説明

ジケトピペラジン及び活性薬剤を含有する微粒子の製剤特性の改善方法

粒子を乾燥させるための方法が提供される。具体的には、改善された空気力学的性能を有し、凍結乾燥されたジケトピペラジン−インシュリン製剤と比較して、活性薬剤がより安定であり、そして効率的に送達される、噴霧乾燥されたジケトピペラジン−インシュリン粒子製剤が提供される。乾燥粉末は、肺送達のための医薬製剤としての有用性がある。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2006年2月22日に出願された米国仮特許出願第60/776,605号の、米国特許法施行規則第119条(e)の下の利益を主張するものであり、その内容は、その全体が本明細書に参照によって組み入れられる。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、乾燥粉末医薬の分野に関する。本発明は、改善された空気力学的性能を備えた粒子を得る方法、又は活性薬剤がより安定に存在し、効果的に送達される粒子を得る方法、を開示する。より具体的には、本発明は、乾燥方法に関し、特に、ジケトピペラジン−インシュリン(DKP−インシュリン)粒子を噴霧乾燥する方法に関する。本発明の乾燥粉末は、肺送達のための医薬製剤としての有用性を備える。
【0003】
関連技術の説明
乾燥粉末組成物として粒子を調製するために、数多くの異なる方法が、当該技術分野において用いられている。これらの方法には、例えば、凍結乾燥、蒸発、相分離、及び噴霧乾燥(PCT特許出願:WO91/16038を参照されたい。)が含まれる。乾燥粉末医薬の製造において、ある方法では、溶液中の前記成分から開始し、溶媒を除去することにより粉末の粒子が形成される。別の方法においては、独立した、初期の段階で、例えば沈殿によって、粒子が形成され、懸濁液中の粒子を得ることができ、これは、次いで乾燥させる必要がある。特に、懸濁液中の粒子から溶媒を乾燥又は除去するために、凍結乾燥や蒸発のような方法がよく用いられる一方、噴霧乾燥は、より典型的には溶液から粒子を形成するために用いられてきた。例えば、米国特許第5,976,574号;第5,985,248号;第6,001,336号;第6,051,256号;第6,077,543号;第6,365,190号;第6,372,258号;第6,423,344号;第6,479,049号;第6,509,006号;第6,569,406号;第6,572,893号;第6,582,728号;第6,838,076号;及び、第6,896,906号を参照されたい。
【0004】
凍結乾燥(lyophilization)、すなわち凍結乾燥(freeze drying)には、溶媒、典型的には水が、凍結され、そして真空下に置かれ、この氷を、液相を経由させずに直接固体から蒸気へ変化させた後に、生成物から除去される工程が含まれる。この工程は、3つの別個の、独特の、そして相互に独立した工程より成る;凍結、1次乾燥(昇華)、及び2次乾燥(脱着)。噴霧乾燥中、ノズル(例えば、二流体ノズル)、回転円板、又は同等の装置を介して、溶液(一般的に水溶液)を、高温ガス流に導入する。ノズルを通過させることにより、この溶液は霧状にされ、細かい水滴となる。このガス流により供給される熱エネルギーが、水又は他の溶媒の蒸発を引き起こし、これにより微粒子が生産される。
【0005】
置換されたジケトピペラジン微粒子を用いたドラッグデリバリーは、米国特許第5,352,461号;第5,503,852号;第6,331,318号;第6,395,774号及び第6,663,898号に記載されている。ジケトピペラジン微粒子の乾燥粉末としての肺送達は、米国特許第5,503,852号;第6,428,771号;第6,444,226号及び第6,652,885号に記載されている。ドラッグデリバリーのために、ジケトピペラジン粒子を形成し、装填する種々の方法は、米国特許第6,444,226号、共に2006年9月14日に出願された米国特許出願第11/532,063号及び第11/532,065、並びに、2005年9月14日に出願された米国仮特許出願第60/717,524号において開示されている。これらの文献はそれぞれ、ジケトピペラジン、ジケトピペラジン微粒子、及びドラッグデリバリーに於けるそれらの使用に関して記載されるすべてについて、参照によって本明細書に組み込まれる。これらの教示に従って作製された乾燥粉末は、肺送達についてよく機能する;しかし、依然として種々の薬剤学的特性を改善する余地がある。本発明は、すぐれた空気力学的性能を有している改善された粒子を獲得し、活性薬剤のより効率的な送達、及びより良い安定性を提供する、当該技術分野に於ける要求を克服する役割を果たす。
【0006】
発明の概要
本発明は、改善された粒子、及び/又は改善された乾燥粉末を獲得する方法に関する。本発明により意図されるこれらの粒子及び粉末は、活性薬剤と共にジケトピペラジン誘導体から成る。本発明の具体的な態様において、前記粒子は、前記噴霧乾燥工程により乾燥される際、凍結乾燥と比較して、改善された安定性、空気力学的特性、及び薬力学的特性を有しているジケトピペラジン−インシュリン粒子製剤である。別の態様において、噴霧乾燥されたジケトピペラジン−インシュリン粒子製剤又は乾燥粉末が提供される。
【0007】
本発明の具体的な態様において、ジケトピペラジンを含有する粒子が調製され、懸濁液中に、典型的には水性懸濁液中に提供され、ここには活性薬剤の溶液が加えられる。本発明の活性薬剤は以下のものを1種又は2種以上含むが、それらに限定されるわけではない:インシュリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン1−34、又は副甲状腺ホルモンの他の生理活性フラグメント、オクトレオチド、ロイプロリド、及びRSVペプチド、フェルバメイト、カンナビノイドアンタゴニスト及び/又はアゴニスト、ムスカリンアンタゴニスト及び/又はアゴニスト、ヘパリン、低分子量ヘパリン、クロモリン、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル成長ホルモン、ジドブジン(AZT)、ジダノシン(DDI)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、ラモトリジン、絨毛性ゴナドトロピン放出因子、黄体形成ホルモン放出ホルモン、β−ガラクトシダーゼ、GLP−1、エキセンディン1−4、グレリン、及びこれらのフラグメント。別の態様において、前記活性薬剤は、インシュリンのようなペプチド若しくはタンパク質、又はこれらの類似体である。
【0008】
特定の態様において、活性薬剤はインシュリン又はその類似体である。
本発明は、改善された空気力学的性能を備え、活性薬剤がより安定に存在し、効率的に送達される粒子を獲得する方法を開示する。より詳細には、本発明は、ジケトピペラジン−インシュリン粒子を乾燥させる、特に噴霧乾燥させる方法に関する。前記乾燥粉末は、肺送達のための医薬製剤としての有用性を有している。他の態様においては、前記ジケトピペラジン−インシュリン乾燥粉末は、鼻腔内投与のために用いることができる。
【0009】
従って、特定の態様において、本発明は、改善された薬剤学的特性を備えた乾燥粉末医薬の調製方法を提供し、該方法は以下の工程を含む:(a)ジケトピペラジンの溶液を提供すること;(b)活性薬剤の溶液を提供すること;(c)粒子を形成すること;及び(d)ジケトピペラジンと前記活性薬剤とを組み合わせること;そして、その後(e)噴霧乾燥により溶媒を除去して乾燥粉末を得ること。ここで、この乾燥粉末は、凍結乾燥によって溶媒を除去することによって得られた乾燥粉末と比較して、改善された薬学的性質を有している。
【0010】
別の態様において、前記改善された薬剤学的特性は、活性薬剤の改善された安定性、乾燥粉末の増加した密度、乾燥粉末の改善された空気力学的性能、より成る群から選択される。更に別の態様において、前記乾燥粉末の改善された空気力学的性能は、吸入器により送達される、呼吸可能な範囲(呼吸性分画(respirable fraction))の粒子のパーセントにより測定される。本発明において意図される前記呼吸性分画は、約40%を超えるか、又は約50%を超えるか、又は約60%を超えるものであってよいが、このようなものに限定されない。
【0011】
本発明の別の態様において、前記微粒子のインシュリン含量は、前記乾燥粉末製剤に対して約3重量%から約50重量%の範囲内であることが意図されている。別の例においては、インシュリン濃度は、約7重量%から約25重量%の範囲内である。好ましい態様においては、インシュリン含量は、約19.0、19.1、19.2、19.3、19.4、19.5、19.6、19.7、19.8、又は19.9重量%である。別の好ましい態様においては、インシュリン濃度は、約11重量%である。更に別の好ましい態様においては、インシュリン含量は、約10、12、13、14、15、16、17、又は18重量%である。種々の態様において、「約」は、不確実性がインシュリン含量の10%を超えない限り、±0.1、0.2、0.5、1、又は2%で定義される。
【0012】
更に別の態様において、本発明において、化学式2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジンを有しているジケトピペラジンが提供される。ここで、Xはスクシニル、グルタリル、マレイル、及びフマリルより成る群から選択される。好ましい態様において、前記ジケトピペラジンはフマリルジケトピペラジンである。
【0013】
本発明の更に別の特定の態様において、改善された薬剤学的特性を備えた乾燥粉末医薬の調製方法に従って調製された乾燥粉末が提供され、該方法は以下の工程を含む:(a)ジケトピペラジンの溶液を提供し;(b)活性薬剤の溶液を提供し;(c)粒子を形成し;及び(d)ジケトピペラジンと前記活性薬剤とを組み合わせ;そして、その後(e)噴霧乾燥により溶媒を除去して乾燥粉末を得る。ここで、この乾燥粉末は、凍結乾燥によって溶媒を除去することによって得られた乾燥粉末と比較して、改善された薬学的性質を有している。更なる態様において、前記乾燥粉末はインシュリンのような活性薬剤又はその類似体を含むが、これらに限定されない。
【0014】
更に別の特定の態様において、本発明は、有効量の乾燥粉末を患者に投与することを含む、インシュリンを必要としている患者へのインシュリン送達方法を提供する。
本発明は、改善された、ある薬剤学的特性を備えた乾燥粉末をも提供し、その改善された特性とは、活性薬剤の改善された送達であり、それによって、より大きな糖処理が達成される。
【0015】
本発明の更に別の特定の態様において、改善された薬剤学的特性を備えた乾燥粉末医薬を調製する方法が提供され、該方法は以下の工程を含む:(a)ジケトピペラジン溶液を提供すること;(b)前記ジケトピペラジンを含む粒子を形成する工程;(c)及び、噴霧乾燥により溶媒を除去し、乾燥粉末を得ること、ここで前記乾燥粉末は、凍結乾燥により溶媒を除去することによって得られた乾燥粉末と比較して改善された薬剤学的特性を有している。前記溶媒の除去工程に先立って、活性薬剤を前記粒子に装填することを含む、更なる工程も提供される。
【0016】
本発明の別の特定の態様により、ジケトピペラジン乾燥粉末の空気力学的性能を最適化する方法が提供され、該方法は以下の工程を含む:(a)ある管理された温度下で、溶液からジケトピペラジンを沈殿させ、粒子を形成すること;(b)前記温度に基づく乾燥方法を選択すること;及び、(c)前記粒子を乾燥させること。活性薬剤を前記粒子に装填することを含む、更なる工程も意図される。
【0017】
特定の態様において、噴霧乾燥中の入り口温度は、105℃、110℃、120℃、130℃、140℃、又はこれらの値のいずれか2つの値によって区切られた範囲にある。別の特定の態様において、霧化圧は0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1バール又はこれらの値のいずれか2つの値によって区切られた範囲にある。更なる特定の態様において、噴霧速度は、4.4、7.6、12.2g/分、又はこれらの値のいずれか2つの値によって区切られた範囲にある。本発明の更に別の特定の態様において、出口温度は75℃である。
【0018】
更なる態様において、前記ジケトピペラジンはフマリルジケトピペラジンであり、前記管理された温度は約15℃から約18℃の間であり、前記選択された乾燥方法は噴霧乾燥である。別の態様において、管理された温度は約17℃である。更に別の態様において、前記管理された温度は約13℃以下又は約19℃以上である。
【0019】
更なる特定の態様において、約11.0重量%、11.1重量%、11.2重量%、11.3重量%、11.4重量%、11.5重量%、11.6重量%、11.7重量%、11.8重量%、11.9重量%、12.0重量%、12.1重量%、12.2重量%、12.3重量%、12.4重量%、12.5重量%、12.6重量%、12.7重量%、12.8重量%、12.9重量%、13.0重量%、13.1重量%、13.2重量%、13.3重量%、13.4重量%、13.5重量%、13.6重量%、13.7重量%、13.8重量%、13.9重量%、14.0重量%、14.1重量%、14.2重量%、14.3重量%、14.4重量%、14.5重量%、14.6重量%、14.7重量%、14.8重量%、14.9重量%、15.0重量%、15.1重量%、15.2重量%、15.3重量%、15.4重量%、15.5重量%、15.6重量%、15.7重量%、15.8重量%、15.9重量%、16.0重量%以上のインシュリンを含む粒子が意図される。本発明の特定の態様において、約11.4重量%のインシュリンを含む粒子が提供される。別の特定の態様において、最大50重量%のインシュリンを含む粒子が意図される。
【0020】
溶液又は懸濁液中に含まれる、これに限定されるわけではないが、インシュリンのような活性薬剤は、ジケトピペラジンの懸濁液と混合され、ここで、前記溶液又は懸濁液は、前記活性薬剤及び前記ジケトピペラジンの双方にとってふさわしい溶媒である。
【0021】
いくつかの態様においては、本発明は、約15℃から約18℃の間の管理された温度で溶液から前記粒子を沈殿させることにより、改善された薬剤学的特性を有している、ジケトピペラジン、及びインシュリンのような活性薬剤を含有する、乾燥粉末を獲得する方法を提供する。別の態様において、前記管理された温度は約17℃である。更に別の態様においては、前記管理された温度は約13℃以下又は約19℃以上である。
【0022】
本発明の別の態様において、本明細書で用いられるように、「カートリッジフィル重量(cartridge fill weight)」という用語は、吸入器用のカートリッジに含まれる製剤の量、典型的には5〜10mg以上を指す。別の態様において、カートリッジフィル重量は約2.5から15mg、10から20mg、又は5から30mgの範囲で異なり得る。
【0023】
更なる態様において、噴霧乾燥により乾燥させた粉末のかさ密度又はタップ密度は、凍結乾燥により乾燥させた同様の粉末と比較して、増加する。このような態様の1つにおいては、前記密度は、約2(1.7〜2.3)倍大きい。特定の更なる態様には、実施例に開示された値、又はこれらのいずれか2つの値により区切られた範囲に限定されるものが含まれる。種々の態様において、前記噴霧乾燥された粉末のかさ密度は0.150〜0.200g/ccである。特定の態様には、実施例に開示された値、又はこれらのいずれか2つの値により区切られた範囲に限定されるものが含まれる。種々の態様において、前記噴霧乾燥された粉末のタップ密度は0.250〜0.300g/ccである。特定の態様には、実施例に開示された値、又はこれらのいずれか2つの値により区切られた範囲に限定されるものが含まれる。
【0024】
本発明の更に別の態様において、本発明で用いられるように「カートリッジ排出(cartridge emptying)」という用語は、立ち上げ(又は排出)の際に前記吸入器から排出される粉末のパーセント(%)を指す。この値は、典型的には、排出前後のカートリッジの重量を量ることによって得られる。特定の態様には、実施例に開示された値、又はこれらのいずれか2つの値により区切られた範囲に限定されるものが含まれる。
【0025】
本発明の更に別の態様において、本明細書で用いられるように「呼吸性分画(respirable fraction、RF)」という用語は、呼吸可能な範囲(0.5〜5.8μm)の粒子のパーセント(%)を指す。「送達された呼吸性分画(RF)」は、医薬効果が発揮されるところの肺の気道へ到達することのできる活性成分のパーセントを指す。特定の態様には、実施例に開示された値、又はこれらのいずれか2つの値により区切られた範囲に限定されるものが含まれる。
【0026】
本発明の別の態様において、本明細書で用いられるように「フィルに基づく呼吸性分画」(「フィルに基づくRF」、「フィル上RF(%)」又は「RF/フィル(%)」)という用語は、前記吸入器中の粉末の量により基準化された呼吸可能な範囲の粉末のパーセント(%)を指す。特定の態様には、実施例に開示された値、又はこれらのいずれか2つの値により区切られた範囲に限定されるものが含まれる。
【0027】
図面の簡単な説明
以下の図面は、本願の一部を構成し、更に本発明の特定の局面を例示するために含まれている。本発明は、本明細書に示された特定の態様の詳細な記載と併せて、これらの図面の1つ、又は2つ以上を参照することにより、よりよく理解することができる。
【0028】
図1は、霧化圧の増加が、ジケトピペラジン−インシュリン製剤の空気力学に好ましい効果を与えたことを示している。入り口温度は110℃から140℃の範囲であり、出口温度は75℃で一定に保たれた。
【0029】
図2A〜図2Eは、ジケトピペラジン−インシュリン製剤の促進された安定性の評価である。前記促進された安定性の条件は、40℃及び75%RH(相対湿度(relative humidity))で10日間であった。噴霧乾燥された製剤に於けるインシュリン損失の減少は、図2Aに記載されている。図2Bは、これらの条件下でのインシュリンの主要な分解産物である、A−21の生成に於ける、対応する減少を示す。図2C〜2Eは、一次粒子が、霧化圧が0.4バール(図2C)から0.6バール(図2D)へ、0.7バール(図2E)へと増加するにつれて凝集する傾向が減少することを示す。この測定は、レーザー回折を用いることで得られた。
【0030】
図3は、ジケトピペラジン−インシュリン製剤の空気力学への温度の効果を示す。出口温度は、75℃に保たれ、霧化圧は0.6バールに保たれた。フィル上RF(%)(カートリッジフィル上のパーセント呼吸性分画)は、前記温度範囲にわたって比較的変化のないままの状態であった。
【0031】
図4A〜4Fは、入り口温度(乾燥速度)の増加が前記製剤の安定性に好ましくない影響を与えなかったことを示している。促進された安定性の条件は、40℃及び75%RHで10日間であった。図4Aは、インシュリン損失のパーセントを示す。図4Bは、主な分解産物である、A−21の生成を示す。図4C〜4Fは、入り口温度が105℃(図4C)から120℃(図4D及び4E)へ、140℃(図4F)へ増加するにつれて、一次粒子の凝集が増加する傾向(レーザー回折によって得られた粒径分布により示される)を示す。
【0032】
図5A〜5Eは、インシュリンの分布及び粒子の形態を表す。図5Aは、粒径とは独立して、インシュリンが製剤にわたって一様に分布していることを示す。図5B〜5Eは、噴霧乾燥された粒子(図5C及び図5E)及び凍結乾燥された粒子(図5B及び図5D)の形態が同じであることを示す。
【0033】
図6A〜6Bは、粒子の空気力学及びインシュリンの安定性の改善を表す。図6Aは、霧化圧がそれぞれ0.7、0.9及び1.1バールでのフィル上RF(%)の増加を示す。図6Bは、フィル上RF(%)が、入り口温度がそれぞれ110℃、120℃及び130℃で変化しないことを示す。
【0034】
図7A〜7Kは、インシュリンの安定性が、より高い入り口温度及び霧化圧において増加することを示す。図7Aは、促進された安定性を、0.7バールの圧力で、入り口温度がそれぞれ110℃、120℃及び130℃において噴霧乾燥された粉末についての、インシュリン損失のパーセントとして計測したものを示す。図7Bは、促進された安定性をインシュリン損失のパーセントとして、1.1バールの圧力で、入り口温度がそれぞれ110℃、120℃及び130℃において噴霧乾燥された粉末について計測したものを示す。図7C〜7Kは、霧化圧を0.7−1.1バールで変化させ、入り口温度をそれぞれ110℃、120℃及び130℃で変化させた時の一次粒子の凝集が最小限(レーザー回折により得られた粒径分布で示される)であることを示す。
【0035】
図8は、11.4%の凍結乾燥されたFDKP/インシュリン及び11.4%の噴霧乾燥されたFDKP/インシュリンをラットへ吹送した後の、薬力学的な分析結果(血糖減少)を表す。ラットはそれぞれ、11.4重量%のインシュリンを含有する粉末を3mg摂取した。各群は4頭を含んでいた。
【0036】
図9は、噴霧乾燥又は凍結乾燥によって乾燥されたFDKP/インシュリン粉末の空気力学的性能を表す。2組の懸濁液(四角と丸で表わされる)を試験した。中抜きの記号は噴霧乾燥された粉末を表し、黒塗りの記号は凍結乾燥された粉末を表す。
【0037】
図10A〜10Bは、凍結乾燥された粉末と比べて、噴霧乾燥された粉末において、インシュリン減少(図10A)及びA−21形成(図10B)が減少していることを示す、安定性のデータを表す。
【0038】
発明の態様の詳細な説明
いずれの医薬粒子でも、成功するかどうかは、疾患又は状態を治療する際の有効性のみに因るのではなく、他の公知の治療に対して優れた薬剤学的特性を有していることにも因る。乾燥粉末粒子中に見出される望ましい薬剤学的特性としては、改善された空気力学、薬力学、及び安定性が挙げられる。しかし、このような特性を有している粒子を製造することは、当該技術分野に於ける現在の課題である。当該技術分野に於けるこの目標を達成するためのアプローチの一つは、粒子を製造するために用いられる方法にある。
【0039】
従って、本発明により、乾燥粉末の薬剤学的特性が、一般的に、凍結乾燥に優先して噴霧乾燥を用いて粒子から溶媒を除去することにより改善され得るという、新規で予期できない発見が提供される。
【0040】
本発明は、改善された薬剤学的特性を有している乾燥粉末を提供する工程により装填及び/又は乾燥された活性薬剤と組み合わせたジケトピペラジン(DKP)の粒子を提供することにより、当該技術分野に於ける欠点の克服に供する。特定の態様において、本発明は、噴霧乾燥により乾燥させた、インシュリンと組み合わせてジケトピペラジンを含有する粒子を提供する。本発明は、更に、先に開示された凍結乾燥粉末(「Purification and Stabilization of Peptide and Protein Pharmaceutical Agents」と題された米国特許第6,444,226号、並びに、共に「Method of Drug Formulation Based on Increasing the Affinity of Active Agents for Crystalline Microparticle Surfaces」と題された、2005年9月14日に出願された米国特許出願第60/717,524号、及び2006年9月14日に出願された米国特許出願第11/532,063号を参照されたい;それぞれは、ジケトピペラジン微粒子組成物に関して該文献が含むすべてについて、参照によって本明細書に組み入れられている)と比較して、少なくとも同様の薬力学を保ちつつ、改善された安定性、空気力学又はより大きな密度を示す噴霧乾燥された粉末を更に提供する。
【0041】
ドラッグデリバリーのためのジケトピペラジン粒子は、種々の方法によって、活性薬剤と共に形成されそして装填され得る。ジケトピペラジン溶液は、活性薬剤の溶液又は懸濁液と共に混合され、次いで、沈殿させて活性薬剤を含有する粒子を形成させることができる。これに代わり、DKPは、沈殿させて粒子を形成させ、次いで、活性薬剤の溶液と混合させることができる。粒子と活性薬剤との会合は、同時に起こることがあり、溶媒の除去により引き起こされ得る。特定の工程は、乾燥、又は前記会合を促進するために適用されるこれらのメカニズムのいずれかの組み合わせの前に含まれ得る。この線に沿った更なる変形は、当業者にとって明らかであろう。
【0042】
ひとつの特定のプロトコルにおいては、沈殿したジケトピペラジン粒子を洗浄し、インシュリン溶液を加え、該混合物を液体窒素に滴下することにより凍結させ、得られた凍結した液滴(ペレット)を凍結乾燥(lyophilize)(凍結乾燥(freeze−dry))させ、ジケトピペラジン−インシュリン乾燥粉末を得る。別の態様において、前記混合物は別の方法で、例えば噴霧により、液体窒素中へ分散させることができる。別のプロトコルにおいては、沈殿させた本発明のジケトピペラジン粒子を洗浄し、インシュリン溶液を加え、前記溶液のpHを前記粒子上へのインシュリン吸着を促進するように調整し、溶媒を噴霧乾燥又は凍結乾燥のいずれかにより除去し、ジケトピペラジン−インシュリン乾燥粉末を得る。これまでは、凍結乾燥は、溶媒除去のために用いられており、この目的のために噴霧乾燥を用いることは同様の結果をもたらすであろうと考えられてきた。本明細書において開示するように、驚くべきことに、噴霧乾燥された乾燥粉末が、改善された医薬特性を有していることが明らかとなった。特に、噴霧乾燥された粉末は、改善された呼吸性分画(RF(%))を有し、前記粒子に含有された前記インシュリンは、分解に対するより優れた安定性を有しており、前記粒子はより密度が高く、より高い投与量を、いずれの特定の容積にも装填することができる。少なくとも同程度の量の血糖が減少することによって示されるように、肺投与の際、少なくとも同程度の量のインシュリンが血流に送達された。噴霧乾燥された粉末の性能は、凍結乾燥されたサンプルの調製が、薬剤の前記粒子との会合を促進するためのpH調整を含むかどうかにかかわらず、前記凍結乾燥された粉末よりも優れていた。
【0043】
更に改善された手順においては、DKPが沈殿する溶液の温度を管理した。驚くべきことに、FDKP粒子は、約13℃未満又は約19℃を超える温度において溶液から沈殿し、より大きなRF(%)の乾燥粉末が、溶媒除去に凍結乾燥を用いて得られた。約17℃の温度の溶液から沈殿したFDKP粒子については、より大きなRF(%)の乾燥粉末が、溶媒除去に噴霧乾燥を用いて得られた。試験された範囲の残りの範囲においては、空気力学的性能は、いずれの乾燥方法においても同様であった。従って、DKP粒子の空気力学的性能は、粒子が沈殿する溶液の温度に基づいて溶媒除去方法を選択することにより最適化することができる。得られた乾燥粉末は、本明細書中の実施例に記載されているように、空気力学的特性(RF(%)、カートリッジ排出、RF/フィル(%)、空気動力学的中央粒子径(MMAD)、幾何標準偏差(GSD))、及び物理化学的特性(インシュリン含有量(装填(%))、収量、密度)によって特徴づけられた。
【0044】
驚くべきことに、噴霧乾燥された粒子の密度は、凍結乾燥された粒子の密度のおよそ2倍であった。このことは、より大きな投与量を提供する際に有利であり得る。乾燥粉末吸入器は、一般的に粉末の容量、従って、一回の操作で送達され得る活性薬剤の投与量に、制限を課している。より高い密度であるが、少なくとも同様の呼吸性分画を備えた粉末により、投与量ごとのより多くの操作、より高い装填(%)の活性薬剤を備えた製剤、又は、種々の量の粉末を収容するための代替の吸入器若しくは吸入器カートリッジの設計を必要とすることなく、一回の操作でより多くの量が投与され得る。これらの代替のいずれによっても、より多くの開発費及び/又は生産費が必要となり、そして、製品の複雑さという問題も出る。製品が複雑であることと、投与量ごとに複数の操作が必要であることにより、製品受容、及び患者の薬剤服用遵守に関する問題が更に生じる。従って、この予期されない粉末密度の増加により、噴霧乾燥された粉末を医薬品として用いるための複数の利益が提供される。
【0045】
1.噴霧乾燥によるプリフォームされた粒子の調製
本発明において用いられるように、噴霧乾燥は、液状媒質(溶媒)中懸濁液中の粒子を装填、そして/又は乾燥させるために用いられる熱処理方法である。本明細書の実施例に開示されるように、ジケトピペラジン粒子の懸濁液及びインシュリン溶液を混合する。その後、インシュリン分子のうちいくつか、又はすべてが、ジケトピペラジン粒子に結合する。種々の態様において、ジケトピペラジン−インシュリン粒子は、その後噴霧乾燥により装填そして/又は乾燥され、乾燥粉末が得られる。それに代わる態様においては、粒子が沈殿する前に、活性薬剤をジケトピペラジン溶液に加える。
【0046】
噴霧乾燥中、ジケトピペラジン粒子又はジケトピペラジン−インシュリン粒子の水性混合物が、ノズル(例えば、二流体ノズル又は高圧ノズル)、回転円板、又は同等の装置を介して加熱ガス流中へ加えられる。該加熱ガス流を通す前、前記溶液又は懸濁液は微細液滴へと霧化される。このガス流により供給される熱エネルギーにより、前記粒子が懸濁されている水及び他の溶媒の蒸発が引き起こされ、これにより乾燥粉末組成物が生成される。
【0047】
ジケトピペラジンをインシュリンと組み合わせて含有する乾燥粉末を得る際、本発明の態様に於けるように、噴霧乾燥方法は一般的に、凍結乾燥により得られる同様の粒子と比較して優れた薬剤学的特性を備えた粒子を提供することを、本願発明者らは見出した。前記粒子を得る際に、本願発明者らは数多くのパラメータを考慮した。これらのパラメータには、温度、霧化圧、懸濁液の固形分、インシュリン減少パーセント、A−21の形成、粒子の凝集、並びに空気力学的及び生物学的性能が含まれた。
【0048】
入り口温度は、その供給源から出るガス流の温度である。前記出口温度は、粉末製剤の最終温度の尺度、及び乾燥のための入り口空気中のエネルギーの使用の指標であり、そして、前記入り口温度、及び製品を乾燥するために必要な熱負荷、並びに他の要因の関数である。前記出口温度は、処理される巨大分子の不安定性に基づいて選択される。
【0049】
ジケトピペラジン/活性薬剤混合物は懸濁液であってよい。溶媒、一般的に、水は、液滴から素早く蒸発し、微細な乾燥粉末が生成する。
噴霧乾燥は、呼吸可能な粒径を有し、低い含水量、及びエアロゾル化を可能にする他の特性を備えた、均質な組成の粉末が結果として得られる条件下で行われる。得られる粉末の粒径は、粒子の約98(質量)%超が約10μm以下の直径を有し、粒子の約90(質量)%が5μm未満の直径を有しているようなものが好ましい。あるいは、粒子の約95(質量)%が約10μmの未満直径を有し、粒子の約80(質量)%が5μm未満の直径を有している。特定の態様においては、乾燥粉末が、直径が1〜5μmの平均粒径を有している。先行する態様は、特に肺送達に於ける粉末の使用に関する。平均粒径は、気道のどの場所に粒子が沈着するかに影響し、そして、これらを大量処理する際の特性にも影響し得る。例えば、鼻腔内沈着は20μmを超える平均直径を有した粒子が好ましい。別の態様においては、粉末は、錠剤の形成に用いたり、カプセルに詰めたり、又は経口投与又は注射のために再懸濁させることができる。従って、種々の態様において、乾燥粉末は、約10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μmを超える平均粒径を有した粒子を含むことができる。ある別の態様においては、前記乾燥粉末は約100μm〜約500μmの平均粒径を有した粒子を含むことができる。別の態様においては、乾燥粉末は約1mm未満の平均粒径を有した粒子を含むことができる。
【0050】
活性薬剤及びジケトピペラジンを含有する本発明の懸濁液は、当該分野において周知であり、商品供給者(Niro Inc., Columbia, MD)から入手可能なPHARMASDTM PSD-I Spray Dryer又は、SD-MicroTM Spray Dryerのような従来の噴霧乾燥装置で噴霧乾燥させることができ、これによりこのような粒子を含む乾燥粉末が得られる。なお、従来の別の噴霧乾燥装置を使うこともできる。
【0051】
噴霧乾燥実験を行う際に、回転霧化、加圧噴霧、及び2流体霧化(例えば、並流2流体ノズル及び/又は噴水2流体ノズル)のような方法を用いることができる。噴霧乾燥方法に用いられる装置は、当業者に周知である。
【0052】
前記噴霧工程において用いられる噴霧器のノズルには特別な制限は課されないが、鼻咽頭又は肺投与に適した粒径を有している噴霧乾燥組成物を生成することのできるノズルについては、以下の例のようなノズルを用いることが当該分野において推奨される。例えば、ノズルタイプ「1A」、「1」、「2A」、「2」、「3」等、(Yamato Chemical Co.製)、又はSB Series SprayDry(登録商標)Nozzles(Spraying Systems Co.製)を、噴霧乾燥器と共に用いることができる。加えて、ディスクタイプ「MC−50」、「MC−65」又は「MC−85」(Okawara Kakoki Co.製)を、噴霧乾燥機噴霧器の回転円板として用いることができる。
【0053】
別の態様においては、噴霧された材料を乾燥させるために用いる入り口ガス温度は、活性薬剤の熱分解を引き起こさないものである。入り口温度の範囲は、約50℃から約200℃の間で変化し得るが、好ましくは、約110℃と約160℃の間である。十分に安定化された薬剤においては、前記入り口温度は200℃を超え得る。噴霧された材料を乾燥させるために用いる出口ガス温度は、約35℃から約100℃の間で変化し得るが、好ましくは、約55℃と約85℃の間である。別の態様において、前記出口温度は、好ましくは75℃であってよい。本発明の別の態様において、前記入り口温度、及び出口温度は、それぞれ120℃、及び75℃に保ってよい。
【0054】
上記及び本明細書のそれ以外で開示されているように、本発明の方法及び組成物にとって有用で適用可能な用語は以下のとおりである:
「粉末」という用語は、吸入器中に分散させることができ、そして対象に吸入させることのできる細かい固体粒子よりなる組成物を意味する。好ましい態様において、前記粒子は肺、すなわち肺胞に到達する。このような粉末は「呼吸可能」と呼ばれる。好ましくは、この平均粒径は、直径約10ミクロン(μm)未満であり、比較的均一な球体の形状分布を備えている。より好ましくは、この直径は約7.5μm未満であり、最も好ましくは約5.0μm未満である。通常、粒径分布は直径約0.1μmと約8μmの間にあり、特に約0.3μmから約5μmである。
【0055】
「乾燥」という用語は、粉末組成物が、噴射剤、担体、又は他の液体中に、懸濁又は溶解していないことを意味する。完全に水が存在しないことを含意するわけではない。前記組成物は、前記粒子が容易に吸入器内で拡散しエアロゾルを形成することができるような含水量を有し得る。この含水量は一般的に、約10重量%(%w)未満であり、通常約5重量%未満であり、そして、好ましくは約3重量%未満である。
【0056】
「有効量」という用語は、治療されるべき対象に所望の反応を提供するために必要とされる量である。正確な投与量は、以下に限定されないが、対象の年齢及び大きさ、疾患及び実行される治療を含む種々の要因によって変化するであろう。「有効量」は、予期される薬力学的反応又はバイオアベイラビリティにも基づいて決定されるであろう。
【0057】
2.ジケトピペラジン
ジケトピペラジンを、活性薬剤を含ませた粒子、又は活性薬剤が吸着することのできる粒子、に形成することができる。本発明のジケトピペラジンには、以下に限定されないが、(E)−3,6−ビス[4−(N−カルボキシル−2−プロペニル)アミドブチル]−2,5−ジケトピペラジン(フマリルジケトピペラジン、又はFDKPとも呼ぶことができる)としても知られている、3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンが包含される。
【0058】
本発明において考慮される別のジケトピペラジンには、3,6−ジ(4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン;3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(スクシニルジケトピペラジン又はSDKP);3,6−ジ(マレイル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン;3,6−ジ(シトラコニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン;3,6−ジ(グルタリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン;3,6−ジ(マロニル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン;3,6−ジ(オキサリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、及びその誘導体が包含される。
【0059】
簡潔には、ジケトピペラジンは、Katchalski, et al.,(J. Amer. Chem. Soc. 68:879-80; 1946)に記載されているようなアミノ酸エステル誘導体の環状2量体化により、ジペプチドエステル誘導体の環化により、又はKopple, et al.,(J. Org. Chem. 33(2):862- 64; 1968)に記載されているような高沸点溶媒中でのアミノ酸誘導体の熱脱水により形成することができ、これらの教示は本明細書に組み入れられている。
【0060】
ジケトピペラジンの合成及び調製方法は、当業者に周知であり、米国特許第5,352,461号;米国特許第5,503,852号;米国特許第6,071,497号;米国特許第6,331,318号;及び米国特許第6,428,771号;並びに米国特許出願第11/208,087号に開示されており、それぞれは、これらがジケトピペラジンに関して教示するすべてについて、本明細書に参照によって組み込まれている。ジケトピペラジン微粒子に関してそれが含むすべてについて本明細書に参照によって組み込まれている米国特許第6,444,226号には、活性薬剤溶液が加えられる水性懸濁液中にジケトピペラジンの微粒子を調製し提供することが記載されている。この特許には、凍結乾燥により液状媒質を除去し、活性薬剤を含有する微粒子を得る方法が、更に記載されている。以下の文献のそれぞれは、これらがジケトピペラジン微粒子に関して教示するすべてについて、本明細書に参照によって組み込まれている、米国特許第6,440,463号及び、双方が2006年9月14日に出願された米国特許出願第11/532,063号及び第11/532,025号、並びに2005年9月14日に出願された米国仮特許出願第60/717,524号も参照されたい。
【0061】
本発明のジケトピペラジン−インシュリン粒子製剤は種々の投与経路で投与することができると、更に考慮されている。これらの粒子は、粒子の大きさに依存して、呼吸器系の特定のエリアへの吸入により、乾燥粉末として送達することができる。更に、この粒子は、静脈内懸濁液剤形中への組み入れのために十分に小さくすることができる。経口デリバリーも、この粒子を懸濁液、錠剤、又はカプセルに組み入れることにより可能である。
【0062】
3.活性薬剤
本発明の態様は、活性薬剤をジケトピペラジンと組み合わせた粒子を用いる。「活性薬剤」という用語は、本明細書において、本発明のジケトピペラジン中に又はジケトピペラジンに対して、カプセル化され、会合し、結合し、複合体を形成し又は捕捉された、治療薬、又は分子(例えば、タンパク質若しくはペプチド又は生体分子)を指す。概して、いずれの形態の薬剤も、本発明のジケトピペラジンと組み合わせることができる。本発明において考慮されるような活性薬剤は、電荷を帯びていてもいなくてもよい。
【0063】
本明細書に記載されている組成物及び方法において用いられることが考慮されている活性薬剤には、いずれのポリマー又は大きな有機分子も包含され、最も好ましくは、ペプチド及びタンパク質が包含される。例として、治療、予防、又は診断のための機能を有している合成有機化合物、タンパク質及びペプチド、多糖類及び他の糖、脂質、並びに核酸配列が挙げられる。活性薬剤は、低分子及びビタミンをも含んでいてよい。本発明の活性薬剤は、血管作用薬、神経作用薬、ホルモン剤、代謝、体重、若しくは血糖値を調節する薬剤、抗凝固剤、免疫抑制薬、細胞毒性物質、抗生物質、抗ウイルス剤、アンチセンス分子、又は抗体であってもよい。
【0064】
特定の典型的な活性薬剤の例が上記に列挙されている。本発明の特定の態様において、活性薬剤は、インシュリン又はその類似体である。より早い、より遅い、より短い、又はより長い活動特性を有している類似体は、当該分野において公知である。このような類似体には、アミノ酸配列を変えたもの、及び、ポリエチレングリコールのような別の部分により、又は融合タンパク質に於けるように追加のアミノ酸により共有結合的に修飾されたものが含まれる。野生型のインシュリン分子の実質的な部分を有し、そして生理学的に関連したインシュリン様活性を有したいずれの分子も、究極的にはこの用語によって理解されるものである。
【0065】
本発明により考慮されるタンパク質は、100以上のアミノ酸残基よりなるものとして定義され;更に、本発明により考慮されるペプチドは、100未満のアミノ酸残基である。
【0066】
4.本発明において考慮される安定化剤
更なる態様において、本発明により、粒子製剤に含ませることのできるジケトピペラジンと活性薬剤を含む懸濁液又は溶液に含有させることのできる安定化剤の使用が考慮される。
【0067】
乾燥工程の間の形態の安定性のために安定化剤を含んでいてもよい。加えて、これらの安定化剤は、本発明の乾燥粉末ジケトピペラジン−インシュリン粒子製剤の空気力学又はバイオアベイラビリティを更に改善させることができる。このような安定化剤は、以下のものに限定されるわけではないが、糖類、表面改質剤、界面活性剤、トリプトファン、チロシン、ロイシン、フェニルアラニンのような疎水性アミノ酸、医薬担体又は賦形剤等を含んでいてよい。
【0068】
本発明によって考慮される安定化剤は、好ましくは呼吸器及び肺投与に適したものである。特定の態様においては、均一な粉末を製造するために、この安定化剤が、ジケトピペラジン−インシュリン粒子に同時に含まれるのが好ましい。これに代わり、安定化剤を乾燥粉末形態に別に調製し、これを、噴霧乾燥されたジケトピペラジン−インシュリン粒子と共に混合により組み合わせてもよい。
【0069】
他の例では、例えば、以下に限定されないが、炭水化物、例えば、フルクトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボース等のような単糖類;ラクトース、トレハロース、セロビオース等のような二糖類;2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンのようなシクロデキストリン類;ラフィノース、マルトデキストリン、デキストラン等のような多糖類;グリシン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、システイン、リシン等のアミノ酸;クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、グルコン酸マグネシウム、グルコン酸ナトリウム、トロメタミン塩酸塩等のような、有機酸と塩基とから調製された有機酸塩;アスパルテーム、ヒト血清アルブミン、ゼラチン等のようなペプチド及びタンパク質;キシリトールのようなアルジトール、等のような粉末担体を用いることができる。担体の好ましい群として、トレハロース、ラフィノース、マルトデキストリン、グリシン、クエン酸ナトリウム、トロメタミン塩酸塩、ヒト血清アルブミン及びマンニトールが挙げられる。このような粉末担体は、通常結晶である(水分吸収を避けるため)が、場合によっては、アモルファス、又は結晶とアモルファスの混合物の形態であってもよい。安定化剤粒子の大きさを選択し、噴霧乾燥された粉末製品の流動性を改善することができる。
【0070】
本発明によって考慮される糖類には、以下に限定されないが、デキストロース、ラクトース及びマンニトールが含まれる。
本発明によって考慮される界面活性剤には、以下に限定されないが、ポリソルベート80(PS80)、レシチン、ホスファチジルコリン、DPPC、ドデシル硫酸ナトリウム、及びイオン性洗剤が含まれる。
【0071】
実施例
本発明の好ましい態様を示すために、以下の実施例が含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施において、よく機能する、発明者によって明らかにされた技術を代表し、従ってその実施のための好ましい形態を構成すると考えられるということは当業者によってよく理解されるはずである。しかし、当業者は、本発明の開示の観点の下、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、同様のもの又は同様の結果をもたらす、開示された特定の態様において、多くの変更をすることが可能であることをよく理解するはずである。
【0072】
実施例1 空気力学、安定性、及び凝集への霧化圧の効果
ジケトピペラジン誘導体、3,6−ビス[N−フマリル−N−(n−ブチル)アミノ]−2,5−ジケトピペラジン(3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン、フマリルジケトピペラジン又はFDKPとも称され;(E)−3,6−ビス[4−(N−カルボキシ−2−プロペニル)アミドブチル]−2,5−ジケトピペラジンとも呼ばれる)を沈殿させ、洗浄した。pHをおよそ4.45に調節することによりFDKP粒子上にインシュリンを装填し、FDKP−インシュリン粒子を噴霧乾燥させ、FDKP−インシュリン乾燥粉末を得た。pHを約4.45とすることにより、インシュリンのFDKP粒子への結合が増加することが明らかとなり、このことは、双方が2006年9月14日に出願された米国特許出願第11/532,063号及び第11/532,025号、並びに2005年9月14日に出願された米国仮特許出願番号第60/717,524号に開示されている。
【0073】
この乾燥粉末に関して、種々の空気力学的特性(%RF、カートリッジ排出、%RF/フィル、空気動力学的中央粒子径[MMAD]、及び幾何標準偏差[GSD])についての特徴を記述した。
【0074】
表1及び図1は、前記粒子の空気力学的性能への、霧化(ノズル)圧の効果を示す。該ノズル圧は0.4バールから1.1バールの範囲であった(表1)。フィル上の呼吸性分画(フィル上RF(%))は、霧化圧が0.4バールから1.1バールへ増加するにつれて改善した。
【0075】
【表1】

【0076】
インシュリンの安定性を、インシュリン減少のパーセント(図2A)及びストレス条件下(40℃、75%RHで10日間)でのインシュリン分解産物A21−デサミド(desamido)インシュリンへの転化のパーセント(A21(%))(図2B参照)として評価した。比較のために、それぞれの図中のボトムバーは、凍結乾燥された粒子について得られたデータを表している。これらのデータは、霧化圧が上昇するにつれて、ジケトピペラジン−インシュリン粒子中のインシュリンの安定性が増加する一般的な傾向が存在することを示した。凍結乾燥された粒子と比較して、噴霧乾燥された粒子のすべてにおいてA21インシュリン分解産物の形成がより少ないことが観察された(図2B)。
【0077】
一次粒子の凝集を評価するために、Malvern Mastersizer 2000を用いて、噴霧乾燥された粒子の懸濁液のレーザー回折から、粒径分布を測定した。上記の試験条件の下、ジケトピペラジン−インシュリン一次粒子の凝集が減少する傾向は、霧化圧の増加とともに観察された(図2C〜2E)。凝集した粒子を表す、粒径の右側のピークが、霧化圧が0.4バール(図2C)から0.6バール(図2D)へ、0.7バール(図2E)へと増加するにつれて、減少することが観察される。
【0078】
実施例2 空気力学、安定性、及び粒子凝集に対する入り口温度の効果
上記のように調製された粒子を用いて、噴霧乾燥機の入り口温度及び工程の拡張性を、下記の表2に示されるように評価した。これらの実験において、入り口温度は105℃から140℃まで変化し、出口温度は75℃で一定に保たれた。ノズル圧力は0.6バールで一定に保たれた。
【0079】
増加した入り口温度に対して、一定の出口温度を保つために噴霧速度の上昇が必要とされることが観測された(表2)。増加した噴霧速度により、乾燥された粒子がより大きな生産速度で生産された。噴霧乾燥された粒子の空気力学が評価された(表2)。フィル上RF(%)は、調べた温度範囲にわたって一定のままであった(図3)。
【0080】
【表2】

【0081】
更に、これらのデータにより、入り口温度(乾燥速度)を増加させても、粒子のインシュリンの安定性は、負の影響を受けないことが示された。入り口温度の上昇と共にインシュリンの安定性が増加する傾向があった。40℃/75%RHで10日後、減少したインシュリン及び形成されたA21(図4A及び4B)として安定性が測定された。しかし、上記の試験条件の下、入り口温度の上昇と共にジケトピペラジン−インシュリン一次粒子の凝集が増加する傾向が観察された(図4C〜4F)。
【0082】
実施例3 インシュリン回収率及び分布
これらの実験において、既知量のジケトピペラジン粒子を水中に懸濁させた。既知濃度のインシュリン溶液を十分に該懸濁液に加え、理論上11.4%インシュリンの組成物を得た。フマリルジケトピペラジン−インシュリンスラリーを噴霧乾燥の前に滴定し、pHはおよそ4.45であった。
【0083】
粒子全体にわたるインシュリンの分布は図5Aに示されるように評価された。これらの実験はアンダーセンカスケードインパクター(Andersen Cascade Impactor)を用いて行った。前記粉末をカートリッジに詰め、MedTone(登録商標)吸入器を通してアンダーセンカスケードインパクターへ放出した(MedTone(登録商標)吸入器は、「Unit Dose Cartridge and dry powder Inhaler」と表題される米国特許出願第10/655,153号に記載されており、吸入器機器に関してこの文献が含むすべてについて、本明細書に参照によって組み入れられている)。このインパクターは空気力学的大きさにより粒子を分類する。粒子は、放出された後、それぞれのステージから回収され、インシュリン量(装填)について分析した。インシュリンが製剤全体にわたって均等に分布していることが示される。上記表2に示されるように、スケール(粉末のグラム)を、4倍増加させることも、許容されることがわかった。
【0084】
噴霧乾燥された粒子と凍結乾燥された粒子の粒子形態を、走査型電子顕微鏡(SEM)により比較した。図5B〜5Eは、凍結乾燥された製剤(図5B及び5D)の粒子形態が噴霧乾燥された製剤(図5C及び5E)の粒子形態と同等であることを示す。
【0085】
実施例1〜3の要約
上記のデータは、以下を示す:1)霧化圧を増加させると一次粒子の凝集が減少する;2)入り口温度を増加させても粒子の空気力学にはほとんど影響がなかった;3)インシュリンの安定性に対して、入り口温度増加の負の影響は観察されなかった;4)入り口温度の増加により、一次粒子の凝集がより大きくなった;5)噴霧乾燥された粒子は、同じ組成の凍結乾燥された粒子と比較した場合、インシュリンの安定性を増加させた;及び6)噴霧乾燥された粒子は、凍結乾燥された粒子と同様の形態を有していた。
【0086】
実施例4 空気力学的性能を最大化するための噴霧乾燥パラメータの決定
入り口温度及び霧化圧を、110、120及び130℃の入り口温度、及び0.7、0.9及び1.1バールの霧化圧を用いてさらに評価した(表3)。
【0087】
【表3】

【0088】
図6Aは表3の結果を、フィル上RF(%)対霧化圧としてまとめたものであり、図6Bは表3の結果を、フィル上RF(%)対入り口温度としてまとめたものである。従って、このデータは、霧化圧の増加は空気力学的性の改善へとつながり、入り口温度はこのパラメータに影響を与えないことを示している。
【0089】
実施例5 安定性及び凝集に対する入り口温度及び霧化圧の効果
表3に列挙されたサンプルはインシュリンの安定性及び粒子凝集について分析した。図7A及び7Bに示されるように、この結果は、噴霧乾燥されたサンプルが同等の凍結乾燥された粉末よりもインシュリンの減少が少ないことを示したという点において、実施例1〜3の結果と一致した(図7A及び7Bに於けるボトムバー;pH4.5に調整された凍結乾燥されたサンプルに用いられる粒子の装填は、上記実施例1で議論されたように、FDKP粒子へのインシュリンの結合を増加させる)。
【0090】
ジケトピペラジン−インシュリン一次粒子の凝集を、増加させた入り口温度及び増加させた霧化圧(図7C〜7K)の条件下で測定した。レーザー回折による粒径分布は、一般的に、本実施例で扱われる範囲にわたって霧化圧及び温度の影響を受けなかった。小さい程度の凝集が、0.7バール、並びに入り口温度110℃及び120℃で観察されたが、他のすべての条件において単峰型分布が得られた。
【0091】
凍結乾燥されたサンプルと比較した噴霧乾燥されたサンプルについての結果は、以下を示す:1)空気力学を改善するために霧化圧を増加させることができる;2)入り口温度のフィル上RF(%)への影響は無視できる;3)入り口温度の上昇に伴い、インシュリンの安定性は増加する;4)入り口温度及び霧化圧の増加は、インシュリン一次粒子の凝集を減らした。
【0092】
実施例6 噴霧乾燥された粒子でのインシュリンの薬力学
ラット吹送調査によるデータは、噴霧乾燥されたFDKP−インシュリン粉末により、凍結乾燥された物質により提供されたものと少なくとも同等の糖処理が与えられることを示した。図8は、ラットへ凍結乾燥された11.4%FDKP−インシュリン粒子及び噴霧乾燥された11.4%FDKP−インシュリン粒子を吹送した後の薬力学的な分析結果(血糖減少)の比較を示す。噴霧乾燥されたFDKP−インシュリン粉末のグルコースを低下させる能力は、凍結乾燥されたFDKP−インシュリン粉末の能力と同等であることがわかった。
【0093】
実施例7 噴霧乾燥されたFDKP−インシュリン粉末の空気力学及び安定性
フマリルジケトピペラジン(FDKP)−インシュリン粒子を、上記と同様の方法で調製した。すなわち、粒子をインシュリン溶液と混合し、11.4重量%のインシュリンを含む粒子を得、該粒子へのインシュリンの吸着を促進するためにpHを調整した。得られた粒子懸濁液を、噴霧乾燥又は凍結乾燥のいずれかにより乾燥させた。表4は、工業規模の噴霧乾燥機を用いて調製された2つの200gのロットと凍結乾燥されたサンプルとの比較を示す。このバルク粉末は、空気力学的性能について試験した。インシュリン減少及びA21−デサミドインシュリンの形成についての評価の前に、バルク粉末の更なるサンプルを40℃/75%RHで15日間保管した。この噴霧乾燥された粉末は、平均的なフィル上の呼吸性分画(RF/フィル(%))62%を示し;凍結乾燥された粉末の平均値54%と比較した。噴霧乾燥された粉末はまた、すぐれた安定性を示した。噴霧乾燥された粉末のインシュリンの減少及びA−21形成は、凍結乾燥された粉末のそれらの約半分であった。
【0094】
【表4】

【0095】
実施例8 噴霧乾燥されたFDKP−インシュリン粉末対凍結乾燥されたFDKP−インシュリン粉末の特性解析
更に改善された工程おいては、FDKP溶液の供給温度を管理した。フマリルジケトピペラジン(FDKP)の貯蔵液を調製し、l1℃、13℃、15℃、17℃又は19℃へと冷却し、FDKP粒子を沈殿させた。粒子を装填及び乾燥させるために、2つの異なる方策を用いた。1つの方策においては、沈殿したジケトピペラジン粒子を洗浄し、インシュリン溶液を加え、インシュリンの該粒子への吸着を促進するためにpHを調整し、この混合物を、液体窒素に滴下することにより凍結させ、そして、得られるペレットを凍結乾燥(lyophilize)(凍結乾燥(freeze-dry))させ、ジケトピペラジン−インシュリン乾燥粉末を得た。もう一つの対応する手順においては、沈殿したジケトピペラジン粒子を洗浄し、インシュリン溶液を加え、pHを調整し、そして、ジケトピペラジン−インシュリン粒子懸濁液を噴霧乾燥し、ジケトピペラジン−インシュリン乾燥粉末を得た。
【0096】
複製したものを2セット調製し、これらの乾燥粉末を、空気力学的性能(RF/フィル(%)、カートリッジ排出、空気動力学的中央粒子径(MMAD)及び幾何標準偏差(GSD))について特徴を記述した。これらのデータが表5に要約されている。これらのサンプルについてのRF/フィル(%)は、図9に示されている。これらの粉末の安定性は図10A及び10Bにおいて比較されている。上述のように、噴霧乾燥された粉末は、凍結乾燥されたサンプルよりも少ないインシュリン減少、及び少ないA21−デサミドインシュリンの形成を示した。
【0097】
凍結乾燥されたFDKP−インシュリン粉末に対する噴霧乾燥されたFDKP−インシュリン粉末のかさ密度及びタップ密度を評価した。前記2セットの複製をかさ密度及びタップ密度について特徴を記述した。表5は、噴霧乾燥された粉末が凍結乾燥された粉末よりも密度が高い(約2倍)ことを示している。噴霧乾燥されたこれらの物質のかさ密度及びタップ密度の平均は、それぞれ0.2g/cc及び0.29g/ccであった。凍結乾燥されたFDKP−インシュリンのかさ密度及びタップ密度の平均は、それぞれ0.09g/cc及び0.13g/ccであった。これらの結果は予期せぬものであり、驚くべきものであった。この密度の増加により、より多くの粉末を単一のカートリッジに詰めることが可能となり、これにより、より多くの投与量が提供可能となる。
【0098】
【表5】

【0099】
特に断らない限り、本明細書及び特許請求の範囲において用いられる、成分の量、分子量等の特性、反応条件等を表すすべての数字は、「約」という用語により、すべての場合において修正されるものとして理解される。従って、反対のことが指示されていない限り、以下の明細書、及び添付の請求の範囲において規定される数値パラメータは、本発明で得ようとする所望の特性に依存して変化し得る近似値である。少なくとも、そして、本特許請求の範囲へ均等論を適用することを制限しようとするものではないものとして、それぞれの数値パラメータは、少なくとも、報告された有意な数値の数を鑑み、そして、通常の丸め法を適用することにより解釈されるべきである。本発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に説明された数値は、可能な限り正確に報告されている。しかし、いずれの数値も、それぞれの試験装置に見られる標準偏差から必然的に起因する特定の誤差を本来含んでいる。
【0100】
本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、種々の態様及び改変を本明細書に開示された発明に対して行うことが可能であることは、当業者にとって直ちに明らかとなるものである。
【0101】
長年の特許法の慣習に従い、そして、本明細書において用いられるように、特許請求の範囲及び/又は明細書において「a」又は「an」という単語を使用することは、「含む(comprise)」という用語と共に用いられる場合、「1」を意味するが、特に言及されない限り、「1又はそれより大きい」、「少なくとも1」及び「1又は1より大きい」という意味とも一致する。
【0102】
本明細書に於ける値の範囲の列挙は、単に、個別に各々の値がその範囲に含まれることを言及する略記方法として供されることを意図している。本明細書において、特に指示のない限り、それぞれの個別の値は、あたかも、本明細書に個別に引用されているものとして、本明細書に組み込まれる。
【0103】
本明細書に記載されるいずれの方法又は組成物も、本明細書に記載される他のいずれの方法又は組成物とも関連して実施され得ることが考慮される。
特許請求の範囲に於ける「又は」という用語は、別の選択肢のみを言及するように明確に述べられていない限り、即ちそれぞれが相互に排他的でない場合、「及び/又は」を意味するものとして用いられるが、本開示においては、別の選択肢のみと「及び/又は」に言及する定義が支持されている。
【0104】
本願のすべてにわたって、「約」という用語は、値が、その値を測定するために用いられる装置又は方法についての標準偏差の誤差を含むことを示すために用いられる。
本発明の他の目的、特徴及び長所は、本明細書に提供された詳細な記載により明らかとなるであろう。しかし、本発明の精神及び範囲内での種々の改変及び修正が、詳細な説明により当業者にとって明らかになるであろうから、詳細な説明及び特定の実施例は、本発明の特定の態様を示している一方、例示としてのみ与えられることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】図1は、霧化圧の増加が、前記ジケトピペラジン−インシュリン製剤の空気力学に好ましい効果を与えたことを示している。
【図2−1】図2A及び図2Bは、ジケトピペラジン−インシュリン製剤の促進された安定性の評価である。
【図2−2】図2C〜図2Eは、ジケトピペラジン−インシュリン製剤の促進された安定性の評価である。
【図3】図3は、ジケトピペラジン−インシュリン製剤の空気力学への温度の効果を示す。
【図4−1】図4A及び図4Bは、入り口温度(乾燥速度)の増加が前記製剤の安定性に好ましくない影響を与えなかったことを示している。
【図4−2】図4C及び図4Dは、入り口温度(乾燥速度)の増加が前記製剤の安定性に好ましくない影響を与えなかったことを示している。
【図4−3】図4E及び図4Fは、入り口温度(乾燥速度)の増加が前記製剤の安定性に好ましくない影響を与えなかったことを示している。
【図5−1】図5Aは、粒径とは独立して、インシュリンが前記製剤にわたって一様に分布していることを示す。
【図5−2】図5B〜5Eは、噴霧乾燥された粒子(図5C及び図5E)及び凍結乾燥された粒子(図5B及び図5D)の形態が同じであることを示す。
【図6】図6A及び図6Bは、粒子の空気力学及びインシュリンの安定性の改善を表す。
【図7−1】図7A及び図7Bはインシュリンの安定性が、より高い入り口温度及び霧化圧において増加することを示す。
【図7−2】図7C〜図7Eは、インシュリンの安定性が、より高い入り口温度及び霧化圧において増加することを示す。
【図7−3】図7F〜図7Hは、インシュリンの安定性が、より高い入り口温度及び霧化圧において増加することを示す。
【図7−4】図7I〜図7Kは、インシュリンの安定性が、より高い入り口温度及び霧化圧において増加することを示す。
【図8】図8は、11.4%の凍結乾燥されたFDKP/インシュリン及び11.4%の噴霧乾燥されたFDKP/インシュリンをラットへ吹送した後の、薬力学的な分析結果(血糖減少)を表す。
【図9】図9は、噴霧乾燥又は凍結乾燥によって乾燥されたFDKP/インシュリン粉末の空気力学的性能を表す。
【図10】図10A及び図10Bは、前記凍結乾燥された粉末と比べて、前記噴霧乾燥された粉末において、インシュリン減少(図10A)及びA−21形成(図10B)が減少していることを示す、安定性のデータを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
ジケトピペラジンの溶液を提供し;
活性薬剤の溶液を提供し;
ジケトピペラジンの粒子を形成し;
前記ジケトピペラジン及び前記活性薬剤を組み合わせ;そして、その後、
噴霧乾燥により溶媒を取り除き、乾燥粉末を得ること;
を含み、前記乾燥粉末は、凍結乾燥により溶媒を取り除くことにより得られる乾燥粉末と比較して改善された薬剤学的特性を備えている、改善された薬剤学的特性を備えた乾燥粉末医薬の調製方法。
【請求項2】
前記改善された薬剤学的特性が、活性薬剤の改善された安定性、粉末の密度の増加、及び乾燥粉末の改善された空気力学的性能、より成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性薬剤が、インシュリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモン1−34、副甲状腺ホルモンの生理活性フラグメント、オクトレオチド、ロイプロリド、並びにRSVペプチド、フェルバメイト、カンナビノイドアンタゴニスト及び/又はアゴニスト、ムスカリンアンタゴニスト及び/又はアゴニスト、ヘパリン、低分子量ヘパリン、クロモリン、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル、成長ホルモン、AZT、DDI、GCSF、ラモトリジン、絨毛性ゴナドトロピン放出因子、黄体形成ホルモン放出ホルモン、β−ガラクトシダーゼ、GLP−1、エキセンディン1−4、グレリン、及びこれらのフラグメントより成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記活性薬剤がペプチド又はタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記活性薬剤がインシュリン又はその類似体である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記インシュリンが前記乾燥粉末製剤の約3重量%乃至約50重量%の範囲内である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記インシュリンが前記乾燥粉末製剤の約7重量%乃至約19重量%の範囲内である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記インシュリンが前記乾燥粉末製剤の約11重量%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記インシュリンが前記乾燥粉末製剤の約15重量%である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ジケトピペラジンは、化学式2,5−ジケト−3,6−ジ(4−X−アミノブチル)ピペラジンを有し、ここで、Xはスクシニル、グルタリル、マレイル、及びフマリルより成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ジケトピペラジンがフマリルジケトピペラジンである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記改善された薬剤学的特性が、前記粒子の前記活性薬剤の改善された安定性である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記改善された薬剤学的特性が、前記粒子の改善された空気力学的性能である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記改善された薬剤学的特性が、前記粉末の密度の増加である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記空気力学的性能が、カートリッジフィル上の呼吸性分画のパーセントによって測定されるものである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記呼吸性分画のパーセントが約40%を超える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記呼吸性分画のパーセントが約50%を超える、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記呼吸性分画のパーセントが約60%を超える、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法に従って調製された乾燥粉末。
【請求項20】
活性薬剤がインシュリン又はその類似体である、請求項19に記載の乾燥粉末。
【請求項21】
インシュリンを必要としている患者にインシュリンを送達する方法であって、該患者に有効量の請求項19に記載の乾燥粉末を投与することを含む、前記方法。
【請求項22】
ジケトピペラジン溶液を提供すること;
前記ジケトピペラジンを含有する粒子を形成する工程;及び、
噴霧乾燥により溶媒を取り除き、乾燥粉末を得ること;
を含み、前記乾燥粉末は、凍結乾燥により溶媒を取り除くことにより得られる乾燥粉末と比較して改善された薬剤学的特性を備えている、改善された薬剤学的特性を備えた乾燥粉末医薬の調製方法。
【請求項23】
前記溶媒を取り除く工程の前に、粒子に活性薬剤を添加する工程を更に含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
以下の工程:
ある管理された温度下で溶液からジケトピペラジンを沈殿させて、粒子を形成させ;
前記温度に基づいて乾燥方法を選択し;及び、
前記粒子を乾燥させること;
を含む、ジケトピペラジン乾燥粉末の空気力学的性能を最適化する方法。
【請求項25】
粒子に活性薬剤を添加する工程を更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ジケトピペラジンがフマリルジケトピペラジンであり、前記管理された温度は約15℃〜約18℃の間であり、そして前記選択された乾燥方法は噴霧乾燥である、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記管理された温度は約17℃である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ジケトピペラジンがフマリルジケトピペラジンであり、前記管理された温度は13℃以下又は19℃以上であり、そして前記選択された乾燥方法は凍結乾燥である、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
請求項24に記載の方法により作製された乾燥粉末。
【請求項30】
活性薬剤を更に含有する、請求項29に記載の乾燥粉末。
【請求項31】
前記活性薬剤がインシュリン又はその類似体である、請求項30に記載の乾燥粉末。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図5−1】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5−2】
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【公表番号】特表2009−527583(P2009−527583A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556548(P2008−556548)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際出願番号】PCT/US2007/062626
【国際公開番号】WO2007/098500
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(503208552)マンカインド コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】