説明

スクラッチ変色インキおよび可視情報スクラッチ変色印刷物

【課題】通常の取り扱いの擦れでは変色しにくい印刷物であるにもかかわらず、爪やコインで擦ることで任意の可視情報を容易に変色でき、可視情報を変色する際に削りカスの発生がほとんど無いスクラッチ変色用インキとそれを用いた印刷物の提供。
【解決手段】染料前駆体、電子受容性顕色剤、着色剤及びワニスを含有し、フォーム紙上にインキ着肉量0.4cm/mで展色した展色物を試験片として摩擦試験機を用い、摩擦子荷重800g、摩擦用紙として5mm幅の上質紙を摩擦子の摩擦面中央摩擦方向に備え、毎分30回往復の速度で100回往復摩擦する前後における色差ΔEabを4.0以上としたスクラッチ変色インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め形成された可視情報を外部からの摩擦により変色させることができるスクラッチ変色型インキおよびそれを用いた可視情報スクラッチ変色印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スクラッチ操作により可視情報を変色するようにした印刷技術においては、スクラッチ操作の際に表面層(スクラッチ層)を削り取ることにより変色を達成している。(例えば、特許文献1)従って、スクラッチの際には削りカスが発生している。
【0003】
温度により変色する印刷物として、例えば特許文献2に開示されたいわゆる示温インキによるものが知られている。しかし、この印刷物は、温度により可逆的に変色するものである。
【0004】
また、特許文献3には、削りカスが発生しないスクラッチ発色用インキが開示されているが、本発明とは異なる不可視情報印刷用のインキである。
【特許文献1】特開2006−248169号公報
【特許文献2】特開2005−320485号公報
【特許文献3】特開2006−199887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スクラッチまたは摩擦により削りカスを発生しないで可視情報を変色できる印刷技術は、提供されておらず、着色された印刷部そのものをスクラッチにより不可逆的に変色できる印刷物は見当たらない。本発明は、可視情報印刷部分が通常の取り扱い時の擦れでは変色しにくいにもかかわらず、硬貨または爪で擦ることで容易に変色し、可視情報を変色する際に削りカスの発生がほとんど無く変色性に優れたスクラッチ変色用インキおよびそれを用いた可視情報スクラッチ変色印刷物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等が鋭意検討したところ、染料前駆体、電子受容性顕色剤、ワニス及び着色剤を含有することを特徴とするインキ組成物により、上記課題を解決し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)可視情報が印刷された印刷物を擦ると任意の可視情報のみが変色する印刷物に使用するインキであって、
染料前駆体、電子受容性顕色剤、着色剤及びワニスを含有することを特徴とするスクラッチ変色インキ、
(2)可視情報印刷部を、コインまたは爪で擦ることで可視情報が変色する上記(1)に記載のスクラッチ変色インキ、
(3)前記スクラッチ変色インキをフォーム紙(三菱製紙製、三菱IJフォーム<135>)上にインキ着肉量0.4cm/mで展色し、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で24時間静置、乾燥した展色物を試験片として摩擦試験機2形(JIS L0849)を用い、摩擦子荷重800g、摩擦用紙として5mm幅の上質紙(日本製紙製、ニューNPi上質<70>)を摩擦子の摩擦面中央摩擦方向に備え、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で試験片10cmの間を毎分30回往復の速度で100回往復摩擦したときの摩擦前後における展色部のJIS−Z8730による色差(ΔEab)が4.0以上である上記(1)または(2)に記載のスクラッチ変色インキ、
(4)上記(1)記載の着色剤が有色顔料および/または染料を含むインキ組成物である上記(1)〜(3)に記載のスクラッチ変色インキ、
(5)オフセット印刷用である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のスクラッチ変色インキ
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のスクラッチ変色インキが印刷された可視情報スクラッチ変色印刷物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、可視情報印刷部分が通常の取り扱い時の擦れ、静的圧力等によっては変色しにくいにもかかわらず、コインまたは爪などで擦ることで可視情報の変色が容易に行え、可視情報を変色する際に削りカスの発生がほとんど無いスクラッチ変色用インキおよびそれを用いた可視情報スクラッチ変色印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のスクラッチ変色インキについて、説明する。なお、本明細書において、スクラッチとは、物理的に印刷部へ摩擦を与える行為を指し、具体的には爪、または指で挟んだコインを印刷部に直接押し当て、繰り返し擦る方法などが挙げられる。また、可視情報とは、支持体と異なる色相を有する文字、図、記号、絵などの視認できる情報をいう。
【0010】
本発明に使用される支持体は、印刷に供される形状のものであればよく、特に限定されない。例えば、印刷に適性を有する各種用紙、プラスチックフィルム、プラスチックシート、織布、不織布、木片シート及びそれらの材質からなる面を有するもの等を挙げることができ、オフセット印刷に適するコート紙、フォーム紙、アート紙、コピー用紙等が好ましく、スクラッチ操作に耐えうる紙厚を有する用紙ならばさらに好ましい。スクラッチに耐えうる紙厚は、用紙の密度、表面状態、想定されるスクラッチ方法等によって変化するので、適切な用紙は用途に応じて適宜選択される。
【0011】
本発明のスクラッチ変色インキは、染料前駆体、電子受容性顕色剤、着色剤及びワニスを含有し、フォーム紙(三菱製紙製、三菱IJフォーム<135>)上にインキ着肉量0.4cm/mで展色し、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で24時間静置、乾燥した展色物を試験片として摩擦試験機2形(JIS L0849)を用い、摩擦子荷重800g、摩擦用紙として5mm幅の上質紙(日本製紙製、ニューNPi上質<70>)を摩擦子の摩擦面中央摩擦方向に備え、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で試験片10cmの間を毎分30回往復の速度で100回往復摩擦したときの摩擦前後における展色部のJIS−Z8730による色差(ΔEab)が4.0以上である事を特徴としたものである。本発明のスクラッチ変色インキの作製方法としては、1)先に染料前駆体、電子受容性顕色剤、ワニスおよび各種添加剤からなるスクラッチ発色用インキを作製し、後から着色剤を添加、混合する方法 2)スクラッチ発色用インキ作製用の染料前駆体ワニスベース及び顕色剤ワニスベースに加え、着色剤及び各種添加剤を混合する方法から選択することができる。2)の方法を用いる場合、ワニスベース、着色剤、各種添加剤を混合する順番、組み合わせは製造上の便宜により自由に選択することができ、全ての材料を一斉に混合することもできる。
【0012】
最も簡便な作製方法としては、前記1)先にスクラッチ発色用インキを作製し着色剤を添加、混合する方法が選択される。また、本発明のスクラッチ変色インキの変色前の色相を調整しやすい点で、前記1)の作製方法が好ましい。また、特に、変色前後の色を設計するには前記2)の作製方法が好ましく選択される。混合の割合に応じて、変色前後の色を自由に設定することができる。
【0013】
本発明のスクラッチ変色インキは、フォーム紙(三菱製紙製、三菱IJフォーム<135>)上にインキ着肉量0.4cm/mで展色し、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で24時間静置、乾燥した展色物を試験片として摩擦試験機2形(JIS L0849)を用い、摩擦子荷重800g、摩擦用紙として5mm幅の上質紙(日本製紙製、ニューNPi上質<70>)を摩擦子の摩擦面中央摩擦方向に備え、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で試験片10cmの間を毎分30回往復の速度で100回往復摩擦したときの摩擦前後における展色部のJIS−Z8730による色差(ΔEab)が4.0以上である。4.0未満では、明確な変色を視認することが難しく、変色インキとしての有効性がない。上記、摩擦試験機によるスクラッチ条件は、爪で印刷部を普通に擦った状態に相当する。
【0014】
測色して色を把握、管理し、色違いを認識する方法として、色彩計によるΔE管理する方法が知られている。一般的に、ΔEabが0.5以下であるとき、同色であると見なされている。ΔEabが大きければ大きいほど、色の違いは明確となる。また、通常のプロセス印刷用オフセットインキ印刷部をスクラッチした前後のΔEabが約1.0あるため、ΔEabが4.0以上というのは、各色において変色を視認できる領域に相当する。好ましくは、ΔEabが10.0以上であると変色が明確に視認できる。ΔEabが15.0以上になると、変色の程度が大きいので、さらに好ましい。
【0015】
本発明に使用するスクラッチ発色用インキについて説明する。本発明に使用するスクラッチ発色用インキは、電子供与性染料前駆体、電子受容性顕色剤およびワニスを含む。それら成分を説明する。
スクラッチ発色用インキに用いられる電子供与性染料前駆体は、キサンテン系化合物および/またはアザフタリド化合物であることが好ましい。発色用インキはそれ自体着色が大きいと、発色前後における色差が小さくなる。よって、無色もしくは淡色の染料前駆体であるキサンテン系化合物やアザフタリド化合物が好ましく選択される。
【0016】
スクラッチ発色用インキに用いられる電子受容性顕色剤は、酸性物質であれば、特に制限されることはなく、例えば、フェノール誘導体、芳香族カルボン酸誘導体、N,N′−ジアリールチオ尿素誘導体、アリールスルホニル尿素誘導体、スルホンアミド誘導体、有機化合物の亜鉛塩などの多価金属塩、ベンゼンスルホンアミド誘導体等から選ばれる1種以上を挙げることができる。
ただし、通常の取り扱い時における擦れ等によるインキ変色を防止するためには、結晶質のものを用いるのが好ましい。また、通常の取り扱い時におけるインキ変色を防止するためには融点も高い方が好ましく、融点が140℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがさらに好ましい。インキが変色するとそれを用いた印刷物の印刷部もその程度に応じてスクラッチ発色前後の色差が低下することになる。
【0017】
特にスクラッチ変色用インキの変色防止性や変色感度を考慮した場合、ジフェニルスルホン系化合物を用いることが好ましい。また、染料前駆体として、アザフタリド化合物を用いる場合、顕色剤としてジフェニルスルホン系化合物を用いることによる好ましい効果は顕著となる。
【0018】
スクラッチ発色用インキに用いられるワニスは、バインダー樹脂を含むものであって、必要に応じて油、溶剤、ドライヤー等の添加剤を含むものである。ワニスは、印刷層を構成するマトリックス成分となるものであるので、インキから固体粒子成分を除いたものがワニスであるともいえる。
なお、本明細書においては、スクラッチ発色用インキ中に含まれるものをワニスと呼ぶものとし、スクラッチ発色用インキ作製前のもの及び着色剤中に含まれるものをワニスベースと呼ぶこととする。
【0019】
ワニスに含まれるバインダー樹脂としては、ロジンなどの天然樹脂、硬化ロジン、ロジンエステルなどの天然樹脂誘導体、そしてアルキド樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、セルロース誘導体、フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ケトン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、オレフィンやジシクロペンタジエン等の不飽和炭化水素を原料とした石油樹脂などの合成樹脂から選ばれる1種以上が挙げられる。バインダー樹脂は、酸価が0〜30mgKOH/gであることが好ましく、0〜20mgKOH/gであることがより好ましい。バインダー樹脂によっては酸価を測定できないものもあるが、本明細書において、このようなバインダー樹脂は、酸価が0mgKOH/gであるとみなすものとする。バインダー樹脂の酸価が上記範囲内にあれば、印刷物印刷部のスクラッチによる変色差がより向上する。
【0020】
酸価は、ワニスベース或いはスクラッチ発色用インキを対象として測定することもでき、得られた測定結果に基づいて、所望の不可視性が得られるように、適宜ワニスベース或いはスクラッチ発色用インキの酸価を調節することが好ましい。
ワニスベースの酸価は、0〜30mgKOH/gであることが好ましく、0〜20mgKOH/gであることがより好ましく、0〜12mgKOH/gであることがさらに好ましい。
スクラッチ発色用インキを対象にして酸価を測定する場合、スクラッチ発色用インキに含まれる顕色剤も酸価測定に用いるKOHを消費するため、得られた酸価から顕色剤が消費するKOH量を差し引くことによりスクラッチ発色用インキの酸価が求められる。
【0021】
スクラッチ発色用インキの酸価は、0〜25mgKOH/gであることが好ましく、0〜18mgKOH/gであることがより好ましく、0〜10mgKOH/gであることがさらに好ましい。
顕色剤が消費するKOH量は、酸価測定済みのワニスベースに一定量の顕色剤を含有させた試料の酸価を測定し、得られた酸価からワニスベースの酸価を差し引くことにより求めることができる。簡便法としては、KOHを消費しない成分のみを含有した試料の酸価と、この試料に顕色剤を含有させた試料の酸価との差を求める方法を挙げることができる。
【0022】
ワニスが含み得る油は、常温で不揮発性の非水液体を意味し、ワニスが含み得る溶剤は、常温で揮発性の非水液体を意味する。このうち、溶剤は、安全面、衛生面、環境面を考慮すると、用いないことが好ましく、用いる場合も、スクラッチ発色用インキ中、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。スクラッチ発色用インキに含まれるワニスの溶剤量が30質量%を超えると、安全、衛生、環境面に悪影響が出る恐れがある。
ワニスが含み得る油としては、アマニ油、菜種油、ヤシ油、オリ−ブ油、大豆油、桐油等の植物油、およびこれらを再生処理した植物油、水素添加処理した植物油、スピンドル油、マシーン油、モビル油等の鉱物油から選ばれる1種以上を挙げることができ、用途により適宜選択されて使用される。
【0023】
ワニスが含み得る溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等のアルコール系溶剤、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤、パラフィン、ナフテン系を主成分とした芳香族成分1%以下の石油系溶剤等から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0024】
ワニスが含み得るドライヤーとしては、例えばナフテン酸コバルト、ナフテン酸マンガン、オクチル酸コバルト、オクチル酸マンガン等のカルボン酸金属塩から選ばれる1種以上を挙げることができ、上記金属塩を形成する金属の具体例としては、上記コバルト、マンガン以外に、セリウム、銅、ニッケル、バナジウム、クロム、カルシウム、アルミニウム、カドミウム、亜鉛、スズ等を挙げることができる。
【0025】
本発明に使用するスクラッチ発色用インキに、光沢調節や、スクラッチ発色感度およびスクラッチ発色濃度調節などのため、好ましく含有される顔料としては、一般に各種の印刷インキ、塗料、塗工紙等に用いられる顔料が挙げられるが、これらに制限されることはない。スクラッチ変色用インキの変色前印刷色とスクラッチ変色後の色とが明確に判別できるように顔料を選択すればよい。発色を阻害しないという意味で、顔料は白色または無色であることが好ましい。
顔料の具体例としては、カオリン、ケイソウ土、タルク、焼成カオリン、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸亜鉛、非晶質シリカ、結晶質二酸化ケイ素、非晶質ケイ酸カルシウム、コロイダルシリカ、アルミナ等の無機顔料、メラミン樹脂フィラー、尿素−ホルマリン樹脂フィラー、ポリエチレンパウダー、ナイロンパウダー、でんぷん等から選ばれる1種以上の有機顔料を挙げることができる。また、顔料の好ましいモース硬度は、印刷機の磨耗防止の観点から7以下である。
【0026】
本発明に使用するスクラッチ発色用インキは、更に各種の補助剤を含んでもよい。例えば、乾燥促進剤として、上記ワニスの説明で述べたナフテン酸コバルト、オクチル酸マンガン等のカルボン酸金属塩からなるドライヤーが好ましく用いられる。また、一般的にアルミニウムキレートと呼ばれるキレート化剤、インキの粘度を調整する石油系溶剤等の調整剤、印刷後の滑りを調節するワックス、界面活性剤、有機や無機の微粒子類等が適宜用いられる。更に、脂肪酸アミド類、脂肪族尿素化合物、エーテル化合物、エステル化合物、ビフェニル誘導体等も発色濃度を上げるために使用してもよい。なお、ドライヤーを添加した場合は、印刷部がセットし易くなり、爪などで擦った場合、変色部が周辺に広がるのを防止したり、汚れ発生を防ぎより優れた効果が得られる傾向がある。
【0027】
本発明に使用するスクラッチ発色用インキにおいて、インキ中に内在する固体粒子成分の平均粒径を0.4μm以上にすることは、通常の印刷物取り扱い時における擦れ等による印刷部変色を防止する上で好ましい。また、固体粒子成分の平均粒径が25μmより大きくなると、印刷不良が頻発し印刷機における印刷適性がない。ここで、平均粒径とは、一次粒子、および/または二次粒子の粒子頻度により度数分布での累計値が50%となるときの粒径を意味する。代表的な測定装置はマイクロトラック装置である。
なお、本明細書においては、特に断らない限り、平均粒径とは体積平均粒径を意味するものとし、上記平均粒径は、粒度分布測定器等で測定することができる。
【0028】
染料前駆体および/または顕色剤の平均粒径は、0.4μm以上にすることは、通常の取り扱い時における擦れ等によるインキ変色を防止する上で好ましい。また、染料前駆体および/または顕色剤の平均粒径は25μm以下が好ましく、25μmより大きくなると、印刷機における印刷適性が得られず、良好な印刷物が得られない。
【0029】
染料前駆体および/または顕色剤は、スクラッチ発色用インキの作製前に所望の平均粒径に粉砕または造粒しておくことが好ましいが、スクラッチ発色用インキの作製時に所望粒径になるように粉砕してもよい。あるいは、スクラッチ発色用インキの作製前に染料前駆体および/または顕色剤を所望の平均粒径よりもやや大きな平均粒径まで粉砕または造粒しておき、スクラッチ発色用インキの作製時に所望の平均粒径になるように粉砕してもよい。
【0030】
次に、本発明に使用するスクラッチ発色用インキを作製する方法について説明する。
スクラッチ発色用インキの作製方法は、特に限定されないが、染料前駆体および/または顕色剤をワニスベースで混練りし、ワニスベース中に染料前駆体および顕色剤を固体粒子として含有させる方法が好ましい。なお、染料前駆体、顕色剤および顔料のいずれか1種以上を含むワニスベースを、以下インキベースと呼ぶこととする。
また、染料前駆体と顕色剤を所定の割合で同時にワニスベースに添加し、混練りすると、染料前駆体が発色してインキの着色を招く恐れがあるため、別々に混練りしてインキベース化した後に、撹拌機等により所定の割合で十分に混ぜ合わせる方が、染料前駆体と顕色剤の接触等によるインキ着色を低減することができ、印刷部のスクラッチ変色量(色差)を大きくするには好ましい。
【0031】
顔料も染料前駆体や顕色剤の場合と同様に、ワニスベースで混練りし、ワニスベース中に固体粒子として含有させることが好ましい。その際、顔料のみをワニスベースで混練りして顔料を含むインキベースを得てもよく、染料前駆体または顕色剤と、顔料とを共に混練りしてインキベースを得てもよい。また、染料または顕色剤と顔料とを共に混練りしてインキベースを得た場合でも、インキ作製時に更に顔料のみを混練りした顔料を含むインキベースを加えてもよい。
【0032】
本発明に使用するスクラッチ発色用インキにおけるワニスは、従来公知の方法で得ることができ、例えばバインダー樹脂、油等の成分を加熱溶解させた後、必要に応じて、溶剤、アルミキレート剤等を添加反応して得ることができる。
【0033】
次に、本発明に使用する着色剤について説明する。
本発明において着色剤はスクラッチ変色インキによる印刷部を有色化するために使用される。
本発明に使用される着色剤としては、着色性をもつ顔料、染料、及びそれら顔料、染料とワニスベースとの混合物、さらには各種印刷インキを挙げることができる。スクラッチ変色インキの印刷適性、特に印刷汚れ防止のため、着色剤に含まれる固体粒径をスクラッチ発色用インキの固体粒径以下にすることが好ましい。また、スクラッチ発色用インキと着色剤が混合しやすいという点もふくめ、着色剤はワニスベースを含有することが好ましく、有色顔料および/または染料を含むインキ組成物でもある印刷インキが更に好ましい。着色剤として使用する印刷インキとスクラッチ発色用インキを混合したときに、濁り・分離を発生せず相溶性に優れていることが好ましい。スクラッチ変色前後の色相調整を容易に行えるように、スクラッチ発色用インキに含まれるワニスと着色剤として使用する印刷インキに含まれるワニスベースとが、同一または類似のワニスであるとさらに好ましい。
【0034】
スクラッチ変色用インキ及び必要に応じて用いる各種印刷用インキによる印刷には、オフセット印刷、グラビア印刷、凸版印刷等の各種印刷方法が用いられるが、各種印刷用インキを用いて印刷する場合も、スクラッチ変色用インキと同一工程で印刷することが効率的で好ましい。印刷順序は特に制限されない。
【0035】
なお、本発明の可視情報スクラッチ変色印刷物においては、通常の印刷インキによる印刷が混在する場合、スクラッチ変色印刷部を含むスクラッチ部が印刷物のどこにあるかを判別することが困難ないし不可能なので、適宜スクラッチ部の位置を示す説明などの印刷を設けることが好ましい。
【0036】
本発明の可視情報スクラッチ変色印刷物の可視情報を印刷するには、本発明のスクラッチ変色用インキにより、オフセット印刷、凸版印刷等の各種印刷方法を用いて作成されるが、印刷精度や印刷特性からは特にオフセット印刷により作成することが好ましい。
【0037】
実施例
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や%は、断り書きが無い場合、それぞれ質量部、質量%である。
なお、以下の実施例、比較例において、酸価、インキ着肉量、スクラッチ前後の色差および変色性は、以下に示す方法により測定した。
【0038】
<酸価>
JISK5601−2−1により測定した。
なお、スクラッチ発色用インキの酸価は、得られた酸価から顕色剤が消費するKOH量を差し引くことにより求めた。
【0039】
<インキ着肉量>
評価するインキのベタ印刷物を作成し、ベタ印刷面積Aおよび転移インキ体積量Bを測定して、B/Aにてインキ着肉量を算出した。上記ベタ印刷物の作成には、展色機を用い、評価用としてフォーム紙(三菱製紙製、三菱IJフォーム<135>)を使用した。また、転移インキ体積量Bを求めるために、正確に量り取れるインキピペットを使用して展色機に供給するインキ量を測定するとともに、予め複数のベタ展色物を作成して転移インキ質量の平均値を求めておき、これを展色機から被印刷物へのインキ転移率として用いた。
【0040】
<スクラッチ前後の色差(ΔEab)>
(スクラッチ方法)
インキをRIテスターにて、フォーム紙(三菱製紙製、三菱IJフォーム<135>)上にインキ着肉量0.4cm/mとなるように0.21m×0.11m四方に均一に展色し、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で24時間以上静置、乾燥した展色物を試験片とした。学振式摩擦試験機(スガ試験機社製:型式FR−2)を用い、摩擦子荷重800g、摩擦用紙として5mm幅の上質紙(日本製紙製、ニューNPi上質<70>)を摩擦子の摩擦面中央摩擦方向に固定し、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で試験片10cmの間を毎分30回往復の速度で100回往復摩擦した展色物摩擦面をスクラッチ後における色差評価用試料とした。
(色差測定)
スクラッチ前後の色差評価用試料について分光測色計(GretagMacbeth製:Color−Eye 7000A)を使用し、光源:D65、反射(光沢除く)にて、それぞれCIE L*a*b*表色系におけるL*値、a*値、b*値を計測した。色差(ΔEab)は、計算により算出した。3点計測して平均値で表した。
【0041】
<変色性>
色差測定に使用した色差評価試料を目視により、次の評価基準で判定した。
◎:明確に変色が認められる
○:変色が一見でそれと判る
×:一見では変色が判らない
【0042】
ワニスベースや各インキベースの調製例から述べる。
(ワニスベースの作製)
バインダー樹脂であるロジン変性フェノール樹脂(質量平均分子量60000、酸価20mgKOH/g)50質量部、植物油である大豆油20質量部、スピンドル油20質量部を配合して約200℃で約1時間加熱して樹脂を溶解させた後、さらにスピンドル油10質量部、アルミニウムキレート剤1質量部を添加して約180℃で約1時間加熱し、ワニスベースを得た。以下、特に断りが無ければ以下に示す実施例および比較例で用いたワニスベースはここに示した方法で得たものである。得られたワニスベースについて酸価を測定したところ、12mgKOH/gであった。
【0043】
(染料インキベース(a−1)の調製)
上記ワニスベース50質量部、染料前駆体である3−(1−エチル−2メチルインドール−3−イル)−3−(2−エトキシ−4−ジエチルアミノフェニル)−4−アザフタリド30質量部、スピンドル油2質量部を3本ロールミルで、グラインドメーターにて粒度7.5μm以下になるまで練肉し、さらに上記ワニスベース10質量部、スピンドル油3質量部を添加することによって染料インキベース(a−1)を調製した。
【0044】
(染料インキベース(a−2)の調製)
染料前駆体を2−クロロ−6−ジエチルアミノフルオランとする以外は(a−1)の調製と同様にして染料インキベース(a−2)を調製した。
【0045】
(顕色剤インキベース(b−1)の調製)
上記ワニスベース50質量部、顕色剤である4−ヒドロキシ−4′−イソプロポキシジフェニルスルホン30質量部、スピンドル油5質量部を3本ロールミルで、グラインドメーターにて粒度7.5μm以下になるまで練肉し、さらに上記ワニスベース5質量部、スピンドル油5質量部を添加することによって顕色剤インキベース(b−1)を調製した。
【0046】
(顕色剤インキベース(b−2)の調製)
顕色剤を2,2′−ジアリル−4,4′−スルホニルジフェノール30とする以外は(b−1)の調製と同様にして顕色剤インキベース(b−2)を調製した。
【0047】
(発色用インキ(h−1)の調整)
染料インキベース(a−1)100質量部、顕色剤インキベース(b−1)350質量部を混合し、スピンドル油20質量部、ワニスベース80質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、スクラッチ発色用インキ(h−1)を得た。グラインドメーターによって観察されたインキ中に介在する粒子の最大粒径は5.0μmであった。
なお、得られたスクラッチ発色用インキの酸価をワニスベースと同様にして測定したところ、7mgKOH/gであった(但し、別途測定した、染料インキベースと顕色剤インキベースの酸価の差が顕色剤によって消費されたKOH量であると考え、その分を除いた値である)。
【0048】
(発色用インキ(h−2)の調整)
染料インキベース(a−2)100質量部、顕色剤インキベース(b−2)350質量部を混合し、スピンドル油20質量部、ワニスベース80質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、スクラッチ発色用インキ(h−2)を得た。グラインドメーターによって観察されたインキ中に介在する粒子の最大粒径は5.0μmであった。
なお、得られたスクラッチ発色用インキの酸価をワニスベースと同様にして測定したところ、7mgKOH/gであった(但し、別途測定した、染料インキベースと顕色剤インキベースの酸価の差が顕色剤によって消費されたKOH量であると考え、その分を除いた値である)。
【0049】
(実施例1)
スクラッチ発色用インキ(h−1)90質量部、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ黄」)10質量部を混合し、スピンドル油5質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、本発明のスクラッチ変色用インキ(s−1)を得た。
【0050】
(実施例2)
スクラッチ発色用インキ(h−1)90質量部、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ紅」)10質量部を混合し、スピンドル油5質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、本発明のスクラッチ変色用インキ(s−2)を得た。
【0051】
(実施例3)
スクラッチ発色用インキ(h−1)90質量部、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ藍」)10質量部を混合し、スピンドル油5質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、本発明のスクラッチ変色用インキ(s−3)を得た。
【0052】
(実施例4)
スクラッチ発色用インキ(h−1)50質量部、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ黄」)50質量部を混合し、スピンドル油5質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、本発明のスクラッチ変色用インキ(s−4)を得た。
【0053】
(実施例5)
スクラッチ発色用インキ(h−1)50質量部、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ紅」)50質量部を混合し、スピンドル油5質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、本発明のスクラッチ変色用インキ(s−5)を得た。
【0054】
(比較例1)
スクラッチ発色用インキ(h−1)50質量部、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ藍」)50質量部を混合し、スピンドル油5質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、スクラッチ変色用インキ(r−1)を得た。
【0055】
(実施例6)
染料インキベース(a−2)16.4質量部、顕色剤インキベース(b−2)57.3質量部を混合し、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ黄」)10質量部、スピンドル油3.3質量部、ワニスベース13質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、本発明のスクラッチ変色用インキ(s−6)を得た。
【0056】
(実施例7)
染料インキベース(a−2)16.4質量部、顕色剤インキベース(b−2)57.3質量部を混合し、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ紅」)10質量部、スピンドル油3.3質量部、ワニスベース13質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、本発明のスクラッチ変色用インキ(s−7)を得た。
【0057】
(実施例8)
染料インキベース(a−2)16.4質量部、顕色剤インキベース(b−2)57.3質量部を混合し、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ藍」)10質量部、スピンドル油3.3質量部、ワニスベース13質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、本発明のスクラッチ変色用インキ(s−8)を得た。
【0058】
(実施例9)
スクラッチ発色用インキ(h−2)50質量部、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ黄」)50質量部を混合し、スピンドル油5質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、本発明のスクラッチ変色用インキ(s−9)を得た。
【0059】
(比較例2)
スクラッチ発色用インキ(h−2)50質量部、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ紅」)50質量部を混合し、スピンドル油5質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、スクラッチ変色用インキ(r−2)を得た。
【0060】
(比較例3)
スクラッチ発色用インキ(h−2)50質量部、着色剤としてオフセット印刷用インキ(東京インキ社製:枚葉プロセスインキ「ニューセルボ藍」)50質量部を混合し、スピンドル油5質量部を添加し、十分撹拌して均質化することによって、スクラッチ変色用インキ(r−3)を得た。
【0061】
実施例1〜9、比較例1〜3で作製したスクラッチ変色用インキを用いてスクラッチ前後の色差を評価した。結果を、表1に示す。実施例1は黄色から緑へ、実施例2は赤色から紫へ、実施例6は黄色から赤へ、明瞭に変色が確認できた。比較例1〜3は、いずれもΔE値が4以下であり、よく観察するとスクラッチによる変色が確認できるが、明確な変色とはいえなかった。
【0062】
【表−1】

【0063】
本発明のスクラッチ変色インキを従来インキと共用して印刷すると、スクラッチにより指定された部分のみ色が変化し、新たに意味のある情報が出現するようにできる等、着色してあるにも関わらず情報を隠して印刷できるなど利用の組み合わせと用途が大きく広がった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、印刷部分が通常の取り扱い時の擦れでは変色しにくいにもかかわらず、爪・コインで擦ることで可視情報の変色が容易に行え、可視情報を変色する際に削りカスの発生がほとんど無いスクラッチ変色用インキおよびそれを用いた可視情報スクラッチ変色印刷物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視情報が支持体上に印刷された印刷物を擦ると任意の可視情報のみが不可逆的に変色する印刷物に使用するインキであって、
染料前駆体、電子受容性顕色剤、着色剤及びワニスを含有することを特徴とするスクラッチ変色インキ。
【請求項2】
可視情報印刷部を、コインまたは爪で擦ることで可視情報が変色する請求項1に記載のスクラッチ変色インキ。
【請求項3】
前記スクラッチ変色インキをフォーム紙(三菱製紙製、三菱IJフォーム<135>)上にインキ着肉量0.4cm/mで展色し、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で24時間静置、乾燥した展色物を試験片として摩擦試験機2形(JIS L0849)を用い、摩擦子荷重800g、摩擦用紙として5mm幅の上質紙(日本製紙製、ニューNPi上質<70>)を摩擦子の摩擦面中央摩擦方向に備え、23℃±2℃、相対湿度(50±2)%RHの条件で試験片10cmの間を毎分30回往復の速度で100回往復摩擦したときの摩擦前後における展色部のJIS−Z8730による色差(ΔEab)が4.0以上である請求項1または請求項2のいずれかに記載のスクラッチ変色インキ。
【請求項4】
前記着色剤が有色顔料および/または染料を含むインキ組成物である請求項1〜3のいずれかに記載のスクラッチ変色インキ。
【請求項5】
オフセット印刷用である請求項1〜4のいずれかに記載のスクラッチ変色インキ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のスクラッチ変色インキが印刷された可視情報スクラッチ変色印刷物。

【公開番号】特開2009−155618(P2009−155618A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338908(P2007−338908)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000219912)東京インキ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】