説明

ジフェンヒドラミン含有カプセル剤

【課題】ジフェンヒドラミン又はその塩の安定化技術の提供。
【解決手段】カラメルとジフェンヒドラミン又はその塩とを含有する医薬組成物を経口固形剤とする。マクロゴール及びゼラチンを含有するカプセル皮膜からなるカプセルに充填してカプセル剤とする。カプセル皮膜中のマクロゴールの含有量がカプセル皮膜全量に対して0.5〜15質量%であること、又ジフェンヒドラミン又はその塩を1カプセル当たり25mg又は50mg含有するカプセル剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフェンヒドラミン又はその塩を含有する経口固形剤、さらにはジフェンヒドラミン又はその塩を含有する医薬組成物を充填したカプセル剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフェンヒドラミンはアミノアルキルエーテル系の抗ヒスタミン剤であり、経口剤として蕁麻疹、皮膚疾患に伴うアレルギー性鼻炎、そう痒、急性鼻炎等に用いられるほか、近年では、睡眠改善薬として広く用いられている。
しかし、ジフェンヒドラミンをアレルギー性鼻炎等に用いる場合は、1回あたりの服用量が10mgであるのに対し、睡眠改善薬として用いる場合は、1回あたりの服用量が50mgであり、服用する製剤数を減らすためには、製剤そのものを大きくするほか無く、ジフェンヒドラミン含有製剤についてのコンプライアンス上の問題が生じた。
【0003】
一方、医薬の経口固形剤の態様として、フィルムコーティング錠、糖衣錠などの錠剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤が知られている。
しかし、錠剤は、胃内の環境によって溶出性に差異が生じることが懸念され、また、速やかな薬効発現の点で必ずしも好ましい剤形ではない、という問題がある。
【0004】
また、カプセル剤については、以下のような技術が既に知られている。
(1)水を含む液体をカプセルに充填すると、カプセル皮膜が軟化するため、軟化を避けるためには充填液の水の量を20質量%未満にする必要があることが知られている(特許文献1)。
(2)ジフェンヒドラミン塩酸塩を、マクロゴール400と水との混液に溶解した状態で充填液400mg中12.5mg(ジフェンヒドラミン塩酸塩濃度:3%)配合したカプセル剤が既に知られている(特許文献1)。しかしながら、この濃度で1回あたりの服用量を50mgとすると、カプセルが大きくなるか(000号のカプセル)又は服用カプセル数が多くなる(4カプセル)ので、コンプライアンス上問題がある。
また、ジフェンヒドラミンは光によって経時的に変色することが知られている。このため、ジフェンヒドラミン製剤を遮光した容器に保管したり、遮光性物質と水溶性高分子物質を含有する皮膜で被覆する(特許文献2)こと等が知られているが、容器に保管した場合、服用時に製剤が光にさらされる場合もあり、根本的な解決手段とは言い難い。一方、ジフェンヒドラミン製剤を皮膜で被覆する方法は、製剤からのジフェンヒドラミンの溶出性に影響を及ぼす懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3553562号公報
【特許文献2】特開2003−300872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、ジフェンヒドラミン又はその塩の安定化技術、特にジフェンヒドラミン又はその塩を高濃度含有する経口固形製剤における安定化技術を提供することである。また、当該安定化技術を適用した経口固形剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、まず、ジフェンヒドラミン又はその塩の安定化技術について検討したところ、ジフェンヒドラミン又はその塩の経時的変色は、ジフェンヒドラミン又はその塩を高濃度に配合すると特に顕著になり、変色だけでなく、含有量の低下も生じることが判明した。
そこで、その解決策についてさらに検討したところ、カラメルを配合することにより、ジフェンヒドラミン又はその塩の経時的な変色が抑制できるだけでなく、全く意外にも含有量の低下も抑制できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、カラメルを有効成分とするジフェンヒドラミン又はその塩の安定化剤を提供するものである。
また、本発明はカラメルとジフェンヒドラミン又はその塩とを含有する経口固形剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ジフェンヒドラミン又はその塩の安定化技術を適用した経口固形剤を提供することでき、さらには服用しやすく、安定性に優れた、商品価値の高いジフェンヒドラミン又はその塩を含有するカプセル剤を提供することができる。
また、ジフェンヒドラミンを睡眠改善薬として用いる場合、カプセルが透明又は半透明の場合、カプセル充填物がカラメル由来の色に基づき、微黄色ないし褐色を呈することもあるため、気分の落ち着きや安定感・安心感のイメージをもたらし、リラックスして心地よく睡眠に導くことができ得るという効果も有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いるカラメルは、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、マルトース、ショ糖、白糖、転化糖、水アメ、デンプン加水分解物、糖ミツその他の糖類等の炭水化物を熱処理して得ることができる。また、池田糖化工業株式会社製や仙波糖化工業株式会社製等の市販品を用いることもできる。
【0011】
本発明のカラメルによるジフェンヒドラミン又はその塩の安定化技術は、ジフェンヒドラミン又はその塩を含有する医薬組成物に適用することができ、当該医薬組成物としては、経口投与可能な製剤が好ましい。中でも、経口固形剤が好ましく、その剤形としては、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤)等が挙げられる。
【0012】
本発明にかかる安定化技術を適用する医薬組成物は、第十五改正日本薬局方製剤総則等に記載の公知の方法に基づき製造、製剤化することができ、ジフェンヒドラミン又はその塩とカラメルを必須成分として用い、さらに適宜医薬品添加物を用いて製剤化すればよい。
【0013】
本発明においては、服用のし易さから、錠剤、カプセル剤が好ましい。カプセル剤とする場合は、ジフェンヒドラミンの薬効発現の点から、カラメル及びジフェンヒドラミン又はその塩を含有する溶液を充填したカプセル剤が好ましい。
本発明にかかるカプセル剤において、そのカプセル皮膜は特に限定されるものではなく、ゼラチン等の公知の皮膜を用いることができるが、カプセルの軟化や割れを防止する点から、マクロゴール及びゼラチンを含有する皮膜を用いるのが好ましい。ここで、マクロゴールの含有量は、カプセルの機械的強度や成形時の皮膜の均一性を考慮して適宜検討すればよいが、カプセル皮膜全量に対して、0.5〜15質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0014】
本発明に用いられる好ましいカプセル皮膜中に含まれるマクロゴールの平均分子量は、特に限定されるものではないが、カプセルの軟化や割れを防止する点から、950〜25000が好ましく、2500〜7000がより好ましく、マクロゴール1000、マクロゴール1500、マクロゴール1540、マクロゴール4000、マクロゴール6000がさらに好ましく、マクロゴール4000が特に好ましい。マクロゴールは1種だけ用いても、複数の混合物を用いてもよい。
【0015】
本発明に用いられるカプセル皮膜中のゼラチンは、特に限定されるものではなく、例えば、熱変化に伴いゾルゲル変化するもので、牛、豚、鳥、魚等を原料とするゼラチンやコハク化ゼラチン等のアシル化ゼラチンなどが挙げられる。
上記ゼラチンの含有量は、カプセルの機械的強度や成形時の皮膜の均一性を考慮して適宜検討すればよいが、カプセル皮膜全量に対して、50〜99.5質量%が好ましく、65〜99質量%がより好ましい。
【0016】
本発明に用いられる好ましいカプセル皮膜は、マクロゴール、ゼラチン以外の物質を含んでも良く、当該物質としては、例えば、法定色素等の色素、酸化チタン等の顔料、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、防腐剤、芳香剤、崩壊剤、グリセリンやソルビトール等の可塑剤等が挙げられる。
【0017】
本発明のカプセル剤には、硬カプセル剤及び軟カプセル剤のいずれもが含まれるが、速やかな薬効発現の点から、硬カプセル剤が好ましい。
【0018】
また、本発明に用いられるカプセル皮膜の色は、特に限定されるものではないが、カプセル剤の商品性の点から、カプセル充填物を目視可能な透明又は半透明が好ましい。特に、ジフェンヒドラミンを睡眠改善薬として用いる場合、製剤がカラメル由来の色に基づき、微黄色ないし褐色を呈することもあるため、カプセルに充填する場合、カプセルを透明又は半透明とすることにより、充填物を目視可能となり、カラメル由来の色により、落ち着きがあって、安定感・安心感のイメージをもたらし、リラックスして心地よく睡眠に導くこともできる。
【0019】
本発明に用いられるジフェンヒドラミン又はその塩は、公知の化合物であり、公知の方法により製造してもよいし、また市販品を用いることができる。
ジフェンヒドラミンの塩としては、例えば、塩酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、サリチル酸塩、ジフェニルジスルホン酸塩、酒石酸塩、タンニン酸塩、ラウリル硫酸塩、硫酸塩、マレイン酸塩等の酸付加塩が挙げられ、特にジフェンヒドラミン塩酸塩が好ましい。
【0020】
本発明に用いられる、ジフェンヒドラミン又はその塩の含有量は、睡眠改善薬として服用する場合のコンプライアンス向上の点から、1カプセル中に50mg又は25mg含有するように調整することが好ましい。
本発明において、ジフェンヒドラミン又はその塩とカラメルの配合質量比は、変色抑制及びジフェンヒドラミンの含有量低下抑制の点から、1:0.00005〜1:1が好ましく、1:0.0001〜1:0.5がより好ましい。
また、本発明において、カラメル及びジフェンヒドラミン又はその塩を含有する溶液を充填したカプセル剤とする場合、ジフェンヒドラミン又はその塩の濃度は、溶液中4〜40質量%が好ましく、4〜25質量%がより好ましく、5〜25質量%がさらに好ましく、5〜20質量%が特に好ましい。カラメルの濃度は、溶液中20〜1500質量ppmが好ましく、40〜1200質量ppmがより好ましい。
【0021】
なお、ジフェンヒドラミン又はその塩は、他の抗ヒスタミン剤に一部を代替することも可能である。代替可能な抗ヒスタミン剤としては、例えば、ドキシラミン、クレマスチン、ジフェニルピラリン、カルビノキサミン、プロメタジン、メキタジン、アリメマジン、イソチペンジル、ヒドロキシジン、ホモクロルシクリジン、シプロヘプタジン、クロルフェニラミン、トリプロリジン、ブロムフェニラミン、エメダスチン等及びこれらの塩が挙げられる。このうち、ドキシラミンコハク酸塩、クレマスチンフマル酸塩、ジフェニルピラリンテオクル酸塩、ジフェニルピラリン塩酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩、エメダスチンフマル酸塩が好ましい。
【0022】
本発明において、カラメル及びジフェンヒドラミン又はその塩を含有する溶液の溶媒としては、通常、液体をカプセルに充填する際に用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、(1)水、(2)水と混和しない又は水に溶解しない揮発性又は非揮発性の液体(植物油、脂肪族及び芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、エーテル類、エステル類、高級アルコール類、有機酸類)、(3)水と混和する非揮発性の液体、(4)その他(グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール;ケトン、酸、アミン、エステル類等)が挙げられる。なお、このうち1種だけ用いても、複数の混合物を用いてもよい。
【0023】
このうち、ジフェンヒドラミン又はその塩を溶解する多価アルコール等を含有する溶媒を用いることが好ましく、コンプライアンス向上や速やかな薬効発現の観点から、ジフェンヒドラミンをよく溶解する水、低級アルコール、酢酸等の溶媒と、カプセル皮膜を軟化せず、かつ、ジフェンヒドラミン又はその塩を溶解する多価アルコール等の溶媒との混液を用いることがより好ましく、水と多価アルコールとの混液がさらに好ましい。
充填液における多価アルコールの含有量は、適宜検討すればよいが、充填液全量に対して、40〜96.9質量%が好ましく、50〜96質量%がより好ましく、55〜95質量%が特に好ましい。
上記混液における水、低級アルコール、酢酸等の含有量は、適宜検討すればよいが、充填液全量に対して、0.1〜30質量%が好ましく、1〜27.5質量%がより好ましく、2〜25質量%が特に好ましい。
水、低級アルコール、酢酸等と多価アルコールの含有比率は、水等1質量部に対して多価アルコールが1〜50質量部が好ましく、2〜20質量部が特に好ましい。
【0024】
本発明に用いられる溶媒である多価アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、マクロゴール(ポリエチレングリコール)、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられ、マクロゴール、グリセリンがより好ましく、マクロゴールが特に好ましい。なお、このうち1種だけでも、複数の混合物を用いてもよい。
本発明において、溶媒として用いられるマクロゴールの平均分子量としては、特に限定されないが、100〜800が好ましく、150〜700がより好ましく、190〜630がさらに好ましく、マクロゴール200、マクロゴール300、マクロゴール400、マクロゴール600が好ましく、マクロゴール400が特に好ましい。マクロゴールは1種だけ用いても、複数の混合物を用いてもよい。
充填液には、さらにpH調節剤等の添加物を添加することができ、pH調節剤としては、塩酸、クエン酸、酢酸、酒石酸等の酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基が挙げられる。本発明において、充填液のpHは3〜9が好ましく、3.5〜8がより好ましい。
【0025】
本発明のカプセル剤は、前述のとおり、第十五改正日本薬局方製剤総則等に記載の常法に従って製することができる。例えば、ゼラチンを吸水膨潤させた後、加熱溶解し、次いでカプセル皮膜中に含ませるべきマクロゴールを適当量加え、所望により色素や防腐剤等を添加し、適宜粘度を調整した後、脱泡処理してカプセル成形用ジェリーを得る。得られたジェリーを、カプセル成形装置を用いて本発明にかかるカプセルに成形し、これに本発明にかかるカラメル及びジフェンヒドラミン又はその塩を含有するカプセル充填物を充填することで、本発明のカプセル剤(硬カプセル剤)を製することができる。
また、ゼラチンを吸水膨潤させた後、加熱溶解し、次いでカプセル皮膜中に含ませるべきマクロゴールを適当量加え、所望により、グリセリン等の多価アルコールやソルビトール等の糖アルコール等の可塑剤、色素や防腐剤等を添加して、適宜粘度を調整した後、脱泡処理してカプセル成形用ジェリーを得る。得られたジェリー及び本発明にかかるカラメル及びジフェンヒドラミン又はその塩を含有するカプセル充填物を用いて、ロータリー・ダイ法や滴下法等に基づくことにより、本発明のカプセル剤(軟カプセル剤)を製することができる。
【0026】
本発明にかかるカラメルによるジフェンヒドラミンの安定化技術を適用した医薬組成物の包装形態は特に限定されるものではなく、例えば、ビンやPTP包装等の通常の医薬組成物の包装形態で包装することができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
製造例1:硬カプセルの製造
ゼラチン10.0kgに精製水18.0リットルを加え、約1〜2時間程度自然放置して吸水膨潤させた。ゼラチンが十分に膨潤した後、60℃に加温し、撹拌してゼラチンを均一に溶解させ、更にこのゼラチン溶液中にマクロゴール4000の50質量%水溶液を1.0kg(5質量%濃度)加えて撹拌し、その粘度を調整した後、脱泡処理してカプセル成形用ジェリーを得た。このジェリーをカプセル成形装置に仕込み、サイズ3号のカプセルを成形した。
【0029】
製造例2:硬カプセルの製造
マクロゴール4000の50質量%水溶液を0.5kg(2.5質量%濃度)加える以外は製造例1と同様にして、カプセルを成形した。
【0030】
製造例3:硬カプセル剤
マクロゴール400を414g及び精製水36gを混合後、約60℃に加温し、これにジフェンヒドラミン塩酸塩50gを加え撹拌し、溶解後、10%水酸化ナトリウム水溶液でpH6に調整し、充填液とした。この充填液を、製造例1に記載のカプセルに250mgずつ充填し、ジフェンヒドラミン塩酸塩濃度が10質量%の硬カプセル剤を製造した。
【0031】
製造例4:硬カプセル剤
製造例2に記載のカプセルを用いる以外は製造例3と同様にして、硬カプセル剤を製造した。
【0032】
比較例1:硬カプセル剤
マクロゴール400を414g及び精製水36gを混合後、約60℃に加温し、これにジフェンヒドラミン塩酸塩15gを加え撹拌し、溶解後、10%水酸化ナトリウム水溶液でpH6に調整し、充填液とした。この充填液を通常のサイズ3号のゼラチンハードカプセルに250mgずつ充填、ジフェンヒドラミン塩酸塩濃度が3質量%の硬カプセル剤を製造した。
【0033】
比較例2:硬カプセル剤
ジフェンヒドラミン塩酸塩を50g用いる以外は比較例1と同様にして、ジフェンヒドラミン塩酸塩濃度が10質量%の硬カプセル剤を製造した。
【0034】
試験例1:硬カプセル剤の評価
製造例3、4及び比較例1、2の硬カプセル剤についてカプセル割れの評価を行った。評価は充填後、カプセル同士が重ならないようにトレイに広げ、室温にて1日放置後及び40℃1ヵ月保存後及び40℃4ヵ月保存後の割れやひびの有無を目視で検査することにより行った。結果を表1及び表2に示した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1から明らかなように、製造例3及び4の硬カプセル剤は、製造直後及び40℃1ヵ月保存後、40℃4ヵ月保存後いずれにおいても、カプセル割れは観察されなかった。
【0037】
【表2】

【0038】
表2から明らかなように、比較例1の硬カプセル剤では製造直後及び40℃1ヵ月保存後においても、カプセル割れは観察されなかったが、40℃4ヵ月保存後においては、カプセルの軟化が観察された。また、比較例2の硬カプセル剤では製造直後からカプセル割れが認められた。
従って、試験例1より、通常のゼラチンカプセルを用いてジフェンヒドラミン塩酸塩を溶解した充填液を充填した製品として供給可能なカプセル剤は、ジフェンヒドラミン塩酸塩の濃度が3%までであることがわかった。しかしながら、3%の濃度では、1回服用量を50mgとすると、カプセルを大きくするか、服用カプセル数を多くする必要があり、コンプライアンス上好ましいものではない。一方、製造例3及び4の硬カプセル剤は、製造直後、40℃1ヵ月保存後、40℃4ヵ月保存後のいずれにおいても、カプセル割れは観察されず、服用カプセルの大きさや数を最小限に抑えることができ、コンプライアンスを向上することができることが判明した。
【0039】
実施例1:硬カプセル剤
マクロゴール400を414g、精製水36g及びカラメル0.06g(カラメルS:池田糖化工業社製)を混合後、約60℃に加温し、これにジフェンヒドラミン塩酸塩50gを加え撹拌し、溶解後、10%水酸化ナトリウム水溶液でpH6に調整し、充填液とした。この充填液を、製造例1に記載のカプセルに250mgずつ充填し、ジフェンヒドラミン塩酸塩濃度が10質量%の硬カプセル剤を製造した。
【0040】
試験例3:硬カプセル剤の評価
実施例1及び製造例3の硬カプセル剤について、カプセル割れ、外観変化及びジフェンヒドラミン塩酸塩の残存率の評価を行った。評価は、硬カプセル剤をPTP包装し、更にアルミピロー包装して、60℃にて一週間保存した。
保存後、硬カプセル剤を取出し、目視にてカプセルの割れやひびの有無、外観変化の有無の検査を行った。また、硬カプセル剤の充填液中のジフェンヒドラミン塩酸塩の含量をHPLC法にて測定し、イニシャル時の含量に対する残存率を算出した。結果を表3に示した。
【0041】
【表3】

【0042】
表3から明らかなように、60℃1週間保存後の製造例3の硬カプセル剤は、割れは認められなかったが、変色傾向が認められ、ジフェンヒドラミン塩酸塩の含有量が減少した。一方、カラメルを添加した充填液を充填した実施例1の硬カプセル剤は、割れ、変色ともに認められず、ジフェンヒドラミン塩酸塩の含有量の低下を抑制することができた。
したがって、カラメルは、ジフェンヒドラミン又はその塩の安定化に有効であることが判明した。
【0043】
実施例2:硬カプセル剤
製造例2に記載のカプセルを用いる以外は実施例1と同様にして、硬カプセル剤を製造した。
【0044】
実施例3:軟カプセル剤
ゼラチン9.0kgに精製水10.0リットルを加え、約1〜2時間程度自然放置して吸水膨潤させた。ゼラチンが十分に膨潤した後、60℃に加温し、撹拌してゼラチンを均一に溶解させ、更にこのゼラチン溶液中に濃グリセリン1kg及びマクロゴール4000の50質量%水溶液を1.0kg(5質量%濃度)又は0.5kg(2.5質量%濃度)加えて撹拌し、その粘度を調整した後、脱泡処理してカプセル成形用ジェリーを得た。このジェリーを用いてロータリー式カプセル充填機にて、実施例1と同様の充填液を充填し、軟カプセル剤を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラメルとジフェンヒドラミン又はその塩とを含有する経口固形剤。
【請求項2】
カラメルとジフェンヒドラミン又はその塩とを含有する医薬組成物を充填したカプセル剤。
【請求項3】
カラメルとジフェンヒドラミン又はその塩とを含有する医薬組成物を、マクロゴール及びゼラチンを含有するカプセル皮膜からなるカプセルに、充填したカプセル剤。
【請求項4】
カラメルとジフェンヒドラミン又はその塩とを含有する医薬組成物を含有する溶液を、マクロゴール及びゼラチンを含有するカプセル皮膜からなるカプセルに、充填したカプセル剤。
【請求項5】
カプセル皮膜中のマクロゴールの含有量がカプセル皮膜全量に対して0.5〜15質量%であることを特徴とする請求項3又は4記載のカプセル剤。
【請求項6】
カプセル皮膜中のマクロゴールが、平均分子量950〜25000のマクロゴールである請求項3〜5のいずれか1項記載のカプセル剤。
【請求項7】
ジフェンヒドラミン又はその塩を1カプセル当たり25mg又は50mg含有する請求項1記載の経口固形剤又は請求項2〜6のいずれか1項記載のカプセル剤。
【請求項8】
請求項4記載の医薬組成物を含有する溶液の溶媒が、多価アルコールを含有する請求項4〜7のいずれか1項記載のカプセル剤。
【請求項9】
請求項4記載の医薬組成物を含有する溶液の溶媒が、水、低級アルコール及び酢酸から選ばれる1種又は2種以上と、多価アルコールとの混液である請求項4〜8のいずれか1項記載のカプセル剤。
【請求項10】
硬カプセル剤である請求項2〜9のいずれか1項記載のカプセル剤。
【請求項11】
カラメルを有効成分とするジフェンヒドラミン又はその塩の安定化剤。

【公開番号】特開2010−132652(P2010−132652A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253863(P2009−253863)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】