説明

ジエポキシ化合物の製造方法

【課題】ベンゾエート構造を有するジエポキシ化合物等を収率よく製造する方法の提供。
【解決手段】式(5)


(式中、Ar及びArはアリール構造を表す。)で示されるジエポキシ化合物の製造方法であり、相間移動触媒、水酸化カリウム及び炭酸カリウムの存在下、式(1)


(式中、Xはハロゲン原子を表す。)で表されるエピハロヒドリンと、式(2)


で示されるジヒドロキシ化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾエート構造を有するジエポキシ化合物は、耐熱性、耐湿性、機械的及び電気的に優れた特性を有する硬化物を与えることが知られている。例えば、非特許文献1及び特許文献1には、式(A)


で示されるジエポキシ化合物、及び、式(B)


で示されるジエポキシ化合物等について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許公開公報2008/0221289A1、 p.21、段落番号「0207」〜段落番号「0208」
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mol.Cryst.Liq.Cryst.1995,266,9、 P13、L25〜最終行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ベンゾエート構造を有するジエポキシ化合物等を収率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような状況下鋭意検討した結果、本発明に至った。
1.式(5)


(式中、Ar、Arは、下記式(2)での置換基の定義と同じ意味を表わす。)
で示されるジエポキシ化合物(以下、ジエポキシ化合物(5)と記すこともある。)の製造方法であり、相間移動触媒、水酸化カリウム及び炭酸カリウムの存在下、式(1)


(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で表されるエピハロヒドリン(以下、エピハロヒドリン(1)と記すこともある。)と、式(2)


(式中、Arは式(3)


(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)で示される構造群に含まれる構造のうち、いずれか一つの構造を表し、Arは式(4)


(式中、R〜R16はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)で示される構造群に含まれる構造のうち、いずれかの一つの構造を表す。)
で示されるジヒドロキシ化合物(以下、ジヒドロキシ化合物(2)と記すこともある。)とを反応させる工程を含むことを特徴とする製造方法(以下、本発明製造方法と記すこともある。);
2.反応系内に存在させる水酸化カリウムの使用量が、式(2)で示されるジヒドロキシ化合物(即ち、ジヒドロキシ化合物(2))1モルに対して、0.1モル倍〜10モル倍の範囲であり、また反応系内に存在させる炭酸カリウムの使用量は、式(2)で示されるジヒドロキシ化合物(即ち、ジヒドロキシ化合物(2))1モルに対して、0.1モル倍〜10モル倍の範囲であり、且つ、前記水酸化カリウム及び炭酸カリウムの両者に含まれるカリウムの合計量が、式(2)で示されるジヒドロキシ化合物(即ち、ジヒドロキシ化合物(2))1モル倍に対して、2モル倍〜30モル倍であることを特徴とする前項1記載の製造方法;
3.相間移動触媒が、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩及びクラウンエーテルからなる触媒群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前項1又は2記載の製造方法;
4.更に、反応系内に、脂肪族2級アルコール及び脂肪族3級アルコールからなるアルコール群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族アルコールを共存させることを特徴とする前項1乃至3のいずれかの前項記載の製造方法;
5.式(2)で示されるジヒドロキシ化合物(即ち、ジヒドロキシ化合物(2))が、式(6)


(式中、R17〜R20はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
で示されるジヒドロキシ化合物(即ち、ジヒドロキシ化合物(6))、又は、式(7)


(式中、R21〜R28はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
で示されるジヒドロキシ化合物(即ち、ジヒドロキシ化合物(7))であることを特徴とする前項1乃至4のいずれかの前項記載の製造方法;
等を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ベンゾエート構造を有するジエポキシ化合物等を収率よく製造する方法を提供可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明製造方法は、ジエポキシ化合物(5)の製造方法であり、相間移動触媒、水酸化カリウム及び炭酸カリウムの存在下、エピハロヒドリン(1)と、ジヒドロキシ化合物(2)とを反応させる工程を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明製造方法における反応は、無溶媒で行ってもよいし、溶媒の存在下で行ってもよい。
溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジブロモエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒;等を挙げることができる。好ましくは、非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。尚、溶媒として、異なる複数種の溶媒を併用してもよい。
【0010】
本発明製造方法における反応での溶媒の使用量としては、ジヒドロキシ化合物(2)1重量部に対して、例えば、0.01重量部〜100重量部の範囲等を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.1〜50重量部の範囲等が挙げられる。
本発明製造方法における反応は、常圧条件下で行ってもよいし、加圧条件下で行ってもよいし、減圧条件下で行ってもよい。また、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
本発明製造方法における反応は、エピハロヒドリン(1)、ジヒドロキシ化合物(2)、相間移動触媒、水酸化カリウム及び炭酸カリウム、並びに、必要に応じて、溶媒、後述の脂肪族アルコールを任意の順序で混合すればよい。
本発明製造方法における反応の反応温度としては、例えば、−20℃〜150℃の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、−10℃〜120℃の範囲が挙げられる。
【0011】
本発明製造方法における反応の進行は、液体クロマトグラフィー等の分析手段により、ジヒドロキシ化合物(2)の減少量、又は、ジエポキシ化合物(5)の生成量を測定することによって確認することができる。ジエポキシ化合物(5)の生成量に増加が認められなくなるまで反応を行うことが好ましい。
本発明製造方法における反応での反応時間としては、例えば、1時間〜150時間の範囲内を挙げることができる。
【0012】
本発明製造方法における反応では、炭酸カリウムと併用して、水酸化カリウムが使用される。
水酸化カリウムとしては、例えば、粗粒状、微粉状、ペレット状、フレーク状等の固体の形態のものを挙げることができる。必要に応じて、異なる複数種の粒径、形状の水酸化カリウムを併用してもよい。
本発明製造方法において用いられる水酸化カリウムの使用量としては、ジヒドロキシ化合物(2)1モルに対して、例えば、0.1モル倍〜30モル倍の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.1〜10モル倍の範囲等が挙げられる。より好ましくは、例えば、0.5モル倍〜2モル倍の範囲を挙げることができる。
【0013】
また、本発明製造方法における反応では、水酸化カリウムと併用して、炭酸カリウムが使用される。
炭酸カリウムとしては、例えば、粗粒状、微粉状、ペレット状、フレーク状等の固体の形態のものを挙げることができる。必要に応じて、異なる複数種の粒径、形状の水酸化カリウムを併用してもよい。
本発明製造方法において用いられる炭酸カリウムの使用量としては、ジヒドロキシ化合物(2)1モルに対して、例えば、0.01モル倍〜30モル倍の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.1〜10モル倍の範囲等が挙げられる。より好ましくは、例えば、0.5モル倍〜2モル倍の範囲を挙げることができる。
【0014】
尚、本発明製造方法において用いられる水酸化カリウム及び炭酸カリウムの両者に含まれるカリウムの合計量としては、式(2)で示されるジヒドロキシ化合物1モル倍に対して、例えば、2モル倍〜30モル倍を挙げることができる、好ましくは、2モル倍〜10モル倍が挙げられる。
【0015】
本発明製造方法において用いられる相間移動触媒としては、例えば、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩及びクラウンエーテルからなる触媒群から選ばれる少なくとも1種である触媒を挙げることができる。
具体的には例えば、4級アンモニウムハライド、4級ホスホニウムハライド、クラウンエーテル、これらの混合物等を挙げることができる。好ましくは、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヨージド、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ベンジルトリブチルアンモニウムヨージド、テトラメチルホスホニウムクロリド、テトラエチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリエチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、テトラメチルホスホニウムブロミド、テトラエチルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリメチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリエチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラメチルホスホニウムヨージド、テトラエチルホスホニウムヨージド、テトラブチルホスホニウムヨージド、テトラフェニルホスホニウムヨージド、ベンジルトリブチルホスホニウムヨージド、ベンジルトリフェニルホスホニウムヨージド、18−クラウン−6−エーテル、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6−エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテル、15−クラウン−5−エーテル等を挙げることができる。好ましくは、例えば、テトラブチルアンモニウムブロミド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミド等が挙げられる。必要に応じて、異なる複数種の相間移動触媒を併用してもよい。
【0016】
本発明製造方法において用いられる相間移動触媒の使用量としては、ジヒドロキシ化合物(2)1モルに対して、例えば、0.0001モル倍〜1モル倍の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.001〜0.5モル倍の範囲等が挙げられる。
【0017】
本発明製造方法における反応系内に、更に、脂肪族2級アルコール及び脂肪族3級アルコールからなる脂肪族アルコール群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族アルコールを共存させてもよい。
ここで、「脂肪族2級アルコール及び脂肪族3級アルコールからなる脂肪族アルコール群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族アルコール」としては、例えば、炭素数3〜12の脂肪族2級アルコール、炭素数4〜12の脂肪族3級アルコール等を挙げることができる。好ましくは、例えば、炭素数3〜10の脂肪族2級アルコール、炭素数4〜10の脂肪族3級アルコール等が挙げられる。
具体的には例えば、2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−オクタノール、4−デカノール、2−ドデカノール、3−メチル-2−ブタノール、3,3−ジメチル-2−ブタノール、3−メチル-2−ペンタノール、5−メチル-2−ヘキサノール、4−メチル-3−ヘプタノール、2−メチル−2−プロパノール、2−メチル−2−ブタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、2−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、3−エチル−3−ペンタノール、2,3−ジメチル−3−ペンタノール、3−エチル−2,2−ジメチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ヘキサノール、3,7−ジメチル−3−オクタノール等を挙げることができる。必要に応じて、異なる複数種の前記脂肪族アルコールを併用してもよい。
【0018】
本発明製造方法において用いられる前記脂肪族アルコールの使用量としては、例えば、ジヒドロキシ化合物(2)1モルに対して、例えば、0.01モル倍〜100モル倍の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、0.1〜50モル倍の範囲等が挙げられる。
【0019】
本発明製造方法において用いられるエピハロヒドリン(1)について説明する。
エピハロヒドリン(1)におけるXとしては、例えば、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を挙げることができる。好ましくは、塩素原子が挙げられる。
具体的には例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン等を挙げることができる。好ましくは、エピクロロヒドリンが挙げられる。
本発明製造方法において用いられるエピハロヒドリン(1)の使用量としては、例えば、ジヒドロキシ化合物(2)1モルに対して、例えば、2モル倍〜200モル倍の範囲を挙げることができる。好ましくは、例えば、5〜150モル倍の範囲等が挙げられる。
【0020】
本発明製造方法において用いられるジヒドロキシ化合物(2)について説明する。
ジヒドロキシ化合物(2)における炭素数1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等を挙げることができる。
【0021】
ジヒドロキシ化合物(2)としては、例えば、前述のジヒドロキシ化合物(6)、前述のジヒドロキシ化合物(7)、式(8)

(式中、R29〜R32はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示されるジヒドロキシ化合物(以下、ジヒドロキシ化合物(8)と記すこともある。)、式(9)

(式中、R33〜R40はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
で示されるジヒドロキシ化合物(以下、ジヒドロキシ化合物(9)と記すこともある。)等を挙げることができる。好ましくは、前述のジヒドロキシ化合物(6)、前述のジヒドロキシ化合物(7)等が挙げられる。
【0022】
より具体的なジヒドロキシ化合物(2)としては、例えば、4−ヒドロキシフェニル=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−ヒドロキシ−2,3−ジメチルフェニル=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−ヒドロキシ−2,3−ジエチルフェニル=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−ヒドロキシ−2,3−ジプロピルフェニル=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−ヒドロキシ−2,5−ジエチルフェニル=6−ヒドロキシ−2−ナフトアートおよび4−ヒドロキシ−2,5−ジプロピルフェニル=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−ヒドロキシフェニル=4”−ヒドロキシビフェニル−4’−カルボキシレート、4−(4’−ヒドロキシ−1,1’−ビフェニル)=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−(4’−ヒドロキシ−3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル)=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−(4’−ヒドロキシ−3,3’−ジエチル−1,1’−ビフェニル)=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−(4’−ヒドロキシ−3,3’−ジプロピル−1,1’−ビフェニル)=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−(4’−ヒドロキシ−1,1’−ビフェニル)=4’−ヒドロキシ−1,1’−ビフェニル−4−カルボキシレート、4−(4’−ヒドロキシ−3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル)=4’−ヒドロキシ−1,1’−ビフェニル−4−カルボキシレート、4−(4’−ヒドロキシ−3,3’−ジエチル−1,1’−ビフェニル)=4’−ヒドロキシ−1,1’−ビフェニル−4−カルボキシレート、4−(4’−ヒドロキシ−3,3’−ジプロピル−1,1’−ビフェニル)=4’−ヒドロキシ−1,1’−ビフェニル−4−カルボキシレート等を挙げることができる。好ましくは、例えば、4−ヒドロキシフェニル=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート、4−ヒドロキシフェニル=4”−ヒドロキシビフェニル−4’−カルボキシレート等が挙げられる。
【0023】
尚、本発明製造方法において用いられるジヒドロキシ化合物(2)の調製方法としては、例えば、酸の存在下、式(10)

(式中、Arは前記と同じ意味を表わす。)
で示されるヒドロキシカルボン酸(以下、ヒドロキシカルボン酸(10)と記すこともある。)と、式(11)

(式中、Arは前記と同じ意味を表わす。)
で示されるジヒドロキシ化合物(以下、ジヒドロキシ化合物(11)と記すこともある。)とをエステル化反応させる方法(例えば、US2008/0221289A1参照)や、式(12)

(式中、R41は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わす。Xはハロゲン原子を表わす。Arは前記と同じ意味を表わす。)
で示されるカルボン酸ハロゲン化物(以下、カルボン酸ハロゲン化物(12)と記すこともある。)と、式(13)

(式中、R41は前記と同一の意味を表わす。Arは前記と同じ意味を表わす。)
で示されるヒドロキシ化合物(以下、ヒドロキシ化合物(13)と記すこともある。)とを反応させた後、得られた生成物に第一級アミン又はアンモニアを反応させる方法等を挙げることができる。
【0024】
本発明製造方法において、前述の如く、エピハロヒドリン(1)とジヒドロキシ化合物(2)とを反応させた後、例えば、(a)得られた反応マスに水を加え、必要に応じて、水に不溶な溶媒を加えることにより、ジエポキシ化合物(5)を含む有機層を得、当該有機層を水洗する。(b)得られた有機層から、必要に応じて、不溶分を濾過で除去した後、過剰のエピハロヒドリン(1)及び溶媒を留去することにより、ジエポキシ化合物(5)を取得してもよい。また、ジエポキシ化合物(5)は、必要に応じて、再結晶等の通常の精製手段を施すことにより、更に精製してもよい。
【0025】
ここで、「水に不溶な溶媒」とは、水と分液し得る溶媒であり、ジエポキシ化合物(5)を溶解し得る溶媒である。当該「水に不溶な溶媒」としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶媒;例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素溶媒;等を挙げることができる。
前記「水に不溶な溶媒」の使用量としては、ジエポキシ化合物(5)1重量部に対して、例えば、1重量部〜200重量部の範囲等を挙げることができる。好ましくは、例えば、10重量部〜50重量部の範囲等が挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0027】
実施例1 (ジヒドロキシ化合物(2)の製造例(その1))
式(2−1)

で示される4−ヒドロキシフェニル=6−ヒドロキシ−2−ナフトアート(以下、ジヒドロキシ化合物(2−1)と記すことがある。)は、以下のように製造した。

ディーンスターク装置を取り付けた反応容器に、4−ヒドロキシナフトエ酸20.0g(106.3mmol)、ヒドロキノン35.11g(318.8mmol)、硫酸1.04g(10.63mmol)及びトルエン約90gを仕込み、これを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を還流条件下3時間反応させた後、得られた反応マスを室温まで冷却した。尚、還流に伴い留出した水は、ディーンスターク装置により、反応容器から除去した。
次いで、得られた混合物から濾別により、当該混合物中に析出した固体成分を回収した。回収された固体成分(粗結晶)を、メタノール300g及びイオン交換水150mLに混合した後、得られた混合物から不溶分を濾別除去することにより、濾液を回収した。回収された濾液にイオン交換水250mLを加えた後、得られた混合物を濾過することにより、当該混合物中に析出した固体成分を回収した。回収された固体成分を100℃で1時間減圧乾燥することにより、薄灰色結晶18.44gを得た。
このようにして得られた薄灰色結晶を、液体クロマトグラフィーにより分析したところ、95.0%(クロマトグラフの面積百分率から算出した結果)であった。尚、前記結晶中のジヒドロキシ化合物(2−1)の含有量を95.0重量%と仮定すると、4−ヒドロキシナフトエ酸を基準とするジヒドロキシ化合物(2−1)の収率は、59%であった。
【0028】
実施例2 (ジヒドロキシ化合物(2)の製造例(その2))
式(2−2)

で示される4−ヒドロキシフェニル=4”−ヒドロキシビフェニル−4’−カルボキシレート(以下、ジヒドロキシ化合物(2−2)と記すことがある。)は、以下のように製造した。
ディーンスターク装置を取り付けた反応容器に、4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸3.54g、ヒドロキノン9.46g、98%硫酸0.16g及びトルエンを仕込み、これを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を還流条件下3時間反応させた後、得られた反応マスを室温まで冷却した。尚、還流に伴い留出した水は、ディーンスターク装置により、反応容器から除去した。
次いで、得られた混合物から濾別により、当該混合物中に析出した固体成分を回収した。回収された固体成分(粗結晶)を、メタノール20mLで洗浄した後、更にイオン交換水20mLで洗浄した。得られた固体成分を、メタノール40mLで更に洗浄した後、減圧乾燥することにより、ジヒドロキシ化合物(2−2)の白色固体4.22gを得た。
このようにして得られた白色固体を、液体クロマトグラフィーにより分析したところ、97.2%(クロマトグラフの面積百分率から算出した結果)であった。尚、前記固体中のジヒドロキシ化合物(2−2)の含有量を97.2重量%と仮定すると、4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸を基準とするジヒドロキシ化合物(2−2)の収率は、81%であった。
【0029】
実施例3 (ジエポキシ化合物(5)の製造例(その1))
式(14)

で示される4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル=6−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−ナフトアート(以下、ジエポキシ化合物(14)と記すことがある。)を以下のように製造した。
冷却装置を取り付けた反応容器に、実施例1で得られたジヒドロキシ化合物(2−1)1.00g(3.57mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド0.058g(0.18mmol)、微粉状の水酸化カリウム0.24g(4.28mmol)、粉末状の炭酸カリウム0.49g(3.57mmol)、エピクロロヒドリン13.20g(142.72mmol)及び2−プロパノール8.65g(143.93mmol)を仕込み、これを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を50℃で6時間攪拌した後、当該混合物を室温まで冷却した。
得られた混合物に、イオン交換水50mL及びクロロホルム50mLを加えて混合した後、クロロホルム層と水層とに分液した。回収されたクロロホルム層は、更にイオン交換水で2回洗浄した。
このようにして得られたクロロホルム層を液体クロマトグラフィー内部標準法(内部標準:n−オクチルベンゼン)により分析した結果、ジヒドロキシ化合物(2−1)を基準とするジエポキシ化合物(14)の収率は、83%であった。
【0030】
実施例4 (ジエポキシ化合物(5)の製造例(その2))
式(14)

で示される4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル=6−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−ナフトアート(即ち、ジエポキシ化合物(14))を以下のように製造した。
冷却装置を取り付けた反応容器に、実施例1で得られたジヒドロキシ化合物(2−1)1.00g(3.57mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド0.121g(0.357mmol)、ペレット状の水酸化カリウム0.30g(5.35mmol)、粉末状の炭酸カリウム0.37g(2.68mmol)、エピクロロヒドリン13.20g(142.72mmol)及び2−プロパノール8.65g(143.93mmol)を仕込み、これを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を50℃で6時間攪拌した後、当該混合物を室温まで冷却した。
得られた混合物に、イオン交換水50mL及びクロロホルム50mLを加えて混合した後、クロロホルム層と水層とに分液した。回収されたクロロホルム層は、更にイオン交換水で2回洗浄した。
このようにして得られたクロロホルム層を液体クロマトグラフィー内部標準法(内部標準:n−オクチルベンゼン)により分析した結果、ジヒドロキシ化合物(2−1)を基準とするジエポキシ化合物(14)の収率は、84%であった。
【0031】
実施例5 (ジエポキシ化合物(5)の製造例(その3))
式(14)

で示される4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル=6−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−ナフトアート(即ち、ジエポキシ化合物(14))を以下のように製造した。
冷却装置を取り付けた反応容器に、実施例1で得られたジヒドロキシ化合物(2−1)1.00g(3.57mmol)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド0.072g(0.357mmol)、ペレット状の水酸化カリウム0.30g(5.35mmol)、粉末状の炭酸カリウム0.39g(2.86mmol)、エピクロロヒドリン13.20g(142.72mmol)及び2−プロパノール8.65g(143.93mmol)を仕込み、これを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を50℃で6時間攪拌した後、当該混合物を室温まで冷却した。
得られた混合物に、イオン交換水50mL及びクロロホルム50mLを加えて混合した後、クロロホルム層と水層とに分液した。回収されたクロロホルム層は、更にイオン交換水で2回洗浄した。
このようにして得られたクロロホルム層を液体クロマトグラフィー内部標準法(内部標準:n−オクチルベンゼン)により分析した結果、ジヒドロキシ化合物(2−1)を基準とするジエポキシ化合物(14)の収率は、86%であった。
【0032】
実施例6 (ジエポキシ化合物(5)の製造例(その4))
式(15)

で示される4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル=4−(4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)ベンゾエート(即ち、ジエポキシ化合物(15))を以下のように製造した。
冷却装置を取り付けた反応容器に、実施例2で得られたジヒドロキシ化合物(2−2)0.88g(2.87mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド0.046g(0.14mmol)、粉末状の水酸化カリウム0.29g(5.17mmol)、粉末状の炭酸カリウム0.40g(2.87mmol)、エピクロロヒドリン10.63g(114.92mmol)及び2−プロパノール7.04g(94.98mmol)を仕込み、これを約25℃の室温で混合した。得られた混合物を50℃で8時間攪拌した後、当該混合物を室温まで冷却した。
得られた混合物に、イオン交換水50mL及びクロロホルム50mLを加えて混合した後、クロロホルム層と水層とに分液した。回収されたクロロホルム層は、更にイオン交換水で2回洗浄した。
このようにして得られたクロロホルム層を液体クロマトグラフィー内部標準法(内部標準:n−オクチルベンゼン)により分析した結果、ジヒドロキシ化合物(2−1)を基準とするジエポキシ化合物(15)の収率は、80%であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ベンゾエート構造を有するジエポキシ化合物等を収率よく製造する方法を提供可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(5)


(式中、Ar、Arは、下記式(2)での置換基の定義と同じ意味を表わす。)
で示されるジエポキシ化合物の製造方法であり、相間移動触媒、水酸化カリウム及び炭酸カリウムの存在下、式(1)


(式中、Xはハロゲン原子を表す。)
で表されるエピハロヒドリンと、式(2)


(式中、Arは式(3)


(式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)で示される構造群に含まれる構造のうち、いずれか一つの構造を表し、Arは式(4)


(式中、R〜R16はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)で示される構造群に含まれる構造のうち、いずれかの一つの構造を表す。)
で示されるジヒドロキシ化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
反応系内に存在させる水酸化カリウムの使用量が、式(2)で示されるジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.1モル倍〜10モル倍の範囲であり、また反応系内に存在させる炭酸カリウムの使用量は、式(2)で示されるジヒドロキシ化合物1モルに対して、0.1モル倍〜10モル倍の範囲であり、且つ、前記水酸化カリウム及び炭酸カリウムの両者に含まれるカリウムの合計量が、式(2)で示されるジヒドロキシ化合物1モル倍に対して、2モル倍〜30モル倍であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
相間移動触媒が、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩及びクラウンエーテルからなる触媒群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
更に、反応系内に、脂肪族2級アルコール及び脂肪族3級アルコールからなるアルコール群から選ばれる少なくとも1種の脂肪族アルコールを共存させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの請求項記載の製造方法。
【請求項5】
式(2)で示されるジヒドロキシ化合物が、式(6)


(式中、R17〜R20はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
で示されるジヒドロキシ化合物、又は、式(7)


(式中、R21〜R28はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表す。)
で示されるジヒドロキシ化合物であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの請求項記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−206949(P2012−206949A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71890(P2011−71890)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】