説明

スイッチング素子およびスライドトランス

【課題】サイズが小さくても大電流を流すことが可能なスイッチング素子を提供する。
【解決手段】粒子が分散された液体3中に一対の電極41、42を所定の対向間隔D1で対向させて配置する。一対の電極41、42間に高周波電圧を印加することにより、液体3中で粒子を誘電泳動させて、これらの電極41、42間を架橋して導通状態とする(図(b))。一対の電極41、42間への高周波電圧の印加を停止することにより、粒子の誘電泳動を停止して、これらの電極41、42間の架橋を崩壊させて導通状態を解除する(図(a))。これにより、電極41、42に対する高周波電圧の印加の有無によってスイッチのON/OFFを切り替えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドトランスなどの電気部品を構成するスイッチング素子と、このスイッチング素子を備えたスライドトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電圧が降下したときに電圧を上げるために、スライドトランス(例えば、株式会社東芝製のスライダック(登録商標)など)を使う場合がある。このスライドトランスにおいては、2次側の接点を機械的に摺動させることにより、変圧比を連続的に変えられるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−48850号公報(段落〔0012〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、こうしたスライドトランスにおいては、変圧時に接点を摺動させてスイッチングする構造となっているので、大電流を流すためには、接点その他の部品のサイズを大きくする必要があるという課題があった。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑み、サイズが小さくても大電流を流すことが可能なスイッチング素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る第1のスイッチング素子(1)は、粒子が分散された液体(3)中に一対の電極(41、42)を所定の対向間隔(D1)で対向させて配置し、前記一対の電極間に高周波電圧を印加することにより、前記液体中で前記粒子を誘電泳動させて、これらの電極間を架橋して導通状態とするとともに、前記一対の電極間への高周波電圧の印加を停止することにより、前記粒子の誘電泳動を停止して、これらの電極間の架橋を崩壊させて導通状態を解除するように構成されているスイッチング素子としたことを特徴とする。
【0006】
本発明に係る第2のスイッチング素子(1)は、粒子が分散された液体(3)中に、複数の第1電極(51)を所定の配置間隔(D2)で配置するとともに、これらの第1電極に所定の対向間隔(D1)で対向しうるように1つの第2電極(52)を移動自在に配置し、前記第2電極を任意の位置まで移動させることにより、前記複数の第1電極のうち当該第2電極と対向させた第1電極について、当該第1電極と前記第2電極との間に高周波電圧を印加することにより、前記液体中で前記粒子を誘電泳動させて、当該第1電極と前記第2電極との間を架橋して導通状態とするとともに、当該第1電極と前記第2電極との間への高周波電圧の印加を停止することにより、前記粒子の誘電泳動を停止して、当該第1電極と前記第2電極との間の架橋を崩壊させて導通状態を解除するように構成されているスイッチング素子としたことを特徴とする。
【0007】
本発明に係る第3のスイッチング素子(1)は、粒子が分散された液体(3)中に、複数の第1電極(51)を所定の配置間隔(D2)で配置するとともに、これらの第1電極に所定の対向間隔(D1)で対向させて複数の第2電極(52)を配置し、前記複数の第1電極および前記複数の第2電極のうち任意の対向している第1電極および第2電極について、当該第1電極と当該第2電極との間に高周波電圧を印加することにより、前記液体中で前記粒子を誘電泳動させて、当該第1電極と当該第2電極との間を架橋して導通状態とするとともに、当該第1電極と当該第2電極との間への高周波電圧の印加を停止することにより、前記粒子の誘電泳動を停止して、当該第1電極と当該第2電極との間の架橋を崩壊させて導通状態を解除するように構成されているスイッチング素子としたことを特徴とする。
【0008】
本発明に係るスライドトランスは、上記スイッチング素子(1)を備えているスライドトランスとしたことを特徴とする。
【0009】
なお、ここでは、本発明をわかりやすく説明するため、実施の形態を表す図面の符号に対応づけて説明したが、本発明が実施の形態に限定されるものでないことは言及するまでもない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電極に対する高周波電圧の印加の有無によってスイッチのON/OFFを切り替えられるため、サイズが小さくても大電流を流すことが可能なスイッチング素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0012】
図1は、本発明の実施の形態1に係る図である。
【0013】
まず、構成を説明する。
【0014】
この実施の形態1に係るスイッチング素子1は、図1(a)に示すように、六面体状の密閉容器2を有している。密閉容器2内には、絶縁性を有する所定の粘度の液体3が充填されており、液体3中には、多数の繊維状粒子であるカーボンナノチューブ(以下、「CNTs」と記載する。)9が分散されている。また、密閉容器2の下面2bおよび上面2aには、一対の電極41、42が、いずれも液体3に浸漬された形で所定の対向間隔D1(例えば、D1=100μm)で互いに対向して配置されている。これらの電極41、42には、それぞれリード線6が密閉容器2の外側に突出する形で接続されている。
【0015】
なお、絶縁性を有する液体3としては、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン、チオウレタン、アクリルアミド、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアセタール、ポリエステル、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、アルキド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ケイ素樹脂などの比較的低粘度のものが望ましい。また、これらの樹脂の組み合わせを液体3として用いることもできる。
【0016】
次に、作用について説明する。
【0017】
スイッチング素子1は以上のような構成を有するので、このスイッチング素子1をONにするときには、一対の電極41、42間にそれぞれのリード線6を介して高周波電圧を印加する。すると、密閉容器2内の多数のCNTs9が、液体3中を誘電泳動し、図1(b)に示すように、電極41、42間を架橋する。その結果、これらのCNTs9を介して電極41、42が互いに導通し、スイッチング素子1がONとなる。
【0018】
逆に、このスイッチング素子1をOFFにするときには、一対の電極41、42間への高周波電圧の印加を停止する。すると、CNTs9が、液体3中での誘電泳動を停止し、図1(a)に示すように、電極41、42間の架橋が崩壊する。その結果、それまで導通していた電極41、42が分断され、スイッチング素子1がOFFとなる。
【0019】
このように、このスイッチング素子1では、一対の電極41、42に対する高周波電圧の印加の有無により、スイッチのON/OFFを切り替えることができる。そのため、スイッチング素子1のサイズが小さくても電極41、42間に大電流(銅線の1,000倍までの電流)を流すことが可能となる。しかも、液体3は絶縁性を有しているため、電極41、42間に大電流を流したときの放電を抑制することができる。
【0020】
また、このスイッチング素子1では、接点を機械的に摺動させてスイッチングする従来品と異なり、スイッチングに伴う接点の融着や摩耗、劣化が起きないため、スイッチング素子1を半永久的に使用することができる。
[発明の実施の形態2]
【0021】
図2および図3は、本発明の実施の形態2に係る図である。
【0022】
まず、構成を説明する。
【0023】
この実施の形態2に係るスイッチング素子1は、図2に示すように、六面体状の密閉容器2を有しており、この密閉容器2は、長方形皿状のトレー7と、このトレー7の上側にその開口部を塞ぐように載置された平板状の蓋体8とから構成されている。密閉容器2内には、図3(a)に示すように、絶縁性を有する所定の粘度の液体3が充填されており、液体3中には、多数のCNTs9が分散されている。ここで、密閉容器2の下面2b(トレー7の底部7a)には、3つの第1電極51(51A、51B、51C)が、いずれも液体3に浸漬された形で所定の配置間隔D2(例えば、D2=1mm)で配置されて固定されている。また、密閉容器2の上面2a(蓋体8)には、1つの第2電極52が、液体3に浸漬された形で3つの第1電極51A、51B、51Cに所定の対向間隔D1(例えば、D1=50μm)で対向しうるように矢印A、B方向に移動自在に配置されている。なお、対向間隔D1は配置間隔D2より短くなるように設定されている。さらに、各第1電極51および第2電極52には、それぞれリード線6が密閉容器2の外側に突出する形で接続されている。
【0024】
なお、絶縁性を有する液体3としては、上述した実施の形態1と同様なものを用いることができる。
【0025】
次に、作用について説明する。
【0026】
スイッチング素子1は以上のような構成を有するので、3つの第1電極51のうち左側の第1電極51Aと第2電極52とを導通させてスイッチング素子1をONにするときには、図3(a)に示すように、第2電極52が第1対向位置(左側の第1電極51Aに対向する位置)に位置決めされた状態で、各第1電極51と第2電極52との間にそれぞれのリード線6を介して高周波電圧を印加する。すると、密閉容器2内の多数のCNTs9が、液体3中を誘電泳動し、図3(b)に示すように、第1電極51A、第2電極52間を架橋する。その結果、これらのCNTs9を介して第1電極51A、第2電極52が互いに導通し、スイッチング素子1がONとなる。
【0027】
また、3つの第1電極51のうち中央の第1電極51Bと第2電極52とを導通させてスイッチング素子1をONにするときには、各第1電極51と第2電極52との間に高周波電圧が印加された状態のまま、図3(c)に示すように、第2電極52を矢印B方向に移動させる。すると、左側の第1電極51Aと第2電極52との距離が長くなるため、これら第1電極51A、第2電極52間の架橋が崩壊する。その後、第2電極52が第2対向位置(中央の第1電極51Bに対向する位置)に達すると、密閉容器2内の多数のCNTs9が、液体3中を誘電泳動し、図3(d)に示すように、第1電極51B、第2電極52間を架橋する。その結果、これらのCNTs9を介して第1電極51B、第2電極52が互いに導通し、スイッチング素子1がONとなる。
【0028】
さらに、3つの第1電極51のうち右側の第1電極51Cと第2電極52とを導通させてスイッチング素子1をONにするときには、各第1電極51と第2電極52との間に高周波電圧が印加された状態のまま、第2電極52をさらに矢印B方向に移動させる。すると、中央の第1電極51Bと第2電極52との距離が長くなるため、これら第1電極51B、第2電極52間の架橋が崩壊する。その後、第2電極52が第3対向位置(右側の第1電極51Cに対向する位置)に達すると、密閉容器2内の多数のCNTs9が、液体3中を誘電泳動し、図3(e)に示すように、第1電極51C、第2電極52間を架橋する。その結果、これらのCNTs9を介して第1電極51C、第2電極52が互いに導通し、スイッチング素子1がONとなる。
【0029】
逆に、このスイッチング素子1をOFFにするときには、第2電極52が第1対向位置、第2対向位置、第3対向位置のいずれに位置決めされているかを問わず、各第1電極51と第2電極52との間への高周波電圧の印加を停止する。すると、CNTs9が、液体3中での誘電泳動を停止し、第1電極51、第2電極52間の架橋が崩壊する。その結果、それまで導通していた第1電極51、第2電極52が分断され、スイッチング素子1がOFFとなる。
【0030】
このように、このスイッチング素子1では、第1電極51、第2電極52に対する高周波電圧の印加の有無により、スイッチのON/OFFを切り替えることができる。そのため、スイッチング素子1のサイズが小さくても第1電極51、第2電極52間に大電流(銅線の1,000倍までの電流)を流すことが可能となる。しかも、液体3は絶縁性を有しているため、第1電極51、第2電極52間に大電流を流したときの放電を抑制することができる。
【0031】
さらに、このスイッチング素子1では、対向間隔D1が配置間隔D2より短いので、第1電極51と第2電極52との誤導通を回避することができる。すなわち、一般に、第1電極51と第2電極52との間に高周波電圧を印加したときの電界(電場)の強さは、第1電極51と第2電極52との距離が短いほど大きくなるので、第2電極52は、3つの第1電極51のうち最も近い第1電極51との間でCNTs9が架橋する。ところが、仮に対向間隔D1が配置間隔D2と同程度または配置間隔D2より長いと、第2電極52は、第1電極51と第2電極52との距離以外の要因(例えば、液体3の粘度の偏差など)により、3つの第1電極51のうち2番目に遠い第1電極51との間でCNTs9が架橋して誤導通を惹起する場合が考えられる。これに対して、対向間隔D1が配置間隔D2より短いと、第1電極51と第2電極52との距離が他の要因を凌駕して支配的となるため、所望の第1電極51と第2電極52とを正しく導通させ、誤導通を回避することが可能となる。
【0032】
また、このスイッチング素子1では、接点を機械的に摺動させてスイッチングする従来品と異なり、スイッチングに伴う接点の融着や摩耗、劣化が起きないため、スイッチング素子1を半永久的に使用することができる。
[発明の実施の形態3]
【0033】
図4および図5は、本発明の実施の形態3に係る図である。
【0034】
まず、構成を説明する。
【0035】
この実施の形態3に係るスイッチング素子1は、図4に示すように、ドーナツ状の密閉容器2を有している。密閉容器2内には、図5に示すように、絶縁性を有する所定の粘度の液体3が充填されており、液体3中には、多数のCNTs9が分散されている。ここで、密閉容器2の外周面の内側には、4つの第1電極51(51A、51B、51C、51D)が、いずれも液体3に浸漬された形で互いに等角度間隔(つまり、90°間隔)で配置されている。また、密閉容器2の中心部には、図4に示すように、円柱状の軸部材10が、その軸心CT1を中心として矢印M方向に回転自在に嵌着されており、軸部材10の周面には、1つの第2電極52が液体3に浸漬された形で配置されている。
【0036】
なお、絶縁性を有する液体3としては、上述した実施の形態1と同様なものを用いることができる。
【0037】
次に、作用について説明する。
【0038】
スイッチング素子1は以上のような構成を有するので、軸部材10を軸心CT1を中心として矢印M方向に適宜回転させることにより、第2電極52を任意の第1電極51と導通させてスイッチング素子1をONにすることができる。
【0039】
例えば、4つの第1電極51のうち図4左側の第1電極51Aと第2電極52とを導通させてスイッチング素子1をONにするときには、図5(a)に示すように、軸部材10を軸心CT1を中心として矢印M方向に回転させて、第2電極52を第1電極51Aに対向する位置に位置決めする。この状態で、第1電極51Aと第2電極52との間に高周波電圧を印加する。すると、密閉容器2内の多数のCNTs9が、液体3中を誘電泳動し、第1電極51A、第2電極52間を架橋する。その結果、これらのCNTs9を介して第1電極51A、第2電極52が互いに導通し、スイッチング素子1がONとなる。
【0040】
また、4つの第1電極51のうち図4右側の第1電極51Cと第2電極52とを導通させてスイッチング素子1をONにするときには、図4左側の第1電極51Aと第2電極52との間への高周波電圧の印加を停止する。すると、CNTs9が、液体3中での誘電泳動を停止し、第1電極51A、第2電極52間の架橋が崩壊する。その後、図5(b)に示すように、軸部材10を軸心CT1を中心として矢印M方向に180°回転させて、第2電極52を第1電極51Cに対向する位置に位置決めする。この状態で、第1電極51Cと第2電極52との間に高周波電圧を印加する。すると、密閉容器2内の多数のCNTs9が、液体3中を誘電泳動し、第1電極51C、第2電極52間を架橋する。その結果、これらのCNTs9を介して第1電極51C、第2電極52が互いに導通し、スイッチング素子1がONとなる。
【0041】
逆に、このスイッチング素子1をOFFにするときには、第1電極51と第2電極52との間への高周波電圧の印加を停止する。すると、CNTs9が、液体3中での誘電泳動を停止し、第1電極51、第2電極52間の架橋が崩壊する。その結果、それまで導通していた第1電極51、第2電極52が分断され、スイッチング素子1がOFFとなる。
【0042】
このように、このスイッチング素子1では、第1電極51、第2電極52に対する高周波電圧の印加の有無により、スイッチのON/OFFを切り替えることができる。そのため、スイッチング素子1のサイズが小さくても第1電極51、第2電極52間に大電流(銅線の1,000倍までの電流)を流すことが可能となる。しかも、液体3は絶縁性を有しているため、第1電極51、第2電極52間に大電流を流したときの放電を抑制することができる。
【0043】
さらに、このスイッチング素子1では、ドーナツ状の密閉容器2に対して円柱状の軸部材10を回転させることにより、第2電極52と導通させる第1電極51を切り替える構造を有しているので、導通切替に際して密閉容器2の密閉状態を容易に維持することができる。そのため、スイッチング素子1としての実用性を高めることが可能となる。
【0044】
また、このスイッチング素子1では、接点を機械的に摺動させてスイッチングする従来品と異なり、スイッチングに伴う接点の融着や摩耗、劣化が起きないため、スイッチング素子1を半永久的に使用することができる。
[発明の実施の形態4]
【0045】
図6は、本発明の実施の形態4に係る図である。
【0046】
まず、構成を説明する。
【0047】
この実施の形態4に係るスイッチング素子1は、図6(a)に示すように、六面体状の密閉容器2を有している。密閉容器2内には、絶縁性を有する所定の粘度の液体3が充填されており、液体3中には、多数のCNTs9が分散されている。ここで、密閉容器2の下面2bには、3つの第1電極51(51A、51B、51C)が、いずれも液体3に浸漬された形で所定の配置間隔D2(例えば、D2=2mm)で配置されて固定されている。また、密閉容器2の上面2aには、3つの第2電極52(52A、52B、52C)が、いずれも液体3に浸漬された形で3つの第1電極51A、51B、51Cに所定の対向間隔D1(例えば、D1=100μm)で対向して配置されている。なお、対向間隔D1は配置間隔D2より短くなるように設定されている。さらに、各第1電極51および各第2電極52には、それぞれリード線6が密閉容器2の外側に突出する形で接続されている。
【0048】
なお、絶縁性を有する液体3としては、上述した実施の形態1と同様なものを用いることができる。
【0049】
次に、作用について説明する。
【0050】
スイッチング素子1は以上のような構成を有するので、左側の第1電極51Aと左側の第2電極52Aとを導通させてスイッチング素子1をONにするときには、第1電極51Aと第2電極52Aとの間にそれぞれのリード線6を介して高周波電圧を印加する。すると、密閉容器2内の多数のCNTs9が、液体3中を誘電泳動し、図6(b)に示すように、第1電極51A、第2電極52A間を架橋する。その結果、これらのCNTs9を介して第1電極51A、第2電極52Aが互いに導通し、スイッチング素子1がONとなる。
【0051】
また、中央の第1電極51Bと中央の第2電極52Bとを導通させてスイッチング素子1をONにするときには、まず、第1電極51Aと第2電極52Aとの間への高周波電圧の印加を停止する。すると、CNTs9が、液体3中での誘電泳動を停止し、図6(a)に示すように、第1電極51A、第2電極52A間の架橋が崩壊する。その後、第1電極51Bと第2電極52Bとの間にそれぞれのリード線6を介して高周波電圧を印加する。すると、密閉容器2内の多数のCNTs9が、液体3中を誘電泳動し、図6(c)に示すように、第1電極51B、第2電極52B間を架橋する。その結果、これらのCNTs9を介して第1電極51B、第2電極52Bが互いに導通し、スイッチング素子1がONとなる。
【0052】
さらに、右側の第1電極51Cと右側の第2電極52Cとを導通させてスイッチング素子1をONにするときには、まず、第1電極51Bと第2電極52Bとの間への高周波電圧の印加を停止する。すると、CNTs9が、液体3中での誘電泳動を停止し、図6(a)に示すように、第1電極51A、第2電極52A間の架橋が崩壊する。その後、第1電極51Cと第2電極52Cとの間にそれぞれのリード線6を介して高周波電圧を印加する。すると、密閉容器2内の多数のCNTs9が、液体3中を誘電泳動し、図6(d)に示すように、第1電極51C、第2電極52C間を架橋する。その結果、これらのCNTs9を介して第1電極51C、第2電極52Cが互いに導通し、スイッチング素子1がONとなる。
【0053】
逆に、このスイッチング素子1をOFFにするときには、各第1電極51と各第2電極52との間への高周波電圧の印加を停止する。すると、CNTs9が、液体3中での誘電泳動を停止し、第1電極51、第2電極52間の架橋が崩壊する。その結果、それまで導通していた第1電極51、第2電極52が分断され、スイッチング素子1がOFFとなる。
【0054】
このように、このスイッチング素子1では、第1電極51、第2電極52に対する高周波電圧の印加の有無により、スイッチのON/OFFを切り替えることができる。そのため、スイッチング素子1のサイズが小さくても第1電極51、第2電極52間に大電流(銅線の1,000倍までの電流)を流すことが可能となる。しかも、液体3は絶縁性を有しているため、第1電極51、第2電極52間に大電流を流したときの放電を抑制することができる。
【0055】
さらに、このスイッチング素子1では、上述した実施の形態2と同様、対向間隔D1が配置間隔D2より短いので、第1電極51と第2電極52との誤導通を回避することができる。
【0056】
また、このスイッチング素子1では、接点を機械的に摺動させてスイッチングする従来品と異なり、スイッチングに伴う接点の融着や摩耗、劣化が起きないため、スイッチング素子1を半永久的に使用することができる。
[発明のその他の実施の形態]
【0057】
なお、上述した実施の形態1〜4では、液体3中にCNTs9が分散されたスイッチング素子1について説明したが、CNTs9に化学修飾などの表面処理を施すことにより、或いは、液体3に界面活性剤(表面活性剤)を溶かして液体3の表面張力を減少させることにより、CNTs9の分散性を高めるようにしても構わない。
【0058】
また、上述した実施の形態1〜4では、液体3中にCNTs9が分散されたスイッチング素子1について説明したが、この液体3の粘度を設定してCNTs9の泳動しやすさを適宜調整することにより、或いは、CNTs9の長さを適宜調整することにより、スイッチング素子1の応答速度を用途に応じて最適化することもできる。これにより、スイッチング素子1の汎用性を高めることが可能となる。
【0059】
さらに、上述した実施の形態1〜4では、液体3中にCNTs9を分散する場合について説明した。しかし、CNTs9以外の繊維状粒子(例えば、繊維状の金属フィラー、炭素繊維、またはこれらに導電性物質をコートした繊維状粒子など)を代用または併用することもできる。ここで、繊維状粒子とは、短軸に対する長軸の比(アスペクト比)が10以上のものを意味する。さらに広げて、繊維状粒子以外の粒子(例えば、球状粒子、導電性カーボンブラック、球状の金属フィラー、またはこれらに導電性物質をコートした粒子など)を代用または併用することもできる。
【0060】
また、上述した実施の形態2、3では、それぞれ3つ、4つの第1電極51を備えたスイッチング素子1について説明したが、第1電極51の個数は、複数(2つ以上)であれば何個でも構わない。
【0061】
また、上述した実施の形態4では、3つの第1電極51および3つの第2電極52を備えたスイッチング素子1について説明したが、第1電極51、第2電極52の個数は、複数(2つ以上)であれば何個でも構わない。
【実施例1】
【0062】
以下、本発明の実施例1について説明する。
【0063】
単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNTs」と記載する。)25mg及び3Mの硝酸を混合して、これを20分間超音波攪拌した。次に、得られた混合物を多量の純水で希釈した後、110℃に加熱して水分を蒸発させ、乾燥させた。この処理により、表面がカルボキシル基によって化学修飾されたSWCNTsを得た。
【0064】
上記化学修飾処理後のSWCNTsを、0.1質量%の濃度となるようにアクリル樹脂中に混ぜて、一時間超音波攪拌した。次いで、10,000rpmで30分間の遠心分離を行い、樹脂中にSWCNTsが分散された原料混合物を得た。
【0065】
この原料混合物を、図2に示すようなスイッチング素子1の密閉容器2に充填した。対向間隔D1は50μmであり、配置間隔D2は1mmであった。
【0066】
そして、第1電極51、第2電極52間に100kHz、20Vppの高周波交流を30分間かけた。すると、対向する第1電極51A、第2電極52間にSWCNTsが架橋した。
【0067】
次に、第2電極52を矢印B方向に移動させて、第2対向位置(中央の第1電極51Bに対向する位置)に位置決めした。すると、先ほど架橋したSWCNTsは崩れてしまい、新たに、対向する第1電極51B、第2電極52間にSWCNTsが架橋した。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態1に係るスイッチング素子の模式図であって、(a)はOFF状態を示す図、(b)はON状態を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係るスイッチング素子の斜視図である。
【図3】同実施の形態2に係るスイッチング素子の模式図であって、(a)はOFF状態を示す図、(b)は左側の第1電極と第2電極とが導通した状態図、(c)は第2電極が第1対向位置から第2対向位置へ移動している途中の状態図、(d)は中央の第1電極と第2電極とが導通した状態図、(e)は右側の第1電極と第2電極とが導通した状態図である。
【図4】本発明の実施の形態3に係るスイッチング素子の斜視図である。
【図5】同実施の形態3に係るスイッチング素子の模式図であって、(a)は左側の第1電極と第2電極とが導通した状態図、(b)は右側の第1電極と第2電極とが導通した状態図である。
【図6】本発明の実施の形態4に係るスイッチング素子の模式図であって、(a)はOFF状態を示す図、(b)は左側の第1電極と左側の第2電極とが導通した状態図、(c)は中央の第1電極と中央の第2電極とが導通した状態図、(d)は右側の第1電極と右側の第2電極とが導通した状態図である。
【符号の説明】
【0069】
1……スイッチング素子
2……密閉容器
2a……上面
2b……下面
3……液体
6……リード線
7……トレー
7a……底部
8……蓋体
9……カーボンナノチューブ(繊維状粒子、粒子)
10……軸部材
41、42……電極
51……第1電極
52……第2電極
D1……対向間隔
D2……配置間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子が分散された液体中に一対の電極を所定の対向間隔で対向させて配置し、
前記一対の電極間に高周波電圧を印加することにより、前記液体中で前記粒子を誘電泳動させて、これらの電極間を架橋して導通状態とするとともに、前記一対の電極間への高周波電圧の印加を停止することにより、前記粒子の誘電泳動を停止して、これらの電極間の架橋を崩壊させて導通状態を解除するように構成されていることを特徴とするスイッチング素子。
【請求項2】
粒子が分散された液体中に、複数の第1電極を所定の配置間隔で配置するとともに、これらの第1電極に所定の対向間隔で対向しうるように1つの第2電極を移動自在に配置し、
前記第2電極を任意の位置まで移動させることにより、前記複数の第1電極のうち当該第2電極と対向させた第1電極について、当該第1電極と前記第2電極との間に高周波電圧を印加することにより、前記液体中で前記粒子を誘電泳動させて、当該第1電極と前記第2電極との間を架橋して導通状態とするとともに、当該第1電極と前記第2電極との間への高周波電圧の印加を停止することにより、前記粒子の誘電泳動を停止して、当該第1電極と前記第2電極との間の架橋を崩壊させて導通状態を解除するように構成されていることを特徴とするスイッチング素子。
【請求項3】
粒子が分散された液体中に、複数の第1電極を所定の配置間隔で配置するとともに、これらの第1電極に所定の対向間隔で対向させて複数の第2電極を配置し、
前記複数の第1電極および前記複数の第2電極のうち任意の対向している第1電極および第2電極について、当該第1電極と当該第2電極との間に高周波電圧を印加することにより、前記液体中で前記粒子を誘電泳動させて、当該第1電極と当該第2電極との間を架橋して導通状態とするとともに、当該第1電極と当該第2電極との間への高周波電圧の印加を停止することにより、前記粒子の誘電泳動を停止して、当該第1電極と当該第2電極との間の架橋を崩壊させて導通状態を解除するように構成されていることを特徴とするスイッチング素子。
【請求項4】
前記対向間隔は、前記配置間隔より短いことを特徴とする請求項2または3に記載のスイッチング素子。
【請求項5】
前記粒子は、繊維状粒子を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のスイッチング素子。
【請求項6】
前記繊維状粒子は、カーボンナノチューブを含むことを特徴とする請求項5に記載のスイッチング素子。
【請求項7】
前記液体は、絶縁性を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のスイッチング素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のスイッチング素子を備えていることを特徴とするスライドトランス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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