説明

ジグリセリド高含有油脂の製造方法

【課題】 ジグリセリド含量の高い油脂の効率的かつ工業的な製造法の提供。
【解決手段】 ジグリセリドを30質量%以上含む油脂に有機酸を50〜90質量%含む水溶液を油脂に対し0.05〜5質量%添加し、ラインミキサー中で連続して0.1〜10分混合した後、水洗し、次いで脱臭処理する、精製ジグリセリド高含有油脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジグリセリドを多く含有する油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジグリセリドには、体脂肪の蓄積を低下させ肥満を防ぐ効果(特許文献1、2)や植物ステロールとあいまって血中コレステロール値を低下させる効果(特許文献3)等が見出されている。このような観点から、ジグリセリド含量の高い油脂が、家庭用食用油として広く使用されるに至っている。
【0003】
ジグリセリド含量の高い油脂は、脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応や油脂とグリセリンとのエステル交換反応等により製造されるため、遊離脂肪酸や金属等の不純物が含まれており、食用油として用いるためには脱酸処理や脱臭処理による精製が必要である。ここで、高純度のジグリセリドは、高温において分解や不均化反応等が生じることによりジグリセリド含量が著しく減少するため、ジグリセリドを高純度に維持するためにはこれらを抑制することが必要である。
【0004】
ジグリセリド含量の高い油脂の精製法としては、当該油脂に有機酸を添加した後、脱臭処理を行う方法が知られている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平4−300826号公報
【特許文献2】特開平10−176181号公報
【特許文献3】国際公開第99/48378号パンフレット
【特許文献4】特開平4−261497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記方法においては、油脂に有機酸を添加後減圧で脱水するか、減圧で脱水した後さらに脱色処理した後に、脱臭処理を施す必要があり、工業的な精製法としては問題があった。
従って、本発明の目的は、より簡便な手段で効率良く、風味が良好で食用油として有用な精製ジグリセリド高含有油脂を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、ジグリセリド含量の高い油脂に有機酸を50〜90質量%の高濃度で含む水溶液として極少量を添加し、その撹拌をタンク中でなくラインミキサーで連続して行えば、脱水工程を必要とせず、極めて短時間の処理であるにもかかわらずその後の脱臭操作においてジグリセリドの純度低下が抑制できることを見出した。さらに、かかる処理をし、水洗後脱臭処理した油脂は風味も良好であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、ジグリセリドを30質量%以上含む油脂に有機酸を50〜90質量%含む水溶液を油脂に対し0.05〜5質量%添加し、ラインミキサーで連続して0.1〜10分混合した後、水洗し、次いで脱臭処理する、ジグリセリド高含有油脂の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、ジグリセリドの純度低下が抑制され、かつ簡便な操作で風味が良好な、ジグリセリド含量の高い油脂が効率良く得られる。従って、本発明の方法によれば、工業的に大量に連続してジグリセリド含量の高い食用油脂が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明方法に用いられる油脂は、ジグリセリドを30質量%以上含む油脂であるが、ジグリセリドを35質量%以上、さらに50質量%以上、さらに70質量%以上、特に80〜95質量%含む油脂が好ましい。
【0010】
当該油脂の構成脂肪酸は特に限定されないが、生理効果の点から50質量%以上、特に80質量%以上不飽和脂肪酸を含むことが好ましい。また、構成脂肪酸の炭素数は14〜24、特に16〜22であるのが生理効果の点で好ましい。
【0011】
本発明に使用されるジグリセリド含量の高い油脂の起源としては、植物性、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、米油、紅花油、綿実油、牛脂等を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できる。
本発明に使用されるジグリセリド含量の高い油脂は、上述した油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、油脂とグリセリンとのエステル交換反応等により得ることができる。反応により生成した過剰のモノアシルグリセリンは分子蒸留法又はクロマトグラフィー法により除去することができる。これらの反応はアルカリ触媒等を用いた化学反応でも行うことができるが、1,3−位選択的リパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが風味等の点で優れており好ましい。
【0012】
本発明においては、有機酸としてはクエン酸、コハク酸、マレイン酸、シュウ酸、特にクエン酸が好ましい。まず、前記油脂に有機酸を50〜90質量%含む水溶液を油脂に対して0.05〜5質量%添加する。有機酸水溶液の濃度が50質量%未満では、有機酸添加による効果が十分でなく、また風味改善効果も十分でない。また90質量%を超えると、液物性が悪化し作業性が低下する。また、有機酸水溶液を油脂に対して、5質量%を超えて添加すると、混合後減圧脱水が必要になる。また、0.05質量%未満では、有機酸添加による効果が十分でない。かかる有機酸水溶液の添加温度は0〜100℃、さらに25〜90℃が好ましい。添加手段は、有機酸水溶液が少量なので分割して添加する必要はなく、一括して添加できる。
【0013】
次に、少量の有機酸水溶液を添加した前記油脂をラインミキサー中で連続して0.1〜10分間混合する。好ましくは、0.2〜5分間混合する。ここでラインミキサーとは、管路中に設けた邪魔板、機械的攪拌機によって流体を流しながら混合する装置をいう。
ラインミキサーを使用することにより、ミキサー中を通過させることにより連続して混合され、油脂をタンクに滞留させる必要がなく、工業的に有利である。混合時間が0.1分未満では十分なジグリセリドの純度低下抑制効果が得られず、10分を超えると装置が大型化し、また水洗後脱臭処理した油脂の風味改善効果が低減する。ここで、混合時間とは、ラインミキサー中の油脂の平均滞留時間をいう。
また、混合は機械的撹拌混合により行うことが好ましく、混合機の撹拌翼の先端周速度を1〜20m/s、特に2〜10m/sとすることが、ジグリセリドの純度低下抑制効果、電力消費量の低減の点から好ましい。
【0014】
0.1〜10分混合された油脂は、連続して水洗する。脱水操作や吸着操作を行う必要はない。水洗は、油脂を水とよく混合し、その後水を分離することにより行うのが好ましい。なお、この水洗に用いる水には0.01〜10質量%程度のエタノール、イソプロパノール等の低級アルコールを含んでいてもよい。ここで1回の水洗に用いる水の量は、油脂に対し5〜200質量%、さらに10〜50質量%が好ましい。水洗の温度は25〜95℃が好ましい。水洗は1〜5回行われる。
【0015】
水洗された油脂は、脱臭処理する。脱臭処理としては水蒸気蒸留が好ましい。水蒸気蒸留は、ジグリセリドの純度低下抑制、風味改善の点から、240℃以下の条件で行うのが好ましい。用いる水蒸気量は、油脂に対して0.5〜20質量%、特に1〜10質量%が好ましい。
【0016】
本発明方法により得られる精製ジグリセリド高含有油脂は、ジグリセリドの純度低下が抑制されていることから、ジグリセリド含量が高く、かつ風味も良好であり、高い生理効果を有する食用油脂として有用である。
【実施例】
【0017】
実施例1
菜種油および大豆油由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化により得られたエステル化物を分子蒸留により、脂肪酸、モノグリセライドを除去した。さらにこの油脂に90℃で50%クエン酸水溶液を0.4%添加後速やかにラインミキサー(先端周速度6.4m/s)で混合した。この油脂に水を油脂に対して10%添加混合後、油水分離を行う操作を三回繰り返し行った。さらに240℃で2時間水蒸気蒸留による脱臭処理を行った。ジグリセリド含量の測定は、ガスクロマトグラフィーにより行った。また、風味の評価は、下記基準にて官能評価により行った。結果を表1に示す。
○:風味が良好。
△:風味がやや劣る。
×:風味が劣る。
【0018】
実施例2
クエン酸水溶液の濃度を80%とした以外は、実施例1と同じ操作を行った。ただし、添加量は油脂に対してクエン酸量が同量となるようにした。結果を表1に示す。
【0019】
比較例1
クエン酸水溶液の濃度を2%とした以外は、実施例1と同じ操作を行った。ただし、添加量は油脂に対してクエン酸量が同量となるようにした。結果を表1に示す。
【0020】
比較例2
菜種油および大豆油由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化により得られたエステル化物を分子蒸留により、脂肪酸、モノグリセライドを除去した。さらにこの油脂に20%クエン酸水溶液を油脂に対して1%添加後、攪拌層中で90℃、60分間混合(先端周速度5m/s)した後、90℃、2Torrで60分間脱水し、この油脂に水を油脂に対して10%添加混合後、油水分離を行う操作を三回繰り返し行った。240℃で2時間水蒸気蒸留による脱臭を行った。表1に結果を示す。
【0021】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジグリセリドを30質量%以上含む油脂に有機酸を50〜90質量%含む水溶液を油脂に対し0.05〜5質量%添加し、ラインミキサーで連続して0.1〜10分混合した後、水洗し、次いで脱臭処理する、精製ジグリセリド高含有油脂の製造方法。
【請求項2】
脱臭処理が、水蒸気蒸留である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−63252(P2006−63252A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249929(P2004−249929)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】