説明

ジルコニアゾル

【課題】 ジルコニアナノ粒子が分散してなる酸性水溶液ゾルを親水性溶媒で任意の割合に希釈したジルコニアゾルにおいて、長期にわたって粒子の分散安定性を維持できるジルコニアゾルを提供することを可能とする。
【解決手段】 本発明では、ジルコニアゾルにおいて、分散剤として、単糖類、二糖類を含むようにする。また、前記単糖類又は二糖類の添加量が重量比でジルコニアの50%以下であり、前記ジルコニア粒子の粒径が20nm以下であることを特徴とするジルコニアゾル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズのジルコニア粒子が長期にわたり安定して分散しているジルコニアゾルに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア粒子が安定に分散しているジルコニアゾルは、基材表面改質や機能性付与などの目的で、スプレー法、ディップ法、フローコート法、バーコート法などさまざまな方法で基材に塗布され使用されている。ナノサイズのジルコニア粒子を持つゾルも登場しており、焼付け温度の低下などその粒径に依存した特長が発揮されている。(例えば、特許文献1)また、近年では環境への影響を配慮して、水溶媒としたゾルも存在している。しかしながら、水溶媒のゾルでは、乾き速度遅い、基材との濡れ性が悪いなどの問題があり、塗布の際にタレやムラなどの欠点が発生しやすいという問題があった。また、乾き速度、基材との濡れ性調節のために親水性溶媒と混合するという方法は一般的ではあるが、親水性溶媒との混合により、分散性が著しく悪くなり、安定した分散状態を保ちつつ長期保存ができないという問題があった。
【0003】
上記粒子分散性の長期安定維持の問題を解決すべく、分散剤を使用して、溶媒混合後の粒子の分散性を維持するという方法は、従来のサブミクロンサイズの粒子径をもつゾルであれば有効であるが、ナノサイズの粒子径を持つゾルでは、分散剤の大きさが粒子径よりも大きくなり、塗膜後、分散剤により粒子がネットワークを形成することができず、結果、塗膜内での粒子密度が足らず、焼付け後の著しい膜強度低下をまねき、分散性は維持できるものの所望する膜特性を得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-143535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、親水性溶媒で希釈後も、良好な分散性を長期にわたって維持し、かつ焼付け後の膜強度を落とすことのない分散剤を含んだジルコニアゾルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、ジルコニアナノ粒子が分散してなる酸性水溶液ゾルを親水性溶媒で希釈したジルコニアゾルにおいて、分散剤として単糖類又は二糖類を含むジルコニアゾルを提供する。
【0007】
ジルコニアナノ粒子が分散している水溶液ゾルは、環境負荷も低く、スプレー法、ディップ法、フローコート法、バーコート法などの比較的簡便な方法で基材に塗布でき、また、粒子径がナノサイズであるため低温焼結が可能などのメリットがある。このような水系ゾルを基材に塗布する場合、基材表面との濡れ性、乾き速度のコントロールが塗膜状態を決めるのに重要となってくる。水との濡れ性が良く、乾き速度がコントロールされた状態で塗膜する場合は問題にならないが、通常の基材の場合、水との接触角(濡れ性の指標)は、30°程度と濡れ性が十分であるとはいえないことが多く、また、水溶液ゾルでは乾き速度は水の蒸発速度に依存し、十分でないことが多い。一般に基材の濡れ性コントロールは、コロナ放電などで基材表面を処理するか、水系ゾルに親水性溶媒や界面活性剤を添加して行われ、乾き速度のコントロールとしては、基材の予備加熱や空調などで行われることが多い。このうち、水系ゾルに親水性溶媒を添加する方法は、基材との濡れ性改善、乾き速度のコントロールが同時にできるというメリットがある。しかしながら、親水性溶媒を添加した場合には、ゾルが不安定となり、ジルコニアナノ粒子の良好な分散性を長期にわたって維持できない。通常、そのような場合には、PVA、水あめなどの高分子系分散剤を用い、その立体的な障害で分散性を維持することとなるが、ナノ粒子に対しては、分散剤の方が粒子より大きくなり、製膜時の組成が分散剤リッチとなり、焼付け後の膜特性が落ちるという問題があった。
水系溶媒であること、及び通常用いられるPVA、水あめなどの高分子系分散剤の構成要素である単分子に着目し、試験を行った結果、単糖類、二糖類が有効であることがわかり、ジルコニアナノ粒子が分散してなる酸性水溶液ゾルを親水性溶媒で任意の割合に希釈したジルコニアゾルにおいて、長期にわたり粒子分散性を維持できるジルコニアゾルの提供が可能となった。
【0008】
本発明の好ましい態様においては、前記単糖類又は二糖類の添加量が金属酸化物重量の50%以下であるようにする。
単糖類、二糖類の添加量は多い方がその分散剤としての効果が高いが、単糖類、二糖類の割合が重量%でジルコニア粒子の50%を超えると製膜後の膜組成で、単糖類、二糖類リッチの組成となり、ジルコニア粒子密度を十分に上げることができないため、焼付け時、膜の緻密化が起こらず、十分な膜強度を得ることができない。したがって、単糖類、二糖類の割合が重量%でジルコニア粒子の50%以下にしておけば、ゾルの分散性を維持しつつ、製膜後の膜強度に影響をあたえないようにできる。
【0009】
本発明の好ましい態様においては、前記ジルコニアの粒径が20nm以下であるようにする。
ジルコニアの粒径が20nmである場合には、その粒径に起因して、焼付け時の温度が下がる等の効果があるため、耐熱性が比較的低い基材に対しても、製膜ができるようになるのでより好ましい。
【0010】
本発明の好ましい態様においては、前記ジルコニアゾルにおいて、ジルコニア水溶液ゾルの割合が40%以下であるようにする。
親水性溶媒の混合割合が上がることで、溶液の表面張力が低下し、基材塗布の際に基材表面を濡らしやすくなり、製膜性を上げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水系ナノ粒子ジルコニアゾルにおいて、親水性溶媒と混合した場合のゾルの分散状態の長期維持性を著しく改善できるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で、利用するジルコニア粒子が分散している酸性水溶液ゾルは、粒径50nm以下のものが好適に利用できる、特に、20nm以下の粒子が、基材への製膜時の焼付け温度を下げることができるので、望ましい。このジルコニア粒子が、酸性水溶液(pH2〜3程度)に、濃度1〜5%にて、均一分散しているものが利用できる。
【0013】
また、親水性溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコールが利用できる。添加量としては、基材への塗布方法によって、適宜調整すれば良いが、例えば、スプレー法を利用する際には、酸性水溶水溶液ゾルの2〜10倍程度とする。
【0014】
また、分散材として、添加する単糖類、二糖類は、グルコース、ショ糖であるが、添加量としては、ジルコニア粒子の重量比で0.05〜0.3%とする。望ましくは、 0.1〜0.15%である。0.05%以上ないと添加効果が発揮されず、また、ジルコニア粒子の50%を超えると製膜後の膜組成で、単糖類、二糖類リッチの組成となり、ジルコニア粒子密度を十分に上げることができないため、焼付け時、膜の緻密化が起こらず、十分な膜強度を得ることができない。
また、上記ゾルを塗布する基材としては、衛生陶器、タイル、陶磁器、ガラス、金属、プラスチックなどが利用できるが、本発明のゾルは、製膜する際に250〜450℃に加熱して焼き付ける必要があるので、耐熱性の基材に適用する。
塗布方法は、スプレー法、ディップ法、フローコート法、バーコート法などが好適に利用できる。
【実施例】
【0015】
住友大阪セメント製ジルコニアナノ粒子ゾル(濃度2%)を2mlとり、エタノールで4倍に希釈した後、それぞれに10%グルコース水溶液及び10%ショ糖水溶液をZr固形分とに対してグルコース、ショ糖の重量比が5%、15%、25%となるように加え、室温にて放置しゲル化までの時間を比較した。単純にエタノールで希釈したZrゾルは、8日でゲル化したのに対して、グルコース、ショ糖を添加した系ではいずれもゲル化日数が倍以上になっており、ポットライフの著しい向上が認められた。
【0016】
また、それぞれのゾルをスプレー法にて塗布後、400℃、90分で焼付けし、膜強度を調べた。膜強度は、荷重100g/cm2、水和条件下で、摺動試験を行い調べた。摺動試験には、市販の不織布、市販の摺動試験機(太平理化工業:ラビングテスタこすり試験機)を用い、10000回まで摺動した。膜剥れに関しては、摺動前後で同一箇所をデジタルマイクロスコープ(キーエンス:)及び目視で観察して判定した。グルコース、ショ糖の添加量がZr固形分に対して、25%以下では、焼付後の膜特性にも特に影響が無く、特にグルコース、ショ糖の添加量がZr固形分に対して10%から25%の領域では、バインダーとしての機能もあり、スプレーによる製膜性の向上がみられた。
結果を表1、2に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニアナノ粒子が分散してなる酸性水溶液ゾルを親水性溶媒で希釈したジルコニアゾルにおいて、分散剤として単糖類又は二糖類を含むジルコニアゾル。
【請求項2】
前記単糖類又は二糖類の添加量が重量比でジルコニアの50%以下であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニアゾル。
【請求項3】
前記ジルコニア粒子の粒径が20nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のジルコニアゾル。
【請求項4】
前記ジルコニアゾルにおいて、前記酸性水溶液ゾルの割合が40%以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のジルコニアゾル。

【公開番号】特開2011−73893(P2011−73893A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223880(P2009−223880)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】