説明

ジアリールカーボネートの製造方法

【課題】新規で工業的なジアリールカーボネートの製造方法を提供すること。
【解決手段】一酸化炭素及び亜硝酸エステルを白金族金属担持固体触媒存在下で接触反応させシュウ酸ジエステルを得る第I工程と、シュウ酸ジエステルを加水分解しシュウ酸とアルコールとを得る第II工程と、シュウ酸をクロル化しシュウ酸ジクロライドを得る第III工程と、シュウ酸ジクロライドと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させてシュウ酸ジアリールを得る第IV工程と、シュウ酸ジアリールからジアリールカーボネートを得る第V工程とを有するジアリールカーボネートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアリールカーボネートの製造方法に関し、より詳しくは、シュウ酸ジエステルを経由したジアリールカーボネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジアリールカーボネートの製造方法としては、ホスゲン経由の方法の他に、例えば、気相反応により合成したシュウ酸ジエステルを原料とする連続的な製造方法が知られている(特許文献1参照)。得られたジアリールカーボネートは、樹脂等の原料として多くの用途に供することができる。
【0003】
【特許文献1】特開平10−152457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シュウ酸ジエステルを原料としてジアリールカーボネートを合成する場合は、シュウ酸ジメチルとフェノールとからエステル交換反応によりシュウ酸ジフェニルを合成し、その後、熱分解によりジフェニルカーボネートを得るという工程が必要とされる。このような合成方法は高温で行われるため、改良が必要とされている。
【0005】
本発明は、このように、ジアリールカーボネートの工業的な製法における課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、低温で反応効率が高いジアリールカーボネートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決するために本発明者は鋭意検討の結果、気相反応により合成したシュウ酸ジエステルを原料として、シュウ酸ジクロライドを経由することにより、低温で効率良くシュウ酸ジアリールを合成できることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。
かくして本発明によれば、ジアリールカーボネートの製造方法であって、
1.一酸化炭素と亜硝酸エステルを含有するガスを、白金族金属及び/またはその化合物或いは白金族金属及び/またはその化合物並びに助触媒を担持した固体触媒に気相で接触反応させ、シュウ酸ジエステルを含む反応生成物を得る第I工程、
2.第I工程で得られた反応生成物を加水分解し、シュウ酸とアルコールとを得る第II工程、
3.第II工程で得られたシュウ酸をクロル化しシュウ酸ジクロライドを得る第III工程、
4.第III工程で得られたシュウ酸ジクロライドと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させてシュウ酸ジアリールを得る第IV工程、
5.第IV工程で得られたシュウ酸ジアリールからジアリールカーボネートを得る第V工程、の各工程を含むことを特徴とするジアリールカーボネートの製造方法が提供される。
ここで、反応を連続法で実施し、第V工程から得られた一酸化炭素を第I工程の反応器に循環させることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ジアリールカーボネートを効率的に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
本実施の形態が適用されるジアリールカーボネートの製造方法は、白金族金属等を含む固体触媒の存在下に、一酸化炭素と亜硝酸エステルとの気相反応によりシュウ酸ジエステルを合成する第I工程と、第I工程で得られたシュウ酸ジエステルを加水分解する第II工程と、第II工程の加水分解により得られたシュウ酸をクロル化しシュウ酸ジクロライドを得る第III工程と、第III工程で得られたシュウ酸ジクロライドと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させてシュウ酸ジアリールを得る第IV工程と、第IV工程で得られたシュウ酸ジアリールからジアリールカーボネートを得る第V工程と、の各工程を有するものである。
以下、各工程について説明する。
【0009】
(第I工程)
シュウ酸ジエステルを合成する第I工程は、以下の5段階の工程(第I−1工程〜第I−5工程)から構成される。
【0010】
(第I−1工程)
白金族金属及び/またはその化合物或いは白金族金属及び/またはその化合物並びに助触媒を担持した固体触媒を充填した反応器に、一酸化炭素及び亜硝酸メチルを含有する原料ガスを導入し、気相で接触反応させる。反応器としては、単管式あるいは多管式触媒充填塔が好ましく用いられる。白金族金属系固体触媒と原料ガスとの接触時間は、好適には10秒以下、好ましくは0.2〜5秒となるように設定する。
【0011】
白金族金属系固体触媒に使用する白金族金属としてはパラジウムが最も有効である。また、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム等も有用である。
白金族金属の化合物としては、これら金属の硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物、酢酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩等の塩類も使用に供される。
これらの白金族金属または白金族金属の化合物は、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、珪藻士、軽石、ゼオライト、モレキュラーシーブ等の不活性な担体に担持させて使用される。その使用量は、白金族金属換算で、担体に対して通常は0.01重量%〜10重量%、好ましくは、0.2重量%〜2重量%の範囲で用いれば充分である。
【0012】
白金族金属及び/またはその化合物とともに使用する助触媒としては、鉄または鉄化合物が挙げられる。鉄または鉄化合物としては、金属鉄、鉄(II)化合物、鉄(III)化合物が挙げられる。鉄化合物の具体例としては、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硝酸第1鉄、硝酸第2鉄、塩化第1鉄、塩化第2鉄、硫酸第1鉄アンモニウム、硫酸第2鉄アンモニウム、クエン酸第2鉄、乳酸第1鉄、乳酸第2鉄、酸化第1鉄、酸化第2鉄、四三酸化鉄、水酸化第1鉄、水酸化第2鉄等が挙げられる。
【0013】
次に、原料ガスである一酸化炭素及び亜硝酸エステルを含有するガスは、通常、窒素ガス、炭酸ガス等の反応に不活性なガスで希釈して使用される。
亜硝酸エステルは、炭素原子数1個〜8個を有する1価の脂肪族アルコールまたは脂環族アルコールと亜硝酸とのエステルが好ましい。アルコール成分としては、例えば、メタノール、エタノール、n−(及びiso−)プロパノール、n−(及びiso−、sec−、tert−)ブタノール、n−(及びiso−)アミルアルコール、ヘキサノール、オクタノールのような脂肪族アルコール;シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールのような脂環族アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、例えば、アルコキシ基等の反応を阻害しない置換基を含んでいてもよい。これらの中でも亜硝酸メチルを用いるのが最も好ましい。
【0014】
原料ガス中の亜硝酸エステルの使用濃度は特に限定されず、充分な反応速度を得るためには、その濃度が1容量%以上となるように存在させることが必要である。尚、亜硝酸エステルの濃度が高い程、反応が速やかに進行するが、使用濃度の上限は反応帯内にシュウ酸エステルの液相が生成しない範囲に選ぶ必要があり、通常、5容量%〜30容量%の範囲で用いられる。また、原料ガス中の一酸化炭素の濃度は特に限定されず、通常、10容量%〜90容量%の範囲が選ばれる。
【0015】
一酸化炭素と亜硝酸エステルとの反応は、低温でも充分速やかに進行する。また反応温度が低い程副反応が少ないため、所望の空時収量を維持しつつ、比較的低温で反応を行うのが有利である。反応温度は、通常50℃〜200℃、好ましくは80℃〜150℃の範囲である。また反応圧力は、反応帯が液相を形成しない範囲であればよく、通常、常圧で十分であるが、使用原料によってはやや加圧にしてもまたやや減圧に保持してもよい。
【0016】
(第I−2工程)
続いて、前述した第I−1工程における生成物を凝縮器に導き、生成物中のシュウ酸ジエステルが凝縮する温度に冷却し、凝縮液と非凝縮ガスとに分離する。
この分離された凝縮液には、目的物のシュウ酸ジエステルの他に、炭酸ジエステル、ギ酸エステル等の副生物が少量含まれる。一方、非凝縮ガスには、第I−1工程の接触反応で生成した一酸化窒素の他に、未反応の一酸化炭素、亜硝酸エステル等が含まれている。
【0017】
尚、この工程において、目的物のシュウ酸ジエステルの一部が非凝縮ガスに同伴され、これが後述する第I−3工程にて一酸化窒素の再生時に生成する水により加水分解され、生成したシュウ酸がガス循環系内に蓄積する恐れがある。また、目的物がシュウ酸ジメチルのように融点が比較的高い場合には、目的物が凝縮器の壁等に固化付着し、ついにはその閉塞をきたす恐れもある。
これらの問題点を解消するために、第I−1工程における生成物をアルコールに接触させながら、そのアルコールの沸点以下の温度で冷却凝縮させるという方法を適用することもできる。例えば、目的物がシュウ酸ジメチルの場合には、被処理物100容量部に対しメタノールを0.01容量部〜0.1容量部流しながら、30℃〜60℃の温度で冷却凝縮させるのが好ましい。
【0018】
(第I−3工程)
次に、第I−2工程で分離された非凝縮ガスを再生塔に導き、これと分子状酸素含有ガス及びアルコールとを接触させて、非凝縮ガス中の一酸化窒素を亜硝酸エステルに再生する。
この工程における再生塔としては、充填塔、気泡塔、スプレー塔、棚段塔等の通常の気液接触装置が用いられる。また使用するアルコールは前述した亜硝酸エステルの構成成分であるアルコール成分の中から選ばれる。
アルコールと接触させる非凝縮ガス及び分子状酸素含有ガスは、個別にまたは混合状態で再生塔に導入することができる。
【0019】
この再生塔では一酸化窒素の一部を二酸化窒素に酸化するとともに、これらをアルコールに吸収・反応させ亜硝酸エステルに再生するものである。
この工程では、再生塔から導出されるガス中の一酸化窒素の濃度を2容量%〜7容量%の範囲内に調整し、該ガス中に二酸化窒素及び酸素が実質的に含まれないようにすることが好ましい。即ち、再生ガス中の一酸化窒素の濃度が過度に高いと、該ガスを第I−1工程の反応器に循環使用する場合、シュウ酸ジエステル生成の反応速度が小さくなり、その収率が低下する傾向がある。
【0020】
一方、その濃度が過度に低いと、再生ガス中に二酸化窒素及び酸素が含有されることになり、これらが第I−1工程における前記白金族金属系触媒の活性を低下させる原因になる。
このために、再生塔に導入されるガス中の一酸化窒素1モルに対し、分子状酸素含有ガスを酸素基準で0.08モル〜0.2モル供給し、これらのガスを使用に供されるアルコールの沸点以下の温度でアルコールと接触させるのが好ましく、その接触時間は0.5秒〜20秒が好ましい。また、アルコールの使用量は、生成する二酸化窒素と及びこれと略等モルの一酸化窒素とを、完全に吸収反応させるのに必要な量より多い量が用いられ、通常、再生塔に導入されるガス中の一酸化窒素1容量部に対し、アルコールを2容量部〜5容量部用いるのが好ましい。
【0021】
尚、本実施の形態における反応は連続プロセスであるため、どうしても窒素分が損失する。損失した窒素を補給する方法は、例えば、第I−1工程の反応器に亜硝酸エステルを供給する方法、あるいは第I−3工程の再生塔に一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素等の窒素酸化物または硝酸を導入する方法等により行える。
また、第I−2工程における非凝縮ガス中の一酸化窒素の含有量が多く、第I−3工程において一酸化窒素を亜硝酸エステルに再生する際、必要量以上の亜硝酸エステルが得られる場合には、非凝縮ガスを全量再生塔に導くことなく、その一部は直接第I−1工程における反応器に循環供給してもよい。
【0022】
再生塔から導出される亜硝酸エステル含有ガスは、第I−1工程の反応器に戻して循環させる。また、この再生ガスにもう一つの原料である一酸化炭素を混入後、反応器に供給してもよい。
尚、再生された亜硝酸エステルが亜硝酸n−ブチル、亜硝酸n−アミル等のように炭素原子数が4個以上のアルコールのエステルの場合は、再生反応の際に副生する水と共沸組成を形成し、再生ガス中に水を同伴することがある。この場合、この再生ガスをそのまま第I−1工程の反応器に供給すると、水がシュウ酸ジエステル生成反応を抑制する。このため、蒸留等の操作で再生ガス中の水を除去した後、反応器に再生ガスを循環供給するのが好ましい。
【0023】
一方、再生された亜硝酸エステルが亜硝酸メチル、亜硝酸エチル、亜硝酸n−プロピル、亜硝酸iso−プロピルの場合は、再生反応の際、副生する水と共沸組成を形成せず、再生ガス中に水を含有しないため、そのままの状態で反応器に循環供給できる。
再生塔から導出される液は、再生反応で副生した水を含むアルコール溶液である。これは蒸留等の操作によって、アルコール中の水分が5容量%以下、好ましくは2容量%以下になるように精製した後、第I−3工程におけるアルコール源、場合によっては第I−2工程におけるアルコール源として再利用してもよい。
【0024】
(第I−4工程)
第I−2工程で分離された凝縮液を蒸留塔に導き、通常の操作で蒸留し、目的物のシュウ酸ジエステル蒸留残液として取得する。
溜出分には、アルコールの他に第I−1工程の接触反応で副生した炭酸ジエステル、さらにギ酸エステルも微量含まれている。
【0025】
(第I−5工程)
第I−4工程における溜出分を加水分解塔に導き、この溜出分とスチームとを接触させ、溜出分中の炭酸ジエステルをアルコールと炭酸ガスに加水分解する。
この加水分解は、アルミナ触媒(例えば、水沢化学株式会社製ネオビードP(商品名))の存在下に150℃〜250℃の気相反応により容易に行える。また、この工程において溜出分中に微量存在するギ酸エステルも同様に加水分解されアルコールに変換される。
【0026】
加水分解塔から導出されるガス状アルコールは、凝縮後、第I−3工程における再生塔のアルコール源の一部として循環供給される。尚、第I−2工程において非凝縮ガスをアルコールに接触させながら凝縮させる場合には、第I−5工程で得られるアルコールの一部を、そのアルコール源として循環供給してもよい。
尚、第I−4工程及び第I−5工程における蒸留塔、加水分解塔は、充填塔、棚段塔、強制攪拌式薄膜塔等は、通常の装置が用いられる。
【0027】
次に、第I工程を、フローシート図に従って具体的に説明する。
図1は、第I工程の1実施態様を説明するためのフローシート図である。ここでは、シュウ酸ジエステルとしてシュウ酸ジメチルを例に挙げて説明する。
図1に示すように、第I工程の装置は、反応器1、凝縮器2、再生塔3、蒸留塔4、加水分解塔5、熱交換器6、及びこれらを連結する導管11〜29を備えている。
反応器1では、白金族金属系固体触媒の存在下で一酸化炭素と亜硝酸エステルとの気相反応が行われる。凝縮器2では、反応器1で生成した反応生成ガスをアルコールと接触させて凝縮する。再生塔3には、未反応の一酸化炭素と亜硝酸エステルとが導入される。蒸留塔4では、アルコールと副生物等を溜出させ、塔底からシュウ酸ジエステルを抜き出す。加水分解塔5では、ガス中の炭酸ジエステルをアルミナ系触媒により加水分解する。熱交換器6では、蒸留塔4からの溜出分が加熱され、また、加水分解塔5で生成したガス状アルコールが冷却される。
【0028】
第I工程において、白金族金属系固体触媒を充填した多管式の反応器1の上部に、一酸化炭素、亜硝酸エステル、一酸化窒素等を含有するガスをガス循環機(図示せず)で加圧して導管21を通して導入する。反応器1において気相で接触反応が行われる。触媒層を通過した反応生成ガスは下部から取り出され、導管11を通して凝縮器2に導入される。
凝縮器2では、導管13から導入されるアルコール(メタノール)と反応生成ガスとを接触させながら反応生成ガスを凝縮する。主としてシュウ酸ジエステルを含有する凝縮液は、凝縮器2の下部から導管14を通して蒸留塔4に導かれる。一方、未反応の一酸化炭素と亜硝酸エステル、及び副生した一酸化窒素等を含む非凝縮ガスは、凝縮器2の上部から導管12を通して再生塔3の下部に導入される。
【0029】
再生塔3において、前述した非凝縮ガスは、導管16を通して再生塔3の下部に導入される分子状酸素含有ガス(O)及び導管18を通して再生塔3の上部に導入されるアルコール(メタノール)と向流接触により反応させて亜硝酸エステルを生成させる。この再生塔3では、一酸化窒素が二酸化窒素に変化する酸化反応に引き続き、それらのアルコールヘの吸収反応が起る。尚、亜硝酸エステルを生成するに十分な窒素源が不足する場合には、導管15を通して再生塔3に窒素酸化物を混入してもよい。
【0030】
再生塔3にて生成した亜硝酸エステル含有ガスは、導管19,21を通して、導管20より新しく供給される一酸化炭素とともに、反応器1に循環供給される。一方、再生塔3で副生した水はアルコール水溶液の形態で底部から導管17を通して取出される。
このアルコール水溶液は、蒸留等の操作によって液中の水分を除去した後、導管18を通して再生塔3に、または導管13を通して凝縮器2にそれぞれ供給されるアルコール源として再利用してもよい。
【0031】
蒸溜塔4では、アルコールと副生物の炭酸ジエステル等を溜出させ、目的物のシュウ酸ジエステル液(シュウ酸ジメチル)を導管22を通して取得する。溜出分は、導管23を通し熱交換器6で加熱された後、導管24を通し導管25から導入される水蒸気と混合され加水分解塔5に導かれる。
【0032】
加水分解塔5において、ガス中の炭酸ジエステルと、さらにはギ酸エステルとは、アルミナ系触媒の作用により、アルコールと炭酸ガスとに、気相で加水分解される。生成したガス状アルコールは、導管26を通し熱交換器6で冷却された後、凝縮器(図示せず)によりガス中の炭酸ガスを放散させるとともに凝縮される。
次いで、このアルコール液は導管27,28を通し、導管18を通して再生塔3に供給され、アルコール源として循環供給される。またこのアルコール液の一部は、場合により、導管29及び導管13を通して凝縮器2に供給されるアルコール源として再利用することもできる。
【0033】
(第II工程)
次に、前述した第I工程において生成した反応生成物を加水分解しシュウ酸とアルコールを得る第II工程について説明する。
第II工程では、先ず、所定の加水分解槽にシュウ酸ジアルキルエステルと水とを供給してシュウ酸ジアルキルエステルを加水分解し、シュウ酸とアルコールを得た後、アルコールを含む有機相とシュウ酸を含む水相とに相分離する。
ここで、出発原料のシュウ酸ジアルキルエステルとしては、加水分解液を有機相と水相とに相分離可能なものを選ぶ必要がある。このようなシュウ酸ジアルキルエステルとしては、例えば、シュウ酸と炭素数1〜炭素数8を有するアルキル基とのジエステルが好ましい。
【0034】
シュウ酸ジアルキルエステルの具体例として、例えば、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジn(またはiso)−プロピル、シュウ酸ジn(またはiso)−プチル、シュウ酸ジn(またはiso)−アミル、シュウ酸ジn(またはiso)−ヘキシル、シュウ酸ジn(またはiso)−ヘプチル、シュウ酸n(またはi)−オクチルが有用である。これらのシュウ酸ジアルキルステルは、加水分解条件によって直接シュウ酸になったり、あるいはシュウ酸モノアルキルエステルを経てシュウ酸になる場合もある。
【0035】
また、シュウ酸ジアルキルエステルの加水分解率は、加水分解槽に供給する水の量が多い程向上するが、過度に多いと水相に溶出するアルコール量が増大する傾向があるので好ましくない。
また、有機相と水相とを効果的に相分離することが必要である。このため、加水分解槽に供給する水の量としては、シュウ酸ジアルキルエステル1重量部に対し水の量が0.8重量部〜5重量部、好ましくは1重量部〜3重量部となることが望ましい。尚、上述した範囲より少ない水量で加水分解を行った後、上述した割合になるように水を補給して相分離を行ってもよい。
【0036】
加水分解の条件としては、常圧下、60℃〜120℃好ましくは70℃〜110℃の温度で、攪拌しながら、15分間〜240分間、好ましくは30分間〜150分間行うのが好ましい。
次いで、加水分解液を静置し、有機相と水相とに相分離する。この分離された有機相は、未分解のシュウ酸ジアルキルエステル、シュウ酸モノアルキルエステル、分解で生成したアルコール及びシュウ酸、水等を含み、これらは加水分解槽に循環供給される。
尚、加水分解工程で生成するアルコールが系内に蓄積してくるため、工業的には加水分解工程においてアルコールを回収する工程を設け、アルコールを系外に取り出しながらシュウ酸ジアルキルエステルの加水分解を行うのが好ましい。また、分離された有機相中からアルコールを除去してもよい。
【0037】
一方、分離された水相は、シュウ酸、水及び少量のアルコールを含み、これを冷却濃縮等、通常の方法で晶析し、シュウ酸結晶を得る。
【0038】
次に、第II工程を、フローシート図に従って具体的に説明する。図2は、第II工程の1実施態様を説明するためのフローシート図である。図2に示すように、第II工程の装置は、加水分解槽31、相分離器32、晶析装置33、凝縮器34、蒸留塔35、これらを連結する導管46〜54,56〜59を備えている。
【0039】
第II工程において、加水分解槽31に、導管46を通してシュウ酸ジアルキルエステルを、導管47を通し水を、さらに、導管52を通して、後述する相分離器32で分離された有機相を、また導管58を通して、後述する晶析装置33における残液を、それぞれ供給する。次に、加水分解槽31を所定温度に保持しシュウ酸ジアルキルエステルを加水分解する。
続いて、この加水分解において蒸発するアルコール及び水を、導管48を通して凝縮器34に導き、冷却、凝縮させ、アルコール分は導管49を通し系外へ取り出す。
【0040】
一方、少量のアルコ一ル分を含有する水は導管50を通して加水分解槽31に循環供給される。尚、系からアルコ一ル分を取り除く工程は、後述する相分離器32において分離された有機相を導管52を通し、加水分解槽31に循環供給する間に設けてもよい。
加水分解槽31で得られた加水分解液は、導管51を通し相分離器32に供給され、有機相と水相とに分離される。分離された有機相は、導管52を通して加水分解槽31に循環供給し、一方、水相は導管54を通して晶析装置33に導かれる。
尚、水相を導管53を通して蒸留塔35に導き蒸留し、アルコールを導管57を通し分離し、一方、蒸留残液を導管56を通して晶析器33に導く工程を設け、水相中に溶存しているアルコ一ル分を晶析工程前に回収してもよい。
【0041】
次いで、晶析装置33において、前述した相分離器32で分離された水相を晶析し、目的物のシュウ酸結晶を導管59から取得する。一方、晶析残液は導管58を通して、加水分解槽31に循環供給される。
【0042】
(第III工程)
次に、第II工程で得られたシュウ酸をPCl/Clによりクロル化する第III工程について説明する。
第III工程では、シュウ酸(1〜1.05):三塩化燐(1.1〜1.3)を、当量よりやや過剰量になるように調整して所定の反応釜に入れる。次に、反応釜に、液体塩素を三塩化燐の約50wt%の量で導入しながら攪拌して反応させる。クロル化のための反応温度は40℃〜120℃内に維持し、反応時間15時間〜17時間である。反応を充分に行った後、さらに4時間還流を行う。
【0043】
その後、反応釜の攪拌を停止し、得られたシュウ酸ジクロライドのクルード品と三塩化オキシ燐との混合液を、さらに60℃〜63℃に昇温する。続いて、負圧(真空度93.3kPa〜101.3kPa)でシュウ酸ジクロライドを留出させる。その後、さらに120℃〜130℃に昇温し負圧(真空度53.3kPa〜80.0kPa)で三塩化オキシ燐を留出させ、シュウ酸ジクロライドと分離する。
【0044】
尚、第III工程におけるシュウ酸ジクロライド合成の基本反応式は下の通りである。
【0045】
【化1】

【0046】
(第IV工程)
続いて、第III工程で得られたシュウ酸ジクロライドからシュウ酸ジアリールを得る第IV工程について説明する。
第IV工程では、第III工程で得られたシュウ酸ジクロライドからシュウ酸ジアリールを得るためには、ショッテンバウマン反応により進める。
このとき、用いられる触媒としては含窒素複素環基化合物が好ましい。ここで含窒素複素環基とは、環の構成要素として少なくとも1個の窒素原子を有する複素単環基または縮合複素環基であって、これらの複素環基には、炭素、窒素原子以外の異種原子が含まれていてもよい。このような複素単環基とは、例えば、下記式(A)または(B)で表わされる基本骨格を有する基であり、環を構成する原子のうち、少なくとも一つは窒素原子であり、残りの原子は、炭素、窒素、酸素原子から選ばれたものである。
【0047】
【化2】

【0048】
(A)、(B)環上の結合は、単結合または二重結合(炭素−炭素二重結合、炭素−窒素二重結合、窒素−窒素二重結合)から成る。また、(A)−1、(B)−1の以外の位置に二重結合を有さない窒素原子がある場合には、その窒素原子上の水素原子はアルキル基によって置換されている。炭素原子上の水素原子は、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、ハロ基、アシル基、アロイル基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基等や、さらに、(A)または(B)の複素単環基で置換されていてもよい。
好ましい複素単環基の例としては、以下の複素単環基1〜25が挙げられる。但し、Rはアルキル基を表わす。
【0049】
【化3】

【0050】
縮合複素環基としては、下記式(C)〜式(G)で表わされる基本骨格を有するものが挙げられる。
【0051】
【化4】

【0052】
式(C)〜式(G)において、縮合部の原子((C)−1,5、(D)−1,6、(E)−1,6,7,12、(F)−1,6,8,13、(G)−1,6,9,14を指す)は炭素原子であり、その他の原子は炭素、窒素、酸素原子から選ばれ、少なくとも1個の窒素原子を含むものである。
式(C)〜式(G)において環を構成する結合は、単結合または二重結合(炭素−炭素二重結合、炭素−窒素二重結合、窒素−窒素二重結合)から成っている。
【0053】
式(C)〜式(G)で表わされる含窒素複素縮合環基は、縮合部の原子以外の部分から直接または1個以上の炭素−炭素結合(この炭素−炭素結合は1個以上の炭素−異種原子結合に置換されていてもよい)を介して、母体となる固体状物質に結合している。
【0054】
母体となる固体状物質と結合している原子以外で、二重結合を有さない窒素原子がある場合には、その窒素原子上の水素原子はアルキル基によって置換されている。
炭素原子上の水素原子は、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、ジアルキルアミノ基、ハロ基、アシル基、アロイル基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基等や、さらに、前述の式(A)または式(B)の複素単環基で置換されていてもよい。
縮合複素環基の例としては、以下に示す縮合複素環基26〜53等が挙げられる(ただし、Rはアルキル基を表わす)。
【0055】
【化5】

【0056】
【化6】

【0057】
尚、この場合の反応は下記式(J)で表わされる。式(J)中、Rはアルキル基またはアリール基を表わし、XはF,Cl,Br,Iのハロゲン原子を表わす。
【0058】
【化7】

【0059】
第IV工程のショッテンバウマン反応で用いる触媒としては、このようなアニオンがハロゲンイオンである4級アンモニウムハライドを含む含窒素複素環基を有するものであってもよいし、これらのハロゲンアニオンの1部または全部が他のアニオンで置換されたものであってもよい。他のアニオンとしては、例えば、HCO,CO,CHCO、HCO、IO、BrO、ClO等が挙げられる。
【0060】
触媒は、基質である芳香族モノヒドロキシ化合物に対して、0.1モル%〜10モル%、特に0.5モル%〜5モル%の量で使用するのが好ましい。また、触媒は反応系内で相当する塩酸塩に変化するので、塩酸塩の形で反応に用いても全く同様な反応性、選択性が得られる。
【0061】
基質である芳香族モノヒドロキシ化合物としては、最も一般的なのはフェノールである。また、クレゾール、イソプロピルフェノール、クロロフェノール及びメトキシフェノール等の、アルキル基、ハロゲン原子、又はアルコキシ基等で置換されたフェノール類を用いることもできる。
【0062】
反応は、例えば、フェノールと触媒の含窒素複素環基化合物又はその塩との混合物を50℃〜150℃に昇温し、充分な撹拌を行いながら、これにシュウ酸ジクロライドを導入することにより行う。シュウ酸ジクロライドの導入量は、フェノール1.0モルに対して1.0モル以下が好ましく、特に0.2モル〜0.5モルが好ましい。
この反応に際しては、副生した塩化水素は速やかに反応器から流出するようにする。流出したガスは凝縮器で同伴しているフェノール等を凝縮させ、非凝縮ガスは除害処理を行ったのち大気中に放出される。
【0063】
除害処理としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液が循環している除害塔で酸性成分を中和したり、水洗して塩化水素を塩酸として回収した後、残ガスを中和処理する方法を用いることができる。中和処理後の残ガスは、そのまま大気放出または焼却処理される。また塩化水素は触媒の存在下、酸素により高温で酸化して塩化水素から塩素を生成させ、生成した塩素を液化して回収することもできる。
【0064】
一方、反応により得られた生成液中には、シュウ酸ジフェニル、未反応フェノール及び触媒である含窒素複素環基化合物の塩酸塩が含まれる。
後工程のシュウ酸ジアリールの脱CO反応においては、97.0重量%以上、特に99.0重量%以上の純度を有するシュウ酸ジアリールを用いることが好ましい。さらに、シュウ酸ジアリールに含まれる芳香族モノヒドロキシ化合物を1重量%以下、特に0.5重量%以下としシュウ酸ジアリールを用いることが好ましい。
【0065】
このようなシュウ酸ジアリールは、前述した方法で得られる生成液(例えば、シュウ酸ジフェニル、未反応フェノール及び触媒である含窒素複素環基化合物の塩酸塩を含む混合液)から、シュウ酸ジアリール(例えば、シュウ酸ジフェニル)を蒸留精製する方法等によって得ることができる。この蒸留精製は必要に応じて繰り返し行うことができ、それによって目的の純度のシュウ酸ジアリールを得ることができる。
【0066】
(第V工程)
続いて、第IV工程で得られたシュウ酸ジアリールからジアリールカーボネートを得る第V工程について説明する。
第V工程は、第IV工程で得られたシュウ酸ジアリールを脱CO反応させてジアリールカーボネートと一酸化炭素とを生成させ、その反応混合物からジアリールカーボネートを回収すると共に、一酸化炭素を回収して第I工程へ供給する工程である。この脱CO反応は、触媒の存在下、液相又は気相、好ましくは液相で行われる。
【0067】
脱CO反応が液相で行われる場合に用いる触媒としては、シュウ酸ジアリールの脱CO反応を比較的低温(約100℃〜350℃)で行うことができ、且つジアリールカーボネートを高い選択率で得ることができる触媒が好ましい。脱CO触媒としては、例えば、有機リン化合物、好ましくは少なくとも1個の炭素−リン結合を有する有機リン化合物からなる触媒が挙げられる。
このような有機リン化合物としては、下記一般式(w)〜(z)で示されるホスフィン(w)、ホスフィンオキシド(x)、ホスフィンジハライド(y)及びホスホニウム塩(z)から選ばれる少なくとも一種の有機リン化合物を好適に挙げることができる。
【0068】
【化8】

【0069】
式(W)〜(Z)中、R〜R13は、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数6〜16のアリール基及び炭素数7〜22のアラルキル基から選ばれる少なくとも一種の基を示す。Xは対イオンを形成しうる原子又は原子団を示す。Y及びYは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子をそれぞれ示す。
一般式(w)〜(z)で示される有機リン化合物は、少なくとも1つが前述の基を有している。
【0070】
前述したR〜R13で示される基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基等の炭素数1〜16のアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、メトキシナフチル基、クロロナフチル基等の炭素数6〜16のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、4−メチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、p−メチルフェネチル基等の炭素数7〜22のアラルキル基を挙げることができる。
【0071】
前述したアリール基及びアラルキル基は、その芳香環を形成している炭素と直接に結合する置換基として、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数1〜16のアルコキシ基、ニトロ基及びハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)から選ばれる少なくとも1個の置換基を有していてもよい。
【0072】
一般式(w)〜(z)で表される有機リン化合物としては、それぞれが有する基(R〜R13)の全てがアリール基であるものが好ましい。また、その1〜2個(特に2個)がアリール基であって、残部がアルキル基又はアラルキル基であるものであってもよい。
【0073】
一般式(w)におけるR〜Rの全てがアリール基であるホスフィンとしては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリス(4−クロロフェニル)ホスフィン、トリス(4−トリル)ホスフィン、α−ナフチル(フェニル)−4−メトキシフェニルホスフィン等が挙げられる。
【0074】
一般式(w)におけるR〜Rの2個がアリール基であるホスフィンとしては、例えば、メチルジフェニルホスフィン、メチル(4−メトキシフェニル)フェニルホスフィン等が挙げられる。
【0075】
一般式(x)のR〜Rの全てがアリール基であるホスフィンオキシドとしては、例えば、トリフェニルホスフィンオキシド、トリス(4−クロロフェニル)ホスフィンオキシド、トリス(4−トリル)ホスフィンオキシド、α−ナフチル(フェニル)−4−メトキシフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0076】
一般式(x)のR〜Rの2個がアリール基であるホスフィンオキシドとしては、例えば、メチルジフェニルホスフィンオキシド、メチル(4−メトキシフェニル)フェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0077】
一般式(y)のR〜Rの全てがアリール基であるホスフィンジハライドとしては、例えば、トリフェニルホスフィンジクロライド、トリフェニルホスフィンジブロマイド、トリフェニルホスフィンジヨーダイド等が挙げられる。
【0078】
一般式(z)のホスホニウム塩としては、R10〜R13の全てがアリール基であって、しかも対イオンXがハロゲンイオン、脂肪族カルボン酸イオン又はフルオロボレートイオン等であるホスホニウム塩が好適である。
また、R10〜R13の1〜3個、特に2〜3個がアリール基であって、残部がアラルキル基又はアルキル基であり、更に対イオンXがハロゲンイオン、脂肪族カルボン酸イオン又はフルオロボレートイオンであるものであってもよい。
【0079】
一般式(z)のR10〜R13の全てがアリール基であるホスホニウム塩としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムヨーダイド、4−クロロフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、4−クロロフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド、4−クロロフェニルトリフェニルホスホニウムヨーダイド、4−エトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、4−エトキシフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド、4−エトキシフェニルトリフェニルホスホニウムヨーダイド、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムヨーダイド、9−フルオレニルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、9−フルオレニルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド等の対イオンXがハロゲンイオンであるホスホニウム塩;
【0080】
テトラフェニルホスホニウムアセテート、4−クロロフェニルトリフェニルホスホニウムアセテート、4−エトキシフェニルトリフェニルホスホニウムアセテート、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムアセテート等の対イオンXが脂肪族カルボン酸イオンであるホスホニウム塩;
【0081】
テトラフェニルホスホニウムフルオロボレート、4−クロロフェニルトリフェニルホスホニウムフルオロボレート、4−エトキシフェニルトリフェニルホスホニウムフルオロボレート、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムフルオロボレート等の対イオンXがフルオロボレートイオンであるホスホニウム塩が挙げられる。
【0082】
前述した有機リン化合物からなる脱CO反応用の触媒は、単独であってもまた二種以上の混合物であってもよく、更に反応液中に均一に溶解及び/又は懸濁されていてもよい。
第V工程で使用される有機リン化合物の量はシュウ酸ジアリールに対して0.001モル%〜50モル%、特に0.01モル%〜20モル%程度であることが好ましい。
【0083】
前述した有機リン化合物からなる脱CO反応用の触媒には、無機ハロゲン化合物及び有機ハロゲン化合物から選ばれる少なくとも一種のハロゲン化合物が併用されてもよい。併用されるハロゲン化合物の量は、有機リン化合物に対して0.01倍モル〜150倍モル、特に0.1倍モル〜100倍モル程度であることが好ましい。
【0084】
無機ハロゲン化合物としては、アルミニウムのハロゲン化物(塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等)、白金族金属のハロゲン化物(塩化白金、塩化ルテニウム、塩化パラジウム等)、リンのハロゲン化物(五塩化リン等)、硫黄のハロゲン化物(塩化チオニル等)、ハロゲン化水素(塩化水素等)、ハロゲン単体(塩素等)等が挙げられる。
【0085】
また、有機ハロゲン化合物としては、ハロゲン化アルキル(クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、塩化ブチル等)、ハロゲン化アラルキル(塩化ベンジル等)、ハロゲン置換脂肪族カルボン酸(クロロ酢酸、ブロモ酢酸等)、酸ハロゲン化物(塩化オキサリル、塩化プロピオニル、塩化ベンゾイル等)等が挙げられる。
有機ハロゲン化合物としては、このように、飽和炭素にハロゲン原子が結合している構造や、カルボニル炭素にハロゲン原子が結合している構造を有するものが好適である。
【0086】
シュウ酸ジアリールの脱CO反応は、反応器に、シュウ酸ジアリール及び有機リン化合物を入れ、更に必要に応じて前記ハロゲン化合物を入れて、100℃〜450℃、好ましくは160℃〜450℃、更に好ましくは180℃〜400℃、特に好ましくは180℃〜350℃で加熱することによって液相反応で行われる。
このとき、シュウ酸ジアリールからジアリールカーボネートが生成すると共に、一酸化炭素が発生する。反応圧力は、反応温度がシュウ酸ジアリールの沸点を越える場合は加圧とされるが、通常は常圧又は減圧である。尚、反応器の材質は特に制限されるものではなく、例えば、ガラス製又はステンレス鋼製の反応器を使用することができる。
【0087】
第V工程における脱CO反応では、得られる反応液に未反応のシュウ酸ジアリール及び脱CO触媒が含有されている。この反応液からジアリールカーボネートを回収する一般的方法としては、蒸発器、薄膜蒸発器等の蒸発装置で触媒を分離して回収した後、この蒸発溜分を所定の理論段数(特に5段〜50段)を有する充填塔や棚段塔等の蒸留装置を用いて蒸留する方法が好適に用いられる。
【0088】
また、反応液を充填塔や棚段塔等の蒸留装置で蒸留して、塔頂部からジアリールカーボネートを抜き出すと共に、塔底部から未反応のシュウ酸ジアリールや脱CO触媒を含有する缶液を抜き出す方法も用いられる。抜き出された缶液は脱CO反応の反応器へ循環供給される。このようにして、上記の反応液からジアリールカーボネートを回収して高純度のジアリールカーボネートを得ることができる。
【0089】
尚、第V工程で生成する一酸化炭素は、前記のようにシュウ酸ジエステルの製造のために第I工程に供給されて再使用される。この一酸化炭素は、略100%の純度であるので、特に精製することなく第I工程に供給することができる。尚、第V工程の触媒種や反応条件により、フェノール、二酸化炭素、塩化水素等の不純物が含有される場合は、吸収塔やスクラバー等の簡単な精製装置を通した後に第I工程に供給すればよい。
【実施例】
【0090】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例)
(第I工程:シュウ酸ジエステルの合成)
内径36.7mm、高さ550mmのチューブ6本よりなるステンレス製多管反応器のチューブ内に0.5重量%のパラジウムを担待した直径5mm、高さ3mmのペレット状γ−アルミナ触媒3kg(3L)を充填した。
【0091】
この触媒層に上部からダイヤフラム式ガス循環ポンプで、一酸化炭素と後記再生塔における再生ガスとの混合ガス(組成:一酸化炭素22.0容量%、亜硝酸メチル9.1容量%、一酸化窒素3.1容量%、メタノール9.4容量%、炭酸ガス8.5容量%および窒素47.0容量%)を予め熱交換器で約90℃に予熱した12.0Nm/hrの速度で供給し、反応器のシェル側に熱水を通すことにより触媒層の温度を104℃〜117℃に保持した。
【0092】
触媒層を通過したガスを、内径158mm、高さ1400mmのラシヒリング充填式気液接触凝縮器の塔底に導き、該塔頂からメタノールを5.6L/hrの速度で導入し、約35℃(塔頂温度30℃、塔底温度40℃)で向流接触した。塔底から凝縮液(組成:シュウ酸ジメチル46.6重量%、炭酸ジメチル4.9重量%、ギ酸メチル0.03重量%およびメタノール48.0重量%)2.8kg/hrを得、一方塔頂から非凝縮ガス(組成:一酸化炭素15.4容量%、亜硝酸メチル3.9容量%、一酸化窒素6.8容量%、メタノール24.2容量%、炭酸ガス7.6容量%および窒素41.4容量%)13.6Nm/hrを得た。
【0093】
この非凝縮ガスに、酸素140L/hrと一酸化窒素9L/hrを混入した後(ガス中の一酸化窒素に対する酸素のモル比=0.15)、内径158mm、高さ1400mmの気液接触式再生塔の塔底に導き、該塔頂からメタノールを40L/hr(このうち1.77L/hrは後記加水分解塔から補給されたものである)の速度で導入し、約35℃(塔頂温度30℃、塔底温度40℃)で向流接触させ、ガス中の一酸化窒素を亜硝酸メチルに再生した。再生塔における再生ガス(組成:一酸化炭素15.4容量%、亜硝酸メチル8.0容量%、一酸化窒素2.8容量%、メタノール24.2容量%、炭酸ガス7.6容量%および窒素41.3容量%)14.2Nm/hrは一酸化炭素550L/hrを混入した後、前記ガス循環ポノプに供給圧縮し、吐出ガスを20℃に冷却し凝縮メタノールを分離し反応器へ導いた。一方この再生塔から導出された20.0重量%メタノール水溶液1.2L/hrは、蒸留によって水を除去した後、該塔におけるメタノール源として再使用した。
【0094】
前記凝縮器から導出された凝縮液2.8kg/hrを、内径30mm、高さ3000mmの蒸留塔に導き、塔頂温度63℃、塔底温度166℃で蒸留した。塔底から、純度98.0重量%のシュウ酸ジメチル液1.32kg/hrを得た。一方塔頂から、メタノール96.7容量%、炭酸ジメチル3.2容量%およびギ酸メチル0.02容量%からなる留出ガス0.96Nm/hrを得た。
【0095】
次に、この留出ガスを、内径28.4mm、高さ1000mmの加水分解塔(水沢化学社製ネオビードP500mL充填)に導き、約200℃でスチーム50g/hrと接触させ、ガス中の炭酸ジメチルおよびギ酸メチルを加水分解した。これによって得られたメタノール1.77L/hrは前記再生塔のメタノール源として循環供給した。
尚、この実験におけるシュウ酸ジメチルの初期空時収量は432g/L・hrであり、この連続反応を480時間行ったが、シュウ酸ジメチルの空時収量の低下は全く認められなかった。
【0096】
(第II工程:加水分解)
上述した第I工程で得られたシュウ酸ジメチルを用いて、以下のようにシュウ酸を製造した。
加水分解槽に水525重量部/hr、シュウ酸ジメチル608重量部/hr、後記晶析残液(液組成:シュウ酸9.2重量%、水90.8重量%)1229重量部/hrおよび後記相分離器で分離した有機相(液組成:(シュウ酸+シュウ酸モノメチル)7.4重量%、シュウ酸ジメチル83.3重量%、水9.2重量%)2060重量部/hrの各速度で送入し、温度80℃、滞留時間120分でシュウ酸ジメチルの加水分解を行った。なお、加水分解における蒸発物は凝縮後、メタノ−ル水(液組成:メタノ−ル87.1重量%、水12.9重量%)を300重量部/hrの速度で系外に取り出した。
【0097】
次に、加水分解液は4122重量部/hrの速度で相分離器に供給し、有機相と水相とに分離した有機相は前記速度で加水分解槽に供給し、一方水相(液相成:シュウ酸30.5重量%、水69.3重量%、シュウ酸ジメチル0.2重量%)は、1945重量部/hrの速度で晶析装置に導き晶析し、目的生成物(組成:シュウ酸二水化物95.3重量%、水4.7重量%)680重量部/hrを取得し、一方晶析残液は前記速度で加水分解槽へ循環供給した。
【0098】
(第III工程:クロル化)
上述した第II工程で得られたシュウ酸を用いて、以下のようにシュウ酸ジクロライドを製造した。
1モルのシュウ酸ジクロライドを製造するための例で、90重量部のシュウ酸、154重量部の三塩化燐を合成反応釜の中に入れ、攪拌しながら液体塩素77重量部を通入し、反応過程で徐々に加温して、温度を40℃〜120℃に維持して、16時間反応させた。
【0099】
反応を充分に行った後、還流を4時間行い、攪拌を停止させ、シュウ酸ジクロライドのクルード品と三塩化オキシ燐の混合液を得た。反応過程で産出する塩化水素はコンデンサーと噴射ポンプでスイープガス吸収装置に送入された。
シュウ酸ジクロライドは温度を60℃〜63℃にコントロールして、真空度が93.3kPa〜97.3kPaの蒸留釜で、減圧下、留出させた。一方、釜残液の三塩化オキシ燐は、120℃〜130℃に昇温後、負圧(53.3kPa〜80.0kPa)で回収した。
この様にして得たシュウ酸ジクロライドの沸点は、63℃であった。
【0100】
(第IV工程:シュウ酸ジフェニルの合成)
上述した第III工程で得られたシュウ酸ジクロライドを用いて、以下のようにシュウ酸ジフェニルを製造した。
温度計、攪拌機及びオーバーフロー管を備えた内容積1Lのガラス製反応器2個を連結した装置に、温度50℃の溶融フェノールを453g/hr、触媒のピリジンを7g/hrで予備混合し、十分な攪拌下にある第1反応器に連続供給した。次いでシュウ酸ジクロライドを133g/hrで第1反応器に連続供給すると共に、2個の反応器を加熱して115℃に保持してシュウ酸ジフェニルの合成反応を行った。尚、各反応器の滞留時間は1時間とした。
【0101】
供給開始8時間後、第2反応器のオーバーフロー液の組成は、シュウ酸ジフェニルが48.1重量%で、供給シュウ酸ジクロライドの略100%がシュウ酸ジフェニルに転換されていた。
得られた留出液を5×5mmのヘリパックを充填した内径30mm、長さ2mのガラス製蒸留塔の上から80cmの位置に供給して連続蒸留し(缶液温度135℃、塔頂圧力1.33kPa、還流比2)、抜き出された塔底液を前記と同様に連続蒸留を行った。そして、塔頂から純度99.9重量%のシュウ酸ジフェニル240g/hrを得た。
【0102】
(第IV工程:ジフェニルカーボネートの合成)
上述した第IV工程で得られたシュウ酸ジフェニルを用いて、以下のようにジフェニルカーボネートを製造した。
シュウ酸ジフェニルにテトラフェニルホスホニウムクロライドを5モル%加え、150℃に加熱して溶解した。この液を、温度計、攪拌機及びオーバーフロー管を備えた内容積1Lのガラス製反応器2個を連結した装置に、定量ポンプを用いて215g/hrで供給すると共に、2個の反応器を加熱して220℃に保持してシュウ酸ジフェニルの脱CO反応を行った。尚、各反応器の滞留時間は3時間とした。
【0103】
供給開始20時間後、第2反応器のオーバーフロー液の組成は、シュウ酸ジフェニル10.3重量%、ジフェニルカーボネート81.7重量%であった。また、各反応器から発生するガスの組成は一酸化炭素であり、その量は16NL/hrであった。
この脱CO反応の反応液を、蒸発器に供給して200℃で加熱してテトラフェニルホスホニウムクロライドを分離し、得られた留出液を5×5mmのヘリパックを充填した内径30mm、長さ2mのガラス製蒸留塔の上から80cmの位置に供給して連続蒸留し(塔頂圧力2.67kPa、還流比2)、純度99.9%のジフェニルカーボネート140g/hrを得た。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、ジアリールカーボネートの新規な製法に関し、一酸化炭素と亜硝酸メチルとを原料として、白金族金属系固体触媒の存在下、気相反応によるシュウ酸ジエステルを経由する、工業的有利に実施することのできる新規なプロセスを提供するものである。ジアリールカーボネートは、芳香族ポリカーボネート製造にとって有用な化合物である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】第I工程の1実施態様を説明するためのフローシート図である。
【図2】第II工程の1実施態様を説明するためのフローシート図である。
【符号の説明】
【0106】
1…反応器、2…凝縮器、3…再生塔、4…蒸留塔、5…加水分解塔、6…熱交換器、31…加水分解槽、32…相分離器、33…晶析装置、34…凝縮器、35…蒸留塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.一酸化炭素と亜硝酸エステルを含有するガスを、白金族金属及び/またはその化合物或いは白金族金属及び/またはその化合物並びに助触媒を担持した固体触媒に気相で接触反応させ、シュウ酸ジエステルを含む反応生成物を得る第I工程、
2.前記第I工程で得られた前記反応生成物を加水分解し、シュウ酸とアルコールとを得る第II工程、
3.前記第II工程で得られた前記シュウ酸をクロル化しシュウ酸ジクロライドを得る第III工程、
4.前記第III工程で得られた前記シュウ酸ジクロライドと芳香族ヒドロキシ化合物とを反応させてシュウ酸ジアリールを得る第IV工程、
5.前記第IV工程で得られた前記シュウ酸ジアリールからジアリールカーボネートを得る第V工程、
の各工程を含むことを特徴とするジアリールカーボネートの製造方法。
【請求項2】
前記第V工程から得られた一酸化炭素を前記第I工程の反応器に循環させることを特徴とする請求項1記載のジアリールカーボネートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−326837(P2007−326837A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161371(P2006−161371)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】