説明

ジフルオロ酢酸クロライドの精製方法

【課題】
少なくともジフルオロ酢酸フルオライドを含んでなるジフルオロ酢酸クロライド組成物を簡単な装置を用いて、かつ、簡便な手段で高純度の製品とする方法を提供する。
【解決手段】
少なくともジフルオロ酢酸フルオライドを含むジフルオロ酢酸クロライド組成物を反応可能な温度において塩化カルシウムと接触させて、ジフルオロ酢酸フルオライドをジフルオロ酢酸クロライドに転換させる工程を含むジフルオロ酢酸クロライドの精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体、反応試剤として有用なジフルオロ酢酸クロライドの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジフルオロ酢酸クロライドの製造方法としては、例えば、(1)ジフルオロ酢酸を五塩化リンなどの塩素化剤で塩素化する方法、(2)1,1−ジフルオロ−3,3,3−トリクロロエタン(R−132a)を加熱・加圧下酸素で酸化する方法(特許文献1)、(2)1,1−ジフルオロ−3,3,3−トリクロロエタン(R−132a)とOとClの混合物に高圧水銀灯を照射して酸化する方法(特許文献2)が知られている。
【0003】
また、1−アルコキシ−1,1,2,2−テトラフルオロエタンを、金属酸化物触媒の存在下に熱分解するとジフルオロ酢酸フルオライドが得られることが知られている(特許文献3)。
【0004】
さらに、特許文献4には含フッ素置換基を有するベンゾフルオライドを塩化カルシウムでフッ素化して対応するベンゾクロライドに変換できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5905169号明細書
【特許文献2】特開平8−53388号公報
【特許文献3】特開平8−92162号公報
【特許文献4】欧州特許第293747号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1または2などの方法によって1,1−ジフルオロ−3,3,3―トリクロロエタンを酸化してジフルオロ酢酸クロライドを製造する際にはジフルオロ酢酸フルオライド、ジフルオロ酢酸などが副生することが多く、また、ジフルオロ酢酸フルオライドのハロゲン交換反応によりジフルオロ酢酸クロライドに変換する場合にも少量の未反応ジフルオロ酢酸フルオライドが残存することがある。さらに、ジフルオロ酢酸クロライドは保存中に分解してフッ化水素が発生しその作用によりジフルオロ酢酸フルオライドが生成することもある。
【0007】
そこで、ジフルオロ酢酸フルオライドを含むジフルオロ酢酸クロライド組成物(本明細書において、「粗ジフルオロ酢酸クロライド」または「粗DFAC」という)を簡便な手段で高純度のジフルオロ酢酸クロライドにする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するためジフルオロ酢酸クロライドに伴われるジフルオロ酢酸フルオライドの除去方法を検討したところ、粗ジフルオロ酢酸クロライドを加熱した無水塩化カルシウムと接触させることで容易に実質的にジフルオロ酢酸フルオライドを含有しないジフルオロ酢酸クロライドとすることができることを見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は次の通りである。
【0010】
[発明1]
少なくともジフルオロ酢酸フルオライドを含むジフルオロ酢酸クロライド組成物を反応可能な温度において塩化カルシウムと接触させて、ジフルオロ酢酸フルオライドをジフルオロ酢酸クロライドに転換させる工程を含むジフルオロ酢酸クロライドの精製方法。
【0011】
[発明2]
接触が、ジフルオロ酢酸フルオライド組成物を反応可能な温度の塩化カルシウムに流通させることからなる発明1のジフルオロ酢酸クロライドの精製方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の精製方法は、ジフルオロ酢酸クロライド組成物に含まれるジフルオロ酢酸フルオライドを純分であるジクロロ酢酸クロライドに変換し、交換されたフッ素原子はフッ化カルシウムとして固定するので、該方法による処理の後さらなる精製を要せず高純度の製品とすることができ、または任意の次反応工程に供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、少なくともジフルオロ酢酸フルオライドを含むジフルオロ酢酸クロライド組成物(粗ジフルオロ酢酸クロライド)を反応可能な温度において塩化カルシウムと接触させる塩素化工程を含むジフルオロ酢酸クロライドの精製方法である。
【0014】
粗ジフルオロ酢酸クロライドは、どの様な方法で製造されまたは生成したものであってよい。例えば、1,1−ジフルオロ−2,2−ジクロロエタンを酸素で酸化して得られるジフルオロ酢酸クロライド、ジフルオロ酢酸フルオライドの混合物(前記特許文献1、2)などが例示できる。
【0015】
本発明の精製方法は、粗ジフルオロ酢酸クロライドを反応可能な温度において塩化カルシウムと接触させ、ジフルオロ酢酸フルオライドをジフルオロ酢酸クロライドに変換して精製する。
【0016】
本発明の精製方法にかかる反応は下式で示される。
【0017】
2CHFCOF + CaCl → 2CHFCOCl +CaF
反応式が示すように、反応において、ジフルオロ酢酸フルオライドは純分であるジフルオロ酢酸クロライドに変換されるためさらなる精製操作は必要なく、一方、ハロゲン交換で取り除かれたフッ素原子はフッ化カルシウムとして固定されるため、廃棄等の処理は容易である。
【0018】
粗ジフルオロ酢酸クロライドに含まれるジフルオロ酢酸フルオライドの含有量に限定はない。実際上は、粗ジフルオロ酢酸クロライドの50質量%未満であることが好ましく、20質量%未満がより好ましく、10質量%未満がより好ましい。また、蒸留等によりジフルオロ酢酸フルオライドの含有量を予め1質量%未満としておくことはさらに好ましい。
【0019】
本発明の精製方法に使用する塩化カルシウム(CaCl)は無水物が好ましい。特に、高純度であることを必要とせず、試薬、化学品原料または乾燥剤として流通する汎用品を使用できる。結晶水を有する塩化カルシウムを使用する場合は、予め、窒素等を流通させながら300℃以上で結晶水を除去する前処理を施すことが好ましい。形状は任意であるが、反応系式が流動床やバッチ式の場合は粉体状、流通法で使用する場合は粒状が好ましい。粒径は特に限定されず、反応器の形状特に管径に依存するが、最大長さが1〜20mm程度の粒子を中心とする球体または棒状体の粒状が取り扱いやすく好ましい。
【0020】
反応方式は任意であり、液相または気相で行うことができるが、気相で行うことが好ましい。また、バッチ式または流通方式を採用できるが、流通方式が操作の簡便性から好ましい。液相ではジフルオロ酢酸フルオライドを液化するために低温または高圧の条件で行うが、経済的に不利であり、溶媒を使用して液相を形成する場合は、処理後溶媒の除去が必要となる。本発明の方法は、気相連続式で行うのが特に好ましい。
【0021】
本発明の方法は、流通式においては、反応管に充填した粒状の塩化カルシウムをジフルオロ酢酸フルオライドがジフルオロ酢酸クロライドに変換されるのに十分な温度、すなわち、反応可能な温度とし、そこへ、粗ジフルオロ酢酸クロライドを流通させる方法であり、ジフルオロ酢酸フルオライドがジフルオロ酢酸クロライドに定量的に変換される。ここで、本反応は気固の反応であって、通常、気固反応は、固体の表面だけが反応に寄与し、内部が反応に関与しないことが多いが、本反応では、用いられた粒状の塩化カルシウムは、実質的に塩化カルシウム粒の内部を含む全量が反応に寄与することができるだけなく、著しい粉化は起こらず、原型を保つことができる。
【0022】
反応温度は、滞在時間等の処理条件に依存するが、50℃から250℃が好ましく、100℃〜200℃が好ましい。滞在時間は反応温度に依存するが、1〜1000秒であり、好ましくは10〜700秒であり、50〜500秒がより好ましい。1秒未満の場合は、反応が完結しないことがあるので好ましくない。1000秒を超えても反応は進行するがスループットが低下するので好ましくない。反応の際の圧力は任意であるが、加圧、減圧をしない実質上の常圧での操業が好ましい。流通式において反応管を使用した場合、DFAFの含有量が高いときには、反応開始初期には入り口付近に局部的に10℃から30℃発熱した状態(ヒートスポット)が発生し、徐々に、ヒートスポットが出口の方向に移動する。この現象により塩化カルシウムの消費を知ることができ、交換時期を決めることができる。当業者の常識の範囲内の大きめの装置を用いることは、塩化カルシウムの交換頻度が少なくなるので好ましい。反応管は、ステンレス鋼、モネル(登録商標)、インコネル(登録商標)、ハステロイ(登録商標)、フッ素樹脂またはこれらでライニングされた材質で作るのが好ましい。反応管の管長/管径の比を大きくすると精製効率が高くなるが、大きくなると圧力損失も大きくなるため、この比は5〜200であるのが好ましい。
【0023】
反応において、キャリアガスとして、アルゴン、窒素、水素等を同伴させることも可能である。精製されたジフルオロ酢酸クロライドはさらなる精製をすることなくそのまま製品とすることができ、または、さらなる精製をしないで各種反応の反応剤として使用することができる。
【0024】
反応において副生したフッ化カルシウムは、光学結晶、フッ化水素製造の原料として使用できる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を用いて、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施態様には限られない。有機物の分析は、ガスクロマトグラフ(FID検出器)を用いて行い、組成は面積%(以下、「%」と表示する。)で表した。
【0026】
[実施例1]
内径37mm長さ1000mmのステンレス鋼製反応管に、純正化学株式会社製無水塩化カルシウム(粒径:約2.5〜3.5mm)を150g充填して、窒素を流通させながら反応管をテープヒーターで200℃に加熱した。温度が200℃で安定した後、4.8%のジフルオロ酢酸フルオライド(DFAF)を含む粗ジフルオロ酢酸クロライド(DFAC。純度95.0%)を0.2g/分の速度で流通させると同時に、窒素の供給を停止した。100g流通させた後、反応管出口に接続したドライアイストラップに回収された有機物(98g)をガスクロマトグラフで分析した。その結果、DFAC純度は99.9%であり、DFAFは痕跡量(0.001%未満)であった。
【0027】
[実施例2]
(DFAC調製)
攪拌器を備えた1000ccステンレス鋼製オートクレーブに、塩化リチウム(LiCl。168.7g、4.0mol)を仕込み内部を減圧した。ドライアイス−アセトン浴で内温−40℃に冷却後、少量のモノフルオロメタンを含むDFAF(300g、3.06mol)を攪拌しながら圧入した。その後、浴を外し、室温(約25℃)で1時間攪拌し、次にバンドヒーターを用いて1時間かけて70℃に昇温し4時間そのまま保持した。その時の圧力は0.56MPaG(ゲージ圧)であった。反応終了後、内容物を回収し、フラッシュ蒸留し、ガスクロマトグラフで分析したところ純度98.64%のDFAC(CHFCOCl)であった(回収率96%)。主な不純物は、原料のDFAF中不純物由来のCHF:0.36%、未反応DFAF:0.15%、ジフルオロ酢酸:(CHFCOOH):0.33%であった。
【0028】
(精製)
得られた粗DFACを用いて、実施例1と同様の実験を行った。100g流通させた後、反応管出口に接続したドライアイストラップに回収された有機物(103g)をガスクロマトグラフで分析した。その結果、DFAC純度は99.9%であり、DFAFは痕跡量(0.001%未満)であった。
【0029】
[比較例]
4.8%のDFAFを含む粗DFAC(純度95.0%)を原料とする以外実施例2と同一の反応を行った。その結果、反応開始4時間後の分析結果では、2,2−ジフルオロエチルアルコール(CHFCHOH):99.09%、ジフルオロ酢酸2,2−ジフルオロエチル(CHFCOOCHCHF2):0.03%、DFAC:検出されず、DFAF検出されず、であったが、16時間後には、CHFCHOH:88.09%、CHFCOOCHCHF:11.21%、DFAC:検出されず、DFAF:検出されず、であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
ジフルオロメチル基の導入試薬として有用なジフルオロ酢酸クロライドの精製方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともジフルオロ酢酸フルオライドを含むジフルオロ酢酸クロライド組成物を反応可能な温度において塩化カルシウムと接触させて、ジフルオロ酢酸フルオライドをジフルオロ酢酸クロライドに転換させる工程を含むジフルオロ酢酸クロライドの精製方法。
【請求項2】
接触が、ジフルオロ酢酸フルオライド組成物を反応可能な温度の塩化カルシウムに流通させることからなる請求項1に記載のジフルオロ酢酸クロライドの精製方法。

【公開番号】特開2012−201667(P2012−201667A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70387(P2011−70387)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】