説明

ジアリルビスフェノール化合物の製造方法

【課題】着色が少なく純度の高いジアリルビスフェノール化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】ジアリルエーテル化ビスフェノール化合物をクライゼン転移させてジアリルビスフェノール化合物を含有する反応液を得、次いで、当該反応液をアルカリ水溶液で処理してジアリルビスフェノール化合物を回収するジアリルビスフェノール化合物の製造方法において、クライゼン転移の前からアルカリ水溶液による反応液の処理に至るまでの間に反応系内に式(I)で表されるヒドロキシルアミン類から選ばれる少なくとも一種を添加して撹拌処理する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリルビスフェノール化合物の製造方法に関し、詳しくは、着色が少なく純度の高いジアリルビスフェノール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にジアリルビスフェノール化合物は以下の方法によって製造されている。すなわち、先ず、ビスフェノール化合物を適当な溶媒に溶解した後、水酸化ナトリウム、ソジウムメチラート等の塩基によって塩とした後、塩化アリル、臭化アリル等のハロゲン化アリルと反応させることにより、ジアリルエーテル化ビスフェノール化合物を得る。次いで、パラフィンオイル、N,N’−ジメチルアニリン等の高沸点溶媒の存在下または不存在下において、150〜230℃で0.1〜100時間加熱することにより、上記のジアリルエーテル化ビスフェノール化合物をクライゼン転位させる(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
また、ジアリルビスフェノール化合物の精製方法として、上記のクライゼン転移で得られた反応液をアルカリ水溶液で処理して約95重量%以上の純度でジアリルビスフェノール化合物を回収する方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。この方法は、反応液中に含まれる主要副生物であるモノアリル化ビスフェノール化合物を選択的に除去する方法であり、次の様なアルカリの作用に基づいている。
【0004】
アルカリ水溶液中においてはアリル基の少ない化合物の方がアリル基の多い化合物よりアルカリ塩になり易く水に溶解し易い。すなわち、水に溶解してからアルカリ塩が形成されるが、水に対する溶解度に差があり、アリル基の少ない化合物の方の化合物の方溶解度が大きい。従って、アルカリの量を調節してアルカリ水溶液で洗浄することによりモノアリルビスフェノール化合物を選択的に除去することが出来る。
【0005】
しかしながら、アルカリ水溶液で反応液を処理した場合、得られるジアリルビスフェノール化合物が着色とするという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特公平5−60452号公報
【特許文献2】特公平5−60451号公報
【特許文献3】WO2006/059774A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、着色が少なく純度の高いジアリルビスフェノール化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、ジアリルエーテル化ビスフェノール化合物をクライゼン転移させてジアリルビスフェノール化合物を含有する反応液を得、次いで、当該反応液をアルカリ水溶液で処理してジアリルビスフェノール化合物を回収するジアリルビスフェノール化合物の製造方法において、クライゼン転移の前からアルカリ水溶液による反応液の処理に至るまでの間に反応系内に式(I)で表されるヒドロキシルアミン類から選ばれる少なくとも一種を添加して撹拌処理すること特徴とするジアリルビスフェノール化合物の製造方法に存する。
【0009】
【化1】

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、着色が少なく純度の高いジアリルビスフェノール化合物を製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明においては、基本的には、ジアリルエーテル化ビスフェノール化合物をクライゼン転移させてジアリルビスフェノール化合物を含有する反応液を得、次いで、当該反応液をアルカリ水溶液で処理してジアリルビスフェノール化合物を回収する。
【0012】
上記のジアリルエーテル化ビスフェノール化合物は、公知の方法に従い、アルカリ金属水酸化物などの塩基の存在下、ビスフェノール化合物に、塩化アリル、臭化アリル、メチルアリルクロライド等のハロゲン化アリルを反応させることにより得られる。
【0013】
上記のビスフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビフェノール、4,4’−(1−メチル−エチリデン)ビス[2−メチルフェノール]、4,4’−(1,3−ジメチルブチリデン)ビスフェノール、4,4’−(2−フェニルエチリデン)ビスフェノール、4,4’−(2−エチルヘキシリデン)ビスフェノール、シクロヘキシリデンビスフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタノン、4,4’−(ジメチルシリレン)ビスフェノール、4,4’−オキシビスフェノール等が挙げられる。
【0014】
本発明において、ジアリルエーテル化ビスフェノール化合物のクライゼン転移は、公知の方法に従って行うことが出来る。すなわち、パラフィンオイル、N,N’−ジメチルアニリン等の高沸点溶媒の存在下または不存在下において、150〜230℃で0.1〜100時間ジアリルエーテル化ビスフェノール化合物を加熱する。得られた反応液は、目的物のジアリルビスフェノール化合物の他に、副生物としてモノアリルビスフェノール化合物などを含む。通常、反応液中のジアリルビスフェノール化合物の含有量は約90重量%である。
【0015】
本発明において、反応液のアルカリ水溶液による処理は前述の先行技術に記載された公知の方法によって行うことが出来る。すなわち、ジアリルビスフェノール化合物に対して0.01〜0.4重量倍当量のアルカリを含むアルカリ水溶液で少なくとも一回以上洗浄する。通常、アルカリとしてはNaOHが使用される。そして、上記のアルカリ処理においては、ジアリルビスフェノール化合物の一層の精製を図るため、モノアリルビスフェノール化合物を除去した溶液にアルカリ水溶液を添加してジアリルビスフェノール化合物の全量をアルカリ塩として水に溶解させ、有機溶媒で抽出することも出来る。
【0016】
本発明の特徴は、クライゼン転移の前からアルカリ水溶液による反応液の処理に至るまでの間に反応系内に式(I)で表されるヒドロキシルアミン類から選ばれる少なくとも一種を添加して撹拌処理する点にある。
【0017】
【化2】

【0018】
上記(I)式で示されるヒドロキシルアミン類としては、例えば、ヒドロキシルアミン、N−メチルヒドロキシルアミン、N−エチルヒドロキシルアミン、N−tert−ブチルヒドロキシルアミン、N−シクロヘキシルヒドロキシルアミン、N,N−ジメチルヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N,N−ジプロピルヒドロキシルアミン、N,N−ジ−tert−ブチルヒドロキシルアミン、及びN−メチル、N−エチルヒドロキシルアミン等が挙げられる。これらの中でも、ジアルキルヒドロキシルアミン、特に、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N,N−ジプロピルヒドロキシルアミン、N−メチル,N−エチルヒドロキシルアミンがより好ましく、N,N−ジエチルヒドロキシルアミンが更に好ましい。また、上記ヒドロキシルアミン類の無機酸塩や有機酸塩も使用でき、その具体例としては、リン酸塩、スルファミン塩、酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、スルホサリチル酸塩、サリチル酸塩などが挙げられる。これらは二種以上を併用してもよい。
【0019】
ヒドロキシルアミン類の添加量は、加熱転位前のアリルエーテル化多価フェノール化合物に対し、通常0.02%〜3重量%、好ましくは0.20%〜2.0重量%である。ヒドロキシルアミン類の添加量が上記の範囲より少ない場合は、ジアリルビスフェノール化合物の着色を防止ないしは抑制する効果が少なく、上記の範囲より多い場合は、効果が頭打ちになるだけでなく、処理後に残存する可能性が高まり、製品に影響を及ぼす恐れがある。
【0020】
ヒドロキシルアミン類は、そのまま使用してもよく、または、必要に応じ、水や溶媒により希釈した溶液として添加することが出来る。添加する溶液中のヒドロキシルアミン及びその塩の濃度は、溶媒種、添加量などにより、適宜選択される。
【0021】
ヒドロキシルアミン類の添加は、アルカリ水溶液による反応液の処理前の任意の段階で行うことが出来る。例えば、クライゼン転移前、クライゼン転移時、クライゼン転移後の何れであってもよい。通常は、クライゼン転移後、すなわち、クライゼン転移の反応液に添加される。ヒドロキシルアミン類の添加後の撹拌処理は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気で行うのが好ましい。また、処理温度は、通常0〜80℃、好ましくは15〜50℃であり、処理時間は、反応液にヒドロキシルアミン類が均一に混合される時間で十分であり、通常30分程度である。
【0022】
ヒドロキシルアミン類によりジアリルビスフェノール化合物の着色が防止ないしは抑制される作用機構は、必ずしも明らかではないが、一応、次の様に推測される。すなわち、ジアリルビスフェノール化合物の着色は、ジアリルエーテル化ビスフェノール化合物のクライゼン転位、または、その後のアルカリ処理の際に生成した着色成分の前駆体が酸化を受けて着色成分に変換されることにより惹起されるが、着色成分に変換される前の前駆体であれば、これをヒドロキシルアミン類で還元して除去することが出来、それにより、ジアリルビスフェノール化合物の着色が防止ないしは抑制される。
【0023】
なお、前述のアルカリ処理により、上記と同様の着色成分の前駆体が僅かに生成することがあるが、その場合は、必要に応じ、再度、上記と同様のヒドロキシルアミン類による処理を行ってもよい。
【0024】
本発明によれば、着色が少なく純度の高いジアリルビスフェノール化合物が得られるが、斯かるジアリルビスフェノール化合物は、半導体封止用を始めとする電気・電子部品絶縁材料用に好適に利用するが出来る。また、プリント配線板やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)をはじめとする各種複合材料用、各種接着剤用、各種塗料用、構造用部材などに有用なポリイミド樹脂やエポキシ樹脂の原料として好適に利用することが出来る。特に式(II)で表される2,2’−ジアリルビスフェノールAは有用である。
【0025】
【化3】

【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例においては、着色の程度はYI値で評価を行なった。そして、YI値の測定において、試料は、得られたジアリルビスフェノール化合物1重量部にトルエン3重量部を加えて調製した。また、ジアリルビスフェノール化合物の純度(面積%)は以下の条件によるHPLC分析によって求めた。
【0027】
<YI値(黄色度)>
日本電色工業株式会社製分光式色彩計を使用し、反射法にてYI値(黄色度)の測定を行った。得られた数値が小さいほど着色度合が小さい。
【0028】
<HPLC条件>
カラム:ODS(4.6mm×150mm)
移動層:アセトニトリル/水(7/3)
流量:0.8mL/分
検出波長:280nm
【0029】
実施例1:
四つ口フラスコに4,4’−ジアリルオキシビスフェノールA:30.8重量部、パラフィン系潤滑油(出光興産製「ダイアナフレシアW−8」):30.8重量部を仕込み、190℃にて10時間反応(クライゼン転移)を行なった。反応終了後、室温まで冷却した。2層になった下層をコック付の四つ口フラスコへ移し、粗2,2’−ジアリルビスフェノールAを得た。HPLCにおける2,2’−ジアリルビスフェノールAの純度は92.5%であった。この中にN,N−ジエチルヒドロキシルアミン:0.03重量部を加えよく撹拌した。
【0030】
次いで、水酸化ナトリウム:8重量部とトルエン:15重量部を加え、分液した後、上層のトルエン層を除去した。下層を更にトルエン15重量部で2回洗浄した。その後、下層を35重量%塩酸の20.8重量部で中和した後、トルエン:23重量部で抽出した。トルエン層を中性になるまで水洗し、トルエンを減圧留去すると、液体25gが得られた(収率81重量%)。HPLCにおける2,2’−ジアリルビスフェノールAの純度(面積%)は97.3%であった。表1に得られた2,2’−ジアリルビスフェノールAのYI値と純度(面積%)を示す。
【0031】
実施例2〜5:
実施例1において、N,N−ジエチルヒドロキシルアミンの代わりに表1に記載の添加剤と添加量を採用した以外は、実施例1と同様にして2,2’−ジアリルビスフェノールAを得た。表1に得られた2,2’−ジアリルビスフェノールAのYI値と純度(面積%)を示す。
【0032】
比較例1及び2:
実施例1において、N,N−ジエチルヒドロキシルアミンの代わりに表1に記載の添加剤と添加量を採用した以外は、実施例1と同様にして2,2’−ジアリルビスフェノールAを得た。表1に得られた2,2’−ジアリルビスフェノールAのYI値と純度(面積%)を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1の結果から次のことが明らかである。すなわち、添加剤として、N,N−ジエチルヒドロキシルアミンやヒドロキシルアミンを採用した場合は、還元剤に分類される亜硫酸ナトリウムを採用した場合や無添加の場合に比し、YI値が大幅に向上しており、面積%を損なうことなく着色抑制が達成されていることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアリルエーテル化ビスフェノール化合物をクライゼン転移させてジアリルビスフェノール化合物を含有する反応液を得、次いで、当該反応液をアルカリ水溶液で処理してジアリルビスフェノール化合物を回収するジアリルビスフェノール化合物の製造方法において、クライゼン転移の前からアルカリ水溶液による反応液の処理に至るまでの間に反応系内に式(I)で表されるヒドロキシルアミン類から選ばれる少なくとも一種を添加して撹拌処理すること特徴とするジアリルビスフェノール化合物の製造方法。
【化1】

【請求項2】
ジアリルビスフェノール化合物が式(II)で表される2,2’−ジアリルビスフェノールAである請求項1に記載の製造方法。
【化2】

【請求項3】
ヒドロキシルアミン類の添加量がジアリルエーテル化ビスフェノール化合物に対し、0.02〜3重量%である請求項1又は2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−110945(P2008−110945A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295552(P2006−295552)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(396020464)株式会社エーピーアイ コーポレーション (39)
【Fターム(参考)】