説明

ジメチルジチオカルバミン酸第一銅の製造方法

【課題】高純度のジメチルジチオカルバミン酸第一銅を効率良く製造する方法を提供すること。
【解決手段】ジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダ水溶液を、その濃度が50%以上にまで濃縮しておき、液温が少なくとも90℃以上、好ましくは90℃以上において、亜酸化銅を添加、温度上昇、粘度増加、さらには転相に至らしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジメチルジチオカルバミン酸第一銅の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジメチルジチオカルバミン酸第一銅を製造する方法として、亜酸化銅とジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダを水系において反応させる方法が、知られている。
【0003】
この反応を以下の化学式で示す。
【化1】

【0004】
亜酸化銅は比重5.88の固体であり、その水への溶解度は、きわめて低くそのジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダとの反応は、典型的な固体/液体間のそれであり、当初(反応率50%前後まで)反応は発熱的に進行するものの、それ以降反応速度が低下し、高純度のジメチルジチオカルバミン酸第一銅を製造するのは困難である。なぜそのような(反応の中折れ)現象が起きるのか理由は明らかでないが、亜酸化銅の表面でしか反応が進行しないためとも考えられる。
【0005】
また一般的に一価の銅イオンは水系において不安定であり、激しく攪拌すると、空気酸化を受け第二銅イオンに、さらにジメチルジチオカルバミンソ−ダと反応し、その第二銅塩を生成する可能性が大きくなる。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
【0007】
本発明の課題は、高純度のジメチルジチオカルバミン酸第一銅を効率良く製造する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
混じり合わない水と油を界面活性剤を添加し安定な水性エマルジョンを作るさい転相という物理現象を利用する方法がある。すなわち界面活性剤を添加した油類を加熱しながら攪拌し、水を徐々に加え、まず油中水滴型んエマルジョンとし、水の添加量が増えるにつれ、粘度が上昇し、ついには水中油滴型のエマルジョンに転相してしまう現象を利用する乳化方法である。(逆に水中油滴型のエマルジョンが油中水滴型んエマルジョンに変化することも同じく転相と称する)別な表現をすれば、連続相が液体相であり不連続相が固体であったものが連続相が固体で不連続相が液体に変化することを転相と言える。
【0009】
この転相時には粘度が増し、剪断力が有効に利用でき、反応率を高めるのに効果的である。
【0010】
まず、[化1]の反応について、100重量部の亜酸化銅とそれと化学的等量である500重量部のジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダ40%水溶液を反応させたばあいの反応前後の各相別の重量を比較する。
【0011】
【表1】

【0012】
以上の結果から反応前には、ごく少量であった固相が反応後には相当量増大しいること、しかしながら、この状態では転相には至らない可能性が大であることが分かる。(たとえ、より高温度、長時間反応させ、反応を完結させ得たとしても)
【0013】
そこで、当該反応において、あらかじめ水分を除去(濃縮)した後、亜酸化銅を添加する方法をとれば、転相する可能性が出てくることに思い至り、この例では、約100−150重量部の水を除去した後、引き続き亜酸化銅を添加したところ、反応温度が急上昇し、沸騰が認められ、反応混合物の粘度が増大し、転相を確認した。亜酸化銅の添加に伴う水分のロスは約70部に達し、液相の容量は非転相のばあいの294から約92にまで減少した。
【発明の効果】
【0014】
高純度のジメチルジチオカルバミン酸第一銅を効率良く製造することが可能にになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダ水溶液を、あらかじめ加温。濃縮しておき、その濃度を50%以上としたうえで、亜酸化銅を添加し、反応熱により沸騰状態とし、反応を加速、速やかに転相状態に至らしめ、濃縮、反応時揮発した水分に相当する水分を添加、攪拌し均一なスラリ−とし、濾過、洗浄、乾燥する。
【実施例1】
【0016】
ジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダの40%水水溶液500重量部を秤取り開放下、加熱し水分、約125部を除去した後、約95℃で100部の亜酸化銅を添加した。液温は100℃を突破するとともに、沸騰し、著しい粘度の増大が認められた。亜酸化銅添加後の水分蒸発量は約70部と観測された。
約300部のイオン交換水を加え、攪拌し均一なスラリ−とし、濾過
洗浄液が中性を示すまで洗浄を繰り返した。105℃で4時間乾燥し、白っぽい茶色の固体、約240部を得た。このものの銅含量は約37%(理論銅含量は34.6%)であった。
【実施例2】
【0017】
ジメチルジチオカルバミン酸ソ〜ダの濃縮した水分量が125部から80部に変更したほかは、すべて同一条件で反応させた。得られた製品の色、重量、銅含量など、いずれも誤差範囲であった。
【比較例1】
【0018】
ジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダ40%水溶液50部に亜酸化銅10部を加え90℃10分間、加熱攪拌した。重量基準の反応率は32%と低く、得られた製品の色は茶色であった。
【比較例2】
【0019】
ジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダ40%水溶液50部を95℃に加熱し、亜酸化銅10部を加え、10分間、加熱攪拌した。この間の水分減少は約12部であり、また反応率は64%、色は茶色であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜酸化銅とジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダを水系において反応させるさいに、当初、水中に固体が分散した状態から、反応の進行により、固体中に、液相が分散した状態に転相する物理現象を利用し、効率良くジメチルジチオカルバミン酸第一銅を製造する方法。
【請求項2】
ジメチルジチオカルバミン酸ソ−ダ水溶液を、あらかじめ濃縮し、その濃度を50%以上とし、少なくとも90℃以上、好ましくは95℃以上に保持した上で、化学量論量の亜酸化銅を添加、反応熱により転相に至らしめる請求項1記載の方法。

【公開番号】特開2009−13150(P2009−13150A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202341(P2007−202341)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(593190733)田中エンジニアリング株式会社 (3)
【出願人】(593190744)
【Fターム(参考)】