説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】スタッドレスタイヤに要求される氷上性能、耐コンプレッションセット性(耐セット性)および低発熱性をバランス良く改善せしめ、そのキャップトレッド部などに有効に用いられる加硫物を与え得るジエン系ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対し、モノメタクリル酸亜鉛4〜8重量部、珪藻土2〜13重量部およびカーボンブラック30〜80重量部を配合してなるジエン系ゴム組成物。このジエン系ゴム組成物から得られる加硫成形物は、スタッドレスタイヤに要求される氷上性能、耐セット性および低発熱性をバランス良く改善させるので、スタッドレスタイヤキャップトレッド部などの成形材料として有効に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、スタッドレスタイヤキャップトレッド部の加硫成形材料などとして好適に用いられるジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
積雪路や凍結路での走行を目的とするスタッドレスタイヤは、その本来の目的である氷上性能に加えて低燃費化も求められている。
【0003】
氷上性能を上げるべく、そのキャップトレッド部はサマータイヤに比べて深さのある溝を構成するキャップ部ブロックが多く、またキャップ部ブロックに切り込まれた細かい溝(サイプ)も多数設けられている。そのため、キャップコンパウンドが圧縮歪を受けた際にその歪みが元に戻りにくい(圧縮永久歪が高く、コンプレッションセット化し易い)とサイプを塞いだり、ブロック間が挟まってタイヤの溝を塞ぐため、氷上性能が悪化してしてしまう。従って、スタッドレスタイヤのキャップトレッド部のゴム材料には、すぐれた氷上性能、低発熱性に加えて、キャップコンパウンドが圧縮歪を受けた際にその歪みが元に戻りにくいといった現象を防止する(圧縮永久歪を低くする)ことも必要となる。
【0004】
圧縮永久歪を低くする方法としては、加硫促進剤を多量に配合し、有効加硫(EV加硫)方式により加硫を行うことが提案されている。しかるに、かかる方法では硬度が上昇してしまい、スタッドレスタイヤの最重要性能である氷上性能が悪化するといった問題があった。
【非特許文献1】新版ゴム技術の基礎 改訂版(日本ゴム協会編) 21〜22頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、スタッドレスタイヤに要求される氷上性能、耐コンプレッションセット性(耐セット性)および低発熱性をバランス良く改善せしめ、そのキャップトレッド部などに有効に用いられる加硫物を与え得るジエン系ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、ジエン系ゴム100重量部に対し、モノメタクリル酸亜鉛4〜8重量部、珪藻土2〜13重量部およびカーボンブラック30〜80重量部を配合してなるジエン系ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るジエン系ゴム組成物から得られる加硫成形物は、スタッドレスタイヤに要求される氷上性能、耐セット性および低発熱性をバランス良く改善させるので、スタッドレスタイヤキャップトレッド部などの成形材料として有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が単独であるいはブレンドゴムとして用いられ、好ましくはNR、BR、SBRまたはこれらのブレンドゴムが用いられる。SBRとしては、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)のいずれをも用いることができる。
【0009】
モノメタクリル酸亜鉛は、メタクリル酸が亜鉛に対して配位結合しているものと考えられ、〔CH(CH3)=CHCOO〕2Znで表わされるジメタクリル酸亜鉛とは区別される。実際には、モノメタクリル酸亜鉛として市販されているサートマー社製品SR709等をそのまま用いることができる。また、モノメタクリル酸亜鉛の合成例としては、塩基過剰でメタクリル酸と酸化亜鉛とを反応させて得られた、例えば60重量%のモノメタクリル酸亜鉛と30重量%のジメタクリル酸亜鉛、10重量%の酸化亜鉛とからなる混合塩が挙げられる。
【特許文献1】特表平11−512776号公報
【0010】
モノメタクリル酸亜鉛は、ジエン系ゴム100重量部当り4〜8重量部、好ましくは5〜7重量部の割合で用いられる。モノメタクリル酸亜鉛の配合割合がこれよりも少ないと、発熱量が増加し、耐セット性が悪化するようになり、一方これ以上の割合で用いられると、氷上性能が悪化するようになるので好ましくない。ここでモノメタクリル酸亜鉛は、酸化亜鉛と併用することなく亜鉛化合物として単独で用いることもできるし、亜鉛化合物の合計量が8重量部以内であれば、酸化亜鉛等との併用も可能である。
【0011】
ここで、スタッドレスタイヤに照準を定めたものではないが、タイヤの耐摩耗性を大幅に低下させることなく、転がり抵抗を低減させる方法として、(A)ゴム成分100重量部に対し、(B)メタクリル酸のMg塩、Zn塩またはAl塩を1〜3重量部または0.5〜4重量部、(C)N,N′-ビス(2-メチル-2-ニトロプロピル)-1,6-ヘキサンジアミン1〜3重量部、0.1〜1.4重量部または0.3〜0.7重量部および(D)シリカおよび/またはカーボンブラックを配合したゴム組成物が提案されている。
【特許文献2】特開2003−213045号公報
【特許文献3】特開2003−292683号公報
【特許文献4】特開2003−286367号公報
【0012】
一般的なタイヤのトレッド形成に好適に用いられるというこれら特許文献2〜4の発明では、(C)成分ジアミン化合物を必須成分とするばかりではなく、(B)成分として用いられているMg塩やZn塩としては、市販品である三新化学工業製品サンエステル SK-13またはSK-30が用いられており、これらはサンエステルのHPの記載からジメタクリル酸Mg塩またはZn塩である。
【0013】
さらに、メタクリル酸Zn塩については、(A)天然ゴム100重量部に対し、(B)カーボンブラック35〜50重量部、(C)シリカ3〜15重量部、(D)グリコール0.1〜3.0重量部および(E)モノメタクリル酸亜鉛またはジメタクリル酸亜鉛0.05〜0.8重量部を配合したゴム組成物についての提案もみられ、このゴム組成物はタイヤのスチールゴムの被覆ゴムとしてすぐれていると述べられているが、(E)成分のモノメタクリル酸亜鉛またはジメタクリル酸亜鉛についての説明は全くなく、その商品名も記載されていない。
【特許文献5】特開平5−51491号公報
【0014】
珪藻土は、単細胞生物である珪藻の殻から主としてなる軟質の岩石もしくは土壌であり、純粋な珪藻殻はおよそSiO2 94%、H2O 6%の化学組成を有するが、天然の珪藻土は一般に不純物を含んでいる。本発明で用いられる珪藻土は、円筒状または円柱状の多孔質体であって、その高さ(100μm以下、好ましくは1〜30μm)をL、底面の直径をDとしたときのL/Dが0.2〜3.0、好ましくは0.3〜2.0のものが用いられる。具体的には、Melosira Granulate Curbataと呼ばれる種類であって、均一な多孔質でユニークなハニカム構造を有しており、それの典型的な化学組成はSiO2 89.2%、Al2O3 4.0%、Fe2O3 1.5%、CaO 0.5%、MgO 0.3%である。実際には、園芸用等の用途に一般的に用いられている平板状の珪藻土とは異なり、例えばメロシア属の特殊な円筒状または円柱状の珪藻土であるが、かかる珪藻土は公知であり、上市もされているので、本発明ではそのような市販品を用いることもできる。
【0015】
珪藻土は、ジエン系ゴム100重量部に対し2〜13重量部、好ましくは3〜12重量部の割合で用いられる。珪藻土の配合割合がこれ以外では、氷上性能が低下するようになる。
【0016】
カーボンブラックとしては、一般にはSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF等のファーネスカーボンブラックが用いられ、これはジエン系ゴム100重量部当り30〜80重量部、好ましくは40〜70重量部の割合で用いられる。カーボンブラックの配合割合がこれよりも少ないと、タイヤに必要とされる剛性を満足できず、一方これよりも多い配合割合で用いられると、発熱が高くなり、低発熱性が損なわれるようになる。
【0017】
以上の各成分を必須成分とするジエン系ゴム組成物中には、ゴムの配合剤として一般的に用いられている配合剤、例えばジエン系ゴムの種類に応じて硫黄等の加硫剤、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系等の加硫促進剤、シリカ、タルク、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸、パラフィンワックス、アロマオイル等の加工助剤、老化防止剤、可塑剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0018】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、用いられたジエン系ゴム、加硫剤、加硫促進剤の種類およびその配合割合に応じた加硫温度で加硫され、図1に示されるようにスタッドレスタイヤのキャップトレッド部4を形成する。
【実施例】
【0019】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0020】
比較例1(標準例)
天然ゴム(RSS#4) 60.0重量部
ポリブタジエンゴム(日本ゼオン製品NIPOL BR 1220) 40.0 〃
SAFカーボンブラック(東海カーボン製品シースト9) 50.0 〃
老化防止剤(住友化学製品アンチゲン6C) 2.0 〃
亜鉛華(正同化学工業製品酸化亜鉛3種) 2.5 〃
ステアリン酸(千葉脂肪酸製品ビーズステアリン酸) 3.0 〃
硫黄(鶴見化学工業製品金華印油入微粉硫黄) 2.0 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーCZ-G) 1.5 〃
以上の各成分の内、加硫促進剤と硫黄を除く各成分を3L密閉型ミキサで5分間混練し、150℃に達したとき放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄を加え、オープンロールで混練し、ジエン系ゴム組成物を得た。
【0021】
比較例2
比較例1において、さらに珪藻土(EAGLE-PICHER FILTRATION & MINERALS社製品CELATOM LCS-3)5.0重量部が用いられた。
【0022】
比較例3
比較例1において、さらに珪藻土(CELATOM LCS-3)10.0重量部が用いられた。
【0023】
比較例4
比較例1において、亜鉛華の代わりにモノメタクリル酸亜鉛(サートマー社製品SR709)6.0重量部が用いられた。
【0024】
比較例5
比較例1において、さらに珪藻土(CELATOM LCS-3)15.0重量部が用いられ、また亜鉛華の代わりにモノメタクリル酸亜鉛(SR709)10.0重量部が用いられた。
【0025】
実施例1
比較例1において、さらに珪藻土(CELATOM LCS-3)5.0重量部が用いられ、また亜鉛華の代わりにモノメタクリル酸亜鉛(SR709)6.0重量部が用いられた。
【0026】
実施例2
比較例1において、さらに珪藻土(CELATOM LCS-3)13.0重量部が用いられ、また亜鉛華の代わりにモノメタクリル酸亜鉛(SR709)7.0重量部が用いられた。
【0027】
実施例3
比較例1において、さらに珪藻土(CELATOM LCS-3)13.0重量部が用いられ、また亜鉛華の代わりにモノメタクリル酸亜鉛(SR709)8.0重量部が用いられた。
【0028】
実施例4
比較例1において、亜鉛華量が1重量部に変更され、また珪藻土(CELATOM LCS-3)2.0重量部およびモノメタクリル酸亜鉛(SR709)4.0重量部がさらに用いられた。
【0029】
各比較例および実施例で得られたジエン系ゴム組成物を150℃で30分間加硫して所定の加硫ゴム試験片を得、得られた加硫ゴム試験片について、次の各項目の測定を行った。
氷上性能:加硫シートを偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩
擦試験機を用い、測定温度-3.0℃および-1.5℃、荷重0.54MPa(5.5kgf/
cm2)、ドラム回転速度25km/時間の条件下で氷上摩擦を測定し、標準例で
得られた値を100とする指数で示した
(この値の大きい程、氷上性能にすぐれていることを示している)
耐セット性:JIS K6262準拠、25%の歪率で、70℃、22時間後における圧縮永久歪を
測定し、標準例で得られた値を100とする逆数を指数で示した
(この値の大きい程、耐セット性にすぐれていることを示している)
発熱性:JIS K6394準拠、東洋精機製作所製粘弾性スペクトロメーターを用い、初期
歪10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、20℃におけるtanδを測定し、
標準例で得られた値を100とする逆数を指数として示した
(この値が大きい程、発熱量が抑えられていることを示している)
【0030】
以上の各比較例、実施例で得られた結果は、次の表に示される。

比較例 実施例

氷上性能 100 108 115 94 96 104 110 101 101
耐セット性 100 96 95 104 102 103 102 106 100
発熱性 100 98 97 104 103 103 100 107 102
【0031】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 本発明の要件を満足させている実施例1〜4は、氷上性能、耐セット性および低発熱性をバランス良く満足させている。
(2) 標準例である比較例1と比較して、モノメタクリル酸亜鉛さらに用いることなく珪藻土のみを追加すると、氷上性能は改善されるものの、耐セット性および低発熱性が悪化する(比較例2〜3)。
(3) 標準例と比較して、珪藻土をさらに用いることなくモノメタクリル酸亜鉛のみを追加すると、耐セット性および低発熱性は改善されるものの、氷上性能が悪化する(比較例4)。
(4) 標準例と比較して、珪藻土およびモノメタクリル酸亜鉛をそれぞれ本願発明の規定量以上用いると、耐セット性および低発熱性は改善されるものの、氷上性能が悪化する(比較例5)。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】スタッドレスタイヤの要部断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 キャップトレッド
5 ベーストレッド
6 ベルト
7 カーカス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対し、モノメタクリル酸亜鉛4〜8重量部、珪藻土2〜13重量部およびカーボンブラック30〜80重量部を配合してなるジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
珪藻土が円筒状または円柱状の多孔質体である請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
円筒体または円柱体の高さをL、底面の直径をDとしたとき、L/Dが0.2〜3.0の多孔質体が用いられた請求項2記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項4】
モノメタクリル酸亜鉛と共に酸化亜鉛ZnOが、モノメタクリル酸亜鉛との合計量が8重量部以下となるように併用された請求項1、2または3記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項5】
スタッドレスタイヤキャップトレッド部の加硫成形材料として用いられる請求項1、2、3または4記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項6】
請求項5記載のジエン系ゴム組成物から加硫成形されたキャップトレッド部を有するスタッドレスタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−242580(P2009−242580A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90601(P2008−90601)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】