説明

スイッチング電源回路

【課題】一部の変更によりスプリアスを抑制したスイッチング電源回路を提供する。
【解決手段】電源としてのバッテリーが接続され、該バッテリーの出力をスイッチングし平滑回路にて平滑化して出力するスイッチング電源回路において、平滑回路の一部を構成するコイルをコイルL3とコイルL4とに2分割し、2分割されたコイルが互いに磁束を打ち消し合うようにコイルL3の巻き終わりとコイルL4の巻き終わりを電気的に接続して直列接続すると共に、コイルL3とコイルL4を互いに隣接して配置し、かつコイルL3とコイルL4それぞれのコイルの巻き回軸をプリント基板のグランドパターン面に対して垂直に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はVCOやPLL回路を備えた電子機器に使用してスプリアスの発生を抑制したスイッチング電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
チューナなどの妨害を受け易い主たる第1の負荷回路に電力を供給する主電源回路と第1の負荷回路を制御するために用いるコンピュータなどの妨害を受けにくい第2の負荷回路に電力を供給するスイッチング電源回路とを備えて、第1の負荷回路の動作中はスイッチング電源回路を動作停止中に制御すると共に、主電源回路を動作状態に制御して第2の負荷回路に主電源回路から電力を供給し、第1の負荷回路が動作停止中では主電源回路を動作停止状態に制御すると共に、スイッチング電源回路を動作状態にして第2の負荷回路にスイッチング電源回路から電力を供給するように制御することによって、第1の負荷回路の動作中にはスイッチング電源回路を動作させず,スイッチング電源回路からのノイズ発生を阻止した電源制御回路が知られている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−287385号公報
【0003】
しかし、上記の電源回路によるときは主電源回路とスイッチング電源回路の2種類の電源を必要とし、この2種類の電源回路のために装置が大型化するという問題がある他、電源回路の使用効率が悪いという問題点もあって、無線通信機などへの使用には不向きであった。
【0004】
一方、例えば、局部発振器として作用するPLL回路を使用した周波数シンセサイザと、受信信号を復調すると共にマイク出力信号に基づき変調信号を生成するデジタルシグナルプロセッサ(DSP)とを備えた無線通信機が知られている。かかる無線通信機の電源電圧は、例えば送信出力を5W出力する必要から7.5Vとしているが、DSPは低電圧の3.6Vで動作するので、電流削減のために、DSPの電源として出力電圧が3.6VのDC/DC変換をして出力を得るスイッチング電源回路を用いることが行われる。
【0005】
また一方、DC/DC変換をして出力を得るスイッチング電源回路PWは、例えば図5に示す如く、バッテリー端子からの入力ラインにコイルL1とコンデンサC1およびC2からなるフィルタF1を接続し、フィルタF1からの出力をDC/DC制御集積回路IC1によってオンオフ制御されるスイッチングトランジスタQ1にてスイッチングし、スイッチング出力をダイオードD1とコイルL2とコンデンサC3からなる平滑回路S1にて平滑化して出力するように構成されている。また、図5に示すスイッチング電源回路PWでは、フィルタF1を設けてスイッチングノイズが入力ラインに影響しないように構成している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、VCOやPLL回路を使用したPLL周波数シンセサイザを備えた電子機器、例えば、無線通信機の場合の例では図6(a)に示す如く、無線通信機を構成する受信ブロック1、送信ブロック2、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)3、VCTCXO(温度補償水晶発振器)とPLL回路4と逓倍器とループフィルタ6とVCO7とからなるPLL周波数シンセサイザ8を備えており、スイッチング電源回路PWは、平面的に図6(a)に示す如くに配置される。図6(a)において網点部はグランドを示し、符号9はアンテナを示している。
【0007】
さらに、スイッチング電源回路PW内の平面的配置は図6(b)に示す如くであって、受信ブロック1とPLL周波数シンセサイザ8との間を通した配線によってコンデンサC1およびコイルL1がバッテリー+端子と電気的に接続されている。
【0008】
スイッチング電源回路PWのスイッチング周波数などの高い周波数の場合は、スイッチング電源回路PWに磁気シールドを施すことによってノイズ対策が可能となるが、負荷変動の周期が数10kHz以下の場合、負荷変動によるスプリアスを抑えるためにシールドの厚さを増したり、シールドの材質を低周波でのシールド効果の高いものに変更したりしても、磁気シールドでスイッチングノイズ対策するのは難しいという問題点がある。
【0009】
さらに説明すると、スイッチング電源回路PWにおける平滑回路S1を構成するコイルL2はスイッチング電源回路PW上必要不可欠のコイルであり、しかも大きなインダクタンス値(例えば68μH)を必要とする。必然的にスイッチング電源回路PWにおけるスイッチングにより、コイルL2による発生磁束も多くなり、負荷電流の変動によるコイルL2の発生磁束の変動も大きくなる。図7にコイルL2とプリント基板(グランドパターンを挟む多層プリント基板)P1の模式図を示す。図7の例ではコイルL2は、その巻き回軸がプリント基板P1のグランドパターン面に直交して設けられている。したがって、コイルL2により発生した磁束が高周波電流の流れているグランドパターンを突き抜けることによって渦電流を発生する所謂電磁結合を起こす。この渦電流の影響により、図8に示すように、図6(a)における無線通信機のVCOの高周波信号にスプリアスが発生する。
【0010】
その一例を示せば、スイッチング電源回路PWの負荷であるDSP3における信号処理が集中しているときと、さほど集中していないときとが2.4kHz周期で繰り返される場合、スイッチング電源回路PWの負荷変化は2,4kHzの周期で繰り返される。この状態を負荷変動2.4kHzの場合とも記す。このときにおいてVCOの出力に、図8に示す如く、VCOの出力のセンター周波数から2.4kHz離れた周波数の位置にレベル−50,13dBのAを付して示したように、スプリアスが生ずるという問題点がある。
【0011】
これらの問題点を解消するために、VCO、PLL回路の近くにスイッチング電源回路PWを配置しないように平面的配置を変更すると、各ブロックを配置するうえで制限が生じたり、スペースを確保するために変更しなくても良い場所を変更したりする必要が生ずるという問題点がある。
【0012】
本発明は、全体の平面的配置を実質的に変更せず、一部の変更によってスプリアスを抑制したスイッチング電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の請求項1にかかるスイッチング電源回路は、電源としてのバッテリーが接続され、該バッテリーの出力をスイッチングし平滑回路にて平滑化して出力するスイッチング電源回路において、前記平滑回路の一部を構成するコイルを2分割し、2分割されたコイルが互いに磁束を打ち消し合うように一方のコイルの巻き始めと他方のコイルの巻き始め、または一方のコイルの巻き終わりと他方のコイルの巻き終わりを電気的に接続して直列接続すると共に、2分割されたコイルを互いに隣接して配置し、かつ2分割されたそれぞれのコイルの巻き回軸をプリント基板のグランドパターン面に対して垂直に配置したことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項2にかかるスイッチング電源回路は、電源としてのバッテリーが接続されて該バッテリーの出力をスイッチングし平滑回路にて平滑化して出力するスイッチング電源回路において、前記平滑回路の一部を構成するコイルの巻き回軸がプリント基板のグランドパターン面に対して平行になるように前記コイルを配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1にかかるスイッチング電源回路によれば、電源としてのバッテリーが接続され、該バッテリーの出力をスイッチングし平滑回路にて平滑化して出力するスイッチング電源回路において、前記平滑回路の一部を構成するコイルが2分割され、2分割されたコイルが互いに磁束を打ち消し合うように一方のコイルの巻き始めと他方のコイルの巻き始め、または一方のコイルの巻き終わりと他方のコイルの巻き終わりが電気的に接続されて直列接続されると共に、2分割されたコイルが互いに隣接され、かつ2分割されたそれぞれのコイルの巻き回軸がプリント基板のパターン面に対して垂直に配置されるために、コイルによる磁束発生を抑制することができ、さらに負荷変動に対してもグランドパターンを突き抜ける磁束を抑えることができて、高周波信号への影響がなくなって、高周波信号のスプリアスはなくなり、電磁シールドも不要とすることができる。また、スイッチング電源回路をVCOのそばに配置することも可能になり、電子機器の小型化に寄与する。
【0016】
本発明の請求項2にかかるスイッチング電源回路によれば、電源としてのバッテリーが接続されて該バッテリーの出力をスイッチングし平滑回路にて平滑化して出力するスイッチング電源回路において、前記平滑回路の一部を構成するコイルの巻き回軸がプリント基板のグランドパターン面に対して平行に配置されるために、負荷変動に対してもグランドパターンを突き抜ける磁束の発生を抑えることができて、高周波信号への影響がなくなって、高周波信号のスプリアスはなくなり、電磁シールドも不要とすることができる。また、スイッチング電源回路をVCOのそばに配置することも可能になり、電子機器の小型化に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明にかかるスイッチング電源回路を実施の一形態によって説明する。
【0018】
図1は本発明の実施の一形態にかかるスイッチング電源回路PWaの平面的配置を示す模式図である。
【0019】
本発明の実施の一形態にかかるスイッチング電源回路PWaは、図1に示すように、スイッチング電源回路PWにおける平滑回路S1を構成するコイルL2を2分割してコイルL3とコイルL4とし、コイルL3とコイルL4を直列接続する。コイルL2は68μHであれば、34μH2個にして電気的に直列接続する。この際、図1および図2に示すように、互いに磁束を打ち消し合うように、コイルl3の巻き始めとコイルl4の巻き始め、またはコイルl3の巻き終わりとコイルl4の巻き終わりを電気的に接続して直列接続すると共に、コイルl3とコイルl4を互いに隣接して配置し、コイルl3およびコイルl4の巻き回軸をプリント基板P1のグランドパターン面に対して垂直に配置する。その他は、図6(b)に示スイッチング電源回路PWと同一配置および構成である。
【0020】
上記のように構成したため、スイッチング電源回路PWaによれば、コイルl3およびコイルl4にて発生する磁束の発生が抑えられ、図2に示すようにグランドパターンを突き抜ける磁束の発生を抑えることができて、磁束による高周波信号への影響がなくなる。
【0021】
具体的に、スイッチング電源回路PWaを図6(a)に示す無線通信機に用いた場合で例示すれば、図8に対応して、スイッチング電源回路PWaを設けた場合の無線通信機のVCOの出力波形は図3の如くになる。すなわち、図3に示す如くVCOのセンター周波数から2.4kHz離れた周波数位置にレベル−74.34dBのBを付して示したスプリアスが生ずる。図3と図8とを比較すれば明らかなように約23dBのスプリアスの改善がみられる。この場合の負荷変動は2.4kHzであって、図8の場合と同じである。
【0022】
このように、スイッチング電源回路PWaをVCOやPLL回路の近くに設けても、スプリアスを抑制することができる。特にスプリアス除去が難しかった低周波の負荷変動に対して有効である。さらに、スイッチング電源回路PWaでは、平滑回路S1の一部を構成するコイルL2を2分割して隣接して設けのみであり、磁気シールドも簡略化することができて、軽量化および省スペース化が図れる。
【0023】
スイッチング電源回路PWaの変形例について説明する。スイッチング電源回路PWaでは、スイッチング電源回路PWにおける平滑回路S1の一部を構成するコイルL2を、2分割して構成した場合を例示したが、図4に示すようにコイルL2をその巻き回軸がプリント基板P1のグランドパターン面に対して平行になるように配置してもよい。
【0024】
この場合、コイルL2を、コイルL2の巻き回軸がプリント基板P1のグランドパターン面に平行になるように設けたため、プリント基板P1のグランド面を突き抜ける磁束を減らすことが可能となる。したがってこの場合も、コイルL2により発生する磁束による高周波信号への影響がなくせて、スプリアスの改善がみられ、磁気シールドも簡略化することができて、軽量化および省スペース化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の一形態にかかるスイッチング電源回路の平面的配置を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の一形態にかかるスイッチング電源回路における平滑回路のコイルの配置説明図である。
【図3】本発明の実施の一形態にかかるスイッチング電源回路を無線通信機に実装した場合のVCOの出力波形図である。
【図4】本発明の実施の一形態にかかるスイッチング電源回路における平滑回路のコイルの他の配置説明図である。
【図5】スイッチング電源回路の回路図である。
【図6】従来のスイッチング電源回路を無線通信機に実装した場合の平面的配置を示す模式図である。
【図7】従来のスイッチング電源回路における平滑回路のコイルの配置説明図である。
【図8】従来のスイッチング電源回路を無線通信機に実装した場合におけるVCOの出力波形図である。
【符号の説明】
【0026】
1 受信ブロック
2 送信ブロック
3 デジタルシグナルプロセッサ
8 PLL周波数シンセサイザ
C1、C2およびC3 コンデンサ
L1、L2、L3およびL4 コイル
Q1 スイッチングトランジスタ
IC1 DC/DC制御集積回路
D1 ダイオード
F1 フィルタ
S1 平滑回路
PWおよびPWa スイッチング電源回路




【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源としてのバッテリーが接続され、該バッテリーの出力をスイッチングし平滑回路にて平滑化して出力するスイッチング電源回路において、前記平滑回路の一部を構成するコイルを2分割し、2分割されたコイルが互いに磁束を打ち消し合うように一方のコイルの巻き始めと他方のコイルの巻き始め、または一方のコイルの巻き終わりと他方のコイルの巻き終わりを電気的に接続して直列接続すると共に、2分割されたコイルを互いに隣接して配置し、かつ2分割されたそれぞれのコイルの巻き回軸をプリント基板のグランドパターン面に対して垂直に配置したことを特徴とするスイッチング電源回路。
【請求項2】
電源としてのバッテリーが接続されて該バッテリーの出力をスイッチングし平滑回路にて平滑化して出力するスイッチング電源回路において、前記平滑回路の一部を構成するコイルの巻き回軸がプリント基板のグランドパターン面に対して平行になるように前記コイルを配置したことを特徴とする特徴とするスイッチング電源回路。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−82310(P2007−82310A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265817(P2005−265817)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】