説明

ジチオスルフェート化合物の製造方法

【課題】短時間に反応が完結し、しかも高収率かつ高選択的に、ジチオスルフェート化合物を得ることができる製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】CO−N原子団を有する非プロトン性極性溶媒および水の存在下に、式(I)で表されるジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを40〜150℃で反応させることにより、短時間に反応を完結でき、高収率かつ高選択的に、目的の式(II)で表されるジチオスルフェート化合物を得ることができる。


(式中、nは4〜12の整数を表し、Xはハロゲン原子を表す。)


(式中、nは4〜12の整数を表し、Mはアルカリ金属を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(II)、
【0002】
【化1】

【0003】
(式中、nは4〜12の整数を表し、Mはアルカリ金属を表す。)
【0004】
で表されるジチオスルフェート化合物の製造方法に関する。ジチオスルフェート化合物は加硫生成物の安定剤としての用途が知られており、ジエンゴムを加硫する際に硫黄及び加硫促進剤とともに使用される。
【背景技術】
【0005】
前記ジチオスルフェート化合物の製造方法としては、式(I)、
【0006】
【化2】

【0007】
(式中、nは4〜12の整数を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
【0008】
で表されるジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを、ジエチレングリコール、又はメタノールなどのプロトン性極性溶媒と水の混合溶媒を反応媒体に用いて反応させる製造方法が知られている(非特許文献1、特許文献1)。しかし、特許文献1では収率の記載が無く不明であり、非特許文献1に記載の収率は、49%と低収率であった。
【0009】
その他に、前記ジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを水を反応媒体として反応させる方法(特許文献2)も知られているが、反応時間は7〜8時間であり、水の使用量は、チオ硫酸ナトリウム五水和物1.5モルに対して約1150mlと多く、目的物が水溶性である事から、その取得は困難である。反応液からメチル第3ブチルエーテルで抽出することで目的物を取得することもできるが、取得操作の生産性は低くかつ煩雑である。また、その取得収率も低いものであった。
【特許文献1】特開平3−115259号公報
【特許文献2】特開平6−234734号公報
【非特許文献1】Journal of Chemical Society.,1965,p.2901〜2904
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、式(I)で表されるジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを水性有機媒体を反応媒体に用いて反応させる式(II)で表されるジチオスルフェート化合物の製造において、短時間に反応が完結し、しかも高収率かつ高選択的に、目的の式(II)で表されるジチオスルフェート化合物を得ることができる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、CO−N原子団を有する非プロトン性極性溶媒および水の存在下に、式(I)で表されるジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させることにより、短時間に反応を完結でき、高収率かつ高選択的に、目的の式(II)で表されるジチオスルフェート化合物を得ることができる製造方法を見出して、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は、CO−N原子団を有する非プロトン性極性溶媒と水との混合溶媒の存在下、式(I)で表されるジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させることを特徴とする式(II)で表わされるジチオスルフェート化合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、式(I)で表わされるジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させて式(II)で表わされるジチオスルフェート化合物を製造するにおいて、短時間に反応を完結でき、しかも高収率かつ高選択的に、目的の式(II)で表わされるジチオスルフェート化合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で使用するジハロゲン化合物は式(I)で表される。式中、Xは、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子を表す。
【0015】
式(I)で表わされるジハロゲン化合物として、具体的には、1,4−ジクロロブタン、1,6−ジクロロヘキサン、1,8−ジクロロオクタン、1,12−ジクロロドデカン等のジクロロアルカンや、1,4−ジブロモブタン、1,6−ジブロモヘキサン、1,8−ジブロモオクタン、1,12−ジブロモドデカン等のジブロモアルカンや、1,4−ジヨードブタン、1,6−ジヨードヘキサン、1,8−ジヨードオクタン、1,12−ジヨードドデカン等のジヨードアルカンなどが挙げられる。これらの中で、ジクロロアルカンが好ましい。
【0016】
本発明で使用するチオ硫酸アルカリ金属塩は、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム
が好ましく挙げられるが、経済性を考慮すれば、チオ硫酸ナトリウムが特に好ましい。
チオ硫酸アルカリ金属塩の使用量は、式(I)で表わされるジハロゲン化合物に対して好ましくは1.6〜2.4倍モル、更に好ましくは1.8〜2.2倍モルである。なお、チオ硫酸アルカリ金属塩は結晶水を含有していても無水物であってもよい。
【0017】
本発明では、反応媒体として、水性有機媒体であるCO−N原子団を有する非プロトン性極性溶媒と水の混合溶媒が使用される。
ここでCO−N原子団を有する非プロトン性極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)などのアミド化合物、N−メチルピロリドン(NMP)などの環状アミド化合物、N,N−ジメチルイミダジリジノン(DMI)などの尿素類が具体的に挙げられる。中でもN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミドなどのアミド化合物を使用することが好ましい。
【0018】
前記反応媒体のCO−N原子団を有する非プロトン性極性溶媒と水との混合割合は、通常、CO−N原子団を有する非プロトン性極性溶媒の体積百分率が25〜75vol%であることが好ましく、更に40〜60vol%が好ましい。
反応媒体における水の混合割合は、多すぎても少なすぎても反応が遅くなり反応が完結するのに時間を要する。また、水の割合が多すぎると水溶性である目的物の取得操作が煩雑となり好ましくない。
【0019】
前記反応媒体の使用量は、チオ硫酸アルカリ金属塩0.12モルに対して10〜200mLであり、好ましくは、10〜100mLである。
【0020】
前記ジハロゲン化合物とチオ硫酸アルカリ金属塩との反応において、反応温度は40〜150℃が好ましく、更には50〜120℃であることが好ましい。
反応温度が低すぎると反応が遅く反応完結までに多大な時間を費やし、反応温度が高すぎると副生物が増加する。
反応時間は、前記のチオ硫酸アルカリ金属塩の濃度、反応温度によって変化するが、通常3〜4時間である。
また、反応雰囲気は特に制限されない。なお、この反応は、例えば、チオ硫酸アルカリ金属塩を溶解した水性有機媒体に前記ジハロゲン化合物を滴下して行うことができる。
【0021】
本反応においては、チオ硫酸アルカリ金属塩の分解を抑制するために少量の亜硫酸ナトリウムを添加してもよい。亜硫酸ナトリウムの添加量は、チオ硫酸アルカリ金属塩に対して1〜20モル%程度であればよい。
【0022】
上記製造方法によって製造されたジチオスルフェート化合物は、反応終了後、中和、抽出、濃縮、晶析等の通常の後処理を行ない、必要に応じて再結晶、各種クロマトグラフィー等の公知の手段で適宜精製することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び比較例に挙げて本発明を具体的に説明する。なお、目的物の収率は仕
込みジハロゲン化物基準で求めた。
【0024】
〔実施例1〕
攪拌機、温度計、及び還流冷却器を備えた100mLの丸底フラスコに水34.63mLを仕込み、油浴中、25℃で攪拌しながら、チオ硫酸ナトリウム5水和物30.08g(0.12モル)を加え、更にN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)42.4mLを加えた後、1,6−ジクロルヘキサン9.44g(0.06モル)を攪拌下で添加した。次いで、亜硫酸ナトリウム0.78gを加えて油浴温度を110℃(液温94〜96℃)に上げ、還流下に4時間反応を行った。反応終了後、反応混合物に水およびメタノールを加え均一溶液にした後、高速液体クロマトグラフィーで定量を行った。その結果、該溶液には目的とするヘキサメチレンビスチオスルフェート2ナトリウム塩・2水和物が23.44g含まれており、反応収率は100%であった。
【0025】
〔実施例2〜3〕
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に換えて表1に記載の非プロトン性極性溶媒(ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルイミダジリジノン(DMI)、N−メチルピロリドン(NMP))とした以外は、実施例1と同様に反応を行った。その結果を表1に示す。
【0026】
〔比較例1〜5〕
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に換えてプロトン性極性溶媒であるメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール又はアセトニトリルを用いた以外は、実施例1と同様に反応を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

注)HMTS:ヘキサメチレンビスチオスルフェート2ナトリウム塩・2水和物
【0028】
〔実施例5〜6〕
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)と水との混合溶媒中のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)の体積百分率を表2に記載した値とした以外は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

注)HMTS:ヘキサメチレンビスチオスルフェート2ナトリウム塩・2水和物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CO−N原子団を有する非プロトン性極性溶媒と水との混合溶媒の存在下、式(I)で表されるジハロゲン化合物と、
【化1】

(式中、nは4〜12の整数を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
チオ硫酸アルカリ金属塩とを反応させることを特徴とする式(II)で表わされるジチオスルフェート化合物の製造方法。
【化2】

(式中、nは4〜12の整数を表し、Mはアルカリ金属を表す。)
【請求項2】
CO−N原子団を有する非プロトン性極性溶媒がアミド系溶媒である請求項1記載の式(II)で表わされるジチオスルフェート化合物の製造方法。