説明

ジメチルシアノイミドカーボネートの調製方法

本発明は、シアン化ナトリウム、メタノール、塩素ガス、およびシアナミドからジメチルシアノイミドカーボネート(DCC、3,3−ジメトキシ−2−アザプロプ−2−エンニトリル)を製造する新規方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルシアノイミドカーボネート(DCC、3,3−ジメトキシ−2−アザプロプ−2−エンニトリル)を調製する新規の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジメチルシアノイミドカーボネートは、単離されたジエチルイミドカーボネートをシアナミドと無水条件下で反応させることによって調製され得ることは、すでに知られている(Cem.Ber.1967年、100.2604)。しかし、この方法の収率は、十分でなく、ワークアップ段階を追加する必要がある。
【0003】
さらに、ジメチルシアノイミドカーボネートは、水および水に混和しない有機溶媒、例えばトルエンを含む二相系中で、適当なイミドカーボネートをシアナミドと反応させることによって調製できることが知られている(欧州特許出願公開第0014064号)。
【0004】
さらに、ジメチルシアノイミドカーボネートは、最初にアルカリ条件下でシアン化ナトリウムをメタノールと反応させ、次いで塩素を導入し、反応混合物の中和およびシアナミドの添加後に、塩酸メチレンを添加した後生成された置換N−シアノイミドカーボネートを有機相から回収することによって調製できることが知られている(ドイツ特許出願公開第3225249号)。
【0005】
さらに、ジメチルシアノイミドカーボネートは、まずメタノールと塩化シアンから適当なイミドカーボネートを調製し、次いで最初のシアナミド溶液装入物にイミドカーボネートおよび酸を添加することによって得られることが知られている(欧州特許第0523619号)。
【0006】
前述の方法は、その実施に際して、有害な副生物が生じる、または比較的大量の有機溶剤(例えばトルエン)の使用を必要とする、または工業規模での取り扱いが困難な試薬(例えば、塩化シアン)が使用されるといった欠点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、工業規模で容易に実行され、高収率、高純度でDCCを与える方法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
式(I)のジメチルシアノイミドカーボネート(DCC、3,3−ジメトキシ−2−アザプロプ−2−エンニトリル)は、
【0009】
【化3】

【0010】
第1段階において、シアン化ナトリウムを水酸化ナトリウム水溶液中で、メタノールおよび塩素ガスと反応させ、
第2段階において、生成された式(II)のジメチルイミドカーボネート(ジメトキシメタンイミン)を中和し、
【0011】
【化4】

【0012】
第3段階において、酸を同時に添加することによってpHを中性に保ちながら、前段階で中和された式(II)のジメチルイミドカーボネートをシアノイミド(アミノメタンニトリル)水溶液中に加えると得られることが、今回分かった。
【0013】
ワークアップのために、第4段階において、酸化作用のある副生物を抽出剤の存在下で還元し、
第5段階において、非生成物含有固体粒子を清澄化によって除去し、また
第6段階において、式(I)のDCCを抽出および蒸留によって濃縮する。
【0014】
驚くべきことに、本発明による方法は、簡単な方法で高純度でDCCをもたらす。特に驚くべきことには、中和されたジメチルイミドカーボネートは、収率が低下することなく、次の反応に使用されるほど長い間、選択された反応条件下で安定である。
【0015】
さらに、本発明による反応は、健康に有害な大量の作業液または反応物を使用する必要がないので、より環境にやさしくまた安全であるという利点がある。
【0016】
出発材料のシアン化ナトリウム、水酸化ナトリウム水溶液、メタノール、塩素ガス、シアナミド、および亜硫酸水素ナトリウムは、知られている化学薬品である。
【0017】
第2段階においてジメチルイミドカーボネートを中和するために、また第3段階においてpHを中性に保つために、こうした目的に適した酸、好ましくは塩酸を使用する。
【0018】
本発明による方法を実行する場合、反応温度は比較的広い範囲内で変えることができる。通常、第1段階は−50℃〜0℃で、好ましくは−25℃〜0℃で、特に好ましくは−5℃の温度で行われる。通常、第2段階は−20℃〜0℃で、好ましくは、−10℃〜0℃で、特に好ましくは−5℃の温度で行われる。通常、第3段階は、−20℃〜+30℃、好ましくは−5℃〜+20℃の温度で行われる。
【0019】
本発明による方法の第1段階を実行する場合、シアン化ナトリウム1モル当たり、通常0.8〜1.5モル、好ましくは0.9〜1.3モル、特に好ましくは1.0〜1.2モルの水酸化ナトリウムを、また通常2〜10モル、好ましくは2〜5モル、特に好ましくは3〜4モルのメタノールを、また通常0.8〜0.97モル、好ましくは0.85〜0.95モル、特に好ましくは0.90〜0.95モルの塩素を使用する。
【0020】
望ましくない副生物の生成を最小限に維持するために、理論量よりわずかに少ない量の塩素を使用することが好ましい。驚くべきことに、塩素を反応混合物上に導入した場合、塩素を反応混合物中に導入する場合より、より高く安定した収率が得られることが分かった。
【0021】
本発明では、「反応混合物上に導入する」とは、「反応混合物の中への導入」中にはガス引込み管の端が液体の表面下にあるのに対し、塩素が液体反応混合物上の気体空間に導入されることを意味するものと理解されるべきである。したがって、反応混合物上への導入中にガス引込み装置内における濃度ピークが回避される。ガス(ここでは塩素)は、液体反応混合物の表面から取り込まれる。
【0022】
第1段階の反応時間は、あまり重要ではなく、数分から数時間である。バッチサイズおよび熱の消失に応じて、反応混合物上に塩素ガスを導入する時間は、1時間〜20時間、通常は5時間〜10時間である。
【0023】
本発明による方法の第2段階を実行する場合、シアン化ナトリウム1モル当たり、通常0.5〜1.5モル、好ましくは0.6〜0.9モルの塩酸を使用する。しかし、これ以外の比率を選択することも可能である。
【0024】
本発明による方法の第2段階の実施において、中和は、反応混合物がpH6.5〜7.5、好ましくはpH6.8〜pH7.2の範囲のpHに到達したとき完了する。
【0025】
第2段階におけるジメチルイミドカーボネートの中和は、最大でも30分の滞留時間で、連続的に実行されることが好ましい。
【0026】
このようにすると、中和されたジメチルイミドカーボネートは十分安定し、したがって収率が低下することなく、次の反応に使用することができるので、連続操作が有利である。原則として、これは、バッチ式操作によっても可能であると思われるが、この場合、予想収率は、連続操作の場合より低い。
【0027】
この連続的中和は、ループ内での好ましい滞留時間における高い中和熱が消散できるように、循環される体積流とループから取り出される体積流との間の循環比が適切であるループ反応器において行う。所望のpHの範囲が全中和段階で維持され得るように、ループに入って来る塩酸を連続的に計量するための制御システムを調整する。
【0028】
本発明による方法の第3段階を実行するとき、シアン化ナトリウム1モル当たり通常0.6〜2.0モル、好ましくは0.7〜0.9モルのシアナミドを使用する。
【0029】
第2段階で中和したジメチルイミドカーボネートを20〜120分間、好ましくは30〜90分間、計量しながらシアナミド溶液中に送り込む。
【0030】
連続的中和の場合、中和されたジメチルイミドカーボネートは、前述の時間にわたって、緩衝剤なしで、中和段階から直接シアナミドに計量しながら送り込む。
【0031】
中和されたジメチルイミドカーボネートを計量しながらシアナミドに送り込むとき、さらに塩酸を添加することにより、pHを中性の範囲内に、好ましくはpH6.5〜pH7.5の範囲に、特に好ましくはpH6.8〜pH7.2の範囲に、さらに好ましくはpH7に維持する。
【0032】
本発明による方法は、通常大気圧下で行われる。しかし、必要なら、この方法を加圧下で、または減圧下で行うこともできる。
【0033】
ワークアップ(本発明による方法の第4段階から第6段階まで)について以下で述べる。
【0034】
本発明による方法の第4段階を実行する場合、抽出剤として、こうした反応に適した、水に混和しないあらゆる溶剤を使用することができる。これには、好ましくは、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、またはデカリンなどの芳香族炭化水素、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、またはトリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素が含まれる。トルエンを使用することが特に好ましい。同じ抽出剤が第6段階でも使用される。
【0035】
第4段階において、酸化作用を有する副生物を還元するために、こうした目的に適した還元剤、好ましくは亜硫酸ナトリウムが使用される。
【0036】
ワークアップは通常、第3段階終了後に得られたDCC懸濁液を、まずトルエンと混合し、次いで酸化作用を有する副生物を亜硫酸ナトリウムで還元し、非生成物含有の固体粒子を除去するために清澄化されるように実行する。次に、この相を分離し、水相を十分に再抽出し、合体させたトルエン相を、乾燥させるため、かつ痕跡量のシアン化ナトリウムを除去するために、蒸留する。好ましくは含有量が10〜15%である、得られたDCCトルエン溶液は、次の段階、例えば(下記の)活性化合物の合成に直接使用することができる。
【0037】
DCCが加水分解に不安定なので、生成物の分解を防ぐために、前述のワークアップを連続的に行う。バッチ式のワークアップも可能であるが、収率の低下を招く。
【0038】
本発明による方法により得られたDCCは、置換シアノグアニジン化合物を合成するための知られている構成単位であり、さらに反応させた後、殺虫作用を有する化合物に変換され得る(例えば、欧州特許公開第0235725号参照)。
【実施例】
【0039】
調製例
水635mL中のシアン化ナトリウム(純度95%、169.1g、3.28モル)を−5℃に冷却する。次に、水酸化ナトリウム水溶液(濃度45%、320.0g、3.6モル)およびメタノール372g(11.6モル)を滴下しながら加え、次いで、−5℃で塩素ガス(222.0g、3.13モル)を10時間、反応媒質上に導入する。−20℃で、さらに16時間攪拌を継続し、次いでこの混合物を、pH7になる(塩酸380ml、2.3モル)まで約30分かけて塩酸(濃度20%)で中和する。
【0040】
−5℃で、懸濁液をシアナミド(110.0g、2.62モル)および水(233g)の溶液に30分間かけて計量しながら加え、この添加中に塩酸(濃度20%)を使用してpHをpH7に維持する。次に、1時間放置して温度を+15℃に上昇させ、この温度で混合物をさらに1時間攪拌する。この後半の1時間の攪拌時間中ずっと、塩酸(濃度20%)を使用してpH7に維持した。計量しながら添加している間、および後半の攪拌中に消費した塩酸(濃度20%溶液)の量は、約150mLである。
【0041】
ワークアップのために、トルエン(660g)、Celite545(6g)、および亜硫酸水素ナトリウム(80.4g、39%)をこの懸濁液に添加する。懸濁液は室温で30分間攪拌し、固形物はろ過して除去し、相は2層に分離し、水相を素早くトルエンで2回(各々430g)再抽出する。次いで、有機抽出液を、合わせて乾燥し、蒸留によって痕跡量のシアン化水素も取り除く。
【0042】
これにより、1646g(純度13.6%、理論値の75%)のジメチルシアノイミドカーボネート(DCC)が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のジメチルシアノイミドカーボネート(DCC、3,3−ジメトキシ−2−アザプロプ−2−エンニトリル)を調製する方法であって、
【化1】

第1段階において、シアン化ナトリウムを水酸化ナトリウム水溶液中で、メタノールおよび塩素ガスと反応させること、
第2段階において、生成された式(II)のジメチルイミドカーボネート(ジメトキシメタンイミン)を中和すること、および
【化2】

第3段階において、酸を同時に添加することによってpHを中性に保ちながら、前記中和された式(II)のジメチルイミドカーボネートをシアノイミド(アミノメタンニトリル)水溶液中に加えることを特徴とする方法。
【請求項2】
第4段階において、酸化作用のある副生物を抽出剤の存在下で還元すること、
第5段階において、非生成物含有固体粒子を、清澄化によって取り除くこと、および
第6段階において、請求項1に記載の式(I)のDCCを抽出および蒸留によって濃縮することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1段階において前記塩素ガスを前記反応混合物上に導入することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記中和および/またはワークアップを連続的に行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
中和のために塩酸を使用することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記塩素ガスを前記反応混合物上に導入し、また前記中和および/またはワークアップを連続的に行うことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
第4段階における前記還元のために、亜硫酸ナトリウムを使用することを特徴とする請求項2に記載の方法。

【公表番号】特表2007−501851(P2007−501851A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529723(P2006−529723)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004594
【国際公開番号】WO2004/101501
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(302063961)バイエル・クロツプサイエンス・アクチエンゲゼルシヤフト (524)
【Fターム(参考)】