説明

ジニトリルの水素化方法

本発明は、脂肪族ジニトリルを少なくとも部分的に対応するアミノニトリルに水素化する方法に関する。より特定的には、本発明は、反応媒体中に溶解させていない水素化触媒の存在下でジニトリルを少なくとも部分的に対応するアミノニトリルに連続的に水素化する方法に関する。本発明は、気体−液体移動が制限され又は該移動がない帯域中で水素化物と触媒とを分離するための連続式手段を含み且つこの分離及び触媒の再循環が30分以下の時間で実現される装置中で実施されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、脂肪族ジニトリルを少なくとも部分的に水素化して対応するアミノニトリルにする方法に関する。
【0002】
ジニトリルの対応するジアミンへの水素化、特にアジポニトリルのヘキサメチレンジアミン(これはポリアミド66の製造における出発物質の1つである)への水素化は、以前から知られている技術である。
【0003】
近年、脂肪族ジニトリルのアミノニトリルへの水素化(これは時に半水素化とも称される)、特にアジポニトリルの6−アミノカプロニトリル(これは直接又はカプロラクタムを経由してポリアミド6をもたらす)への水素化に関心が高まってきている。
【0004】
かくして、米国特許第5151543号明細書には、脂肪族ジニトリルを対応するアミノニトリルに選択的に水素化する方法であって、ジニトリルに対して少なくとも2/1のモル過剰の溶媒(この溶媒は、液体アンモニア、又は無機塩基を含有する1〜4個の炭素原子を有するアルコールを含有し、前記無機塩基は前記アルコールに可溶のものである)の存在下で且つラネー触媒の存在下で25〜150℃において大気圧よりも高い圧力で実施され、得られたアミノニトリルが主要生成物として回収される方法が記載されている。
【0005】
国際公開WO93/16034号パンフレットには、無機塩基と、クロム、タングステン、コバルト及び鉄から選択される低原子価遷移金属錯体と、ラネーニッケル触媒との存在下で水素圧下で50℃〜90℃の温度においてアジポニトリルを水素化することによって6−アミノカプロニトリルを製造する方法が記載されている。
【0006】
国際公開WO96/18603号パンフレットには、随意にドープされたラネーコバルト又はニッケルを基とする触媒と無機強塩基との存在下で脂肪族ジニトリルを水素によってアミノニトリルに半水素化する方法であって、初期水素化媒体に、水と生成し得るジアミン及び(又は)アミノニトリルと未転化ジニトリルとを含有させる、前記方法が記載されている。
【0007】
これらの水素化方法はすべて所望のアミノニトリルをもたらし、工業プラントにおいて連続的に実施することができることが示されている。
【0008】
しかしながら、工業的利用についてある種の問題が明らかにされていなかった。かくして、本出願人がこの分野において実施した研究の過程で、水素化触媒、特にラネーニッケル、ラネーコバルト、担体(一般的に酸化物)上に担持された担持金属(特に元素周期表第VIII族からの金属、例えばニッケル、コバルト、ルテニウム及びロジウム)は、ニトリル官能基の存在下で且つ水素の不在下においてはより迅速に失活する傾向が著しいということがわかった。
【0009】
この問題は、現行のジアミンをもたらす工業的プロセスにおいては殆ど起こっていなかったが、アミノニトリルへの水素化は常に多量のニトリル官能基が反応媒体中に留まるという結果をもたらす。かかる方法においては、反応生成物のアミノニトリル及びジアミンを回収する必要があり、未転化ジニトリルも同様であり、同時に触媒の大部分は充分活性である限り保持又は再循環される。これらのことから考えると、生成したアミノニトリルとジアミンと未転化ジニトリルとを分離してそれらを回収することと、触媒を追加の失活を引き起こすことなく保持又は再循環することとの両方が必要である。従ってこのことは、反応混合物の液体部分と触媒との、比較的迅速であり、工業的利用に適し且つ該触媒の過度の失活をもたらすことのない分離を可能にする装置及び操作条件を得ることを意味する。
【0010】
触媒を含有する反応混合物の一部を濾過又は遠心分離によって分離することを構想することができるが、しかし本出願人の考察によれば、こうして水素の不在下且つニトリル官能基の存在下において操作される触媒は、その活性の一部を失う。かくして、触媒の寿命の短縮はプロセスの費用対効果に悪影響を及ぼす。他方、水素圧下、即ち溶解した水素の存在下での濾過は、触媒の失活を回避することを可能にする。
【0011】
本発明は、これらの様々な問題点の解決策を提供する。より特定的には、本発明は、反応媒体中に溶解していない水素化触媒の存在下でジニトリルを少なくとも部分的に対応するアミノニトリルに水素化するための連続式方法であって、気体−液体移動が制限され又は0である帯域中で水素化物と触媒とを連続的に分離するための手段を含み且つ前記分離及び触媒の再循環が30分以下の時間で実現される装置中で実施されることを特徴とする、前記方法から成る。
【0012】
本発明の方法を実施するために適した装置は、優れた気体/液体接触、接触後のこれら2つの相の迅速且つ効果的な分離、水素化物と触媒との連続分離及び触媒の再循環を、前記触媒の最小失活可能性に適した時間で達成する。
【0013】
前記装置は、反応区画、気体−液体分離区画及び前記触媒を再循環して液体(水素化物)を取り出す触媒−液体分離区画の3つの主要区画を含む。
【0014】
前記反応区画は、1つ以上のU字管を含むのが一般的であり、このU字管の枝は垂直であるか又は垂直に対して僅かに傾いているかであり、各Uの枝の一方は気体/液体/固体触媒分散体の上昇を可能にし、もう一方は少なくとも部分的に脱ガスされた液体が戻るのを可能にする。これはさらに上昇用の枝の底部に水素入口、ジニトリル入口、新たな又は再生された触媒(助触媒と共に又は助触媒なしで)の入口及び再循環される触媒の入口の4つの入口をも含む。
【0015】
気体−液体分離区画は、1つ以上の接線入口(接線態様の入口)(反応器の上昇用の枝から出てくるもの)、1つ以上の接線出口(接線態様の出口)(反応器の下降用の枝に向かうもの)、ガス出口及び反応混合物が液体−固体分離区画に向かうための出口を含む縦型筒状体から成る。気体/液体/固体触媒分散体は、脱ガスされた液体の出口地点より下の地点において入れられる。
【0016】
液体−固体分離区画は、触媒から水素化物を分離し且つ該触媒を再循環するデカンター及び(又は)フィルターから成る。水素化物は連続的に取り出され、一方、デカンター及び(又は)フィルターにおいて分離された触媒懸濁液は反応帯域に戻される。触媒の一部を新たな触媒と交換することが必要と思われるときにはパージを実施する。
【0017】
本発明の方法にとって好適な装置は、例えば図1によって図示することができる。これは、筒状縦型管(1)と、曲管(2)と、曲管(2)を介して筒状縦型管(1)に連結される水平管(3)と、管(1)の直径よりも大きい直径を有する縦型筒状体から成る気体/液体分離器(4)(管(3)はこの分離器(4)から接線態様で出てくる)とを含む。
【0018】
分離器(4)は気体又は蒸気を取り出すための配管(5)を含む。この分離器から管(3)の入口地点よりも下の地点において接線態様で出てくる水平管(6)は、曲管(7)を介して第二の縦型管(8)に連結される。この縦型管(8)は曲管(9)を介して管(1)に連結される。管(1)及び(8)並びに曲管(9)は一緒になってU字形になる。管(1)はその底部に水素を導入するための配管(10)及びジニトリルを導入するための配管(13)を含む。管(1)及び(8)は図1に示したように冷却用又は加熱用流体の循環を可能にするためのジャケット(11)及び(12)を含んでいてもよい。曲管(9)は、新たな又は再生された触媒のための入口(30)及び再循環される触媒のための入口(21)を含む。
【0019】
管(1)及び(8)は垂直又は僅かに斜めであることができる(後者の場合、それらの軸が底部に向けて収束するようになっているのが好ましい)。
【0020】
曲管(2)、(7)及び(9)の曲率半径は、化学技術者の通常の規則に従って、循環路全体を循環する装填質量の損失ができる限り低くなるように計算される。それらの曲率角度は、45°〜135°の範囲であることができ、60°〜120°の範囲であるのが好ましい。
【0021】
図1において、水素は配管(10)から導入される。この配管には任意の通常の分散装置を備えさせることができるが、しかし管(1)と同軸に配置されてその管壁と面一にある単純な管でも充分である。配管(10)は水素源に連結され、水素は大気圧又はそれより高圧において導入することができる。
【0022】
気体を取り出すための配管(5)は、水素化物から分離された気体を処理するための任意の装置に連結することができる。図1にこの装置の一例を示す。この装置においては、(5)から得られた気体が凝縮器(14)に通され、そこで分離器(4)に運ばれるべき蒸気が水素から分離される。得られた凝縮物は配管(31)を経由して装置に再循環される。過剰分の水素は、パージ装置(15)を含む管を経由してコンプレッサー(16)に通され、水素化の際に消費された水素及びパージされた水素を補償するための量の水素を(17)において導入した後に、(10)において再循環される。
【0023】
脱ガスされ且つ触媒を取り除かれた生成水素化物を取り出すことが必要である。清澄な水素化物、即ち触媒を殆ど含有しない水素化物を取り出すことができるようにするためには、分離器(4)の直下にデカンター(18)を配置させる。分離器(4)において気相が分離された液体/触媒懸濁液がデカンター(18)に入れられる。
【0024】
デカンター(18)は、筒状部(19)とその末端に配置された円錐部(20)とから成る。管(21)は濃縮された触媒の粥状物(bouillie)を曲管(9)に連続的に戻す働きをする。触媒を取り除かれた水素化物は、ポット(23)に連結された管(22)から出てくる。このポット(23)には、清澄な水素化物を連続的に取り出すことを可能にするための溢液口(24)が具備される。この装置全体の液位は、同等容量のジニトリル−溶剤−触媒混合物を連続的に導入することによって一定に保たれる。管(21)における流量は、弁(25)によって、液体/触媒粥状物が適度な濃度を維持するように調節される。配管(21)には、使用済触媒をパージするための配管(32)を含ませる。使用済触媒は、随意に再生することができる。
【0025】
図2に、本発明の範疇において用いられる1つの特定的なデカンテーション法を図示する。デカンター(18)内での触媒及び水素化物の過度に迅速な物質移動を防止し且つこのデカンター内に水素が入り込むのを防止するために、2つの帯域(気体−液体分離区画及び液体−固体分離区画)の間を分離することが必要である。しかしながら、これが触媒付着の原因となるようなことはあってはならない。このような成果は、分離器(4)とデカンター(18)との間に間仕切り(26)を設置することによって達成される。気体−液体分離器とデカンターとの間の循環は、液体の速度を認め得るほどに(例えば0.5m/秒よりも低い値に)低下させるように計算された直径を有する管(27)によって保証される。この管(27)は、管(27)の直径と同等又はそれより大きい直径を有する管(28)を介してデカンター内に延びている。液体/触媒粥状物の到達によってもたらされる乱流を弱めるために、デカンター(18)の内部に上向きの円錐の形の大きいメッシュの金網(29)を配置させることができる。
【0026】
上に記載した装置は、デカンターにフィルターを追加することによって又はデカンターをフィルターに置き換えることによって改変することができる。
【0027】
アジポニトリルの6−アミノカプロニトリルへの半水素化方法に上記の装置を用いることによって、液状反応混合物中における水素の良好な分散を達成することができる。この分散は安定であり、U字管全体にわたって均一である。前述のように、この装置は、認め得るほどに触媒を失活させることなく再循環されるべき触媒から取り出されるべき水素化物を連続的に分離することを可能にする。これが可能になるのは、デカンター(18)中における触媒の滞留時間及び触媒の再循環時間を平均して30分以下、好ましくは15分以下、さらにより一層好ましくは5分以下の値に制限することができるからである。デカンターをフィルターに置き換えた場合又はフィルターを追加することによってデカンターを補完した場合にも、これらの滞留時間は維持される。
【0028】
前記の時間制限内で触媒の良好なデカンテーションを達成するためには、5%より高い平均触媒濃度(これは触媒/液状反応混合物の重量比に相当する)を採用するのが好ましいであろう。それより低い濃度については、デカンター(18)内の最長滞留時間が維持された場合に、触媒の一部が取り出される水素化物に連行されるする傾向がある。この場合、濾過技術が有利であると認められることがある。
【0029】
10%以上の平均触媒濃度がさらに好ましい。何故ならば、この濃度は、触媒のさらに迅速なデカンテーションを可能にし、かくして触媒が望ましくない条件下に保たれる時間をより一層短く、例えば15分以下にするからである。
【0030】
本発明の方法において用いることができる脂肪族ジニトリルは、より特定的には一般式(I): NC−R−CN (I)
(ここで、Rは1〜12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状アルキレン又はアルケニレン基を表わす)
のジニトリルである。
【0031】
式(I)においてRが1〜6個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状アルキレン基を表わすジニトリルを用いるのが本発明の方法において好ましい。
【0032】
かかるジニトリルの例としては、アジポニトリル、メチルグルタロニトリル、エチルスクシノニトリル、マロノニトリル、スクシノニトリル及びグルタロニトリル並びにそれらの混合物、特にアジポニトリル及び(又は)メチルグルタロニトリル及び(又は)エチルスクシノニトリル(これらはアジポニトリルの合成のための同一の方法から得ることができる)の混合物を挙げることができる。
【0033】
実施に当たっては、本方法においてアジポニトリル(AdN)を使用することに相当するR=(CH2)4の場合が最も一般的である。
【0034】
触媒は、ラネーニッケル及び(又は)ラネーコバルトを基とし且つ「Handbook of Chemistry and Physics」第51版(1970〜1971年)に発表された元素周期表第Ib、IVb、VIb、VIIb及びVIII族からの元素から選択される1種以上のドーピング元素を随意に含む触媒(ドーピング元素を含むのが好ましい)から成るのが一般的である。
【0035】
かくして、本方法において用いられるラネーニッケル及び(又は)ラネーコバルトを基とする触媒は、ニッケル又はコバルト並びにこの触媒が合金に化学的作用を及ぼすことによって得られたものである場合に元の合金から取り出される随意としての残留量の金属(即ち一般的にはアルミニウム)に加えて、クロム、チタン、モリブデン、タングステン、鉄、亜鉛又は銅のような1種以上のその他のドーピング元素を含むことができる。
【0036】
これらのドーピング元素の中では、クロム及び(又は)鉄及び(又は)チタンが最も有利であると考えられる。これらのドーピング元素は、ニッケル又はコバルトの重量に対する重量基準で0%〜15%を占めるのが一般的であり、0〜10%を占めるのが好ましい。
【0037】
この触媒はまた、金属(これはルテニウム、ロジウム、ニッケル又はコバルトのような元素周期表第VIII族からの金属であるのが一般的である)が担体(これはアルミナ、シリカ、アルミノ珪酸塩、二酸化チタン、酸化ジルコニウム又は酸化マグネシウムのような酸化物であるのが一般的である)上に担持されて成ることもできる。
【0038】
担持された金属触媒において、金属は担体の0.1〜80重量%を占めるのが一般的であり、0.5〜50重量%を占めるのが好ましい。
【0039】
ラネーニッケル、特にドープされたラネーニッケルが、本発明の範疇において好ましい。
【0040】
反応媒体の組成、特に溶剤及び塩基の性状及び量については、より特定的には国際公開WO96/18603号パンフレット又はヨーロッパ特許公開第0641315号明細書の記載を参照することができる。必要ならばそれらを参照されたい。
【0041】
以下、実施例によって本発明を例示する。
【0042】
試験A及びB これらの試験は、ニトリル官能基の存在下且つ水素の不在下におけるラネーNiの失活を示すためのものである。
Niの触媒作用によるNiの「正規の」消費が妨げとならないようにするために、アジポニトリル(AdN)の水素化の際の水素の消費の初期速度を考慮する。
【0043】
AdN66.5g,HMD22.3g、水10g、Ni1kg当たり0.4モルの割合の水酸化カリウム及び1.8重量%Cr含有ラネーニッケル1.2gを反応器中に装填する。
対照例となる試験Aにおいては、50℃、20バールの水素圧下において水素化を即座に実施する。
試験Bにおいては、水素を導入する前に窒素下で50℃において30分間反応混合物を撹拌してから、50℃、20バールの水素圧下において水素化を実施する。
【0044】
これら2つの試験について測定された初期水素化速度は次の通りである:試験A:1時間当たりに消費される水素24リットル、試験B:1時間当たりに消費される水素21リットル。
触媒をニトリル官能基の存在下且つ水素の不在下に30分間保つことによって、触媒の初期活性が12.5%低下した。
【0045】
試験C 下記の例1〜3においてラネーNiの「正規の」消費の部分を水素の不在下におけるラネーNiの失活のせいであると思われる部分から区別するために、連続的なAdN水素化試験を実施した。
【0046】
この試験は、以下から成る。ターボミキサーによって撹拌される反応器に、AdN143.6g、アミノカプロニトリル(ACN)201.1g、ヘキサメチレンジアミン(HMD)134.1g、Ni1kg当たり0.46モルの割合の水酸化カリウム及び1.8重量%Cr含有ラネーNi6.4gを装填する。
装置を水素でパージした後に、温度を50℃に調節し、水素圧を25バールに調節する。反応混合物が反応温度にあるときに、AdNを172.5g/h(時間)の流量で注入し、0.02モル/リットルの水酸化カリウム水溶液を16.4g/hの流量で注入する。
【0047】
反応混合物を反応器中に置かれたフィルターに通すことによって連続的に取り出す。ニッケルをリニューアルせずに、この試験においては触媒に一定の水素濃度を提供する気体/液体移動条件下において分離を実施する。
AdN1216gを水素化させた後に、試験を停止し、反応器中に含有されるラネーNiの活性を以下の水素化試験を用いて測定する。
【0048】
ラネーNi粥状物1〜2gを取り出し、この触媒を蒸留水50ミリリットルで6回洗浄し、ピクノメーターを用いて触媒0.40gを正確に秤量する。この触媒を、撹拌装置、加熱装置、水素及び試薬導入手段並びに温度及び圧力測定手段を備えた150ミリリットルのステンレス鋼製オートクレーブ中に導入する。水約0.4g(この量は、HMD90%及び水10%から成る反応溶剤42gの重量組成において、考慮に入れられる)もまた触媒に連行される。HMD、水及び水酸化カリウム(反応混合物の0.05重量%の割合)をアルゴン雰囲気下においてオートクレーブ中に装填する。このオートクレーブを窒素及び水素でパージする。次いでこれを加熱し、水素25バールに保つ(水素タンクによって)。このタンク中の水素圧を記録するための装置のスイッチを入れ、AdN6gを素早く注入する。水素の消費が終わるまで水素化を続ける。
【0049】
一方で試験Cにおいて用いたような新しいラネーNiを用い、他方で試験Cを実施するのに用いたラネーNi(使用済Ni)を用いて、上記の試験を実施する。この試験において測定された初期水素化速度は、ラネーNiの活性を示す。使用済Niの活性は新しいNiの活性の40%だった。
【0050】
水素化触媒として使用したことによる「正規の」活性の損失に相当するNiの化学的消費は、装填したNiの量(6.4g)と試験Cの前後の活性の差(1−0.4)との積を求め、その結果を試験Cにおいて水素化したAdNの量(1216g)で割ることによって計算され、転化したAdN1トン当たりのNiのkg数で表わされる。
この「正規の」化学的消費は、Ni3.15kg/AdN1トンだった。
【0051】
例1〜3 図1及び2に記載したような装置を用いて試験を実施する。
アジポニトリルに対して水素化を実施する。溶媒は水から成る(用いたアジポニトリルに対して8重量%)。触媒はNiの重量に対して1.8重量%のクロムドーパントを含有するラネーニッケルである。反応混合物に対して触媒を15%用いる。
アジポニトリルの供給速度、触媒の「正規の」失活(消耗)を補償するための新しいラネーニッケルの供給速度及び水酸化カリウム溶液(50重量%水溶液)の供給速度を下記の表1に示す。
【0052】
下記の表1に、各試験を実施した温度(T℃)、アジポニトリルの転化率(AdNのDC%)、転化したAdNの6−アミノカプロニトリルへの選択性(ACNのRY%)、転化したAdNのヘキサメチレンジアミンへの選択性(HMDのRY%)、Niの化学的消費(完全に失活したNiの量;これは転化したAdN1トン当たりのNiのkg数=Csで置き換えられる)、パージしたNiの残留活性(NiのAct:初期活性の百分率%として)をまとめる。
【0053】
それぞれの例について、デカンター(18)内における触媒の平均滞留時間は5分だった。
水素循環速度は9000Nm3/hであり、水素圧は25バールである。
【0054】
【表1】


【0055】
本発明の方法によって得られた結果は、ラネーNiの化学的消費が試験CにおいてNiを一定的に水素の存在下に保ちながら行なわれたものよりも高くないことを示す。従って、本発明の方法は、この触媒の正規の消耗以外の触媒の失活を引き起こすことなくジニトリルの連続式水素化を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の連続式水素化方法を実施するのに適した装置の概略図である。
【図2】
本発明の連続式水素化方法を実施するのに適した装置のデカンテーション部分の概略図である。
【符号の説明】
1、8、9・・・反応区画4 ・・・気体−液体分離区画10・・・水素導入管13・・・ジニトリル導入管14・・・凝縮器16・・・コンプレッサー18・・・デカンター(触媒−液体分離区画)
24・・・水素化物溢液口30・・・触媒導入管

【特許請求の範囲】
【請求項1】 反応媒体中に溶解していない水素化触媒の存在下でジニトリルを少なくとも部分的に対応するアミノニトリルに水素化するための連続式方法であって、気体−液体移動が制限され又は0である帯域中で水素化物と触媒とを連続的に分離するための手段を含み且つ前記分離及び触媒の再循環が30分以下の時間で実現される装置中で実施されることを特徴とする、前記方法。
【請求項2】 前記装置が反応区画、気体−液体分離区画及び前記触媒を再循環して液体(水素化物)を取り出す触媒−液体分離区画の3つの主要区画を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】 前記装置の反応区画が1つ以上のU字管を含み、その枝が垂直であるか又は垂直に対して僅かに傾いているかであり、各Uの枝の一方が気体/液体/固体触媒分散体の上昇を可能にし、もう一方が少なくとも部分的に脱ガスされた液体が戻るのを可能にし、前記区画がさらに上昇用の枝の底部に水素入口、ジニトリル入口、新たな又は再生された触媒(助触媒と共に又は助触媒なしで)の入口及び再循環される触媒の入口の4つの入口を含むことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】 前記装置の気体−液体分離区画が1つ以上の接線入口(反応器の上昇用の枝から出てくるもの)、1つ以上の接線出口(反応器の下降用の枝に向かうもの)、ガス出口及び反応混合物が液体−固体分離区画に向かうための出口を含む縦型筒状体から成ることを特徴とする、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】 前記装置の液体−固体分離区画が触媒から水素化物を分離し且つ該触媒を再循環するデカンター及び(又は)フィルターから成ることを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】 水素化物を連続的に取り出しながらデカンター及び(又は)フィルターにおいて分離された触媒懸濁液を反応区画に戻し、触媒の一部を新たな触媒と交換することが必要と見なされたときにパージを実施することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】 前記デカンター及び(又は)フィルター中における触媒の滞留時間並びにその再循環時間が平均して15分以下、好ましくは5分以下の値に制限されることを特徴とする、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】 平均触媒濃度(これは触媒/液状反応混合物の重量比に相当する)が5%より高く、好ましくは10%以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】 用いられる脂肪族ジニトリルが一般式(I): NC−R−CN (I)
(ここで、Rは1〜12個の炭素原子を有する直鎖状又は分枝鎖状アルキレン又はアルケニレン基を表わす)
のジニトリルから選択されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】 用いられる脂肪族ジニトリルがアジポニトリル、メチルグルタロニトリル、エチルスクシノニトリル、マロノニトリル、スクシノニトリル及びグルタロニトリル並びにそれらの混合物、特にアジポニトリル及び(又は)メチルグルタロニトリル及び(又は)エチルスクシノニトリル(これらはアジポニトリルの合成のための同一の方法から得ることができる)の混合物から選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】 用いられる脂肪族ジニトリルがアジポニトリルであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】 用いられる触媒がラネーニッケル及び(又は)ラネーコバルトを基とし且つ随意にしかし好ましくは元素周期表第Ib、IVb、VIb、VIIb及びVIII族からの元素から選択されるドーピング元素を含む触媒から成ることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】 ラネーニッケル及び(又は)ラネーコバルトを基とする触媒がニッケル及びコバルトに加えてクロム、チタン、モリブデン、タングステン、鉄、亜鉛及び銅から選択される1種以上のその他のドーピング元素を含むことを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】 用いられる触媒がアルミナ、シリカ、アルミノ珪酸塩、二酸化チタン、酸化ジルコニウム又は酸化マグネシウムのような酸化物である担体上にルテニウム、ロジウム、ニッケル又はコバルトのような元素周期表第VIII族からの金属が担持されて成ることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2001−524464(P2001−524464A)
【公表日】平成13年12月4日(2001.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−522075(P2000−522075)
【出願日】平成10年11月19日(1998.11.19)
【国際出願番号】PCT/FR98/02479
【国際公開番号】WO99/26917
【国際公開日】平成11年6月3日(1999.6.3)
【出願人】
【氏名又は名称】ロディア・ポリアミド・インターミーディエッツ
【Fターム(参考)】