコサメチレン基であるもの:1,20−エイコサンジオール等の残基。
【0021】
・Rの炭素鎖の一部が環式構造を形成しているもの:1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、シクロヘキサン−1,4−ジエタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,7−ノルボルナンジオール等の残基。
【0022】
・Rの炭素鎖内部の炭素原子が酸素原子に置換されているもの:ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の残基。
・Rの炭素鎖の一部が環式構造を形成し炭素鎖内部の炭素原子が酸素原子に置換されているもの:2,5−テトラヒドロフランジメタノール、1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等の残基。
【0023】
一般式(1)において、Rは炭素数2〜25(好ましくは3〜20)の二価の有機基であり、この二価の有機基としては炭素数2〜25(好ましくは3〜20)の二価の脂肪族炭化水素基や炭素数6〜25(好ましくは6〜20)の二価の芳香族炭化水素基が好ましく挙げられる。なお、芳香族炭化水素基の場合の炭素数は芳香環上の置換基も含めた全炭素数を示し、この置換基はその炭素鎖が分岐鎖構造や環式構造を形成していてもよく、炭素鎖内部の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい。
【0024】
前記の二価の有機基のうち、炭素数2〜25の二価の脂肪族炭化水素基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等のアルキレン基が具体的に挙げられるが、二価の脂肪族炭化水素基の炭素鎖は、直鎖構造だけでなく分岐鎖構造や環式構造を形成していてもよく、これら炭素鎖内部の炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい。また、炭素数6〜25の二価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、キシリレン基、アルキル置換フェニレン基(メチルフェニレン基等)、一般式(2)で表される有機基などが挙げられる。
【0025】
二価の有機基の中では、一般式(1)において末端アミノ基が芳香族アミノ基となるジアミノポリカーボネートを得ることができる、フェニレン基や前記一般式(2)で表される有機基が好ましく、その中でも後者の一般式(2)で表される有機基が特に好ましい。
【0026】
一般式(2)において、Rは炭素数1〜19(好ましくは1〜5)の二価の有機基であり、炭素数1〜19(好ましくは1〜5)の二価の脂肪族炭化水素基や炭素数6〜19(好ましくは6〜8)の二価の芳香族炭化水素基が好ましく挙げられる。前者の例としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等のアルキレン基が挙げられるが、二価の脂肪族炭化水素基の炭素鎖は直鎖構造だけでなく分岐鎖構造や環式構造を形成していてもよく、これら炭素鎖内部の炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい。後者の例としては、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基などが挙げられる。なお、一般式(2)のフェニル基部分は一般式(1)において末端アミノ基に結合する。
【0027】
としては、後述するジアミノポリカーボネートの製造において使用する、一般式(5)で表されるニトロアルコールの残基(Rに相当する)が具体的に挙げられる。一般式(5)において、Rは一般式(1)におけると同様である。
【0028】
【化5】

【0029】
例えば、2−ニトロエタノール、3−ニトロプロパノール、4−ニトロブタノール等のRが二価の脂肪族炭化水素基であるニトロアルコールの残基や、ニトロフェノール、ニトロベンジルアルコール、ニトロフェネチルアルコール等のRが二価の芳香族炭化水素基であるニトロアルコールの残基が具体的に挙げられる。ニトロアルコールの残基としては、ニトロフェニル基を有するニトロフェニルアルコール、特に(ニトロフェニル)アルキルアルコールの残基が好適である。
【0030】
本発明のジアミノポリカーボネートは、予め前記一般式(3)で表されるジニトロポリカーボネートを得て、その末端ニトロ基をアミノ基に還元することにより製造することが好ましい。このようにして両末端がアミノ基の(アミノ化分率の高い)ジアミノポリカーボネートを得ることができる。なお、ジニトロポリカーボネートの数平均分子量は、ジアミノポリカーボネートをポリマーの柔軟性付与成分として用いる場合、500〜20000、更には500〜10000程度であることが好ましい。即ち、このジニトロポリカーボネートは、繰り返し単位が−CO−O−R−O−であって両末端がニトロ基であり、数平均分子量が好ましくは上記範囲のものであるが、更に詳しくは、繰り返し単位が−CO−O−R−O−であって、該繰り返し単位のカルボニル基側の末端部に結合する末端基がON−R−O−基で、他方のエーテル基側の末端部に結合する末端基が−CO−O−R−NO基であり、数平均分子量が好ましくは上記範囲のものである。
【0031】
ジニトロポリカーボネートのニトロ基をアミノ基へ還元する反応は、還元触媒の存在下、ジニトロポリカーボネートを水素と接触させることによって好適に行うことができる。また、ジニトロポリカーボネートを金属水素錯化合物(水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム等)と反応させる方法や、Benkeser還元反応によってもニトロ基をアミノ基へ還元してジアミノポリカーボネートを製造することができる。
【0032】
前記還元触媒は、ニトロ基からアミノ基への還元を触媒する化合物であれば特に制限されず、アルミニウム、スズ、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、パラジウム、白金等の金属やその化合物などを使用することができる。ジニトロポリカーボネートの両末端がニトロアルキルとなっている(例えば、Rが二価の脂肪族炭化水素基である)場合は、パラジウムカーボン、ラネーニッケル、鉄、ペンタシアノコバルト(II)錯体、カルボニルクロム錯体、酸化白金などが還元触媒として好適であり、両末端がニトロフェニルとなっている(例えば、Rが一般式(2)で表される有機基である)場合は、パラジウムカーボン、ラネーニッケル、アルミニウム、スズ、鉄、ニッケル、塩化スズ、白金、酸化白金などが還元触媒として好適である。
【0033】
還元触媒の使用量は、ジニトロポリカーボネート種、触媒種、反応条件等により異なるが、ジニトロポリカーボネート1モルに対して0.00001〜0.1倍モル、特に0.001〜0.01倍モル程度であることが好ましい。なお、触媒は単独でも複数でも使用できる。
【0034】
還元反応は、還元触媒存在下、常圧下又は加圧下で、水素雰囲気下又は水素気流下において、通常は溶媒を存在させて行われる。このとき、反応温度は原料及び溶媒が気化しない温度であることが好ましく、例えば、0〜200℃、好ましくは0〜100℃の範囲であればよい。水素圧は常圧から50kg/cm−G(約5MPa−G)程度の範囲であればよい。反応終了後、濾過又は遠心分離等により触媒を除去し、次いで蒸留等により溶媒を除去すれば目的のジアミノポリカーボネートを得ることができる。
【0035】
なお、前記溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類や、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が好適であるが、これらの溶媒(第1溶媒)と、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類や、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素類や、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒などのポリカーボネートを良好に溶解する溶媒(第2溶媒)との混合溶媒を使用することが更に好ましい。溶媒の使用量は、ジニトロポリカーボネート1gに対して第1溶媒が5〜50ml程度で、これにジニトロポリカーボネートが溶解する程度の第2溶媒を添加すればよい。
【0036】
ジアミノポリカーボネートの製造に用いるジニトロポリカーボネートは、末端へのアミノ基の導入割合を高くする上で以下の方法により製造することが好ましい。
〔方法1〕 炭酸エステルと前記一般式(4)で表される脂肪族二価アルコールと前記一般式(5)で表されるニトロアルコールとの反応。
〔方法2〕 下記一般式(6)で表されるポリカーボネートジオールと下記一般式(7)で表されるニトロ基含有炭酸エステルとの反応。
【0037】
なお、一般式(6)及び(7)において、Rは一般式(1)におけると同様である。Rは炭素数1〜15(好ましくは1〜6)の炭化水素基を表し、n−1はポリカ−ボネートジオ−ルの重合度を表し、nは前記と同様である。
【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
方法1は公知の方法に従って行うことができる。例えば、方法1の反応(エステル交換反応)は、エステル交換触媒の存在下、副生する脂肪族又は芳香族アルコールを系外に抜き出しながら、脂肪族二価アルコール及びニトロアルコールと炭酸エステルを反応させて行うことができる。
【0041】
方法1において、炭酸エステルとしては、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、アルキレンカーボネート、アルキルアリールカーボネートなどの脂肪族又は芳香族の炭酸エステルが挙げられ、複数を併用してもよい。具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネート、ジイソブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどが挙げられる。
【0042】
また、エステル交換触媒は前記エステル交換反応を触媒する化合物であれば、特に制限されない。例えば、亜鉛、チタン、スズ、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄等の金属の化合物や、塩酸、硫酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸、カチオン性イオン交換樹脂等のプロトン酸や、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基や、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド等の有機塩基を挙げることができる。
【0043】
前記金属の化合物としては、酢酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛の有機酸塩又は無機酸塩や、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラフェノキシチタン等の炭素数4〜40のアルコキシ基又はアリールオキシ基を有する有機チタン化合物や、ジブチルスズオキシド、ジフェニルスズオキシド、ジブチルスズアセテート、ジブチルスズラウレート、2−エチルヘキサン酸スズ等の炭素数2〜40のアルキル基、アリール基、又はアシルオキシ基を有する有機スズ化合物や、トリイソプロポキシアルミニウム等の炭素数3〜30のアルコキシ基を有する有機アルミニウム化合物や、塩化第二銅、酢酸銅等の銅の無機酸塩又は有機酸塩や、塩化ニッケル、酢酸ニッケル等のニッケルの無機酸塩又は有機酸塩や、塩化第二鉄等の鉄の無機酸塩などが挙げられる。これらエステル交換触媒の中では、亜鉛の有機酸塩、有機チタン化合物、有機スズ化合物、有機アルミニウム化合物が好ましい。
【0044】
方法1のエステル交換反応の条件は、ジニトロポリカーボネートを生成させることができるなら特に制限されず、例えば、減圧下で使用可能な反応容器を用い、上述の脂肪族二価アルコール、ニトロアルコール、炭酸エステル、エステル交換触媒を混合し、窒素気流下において、温度20〜150℃で0.5〜10時間程度、次いで、徐々に加熱すると同時に減圧度を高めながら、110℃〜250℃、特に140℃〜240℃で3〜20mmHgまで減圧して、0.5〜24時間程度反応させればよい。
【0045】
前記エステル交換反応において、脂肪族二価アルコールとニトロアルコールの使用量は、ジニトロカーボネートを生成させることができれば特に制限されないが、得られるポリカーボネートの両末端が実質的にニトロ基となるように、炭酸エステルに対して、脂肪族二価アルコール0.8〜3倍モル、ニトロアルコール0.001〜2倍モル、更には脂肪族二価アルコール0.9〜1.5倍モル、ニトロアルコール0.001〜0.5倍モル程度であることが好ましい。触媒使用量は触媒種や反応条件等により異なるが、炭酸エステル1モルに対して、触媒が0.00001〜0.3モル、特に0.001〜0.1モルの割合であることが好ましい。なお、触媒は単独でも複数でも使用できる。
【0046】
方法2も、公知のエステル交換反応に準じて、エステル交換触媒の存在下、副生する脂肪族又は芳香族アルコール(Rを残基とするアルコール)と脂肪族二価アルコールとを系外に抜き出しながら、ポリカーボネートジオールとニトロ基含有炭酸エステルを反応させて行うことができる。例えば、窒素気流下、20〜150℃で0.5〜10時間程度、次いで、徐々に加熱すると同時に減圧度を高めながら、110℃〜250℃、特に140℃〜240℃で3〜20mmHgまで減圧して、0.5〜24時間程度反応させて行うことができる。
【0047】
方法2の反応(エステル交換反応)において、ポリカーボネートジオールとニトロアルコールの使用量は、ジニトロカーボネートを生成させることができれば特に制限されないが、得られるポリカーボネートの両末端が実質的にニトロ基となるように、ポリカーボネート1モルに対してニトロアルコール0.5〜60モル、更には1.5〜30モルであることが好ましい。エステル交換触媒の種類及び使用量などは方法1の場合と同様である。
【0048】
なお、一般式(6)で表されるポリカーボネートジオールは、市販のものを好適に使用できる。ジアミノポリカーボネートをポリマーの柔軟性付与成分として用いる場合、ポリカーボネートジオールの数平均分子量は500〜10000程度であることが好ましい。また、一般式(7)で表されるニトロ基含有炭酸エステルは、前記一般式(5)で表されるニトロアルコールとクロロ炭酸エステル(クロロ炭酸メチル、クロロ炭酸エチル、クロロ炭酸ブチル、クロロ炭酸フェニル等)又は炭酸エステル(炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジブチル、炭酸ジフェニル等)との反応で容易に得られる。
【0049】
ニトロアルコールとクロロ炭酸エステルを反応させる場合、ニトロアルコール1モルに対して、トリエチルアミン等の3級アミン類1〜2モルをハロゲン化炭化水素溶媒(ジクロロエタン等)又はエーテル溶媒(ジエチルエーテル等)に溶解した後、窒素気流中で温度−5〜5℃に冷却し、クロロ炭酸エステル1〜2モルを滴下して反応させることにより、ニトロ基含有炭酸エステルを好適に生成させることができる。反応終了後、希塩酸洗浄、水洗(数回)、溶媒留去を行って目的物が得られ、更に必要であればアルコール類(メタノール、エタノール等)により再結晶を行ってもよい。
【実施例】
【0050】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。評価方法はそれぞれ次の通りである。
【0051】
1)H−NMRスペクトル:核磁気スペクトロメータ−(日本電子製AL−300)を用いて、試料を重クロロホルムに溶解して測定した。
2)赤外吸収スペクトル:フーリエ変換赤外吸収スペクトロメータ−(Nicolet製MAGNA−IR)を用いて、KBr錠剤法により測定した。
【0052】
3)アミン当量:ジアミノポリカーボネートをベンジルアルコール又はベンジルアルコールとTHFの混合溶媒に溶解し、フェノールフタレインを指示薬として0.05N塩酸エタノール溶液で滴定して求めた。
【0053】
4)アミノ化分率:末端へのアミノ基の導入割合(アミノ化分率)は、H−NMRスペクトルから次式により求めた。
アミノ化分率(α)=S1/(S1+S2+S3+S4)
【0054】
なお、S1、S2、S3、S4は以下の通りである。
・S1(アミノ末端量):6.5−6.7ppm付近に現われる4―アミノフェネチル基の3,5位プロトンに帰属される積分強度をプロトン数である4で割った値。
・S2(ニトロ末端量):8.2−8.0ppm付近に現われる4―ニトロフェニチル基の3,5位プロトンに帰属される積分強度をプロトン数である4で割った値。
・S3(水酸基末端量):3.8−4.0ppm付近に現われるヒドロキメチレンのメチレンプロトンに帰属される積分強度をプロトン数である4で割った値。
・S4(フェニル末端量):7.3−7.5ppm付近に現われるフェニルカーボネート基のフェニルプロトンに帰属される積分強度をプロトン数である10で割った値。
【0055】
5)数平均分子量:H−NMRスペクトルにより求めた。
6)ガラス転移温度(Tg):示差走査熱量測定装置DSC(パーキンエルマー製DiamondDSC)を用いて、ヘリウム雰囲気下、昇温速度10℃/分で測定した。
【0056】
〔実施例1〕
内容積300mlのガラス製反応容器に、4−ニトロフェネチルアルコール6.67g(0.04mol)、1,6−ヘキサンジオール14.77g(0.125mol)、ジフェニルカーボネート31.06g(0.145mol)、酢酸亜鉛0.26gを加え、窒素下に120℃で2時間撹拌した。次いで、10mmHgに減圧して、フェノールを除きながら、180℃で2時間、200℃で2時間撹拌した後、室温まで冷却して油状のジニトロポリカーボネート(ジ−4−ニトロフェネチルポリカーボネート)を得た。このジニトロポリカーボネートの赤外吸収スペクトルを図1に、H−NMRスペクトルを図2に示す。数平均分子量は1400であった。
【0057】
内容積1Lのガラス製反応容器に、得られたジニトロポリカーボネート27.8g、テトラヒロフラン200ml、メタノール200ml、パラジウム活性炭0.28gを加え、水素雰囲気(常圧)下、温度25℃で18時間撹拌した。触媒ろ別後、溶媒を留去してワックス状のジアミノポリカーボネート(ジ−4−アミノフェネチルポリカーボネート)26.5gを得た。
【0058】
このジアミノポリカーボネートの赤外スペクトル(図3)より、ニトロ基の対称伸縮振動に由来するピーク(1340cm−1付近)が消失していてニトロ基からアミノ基への還元反応が充分に進行したことが確認された。また、H−NMRスペクトル(図4)より、S1=3.99/4=0.998、S2=0、S3=0.09/4=0.023、S4=0.31/10=0.031となり、アミノ化分率(α)は0.949で高かった。アミン当量は618、数平均分子量は1300、ガラス転移温度は−37℃であった。
【0059】
〔参考例1〕4−ニトロフェネチルフェニルカーボネートの製造
内容積1Lのガラス製反応容器に、4−ニトロフェネチルアルコール50.7g(0.30mol)、トリエチルアミン42.7ml(0.30mol)、脱水ジクロロエタン500mlを加え、窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。これにクロロギ酸フェニル57.0ml(0.45mol)を0.5時間かけて滴下し、その後1時間撹拌し、更に室温で4時間撹拌した。得られた反応液を希塩酸及び蒸留水で洗浄し、溶媒を留去した後、メタノールで再結晶して4−ニトロフェネチルフェニルカーボネート45.0g(収率51%)を得た。この化合物のH−NMRスペクトルを図5に示す。
【0060】
〔実施例2〕
内容積300mlのガラス製反応容器に、ポリカーボネートジオール30.0g(29.9mol;宇部興産製UH−CARB100)、参考例1で得られた4−ニトロフェネチルフェニルカーボネート17.2g(59.8mol)、酢酸亜鉛150mg(0.027mol)を加え、窒素下に150℃で2時間撹拌した。次いで、10mmHgに減圧して、フェノールを除きながら、180℃で2時間、200℃で2時間撹拌した後、室温まで冷却して油状のジニトロポリカーボネート(ジ−4−ニトロフェネチルポリカーボネート)を得た。数平均分子量は1700であった。
【0061】
内容積1Lのガラス製反応容器に、得られたジニトロポリカーボネート41.0g、テトラヒドロフラン200ml、メタノール200ml、パラジウム活性炭0.41gを入れ、水素雰囲気(常圧)下、温度25℃で18時間撹拌した。触媒ろ別後、溶媒を留去してワックス状のジアミノポリカーボネート(ジ−4−アミノフェネチルポリカーボネート)39.9gを得た。
【0062】
このジアミノポリカーボネートの赤外スペクトル(図6)より、ニトロ基からアミノ基への還元反応が充分に進行したことが確認された。また、H−NMRスペクトル(図7)より、S1=4.00/4=1.00、S2=0、S3=0.13/4=0.033、S4=0となり、アミノ化分率(α)は0.968で高かった。アミン当量は668、数平均分子量は1600、ガラス転移温度は−38℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のジアミノポリカーボネートは、ポリイミド、ポリアミド、その他の樹脂などの柔軟成分として有用な化合物であり、また、エポキシ硬化材、ポリウレタンの鎖延長材などの添加剤としても有用である。更に、インク、塗料、コーティング材料、接着剤、電子材料として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1で得られたジニトロポリカーボネートの赤外吸収スペクトルである。
【図2】実施例1で得られたジニトロポリカーボネートのH−NMRである。
【図3】実施例1で得られたジアミノポリカーボネートの赤外吸収スペクトルである。
【図4】実施例1で得られたジアミノポリカーボネートのH−NMRである。
【図5】参考例1で得られたニトロ基含有炭酸エステルのH−NMRである。
【図6】実施例2で得られたジアミノポリカーボネートの赤外吸収スペクトルである。
【図7】実施例2で得られたジアミノポリカーボネートのH−NMRである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるジアミノポリカーボネート。
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜25の二価の脂肪族炭化水素基、Rは炭素数2〜25の二価の有機基を表し、nは重合度を表す正の整数である。この脂肪族炭化水素基の炭素鎖の一部は分岐鎖構造又は環式構造を形成していてもよく、炭素鎖内部の炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい。)
【請求項2】
一般式(1)における「−R−基」が一般式(2)で表される有機基である、請求項1記載のジアミノポリカーボネート。
【化2】


(式中、Rは炭素数1〜19の二価の有機基を表す。なお、この有機基のフェニル基部分は一般式(1)において末端アミノ基に結合する。)
【請求項3】
数平均分子量が500〜20000である、請求項1又は2記載のジアミノポリカーボネート。
【請求項4】
末端へのアミノ基の導入割合が90%以上である、請求項1〜3のいずれか記載のジアミノポリカーボネート。
【請求項5】
一般式(3)で表されるジニトロポリカーボネートのニトロ基を還元することを特徴とする請求項1記載のジアミノポリカーボネートの製造方法。
【化3】

(式中、R、R、nは前記と同様である。)
【請求項6】
ジニトロポリカーボネートが、炭酸エステルと脂肪族二価アルコールとニトロアルコールを反応させて得られるものであるか、ポリカーボネートジオールとニトロ基含有炭酸エステルを反応させて得られるものである、請求項5記載のジアミノポリカーボネートの製造方法。
【請求項7】
前記一般式(3)で表されるジニトロポリカーボネート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−36976(P2006−36976A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220507(P2004−220507)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】