説明

ジャスミンサンバック様香料組成物

【課題】ジャスミンサンバックの自然な香りを有する香料組成物を提供する。
【解決手段】ジャスミンサンバック花香様香気を基調とするベース組成物に、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオールおよびデヒドロリナロールからなる群より選択される少なくとも1種以上の成分を添加したことを特徴とするジャスミンサンバック様香料組成物。前記香気成分の合計配合量は、香料組成物全量中0.01〜20質量%であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジャスミンサンバック様香料組成物、特にジャスミンサンバックの花の自然な香りを有するジャスミンサンバック様香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャスミンサンバック(Jasminum sambac)(マツリカ)はもくせい科(Oleaceae)ヤスミナム属(Jasminum)に分類され、特に花の香りが優れており、古来より多くの人々に愛されている。ジャスミンサンバックの花はジャスミンティーに使用されることでも有名である。
【0003】
一方、香料産業においてもジャスミンの香りは広く利用されている。香料産業において用いられるジャスミン香料は、一般的にはソケイ(Jasminum officinale)やシンソケイ(Jasminum grandiflorum)から採取する天然のジャスミン香料やこれを模した調合香料であったが、最近では、ソケイの香りに比べてグリーンフルーティーな要素が強いジャスミンサンバックの香りが、ライトでナチュラルな現代の香りトレンドにおいて、重要且つ貴重な素材となっており、ジャスミンサンバックの花から抽出された天然香料(精油)や、ジャスミンサンバック花香様の調合香料が市販されている。
【0004】
しかしながら、これら従来の天然香料や調合香料では、残念ながら実際に花が咲いている時に感じられるようにやさしく瑞々しいナチュラル感のある香りには至っていないのが実状であった。従って、ジャスミンサンバックの花が咲いているときのような、やさしく瑞々しいナチュラル感のある香りを有する香料組成物の開発が切に要望されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記背景技術に鑑みなされたものであり、ジャスミンサンバックが咲いているときのような自然な香りを有する香料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、ジャスミンサンバックの香りを再現すべく鋭意検討を行った結果、従来のジャスミンサンバックの天然もしくは調合香料に対し、これまでジャスミンサンバックの香り素材として認識されていなかった素材を配合することにより、ジャスミンサンバックのやさしく瑞々しいナチュラル感のある香りを有する香料組成物が得られること、またその香りの持続性にも非常に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかるジャスミンサンバック様香料組成物は、ジャスミンサンバック花香様香気を基調とするベース組成物に、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオールおよびデヒドロリナロールからなる群より選択される少なくとも1種以上の成分を添加したことを特徴とする。
本発明の香料組成物において、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオールおよびデヒドロリナロールからなる群より選択される成分の合計配合量が香料組成物全量中0.01〜20質量%であることが好適である。
また、本発明の香料組成物において、前記ジャスミンサンバック花香様香気を基調とするベース組成物が、ベンジルアセテート、シス−3−ヘキセノール、シス−3−ヘキセニルアセテート、シス−3−ヘキセニルベンゾエート、インドール、リナロール、及びメチルアンスラニレートから選ばれる1種又は2種以上を含むことが好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一般的なジャスミンサンバック花香ベース香料組成物に、これまでジャスミンサンバックの香り素材として認識されていなかった素材を配合することにより、より自然なやさしく瑞々しいジャスミンサンバックの香りに対応した香調とすることができ、現代の消費者の嗜好とマッチした新しいジャスミン系の香りを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のジャスミンサンバック様香料組成物は、ジャスミンサンバック花香様香気を基調とする一般的な香料組成物をベースとして、これに3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオール及びデヒドロリナロールから選ばれる1種以上の成分を配合することにより得ることができる。これら成分は既存の物質であり、フローラル様・グリーン様・フルーティ様の香調をもつ成分であるが、これらがジャスミンサンバックの香気成分として見出されたという報告はない。
【0010】
3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール及び2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオールのそれぞれについて、好ましい配合量としては香料組成物全量中0.03〜20質量%、さらには0.2〜10質量%、特には1〜3質量%である。デヒドロリナロールの好ましい配合量としては、0.01〜10質量%、さらには0.05〜3質量%、特には0.1〜1質量%である。
配合量が少なすぎる場合には、本発明の効果が発揮されない場合があり、配合量が多すぎる場合には、香気のバランスが悪くなり、ジャスミンサンバックの持つやさしく瑞々しいナチュラル感とはかけ離れてしまうことがある。
【0011】
本発明の効果は、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオール及びデヒドロリナロールのうち、少なくとも1種を上記範囲で配合することで発揮されるが、合計配合量が同じ場合で比較すると、2種以上、さらには3種を組み合わせて配合する方がより好ましい。この場合、配合量にもよるが、通常は3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール及び2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオール(以下これらを単にジオール成分と呼ぶことがある)の合計量に対してデヒドロリナロールの配合量が同量以下である方が好ましい傾向にある。
3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオール、デヒドロリナロールの合計配合量は、香料組成物全量中0.01〜20質量%であることが好ましく、さらには0.05〜5質量%、特に1〜3質量%であることが好ましい。配合量が少なすぎる場合には、本発明の効果が発揮されない場合があり、配合量が多すぎる場合には、香気のバランスが悪くなり、ジャスミンサンバックの持つやさしく瑞々しいナチュラル感とはかけ離れてしまうことがある。
【0012】
本発明において、ジャスミンサンバック花香様香気を基調とするベース香料組成物としては公知のものを用いることができるが、少なくともベンジルアセテート、シス−3−ヘキセノール、シス−3−ヘキセニルアセテート、シス−3−ヘキセニルベンゾエート、インドール、リナロール、及びメチルアンスラニレートから選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0013】
なお、本発明にかかる香料組成物には、そのジャスミンサンバック様香気を阻害しない範囲でポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテルなどの界面活性剤、ジプロピレングリコール、ジエチルフタレートなどの溶剤、ダマスコン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、レモンオイル、ローズオイルなどの香料物質などが配合可能である。
このようにして得られた本発明の香料組成物は、各種化粧品類、芳香剤類、保健衛生材料、食品、その他製品の香気成分として使用することができる。
【実施例】
【0014】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される系中に占める割合を質量%で示す。以下で用いたベース香料組成物、試験方法は次の通り。
【0015】
(1)ジャスミンサンバック花香様ベース香料組成物
下記組成のジャスミンサンバック花香ベース香料組成物を用いた。
―――――――――――――――――――――――――――――
成分 配合量(質量%)
―――――――――――――――――――――――――――――
ベンジルアセテート 19.3
ベンジルアルコール 7.5
シス−3−ヘキセノール 0.5
シス−3−ヘキセニルアセテート 2.5
シス−3−ヘキセニルベンゾエート 8.0
ファルネッセン 15.0
インドール 4.0
リナロール 24.0
メチルアンスラニレート 10.0
ネロリドール 4.0
ローズベース 5.0
シス−ジャスモン 0.2
―――――――――――――――――――――――――――――
合計 100.0
―――――――――――――――――――――――――――――
【0016】
(2)試験方法(香り、保香性)
専門パネラー7名により、以下の評価基準に基づいて実施した。
(香り評価基準)
5:自然なジャスミンサンバック様の香気に非常に優れている。
4:自然なジャスミンサンバック様の香気に優れている。
3:自然なジャスミンサンバック様の香気がある。
2:自然なジャスミンサンバック様の香気が少しある。
1:自然なジャスミンサンバック様の香気がほとんどない。
【0017】
(保香性評価基準)
4:自然なジャスミンサンバック様香気の保香性に非常に優れる。
3:自然なジャスミンサンバック様香気の保香性に優れる。
2:自然なジャスミンサンバック様香気の保香性が少しある。
1:自然なジャスミンサンバック様香気の保香性がない。
【0018】
試験例1 香気成分の添加効果
前記ベース香料組成物に、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオール又はデヒドロリナロールを配合し、評価を行った。
その結果、表1のように、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオール、又はデヒドロリナロールを配合することにより、自然なジャスミンサンバックの香りとすることができた。また、これら香気成分の配合で得られた香りは、時間が経っても変調することなしに良好な持続性を有していた。
【0019】
【表1】

【0020】
また、各成分の配合量を変えて試験を行った。表2〜3から、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール及び2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオールの配合量については、香料組成物中0.03〜20質量%、さらには0.2〜10質量%、特に1〜3質量%が好ましいことがわかる。また、表4から、デヒドロリナロールの配合量については、香料組成物中0.01〜10質量%、さらには0.05〜3質量%、特に0.1〜1質量%が好ましいことがわかる。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
試験例2 香気成分の併用
また、各成分を併用した場合についても検討した。表5に示すように、配合量が同じ場合であっても、複数の成分を併用した方がより高い効果が発揮されることが明らかとなった。
なお、試験例5−5〜試験例5−8は本評価基準ではほぼ同点となったが、専門パネルにこれらを比較してもらったところでは、3種を組み合わせた試験例5−8が最も香りや保香性において優れているとの結果が得られた。
【0025】
【表5】

【0026】
また、試験例5−8において、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオール及びデヒドロリナロールの混合物の配合量を変えて試験を行った。
その結果、下記表6に示すように、これら香気成分の合計配合量としては香料組成物中0.01〜20質量%、さらには0.05〜5質量%、特に1〜3質量%であることが好ましいことが明らかとなった。
【0027】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のジャスミンサンバック様香料組成物は、入浴剤、香水、オーデコロン、芳香剤の他、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、頬紅、おしろい、アイシャドー、口紅、あぶら取り紙、紙おしろい、シャンプー、リンス、ヘアスプレー、制汗スプレー、ボディパウダー、ベビーパウダー等の化粧料;ティッシュペーパーやペーパータオル、ナプキン、ノート、メモ帳等の紙用品;雑巾、歯磨き粉、マスク、医療用ガーゼ、柔軟仕上げ剤、衣料用洗浄剤、台所用洗浄剤、芳香剤等の日用雑貨類、食品等に応用可能である。化粧料に配合する場合、その配合量は特に限定されるものではないが、一般的な濃度範囲、例えば化粧料全量に対し0.001〜50質量%とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャスミンサンバック花香様香気を基調とするベース組成物に、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオールおよびデヒドロリナロールからなる群より選択される少なくとも1種以上の成分を添加したことを特徴とするジャスミンサンバック様香料組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の香料組成物において、3,7−ジメチル−1,5−オクタジエン−3,7−ジオール、2,6−ジメチル−1,7−オクタジエン−3,6−ジオールおよびデヒドロリナロールからなる群より選択される成分の合計配合量が香料組成物全量中0.01〜20質量%であることを特徴とするジャスミンサンバック様香料組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の香料組成物において、前記ジャスミンサンバック花香様香気を基調とするベース組成物が、ベンジルアセテート、シス−3−ヘキセノール、シス−3−ヘキセニルアセテート、シス−3−ヘキセニルベンゾエート、インドール、リナロール、及びメチルアンスラニレートから選ばれる1種又は2種以上を含むことを特徴とするジャスミンサンバック様香料組成物。

【公開番号】特開2009−62402(P2009−62402A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228651(P2007−228651)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(390019460)稲畑香料株式会社 (22)
【Fターム(参考)】