説明

スイッチングレギュレータ

【課題】スイッチング素子の応答遅れをなくすことにより損失の悪化を防止することができる自然転流方式のスイッチングレギュレータを提供する。
【解決手段】電圧Vdsが0になったとき、電圧比較回路11の出力がハイレベルとなってフリップフロップ回路(F.F.)12がセットされ、LMOSがオンとなる。これによりコイルLに流れる電流ILが増加し始め、オフロジック回路17は出力電圧Voutに応じたLMOSのオフタイミング時にF.F.12をリセットし、LMOSをオフする。このとき、F.F.12の出力が反転回路14を介してF.F.13のセット端子に供給されているので、LMOSがオフになると同時に、F.F.13がセットされ、MOS駆動用ゲートドライバ回路16を介してHMOSがオンとなる。したがって、駆動回路に多少の応答遅れがあったとしても、電圧Vdsの上昇時にはHMOSがオンしており、損失が発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチングレギュレータ、特に、ソフトスイッチング方式のスイッチングレギュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電源電圧を昇圧して負荷に供給するため、スイッチングレギュレータが用いられているが、このスイッチングレギュレータの原理はコイルに大電流を流して逆起電力で一度に昇圧するものであり、高電圧、大電流を効率よく得ることができる。
例えば車載用ではバッテリからの電圧をスイッチングレギュレータで昇圧させ、これをエアバッグ等の負荷に駆動電圧として与えるものがある。
【0003】
しかしながら、従来のスイッチングレギュレータは、スイッチング素子のスイッチング動作が、スイッチング素子に電圧が印加され、電流が流れたままのハードスイッチングであるため、サージ電圧などのスイッチングによって発生するノイズに対する特別な対策が不可欠であるという問題があった。
また、スイッチング素子で発生するスイッチング損失の割合が高いため、ヒートシンクが小型化できず、結果として、スイッチングレギュレータを小型化することが難しいという問題もあった。
【0004】
このため、スイッチングレギュレータとして、最近、スイッチング素子のゼロ電圧、ゼロ電流でスイッチング動作を行う(ソフトスイッチング)、いわゆる、自然転流方式のスイッチングレギュレータが使用されている。自然転流方式とは、コイルにコンデンサを直列接続させておき、LC共振作用により増加された電流や電圧を0レベルまで自然に低下させ、ゼロ電圧/電流の時点でスイッチングさせることでスイッチング素子の損失を低減させるものである。
この自然転流方式のスイッチングレギュレータは、電流リップルが非常に大きくなるが、スイッチングにおける損失の発生を抑えた効率的な動作を実現できるとともに、回路構成が簡単であり、大出力系に適している、という特徴を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−282835号公報
【0005】
図3は自然転流方式のスイッチングレギュレータの構成を示す図であり、コイルL、コンデンサC、Co、LMOS(MOSFET)、HMOS(MOSFET)及びLMOS、HMOSのスイッチングを制御する制御回路2により構成されている。
制御回路2は、電圧比較回路21、22、フリップフロップ回路(F.F.)23、24、MOS駆動用ゲートドライバ回路25、26及びオフロジック回路(OFF LOGIC)27により構成され、この制御回路2にはコイルLとLMOSとの接続点の電圧Vds及び出力電圧Voutが制御信号として入力され、MOS駆動用ゲートドライバ回路25、26によりLMOS及びHMOSのオン、オフを制御する。
なお、コンデンサCoは出力電圧平滑用のコンデンサであり、コンデンサCはLMOSのオンからオフ時の電圧急変を防止するためのコンデンサである。このコンデンサCとコイルLとでLC共振作用を構成する。
【0006】
図4は図3のスイッチングレギュレータの動作波形を示す図であり、図4(c)に示すように、電圧Vdsが0になったとき(1)、電圧比較回路21の出力がハイレベルとなってフリップフロップ回路23がセットされるので、図4(b)に示すように、MOS駆動用ゲートドライバ回路25を介してLMOSがオンされる。
これにより、図4(d)に示すように、コイルLに電源Vinの電圧が加わってコイルLに流れる電流ILが増加し始める。
【0007】
一方、オフロジック回路27は出力電圧Voutに応じてLMOSのオフタイミングを決定する。すなわち、このLMOSのオンによって増加する電流ILが最大値になるまでオンさせ続けるが、このオン時間(オフタイミングまでの時間)を出力電圧Voutで決定する。このように決定したオフタイミング(2)毎に、フリップフロップ回路23のリセット端子に信号を供給することにより、フリップフロップ回路23をリセットし、LMOSをオフする。
すなわち、オフロジック回路27は出力電圧Voutが規定電圧、例えば、42Vよりも小さいときは、LMOSのオフタイミングが遅くなるように制御し、42Vよりも大きい場合には、LMOSのオフタイミングが早くなるように制御する。
【0008】
このLMOSのオフによりコイルLに逆起電力が発生し、図4(c)に示すように電圧Vdsが上昇し、電圧Vdsが出力電圧Voutと等しい電圧、例えば、42Vになると(3)、電圧比較回路22の出力がハイレベルとなってフリップフロップ回路24がセットされるので、図4(a)に示すように、MOS駆動用ゲートドライバ回路26を介してHMOSがオンされる。
これにより、図4(d)に示すように、コイルLに流れる電流ILが下降し始める。そして、オフロジック回路27は電流ILが0になるタイミングを演算により算出し、算出したタイミングになると(4)、オフロジック回路27はフリップフロップ回路24のリセット端子に信号を供給してフリップフロップ回路24をリセットするので、HMOSがオフし、図4(c)に示すように、電圧Vdsが下降し始める。
以上の動作を繰り返すことにより、出力電圧Voutとして昇圧された電圧を得ることができる。
【0009】
ここで、オフロジック回路27において電流ILが0になるタイミングを演算する演算式について説明する。電流ILを直接検出しない理由の1つとしては、電流検出回路を専用に設ける必要があるため、演算方式で行うようにしている。
このスイッチングレギュレータの定常状態においては、コイルLに流れる電流ILが0になってHMOSがオフした場合には、図4(d)に示すように、電流ILはコイルLとコンデンサCによる共振電流となるので、Iminは、
Imin=(42V−12V)/√(L/C)・・・(1式)
であり、電流ILがIminになってから0になるまでの時間t4は、
t4=L*(Imin*0.9165)/12V ・・・(2式)
となる。
【0010】
そして、LMOSのオン時間と上記の時間t4とから電流ILが電流0からImaxまで上昇する時間t0を演算により求めることができ、この時間t0を用いることにより、Imaxを、
Imax=12V*t0/L ・・・(3式)
により求めることができる。
さらに、電圧Vdsが0Vから42Vまで上昇する時間t1は、
t1=C*42V/Imax ・・・(4式)
により求めることができ、電流ILが0になるタイミングは、電流ILがImaxから0になるまでの時間t2として、
t2=L*Imax/(42V−12V) ・・・(5式)
により求めることができるので、オフロジック回路27は電圧比較器22の出力が立ち上がってから上記(5式)の時間t2が経過した時点でHMOSをオフする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の自然転流方式のスイッチングレギュレータは上記のように構成されているが、例えば、電源電圧Vinが12V、出力電圧Voutが42V、出力電力が180W、コイルLのインダクタンスが500nH、コンデンサCの容量が4060pFの場合、LMOSのオフからHMOSオンまでの時間t1が5ns程度しかないため、電圧Vdsが出力電圧Voutと等しい電圧になったことを検出してからHMOSをオンさせたのでは、回路の応答遅れなどにより損失の悪化を招くという問題が生じていた。
これは、スイッチングレギュレータが、LMOSで起電力を発生させ、それによる電圧増加をモニタリングしておいて、Vdsの電圧が最高電圧となり、HMOSの両端電位差がゼロになってHMOSの損失がない時にHMOSをオンさせていることに起因する。
【0012】
すなわち、MOS駆動用ゲートドライバ回路25、26は大電流駆動であり、通常、応答遅れが生じるが、このゲートドライバ回路の応答遅れによりHMOSのオンが遅れると、図3に示すように、HMOSに形成されている寄生のダイオードDに電流が流れて、例えば、0.7V(ダイオードの順方向降下電圧)*Imaxの電力損失がHMOSに発生する。
なお、寄生ダイオードDは実際はMOSFETの素子内部にあり、実際の部品としては存在しない要素であり、HMOSがオンした場合には、この寄生ダイオードDに電流が流れなくなるので、損失は発生しない。
このように、自然転流方式ではコンデンサCを備えているために、LMOSがオフとなってからVdsの電圧が最高電圧になるまでに時間がかかり、その分HMOSに電力損失が発生する。
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたもので、スイッチング素子の応答遅れをなくすことにより損失の悪化を防止することができる自然転流方式のスイッチングレギュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明に係るスイッチングレギュレータ(1)は、
コイルと、出力コンデンサと、上記コイルと上記出力コンデンサとの間に接続された第1のスイッチング手段と、上記コイルと上記第1のスイッチング手段との接続点と接地間に接続された第2のスイッチング手段と、上記第1のスイッチング手段及び第2のスイッチング手段を制御する制御手段とを備えたスイッチングレギュレータにおいて、
上記制御手段が、上記第2のスイッチング手段のオフと同時に上記第1のスイッチング手段をオンすることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るスイッチングレギュレータ(2)は、スイッチングレギュレータ(1)において、
上記制御手段が、上記コイルと上記第2のスイッチング手段との接続点の電圧が降下して0になったとき、上記第2のスイッチング手段をオンし、出力電圧に応じたタイミングで上記第2のスイッチング手段をオフすることを特徴とし、
本発明に係るスイッチングレギュレータ(3)は、スイッチングレギュレータ(1)において、
上記制御手段が、上記コイルに流れる電流が0になったとき、上記第1のスイッチング手段をオフすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るスイッチングレギュレータ(1)〜(3)によれば、コイルと第1のスイッチング手段との接続点と接地間に接続された第2のスイッチング手段のオフと同時に、コイルと出力コンデンサとの間に接続された第1のスイッチング手段がオンされ、スイッチング手段の駆動回路に多少の応答遅れがあったとしても、第1のスイッチング手段のオン時に応答遅れが生じないので、損失の悪化を防止することができる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明のスイッチングレギュレータの実施例について、図面を用いて説明する。図1は本発明のスイッチングレギュレータの実施例を示す図であり、図に示すように、このスイッチングレギュレータは、コイルL、コンデンサC、Co、スイッチング手段としてのLMOS、HMOS及びLMOS、HMOSのスイッチングを制御する制御回路1により構成されている。
【0018】
制御回路1は、電圧比較回路11、フリップフロップ回路(F.F.)12、13、反転回路14、MOS駆動用ゲートドライバ回路15、16、オフロジック回路(OFF LOGIC)17により構成され、この制御回路1にはコイルLとLMOSとの接続点の電圧Vds及び出力電圧Voutが制御信号として入力され、MOS駆動用ゲートドライバ回路15、16によりLMOS及びHMOSのオン、オフを制御する。
【0019】
図2は図1のスイッチングレギュレータの動作波形を示す図であり、図2(c)に示すように、時刻t1で電圧Vdsが0になったとき(1)、電圧比較回路11の出力がハイレベルとなってフリップフロップ回路12がセットされるので、図2(b)に示すように、MOS駆動用ゲートドライバ回路15を介してLMOSがオンとなる。
これにより、図2(d)に示すように、コイルLに電源Vinの電圧が加わってコイルLに流れる電流ILが増加し始める。
【0020】
一方、オフロジック回路17は出力電圧Voutに応じてLMOSのオフタイミングを決定し、決定したオフタイミング(2)毎に、フリップフロップ回路12のリセット端子に信号を供給することにより、フリップフロップ回路12をリセットし、図2(b)に示すように、時刻t2でLMOSをオフする。
すなわち、従来と同様に、オフロジック回路17は出力電圧Voutが規定電圧、例えば、42Vよりも小さいときは、LMOSのオフタイミングが遅くなるように制御し、42Vよりも大きい場合には、LMOSのオフタイミングが早くなるように制御する。
【0021】
このとき、フリップフロップ回路12の出力が反転回路14を介してフリップフロップ回路13のセット端子に供給されているので、LMOSがオフになると同時に、フリップフロップ回路13がセットされ、図2(a)に示すように、時刻t2でMOS駆動用ゲートドライバ回路16を介してHMOSがオンとなる。この時刻t2の時点でHMOSをオンしてもVdsはゼロであるため、HMOSには損失は発生しない。
これにより、コイルLからHMOSを介して電流経路が形成されるので、図2(d)に示すように、時刻t2の時点でコイルLに流れる電流ILが下降し始める。そして、オフロジック回路17は、従来と同様に、電流ILが0になるタイミングを演算により算出し、反転回路14の出力がハイレベルになってから上記算出したタイミングの時間が経過すると(3)、オフロジック回路17はフリップフロップ回路13のリセット端子に信号を供給してフリップフロップ回路13をリセットするので、HMOSがオフし、図2(c)に示すように、時刻t3で電圧Vdsが下降し始める。
以上の動作を繰り返すことにより、出力電圧Voutとして昇圧された電圧を得ることができる。
【0022】
以上のように、LMOSのオフと同時にHMOSがオンされるので、MOS駆動用ゲートドライバ回路16等の駆動回路に多少の応答遅れがあったとしても、電圧Vdsの上昇時にはHMOSがオンしており、HMOSの寄生ダイオードに電流が流れないので、損失の悪化を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のスイッチングレギュレータの実施例を示す回路図である。
【図2】図1のスイッチングレギュレータの動作波形を示す図である。
【図3】従来のスイッチングレギュレータの回路を示す図である。
【図4】従来のスイッチングレギュレータの動作波形を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
L コイル
C、Co コンデンサ
LMOS、HMOS MOSFET
1 制御回路
11 電圧比較回路
12、13 フリップフロップ回路
14 反転回路
15、16 MOS駆動用ゲートドライバ回路
17 オフロジック回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、出力コンデンサと、上記コイルと上記出力コンデンサとの間に接続された第1のスイッチング手段と、上記コイルと上記第1のスイッチング手段との接続点と接地間に接続された第2のスイッチング手段と、上記第1のスイッチング手段及び第2のスイッチング手段を制御する制御手段とを備えたスイッチングレギュレータにおいて、
上記制御手段が、上記第2のスイッチング手段のオフと同時に上記第1のスイッチング手段をオンすることを特徴とするスイッチングレギュレータ。
【請求項2】
請求項1に記載されたスイッチングレギュレータにおいて、
上記制御手段が、上記コイルと上記第2のスイッチング手段との接続点の電圧が降下して0になったとき、上記第2のスイッチング手段をオンし、出力電圧に応じたタイミングで上記第2のスイッチング手段をオフすることを特徴とするスイッチングレギュレータ。
【請求項3】
請求項1に記載されたスイッチングレギュレータにおいて、
上記制御手段が、上記コイルに流れる電流が0になったとき、上記第1のスイッチング手段をオフすることを特徴とするスイッチングレギュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−104850(P2007−104850A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294534(P2005−294534)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】