説明

ジクロフェナクナトリウムとβ−シクロデキストリンとを有する注入可能薬学組成物

【課題】 水溶液の形態で注入可能な薬学的組成物を提供する。
【解決手段】 皮下及び/又は筋肉内投与に適した、ジクロフェナクナトリウムと、β−シクロデキストリンと、ポリソルベートとを有する注入可能薬学的組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学的組成物に係り、特に、ジクロフェナクナトリウムをベースとした新規の注入可能薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジクロフェナクナトリウム、つまり、2−[(2,6−ジクロロフェニル)アミノ]酢酸ベンゼン・一ナトリウム、は、抗炎症作用を有すると認知され、このため、外傷後及び術後並びに全てのリューマチ病を含む疼痛状態を処置するのに使用される種々のタイプの薬学的処方の活性本体として使用されている。
【0003】
ジクロフェナクは、炎症や疼痛の主原因であるプロスタグランジンの合成を阻害する作用を有する。疼痛緩和の有効性を最大限発揮させるため、この活性主体は、投与後出来るだけ急速に全身循環に到達させる必要がある。従って、特に筋骨格系の急性の疼痛を処理するのに、注入可能な形態が常に望まれている。
【0004】
ジクロフェナクナトリウムは水に溶解性の低い化合物であるので、この活性本体をベースとした市販で利用可能な注入可能薬学的処方には、30容量%プロピレングリコールと70容量%水とからなる3mLの溶媒に溶解した75mgの化合物を含有する。
【0005】
しかしながら、この処方は、疼痛を伴うため、患者に好まれていない;また、単回投与の容量であるので、この投与は、筋肉内又は静脈注射によりのみ可能となる。
【0006】
ジクロフェナクの水に対する低い溶解性に起因する上述の問題を克服するため、ジクロフェナク又はその塩とシクロデキストリンとを組み合わせた組成物が調製される。この主題に関する文献から知られているように、シクロデキストリンは、この活性本体と水溶性複合体を形成するため、ジクロフェナクの溶解性を向上させる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるようにジクロフェナクナトリウムは、結晶を形成し得るので、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを用いる場合に、注入に適した薬学的組成物を得ることができない場合であっても、種々の場合、例えば、25mg/mLから75mg/mLにジクロフェナクナトリウムの濃度を増加させる必要があることも知られている。
【0008】
従って、25mg/mL以上のジクロフェナクナトリウムの濃度を有するが上述の公知の薬学的組成物に係る問題を有さない注入可能処方を特定する問題は、未だ解決されていない。
【特許文献1】欧州特許第658347号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願出願人が発見したところによると、β−シクロデキストリン及び25mg/mL水以上のジクロフェナクナトリウムを含有する水溶液に非常に正確で限定された範囲内でポリソルベートを添加することにより、結晶性の処方が完全に阻止され、長期間、室温又は4℃のいずれでも澄明で安定な溶液を得ることができる。
【0010】
従って、本発明は、水溶液の形態で注入可能な薬学的組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、25mg/mL水以上の濃度のジクロフェナクナトリウムと、β−シクロデキストリンとを有する水溶液の形態の注入可能薬学的組成物を提供することを目的とし、この組成物は、上記の溶液の全量に対して0.01重量%乃至0.06重量%の量で少なくともポリソルベートを有することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る薬学的組成物の特徴及び利点を、以下に詳細に説明する。
【0013】
本発明の薬学的組成物において、好ましく使用されるポリソルベートは、Tween(登録商標)20として市販されているポリソルベート20又はポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートである。本発明の組成物中のポリソルベートの量は、この溶液全量に対して0.01〜0.06重量%である必要がある。
【0014】
本願出願人が発見するところによると、同様のポリソルベートを上述の範囲と異なる濃度で使用すると、室温又は4℃のいずれにおいても、組成物の安定性の点で満足な結果は得られない。
【0015】
下述する比較例2において示すように、0.01w/v%未満のポリソルベート濃度においては、低温でのジクロフェナクの溶解性の点で、満足のゆかない組成物が得られる;事実、4℃で比較的短時間保存すると、ジクロフェナクの結晶がこの溶液中に形成される。下述する比較例3に示すように、逆に、ポリソルベートの濃度を0.06w/v%よりも大きくすると、外部温度にて保存した際の溶液の安定性の点で満足のゆかない結果が得られる。
【0016】
本発明の薬学的組成物に係る特定の好適実施例によると、ポリソルベートの量は、溶液の全量に対して0.05重量%である。
【0017】
本発明の好適実施例によると、β−シクロデキストリンに対するジクロフェナクナトリウムのモル比は、1:1〜1:1.3である。
【0018】
β−シクロデキストリンは、好ましくは、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンである。
【0019】
上述の活性主体、シクロデキストリン及びポリソルベートに加えて、本発明の薬学的組成物は、筋肉内又は皮下のいずれかに注入可能で且つ疼痛を処置するのに有用な注入可能溶液を得るため、薬学的組成物に常套的に使用されるものから選ばれた薬学的に許容可能な賦形剤を有してもよい。本発明の組成物は、種々の処方で調製されてもよく、特に、75mgのジクロフェナクナトリウムの好適な投与単位に従った処方で調製されてもよい。
【0020】
本発明の薬学的組成物は、ポリソルベートの水溶液をシクロデキストリンの水溶液と混和した後ジクロフェナクナトリウムを添加して調製されてもよい。
【0021】
上述の水溶液の形態で調製された薬学的組成物は、室温又は4℃のいずれの条件でも、長期間安定であることが見出されており、且つ調製後少なくとも3ヶ月の間結晶形成を示さない。
【実施例】
【0022】
以下に、例示する目的で、本発明の限定的でない例を示す。
【0023】
(例1)
0.05w/v%のTween(登録商標)20を有するジクロフェナクナトリウム及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン複合体の調製。
【0024】
以下の2つの溶液を調製する。
溶液A:1003mgのTween(登録商標)20を、20mLの脱イオン水に溶解する。
【0025】
溶液B:6.6gのヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンを、攪拌しながら、無色澄明な溶液となるまで、約10mLの脱イオン水に溶解する。
【0026】
1.50gのジクロフェナクナトリウムと、上述の通り調製した0.2mLの溶液Aとを、攪拌しながら、溶液Bに添加する。その後、この溶液を、脱イオン水で、最終容量が20mLとなるまで添加し、約40分間、攪拌しながら保持する。
【0027】
0.22μmのフィルターで濾過した後、ジクロフェナクナトリウムを有する無色澄明な溶液を得、UV分析によりジクロフェナクナトリウム濃度が72.91mg/mLであることを見出した。
【0028】
この溶液を、注入可能薬学的処方に適した通常の手法に従って梱包し、保存したところ、室温及び4℃のいずれにおいても、結晶が形成することなく3ヶ月以上澄明に保持されていた。
【0029】
(例2)
0.005w/v%のTween(登録商標)20を有するジクロフェナクナトリウム及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン複合体の調製。
【0030】
以下の2つの溶液を調製する。
溶液A:100.3mgのTween(登録商標)20を、20mLの脱イオン水に溶解する。
【0031】
溶液B:6.6gのヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンを、攪拌しながら、無色澄明な溶液となるまで、約10mLの脱イオン水に溶解する。
【0032】
1.51gのジクロフェナクナトリウムと、上述の通り調製した0.2mLの溶液Aとを、攪拌しながら、溶液Bに添加する。その後、この溶液を、脱イオン水で、最終容量が20mLとなるまで添加し、約40分間、攪拌しながら保持する。
【0033】
0.22μmのフィルターで濾過した後、ジクロフェナクナトリウムを有する無色澄明な溶液を得、UV分析によりジクロフェナクナトリウム濃度が79.14mg/mLであることを見出した。
【0034】
この溶液を、注入可能薬学的処方に適した通常の手法に従って梱包し、保存したところ、室温において、結晶が形成することなく3ヶ月以上澄明に保持されていた。一方、4℃においては、1ヶ月後に、酸性及びナトリウム塩の形態のジクロフェナクの結晶の形成が観察された。
【0035】
(例3)
0.18w/v%のTween(登録商標)20を有するジクロフェナクナトリウム及びヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン複合体の調製。
【0036】
17.4gのヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを、無色澄明な溶液を得るまで、攪拌しながら約28mLの脱イオン水に添加した。攪拌しながら、3.75gのジクロフェナクナトリウム及び90.1mgのTween(登録商標)20を添加した。
【0037】
この溶液をその後、脱イオン水で、最終容量が50mLとなるまで添加し、攪拌しながら、約40分間保持した。その後、この溶液を0.22μmのフィルターで濾過して無色澄明なジクロフェナクナトリウムの濃度を得た。なお、その濃度は、UV分析により、80.49mg/mLであった。
【0038】
この溶液を、注入可能薬学的処方に適した通常の手法に従って梱包した。4℃でこの溶液を保存したところ、澄明であったが、同様の溶液を室温で保存したところ1週間後、懸濁状態が観察された。
【0039】
(例4)
ヒトへの皮下注入による薬物動態
上述の例1の通り調製した72.91mg/mLのジクロフェナクナトリウム溶液を、単位当たり75mgのジクロフェナクナトリウムを有するバイアル中で無菌条件下で滅菌濾過法により滅菌した。
【0040】
3人の被検者の上大腿部に、滅菌溶液(75mg)を皮下的に注入した。なお、各被検者から、投与前と、投与後960分後まで一定時間間隔とで、血液を採取した。
【0041】
図1では、経時的なジクロフェナクナトリウムの血漿中における経時的な変化を示しており、三角に破線で示すのは、見出された個々の値に対応するものである。
【0042】
(例5)
上述の例1に従って調製した72.91mg/mLのジクロフェナクナトリウム溶液を、単位当たり75mgのジクロフェナクナトリウムを有するバイアル中で無菌条件下で滅菌濾過法により滅菌した。
【0043】
3人の被検者の上大腿部に、滅菌溶液(75mg)を筋肉内的に注入した。なお、各被検者から、投与前と、投与後960分後まで一定時間間隔とで、血液を採取した。
【0044】
図1では、経時的なジクロフェナクナトリウムの血漿中における経時的な変化を示しており、菱形に実線で示すのは、見出された個々の値に対応するものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】3人の健常な被検者に、例1の組成物を筋肉内(◆)及び皮下(△)で投与した後960分までの経時的なジクロフェナクナトリウムの血漿濃度に係る2つの曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25mg/mL水以上の濃度のジクロフェナクナトリウムと、β−シクロデキストリンとを有する水溶液の形態の注入可能薬学的組成物であって、
当該組成物は、前記水溶液の全量に対して0.01重量%乃至0.06重量%の量のポリソルベートを少なくともさらに有することを特徴とする薬学的組成物。
【請求項2】
前記ポリソルベートは、ポリソルベート20(ポリエチレンソルビタンモノラウレート)であることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記ポリソルベートは、前記水溶液の全量に対して0.05重量%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
ジクロフェナクナトリウムとβ−シクロデキストリンとのモル比が、1:1乃至1:1.3であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記β−シクロデキストリンは、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記ジクロフェナクナトリウムの濃度は、75mg/mLであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
75mgのジクロフェナクナトリウムを有する単回投与の形態の請求項1乃至6のいずれか一項に記載の薬学的組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−8684(P2006−8684A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174529(P2005−174529)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(505226079)イブサ インスティテュート バイオチミケ ソシエテ アノニム (2)
【Fターム(参考)】