説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】空気入りタイヤのベーストレッド、ベルトクッション、上部軟質ビードフィラー等の加硫成形材料として好適に使用し得るジエン系ゴム組成物であって、粘度の上昇や弾性率の低下を招くことなく、低発熱性や高破断伸びを有する加硫成形品を与え得るものを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対し、瀝青炭粉砕物8〜40重量部、カーボンブラック15重量部以上、シリカ5〜20重量部を添加し、かつこれら充填剤の合計配合量を40〜70重量部としたジエン系ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、空気入りタイヤのベーストレッド、ベルトクッション、上部軟質ビードフィラー等の加硫成形材料として好適に用いられるジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのベーストレッド(アンダートレッド)、ベルトクッション、上部軟質ビードフィラー(下部に位置する硬質ビードフィラーの上部に位置する)等は、空気入りタイヤの内部に配置されるために熱を蓄熱し易く、低発熱性であることが重要な特性とされる。また、その弾性率が小さいと、走行中の変形が大きくなるために疲労劣化が進み易く、またそれぞれの隣接パーツの動きを大きくし、結果的にタイヤの発熱性の悪化やセパレーション等の破壊現象が起り易くなるので、弾性率についても十分な配慮が必要である。
【0003】
さらに、ベーストレッドは、摩耗終期にはタイヤ表面に露出することになるために、またベルトクッションと上部軟質ビードフィラーは走行中に大きな変形を受け易いために、良好な破断伸びが必要となる。これらのことから、空気入りタイヤのベーストレッド、ベルトクッションおよび上部軟質ビードフィラーにおいては、発熱性、弾性率および破断伸びが重要な特性であるといえる。
【0004】
特許文献1には、内層および外層を含む2層以上からなるサイドウォール部を有するタイヤであって、前記内層がゴム成分100重量部に対し5〜80重量部配合された瀝青炭および/または白色フィラーを含有する空気入りラジカルタイヤが記載されている。そして、このような特定の充填剤を特定量配合することによって、内層に対して補強効果が付与され、耐摩耗性およぶ耐亀裂成長性も改善されると述べられている。
【特許文献1】特開2007−153060号公報
【0005】
白色フィラーの一例としてシリカが挙げられており、シリカを用いる場合にはシラン系カップリング剤、好ましくは含イオンシラン系カップリング剤を併用することが好ましいとされているが、白色フィラーの内好ましいものは低コストである点で炭酸カルシウム、クレー等であるとされ、各実施例の白色フィラーとしてもこれらのものが用いられている。
【0006】
また、白色フィラーには、例えばカーボンブラックの如くカーボンを主成分とし、黒色を呈するフィラー以外のものが含まれると記載され、さらに白色フィラーの他にカーボンブラック等の他のフィラーを配合してもよく、カーボンブラックとしては窒素吸着比表面積(BET法)が70〜300m2/g、DBP吸油量が5〜300ml/100g、ヨウ素吸着量が140〜152mg/gの範囲内のものがサイドウォール部の内層に対する補強効果の点で好適であるとされてはいるが、実際に各実施例ではN550(FEF;ヨウ素吸着量43mg/g)またはN330(HAF;同82mg/g)が用いられている。ただし、そのカーボンブラック使用量の範囲についての言及はなく、各実施例を参照すれば、瀝青炭30phrに対してN550 CBが50phrの合計80phrであり(実施例1〜3)、あるいは炭酸カルシウム30、60または70phrに対してN330 CBが50phrの合計80、110または120phrである(実施例4〜9)。
【0007】
一般的に、特許文献1でも言及されているシリカを配合することによって、発熱を低く抑えるという発熱性を向上させることが行われているが、シリカの配合は粘度を上昇させ、工場での加工性を低下させる。また、高破断伸びを得るためには、カーボンブラック配合量の減量や比表面積を大きくする微粒子化などが考えられるが、これは弾性率の低下を招くことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、空気入りタイヤのベーストレッド、ベルトクッション、上部軟質ビードフィラー等の加硫成形材料として好適に使用し得るジエン系ゴム組成物であって、粘度の上昇や弾性率の低下を招くことなく、低発熱性や高破断伸びを有する加硫成形品を与え得るものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、ジエン系ゴム100重量部に対し、瀝青炭粉砕物8〜40重量部、カーボンブラック15重量部以上、シリカ5〜20重量部を添加し、かつこれら充填剤の合計配合量を40〜70重量部としたジエン系ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るジエン系ゴム組成物は、カーボンブラックに瀝青炭粉砕物を配合し、さらにシリカを併用することにより、加工性を左右する粘度の上昇や弾性率の低下をもたらすことなく、低発熱性で高破断伸びの加硫物を得ることができるので、これらの特性が要求される空気入りタイヤのベーストレッド、ベルトクッションおよび上部軟質ビードフィラーの少くとも1個所を形成するのに用いられる加硫成形材料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が単独であるいはブレンドゴムとして用いられ、好ましくはNR、BR、SBRまたはこれらのブレンドゴムが用いられる。SBRとしては、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)のいずれをも用いることができる。
【0012】
粘結炭または非粘結炭である瀝青炭粉砕物は、石炭の一種で高品位炭と呼ばれる瀝青炭(JIS M1002の石炭分類でB1、B2、C)を含む石炭一般を、平均粒径(ASTM D1511準拠;average 測定機Microtrac SRA 150を用いて測定)約0.01〜100μm、好ましくは約0.05〜50μmに粉砕したものであり、その比重を1.6以下、好ましくは1.35以下のものが用いられる。平均粒径をこの範囲に設定することにより、空気入りタイヤの転がり抵抗を十分に低減することができ、また比重を小さくすることにより、空気入りタイヤを装着した車体の燃費を十分に低減することができる。
【0013】
瀝青炭粉砕物は、ジエン系ゴム100重量部当り8〜40重量部、好ましくは10〜40重量部の割合で用いられる。瀝青炭粉砕物の配合割合がこれよりも少ないと、発熱性の点では若干改善されるものの、粘度、弾性率、破断伸びのいずれもがその値を低下させ、一方これよりも多い割合で用いられると、粘度および破断伸びの点で満足されなくなる。このように、一般的にゴムの補強剤として用いられているカーボンブラックを、瀝青炭粉砕物で置換して行くと、弾性率や破断伸びを低下させることなくあるいは若干改善させて、粘度を低下させ加工性がよくなる。
【0014】
カーボンブラックとしては、好ましくはSAF、ISAF、HAF、FEF、GPE、SRF等のファーネスカーボンブラックが用いられる。これらのカーボンブラックは、ジエン系ゴム100重量部当り15重量部以上、好ましくは15〜30重量部で、かつ瀝青炭粉砕物およびシリカとの合計配合量が40〜70重量部、好ましくは40〜50重量部となるような割合で用いられる。これら充填剤の合計配合量がこれ以上の割合で用いられると、シリカが併用されているにもかかわらず、加工性および破断伸びが低下するようになる。すなわち、前記特許文献1で用いられているような充填剤の合計配合量では、本発明の目的が達成されないことになる。
【0015】
シリカとしては、一般にBET法比表面積が30〜200m2/g、好ましくは50〜150m2/gのものが用いられる。これらは、ハロゲン化けい酸または有機けい素化合物の熱分解法やけい砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法などで製造される乾式法シリカやけい酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法シリカなどであり、コストおよび性能の面からは、湿式法シリカが好んで用いられる。実際には、ゴム工業用として上市されている市販品をそのまま用いることができる。
【0016】
その配合割合は、ジエン系ゴム100重量部当り5〜20重量部である。シリカの配合割合がこれよりも少ないと、粘度が低下して加工性はよくなるものの、破断伸びが低下するようになり、一方これよりも多い配合割合で用いられると、加工性弾性率が悪化するようになる。
【0017】
このようにシリカに求められる特性およびジエン系ゴムとの分散性(シリカはゴムポリマーとの親和性に乏しく、またゴム中でシリカ同士がシラノール基を通して水素結合を生成し、シリカのゴム中への分散性を低下させる性質を有する)を高めるために、シランカップリング剤がシリカ重量に対して2〜15重量%、好ましくは5〜10重量%の割合で用いられる。シランカップリング剤としては、シリカ表面のシラノール基と反応するアルコキシシリル基とポリマーと反応するイオウ連鎖を有するポリスルフィド系シランカップリング剤、例えばビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド等が好んで用いられる。シランカップリング剤の使用割合がこれよりも少ないと、シリカに求められる特性やジエン系ゴムとの分散性が十分に発揮されず、一方これよりも多い添加割合で用いられると、加工性が悪化するようになる。
【0018】
以上の各成分を必須成分とするジエン系ゴム組成物中には、ゴムの配合剤として一般的に用いられている配合剤、例えばジエン系ゴムの種類に応じてイオウ等の加硫剤、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系等の加硫促進剤、タルク、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸、パラフィンワックス、アロマオイル等の加工助剤、酸化亜鉛、老化防止剤、可塑剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0019】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、用いられたジエン系ゴム、加硫剤、加硫促進剤の種類およびその配合割合に応じた加硫温度で加硫され、空気入りタイヤのベーストレッド(アンダートレッド)、ベルトクッションおよび上部軟質ビードフィラー(下部に位置する硬質ビードフィラーの上部に位置する)を形成する。
【実施例】
【0020】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0021】
標準例
天然ゴム(RSS#3) 100重量部
N300カーボンブラック(東海カーボン製品シーストN) 40 〃
瀝青炭粉砕物(Coal Fillers Incorporated社製品Austin Black 325; −
平均粒径5.50μm、比重1.31±0.03)
シリカ(デグッサ製品Ultrasil VN3GR) −
シランカップリング剤(デグッサ製品Si69) −
老化防止剤(住友化学製品アンチゲンRD-G) 2.0 〃
ステアリン酸 2.0 〃
亜鉛華(正同化学工業製品酸化亜鉛3種) 3.0 〃
イオウ(アクゾリーベル製品クリステックスHS OT 20) 1.0 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーDM) 1.0 〃
【0022】
以上の各成分の内、加硫促進剤とイオウを除く各成分を3L密閉型ミキサで5分間混練し、150℃に達したとき放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤とイオウを加え、オープンロールで混練し、ジエン系ゴム組成物を得た。
【0023】
得られたジエン系ゴム組成物について粘度を測定すると共に、これを150℃で30分間加硫して加硫ゴムシート(15×15×0.2cm)を得、得られた加硫ゴムシートについて、次の各項目の測定を行った。
粘度:JIS K6300準拠;ジエン系ゴム組成物について100℃で大ロータを用いて測定し、標準例の場合の値を100とする指数で表示(指数が大きい程粘度が高く、加工性が悪い)
弾性率:JIS K6251準拠;200%モジュラスを測定し、標準例の場合の値を100とする指数で表示(指数が大きい程弾性率が高い)
破断伸び:JIS K6251準拠;室温条件下で測定し、標準例の場合の値を100とする指数で表示(指数が大きい程破断時伸びが大きく、良好とされる)
発熱性:JIS K-6394準拠;初期歪10%、振幅2%、周波数20Hzの条件下で20℃におけるtanδを測定し、標準例の場合を100とする指数で表示(指数が大きい程発熱し難いことを示す)
【0024】
実施例1〜5、比較例1〜7
標準例において、天然ゴム、老化防止剤、ステアリン酸、亜鉛華、イオウおよび加硫促進剤がそれぞれ同量用いられ、カーボンブラック、瀝青炭粉砕物、シリカおよびこれら充填剤の合計配合量、シランカップリング剤の配合量(いずれも重量部)がそれぞれ表1に示されるように変更して用いられた。
【0025】
実施例6
実施例1において、天然ゴム100重量部の代りに、天然ゴム80重量部とSBR(日本ゼオン製品Nipol 1502)20重量部とのブレンドゴムが用いられた。
【0026】
実施例7
実施例1において、天然ゴム100重量部の代りに、天然ゴム80重量部とポリブタジエンゴム(日本ゼオン製品Nipol BR 1220)20重量部とのブレンドゴムが用いられた。
【0027】
表1
カーボン 充填剤 カップ
ブラック 瀝青物 シリカ 合計量 リング剤
実施例1 25 10 10 45 0.8
〃 2 30 10 5 45 0.4
〃 3 17 10 20 47 1.6
〃 4 20 30 5 55 0.4
〃 5 15 40 10 65 0.8
比較例1 30 20 − 50 −
〃 2 20 40 − 60 −
〃 3 35 − 7 42 0.6
〃 4 15 10 30 55 2.4
〃 5 35 5 3 43 0.2
〃 6 15 50 10 75 0.8
〃 7 20 10 5 35 0.4
実施例6 25 10 10 45 0.8
〃 7 25 10 10 45 0.8
【0028】
以上の標準例、実施例1〜7および比較例1〜7で得られた結果は、次の表2に示される。
表2
粘度 弾性率 破断伸び 発熱性
標準例 100 100 100 100
実施例1 99 101 104 121
〃 2 87 104 103 114
〃 3 100 101 102 120
〃 4 91 100 100 126
〃 5 100 100 101 135
比較例1 98 105 98 111
〃 2 95 98 96 124
〃 3 111 101 100 109
〃 4 114 96 100 121
〃 5 103 97 98 106
〃 6 103 103 97 130
〃 7 79 86 112 142
実施例6 100 108 105 144
〃 7 100 100 105 125
【0029】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 本発明のジエン系ゴム組成物では、カーボンブラックに瀝青炭粉砕物およびシリカを併用することで、加工率、弾性率、破断伸びおよび発熱性の少くとも一つが、他の特性を低下させることなく改善され、特に発熱が低くなることが特筆される(実施例1〜7)。
(2) カーボンブラックを瀝青炭粉砕物で置換していくと、粘度が低下して加工性がよくなり、また発熱性も低くなるが、弾性率、破断伸びが低下する(比較例1〜2)。
(3) カーボンブラックの一部をシリカで置換していくと、発熱は低くなるが、加工性は悪化する(比較例3)。
(4) シリカの配合量が規定されたものよりも多いと、加工性が悪化し、さらに弾性率の低下がみられる(比較例4)。
(5) 瀝青炭粉砕物およびシリカの配合量が規定されたものよりも少ないと、発熱性が若干改善されるものの、他の特性はいずれも低下する(比較例5)。
(6) 瀝青炭粉砕物量および充填剤合計量が規定された配合量よりも多いと、シリカと併用しても、加工性および破断伸びが低下する(比較例6)。
(7) 充填剤合計配合量が規定された量よりも少ない場合には、弾性率が低下する(比較例7)。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】空気入りタイヤの要部断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ベーストレッド
2 ベルトクッション
3 上部軟質ビードフィラー
3’ 下部硬質ビードフィラー
4 キャップトレッド
5 ベルト
6 サイドウォール
7 インナーライナー
8 ベルトエッジクッション
9 カーカス
10 チェーファー
11 リムクッション
12 ビードコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、瀝青炭粉砕物8〜40重量部、カーボンブラック15重量部以上、シリカ5〜20重量部を添加し、かつこれら充填剤の合計配合量を40〜70重量部としたジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
空気入りタイヤのベーストレッド、ベルトクッションおよび上部軟質ビードフィラーの少くとも1個所を形成させる加硫成形材料として用いられる請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
請求項2記載のジエン系ゴム組成物から加硫成形されたベーストレッド、ベルトクッションおよび上部軟質ビードフィラーの少くとも1個所を形成させた空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−155483(P2009−155483A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335557(P2007−335557)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】