説明

ジイモニウム塩の分散体の製造方法

【課題】可視領域の透明性と近赤外線吸収能の持続性が高い近赤外線吸収材を作製するのに有用な近赤外線吸収粘着剤組成物及びこの近赤外線吸収粘着剤組成物を作製しうるジイモニウム塩の分散体の製造方法の提供。
【解決手段】この製造方法は、ビーズミルを用いて溶媒(D)中にジイモニウム塩(A)を分散させうる。このジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法では、前記ビーズミルに用いられるビーズの平均粒子径は1mm未満である。このジイモニウム塩(A)の、この溶媒(D)に対する溶解度は、5質量%未満である。好ましくは、この製造方法では、上記ビーズの材質は、アルミナ、ジルコニア、鋼及びクロム鋼からなる群より選択される少なくとも1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線吸収粘着剤組成物に用いられるジイモニウム塩の分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型で大画面に適用できる液晶ディスプレーやPDP(Plasma Display Panel)等の薄型ディスプレーが注目されている。薄型ディスプレーは波長が800nm〜1100nmの近赤外線を発生させる。この近赤外線が家電用リモコンの誤作動を誘発することが問題となっている。また、CCDカメラ等に使用される光半導体素子も近赤外線領域の感度が高いため、近赤外線の除去が必要である。そこで、近赤外線の吸収能が高く、可視領域の透明性が高い近赤外線吸収材料が求められている。
【0003】
近赤外線を吸収する近赤外線吸収色素としては、従来、シアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素または無機酸化物粒子が使用されている。中でもジイモニウム系色素は近赤外線の吸収能が高く、可視光領域での透明性が高いことから多用されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
また、PDPは、パネル内部に封入された希ガス、特にネオンを主体としたガス中で放電を発生させ、その際に発生する真空紫外線により、パネル内部のセルに設けられたR、G、Bの蛍光体を発光させる。よって、この発光過程でPDPの作動に不必要な電磁波も同時に放出される。この電磁波も遮蔽されることが必要である。また、反射光を抑えるために反射防止フィルム、ぎらつき防止フィルム(アンチグレアフィルム)も必要である。このため、プラズマディスプレー用光学フィルターは、近赤外線吸収フィルム、電磁波遮蔽フィルム及び反射防止フィルムを、支持体であるガラスや衝撃吸収材の上に積層して作製されることが一般的である。このようなプラズマディスプレー用光学フィルターは、PDPの前面側に載置される。このようなプラズマディスプレー用光学フィルターは、接着剤や粘着剤を用いて、支持体であるガラスや衝撃吸収材の上に直接貼合わされて使用される場合もある。
【0005】
近年、光学フィルターの薄層化や、光学フィルターの製造工程の簡略化を目的として、粘着剤に近赤外線吸収色素を含有させて近赤外線吸収フィルムと粘着剤層とを一体化させる試みがなされている(特許文献3及び特許文献4)。さらに、近赤外線吸収色素を微粒子分散状態で含有させ、赤外光吸収膜の耐光性を向上させる試みもなされている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−96040号公報
【特許文献2】特開2000−80071号公報
【特許文献3】特許第3621322号
【特許文献4】国際公開WO2008/026786公報
【特許文献5】特許第3987240号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ジイモニウム系色素は耐久性が劣る場合があり、近赤外線の吸収能の低下や着色は、光半導体素子やディスプレー用途で使用する際の重大な問題となりうる。特に、粘着剤樹脂のようなガラス転移点(Tg)の低い樹脂中では色素の劣化が激しい。
【0008】
特開2005−325292号公報にはジイモニウムカチオンのアルキル基にハロゲン原子を導入することにより耐久性を向上させたジイモニウム色素が開示されている。確かにこのジイモニウム色素と高Tgバインダー樹脂を用いた近赤外線遮断フィルターでは、従来のジイモニウム色素と比較して耐久性の向上が見られる。しかし、劣化の激しい低Tgの粘着剤樹脂との組み合わせでは、その耐久性は不十分となりやすい。国際公開WO2008/026786公報では、ジイモニウム色素を適切に限定することにより、粘着剤組成物中における色素の耐久性が向上させている。
【0009】
前述したように、特許第3987240号では、近赤外線吸収色素を微粒子分散状態で含有させることで、赤外線吸収膜の耐光性が向上されている。しかし、近赤外線吸収色素としてのジイモニウム塩を、溶媒としての難溶性の有機溶剤に分散させることは容易ではない。本発明では、粘着剤樹脂中におけるジイモニウム色素の耐久性を向上させるために、ジイモニウム塩を溶媒に分散させうる技術を見いだした。
【0010】
本発明は、可視領域の透明性と近赤外線吸収能の持続性が高い近赤外線吸収材を作製するのに有用な近赤外線吸収粘着剤組成物及びこの近赤外線吸収粘着剤組成物を作製しうるジイモニウム塩の分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、粘着剤樹脂中におけるジイモニウム色素の耐久性の向上の観点から、ビーズミルを用いてジイモニウム塩を溶媒に分散させる方法について鋭意検討を行なった。その結果、ビーズミルに用いられるビーズの平均粒子径を適切なものとし、ジイモニウム塩の溶解度が適切な値を有する溶媒を用いた場合、色素の耐久性に優れた近赤外線吸収粘着剤組成物を作製しうるジイモニウム塩の分散体が得られることを見出した。
【0012】
本発明のジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法は、ビーズミルを用いて溶媒(D)中にジイモニウム塩(A)を分散させる。このジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法では、前記ビーズミルに用いられるビーズの平均粒子径は1mm未満である。このジイモニウム塩(A)の、この溶媒(D)に対する溶解度は、5質量%未満である。
【0013】
好ましくは、この製造方法では、上記ビーズの材質は、アルミナ、ジルコニア、鋼及びクロム鋼からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0014】
好ましくは、この製造方法では、上記ビーズミルはベッセル及び回転軸を備えている。上記ビーズの、このベッセルに対する充填率は、50%以上である。この製造方法は、上記ジイモニウム塩及び上記溶媒(D)をこのベッセルに投入して、この溶媒(D)中にこのジイモニウム塩(A)を分散させる。
【0015】
好ましくは、この製造方法では、上記ベッセルに投入された上記ジイモニウム塩(A)及び上記溶媒(D)において、このジイモニウム塩(A)の濃度は、2質量%以上である。
【0016】
好ましくは、この製造方法では、上記ジイモニウム塩(A)及び上記溶媒(D)を含むスラリーが上記ベッセルに投入される。
【0017】
好ましくは、この製造方法では、上記ビーズの材質はジルコニアである。このビーズのジルコニアの純度は、98質量%以上である。
【0018】
好ましくは、この製造方法では、上記ビーズの材質はアルミナである。このビーズのアルミナの純度は、99.5質量%以上である。
【0019】
好ましくは、この製造方法では、上記ジイモニウム塩(A)を上記溶媒(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液を調整し、この混合液を30分間超音波にかけた後、1時間以上静置し、その後、この混合液の上澄み液を光路長1mmのセルに入れて紫外可視分光光度計により350nm以上1500nm以下の範囲で測定された上記上澄み液のλmaxでの吸光度(X)は、0.5以下である。
【0020】
好ましくは、この製造方法では、上記溶媒(D)はトルエン、酢酸エチル及び酢酸ブチルからなる群より選択される少なくとも一つである。
【0021】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、上記いずれかの製造方法により得られた上記分散体を含む。
【0022】
好ましくは、この近赤外線吸収粘着剤組成物は、計算ガラス転移点が0℃以下である樹脂(B)をさらに含む。
【0023】
好ましくは、この近赤外線吸収粘着剤組成物では、上記樹脂(B)の酸価は0以上300以下である。
【0024】
好ましくは、この近赤外線吸収粘着剤組成物では、上記樹脂(B)の計算溶解度パラメーターは10.2以下である。
【0025】
本発明の保存方法は、上記いずれかの製造方法により得られた上記分散体又は上記いずれかの上記近赤外線吸収粘着剤組成物を40℃以下で保存する。
【発明の効果】
【0026】
本発明の製造方法で得たジイモニウム塩の分散体を用いた近赤外線吸収粘着剤組成物は、ジイモニウム色素の耐久性に優れる。この近赤外線吸収粘着剤組成物を使用した近赤外線吸収材料は、ジイモニウム色素の近赤外線吸収能が長期間に渡って維持されうる。よって、この近赤外線吸収粘着剤組成物を、光半導体素子や薄型ディスプレー用の光学フィルターの作製に使用すると、光学フィルターの薄層化や、光学フィルターの製造工程の簡略化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るジイモニウム塩の分散体の製造方法に用いられるビーズミルが示された模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下において、本発明の実施形態が説明される。
【0029】
1.ジイモニウム塩(ジイモニウム色素)A
本発明に用いられるジイモニウム塩(A)は、後述される方法で測定される上澄み液のλmaxでの吸光度(X)が0.5以下であるものが好ましい。
【0030】
ジイモニウム色素(A)のジイモニウムカチオンとして、下記式(1)で示されるジイモニウムカチオンが例示される。
【0031】
【化1】

【0032】
好ましいジイモニウム色素は、下記式(1S)で表されるように、上記式(1)で示されるジイモニウムカチオンと、ジイモニウムアニオンZとからなる。
【0033】
【化2】

【0034】
ただし、式(1)及び式(1S)中において、RからRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基または置換基を有するアルキル基を示す。式(1S)中において、Zはジイモニウムアニオンを示す。
【0035】
からRがアルキル基又は置換基を有するアルキル基である場合、そのアルキル基の炭素数は、RからRのそれぞれについて、1以上22以下が好ましく、2以上12以下がより好ましい。
【0036】
〜Rを構成するハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0037】
好ましいR〜Rとして、炭素数が1から10の直鎖、分岐状及び脂環式アルキル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、等が挙げられる。他の好ましいR〜Rとして、4,4,4−トリフルオロブチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基及びペルフルオロブチル基が挙げられる。R〜Rは全て同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。
【0038】
より好ましくは、R〜Rは、炭素数が3から5の直鎖又は分岐状のアルキル基である。更に好ましくは、R〜Rは、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−アミル基又はイソアミル基であり、n−ブチル基、イソブチル基又はイソアミル基が更に好ましく、イソブチル基が特に好ましい。
【0039】
また、R〜Rのアルキル基に結合しうる置換基としては、シアノ基;ヒドロキシル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基、メトキシブトキシ基、エトキシブトキシ基等の炭素数2〜8のアルコキシアルコキシ基;メトキシメトキシメトキシ基、メトキシメトキシエトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、エトキシエトキシエトキシ基等の炭素数3〜15のアルコキシアルコキシアルコキシ基;アリルオキシ基;フェノキシ基、トリルオキシ基、キシリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の炭素数6〜12のアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニル基;メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルキルカルボニルオキシ基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等の炭素数2〜7のアルコキシカルボニルオキシ基等がある。置換基が結合したアルキル基の好ましい例として、メトキシエチル基が挙げられる。即ち、R〜Rの好ましい一例として、メトキシエチル基が挙げられる。
【0040】
ジイモニウムアニオンは特に限定されない。好ましいジイモニウムアニオンは、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミドイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホン酸)メチドイオンなどである。より好ましいジイモニウムアニオンとして、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン[SbF]及びトリス(トリフルオロメタンスルホン酸)メチドイオン[(CFSO]が挙げられる。
【0041】
好ましい本発明のジイモニウム塩(A)は、ジイモニウムカチオン1個に対して、2個のアニオンが結合する形態である。
【0042】
ジイモニウム塩(A)として、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド酸−N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル)−p−フェニレンジイモニウム 及びヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウムが挙げられる。これらの製造方法は、後述の合成例により説明される。これらは、粘着剤組成物中における耐久性が高いので、特に好ましい。
【0043】
2.溶媒(D)
溶媒(D)は、本発明のジイモニウム塩の分散体の製造方法で用いられる。この溶媒(D)は、粘着剤組成物に含まれうる。この樹脂組成物において、溶媒(D)は揮発により消滅していてもよい。この溶媒(D)は、粘着剤組成物の粘度を調整するための希釈溶媒として用いられても良い。溶媒(D)により、粘着剤組成物の粘度が、基材等への塗布に適した粘度に調整される。この粘度により、粘着剤組成物層の厚みが調整されうる。
【0044】
溶媒(D)として、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。本発明では、ジイモニウム塩の耐久性の観点から、溶媒(D)は、トルエン、酢酸エチル及び酢酸ブチルが好ましい。
【0045】
3.吸光度(X)の測定
溶媒(D)は、ジイモニウム塩の上澄み液の上記吸光度(X)を測定する際にも用いられる。溶媒(D)としては、測定されるジイモニウム塩の溶解度(Y)が5質量%未満となるものが好ましい。この溶媒(D)としては、ジイモニウム塩の溶解度(Y)が0.01質量%未満となるものがより好ましい。この溶解度(Y)の測定の詳細については、後述される。この吸光度(X)の測定に用いられる溶媒(D)としては、トルエン、酢酸エチル、キシレン、酢酸ブチル及びメチルシクロヘキサンが例示される。トルエン、酢酸エチル及び酢酸ブチルが特に好ましい。
【0046】
[上澄み液の吸光度(X)の測定]
この吸光度(X)の測定では、ジイモニウム塩を溶媒(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液を調整し、この混合液を30分間超音波にかけた後、1時間以上静置した。その後、この混合液の上澄み液を光路長1mmのセルに入れて測定がなされる。光路長1mmのセルは、石英製である。測定は、紫外可視分光光度計により行われる。この紫外可視分光光度計として、島津製作所製のUV−3100が用いられる。測定範囲は、350nm以上1500nm以下とされる。λmaxは、測定された波長範囲において吸光度が最大となる波長を意味する。吸光度は、透過率をT(%)とするとき、下記式により求められる。
吸光度=−log(T/100)
【0047】
混合方法及び上澄み液の採取方法は、以下の通りである。先ず、ジイモニウム塩を溶媒(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液50ミリリットルが作製される。この混合に用いられる混合容器は、ねじ口瓶である。このねじ口瓶の外径は40mmであり、高さは75mmである。この混合容器において、上記50ミリリットルの混合液の液面(液の最上面)の高さは、50mmである。この混合液を超音波にかけ、更に1時間以上静置した後、液面(液の最上面)から5mmまでの部分の上澄み液が採取され、測定に用いられる。なお、好ましくは、1時間以上静置された後の上記混合液において、混合容器の底面には、溶解していないジイモニウム塩が沈んでいる。この測定において、溶媒(D)の温度は、25℃とされる。超音波の付与には、ブランソン(BRANSON)社製の卓上型超音波洗浄機(商品名「ブランソニック3510J−DTH」)が用いられる。この卓上型超音波洗浄機のタンクに水を張り、この水が張られたタンク内に上記混合容器を配置し、40000Hz以上(42kHz)の周波数でタンクを振動させて、上記混合容器中の混合液に超音波が付与される。
【0048】
本発明では、溶媒(D)に対する上記吸光度(X)が0.5以下である場合、後述する樹脂(B)中におけるジイモニウム塩の耐久性が向上しうることが確認されている。ジイモニウム塩の耐久性の観点から、吸光度(X)は、0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましく、0.25以下がより好ましい。ジイモニウム塩の耐久性の観点から、より好ましくは、溶媒(D)がトルエン、酢酸エチル及び酢酸ブチルのいずれかにおいて、吸光度(X)が0.5以下となるのが好ましく、0.3以下がより好ましく、0.25以下がより好ましく、0.15以下が更に好ましい。ジイモニウム塩の耐久性の観点から、更に好ましくは、溶媒(D)がトルエン、酢酸エチル及び酢酸ブチルのいずれであっても、吸光度(X)が0.5以下となるのが好ましく、0.3以下がより好ましく、0.25以下がより好ましい。
【0049】
4.溶解度(Y)の測定
本発明の製造方法で用いられる溶媒(D)に対する、ジイモニウム塩の溶解度(Y)は5質量%未満である。この製造方法で得た分散体を含む粘着剤組成物は、溶媒(D)と、この溶媒(D)に対する溶解度(Y)が5質量%未満であるジイモニウム塩とを含む。この溶媒(D)は、溶解度(Y)の測定にも用いられる。
【0050】
溶媒(D)は、用いられるジイモニウム塩によって種々選択されうる。この溶解度の測定に用いられる溶媒(D)としては、トルエン、酢酸エチル、キシレン、酢酸ブチル及びメチルシクロヘキサンが例示される。トルエン、酢酸エチル及び酢酸ブチルが特に好ましい。
【0051】
[溶解度(Y)の測定方法]
ジイモニウム塩の含有割合が0.01質量%、0.1質量%、1.0質量%、2.0質量%及び5.0質量%である5種類のサンプルを調整して、それぞれ超音波攪拌する。攪拌時間は30分以上とされ、溶媒の温度は25℃とされる。次に、各サンプルのそれぞれについて、残渣があるか否かを確認する。残渣は、ろ過後のろ紙上に残渣があるか否かを目視で観察することにより確認する。残渣の有無によって、溶解度(Y)が決定される。5.0質量%のサンプル(及び他のサンプル)に残渣が確認されなかった場合、「溶解度(Y)が5質量%以上である」と判断される。0.01質量%のサンプル(及び他のサンプル)に残渣が確認された場合、「溶解度(Y)が0.01質量%未満である」と判断される。0.1質量%のサンプルに残渣が確認され且つ0.01質量%のサンプルに残渣が確認されなかった場合、「溶解度(Y)が0.01質量%以上0.1質量%未満である」と判断される。
【0052】
5.分散体M(近赤外線吸収分散体)
本発明の製造方法では、ジイモニウム塩(A)を溶媒(D)に分散させた分散体(M)が得られる。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物には、この分散体(M)が混合される。この近赤外線吸収粘着剤組成物は、分散体(M)を含む。分散体(M)は、ジイモニウム塩(A)を溶媒(D)中に分散させた分散液である。即ち、分散体(M)は、ジイモニウム塩(A)を分散させた分散体である。分散体(M)は、溶媒(D)の他に、樹脂や分散剤等の他成分を含んでいてもよい。
【0053】
なお、本願において分散とは、0.001μm以上10μm以下(10−9m〜10−5m)程度の粒子が、分散媒(組成物)中に浮遊あるいは懸濁している状態を意味する。
【0054】
図1は、本発明の一実施形態に係る製造方法に用いられるビーズミル2が示された模式図である。この製造方法では、ビーズミル2を用いて、ジイモニウム塩(A)の分散体(M)が製造される。ビーズミル2は、ベース4、ベッセル6及び回転軸8を備えている。ベッセル6は、ベース4に取り付けられている。ベッセル6は、円筒状を呈している。ベッセル6は、投入口10と排出口12とを備えている。この投入口10及び排出口12それぞれは、ベッセル6の外側とその内側とを連通している。図示されていないが、この投入口10及び排出口12それぞれにはバルブが設けられている。このバルブは、必要に応じて開閉される。
【0055】
回転軸8は、シャフト14と、複数のブレード16とを備えている。シャフト14は、その一端の側において、回動可能にベース4に取り付けられている。図1において、一点鎖線RLで示されているのはこのシャフト14の軸線である。回転軸8は、この軸線RLを中心に回転しうる。これらブレード16は、回転軸8の長さ方向に間隔を空けて配置されている。各ブレード16は、シャフト14から半径方向外向きに拡がるプレート状を呈している。このビーズミル2では、回転軸8のうち、ブレード16が設けられている部分がベッセル6の内部に位置している。
【0056】
本発明の製造方法では、ビーズミル2には市販されている公知のものを用いることができる。このビーズミル2としては、三井鉱山社製の商品名「MSC−Mill」、「SC−Mill」、「アトライタ」及び「マイミル」、シンマルエンタープライゼス社製の商品名「DYNO−Mill」並びに浅田鉄工社製の商品名「バスケットミル」、寿工業社製の商品名「ウルトラアペックスミル」並びにアジサワ・ファインテック社製の商品名「スターミル」が例示される。
【0057】
この製造方法では、ジイモニウム塩(A)は溶媒(D)と混合される。この混合により、スラリーが得られる。図示されていないが、この混合には、公知の混合機が用いられる。
【0058】
この製造方法では、ジイモニウム塩(A)の分散体の製造工程の効率化の観点から、スラリーにおける、ジイモニウム塩の濃度は2質量%以上が好ましい。ジイモニウム塩(A)の分散体(M)を安定に製造しうるという観点から、この濃度は20質量%以下が好ましい。なお、このジイモニウム塩の濃度は、ジイモニウム塩の質量と溶媒(D)の質量との和に対する、このジイモニウム塩の質量の比率で示される。
【0059】
混合工程で得たスラリーは、ビーズミル2のベッセル6に移送される。図示されていないが、この移送には、公知のポンプが用いられる。スラリーは、ベッセル6の投入口10を通じてその内部に投入される。なお、この製造方法では、ジイモニウム塩(A)及び溶媒(D)が、混合されることなくこの投入口10からこのベッセル6に投入されてもよい。
【0060】
このビーズミル2では、ベッセル6の内部には多数のビーズ18が充填される。回転軸8が回転すると、これらビーズ18が動き、スラリーに含まれるジイモニウム塩(A)と衝突する。この衝突により、ジイモニウム塩(A)が粉砕等され微細化される。微細化されたジイモニウム塩(A)は、溶媒(D)中に分散しうる。
【0061】
スラリーは、ベッセル6と回転軸8との間を投入口10から排出口12に向かって移送され、排出口12から排出される。図示されていないが、このスラリーは、遠心分離機、スクリーン等を用いてビーズ18と分離され、ホールディングタンクに移送される。ホールディングタンクに移送されたスラリーは、ベッセル6に移送される。スラリーは、ホールディングタンク及びベッセル6を循環している。この循環により、ジイモニウム塩(A)は粉砕等され微細化される。微細化されたジイモニウム塩(A)は、溶媒(D)中に分散しうる。このようにして、ジイモニウム塩(A)の分散体(M)が得られる。
【0062】
前述したように、ジイモニウム塩(A)の、溶媒(D)に対する溶解度は5質量%未満である。ジイモニウム塩(A)は、溶媒(D)に対して難溶性である。この製造方法では、ビーズミル2を用いてジイモニウム塩(A)が微細化されるので、ジイモニウム塩(A)は溶剤(D)に溶解することなく、分散しうる。この製造方法では、ジイモニウム塩(A)が溶媒(D)に分散した、分散体が得られる。この分散体は、透明性を維持しつつ、色素の耐久性に優れた近赤外線吸収粘着剤組成物の作製に寄与しうる。この観点から、この溶解度は0.1質量%未満が好ましい。
【0063】
前述したように、この製造方法では、上記溶解度以外に、上記吸光度も適切に制御される。この吸光度の制御により、ジイモニウム塩(A)の溶媒(D)に対する難溶性が適切に調節される。このジイモニウム塩(A)の溶媒(D)に対する難溶性とビーズミル2によるジイモニウム塩(A)の微細化との相乗効果により、ジイモニウム塩(A)が溶剤(D)に溶解することなく、効果的に分散しうる。この製造方法では、ジイモニウム塩(A)が溶媒(D)に分散した分散体が得られる。この分散体は、透明性を維持しつつ、色素の耐久性に優れた近赤外線吸収粘着剤組成物の作製に寄与しうる。
【0064】
この製造方法では、ビーズ18の平均粒子径は1mm未満である。平均粒子径が1mm未満に設定されることにより、このジイモニウム塩(A)が溶媒(D)中に分散した分散体(M)が得られる。この観点から、この平均粒子径は0.8mm以下がより好ましく、0.6mm以下がさらに好ましく、0.3mm以下が特に好ましい。このビーズ18の平均粒子径は、0.01mm以上が好ましい。この平均粒子径が0.01mm以上に設定されることにより、ビーズ18の運動量が適切に維持され、ジイモニウム塩(A)の微細化が効果的に促される。さらに、微細なビーズ18は非常に高価なため、コストパフォーマンスも見合わない。この観点から、この平均粒子径は0.02mm以上がより好ましく、0.03mm以上がさらに好ましく、0.1mm以上が特に好ましい。
【0065】
この製造方法では、好ましくは、ビーズ18の材質はアルミナ、ジルコニア、鋼及びクロム鋼からなる群より選択される少なくとも1種である。このビーズ18は、ジイモニウム塩(A)の微細化に寄与しうる。この製造方法では、この製造方法では、ジイモニウム塩(A)が溶媒(D)に分散した分散体が得られる。この分散体は、透明性を維持しつつ、色素の耐久性に優れた近赤外線吸収粘着剤組成物を作製しうる。
【0066】
強度及び耐摩耗性の観点から、ビーズ18の材質としてはアルミナ又はジルコニアが好ましい。このビーズ18は、分散体に含まれる不純物の低減に寄与しうる。このビーズ18は、分散体の品質を向上しうる。このビーズ18の材質として、アルミナが選定される場合、充分な強度を有するという観点から、このビーズ18に含まれるアルミナ(Al)の純度は、99.5質量%以上が好ましい。純度が99.5質量%以上であれば特に限定されないが、その材質がアルミナであるビーズ18としては、比良セラミックス社製の商品名「高純度アルミナAL9」及び大明化学社製の商品名「高純度アルミナビーズ」が例示される。このビーズ18の材質として、ジルコニアが選定される場合、充分な強度を有するという観点から、このビーズ18に含まれるジルコニア(ZrO)の純度は、98質量%以上が好ましい。その材質がジルコニアであるビーズ18としては、ニッカトー社製の商品名「YTZボール」が例示される。その材質がアルミナであるビーズ18と、その材質がジルコニアであるビーズ18とが、併用されてもよい。
【0067】
この製造方法では、ビーズ18の、ベッセル6に対する充填率は、50%以上が好ましい。この充填率が50%以上に設定されることにより、ジイモニウム塩(A)とビーズ18との接触頻度が適切に維持され、ジイモニウム塩(A)の微細化が効果的に促される。この製造方法では、ジイモニウム塩(A)が分散した分散体(M)が得られる。この観点から、この充填率は55%以上がより好ましく、60%以上が特に好ましい。ビーズの運動エネルギーを適切に維持し、ジイモニウム塩(A)の粒度分布の拡大及びその表面の荒れを抑え、良好な分散安定性が維持されるという観点から、この充填率は85%以下が好ましい。なお、このビーズ18の充填率は、ベッセル6の内部の空間部分の容積に対する、充填したビーズ18の総体積の比率で表される。ベッセル6の内部の空間部分の容積は、ベッセル6の内部容積と回転軸8の体積との差で示される。ビーズ18の総体積は、ベッセル6内に充填したビーズ18の質量に、このビーズ18の比重で除することにより得られる。
【0068】
近赤外線吸収能の劣化抑制及びジイモニウム色素の変質抑制の観点から、保存中における上記分散体(M)の温度T1は、40℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がさらに好ましく、0℃以下が特に好ましい。保存コストの観点から、上記温度T1は、−30℃以上が好ましく、−20℃以上がより好ましい。
【0069】
好ましくは、分散体(M)は、例えば、保存用中空体に入れられ保存される。典型的な保存用中空体は、密封可能な容器である。この保存用中空体の材質は、限定されない。好ましくは、上記保存用中空体は、その内面が非金属又はステンレス鋼であるのがよい。上記保存用中空体の例として、缶、プラスチックドラム、ポリタンク等の樹脂製容器及びガラス容器が挙げられる。缶として、ペール缶、ドラム缶等が挙げられる。他の缶として、日本で「一斗缶」と称されている、内容量が約18リットルの缶や、更に小さい容積を有する缶が例示される。この保存用中空体の内容積は、限定されない。また、本発明において、保存時間は限定されない。
【0070】
上記保存用中空体の他の例として、複合容器が挙げられる。この複合容器は、外部容器と、この外部容器に収容されている内部容器とを有する。ジイモニウム色素含有組成物は、内部容器に入れられる。複合容器の一例として、外部容器が鋼製であり、内部容器がプラスチック製である容器が例示される。
【0071】
上記保存用中空体の他の例として、工場等で設置される釜やタンクが例示される。この釜として、反応釜及びブレンダー釜が例示される。短時間の貯留であっても、本発明における「保存」に該当する。
【0072】
いったん分散体(M)が作製された後、この分散体(M)を後述の樹脂(B)と混合することにより、近赤外線吸収粘着剤組成物中におけるジイモニウム塩の分散状態がさらに改善される。この理由は、樹脂(B)が分散剤として寄与しているためであると考えられる。なお、上記分散体(M)には、種々の添加剤が加えられてもよい。この添加剤として、アニオン性、カチオン性又はノニオン性の界面活性剤や高分子系分散剤などが挙げられる。
【0073】
6.樹脂(B)
樹脂(B)は、ガラス転移温度が0℃以下のものであれば特に限定されない。樹脂(B)は、粘着性を有している。この粘着性は、近赤外線吸収粘着剤組成物と被着体との直接的な接着を可能とする。接着剤を介在させることなく、近赤外線吸収粘着剤組成物と被着体とが接着されうる。本願において、この樹脂(B)を粘着剤樹脂ともいう。
【0074】
6−1.ガラス転移温度
被着体への粘着性を付与する観点から、粘着剤樹脂(B)のガラス転移温度は、0℃以下が好ましく、−10℃以下がより好ましく、−20℃以下がより好ましく、さらに好ましくは−30℃以下である。0℃よりも高い場合、粘着性が不足することがある。ガラス転移温度は示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter)や動的粘弾性測定により損失正接(tanδ)の極大値温度を求めることでも得られるが、本願にいうガラス転移温度は、下記のFoxの式により求められる計算ガラス転移温度を意味する。樹脂(B)の重合に使用される単量体は、下記式で表されるFoxの式を用いて計算された計算ガラス転移温度Tgが所定の値を満足していれば特に限定されない。
1/(Tg+273)=Σ[Wi/(Tgi+273)] : Foxの式
Tg(℃) : 計算ガラス転移温度
Wi : 各単量体の重量分率
Tgi(℃) : 各単量体成分の単独重合体のガラス転移温度
【0075】
6−2.酸価
樹脂(B)には、被着体との密着性向上および粘着力アップを目的として、アクリル酸等のカルボキシル基含有単量体が共重合されるのが一般的である。ただし、カルボキシル基等の官能基はジイモニウム色素を劣化させるため、樹脂(B)の酸価は300以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下が更に好ましい。ジイモニウム塩の耐久性の観点から、樹脂(B)の酸価は、0以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。「酸価」とは、樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg量を言う。酸価の測定方法の詳細は、後述される。
【0076】
例えば、後述される透明基材がガラスである場合、ガラス表面(ガラスと近赤外線吸収粘着剤組成物層との界面)では、次の(反応1)が起こっていると推測されている。ガラス中のNaイオンは拡散によってガラス表面に出てくると考えられている。このNaイオンは、近赤外線吸収粘着剤組成物中に存在するHO(又は粘着剤組成物の塗布前にガラス表面に付着していたHO)と反応し、NaOHが生成すると考えられる。
(反応1)Na+ HO → NaOH + H(ガラス内部へ)
【0077】
このNaOHは、ジイモニウム塩を劣化させる。樹脂(B)にカルボキシル基が存在する場合、このカルボキシル基がNaをトラップする。このトラップにより、NaOHの生成が抑制され、ジイモニウム塩の劣化が抑制されると考えられる。特に、耐湿熱性の評価では、HOが多く存在するため、上記反応1が起こりやすい。よって、特に耐湿熱性の観点からは、上記酸価は大きいほうが好ましく、具体的には、前述のように、0以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。
【0078】
一方、樹脂(B)の酸価が過度に高い場合、樹脂(B)に対するジイモニウム塩の溶解度が増加し、会合体(X)が減少しやすい。よって、特に高温での耐久性を評価する耐熱性の観点からは、上記酸価は小さいほうが好ましく、具体的には、前述のように、300以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下が更に好ましい。
【0079】
6−3.計算溶解性パラメータ
樹脂(B)の計算溶解性パラメータが高い場合にはジイモニウム色素の耐久性が劣る場合があるため、溶解性パラメータは10.2以下であることが好ましい。計算溶解性パラメータは、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE」(1974年、Vol.14、No.2)の147ページから154ページ記載の方法によって計算される値である。以下にその方法を概説する。
【0080】
単独重合体の溶解性パラメータ(δ)は、該重合体を形成している構成単位の蒸発エネルギー(△ei)及びモル体積(△vi)に基づいて、下式の計算法により算出される。
δ=(Σ△ei/Σ△vi)1/2
△ei: i成分の原子または原子団の蒸発エネルギー
△vi: i成分の原子または原子団のモル体積
【0081】
共重合体の溶解性パラメータは、その共重合体を構成する各構成単量体の蒸発エネルギーにモル分率を乗じて合算したもの(Σ△Ei)を、各構成単量体のモル体積にモル分率を乗じて合算したもの(Σ△Vi)で割り、1/2乗をとることで算出される。
【0082】
6−4.共重合体組成
樹脂(B)は、共重合体でもよい。樹脂(B)は、水酸基を含有する(メタ)アクリル酸エステルと他の化合物との共重合体であるのが好ましい。更には、ジイモニウム色素の耐久性の観点から、樹脂(B)は、脂環式、多環性脂環式、芳香環式または多環性芳香環式のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルが5〜40質量%共重合された共重合体であるのが好ましい。ジイモニウム色素の耐久性が向上する理由は不明であるが、これら脂環式、多環性脂環式、芳香環式、多環性芳香環式のアルキル基部分とジイモニウム色素がスタッキング構造を採ることにより、耐熱性や耐湿熱性を向上させるものと考えられる。
【0083】
好ましくは、前記樹脂(B)が、下記単量体(p1)〜(p3)を共重合してなる樹脂である。
(p1)炭素数が1以上12以下であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル
(p2)官能基含有モノマー
(p3)その他共重合可能な単量体
【0084】
単量体の好ましい比率は、(p1)の(メタ)アクリル酸エステルが60質量%以上99.9質量%以下であり、(p2)の官能基含有モノマーが0.1質量%以上20質量%以下であり、(p3)の他の共重合可能な単量体が0質量%以上30質量%以下である。より好ましくは、(p2)の官能基含有モノマーの比率は、0.1質量%以上10質量%以下である。
【0085】
ジイモニウム色素の耐久性の観点から、より好ましくは、上記単量体(p1)におけるアルキル基は、直鎖型、分岐型及び脂環式のアルキル基である。
【0086】
上記(p1)の(メタ)アクリル酸エステルの例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0087】
上記(p2)の官能基含有モノマーとして、水酸基もしくはカルボキシル基含有モノマーが好ましく、水酸基もしくはカルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーがより好ましい。ジイモニウム色素の耐久性の観点から、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーが好ましい。カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーのカルボキシル基は架橋点となる。よって、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーの配合量により、粘着性の調整が可能である。また、別の理由により、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーのカルボキシル基は、耐久性の向上に寄与していると考えられる。この理由の詳細は、前述の通りである。
【0088】
カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーとして、アクリル酸及びメタクリル酸が好適に用いられる。
【0089】
水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの例として、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの水酸基は、架橋点となりうる。よって、水酸基含有(メタ)アクリルモノマーは、粘着物性の調整に寄与する。上記(p2)が水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの場合、この水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの比率は、モノマー全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0090】
上記(p3)の、他の共重合可能な単量体として、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシー3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。他に、上記(p3)の例として、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;α−メチルスチレン、ビニルトルエン、スチレンなどに代表されるスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどに代表されるビニルエーテル系単量体;フマル酸;フマル酸のモノアルキルエステル;フマル酸のジアルキルエステル;マレイン酸;マレイン酸のモノアルキルエステル;マレイン酸のジアルキルエステル;イタコン酸;イタコン酸のモノアルキルエステル;イタコン酸のジアルキルエステル;(メタ)アクリロニトリル;塩化ビニル;塩化ビニリデン;酢酸ビニル;ビニルケトン;ビニルピリジン;ビニルカルバゾールなどを挙げることができる。また、カルボキシル基、オキサゾリニル基、ピロリドニル基、フルオロアルキル基等の官能基を有する単量体も、本発明の目的を損なわない範囲で共重合してもよい。
【0091】
より好ましい樹脂(B)は、下記(M)〜(m4)を共重合してなる樹脂である。
(M)脂環式、多環性脂環式、芳香環式または多環性芳香環式のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル。
(m2)アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル。ただし、このアルキル基は、直鎖型または分岐型であり、このアルキル基の炭素数は1以上10以下である。
(m3)官能基含有モノマー
(m4)その他共重合可能な単量体。
【0092】
共重合体の樹脂(B)において、単量体の好ましい比率は、(M)の(メタ)アクリル酸エステルが5質量%以上40質量%以下であり、(m2)の(メタ)アクリル酸エステルが60質量%以上95質量%以下であり、(m3)の官能基含有モノマーが0.1質量%以上20質量%以下であり、(m4)のその他の単量体が0質量%以上20質量%以下である。
【0093】
上記(M)の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシー3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0094】
上記(m2)の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0095】
上記(m3)の官能基含有モノマーとして、水酸基もしくはカルボキシル基含有モノマーが好ましく、水酸基もしくはカルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーがより好ましい。ジイモニウム色素の耐久性の観点から、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーが好ましい。カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーのカルボキシル基は架橋点となる。よって、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーの配合量により、粘着性の調整が可能である。また、別の理由により、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーのカルボキシル基は、耐久性の向上に寄与していると考えられる。この理由の詳細は、前述の通りである。
【0096】
カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーとして、アクリル酸及びメタクリル酸が好適に用いられる。
【0097】
水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの例として、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの水酸基は、架橋点となりうる。よって、水酸基含有(メタ)アクリルモノマーは、粘着物性の調整に寄与する。上記(m3)が水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの場合、この水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの比率は、モノマー全量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0098】
上記(m4)の単量体の例としては、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;α−メチルスチレン、ビニルトルエン、スチレンなどに代表されるスチレン系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテルなどに代表されるビニルエーテル系単量体;フマル酸;フマル酸のモノアルキルエステル;フマル酸のジアルキルエステル;マレイン酸;マレイン酸のモノアルキルエステル;マレイン酸のジアルキルエステル;イタコン酸;イタコン酸のモノアルキルエステル;イタコン酸のジアルキルエステル;(メタ)アクリロニトリル;塩化ビニル;塩化ビニリデン;酢酸ビニル;ビニルケトン;ビニルピリジン;ビニルカルバゾールなどを挙げることができる。
【0099】
樹脂(B)の重合に使用される開始剤として、過酸化物系、アゾ系等、市販のものが使用できる。過酸化物系の開始剤としては、パーブチルO、パーヘキシルO(いずれも日本油脂製)などのパーオキシエステル系;パーロイルL、パーロイルO(いずれも日本油脂製)などのパーオキシジカーボネート系;ナイパーBW、ナイパーBMT(いずれも日本油脂製)などのジアシルパーオキサイド系;パーヘキサ3M、パーヘキサMC(いずれも日本油脂製)などのパーオキシケタール系;パーブチルP、パークミルD(いずれも日本油脂製)などのジアルキルパーオキサイド系;パークミルP、パーメンタH(いずれも日本油脂製)などのハイドロパーオキサイド系等が挙げられる。アゾ系の開始剤としてはABN−E、ABN−R、ABN−V(いずれも日本ヒドラジン工業製)等が挙げられる。
【0100】
樹脂(B)の重合の際には必要に応じて連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤は特に制約されず、ノルマルドデシルメルカプタン、ジチオグリコール、チオグリコール酸オクチル、メルカプトエタノール等のチオール化合物等が使用できる。
【0101】
また、樹脂(B)の重合は無溶剤で行ってもよいし、有機溶剤中で行ってもよい。有機溶剤中で重合する際には、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;その他の公知の有機溶剤が使用できる。使用する有機溶剤の種類は得られる樹脂の溶解性、重合温度を考慮して決められるが、乾燥時の残存溶剤の残りにくさの点からトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の沸点が120℃以下の有機溶剤が好ましい。また、ジイモニウム色素の耐久性の観点から、ジイモニウム色素の溶解度(Y)が5質量%未満の有機溶剤が好ましく、溶解度(Y)が0.01質量%未満の有機溶剤がより好ましい。
【0102】
また、樹脂(B)は単一の組成からなるものでもよいし、異なる組成のポリマーを複合化したポリマーアロイやポリマーブレンドであってもよい。
【0103】
分岐型の樹脂を得るためにはマクロモノマー、多官能モノマー、多官能開始剤、多官能連鎖移動剤が使用できる。マクロモノマーとしては、AA−6、AA−2、AS−6、AB−6、AK−5(いずれも東亜合成製)等が使用できる。多官能モノマーとしては、ライトエスエルEG、ライトエスエル1,4BG、ライトエステルNP、ライトエステルTMP(いずれも共栄社化学製)等が挙げられる。多官能開始剤としては、パーテトラA、BTTB−50(いずれも日本油脂製)、トリゴノックス17−40MB、パーカドックス12−XL25(いずれも火薬アクゾ製)等が挙げられる。多官能連鎖移動剤としてはペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等が使用できる。
【0104】
近赤外線吸収粘着剤組成物は、架橋剤(C)を含むことができる。この場合、架橋剤(C)を溶媒(Sm)に溶解させたものを樹脂(B)に混合させてもよい。この溶媒(Sm)は、用いられるジイモニウム塩によって適宜選択されうる。この溶媒(Sm)としては、トルエン、酢酸エチル、キシレン、酢酸ブチル及びメチルシクロヘキサンが例示される。ジイモニウム塩の耐久性の観点から、トルエン、酢酸エチル及び酢酸ブチルが特に好ましい。この溶媒(Sm)に、上記溶媒(D)と同じものが用いられてもよい。この溶媒(Sm)に、上記溶媒(D)とは異なるものが用いられてもよい。
【0105】
7.架橋剤(C)
架橋剤(C)は、粘着剤組成物に含まれる樹脂(B)を架橋しうるものであれば特に限定されない。この架橋剤(C)としては、樹脂(B)が含む反応性官能基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する化合物が好ましい。この樹脂(B)が含む反応性官能基としては、前述の、水酸基及びカルボキシル基が例示される。
【0106】
樹脂(B)が反応性官能基としての水酸基を含むアクリル系重合体である場合、架橋剤(C)はイソシアネート化合物が好ましい。この樹脂(B)がカルボキシル基を含むアクリル系重合体であ場合、架橋剤(C)はイソシアネート化合物及び/又はエポキシ化合物が好ましい。反応性の観点から、水酸基を含む樹脂(B)と、イソシアネート化合物との組み合わせがより好ましい。
【0107】
イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物;「スミジュールN」(住友バイエルウレタン社製;スミジュールは登録商標)等のビュレットポリイソシアネート化合物;「デスモジュールIL」、「デスモジュールHL」(いずれもバイエルA.G.社製;デスモジュールは登録商標)、「コロネートEH」(日本ポリウレタン工業社製;コロネートは登録商標)等として知られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物;「スミジュールL」(住友バイエルウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物;「コロネートL」および「コロネートL−55E」(いずれも日本ポリウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物;「デュラネートD201」(旭化成社製;デュラネートは登録商標)等のポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。これらは、単独で使用し得るほか、2種以上を併用することもできる。また、これらの化合物のイソシアネート基を活性水素を有するマスク剤と反応させて不活性化したいわゆるブロックイソシアネートも使用可能である。
【0108】
エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン等が挙げられる。
【0109】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物では、架橋剤の配合量は架橋剤の種類及び用途によって適宜選択することができる。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を10〜30μmの薄膜として使用する場合、配合量は、樹脂の固形分に対して、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜7質量%である。例えば、架橋剤としてアダクトポリイソシアネート化合物(例えば、「コロネートL−55E」(日本ポリウレタン社製))を使用する場合、この架橋剤の配合量は、樹脂の固形分に対して、好ましくは0.02〜20質量%であり、より好ましくは0.05〜10質量%である。0.02質量%未満であると、粘着力が高すぎて取り扱いが困難となるため、加工性が損なわれてしまう。20質量%を超えると、添加に見合う効果が得られず経済的でない上、粘着力が低下することが懸念される。
【0110】
8.近赤外線吸収粘着剤組成物
近赤外線吸収粘着剤組成物は、本発明の製造方法で得られたジイモニウム塩(A)の分散体を含んでいる。しかも、上記吸光度(X)又は上記溶解度(Y)が考慮されたジイモニウム色素が用いられている。ジイモニウム塩(A)が溶剤(D)に溶解することなく、効果的に分散しているので、、この近赤外線吸収粘着剤組成物は、近赤外線吸収能の持続性に優れる。また、この近赤外線吸収粘着剤組成物は、可視領域の透明性に優れる。近赤外線吸収粘着剤組成物は、粘着性を有する樹脂を含有するので、被着体に対して容易に接着されうる。溶解性パラメータが考慮された樹脂は、近赤外線吸収能の持続性及び可視流域の透明性に寄与しうる。
【0111】
近赤外線吸収粘着剤組成物には、他の近赤外線吸収色素が添加されてもよい。併用されうる他の近赤外線吸収色素としては、公知のシアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素、無機酸化物粒子等が挙げられる。
【0112】
好ましい他の色素(ジイモニウム色素以外の色素)は、上記ジイモニウム色素に対してクエンチャー効果を奏しうる色素である。クエンチャー効果とは、励起状態にある活性分子を脱励起させる効果である。本発明の場合、ジイモニウム色素分子、ジイモニウムアニオン又はジイモニウムカチオンを脱励起して安定化させる効果を有する他の色素が好ましい。クエンチャー効果の観点から、この他の色素として、フタロシアニン系色素が好ましく、中心金属がバナジウムであるフタロシアニン色素が特に好ましい。
【0113】
近赤外線吸収粘着剤組成物を薄型ディスプレイ用光学フィルターとして使用する場合には、上記のジイモニウム色素とともに最大吸収波長が800〜950nmのフタロシアニン系色素、最大吸収波長が800〜950nmのシアニン系色素または最大吸収波長が800〜950nmの金属ジチオール錯体系色素が併用されるのが好ましい。この併用により、800〜1100nmの近赤外線が効果的に吸収されうる。耐久性の良好な近赤外線吸収粘着剤組成物を得る観点から、フタロシアニン色素が併用されるのが特に好ましい。
【0114】
使用可能なフタロシアニン系化合物としては、近赤外線吸収能に優れるものであれば特に制限されず、公知のフタロシアニン系化合物が使用できる。好ましいフタロシアニン系化合物として、下記式(ア)で表される化合物、または下記式(イ)で表される化合物が挙げられる。
【0115】
[式(ア)で示されるフタロシアニン系化合物]

【化3】

【0116】
上記式(ア)において、AからA16は官能基を表す。上記式(ア)において、AからA16は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ヒドロキシスルホニル基、カルボキシル基、チオール基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルスルホニル基、置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアラルキルオキシカルボニル基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基、置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基または置換されていてもよいアミノカルボニル基を表す。AからA16の官能基は同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていてもよく、官能基同士が連結基を介して繋がっていても良い。Mは2個の水素原子、2価の金属原子、3価の置換金属原子、4価の置換金属原子またはオキシ金属を表す。なお、本明細書において、「アシル基」とは、日刊工業新聞社発行の第三版科学技術用語大辞典の17頁に記載される定義と同様であり、具体的には、有機酸からヒドロキシル基が除去された基であり、式:RCO−(Rは、脂肪基、脂環基または芳香族基である)で表される基である。
【0117】
(末端がアミノ基以外の官能基の場合)
上記式(ア)において、官能基AからA16のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、iso−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、等の直鎖、分岐又は環状のアルコキシ基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ジフェニルメチルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、iso−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、iso−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルチオ基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数6〜20個のアリールチオ基としては、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアラルキルチオ基としては、ベンジルチオ基、フェネチルチオ基、ジフェニルメチルチオ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、n−プロピルスルホニル基、iso−プロピルスルホニル基、n−ブチルスルホニル基、iso−ブチルスルホニル基、sec−ブチルスルホニル基、t−ブチルスルホニル基、n−ペンチルスルホニル基、n−ヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、n−ヘプチルスルホニル基、n−オクチルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、等の直鎖、分岐又は環状のアルキルスルホニル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていても良い炭素原子数6〜20個のアリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよいアラルキルスルホニル基としては、ベンジルスルホニル基、フェネチルスルホニル基、ジフェニルメチルスルホニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数1〜20個のアシル基としてはメチルカルボニル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基、ベンジルカルボニル基、フェニルカルボニル基等のアリールカルボニル基、ベンゾイル基等のアラルキルカルボニル基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロピルオキシカルボニル基、iso−プロピルオキシカルボニル基、n−ブチルオキシカルボニル基、iso−ブチルオキシカルボニル基、sec−ブチルオキシカルボニル基、t−ブチルオキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、n−オクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールオキシカルボニル基としては、フェノキシカルボニル、ナフチルカルボニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基、ジフェニルメチルオキシカルボニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個のアルキルカルボニルオキシ基としては、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基、iso−プロピルカルボニルオキシ基、n−ブチルカルボニルオキシ基、iso−ブチルカルボニルオキシ基、sec−ブチルカルボニルオキシ基、t−ブチルカルボニルオキシ基、n−ペンチルカルボニルオキシ基、n−ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、n−ヘプチルカルボニルオキシ基、3−ヘプチルカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数7〜20個のアリールカルボニルオキシ基としては、ベンゾイルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数8〜20個のアラルキルカルボニルオキシ基としては、ベンジルカルボニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。置換されていてもよい炭素原子数2〜20個の複素環基としては、ピロール基、イミダゾール基、ピペリジン基、モルホリン基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0118】
また、上記式(ア)において、官能基AからA16のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アラルキル基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アラルキルスルホニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アラルキルカルボニルオキシ基または複素環基が置換されている場合、これらの官能基AからA16に存在する置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0119】
(末端がアミノ基である官能基の場合)
上記式(ア)において、官能基AからA16の置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基、置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基としては、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;アセチル基、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、iso−プロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、iso−ブチルカルボニル基、sec−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基、n−ペンチルカルボニル基、n−ヘキシルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、n−ヘプチルカルボニル基、3−ヘプチルカルボニル基、n−オクチルカルボニル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキルカルボニル基;ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基等のアリールカルボニル基;ベンジルカルボニル基等のアラルキルカルボニル基などが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、これらの置換基はさらに置換基で置換されていても良い。これらの置換基は0個、1個または2個存在していてもよく、2個存在する場合にはお互いが同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基が2個の場合、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0120】
上記置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアミノスルホニル基または置換されていてもよいアミノカルボニル基への置換基であるアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アラルキルカルボニル基などに更に存在しても良い置換基として、例えば、ハロゲン原子、アシル基、アルキル基、フェニル基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アルコキシ基、ニトロ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルキルチオ基、カルバモイル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、複素環基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの置換基は複数個存在していてもよく、複数個存在する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていても良い。また、置換基同士が連結基を介して繋がっていてもよい。
【0121】
また、金属Mとしての2価の金属の例としては、Cu(II)、Co(II)、Zn(II)、Fe(II)、Ni(II)、Ru(II)、Rh(II)、Pd(II)、Pt(II)、Mn(II)、Mg(II)、Ti(II)、Be(II)、Ca(II)、Ba(II)、Cd(II)、Hg(II)、Pb(II)、Sn(II)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。3価の置換金属原子の例としては、Al−F、Al−Cl、Al−Br、Al−I、Fe−Cl、Ga−F、Ga−Cl、Ga−I、Ga−Br、In−F、In−Cl、In−Br、In−I、Tl−F、Tl−Cl、Tl−Br、Tl−I、Al−C、Al−C(CH)、In−C、In−C(CH)、In−C、Mn(OH)、Mn(OC)、Mn〔OSi(CH〕、Ru−Cl等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。4価の置換金属原子の例としては、CrCl、SiF、SiCl、SiBr、SiI、ZrCl、GeF、GeCl、GeBr、GeI、SnF、SnCl、SnBr、TiF、TiCl、TiBr、Ge(OH)、Mn(OH)、Si(OH)、Sn(OH)、Zr(OH)、Cr(R、Ge(R、Si(R、Sn(R、Ti(R{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基またはそれらの誘導体を表す}Cr(OR、Ge(OR、Si(OR、Sn(OR、Ti(OR、{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基、トリアルキルシリル基、ジアルキルアルコキシシリル基またはそれらの誘導体を表す}、Sn(SR、Ge(SR{Rは、アルキル基、フェニル基、ナフチル基またはそれらの誘導体を表す}などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。オキシ金属の例としては、VO、MnO、TiOなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0122】
[式(イ)で示されるフタロシアニン系化合物]

【化4】

【0123】
上記式(イ)において、BからB24は官能基を表す。BからB24のそれぞれは、上記式(ア)においてAからA16で示された官能基のいずれかである。BからB24の官能基は同種若しくは異種のいずれであってもよく、同種の場合においても同一若しくは異なっていてもよく、官能基同士が連結基を介して繋がっていても良い。
【0124】
上記式(イ)において、Mは2個の水素原子、2価の金属原子、3価の置換金属原子、4価の置換金属原子またはオキシ金属を表す。Mの例は、上記式(ア)におけるMの例と同じであるが、これらに限定されない。
【0125】
具体的なフタロシアニン系化合物として、商品名イーエクスカラーIR−10A、イーエクスカラーIR−12、イーエクスカラーIR−14、イーエクスカラーIR−906、イーエクスカラーIR−910、TX−EX−820及びTX−EX−915(いずれも日本触媒製)が挙げられる。
【0126】
また、近赤外線吸収粘着剤組成物には近赤外線吸収色素としてシアニン系色素が併用されてもよい。シアニン系色素は近赤外線吸収能に優れるものであれば特に制限されないが、インドリウム系カチオンまたはベンゾチアゾリウム系カチオンと、対アニオンからなる塩が好ましく使用できる。インドリウム系カチオンまたはベンゾチアゾリウム系カチオンとしては、上記式(a)〜(i)で示されるカチオンが好ましく使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0127】
【化5】

【0128】
【化6】

【0129】
【化7】

【0130】
【化8】

【0131】
【化9】

【0132】
【化10】

【0133】
【化11】

【0134】
【化12】

【0135】
【化13】

【0136】
インドリウム系カチオンまたはベンゾチアゾリウム系カチオンの対アニオンは、特に制限されず、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン、プロピル硫酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ベンゼンスルフィン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、シュウ酸イオン、コハク酸イオン、マロン酸イオン、オレイン酸イオン、ステアリン酸イオン、クエン酸イオン、一水素二リン酸イオン、二水素一リン酸イオン、ペンタクロロスズ酸イオン、クロロスルホン酸イオン、フルオロスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、硫酸イオン、バナジン酸イオン、ホウ酸イオンなどが使用できる。
【0137】
より具体的には、上記一般式(a)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、アメリカンダイソース社製のADS812MI(対アニオンはヨウ化物イオン);上記一般式(b)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0712(対アニオンはヘキサフルオロリン酸イオン);上記一般式(c)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0726(対アニオンは塩化物イオン);上記一般式(d)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、アメリカンダイソース社製のADS780MT(対アニオンはp−トルエンスルホン酸イオン);上記一般式(e)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0006(対アニオンは過塩素酸イオン);上記一般式(f)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0081(対アニオンは過塩素酸イオン);上記一般式(g)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製のS0773(対アニオンはテトラフルオロホウ酸イオン);上記一般式(h)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製の商品名S0772(対アニオンはテトラフルオロホウ酸イオン);上記一般式(i)で表されるカチオンを含むシアニン系色素として、FEWケミカル社製の商品名S0734(対アニオンはテトラフルオロホウ酸イオン)等の市販されているものを用いることができる。シアニン系色素を使用することにより可視領域の透明性が高い近赤外線吸収粘着剤組成物が得られる。
【0138】
ジイモニウム色素の配合量、またはジイモニウム色素とその他の近赤外線吸収色素とを合計した配合量は、色素の種類と用途によって適宜選択することが出来る。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を10〜30μmの薄膜として使用する場合、配合量は、樹脂の固形分に対して、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜5質量%である。例えば、ジイモニウム色素とフタロシアニン系色素とを併用する場合、これらの色素を合計した配合量は、樹脂の固形分に対して、好ましくは0.01〜10質量%であり、より好ましくは0.1〜5質量%である。配合量が0.01質量%未満であると、十分な近赤外線吸収能が達成できなくなる可能性がある。逆に10質量%を超えると、添加に見合う効果が得られず経済的でない上、逆に可視領域での透明性が損なわれる可能性がある。
【0139】
近赤外線吸収粘着剤組成物は、可視領域の透明性、近赤外線吸収能の持続性、良好な粘着性を特徴とする。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物には、必要に応じて可視光を吸収する色素が添加されてもよい。可視光を吸収する色素としては、シアニン系、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、ポルフィリン系、テトラアザポルフィリン系、金属ジチオール錯体系、スクアリリウム系、アズレニウム系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、オキサジン系、アジン系、チオピリリウム系、ビオローゲン系、アゾ系、アゾ金属錯体系、ビスアゾ系、アントラキノン系、ペリレン系、インダンスロン系、ニトロソ系、インジコ系、アゾメチン系、キサンテン系、オキサノール系、インドアニリン系、キノリン系、ジケトピロロピロール系等、従来公知の色素を広く使用することができる。
【0140】
近赤外線吸収粘着剤組成物をPDP用の光学フィルターとして使用する場合は、不要なネオン発光を吸収するために最大吸収波長が550〜650nmの可視吸収色素を併用するのが好ましい。ネオン発光を吸収する色素の種類は特に限定されないが、シアニン色素、テトラアザポルフィリン色素が使用できる。具体的にはアデカアークルズTY−102(旭電化工業社製)、アデカアークルズTY−14(旭電化工業社製)、アデカアークルズTY−15(旭電化工業社製)、TAP−2(山田化学工業製)、TAP−18(山田化学工業製)、TAP−45(山田化学工業製)、商品名NK−5451(林原生物化学研究所製)、NK−5532(林原生物化学研究所製)、NK−5450(林原生物化学研究所製)等が挙げられる。ネオン発光を吸収するための色素の添加量は、色素の種類によって異なるが、最大吸収波長での透過率が20〜80%程度になるように添加するのが好ましい。
【0141】
また、近赤外線吸収粘着剤組成物からなる薄膜の色調を調整するために、調色用の可視光吸収色素を添加してもよい。調色用の色素の種類は特に限定されないが、1:2クロム錯体、1:2コバルト錯体、銅フタロシアニン、アントラキノン、ジケトピロロピロール等が使用できる。具体的には、オラゾールブルーGN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールブルーBL(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールレッド2B(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールレッドG(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールブラックCN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールイエロー2GLN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、オラゾールイエロー2RLN(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、マイクロリスDPPレッドB−K(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製)、等が挙げられる。
【0142】
近赤外線吸収粘着剤組成物は、必要に応じて、その性能を失わない範囲で添加剤や、硬化剤を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0143】
近赤外線吸収粘着剤組成物は、希釈溶媒をさらに含んでいてもよい。この希釈溶媒が、上記溶媒(D)とされてもよい。希釈溶媒により、粘着剤組成物の粘度が、基材等への塗布に適した粘度に調整されうる。この粘度により、粘着剤組成物層の厚みが調整されうる。
【0144】
希釈溶媒として、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0145】
ジイモニウム塩の耐久性の観点から、希釈溶媒は、トルエン、酢酸エチル及び酢酸ブチルが好ましい。
【0146】
なお、希釈溶媒は、用いられなくてもよい。例えば、分散体(M)に含まれる溶媒のみによって、近赤外線吸収粘着剤組成物の粘度が適切に調整されてもよい。
【0147】
塗工時において、近赤外線吸収粘着剤組成物の粘度は、塗工機の種類によって適宜選択されるが、マイクログラビアコーター等のような小径グラビアキスリバース方式で塗工する場合は1〜1000mPa・s、ダイコーター等押し出し方式で塗工する場合は100〜10000mPa・sが一般的である。近赤外線吸収粘着剤組成物の固形分は塗料粘度に合わせて調整される。
【0148】
また、近赤外線吸収粘着剤組成物が含有しうる添加剤としては、フィルムやコーティング膜等を形成する樹脂組成物に使用される従来公知の添加剤が用いられうる。この添加剤として、分散剤、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤、つや消し剤、粘着付与剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収材、光安定化剤、消光剤、硬化剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。なお、硬化剤としてはイソシアネート化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、オキサゾリン化合物、シランカップリング剤、UV硬化剤等を使用することができる。
【0149】
近赤外線吸収粘着剤組成物は、光学用、農業用、建築用または車両用の近赤外線吸収材料、感光紙などの画像記録材料、光ディスク用などの情報記録用材料、色素増感型太陽電池などの太陽電池、半導体レーザー光などを光源とする感光材料、眼精疲労防止材に使用されうる。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、特にフィルムやシート状での使用が好ましい。
【0150】
近赤外線吸収能の劣化抑制及びジイモニウム色素の変質抑制の観点から、保存中における上記近赤外線吸収粘着剤組成物の温度T2は、40℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がさらに好ましく、0℃以下が特に好ましい。保存コストの観点から、上記温度T2は、−30℃以上が好ましく、−20℃以上がより好ましい。
【0151】
好ましくは、近赤外線吸収粘着剤組成物は、例えば、保存用中空体に入れられ保存される。典型的な保存用中空体は、密封可能な容器である。この保存用中空体の材質は、限定されない。好ましくは、上記保存用中空体は、その内面が非金属又はステンレス鋼であるのがよい。上記保存用中空体の例として、缶、プラスチックドラム、ポリタンク等の樹脂製容器及びガラス容器が挙げられる。缶として、ペール缶、ドラム缶等が挙げられる。他の缶として、日本で「一斗缶」と称されている、内容量が約18リットルの缶や、更に小さい容積を有する缶が例示される。この保存用中空体の内容積は、限定されない。また、本発明において、保存時間は限定されない。
【0152】
上記保存用中空体の他の例として、複合容器が挙げられる。この複合容器は、外部容器と、この外部容器に収容されている内部容器とを有する。ジイモニウム色素含有組成物は、内部容器に入れられる。複合容器の一例として、外部容器が鋼製であり、内部容器がプラスチック製である容器が例示される。
【0153】
上記保存用中空体の他の例として、工場等で設置される釜やタンクが例示される。この釜として、反応釜及びブレンダー釜が例示される。短時間の貯留であっても、本発明における「保存」に該当する。
【0154】
9.近赤外線吸収材
近赤外線吸収材は、前記近赤外線吸収粘着剤組成物を含む。近赤外線吸収材は、前記近赤外線吸収粘着剤組成物をフィルム状に成形したものであってもよいし、透明基材上に前記近赤外線吸収粘着剤組成物を含む塗膜を積層したものであってもよい。
【0155】
前述したように、近赤外線吸収粘着剤組成物は、本発明の製造方法で得られたジイモニウム塩(A)の分散体を含んでいる。しかも、上記吸光度(X)又は上記溶解度(Y)が考慮されたジイモニウム色素が用いられている。ジイモニウム塩(A)が溶剤(D)に溶解することなく、効果的に分散しているので、、この近赤外線吸収材は、近赤外線吸収能の持続性に優れる。また、この近赤外線吸収材は、可視領域の透明性に優れる。近赤外線吸収粘着剤組成物は粘着性を有する樹脂を含有するので、この近赤外線吸収材は、被着体に対して容易に接着されうる。溶解性パラメータが考慮された樹脂は、近赤外線吸収能の持続性及び可視流域の透明性に寄与しうる。
【0156】
透明基材としては、一般に光学材に使用し得るものであって、実質的に透明であれば特に制限はない。具体的な例としてはガラス;シクロポリオレフィン、非晶質ポリオレフィン等のオレフィン系ポリマー;ポリメチルメタクリレート等のメタクリル系ポリマー;酢酸ビニルやハロゲン化ビニル等のビニル系ポリマー;PET等のポリエステル;ポリカーボネート、ブチラール樹脂等のポリビニルアセタール;ポリアリールエーテル系樹脂;ラクトン環含有樹脂フィルム等が挙げられる。更に、該透明基材には、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理等の従来公知の方法による表面処理や、アンカーコート剤やプライマー等のコーティングが施されてもよい。また、上記透明基材を構成する基材樹脂には、公知の添加剤、耐熱老化防止剤、滑剤、帯電防止剤等の配合が可能である。上記透明基材は、公知の射出成形、Tダイ成形、カレンダー成形、圧縮成形等の方法や、有機溶剤に溶融させてキャスティングする方法などを用い、フィルムまたはシート状に成形される。かかる透明基材を構成する基材は、未延伸でも延伸されていてもよく、また他の基材と積層されていてもよい。
【0157】
コーティング法で近赤外線吸収フィルムを得る場合の透明基材としてはPETフィルムが好ましく、特に易接着処理をしたPETフィルムが好適である。具体的にはコスモシャインA4300(東洋紡績製)、ルミラーU34(東レ製)、メリネックス705(帝人デュポン製)等が挙げられる。また、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、反射防止フィルム、ぎらつき防止フィルム、衝撃吸収フィルム、電磁波シールドフィルム、紫外線吸収フィルムなどの機能性フィルムも透明基材として使用できる。これにより、簡便に薄型ディスプレー用や光半導体素子用の光学フィルターを作製することができる。透明基材は、フィルムであることが好ましい。
【0158】
これらのうち、ガラス、PETフィルム、ラクトン環含有樹脂フィルム、易接着性PETフィルム、TACフィルム、反射防止フィルム及び電磁波シールドフィルムが透明基材として好ましく使用される。透明基材として、ガラス等の無機基材を使用する場合には、アルカリ成分が少ないものが近赤外線吸収色素の耐久性の観点から好ましい。
【0159】
近赤外線吸収材の厚みは、一般に0.1μmから10mm程度とされるが、目的に応じて適宜決定される。また近赤外線吸収材に含まれる近赤外線吸収色素の含有量も目的に応じて、適宜決定される。
【0160】
近赤外線吸収材を作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば次の方法が利用できる。例えば、(I)樹脂と本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物とを混練し、加熱成形して樹脂板又はフィルムを作製する方法;(II)本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物とモノマー又はオリゴマーを重合触媒の存在下にキャスト重合し、樹脂板又はフィルムを作製する方法;(III)本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物を上記の透明基材上にコーティングする方法等である。
【0161】
(I)の作製方法としては、用いる樹脂によって加工温度、フィルム化(樹脂板化)条件等が多少異なるが、通常、本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物を樹脂の粉体又はペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、押し出し機によりフィルム化(樹脂板化)する方法等が挙げられる。
【0162】
(II)の作製方法としては、本発明に係る近赤外線吸収粘着剤組成物とモノマー又はオリゴマーとを重合触媒の存在下にキャスト重合し、それらの混合物を型内に注入し、反応させて硬化させるか、又は金型に流し込んで型内で硬い製品となるまで固化させて成形する方法が挙げられる。多くの樹脂がこの過程で成形可能である。その様な樹脂の具体例としてアクリル樹脂、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂、エポキシ樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコン樹脂、等が挙げられる。その中でも、硬度、耐熱性、耐薬品性に優れたアクリルシートが得られるメタクリル酸メチルの塊状重合によるキャスティング法が好ましい。
【0163】
重合触媒としては公知のラジカル熱重合開始剤が利用でき、例えばベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。その使用量は混合物の総量に対して、一般的に0.01〜5質量%である。熱重合における加熱温度は、一般的に40〜200℃であり、重合時間は一般的に30分〜8時間程度である。また熱重合以外に、光重合開始剤や増感剤を添加して光重合する方法も利用できる。
【0164】
(III)の方法としては、本発明の近赤外吸収材料を透明基材上にコーティングする方法、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を微粒子に固定化し、該微粒子を分散させた塗料を透明基材上にコーティングする方法等がある。
【0165】
基材に近赤外線吸収粘着剤組成物を塗布する際には公知の塗工機が使用できる。例えばコンマコーター等のナイフコーター、スロットダイコーター、リップコーター等のファウンテンコーター、マイクログラビアコーター等のキスコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター等のロールコーター、フローコーター、スプレーコーター、バーコーターが挙げられる。塗布前にコロナ放電処理、プラズマ処理等の公知の方法で基材の表面処理を行ってもよい。乾燥・硬化方法としては、熱風、遠赤外線、UV硬化等公知の方法が使用できる。乾燥・硬化後は公知の保護フィルムとともに巻き取ってもよい。
【0166】
乾燥方法は特に限定されないが、熱風乾燥や遠赤外線乾燥を用いることができる。乾燥温度は乾燥ラインの長さ、ライン速度、塗布量、残存溶剤量、基材の種類等を考慮して決めればよい。基材がPETフィルムであれば、一般的な乾燥温度は50〜150℃である。1ラインに複数の乾燥機がある場合は、それぞれの乾燥機を異なる温度、風速に設定してもよい。塗工外観の良好な塗膜を得るためには、入り口側の乾燥条件をマイルドにするのが好ましい。
【0167】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、可視領域の透明性及び近赤外線の吸収能が高い優れた光学フィルターの構成材料となりうる。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、従来の近赤外線吸収材料と比べて耐久性、特に耐熱性及び耐光性が高いため、長期間の保管や使用でも外観と近赤外線吸収能が維持される。さらに、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、シートやフィルム状にするのが容易なため、薄型ディスプレー用や光半導体素子用に有効である。そのほかに、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は、赤外線をカットする必要があるフィルターやフィルム、例えば農業用フィルム、断熱フィルム、サングラス、光記録材料等にも使用することができる。
【0168】
近赤外線吸収材の好適な用途として、光学フィルターが挙げられる。この光学フィルターは、前記近赤外線吸収材を用いてなる。この光学フィルターは、光半導体素子用光学フィルターまたは薄型ディスプレー用光学フィルターとして好適である。このような光学フィルターは、可視領域の全光線透過率が40%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上であり、波長800〜1100nmの近赤外線の透過率が30%以下、好ましくは15%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0169】
本発明の光学フィルターには、上記の近赤外線吸収粘着剤組成物からなる近赤外線吸収層のほかに、電磁波遮蔽層、反射防止層、ぎらつき防止(アンチグレア)層、傷付き防止層、色調整層、ガラス等の支持体などが設けられていてもよい。
【0170】
光学フィルターの各層の構成は任意に選択すればよい。例えば、好ましくは反射防止層とぎらつき防止層のうち少なくともどちらか一層と、近赤外線吸収層の少なくとも2層を組み合わせた光学フィルターが好適であり、より好ましくは更に電磁波遮蔽層を組み合わせた少なくとも3層を有する光学フィルターである。
【0171】
反射防止層、またはぎらつき防止層が人側の最表層とされるのが好ましい。近赤外線吸収層と電磁波遮蔽層相互間の積層順序は任意である。また、3層の間には傷付き防止層、色調整層、衝撃吸収層、支持体、透明基材等の他の層が挿入されていてもよい。
【0172】
各層を張り合わせる際にはコロナ処理、プラズマ処理等の物理的な処理をしてもよいし、ポリエチレンイミン、オキサゾリン系ポリマー、ポリエステル、セルロース等の公知の高極性ポリマーをアンカーコート剤として使用してもよい。
【0173】
薄型ディスプレー用光学フィルターには、画面を見やすくするために、反射防止層またはぎらつき防止層を人側の最表層に設けることが好ましい。
【0174】
反射防止層は、表面の反射を抑えて、表面への蛍光灯などの外光の写り込みを防止するためのものである。反射防止層は、金属酸化物、フッ化物、ケイ化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、硫化物等の無機物の薄膜からなる場合と、アクリル樹脂、フッ素樹脂などの屈折率の異なる樹脂を単層あるいは多層に積層させたものからなる場合とがあり、前者の場合の製造方法として、蒸着やスパッタリング法を用いて単層あるいは多層の形態で、透明基材上に反射防止コーティングを形成させる方法がある。また、後者の場合の製造方法として、透明フィルム上に、コンマコーター等のナイフコーター、スロットコーター、リップコーター等のファウンテンコーター、グラビアコーター、フローコーター、スプレーコーター、バーコーターを用いて透明基材の表面に反射防止コーティングを塗布する方法がある。
【0175】
ぎらつき防止層は、シリカ、メラミン樹脂、アクリル樹脂等の微粉体をインキ化し、従来公知の塗布法で、本発明のフィルターのいずれかの層上に塗布し、熱或いは光硬化させることにより形成される。また、アンチグレア処理したフィルムを該フィルター上に貼りつけてもよい。
【0176】
また、傷付き防止層は、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、多官能アクリレート等のアクリレートと光重合開始剤を有機溶剤に溶解或いは分散させた塗布液を従来公知の塗布法で、本発明のフィルターのいずれかの層上に、塗布し、乾燥させ、光硬化させることにより形成される。
【0177】
反射防止層またはぎらつき防止層と近赤外線吸収層とを有する光学フィルターは、反射防止フィルムまたはぎらつき防止フィルムの裏面に本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物又は近赤外線吸収材からなる層を積層させることで得られる。積層させる方法としては、フィルム状にした本発明に係る近赤外線吸収層と反射防止フィルムまたはぎらつき防止フィルムとを直接張り合わせてもよいし、溶液化した本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を反射防止フィルムまたはぎらつき防止フィルムの裏面に直接塗布してもよい。反射防止フィルムまたはぎらつき防止フィルムの裏面に近赤外線吸収層を設ける場合には、紫外線による色素の劣化を抑えるために、透明基材として紫外線吸収フィルムを使用するのが好ましい。本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物は粘着性を有している。よって、近赤外線吸収層と、他の層とが接着される場合、粘着剤や接着剤が不要とされうる。近赤外線吸収層は、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を含む層である。
【0178】
プラズマディスプレー用光学フィルターには、パネルから発生する電磁波を除去するために、電磁波遮蔽層を設けることが好ましい。
【0179】
電磁波遮蔽層はエッチング、印刷等の手法で金属のメッシュをフィルム上にパターニングしたものを樹脂で平滑化したフィルムや、繊維メッシュの上に金属を蒸着させたものを樹脂中に抱埋したフィルムが使用される。
【0180】
近赤外線吸収層と電磁波遮蔽層の2層を有する光学フィルターは電磁波防止材料と近赤外線吸収粘着剤組成物とを複合化することで得られる。複合化させる方法としては、フィルム状にした本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物と電磁波遮蔽フィルムを張り合わせてもよいし、溶液化した本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を電磁波遮蔽フィルムに直接塗布してもよい。また、フィルム上の金属のメッシュを平滑化する際に本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を使用することもできる。また、金属を蒸着した繊維を抱埋する際に、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を使用することもできる。
【0181】
近赤外線吸収層、反射またはぎらつき防止層および電磁波遮蔽層の3層を有する光学フィルターとしては、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物からなる近赤外線吸収フィルム、反射またはぎらつき防止フィルム、電磁波遮蔽フィルムの3枚を張り合わせたものが使用できる。好ましくは、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物からなる近赤外線吸収フィルムが、反射またはぎらつき防止フィルムと、電磁波遮蔽フィルムとで挟まれた構造を有する光学フィルターが好ましい。この光学フィルターは、近赤外線吸収フィルムの粘着性を利用して積層されているため、従来フィルム同士の張り合わせのためだけに設けられていた粘着層を省略して製造されうる。必要に応じてガラス等の支持体や色調整フィルム等の機能性フィルムを張り合わせてもよい。
【0182】
光学フィルターの製造工程やフィルム構成をさらに簡略化するためには、複数の機能を有する複合化フィルムを使用するのが良い。好ましい光学フィルターは、1枚のフィルムに電磁波遮蔽層と反射またはぎらつき防止層とを含む複合化フィルムに、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物からなる近赤外線吸収粘着層を張り合わせた光学フィルターである。
【0183】
本発明の薄型ディスプレー用光学フィルターは表示装置から離して設置してもよいし、表示装置に直接貼り付けてもよい。表示装置から離して設置する場合は支持体としてガラスを使用するのが好ましい。表示装置に直接張り合わせる場合にはガラスを使用しない光学フィルターが好ましい。
【0184】
本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物を積層した光学フィルターを薄型ディスプレーに搭載すると、長期間にわたり良好な画質が維持される。薄型ディスプレーに係る本発明は、本発明の近赤外線吸収粘着剤組成物、本発明の近赤外線吸収材、または本発明の光学フィルターを用いてなる、薄型ディスプレーである。表示体に直接、光学フィルターを張り合わせた薄型ディスプレーはより鮮明な画質が得られる。光学フィルターを直接張り合わせる場合は表示体のガラスが強化ガラスを使用するか、衝撃吸収層を設けた光学フィルターを使用するのが好ましい。
【0185】
上記光学フィルターを表示装置に貼り付ける際の粘着剤としては、スチレンブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、天然ゴム、ネオプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム等のゴム類やポリアクリル酸メチル、ボリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のポリアクリル酸アルキルエステル等が挙げられ、これらは単独で用いられてもよいし、さらに粘着付与剤としてピッコライト、ポリベール、ロジンエステル等を添加したものを用いてもよい。また、特開2004−263084号公報で示されているように衝撃吸収能を有する粘着剤を使用することができるが、これに限定されるものではない。粘着剤を用いることなく、近赤外線吸収層の粘着性を利用して、本発明の光学フィルターが表示装置に貼り付けられても良い。
【0186】
この粘着層の厚みは、通常5〜2000μm、好ましくは10〜1000μmである。粘着剤層の表面に剥離フィルムを設け、この剥離フィルムにより、光学フィルターを薄型ディスプレーの表面に張り付けるまでの間、粘着剤層を保護し、粘着剤層にゴミ等が付着しないようにするのもよい。この場合、フィルターの縁綾部の粘着剤層と剥離フィルムとの間に、粘着剤層を設けない部分を形成したり非粘着性のフィルムを挟む等して非粘着部分を形成し、この非粘着部分を剥離開始部とすれば、貼着時の作業が行いやすい。
【0187】
衝撃吸収層は表示装置を外部からの衝撃から保護するためのものである。支持体を使用しない光学フィルターで使用するのが好ましい。衝撃吸収材としては特開2004−246365号公報、特開2004−264416号公報に示されているような、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ウレタン系、シリコン系樹脂等が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0188】
以下において、実施例により本発明が具体的に説明される。これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。なお以下の成分比率において、特に説明されない限り、「%」は質量%を意味し、「部」は質量部を意味するものとする。評価方法は以下の通りである。
【0189】
(1)耐光性の評価
スガ試験機社製の「SX2−75 スーパーキセノンウェザーメーター」にて、63℃で且つ50%RHの環境下、試験片に、300〜400nmにおける照射強度が60W/mである光を100時間照射した。この試験前後のそれぞれにおいて、350〜1500nmの光の透過スペクトルを測定した。透過スペクトルの測定にはUV−3700(島津製作所製)を使用した。得られた試験前後の透過スペクトルから、λmaxにおける色素残存率(%)を評価した。λmaxは、試験前の測定結果に基づいて決定された。この評価結果が下記の表に示される。表中、色素残存率が80%以上であったものが「A」で、60%以上80%未満であったものが「B」で、60%未満であったものが「C」で示されている。
【0190】
色素残存率Px(%)は、試験後のλmaxでの吸光度がAx(%)とされ、試験前のλmaxでの吸光度がBx(%)とされるとき、下記の式で計算される。
Px=(Ax/Bx)×100
【0191】
(2)ヘイズの評価
ヘイズの測定は、濁度計NDH2000(日本電色工業製)にて行った。試験体の3箇所のヘイズを測定し、それらの平均値を採用した。この平均値が、下記の表に示される。表中、ヘイズが2未満であったものが「A」で、2以上5未満であったものが「B」で、5以上7未満であったものが「C」で、7以上のであったものが「D]で示されている。
【0192】
(3)ジイモニウム塩の上記吸光度(X)
前述した方法により測定された。
【0193】
(4)ジイモニウム塩の上記溶解度(Y)
5種類のサンプルを用いた前述の測定方法により測定された。
【0194】
(5)酸価の測定
樹脂0.5gを精秤し、トルエン50gを加えて均一に溶解させた。指示薬としてフェノールフタレイン/アルコール溶液を2〜3滴加え、0.1N水酸化カリウム/アルコール溶液で滴定し、液の赤みが約30秒で消えなくなったときを終点とした。このときの滴定量と樹脂の固形分から酸価を求めた。酸価は、樹脂固形分1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmgで表される。
【0195】
合成例1:
[ジイモニウム化合物aの合成]
ジメチルホルムアミド(DMF)36部中に、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン6部を加え、60℃に加熱溶解した。その後、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタン58.4%水溶液10.1部を加えた。次に、DMF35部に溶解した硝酸銀2.32部を加え、30分間加熱撹拌した。不溶解分を濾別した後、反応液に水を加え、析出した結晶を濾過、メタノール洗浄、水洗及び乾燥して、8.4部のトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド酸−N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル)−p−フェニレンジイモニウム(以下、化合物aともいう)を得た。この化合物aは、上記式(2)における、R〜Rが全てiso−ブチル基であり且つ上記式(2)におけるZが[(CFSO]であるジイモニウム塩である。この化合物aの上記吸光度(X)は、溶媒がトルエンの場合が0.138(λmaxは1096nm)であり、溶媒が酢酸エチルの場合が0.239(λmaxは1081nm)であり、溶媒が酢酸ブチルの場合が0.0750(λmaxは1085nm)であった。この化合物aの上記溶解度(Y)を測定したところ、溶媒がトルエンの場合が0.01質量%未満であり、溶媒が酢酸エチルの場合が0.01質量%未満であり、溶媒が酢酸ブチルである場合が0.01質量%未満であった。
【0196】
合成例2:
[ジイモニウム化合物bの合成]
DMF30部中に、N,N,N’,N’−テトラキス(アミノフェニル)−p−フェニレンジアミン3.8部、iso−ブチルブロミド21部及び炭酸カリウム15部を加え、80℃で1時間、更に90℃で7時間、更に130℃で1時間反応させた。冷却後、濾過し、この反応液(濾液)にイソプロパノール30部を加え、5℃以下で1時間撹拌した。生成した結晶をメタノールで洗浄した後、乾燥し、薄茶色の結晶状化合物2.5部を得た。DMF10部中に上記結晶状化合物1部を加え、60℃に加熱してこの結晶状化合物を溶解させた液体A1を得た。DMF10部に六フッ化アンチモン酸銀0.78部を溶解させて得られた液体B1を、上記液体A1に加え、30分反応させた。冷却後、析出した銀を濾別した。この反応液(濾液)に水10部をゆっくりと滴下し、滴下後15分撹拌した。生成した黒色結晶を濾過し、50部の水で洗浄し、得られたケーキ(残渣)を乾燥して、0.5部のヘキサフルオロアンチモン酸−N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジ(iso−ブチル)アミノフェニル)−p−フェニレンジイモニウム(以下、化合物bともいう)を得た。この化合物bは、上記式(2)における、R〜Rが全てiso−ブチル基であり且つ上記式(2)におけるZが[SbF]であるジイモニウム塩である。この化合物bの上記吸光度(X)を測定したところ、溶媒がトルエンの場合が0.070(λmaxは1088nm)であり、溶媒が酢酸エチルの場合が0.113(λmaxは1069nm)であり、溶媒が酢酸ブチルの場合が0.0286(λmaxは1069nm)であった。この化合物bの上記溶解度(Y)を測定したところ、溶媒がトルエンである場合が0.01質量%未満であり、溶媒が酢酸エチルである場合が0.01質量%未満であり、溶媒が酢酸ブチルである場合が0.01質量%未満であった。
【0197】
スラリー製造例1:
ジイモニウム化合物aと酢酸エチルとを混合し、スラリー1を得た。このスラリー1において、ジイモニウム化合物aの濃度は5質量%とされた。
【0198】
スラリー製造例2:
ジイモニウム化合物aの濃度を2質量%とした他はスラリー1と同様にして、スラリー2を得た。
【0199】
スラリー製造例3:
ジイモニウム化合物aをジイモニウム化合物bとし、ジイモニウム化合物bの濃度を2質量%とした他はスラリー1と同様にして、スラリー3を得た。
【0200】
スラリー製造例4:
ジイモニウム化合物aをジイモニウム化合物bとした他はスラリー1と同様にして、スラリー4を得た。
【0201】
スラリー製造例5:
ジイモニウム化合物aの濃度を1質量%とした他はスラリー1と同様にして、スラリー5を得た。
【0202】
スラリー製造例6:
溶媒をトルエンとした他はスラリー1と同様にして、スラリー6を得た。
【0203】
スラリー製造例7:
溶媒を酢酸ブチルとした他はスラリー1と同様にして、スラリー6を得た。
【0204】
樹脂製造例1:
モノマーとして、360.6gの2−エチルヘキシルアクリレート、60gのブチルアクリレート、156gのシクロヘキシルメタクリレート、18gのアクリル酸及び5.4gのヒドロキシエチルアクリレートを秤量し、十分に混合して、重合性モノマー混合物(1)を得た。
【0205】
160gの酢酸エチルと、300gの重合性モノマー混合物(1)とを、温度計、攪拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器及び滴下ロートを備えたフラスコに入れた。また、上記滴下ロートに、300gの重合性モノマー混合物(1)、16gの酢酸エチル及び0.15gのナイパーBMT−K40(重合開始剤、日本油脂社製)を入れ、良く混合して、滴下用混合物(1)とした。
【0206】
窒素ガスを20ml/分で流通させながら、フラスコの内温を95℃まで上昇させ、重合開始剤であるナイパーBMT−K40(0.15g)をフラスコに投入し、重合反応を開始させた。重合開始剤の投入から30分後に、滴下ロートからの滴下用混合物(1)の滴下を開始した。滴下用混合物(1)は、90分かけて、均等に滴下された。滴下用混合物(1)の滴下終了後、粘度の上昇に応じて酢酸エチルで希釈を適宜行いながら、還流温度を維持しながら6時間熟成を行った。
【0207】
反応終了後、不揮発分が約45%になるように酢酸エチルで反応液を希釈し、計算ガラス転移温度(Tg)が−38.5℃であり、計算溶解性パラメータが9.08である樹脂(1)を得た。この樹脂(1)は、粘着剤樹脂であった。樹脂(1)の重量平均分子量(Mw)は43万であり、樹脂(1)の酸価は23.4であった。
【0208】
樹脂製造例2:
モノマーとして、264.6gの2−エチルヘキシルアクリレート、150gのブチルアクリレート、180gのシクロヘキシルメタクリレート及び5.4gのヒドロキシエチルアクリレートを秤量し、十分に混合して、重合性モノマー混合物(2)を得た。上記重合性モノマー混合物(1)に代えて、この重合性モノマー混合物(2)が用いられた他は樹脂製造例1と同様にして、計算ガラス転移温度(Tg)が−35℃、計算溶解性パラメータが8.99である樹脂(2)を得た。この樹脂(2)は、粘着剤樹脂であった。樹脂(2)の重量平均分子量(Mw)は44万であり、樹脂(2)の酸価は0であった。
【0209】
ビーズ1:
ビーズ1として、ニッカトー社製の商品名「YTZボール」が準備された。ビーズ1の材質は、ジルコニアである。ビーズ1の平均粒子径は、0.3mmである。ビーズ1に含まれるジルコニアの純度は、98質量%である。
【0210】
ビーズ2:
ビーズ2として、ニッカトー社製の商品名「YTZボール」が準備された。ビーズ2の材質は、ジルコニアである。ビーズ2の平均粒子径は、0.1mmである。ビーズ2に含まれるジルコニアの純度は、98質量%である。
【0211】
ビーズ3:
ビーズ3として、ニッカトー社製の商品名「YTZボール」が準備された。ビーズ3の材質は、ジルコニアである。ビーズ3の平均粒子径は、0.8mmである。ビーズ3に含まれるジルコニアの純度は、98質量%である。
【0212】
ビーズ4:
ビーズ4として、ニッカトー社製の商品名「YTZボール」が準備された。ビーズ4の材質は、ジルコニアである。ビーズ4の平均粒子径は、1.0mmである。ビーズ4に含まれるジルコニアの純度は、98質量%である。
【0213】
ビーズ5:
ビーズ5として、大明化学社製の商品名「高純度アルミナビーズ」が準備された。ビーズ5の材質は、アルミナである。ビーズ5の平均粒子径は、0.3mmである。ビーズ5に含まれるアルミナの純度は、99.99質量%である。
【0214】
ビーズ6:
ビーズ6として、比良セラミックス社製の商品名「アルミナビーズ」が準備された。ビーズ6の材質は、アルミナである。ビーズ6の平均粒子径は、0.3mmである。ビーズ6に含まれるアルミナの純度は、99.5質量%である。
【0215】
ビーズ7:
ビーズ7として、アルミックス社製の商品名「アルミナボール」が準備された。ビーズ7の材質は、アルミナである。ビーズ7の平均粒子径は、0.3mmである。ビーズ7に含まれるアルミナの純度は、92質量%である。
【0216】
合成例1及び2の仕様と評価結果とが、下記の表1に示される。スラリー製造例1から7の仕様が、下記の表2に示される。樹脂製造例1及び2の配合と評価結果とが、下記の表3に示される。ビーズ1から7の仕様が、下記の表4に示される。
【0217】
【表1】

【0218】
【表2】

【0219】
【表3】

【0220】
【表4】

【0221】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備えたビーズミルを準備し、ビーズ1がベッセルに充填された。ビーズ1の、ベッセルに対する充填率は、85%とされた。スラリー1をベッセルに投入し、これを循環させることにより、ジイモニウム塩の分散体を得た。回転軸の回転時間は、2時間とされた。
【0222】
架橋剤であるコロネートL−55E(日本ポリウレタン社製)を酢酸エチル溶液に溶解して、固形分2.75%の架橋剤溶液を調整した。樹脂製造例1で得られた樹脂(1)、上記分散体及び架橋剤溶液を、固形分重量比で100/0.5/0.5となるように混合し、固形分が25%となるように希釈溶剤としての酢酸エチルで希釈して、近赤外線吸収粘着剤組成物を得た。なお、この固形分重量比は、(樹脂/分散体/架橋剤溶液)の順で表記されている。
【0223】
近赤外線吸収粘着剤組成物をアプリケーターにて、易接着処理PETフィルム(東洋紡績社製、コスモシャインA4300)上に塗工した。塗工時の厚みは、乾燥後の粘着剤組成物層の厚みが25μmとなるように設定した。次いで、100℃の熱風循環オーブン中にて2分間乾燥させた。この粘着剤組成物からなる層に離型フィルム(シリコン処理されたPETフィルム)を張り合わせた後、23℃で7日間養生させて、近赤外線吸収材を得た。離型フィルムを剥がした後、この近赤外線吸収材をガラス板に貼り付けて、実施例1に係る試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表5に示される。
【0224】
[実施例2]
ビーズ1をビーズ5とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表5に示される。
【0225】
[実施例3]
ビーズ1をビーズ6とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表5に示される。
【0226】
[実施例4]
ビーズ1をビーズ2とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表5に示される。
【0227】
[実施例5]
スラリー1をスラリー2とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表5に示される。
【0228】
[実施例6]
スラリー1をスラリー3とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表5に示される。
【0229】
[実施例7]
スラリー1をスラリー4とし、樹脂(1)を樹脂(2)とし、樹脂(2)、分散体及び架橋剤溶液を、固形分重量比で100/0.5/0.05となるように混合した他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表5に示される。
【0230】
[実施例8]
スラリー1をスラリー2とし、上記ビーズの充填率を55%とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表6に示される。
【0231】
[実施例9]
ビーズ1をビーズ7とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表6に示される。
【0232】
[実施例10]
スラリー1をスラリー5とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表6に示される。
【0233】
[実施例11]
スラリー1をスラリー6とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表6に示される。
【0234】
[実施例12]
スラリー1をスラリー7とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表6に示される。
【0235】
[実施例13]
ビーズ1をビーズ3した他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表6に示される。
【0236】
[比較例1]
ビーズ1をビーズ4とした他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表6に示される。
【0237】
[比較例2]
実施例1の分散体に代えて、合成例1で得られたジイモニウム化合物aを、メチルエチルケトンに5質量%で溶解した溶液が用いられ、希釈溶剤としてメチルエチルケトンを用いた他は実施例1と同様にして、試験体を得た。この試験体について、耐光性試験及びヘイズの評価を行った。この評価結果が下記の表6に示される。
【0238】
【表5】

【0239】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0240】
本発明のジイモニウム塩の分散体の製造方法により得た分散体を含む近赤外線吸収粘着剤組成物は、近赤外線吸収能の持続性及び可視領域の透明性が高く、耐熱性、耐湿熱性及び耐光性に優れることから、例えば薄型ディスプレー用の光学フィルターとして有用である。また、光情報記録材料としても使用することができる。
【符号の説明】
【0241】
2・・・ビーズミル
4・・・ベース
6・・・ベッセル
8・・・回転軸
10・・・投入口
12・・・排出口
14・・・シャフト
16・・・ブレード
18・・・ビーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーズミルを用いて溶媒(D)中にジイモニウム塩(A)を分散させるジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法であって、
前記ビーズミルに用いられるビーズの平均粒子径が1mm未満であり、
このジイモニウム塩(A)の、この溶媒(D)に対する溶解度が、5質量%未満であるジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法。
【請求項2】
上記ビーズの材質が、アルミナ、ジルコニア、鋼及びクロム鋼からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法。
【請求項3】
上記ビーズミルが、ベッセル及び回転軸を備えており、
上記ビーズの、このベッセルに対する充填率が、50%以上であり、
上記ジイモニウム塩及び上記溶媒(D)をこのベッセルに投入して、この溶媒(D)中にこのジイモニウム塩(A)を分散させる請求項1又は2に記載のジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法。
【請求項4】
上記ベッセルに投入された上記ジイモニウム塩(A)及び上記溶媒(D)において、
このジイモニウム塩(A)の濃度が、2質量%以上である請求項1から3のいずれかに記載のジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法。
【請求項5】
上記ジイモニウム塩(A)及び上記溶媒(D)を含むスラリーが、上記ベッセルに投入される請求項3又は4に記載のジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法。
【請求項6】
上記ビーズの材質が、ジルコニアであり、
このビーズのジルコニアの純度が、98質量%以上である請求項2から5のいずれかにに記載のジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法。
【請求項7】
上記ビーズの材質が、アルミナであり、
このビーズのアルミナの純度が、99.5質量%以上である請求項2から5のいずれかに記載のジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法。
【請求項8】
上記ジイモニウム塩(A)を上記溶媒(D)に対して0.01質量%の割合で混合した混合液を調整し、この混合液を30分間超音波にかけた後、1時間以上静置し、その後、この混合液の上澄み液を光路長1mmのセルに入れて紫外可視分光光度計により350nm以上1500nm以下の範囲で測定された上記上澄み液のλmaxでの吸光度(X)が、0.5以下である請求項1から7のいずれかに記載のジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法。
【請求項9】
上記溶媒(D)が、トルエン、酢酸エチル及び酢酸ブチルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1から8のいずれかに記載のジイモニウム塩(A)の分散体の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の製造方法により得られた上記分散体を含む近赤外線吸収粘着剤組成物。
【請求項11】
計算ガラス転移点が0℃以下である樹脂(B)をさらに含む請求項10に記載の近赤外線吸収粘着剤組成物。
【請求項12】
上記樹脂(B)の酸価が、0以上300以下である請求項11に記載の近赤外線吸収粘着剤組成物。
【請求項13】
上記樹脂(B)の計算溶解度パラメーターが、10.2以下である請求項11又は12に記載の近赤外線吸収粘着剤組成物。
【請求項14】
請求項1から9のいずれかに記載の製造方法により得られた上記分散体又は請求項10から13のいずれかに記載の上記近赤外線吸収粘着剤組成物を、40℃以下で保存する保存方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−157443(P2011−157443A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19055(P2010−19055)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】