説明

ジルコニア焼結体

【課題】成形性がよく、かつ、低温焼結性にも優れ、これらに加えて焼結体にしたときの品質の信頼性にも優れたジルコニア微粉末、及びそれを用いた粉末顆粒を提供する。
【解決手段】安定化剤としてイットリア,カルシア,マグネシア及びセリアの1種以上を含むジルコニア微粉末であって、該ジルコニア微粉末の平均粒径が0.5μm未満であり、かつ、粒径分布の累積カーブにおいて1μmでの粒子の占める割合が100%以上であるジルコニア微粉末を顆粒化して用いる。該微粉末は、加水分解の反応率が98%以上の条件下で得られる水和ジルコニアゾルに、安定化剤添加、乾燥、900〜1200℃の範囲で仮焼し、直径3mm以下のジルコニアボールを用いて湿式粉砕して得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光コネクター部品,精密加工部品及び粉砕機用部材等の構造用セラミックスの原料に用いられる、とくに成形性がよく、低温焼結性にも優れた新規ジルコニア微粉末及びそのジルコニア微粉末をスラリーにして噴霧造粒して得られるジルコニア顆粒並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアセラミックスは、高強度,高靭性を発現するため、光コネクター部品,精密加工部品,粉砕メディア,粉砕機用部剤,刃物等の幅広い用途で使用されている。しかしながら、このような高強度・高靭性を有するジルコニアセラミックスは、空気中,200〜300℃の温度で長時間曝されると、準安定相である正方晶が安定相の単斜晶へ約4%の体積膨張を伴って相変態するので、微細クラックが発生して強度・靭性が低下する、すなわち劣化することが指摘されている。この欠点を改善するために、出発原料であるジルコニア粉末の成形及び焼結性を様々な観点から改良して、ジルコニアセラミックスの耐劣化性を向上させてきている。
【0003】
例えば、特許文献1の様に、結晶性含水塩化ジルコニアを密閉容器中で加熱してジルコニアを結晶化させ、密封を解いて加熱脱水し、乾燥又は仮焼して、粒径約0.5μmのジルコニア微粒子を得る方法や、特許文献2の様には、塩化ジルコニル等に塩酸と水を加えた粉砕混合物を密封水熱容器中で回転しながら100〜220℃で水熱処理を行い、冷却後減圧乾燥した後熱処理して0.2〜0.7μmの凝集粒子径を有するジルコニア微粒子を得る方法が提案されている。
【0004】
これらのジルコニア微粒子は微細なため低温で焼結するが、粒径(凝集粒径)が0.2μm以上で粒度範囲が狭く、なおかつ0.2μm以下の微粒子を有しないものであったため、成形性、均一な焼結性、焼結割れの点でまだ十分とは言えなかった。
【0005】
最近、焼結性のよいジルコニア粉末が特許文献3により提案されている。このジルコニア粉末は、粒径分布が0.2〜0.5μm,1〜3μmに2つのピークを有するものであり、この粉末に少量のアルミナを含有させ、成形し焼結させると1350℃の温度で高密度のジルコニア焼結体が得られることが開示されている。しかし、特許文献3の粉末は1μm以上の粒子を多く含むものであった。
【0006】
最近では、種々の用途での高性能化の要求がさらに高まってきており、特に使用環境の厳しい条件でも劣化しない信頼性の高いジルコニアセラミックスが望まれ、更に低い温度で焼結するジルコニア粉末が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開昭63−274625号公報(請求項1、実施例3)
【特許文献2】特開平6−321541号公報(請求項1、第4頁表1及び第5頁表2)
【特許文献3】特開2004−182554号公報(請求項2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、上記のような従来方法における欠点を解消した、成形性がよく、かつ、低温焼結性にも優れ、これらに加えて焼結体にしたときの品質の信頼性にも優れたジルコニア微粉末の提供、ならびにそのジルコニア微粉末を簡易なプロセスにより製造することのできる方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ジルコニア粉末の粒径分布と成形及び焼結性との関係について詳細に検討し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、
1)安定化剤としてイットリア,カルシア,マグネシア及びセリアの1種以上を含むジルコニア微粉末であって、該ジルコニア微粉末の平均粒径が0.5μm未満であり、かつ、粒径分布の累積カーブにおいて1μmでの粒子の占める割合が100%であるジルコニア微粉末。
2)粒径分布の累積カーブにおいて0.2μmでの粒子の占める割合が10〜90%である上記1)記載のジルコニア微粉末。
3)粒径分布のピークが0.3〜0.5μmの範囲内にあって、かつ、ピークの幅が0.05〜0.2μmの範囲内にある上記1)及び上記2)記載のジルコニア微粉末。
4)イットリアを2〜4モル%含み、かつ、単斜晶相率が20〜70%である結晶構造を有する上記1)乃至3)記載のジルコニア微粉末。
5)ジルコニア微粉末が一種以上の添加物を含む上記1)乃至4)記載のジルコニア微粉末。
6)該添加物の陽イオンが、ジルコニウムイオンのイオン半径よりも小さいイオン半径を有する陽イオン及び/又は価数が4価以外の陽イオンである上記5)記載のジルコニア微粉末。
7)添加物の陽イオンが、アルミニウム,珪素及びゲルマニウムの群から選ばれる一種以上の陽イオンである上記5)及至6)記載のジルコニア微粉末。
8)上記1)乃至7)記載のジルコニア微粉末をスラリーにして噴霧造粒することにより得られ、平均粒径が30〜80μm、軽装嵩密度が1.00〜1.40g/cmであるジルコニア顆粒。
9)ジルコニウム塩水溶液の加水分解で得られる水和ジルコニアゾルを、乾燥,仮焼,粉砕してジルコニア粉末を得る方法において、該加水分解の反応率が98%以上の条件下で得られる水和ジルコニアゾルに、安定化剤の原料としてイットリウム,カルシウム,マグネシウム及びセリウムの化合物の1種以上を添加して乾燥し、900〜1200℃の範囲で仮焼してジルコニア粉末を得、次いで該ジルコニア粉末の平均粒径が0.5μm以下になるまで、直径3mm以下のジルコニアボールを用いて湿式粉砕することを特徴とする上記1)乃至7)記載のジルコニア微粉末の製造方法。
10)該イットリウムの化合物を酸化物換算で2〜4モル%添加することを特徴とする上記9)記載のジルコニア微粉末の製造方法、
からなるものである。
【0011】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本明細書において、ジルコニア微粉末に係わる「平均粒径」とは、体積基準で表される粒径分布の累積カーブが中央値(メディアン径;累積カーブの50%に対応する粒径)である粒子と同じ体積の球の直径をいい、レーザー回折法による粒径分布測定装置によって測定することができる。「ピークの幅(σ)」とは、体積基準で与えられる粒径分布ピークの広がりの程度を表す指標であり、以下の数式1で定義される値をいう。
【0012】
【数1】

【0013】
ここで、iは粒径分割番号であり、d及びFは、i番目の粒径(μm),頻度分布値(%)である。μは以下の数式2で定義される。
【0014】
【数2】

【0015】
「結晶子径(D)」とは、粉末X線回折(XRD)法で測定される回折線のブラッグ角(θ)と機械的広がり幅を補正した回折線の半値幅(β)をそれぞれ求めて、以下の数式3で与えられるシェーラー式により算出されたものの値をいう。
【0016】
【数3】

【0017】
ここで、κ及びλは、それぞれシェーラー定数(κ=1),測定X線の波長である。ジルコニア微粉末の結晶子径は、強度の最も強い回折線により求める。「安定化剤濃度」とは、安定化剤/(ZrO+安定化剤)の比率をモル%として表した値をいう。「単斜晶相率」とは、XRD測定により単斜晶相の(111)及び(11−1)面,正方晶相の(111)面,立方晶の(111)面の回折強度をそれぞれ求めて、以下の数式4により算出されたものの値をいう。
【0018】
【数4】

【0019】
ここで、Iは各回折線のピーク強度,添字m,t及びcは、それぞれ単斜晶相,正方晶相,立方晶相を表す。「イオン半径」とは、Shannonによって報告(Acta.Crystallogr.,A32,751−67(1976).)されている値のことをいう。「添加物含有量」とは、添加物/(ZrO+安定化剤+添加物)の比率を重量%として表した値をいう。ここで、添加物は酸化物に換算した値である。
【0020】
水和ジルコニアゾルに係わる「反応率」とは、水和ジルコニアゾル含有液を限外濾過して、その濾液中に存在する未反応物のジルコニウム量を誘導結合プラズマ発光分光分析により求めて、水和ジルコニアゾルの生成量を算出し、原料仕込量に対する水和ジルコニアゾル量の比率として表したものの値をいう。「平均粒径」とは、粒度分布測定装置または電子顕微鏡等で測定されるものであり、例えば光子相関法で得られたものの値をいう。
【0021】
本発明のジルコニア微粉末は、安定化剤としてイットリア,カルシア,マグネシア及びセリアの1種以上を含むことを必須とする。上記の安定化剤を含まないジルコニア微粉末を成形し焼結させると、焼結時にマルテンサイト変態に伴う膨張・収縮が起こり、その結果として材料が破壊するため、セラミックス原料粉末に適さないものとなるからである。また、上記のジルコニア微粉末は、平均粒径が0.5μm未満であり、かつ、粒径分布の累積カーブにおいて1μmでの粒子の占める割合が100%でなければならない。平均粒径が0.5μm以上、又は、粒径1μmでの粒子の占める割合が100%未満になると、硬い凝集粒子を含む粗粒が多くなるために、成形しにくいものとなり、かつ、粗粒が焼結の緻密化を阻害するために焼結性の悪いものとなるからである。好ましい平均粒径は0.05〜0.4μmであり、より好ましくは0.05〜0.3μmである。特に、粒径0.2μmでの粒子の占める割合が10〜90%の範囲内にあれば、さらに成形しやすいものとなる。より好ましい割合は20〜80%であり、望ましくは30〜70%である。
上記の条件に付け加えて、1μm以下の範囲で、粒径分布のピークが0.3〜0.5μmの範囲内にあって、かつ、ピークの幅が0.05〜0.2μmの範囲内にあれば、さらに焼結性のよいものとなる。
【0022】
また、上記のジルコニア微粉末は、BET比表面積が11〜19m/g、結晶子径が26〜50nmの範囲内にあれば、よりいっそう成形しやすいものとなる。より好ましいBET比表面積は12〜19m/gであり、結晶子径は30〜40nmである。
【0023】
ジルコニアセラミックスの特性は、安定化剤の種類や濃度によって変化するので、必要に応じて安定化剤を選択し、安定化剤の濃度を設定すればよい。安定化剤がジルコニア粒子に固溶しているものであれば、焼結の緻密化が均一に進行するのでより好ましいものとなる。特に、安定化剤としてイットリアを2〜4モル%含み、かつ、単斜晶相率が20〜70%である結晶構造を有するものであれば、成形し焼結させて得られる焼結体に残る気孔のサイズが小さくなり、かつ、その数が少なくなり、従って高密度の焼結体となって、機械的強度及び靭性に優れたジルコニアセラミックスとなる。より好ましいイットリア濃度は2.3〜3.5モル%であり、単斜晶相率は20〜40%である。
【0024】
さらに、上記のジルコニア微粉末が一種以上の添加物を含むと、成形して焼結する際の緻密化速度が促進されるので、よりいっそう焼結性に優れたものになる。このようなジルコニア微粉末を原料に用いて、成形し焼結させると、低い焼結温度で高密度の焼結体が得られるので、上記のとおり、劣化しにくいものとなって、極めて信頼性の高いジルコニアセラミックスとなる。特に、添加物の陽イオンが、ジルコニウムイオンのイオン半径(0.86オングストローム)よりも小さいイオン半径(r)を有するもの及び/又は価数(Z)が4価以外のものであれば、焼結の緻密化速度が著しく促進されるのでより好ましいものとなる。最適な添加物含有量は、酸化物換算で0.05〜1重量%である。添加物の陽イオンとしては、アルミニウム(r=0.68オングストローム,Z=3),珪素(r=0.54オングストローム,Z=4)及びゲルマニウム(r=0.67オングストローム,Z=4)の群から選ばれる1種以上のものが効果的であり、これらの中でアルミニウムとゲルマニウムの組合せが最もよい。
【0025】
本発明で得られるジルコニア微粉末をスラリーにして噴霧乾燥することによりジルコニア顆粒が得られ、その粒径は30〜80μm、軽装嵩密度が1.10〜1.40g/cmとなる。
【0026】
顆粒の製造方法については、特に限定されないが、例えば、特開平10−194743に記載の方法により、本発明で得られるジルコニア微粉末からジルコニア顆粒を製造することが可能である。
【0027】
本発明のジルコニア微粉末を得るにあたっては、ジルコニウム塩水溶液の加水分解で得られる水和ジルコニアゾルを、乾燥,仮焼,粉砕してジルコニア粉末を得る方法において、該加水分解の反応率が98%以上の条件下で得られる水和ジルコニアゾルに、安定化剤の原料としてイットリウム,カルシウム,マグネシウム及びセリウムの化合物の1種以上を添加して乾燥することを必要とする。水和ジルコニアゾルの生成率が98%よりも小さくなると、仮焼時に未反応物に起因する粒子間の強固な焼結が起るために、粒子間の凝集性が著しく、かつ、硬い凝集粒子を含む粗粒も多くなって、上記のとおり、成形しにくく、かつ、焼結性の悪いものとなるからである。より好ましい反応率は99%以上である。
【0028】
水和ジルコニアゾルと安定化剤の原料化合物との混合方法に制限はなく、例えば加水分解後の水和ジルコニアゾル含有液に安定化剤の原料化合物を所定量添加してもよく、あるいは加水分解前のジルコニウム塩水溶液に前もって添加していてもよい。安定化剤の原料に用いられる化合物としては、塩化物,フッ化物,硝酸塩,炭酸塩,硫酸塩,酢酸塩,酸化物,水酸化物などを挙げることができる。安定化剤の原料としてイットリウム化合物を酸化物換算で2〜4モル%添加すると、上記の仮焼及び粉砕条件で得られるジルコニア微粉末の単斜晶相率が20〜70%の範囲内となり、前記のとおり、機械的強度及び靭性に優れたものになる。より好ましいイットリア濃度は2.3〜3.5モル%である。また、水和ジルコニアゾルの乾燥方法については、例えば、混合溶液をそのまま、または該混合溶液に有機溶媒を添加して噴霧乾燥する方法、該混合溶液にアルカリなどを添加して濾過,水洗したあとに乾燥する方法を挙げることができる。
【0029】
上記の水和ジルコニアゾルは、ジルコニウム塩水溶液の加水分解で、反応率が98%以上を満足しているものが得られる方法であれば、いかなる反応条件で得られたものでもよい。例えば、ジルコニウム塩水溶液を調製して加水分解させる、ジルコニウム塩水溶液にアルカリまたは酸などを所定量添加して加水分解させる、陰イオン交換樹脂によりジルコニウム塩を構成している陰イオンの一部を除去して加水分解させる、水酸化ジルコニウムと酸との混合スラリーを加水分解させる、加水分解で得られた水和ジルコニアゾルをジルコニウム塩水溶液に所定量添加して加水分解させる、などの方法を挙げることができる。
【0030】
とくに、ジルコニウム塩水溶液の加水分解で得られた水和ジルコニアゾル含有液の一部を反応槽から連続及び/又は間欠的に排出し、かつ、当該水和ジルコニアゾル含有液の体積が一定に保たれるように、その排出量と同量のジルコニウム塩水溶液を連続及び/又は間欠的に反応槽に供給しながら加水分解させると、より反応率の高い水和ジルコニアゾルが効率よく得られるので効果的である。上記の方法で得られた水和ジルコニアゾルを限外濾過膜で水洗処理すると、未反応物をほとんど含まなくなるので、さらに焼結性に優れたものになる。
【0031】
上記の条件に付け加えて、水和ジルコニアゾルの平均粒径が、0.05〜0.2μmの範囲にあれば、さらに成形しやすいものとなる。水和ジルコニアゾルの平均粒径を制御する場合には、反応終了時の反応液のpHを調整して制御することにより所望の平均粒径をもつ水和ジルコニアゾルを得ることができる。例えば、反応終了時のpHが0.3〜0.6または0.8〜1.4となるように調整すると、平均粒径0.05〜0.2μmの水和ジルコニアゾルが得られる。このpHすなわち水和ジルコニアゾルの平均粒径を制御する方法としては、ジルコニウム塩水溶液にアルカリまたは酸を添加する、陰イオン交換樹脂によりジルコニウム塩を構成している陰イオンの一部を除去することによりpHを調整して加水分解させる、水酸化ジルコニウムと酸との混合スラリーのpHを調整して加水分解させるなどの方法を挙げることができる。
【0032】
水和ジルコニアゾルの製造に用いられるジルコニウム塩としては、オキシ塩化ジルコニウム,硝酸ジルコニル,塩化ジルコニウム,硫酸ジルコニウムなどが挙げられるが、この他に水酸化ジルコニウムと酸との混合物を用いてもよい。水和ジルコニアゾルの平均粒径を制御するために添加するアルカリとしては、アンモニア,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどを挙げることができるが、これらの他に尿素のように分解して塩基性を示す化合物でもよい。また、酸としては塩酸,硝酸,硫酸を挙げることができるが、これらの他に酢酸,クエン酸などの有機酸を用いてもよい。
【0033】
次いで、本発明では、上記で得られた水和ジルコニアゾルの乾燥粉を900〜1200℃の温度で仮焼しなければならない。仮焼温度がこの範囲外になると、本発明の下記粉砕条件で得られるジルコニア微粉末の凝集性が著しく強くなって、あるいは硬い凝集粒子を含む粗粒が多くなるために平均粒径が0.5μm以上、かつ、粒径分布の累積カーブにおける1μmでの粒子の占める割合が100%未満となって、本発明のジルコニア微粉末が得られなくなるからである。より好ましい仮焼温度は900〜1100℃である。仮焼温度の保持時間は0.5〜10時間がよく、昇温速度は0.5〜10℃/minが好ましい。保持時間が0.5よりも短くなると均一に仮焼されにくく、10時間よりも長くなると生産性が低下するので好ましくない。また、昇温速度が0.5℃/minよりも小さくなると設定温度に達するまでの時間が長くなり、10℃/minよりも大きくなると仮焼時に粉末が激しく飛散して操作性が悪くなり生産性が低下する。
【0034】
次いで、上記で得られた仮焼粉を平均粒径が0.5μm以下になるまで、直径3mm以下のジルコニアボールを用いて湿式粉砕することを必要とする。直径が3mmよりも大きいジルコニアボールを用いて湿式粉砕すると、平均粒径が0.5μmよりも大きく、かつ、粒径分布の累積カーブにおける粒径0.2μm、1μmにおいて粒子の占める割合がそれぞれ5%未満、90%未満のものとなって、本発明のジルコニア微粉末が得られなくなるからである。より好ましいジルコニアボールの直径は2mm以下である。粉砕機器としては、振動ミル,連続式媒体撹拌ミルを用いればよい。また、粉砕条件は、機種により異なるが、振動ミルの場合、スラリー濃度30〜60wt%,20〜30時間がよく、媒体撹拌ミルの場合、スラリー濃度30〜60wt%,15〜30時間が最適である。粉砕する前に、仮焼粉を水洗処理、あるいは稀薄なアンモニア水で洗浄処理すると、ジルコニウム塩原料に由来する、焼結を阻害する微量の不純物が除去されるので、焼結性を向上させるのに効果的である。
【0035】
必要に応じて、添加物を含むジルコニア微粉末を得る場合には、水和ジルコニアゾルに添加物を加えればよく、あるいは仮焼粉に添加物を加えて湿式粉砕すればよい。添加物の陽イオンがアルミニウムである原料化合物としては、アルミナ,水和アルミナ,アルミナゾル,水酸化アルミニウム,塩化アルミニウム,硝酸アルミニウム,硫酸アルミニウムなどを挙げることができる。陽イオンが珪素である原料化合物としては、シリカ、シリカゾル、ケイ酸などが挙げられる。また、陽イオンがゲルマニウムである原料化合物としては、酸化ゲルマニウム,水酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。
【発明の効果】
【0036】
以上、説明したとおり、本発明のジルコニア微粉末は、成形性及び低温焼結性がよく、さらに焼結体にしたときの品質の信頼性にも優れている。また、本発明の方法により、容易に上記のジルコニア微粉末を製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何等限定されるものではない。
【0038】
例中、水和ジルコニアゾルの平均粒径は、光子相関法による粒度分布測定装置により求めた。ジルコニア微粉末の平均粒径は、マイクロトラック粒度分布計(Honeywell社製,9320−HRA)を用いて測定した。試料の前処理条件としては、粉末を蒸留水に懸濁させ、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製,US−150T)を用いて3分間分散させた。粒径分布のピークの幅は、粒径0.2〜1μmの範囲で測定された粒径と頻度分布値を、数式1及び2に代入して求めた。結晶子径は、XRD測定により得られる正方晶の(111)面の回折線を用いて数式3より求め、単斜晶相率は数式4より算出した(いずれの例においても、立方晶は含まれていなかった)。
又、ジルコニア顆粒の平均粒径は、ふるい分け試験方法によって求めた。
【0039】
原料粉末の成形は、金型プレスにより成形圧力700kgf/cmで行い、得られた成形体は所定温度(保持時間2h)に設定して焼結させた。得られた焼結体の相対密度は、アルキメデス法で測定し、理論密度を6.08g/cmとして算出した。焼結体の強度は、3点曲げ測定法で評価した。また、劣化試験は、焼結体を140℃の熱水中に72時間浸漬させ、生成する単斜晶相の比率(単斜晶相率)を求めることによって評価した。単斜晶相率は、浸漬処理した焼結体についてXRD測定を行い、ジルコニア微粉末の単斜晶相率と同様の算出方法で、数式4により求めた。
【0040】
実施例1
2モル/リットルのオキシ塩化ジルコニウム水溶液4リットルに2モル/リットルのアンモニア水4.8リットルを混合し、蒸留水を加えてジルコニア換算濃度0.8モル/リットルの溶液を調製した。この溶液を還流器付きフラスコ中で攪拌しながら加水分解反応を煮沸温度で200時間行った。得られた水和ジルコニアゾルの反応率は98%であり、平均粒径は0.1μmであった。この水和ジルコニアゾルに塩化イットリウムをイットリア濃度が3モル%になるように添加して乾燥させ、1000℃の温度で2時間仮焼した。
【0041】
得られた仮焼粉を水洗処理したあとに、アルミナゾルをアルミナ含有量が0.25重量%になるように添加し、さらに蒸留水を加えてジルコニア濃度45重量%のスラリーにした。このスラリーを直径2mmのジルコニアボールを用いて、振動ミルで24時間粉砕して乾燥させた。得られたジルコニア微粉末の平均粒径,粒径0.2μm及び1μmでの粒子の占める割合,0.4μm付近に存在するピークの幅,結晶子径,単斜晶相率の値を表1に示す。
【0042】
次いで、上記で得られたジルコニア微粉末をプレス成形し1250℃の条件で焼結させた。得られた焼結体の相対密度,曲げ強度,劣化試験後の単斜晶相率を表2に示す。劣化試験後の単斜晶相率が0%であることから、極めて劣化しにくい信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0043】
実施例2
実施例1の水和ジルコニアゾルに蒸留水を加えて、ジルコニア換算濃度0.3モル/リットルの溶液を調製した。これを出発溶液に用いて、溶液の5体積%を反応槽から間欠的に排出し、かつ、溶液の体積が一定に保たれるように、その排出量と同量の0.3モル/リットルのオキシ塩化ジルコニウム水溶液を30分毎に反応槽に供給しながら煮沸温度で加水分解反応を200時間行った。反応槽から排出された水和ジルコニアゾルの反応率は99%であり、平均粒径は0.1μmであった。この水和ジルコニアゾルを限外濾過膜で水洗処理したあとに、塩化イットリウムをイットリア濃度が3モル%になるように添加して乾燥させ、990℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼粉を水洗処理したあとに、蒸留水を加えてジルコニア濃度45重量%のスラリーにした。このスラリーを直径2mmのジルコニアボールを用いて、振動ミルで24時間粉砕して乾燥させた。得られたジルコニア微粉末の特性を表1に示す。また、ジルコニア微粉末の粒径分布(頻度及び累積カーブ)を図1に示す。
【0044】
次いで、上記で得られたジルコニア微粉末をプレス成形し1350℃の条件で焼結させた。得られた焼結体の特性を表2に示す。劣化試験後の単斜晶相率が2%であることから、劣化しにくい焼結体であることが確認された。
【0045】
実施例3
仮焼粉を水洗処理したあとに、アルミナゾルをアルミナ含有量が0.25重量%になるように添加した以外は、実施例2と同様の条件でジルコニア微粉末を得た。ジルコニア微粉末の特性を表1に示す。
【0046】
次いで、上記で得られたジルコニア微粉末をプレス成形し1250℃の条件で焼結させた。得られた焼結体の特性を表2に示す。劣化試験後の単斜晶相率が0%であることから、極めて劣化しにくい信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0047】
実施例4
アルミナゾルの代りに、酸化ゲルマニウムを0.25重量%添加した以外は、実施例2と同様の条件でジルコニア微粉末を得た。ジルコニア微粉末の特性を表1に示す。
【0048】
次いで、上記で得られたジルコニア微粉末をプレス成形し1300℃の条件で焼結させた。得られた焼結体の特性を表2に示す。劣化試験後の単斜晶相率が1%であることから、劣化しにくい焼結体であることが確認された。
【0049】
実施例5
アルミナゾルの代りに、アルミナゾルをアルミナ含有量0.25重量%及び酸化ゲルマニウムを0.25重量%添加した以外は、実施例1と同様の条件でジルコニア微粉末を得た。ジルコニア微粉末の特性を表1に示す。
【0050】
次いで、上記で得られたジルコニア微粉末をプレス成形し1200℃の条件で焼結させた。得られた焼結体の特性を表2に示す。劣化試験後の単斜晶相率が0%であることから、極めて劣化しにくい信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0051】
実施例6
実施例3で得られたジルコニア微粉末を水に分散させてスラリー濃度50%のジルコニアスラリーを得、このスラリーに増粘剤を添加して粘度調整を行ったあとに噴霧造粒を実施した。得られたジルコニア顆粒の平均粒径が55μm、軽装嵩密度が1.29g/cmであった。
【0052】
次いで、上記で得られたジルコニア微粉末をプレス成形し1250℃の条件で焼結させた。得られた焼結体の特性を表2に示す。劣化試験後の単斜晶相率が0%であることから、極めて劣化しにくい信頼性の高い焼結体であることが確認された。
【0053】
比較例1
0.38モル/リットルのオキシ塩化ジルコニウム水溶液を調製して、還流器付きフラスコ中で加水分解反応を煮沸温度で190時間行った。得られた水和ジルコニアゾルの反応率は88%であり、平均粒径は0.1μmであった。この水和ジルコニアゾル含有液に塩化イットリウムをイットリア濃度が3モル%になるように添加して乾燥させ、1030℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼粉を水洗処理したあとに、蒸留水を加えてジルコニア濃度45重量%のスラリーにした。このスラリーを直径10mmのジルコニアボールを用いて、振動ミルで30時間粉砕して乾燥させた。得られたジルコニア微粉末の特性を表1に、粒径分布(頻度及び累積カーブ)を図2にそれぞれ示す。
【0054】
次いで、上記で得られたジルコニア微粉末をプレス成形し1350,1400℃の条件でそれぞれ焼結させたが、得られた焼結体の相対密度が96.7及び98.5%と低いため、更に高い温度である1450℃で焼結させて得られた焼結体の特性を評価した。結果を表2に示す。劣化試験後の単斜晶相率が86%であり、極めて劣化しやすい焼結体であることが確認された。
【0055】
比較例2
仮焼粉を水洗処理したあとに、アルミナ粉末をアルミナ含有量が0.25重量%になるように添加した以外は、比較例1と同様の条件でジルコニア微粉末を得た。ジルコニア微粉末の特性を表1に示す。
【0056】
次いで、上記で得られたジルコニア微粉末をプレス成形し1250,1300℃の条件でそれぞれ焼結させたが、得られた焼結体の相対密度が96.3及び97.8%と低いため、更に高い温度である1350℃で焼結させて得られた焼結体の特性を評価した。結果を表2に示す。劣化試験後の単斜晶相率が19%であり、劣化しやすい焼結体であることが確認された。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1で得られたジルコニア微粉末の粒径分布を示す。
【図2】比較例1で得られたジルコニア粉末の粒径分布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化剤としてイットリア,カルシア,マグネシア及びセリアの1種以上を含み、さらにジルコニウムイオンのイオン半径よりも小さいイオン半径を有する陽イオン及び/又は価数が4価以外の陽イオンの1種以上を含み、なおかつ140℃の熱水中に72時間浸漬させた後の単斜晶相率が1%以下であるジルコニア焼結体。
【請求項2】
陽イオンが、アルミニウム,珪素及びゲルマニウムの群から選ばれる一種以上の陽イオンである請求項1に記載のジルコニア焼結体。
【請求項3】
安定化剤がイットリア、陽イオンが少なくともゲルマニウムを含んでなる請求項1〜2のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
焼結密度が99%以上である請求項1〜3のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
安定化剤としてイットリア,カルシア,マグネシア及びセリアの1種以上を含み、さらにジルコニウムイオンのイオン半径よりも小さいイオン半径を有する陽イオン及び/又は価数が4価以外の陽イオンの1種以上を含むジルコニア粉末を成形し、焼結温度1300℃以下で焼結させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項6】
焼結温度が1200℃以下である請求項5に記載のジルコニア焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−332026(P2007−332026A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219579(P2007−219579)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【分割の表示】特願2005−60264(P2005−60264)の分割
【原出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】