説明

スクラップを利用したチタンインゴットの溶解方法およびその溶解装置

【課題】回収チタンスクラップの組成を把握して原料とし添加材を加え、高品質なインゴットを溶解する。
【解決手段】読取手段に通過させスクラップに付与された個体識別情報及び処理履歴情報をサーバに格納し、スクラップ化学組成の変化分を処理履歴情報から予測し個体識別情報(化学組成)を演算手段により補正し、インゴット製造初期段階ではサーバに格納された補正個体識別情報の中から目的のインゴットの化学組成及び生産速度を満たすように原料のスクラップ、スポンジチタン、添加材のうち必要な組み合わせ及び各々の供給速度を演算手段により算出し、算出結果に対応した信号をこれら諸原料の各々の供給手段の供給速度制御手段へ演算手段から伝送して供給を開始し、インゴット製造初期段階以降ではインゴットの引き抜き部位の検出手段によってインゴットの実際の生産速度を読み取り、演算手段は、実際の生産速度に基づいて上記諸原料の供給速度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属チタンスクラップを用いた金属の溶解方法であって、特に前記金属チタンスクラップの回収方法および回収されたスクラップの溶解方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属チタンは、航空機向けが主要な需要先であり、航空機の買い替え需要の増加によりチタン材の需要が増加する傾向にある。また、民生用のチタン材の需要も増加する傾向にあり、世界的なチタン材の需要に応えるような対応が求められている。
【0003】
これに対して、金属チタンの製造用原料のチタン鉱石であるルチルやイルメナイトの供給が、前記需要増に必ずしも追いついていない状況にあり改善が求められている。
【0004】
一方、金属チタンインゴットの加工後に生じるスクラップに着目すると、製品として加工されたチタン材の残材は、個別に取引されてリサイクルされているが、市場全体で発生する金属チタンスクラップのうち、その一部しかリサイクルされておらず、資源保護の意味から改善が求められている。
【0005】
インゴットメーカー(新規原料あるいはリサイクル原料からインゴットを製造して供給する者を指し、以下、単にメーカーと称する場合がある)で溶解されたインゴットは、加工メーカー(供給されたインゴットを加工して半製品・最終製品を製造する者を指し、以下、単にユーザーと称する場合がある)に供給され、ユーザーではインゴットを加工して製品を製造するとともに、端材であるスクラップが発生する。このスクラップは、回収されて再びメーカーに戻される。
【0006】
ユーザー側からメーカー側にリサイクルされるチタンスクラップは、いわゆる純チタンスクラップと合金スクラップに大別されるが、これらの仕分け作業は、人手により行われており、また、スクラップ毎に合金成分の分析を行なう必要があり、作業効率の点で改善が求められている。
【0007】
また、人手によるチタンスクラップの仕分け作業には、間違いが生じる恐れがあり、間違って仕分けられたスクラップを原料として再溶解されたインゴットの品質保証の観点からも改善の余地が残されている。
【0008】
このような問題点に対して、リサイクルした樹脂製品に対してその製品情報が記載されたICタグを装着する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2,3参照)。
【0009】
この方法においては、前記ICタグに対してリサイクル材の発生元になった樹脂の個体識別情報が記録される。よって、リサイクル材に付与されたICタグの個体識別情報を読み取ることにより、前記リサイクル材の特徴を把握することができ、その結果、前記樹脂製品を効率よく再生することができるという効果を奏するものである(特許文献1参照)。
【0010】
しかしながら、製品としてのとしてインゴットを溶製する場合には、リサイクルされたチタンスクラップのみならず、スポンジチタンのようなチタン材、あるいは、酸化チタン更には、酸化鉄のような添加材も製品インゴットの組成を満足するように配合することが求められ、前記公知文献1によるICタグをリサイクルチタンに付与する方法等により、リサイクル原料の素性を特定して、リサイクル処理することだけでは、マーケットで要求される高品質のインゴットを効率よく製造することはできない。
【0011】
また、供給されたインゴットに対してユーザー側においてなされた処理の条件によっては、インゴットの処理中にチタンスクラップ成分が変化する場合がある。例えば、インゴットに大気中の雰囲気、高温下にて切断や圧延等の処理を行なった場合、材料の表面が雰囲気と反応して酸化物や窒化物が生成し、最終的にリサイクルされたスクラップの表面に酸化物層や窒化物層として残留している場合がある。そのため、仮に上記個体識別情報の承継技術によってリサイクル原料の素性が個体識別情報としてスクラップに適切に付与されていたとしても、回収されたスクラップの実際の組成は、ユーザー側への出荷時点とは異なるものになっている場合があった。
【0012】
このように、製品として求められるインゴットの品質を満足するためには、回収された時点でのチタンスクラップの組成を的確に把握して選定することに加え、チタンスクラップに添加する添加材の種類や量を適切に設定して、配合し、更にはスクラップの溶解炉へのフィード速度に合わせて、各添加材の供給速度をコントロールするシステムが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−370257号公報
【特許文献2】特開2009−245298号公報
【特許文献3】特開2005−067850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、市場より回収された時点でのチタンスクラップの組成を的確に把握し、これを溶解原料として再利用し、他の添加材を適宜添加した溶解原料とすることにより、品質の優れたチタンインゴットを溶解する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる実情に鑑みて前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきたところ、ユーザーに出荷されるチタンインゴットに個体識別情報をメーカーにて記録しておき、ユーザーの工場にて前記チタンインゴットの加工の際に副生したチタンスクラップに前記情報を承継させるとともに、ユーザー側においてインゴットに対して行った処理の情報を追加することにより、メーカーに戻されたチタンスクラップの組成や処理履歴といった情報を的確に把握することができ、その結果、化学組成が精度よく制御されたインゴットの製造に再利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明に係るチタンインゴットの溶解方法は、チタンスクラップをチタンインゴット原料の一部として溶解するチタンインゴットの溶解方法であって、チタンスクラップには、その化学組成、質量、およびそれ以外のチタンスクラップ固有の情報から選択される一または複数の情報からなる個体識別情報と、チタンスクラップに対して既に実施された処理の種類および回数の情報からなる処理履歴情報とが付与されており、一または複数種類のチタンスクラップを自動読取手段に通過させて個々のチタンスクラップの個体識別情報および処理履歴情報を取得し、取得した個体識別情報および処理履歴情報をデータサーバコンピュータに伝送して格納し、処理履歴情報から予測されるチタンスクラップの化学組成の変化分に基づいて、個体識別情報中の化学組成の情報を演算手段によって補正し、インゴット製造の最初の段階においては、データサーバコンピュータに格納された補正された個体識別情報の中から目的とするインゴット製品の化学組成および生産速度を満たすように、チタンスクラップ、スポンジチタン、および/または添加材のうちの必要な組み合わせおよびそれぞれの供給速度を演算手段によって算出し、組み合わせおよび供給速度の算出結果に対応した電気信号を、チタンスクラップ、スポンジチタン、および/または添加材の各々の供給手段の供給速度制御手段へ演算手段から伝送してこれらの供給を開始し、インゴット製造開始後の段階においては、インゴット製品の引き抜き部位に装備された検出手段によってインゴット製品の実際の生産速度を読み取り、演算手段は、実際の生産速度に基づいて、チタンスクラップ、スポンジチタン、および/または添加材の供給速度を制御することを特徴としている。
【0017】
本発明においては、前記個体識別情報および前記処理履歴情報が、スクラップ表面に直接形成された刻印、二次元図形、または、スクラップに装着されたICチップとして記録されていることを好ましい態様としている。
【0018】
本発明においては、前記二次元図形が、デジタルコード、QRコード、バーコードから選択される画像パターン、あるいは文字であることを好ましい態様としている。
【0019】
本発明においては、前記個体識別情報が、前記スクラップの発生源である元々のインゴットの製造工程において、インゴットに記録されたものであることを好ましい態様としている。
【0020】
本発明においては、前記個体識別情報が、前記スクラップの発生源である元々のインゴットの加工工程後に前記スクラップが発生してから、前記スクラップに記録されたものであることを好ましい態様としている。
【0021】
本発明においては、前記固体識別情報および前記処理履歴情報が付与された状態にあるチタンスクラップをそのまま溶解することを好ましい態様としている。
【0022】
本発明においては、互いに異なる個体識別情報および処理履歴情報を有する複数種のチタンスクラップがそれぞれの種に対応する原料倉庫に格納されるとともに個体識別情報および処理履歴情報がデータサーバコンピュータに格納され、データサーバコンピュータを介して演算装置により算出された必要なチタンスクラップ種が、自動的に選別されて原料倉庫から原料供給装置へ搬出されることを好ましい態様としている。
【0023】
本発明においては、前記チタンスクラップが、純チタン材またはチタン合金材であることを好ましい態様としている。
【0024】
本発明においては、前記添加材が、Ti、Fe、Al、V、Sn、Siから選択される単体金属、または、Ti、Fe、Al、V、Sn、Si、OまたはNのうち一または複数を含む合金または酸化物であることを好ましい態様としている。
【0025】
また、本発明のチタンインゴットの溶解装置は、チタンスクラップをチタンインゴット原料の一部として溶解するチタンインゴットの溶解装置であって、一または複数種類の各々のチタンスクラップに付与された、その化学組成、質量、およびそれ以外のチタンスクラップ固有の情報から選択される一または複数の情報からなる個体識別情報およびチタンスクラップに対して既に実施された処理の種類および前記処理に伴う付帯情報からなる処理履歴情報を取得する自動読取手段と、取得した個体識別情報および処理履歴情報を格納するデータサーバコンピュータと、処理履歴情報から予測されるチタンスクラップの化学組成の変化分に基づいて個体識別情報中の化学組成の情報を補正するとともに、インゴット製造の最初の段階において、データサーバコンピュータに格納された個体識別情報の中から目的とするインゴット製品の化学組成および生産速度を満たすように、前記チタンスクラップ、スポンジチタン、および/または添加材のうちの必要な組み合わせおよびそれぞれの供給速度を算出する演算手段と、チタンスクラップ、スポンジチタン、および/または添加材を供給する供給手段と、組み合わせおよび供給速度の算出結果に対応した電気信号によって、チタンスクラップ、スポンジチタン、および/または添加材の各々の供給手段を動作させる供給速度制御手段と、インゴット製造開始後の段階において、インゴット製品の引き抜き部位に装備され前記インゴット製品の実際の生産速度を読み取る検出手段とを備え、演算装置は、実際の生産速度に基づいて、チタンスクラップ、スポンジチタン、および/または添加材の供給速度を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、回収されたスクラップに個体識別情報が付与されているので、事前の成分分析を経ることなく組成を把握することができ、そのままインゴットの原料として再利用することができるので、インゴットの製造コストを削減することができる。さらに、スクラップに対して行なわれた処理履歴情報を加味することにより、処理によって当初の組成から変化した場合であっても、その変化分を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のリサイクルシステムの流れを示す図である。
【図2】本発明における個体識別情報が付与されたインゴットを示す図である。
【図3】本発明における個体識別情報の承継および処理履歴情報の付与を示す図である。
【図4】本発明における個体識別情報の承継および処理履歴情報の付与を示す図である。
【図5】本発明のスクラップリサイクルにおける第1実施形態を示す図である。
【図6】本発明のスクラップリサイクルにおける第2実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
1.メーカーにおけるインゴット製造工程およびユーザーからのスクラップ回収工程
図1は、本発明を実施する際の好ましい全体の流れの一例を表している。まず、インゴットメーカー(メーカー)では、新規の原料10または後述するリサイクルされた原料13を使用して、電子ビーム溶解炉あるいは公知の溶解炉にてインゴット11が溶製される。本発明においては、メーカーで溶製したチタンインゴット11には、当該インゴットに係る個体識別情報21が付与されることを特徴とするものである。
【0029】
ここでいうところの個体識別情報21とは、インゴット11の化学組成、重量、ロット番号、出荷日、受入日、その他、当該インゴット11に関連する情報であれば特に限定されず、後にインゴット11がスクラップ13となった後にこれを溶解原料として使用する際に必要な情報を意味する。
【0030】
また、ここでいうところのチタンインゴット11に個体識別情報21を付与するとは、具体的には、図2に示すように、チタンインゴット11に個体識別情報21を記録したICタグ20を付与すること、あるいはまた、図示しないが、光学的に認識しうる刻印情報を付与することを意味する。
【0031】
ICタグ20を用いて前記個体識別情報21をチタンインゴット11に付与する場合には、チタンインゴットに付与するICタグ20に当該インゴット11の化学組成、重量、ロット番号、出荷日、受入日、その他当該インゴット11を特定するに必要な情報を記録させておくことが好ましい。前記した個体識別情報21が記録されたICタグ20は、次いで、図2に示すように、チタンインゴット11に装着される。
【0032】
本発明に用いられる前記ICタグ20は、特別な仕様は不要であり、市販品を用いることができる。ただし、金属添付用のICタグを選択しておくことが好ましい。金属添付用以外の通常のICタグでは、読み取り装置との電波による送受信に支障が出る場合があるので注意を要する。
【0033】
また、生成されたチタンインゴット11に個体識別情報21として、直接的に刻印を打っておいても良い。前記刻印情報は、化学組成、重量、ロット番号、出荷日、受入日、その他、チタンスクラップを溶解原料として使用する際に必要な情報をそのものとして刻印しておくことにより光学的に刻印を読み取ることができ、その結果、当該インゴットの個体識別情報21を取得することができる。
【0034】
前記刻印は、文字以外にも、QRコードあるいはバーコードのようなパターン情報として記録させても良い。このような情報を記録しておくことにより、文字情報に比べて秘匿性の高い管理を行うことができるという効果を奏するものである。
【0035】
さらには、デジタルマークと呼ばれる方法でインゴット表面に個体識別情報21を刻印することもできる。この情報は、インゴット表面に対して、凹凸からならパターンを刻印するものであり、前記した文字情報は勿論のこと、QRコードやバーコードに比べて、更に秘匿性の高い記録方式である。
【0036】
前記した刻印は、いわゆる通常の打刻方式のみならず、レーザーを利用した刻印方式を選択することもできる。後者の方法では、打刻方式に比べて、精度の高い個体識別情報21をインゴット11に付与することができるという効果を奏するものである。
【0037】
再び図1に示すように、前記した方式で個体識別情報21が付与されたインゴット11は、加工メーカー(ユーザー)に販売される。ユーザーに販売されたインゴット11は、熱間鍛造工程や熱間圧延工程を経てから、板材や棒材あるいは管材といった、製品12として出荷される。
【0038】
一方、前記熱間鍛造工程や熱間圧延工程においては、少なからずの種々の形態の端材であるスクラップ13が発生する場合が多い。本発明においては、前記したスクラップ13は、再度、メーカーにリサイクルされることを想定したものである。
【0039】
リサイクルされたスクラップ13には、スクラップ13の発生元であるチタンインゴット11に付与した個体識別情報21が承継され、付与されている。これにより、スクラップ13に、元々のインゴット11の組成等の情報が引き継がれ、リサイクル時に利用される。
【0040】
さらに、このとき、前記熱間鍛造工程や熱間圧延工程、さらには、ガス溶断工程等の大気中・高温下におけるインゴットの処理では、被処理材は、加熱された状態で大気と接触するため、表面に酸化物や窒化物の層50が形成され、これにより、スクラップ13全体としての組成は、元々のインゴット11の組成からは変化したものとなっている。そこで、そのようなスクラップ13の処理後の組成の変化を推定するために、当該スクラップ13がどのような処理を経由したものであるのかを示す情報として、個体識別情報21に加えて処理履歴情報22が追加される。
【0041】
処理履歴情報22は、例えば熱間鍛造、熱間圧延、ガス溶断等の処理の種類、処理温度、処理に掛かった時間、処理が行なわれた回数からなる情報である。
【0042】
スクラップ13に個体識別情報21および処理履歴情報22を付与する方法は、メーカー側で行なわれたチタンインゴット11に個体識別情報21を付与する方法と同様の手段を、ユーザー側にて採用することができる。
【0043】
個体識別情報21の承継および処理履歴情報22の付与の方法としては、第1に、個体識別情報21がICタグ20に格納されたものである場合は、図3に示すように、加工前に一旦ICタグ20を取り外して保管しておき、加工を経て製品12とスクラップ13が発生した後、スクラップ13の方に、個体識別情報21に加えて処理履歴情報22を追加したICタグ20を再び装着することで目的を達成することができる。
【0044】
あるいは、ユーザーに搬入された際に、図4に示すように、インゴット11に付与された個体識別情報21を読み取り装置42によって読み取ってこれをデータサーバに格納しておき、発生したスクラップ13に対して、データサーバに格納しておいた個体識別情報21および実施した処理履歴情報22を、図4(a)のルートで示すように、書き込み装置43により、別のICタグに記録してこれをスクラップ13に新たに付与する方法でもよい。
【0045】
第2に、個体識別情報21が直接チタンインゴット11の表面に刻印されるパターン情報である場合は、図4(b)のルートで示すように、インゴット11に付与した個体識別情報21がチタンスクラップ13の段階まで残留するような形でメーカー側にて加工することにより、チタンインゴット11の個体識別情報21をそのチタンスクラップ13まで承継させることができる。この場合は、さらに、図4(b)に示すように、個体識別情報21に加えて、処理履歴情報22が、処理終了後に刻印される。
【0046】
スクラップ13にまで個体識別情報21を残留させるためには、メーカーにてチタンインゴット11に刻印されたパターンからなる個体識別情報21を、可能な限り、数多くの箇所に付与しておくことが好ましい。または、ユーザーに供給された後の用途や加工方法が明らかな場合は、加工によりスクラップとなることが分かっている部位に付与しておいてもよい。
【0047】
また、熱処理や変形によって、刻印が消失してしまうような加工方法の場合は、ユーザーにて加工前に刻印された個体識別情報21を読み取ってこれをサーバに格納しておき、スクラップ13の発生後に、個体識別情報21および処理履歴情報22を、再びにパターン情報にて刻印することもできる。
【0048】
前記したように、個体識別情報21の付与および承継のための処理をメーカーおよびユーザーの両方あるいはいずれかで済ませ、さらには処理履歴情報22の付与のための処理をユーザー側にて済ませておくことにより、インゴットメーカーにリサイクルされたチタンスクラップ13の性状は、当所の組成に加えて処理履歴情報に基づく組成変化分を加味することで、回収時点から明らかとなるので、メーカーで再度これを原料としてインゴットの溶解をする際、成分分析を省略することができ、効率よく処理することができる。
【0049】
2.メーカーにおけるスクラップリサイクル工程
2−1)組成変化の推定のための予備実験
本発明の第1実施形態および第2実施形態を説明するに先立って、上記ユーザー側にて付与された処理履歴情報22から、スクラップ13の成分変化を推定するための予備実験について説明する。
【0050】
スクラップ13に付与された処理履歴情報22には、当該スクラップ13が発生するまでに行なわれた処理の履歴(処理の種類、条件、回数等)および処理されたスクラップの重量が含まれている。これらの情報により、当該スクラップ13に対する酸素上昇量および窒素上昇量を以下のように推算することができる。
【0051】
A.ガス溶断の場合
次のような具体的な前提条件を設定することにより、ガス溶断後のスクラップ13の酸素上昇量ΔWox(ppm)および窒素上昇量ΔWni(ppm)を推算することができる。
A−1)前提条件
ガス溶断の対象となるスクラップの重量:W(Kg)
総ガス溶断面積:S(cm
ガス溶断単位面積当たりの酸素上昇量:Wox−gas(g/cm
ガス溶断単位面積当たりの窒素上昇量:Wni−gas(g/cm
A−2)酸素および窒素上昇量
上記前提条件を用いることにより、酸素上昇量ΔWox(ppm)および窒素上昇量ΔWni(ppm)は、以下のように計算することができる。
ΔWox=Wox−gas・S/W×10 …(1)
ΔWni=Wni−gas・S/W×10 …(2)
【0052】
B.熱間圧延の場合
前記ガス溶断の場合と同様に具体的な前提条件を設定することにより、ガス溶断後のスクラップ13の酸素上昇量ΔWox(ppm)および窒素上昇量ΔWni(ppm)を推算することができる。なお、スクラップ13は、スラブとなっているため、ここでは、スラブと呼ぶ。
B−1)前提条件
熱間圧延の対象となるスラブの重量:W(Kg)
熱間圧延前のスラブの表面積:ΣS(cm
熱間圧延の回数:N(回)
スラブ単位表面積当たり、熱間圧延1回当たりの酸素上昇量:Wox−rol(g/cm・回)
スラブ単位表面積当たり、熱間圧延1回当たりの窒素上昇量:Wni−rol(g/cm・回)
B−2)酸素および窒素上昇量
上記前提条件を用いることにより、酸素上昇量ΔWox(ppm)および窒素上昇量ΔWni(ppm)は以下のように計算することができる。
ΔWox=Wox−rol・ΣS・N/W×10 …(3)
ΔWni=Wni−rol・ΣS・N/W×10 …(4)
【0053】
C.熱間鍛造の場合
前記ガス溶断の場合と同様に熱間鍛造後のスクラップ13の酸素上昇量ΔWox(ppm)および窒素上昇量ΔWni(ppm)を推算することができる。
C−1)前提条件
熱間鍛造前の対象となってスラブの重量:W(Kg)
熱間鍛造前のスラブの表面積:ΣS(cm
熱間鍛造の回数:N(回)
スラブ単位表面積当たり、熱間鍛造1回当たりの酸素上昇量:Wox−fog(g/cm・回)
スラブ単位表面積当たり、熱間鍛造1回当たりの窒素上昇量:Wni−fog(g/cm・回)
C−2)酸素および窒素上昇量
上記前提条件を用いることにより、酸素上昇量ΔWox(ppm)および窒素上昇量ΔWni(ppm)は以下のように計算することができる。
ΔWox=Wox−fog・ΣS・N/W×10 …(5)
ΔWni=Wni−fog・ΣS・N/W×10 …(6)
【0054】
前記したガス溶断、熱間圧延および熱間鍛造処理を行った場合の酸素上昇量および窒素上昇量係数は、予備試験により具体的な数値を決定することができる。
【0055】
例えば、加工メーカーに納入された金属塊が、円柱状のインゴットの場合には、上記したすべての加工処理工程を経る。よって、この場合には、チタンスクラップに上乗せされる酸素上昇分および窒素上昇分は、熱間鍛造、熱間圧延およびガス溶断の各処理に伴う上昇分を加算したものとなる。
【0056】
一方、加工メーカーに納入された金属塊が、矩形状のスラブの場合には、上記処理のうち、熱間圧延およびガス溶断の各処理に伴う上昇分のみを加算したものとなる。
【0057】
前記したような演算式をスクラップ処理工程に組み込んでおくことにより、スクラップ13に付与された情報と組み合わせることにより、溶解工場に持ち込まれるスクラップ13の酸素上昇量および窒素上昇量を、その都度セ成分分析を行うことなく、推算することができる。
【0058】
この予備実験によって求められた処理方法と成分変化の対応関係(表1)は、後述するデータサーバコンピュータに格納され、データベースを構築しておくと好ましい。
【0059】
2−2)第1実施形態
次に、回収したスクラップを利用してインゴットを製造するための本発明の第1実施形態について説明する。
図5は、上記のような個体識別情報および処理履歴情報の承継・付与の事前処理を施したチタンスクラップ13がインゴットメーカーにリサイクルされた後の好ましい工程の一例を表している。即ち、図5(a)に示すように、個体識別情報21および処理履歴情報22が付与されたチタンスクラップ13は、搬送ライン上を移送され、搬送ラインの途中に配設した自動読み取り装置40にて、当該チタンスクラップ13に付与された個体識別情報21および処理履歴情報22を読み取らせるように構成されている。
【0060】
自動読み取り装置40にて読み取られた個体識別情報21および処理履歴情報22は、次いで、データサーバコンピュータに伝送される。データサーバコンピュータには、個体識別情報21と関連づけられた化学組成等のデータベースが構成されており、読み取られた個体識別情報21とデータベースとを照合することにより、当該チタンスクラップの、ユーザー側への出荷前の元々の化学組成等の必要な情報を読み出すことができる。また、データサーバコンピュータには、上述の予備実験によって求められた処理の種類と成分変化の関係を示すデータベースも構成されているので、読み取られた処理履歴情報22とデータベースを照合することにより、スクラップの処理履歴による組成変化分の情報も読み出すことができる。
【0061】
次いで、読み出されたスクラップの元々の化学組成の情報と、組成変化分の情報は、演算装置に伝送され、加算されて、スクラップの現在の化学組成の推定値が算出される。さらに、この現在の化学組成の推定値に基づいて、事前に入力しておいた製造目的のインゴットの情報(化学組成および製造速度)に対して、これを満たすために必要なスクラップ13の供給速度と、他に必要であれば添加材14の種類と供給速度を算出して決定することができる。
【0062】
なお、添加材14には、合金成分であるFe、Al、O、Nといった成分を高濃度で含むものや、スポンジチタンといった合金成分を含まないもの等、複数種類の添加材が用意され、それぞれ、演算装置による算出結果に応じて独立に供給される。
【0063】
演算装置によって算出されたスクラップ13の供給速度の情報は、演算装置より、チタンスクラップ13の供給ホッパー42内に充填されたチタンスクラップ13の供給速度を制御する制御装置1Aに伝送され、制御装置1Aによって供給ホッパー42を制御して、スクラップ13が算出結果に応じた速度で供給される。同様にして、合金成分を含む材料やスポンジチタンといった添加材14の種類および供給速度の情報は、制御装置1Bに伝送され、制御装置1Bによって供給ホッパー43を制御して、添加材14が算出結果に応じた速度で供給される。
【0064】
こうして、チタンスクラップ13および添加材14がハース30に供給され、溶解生成した溶湯は鋳型31内に流し込まれ、冷却固化させることによりインゴット11が製造される。さらには、事前に入力しておいたインゴットの製造速度の情報は、生成したチタンインゴット11の引き抜き速度を制御する制御装置1Cに伝送され、その速度にてインゴット11が引き抜かれる。
【0065】
なお、図5では、添加材14の供給系統(添加材14、供給ホッパー43および制御装置1B)は1列のみを代表させて図示しているが、必要に応じて、供給系統を複数列配置して、複数の添加材を必要に応じて独立して供給することができる。
【0066】
また、個体識別情報21および処理履歴情報22が、スクラップ13の直接刻印されたものである場合は別段対処を必要としないが、ICタグ20に記録されたものである場合は、自動読み取り装置40によって読み取られてから供給ホッパー42に充填されるまでの間に、適宜、ICタグ20をスクラップ13から除去する工程が必要となる。
【0067】
演算装置における、必要な原料の種類および供給速度は、例えば、次のようにして算出される。例えば、事前に入力しておく目的のインゴットの情報が、
チタン濃度:CTi(定数)
酸素濃度:C(定数)
窒素濃度:C(定数)
製造速度:V(定数)
であり、読み取られた、あるスクラップの成分変化を加味した現在の情報が、
チタン濃度:CTi(定数)
酸素濃度:C(定数)
窒素濃度:C(定数)
供給速度:V(変数)
であり、酸素添加材(例えば酸化チタン)の情報が、
チタン濃度:CA1Ti(定数)
酸素濃度:CA1(定数)
供給速度:VA1(変数)
であり、窒素添加材(例えば窒化チタン)の情報が、
チタン濃度:CA2Ti(定数)
窒素濃度:CA2(定数)
供給速度:VA2(変数)
であり、スポンジチタンの情報が、
チタン濃度:CTiTi(=100%、定数)
供給速度:VTi(変数)
である場合、下記の数式が成立する。
【0068】
Ti・CTiTi + VA1・CA1Ti + VA2・CA2Ti + V・CTi = V・CTi (チタンについての等式)
A1・CA1+ V・C= V・C (酸素についての等式)
A2・CA2+ V・C= V・C (窒素についての等式)
【0069】
目的のインゴットの速度Vおよび濃度Cと、スクラップと添加材の濃度Cは定数として既知であるので、これら数式のうちスクラップと添加材の速度Vを連立方程式の変数として解くことにより、最適なスクラップ供給速度および添加材供給速度を決定して、制御することができる。
【0070】
その際、材料の組み合わせによっては解が一通りに定まらない場合があるが、その場合は、チタンスクラップ13の供給速度を優先して決定する場合と、添加材14の供給速度を優先して決定する場合を選択して、解を任意の一通りに決定することができるが、この点は、原料のストック状況に応じて適宜使い分けることができる。
【0071】
前記したような制御ロジックを演算装置に組み込んでおくことにより、チタンスクラップの溶解炉への供給速度に合わせて、各添加材の供給速度を制御することができるという効果を奏するものである。
【0072】
符号41は、インゴット11の生成速度の検出装置であり、上記の制御によるインゴット製造工程において、原料供給の誤差や、溶湯の揮発等の変動要因で実際のインゴット製造速度を検出し、これを演算装置にフィードバックして、原料の供給速度やインゴット11の引き抜き速度の制御に寄与させることができる。
【0073】
前記したような装置制御構成とすることで、目的とする組成を有するインゴットを効率よく生産することができるという効果を奏するものである。
【0074】
2−3)第2実施形態
図6は、本発明の別の好ましい態様を表している。
当該実施態様においては、第1実施形態の場合と異なり、自動読み取り装置40で個体識別情報21および処理履歴情報22が読み取られたチタンスクラップ13は、一旦、搬入装置44を経由して倉庫Sに搬入される。この工程を複数種類のスクラップについて繰り返し、それぞれ倉庫S1、S2、・・・、SNに独立して保管される。
【0075】
このとき、各スクラップが倉庫に搬入されるとともに、自動読み取り装置40によって読み取られた個体識別情報21および処理履歴情報22は、データサーバコンピュータに伝送され、さらに、各チタンスクラップが搬入された倉庫番号(S1、S2、・・・、SN)の情報も、個体識別情報21および処理履歴情報22に付加した形で格納される。
【0076】
続いて、第1実施形態と同様に、溶製される目的のインゴットの化学組成および製造速度が入力され、これに応じて、演算装置によって、まずはスクラップの処理履歴を加味した現在の組成成分の推定値が算出され、必要なスクラップ種類および供給速度、添加材種類および供給速度が算出され、算出結果は、搬出装置45に伝送され、適宜、倉庫の中から好ましいチタンスクラップが自動的に選択され、特定のチタンスクラップおよび添加材をハースに供給するように構成したことを特徴とするものである。
【0077】
本実施形態においても、第1実施形態と同様、化学組成濃度と供給速度の連立方程式の解が一通りに定まらない場合があるが、この場合も、倉庫に保管されたスクラップの中から、優先的に使用するべき種類を定めて、残りのスクラップおよび添加材についての変数を決定することができる。
【0078】
前記したような態様とすることにより、第1実施形態に比べて、幅広いスペックを有するインゴットを溶製することができるという効果を奏するものである。
【0079】
2−4)その他の変更例
本発明においては、上述したように、個体識別情報21および処理履歴情報22を別個にサーバーコンピュータに格納してデータベースを構成することもできるが、他の態様として、処理履歴情報22を読み取った時点で成分変化分を個体識別情報21に加算して、個体識別情報21のデータベースとして両者を統合して構成することもできる。
【0080】
本発明に用いるチタンスクラップは、チタン切粉、チタンチップ、あるいはチタンクロップを好適に用いることができる。ここでいう、チタンクロップとは、チタンインゴットの圧延工程で生成する比較的厚みのあるチタンブロックであり、直方体状のチタンスクラップとなる。このような形状なチタンクロップは、直方体形状の搬送装置を有した電子ビーム溶解炉を用いることにより好適に溶解することができるという効果を奏するものである。
【0081】
さらには、本発明に使用する添加材は、Ti、Fe、Al、V、Sn、Siから選択される単体金属、または、Ti、Fe、Al、V、Sn、Si、OまたはNのうち一または複数を含む合金または酸化物であることを好ましい態様とするものである。
【0082】
具体的には、酸化チタンや酸化鉄などの純チタンに添加する酸素源のみならず、スポンジチタンを含むものとする。後者のスポンジチタンは、チタンスクラップのみでは、要求されるチタンインゴットの生産量に追いつかない場合や、生成されるチタンインゴット中の要求特性を満足させる必要がある場合に有効な添加材となりうる。
【0083】
これらの元素を適宜選択して組み合わせることにより、広い範囲のスペックを有するチタンインゴットを溶製することができるという効果を奏するものである。
【0084】
本願発明においては、チタンスクラップに付与する前記固体識別情報および処理履歴情報を記録するICタグは、できる限り微細なものを選択することが好ましい。その結果、溶解に先立って前記ICタグをチタンスクラップから除去することなく溶解した場合にも溶製されたチタンインゴットの品質汚染を最小限に抑制することができる。
【0085】
なお、溶製されるインゴットに対する品質要求特性が厳しい場合には、レーザー刻印などの手法によりチタンスクラップ自身に固体識別情報および処理履歴情報を記録することにより、ICタグの溶解に伴う品質汚染を効果的に抑制することができるという効果を奏するものである。
【実施例】
【0086】
以下、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明する。
個体識別情報が付与されたチタンスクラップを原料とし、電子ビーム溶解炉を用いてチタンインゴットを溶製した。
1.溶解原料
1)チタンスクラップ:チタンクロップ
2)添加材
チタン源:スポンジチタン
酸素源:粉状酸化チタン
2.個体識別情報記録媒体
ICタグ:チタンクロップの表面に付与されたICタグ
ここでは、同チタンクロップの加工履歴が記載されたおり、上記した計算式(1)〜(6)を用いて、チタンクロップの酸素含有率および窒素含有率を、元のチタンインゴットの組成に上乗せする形で演算処理した。
3.溶解炉
1)ハース付電子ビーム溶解炉:出力400kW
2)鋳型径:100mm
4.インゴット評価
溶製されたインゴットを熱間鍛造してビレットに加工した後、1mmの厚みのシートに加工した。シート状に加工されたチタン材を透過型X線、EPMAおよび光学顕微鏡によりシート状チタン材のLDIの有無、酸素および鉄の偏析状況につき調査した。
【0087】
[実施例1]
図5に示す装置および制御システムを用いて、チタンスクラップとしてブロック状のチタンクロップを用いて、チタンインゴットを溶製した。溶製されたチタンインゴットの酸素、窒素および鉄の分析値を前記の方法で、インゴットTOP、MiddleおよびBottomにそれぞれについてEPMAにより分布状況を調査した。
【0088】
調査結果を表1に示す。表1に示すように、生成インゴット中の鉄、酸素および窒素の濃度成分の偏析はごく僅かであった。また、生成インゴット中には、LDIは観察されなかった。
【0089】
【表1】

【0090】
[実施例2]
図3に示す装置および制御システムを用いて、チタンスクラップとしてブロック状のチタンクロップを用いてチタンインゴットを溶製した。溶製されたチタンインゴットは、実施例と同様の方法でインゴットの品質を評価した。その結果を表2に示す。
ここでは、同チタンクロップの加工履歴が記載されたおり、上記した計算式(1)〜(6)を用いて、チタンクロップの酸素含有率および窒素含有率を、元のチタンインゴットの組成に上乗せする形で演算処理した。
【0091】
【表2】

【0092】
[実施例3]
実施例1において、個体識別情報をICタグに代えて、レーザーを使用したデジタルマークにて付与されたチタンクロップを使用した以外は、同じ条件で溶製されたチタンインゴットの品質を調査した。その結果を表3に示した。
【0093】
ここでは、同チタンクロップの加工履歴が記載されたおり、上記した計算式(1)〜(6)を用いて、チタンクロップの酸素含有率および窒素含有率を、元のチタンインゴットの組成に上乗せする形で演算処理した。
【0094】
表3に示すように、溶製されたインゴットには、LDIは検出されなかったのみならず、鉄、酸素および窒素は、均一な分布状況であることが確認された。
【0095】
【表3】

【0096】
[実施例4]
実施例1において、粉状酸化鉄を添加材として用いた以外は、同じ条件下にてチタンインゴットを溶製した。溶製されたチタンインゴット中の鉄、酸素および窒素の分布状況は、表4に示すように極めて均一であった。
【0097】
【表4】

【0098】
[実施例5]
実施例1において、添加材として、Al−V母合金を用いた以外は、同じ条件下にて、6Al−4V合金を溶製した。溶製されたインゴット中のAlおよびVの分布状況を分析し、表5にその結果を示した。
【0099】
【表5】

【0100】
[比較例1]
実施例1において、個体識別情報が付与されていないチタンスクラップのリサイクル材を用いてチタンインゴットを溶製した。当該比較例においては、溶解原料に用いるチタンスクラップの酸素および窒素を分析すると共に個別のチタンスクラップの重量も測定した。 測定された情報に基づき、溶解に使用するチタンスクラップの酸素および窒素の平均値を求め、この値をチタンスクラップ全体の代表値とした。さらには、前記チタンスクラップの重量も、ほぼ同じになるように事前に溶断しておいた。
【0101】
以上のような手順を踏んでから、電子ビーム溶解装置を用いて、チタンインゴットを溶製した。溶製されたチタンインゴットの組成を表6に示した。溶製されたインゴットの組成は、全体としては、実施例1とは、遜色のないものであり、溶製されたインゴット中の酸素および窒素の偏析はなく、均一な組成のインゴットが溶製された。しかしながら、実施例1に比べて、溶解操作までに種々の工程が必要となり、インゴットの生産性は、本発明を使用した実施例1に比べて5.9%低下した。
【0102】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0103】
チタン合金インゴットの製造工程の効率向上に寄与し、有望である。
【符号の説明】
【0104】
10…原料
11…インゴット、
12…製品、
13…スクラップ、
20…ICタグ、
21…個体識別情報、
22…処理履歴情報、
30…ハース、
31…鋳型、
40…自動読み取り装置、
41…検出装置、
42、43…供給ホッパー、
44…読取装置、
45…書き込み装置、
50…組成変化部分(酸化物/窒化物)
1A〜1C…制御装置、
2A〜2C…制御装置、
S1〜SN…倉庫。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンスクラップをチタンインゴット原料の一部として溶解するチタンインゴットの溶解方法であって、
前記チタンスクラップには、その化学組成、質量、およびそれ以外の前記チタンスクラップ固有の情報から選択される一または複数の情報からなる個体識別情報と、前記チタンスクラップに対して既に実施された処理の種類および前記処理に伴う付帯情報からなる処理履歴情報とが付与されており、
一または複数種類のチタンスクラップを自動読取手段に通過させて個々のチタンスクラップの前記個体識別情報および前記処理履歴情報を取得し、
前記取得した個体識別情報および前記処理履歴情報をデータサーバコンピュータに伝送して格納し、
前記処理履歴情報から予測される前記チタンスクラップの化学組成の変化分に基づいて、前記個体識別情報中の化学組成の情報を演算手段によって補正し、
インゴット製造の最初の段階においては、前記データサーバコンピュータに格納された前記補正された個体識別情報の中から目的とするインゴット製品の化学組成および生産速度を満たすように、前記チタンスクラップ、スポンジチタン、および/または添加材のうちの必要な組み合わせおよびそれぞれの供給速度を演算手段によって算出し、
前記組み合わせおよび供給速度の算出結果に対応した電気信号を、前記チタンスクラップ、前記スポンジチタン、および/または前記添加材の各々の供給手段の供給速度制御手段へ前記演算手段から伝送してこれらの供給を開始し、
インゴット製造開始後の段階においては、インゴット製品の引き抜き部位に装備された検出手段によって前記インゴット製品の実際の生産速度を読み取り、
前記演算手段は、前記実際の生産速度に基づいて、前記チタンスクラップ、前記スポンジチタン、および/または前記添加材の供給速度を制御することを特徴とするチタンインゴットの溶解方法。
【請求項2】
前記個体識別情報および前記処理履歴情報が、前記スクラップ表面に直接形成された刻印、二次元図形、または、前記スクラップに装着されたICチップとして記録されていることを特徴とする請求項1に記載のチタンインゴットの溶解方法。
【請求項3】
前記二次元図形が、デジタルコード、QRコード、バーコードから選択される画像パターン、あるいは文字であることを特徴とする請求項2に記載のチタンインゴットの溶解方法。
【請求項4】
前記個体識別情報が、前記スクラップの発生源である元のインゴットの製造工程において、インゴットに記録されたものであることを特徴とする請求項1に記載のチタンインゴットの溶解方法。
【請求項5】
前記個体識別情報が、前記スクラップの発生源である元のインゴットの加工後に前記スクラップに記録されたものであることを特徴とする請求項1に記載のチタンインゴットの溶解方法。
【請求項6】
互いに異なる個体識別情報および前記処理履歴情報を有する複数種のチタンスクラップがそれぞれの種に対応する原料倉庫に格納されるとともに前記個体識別情報および前記処理履歴情報が前記データサーバコンピュータに格納され、
前記データサーバコンピュータを介して前記演算手段により算出された必要なチタンスクラップ種が、自動的に選別されて前記原料倉庫から原料供給手段へ搬出されることを特徴とする請求項1に記載のチタンインゴットの溶解方法。
【請求項7】
請求項1に記載の固体識別情報および前記処理履歴情報が付与された状態にあるチタンスクラップをそのまま溶解することを特徴とするチタンインゴットの溶解方法。
【請求項8】
前記チタンスクラップが、純チタン材またはチタン合金材であることを特徴とする請求項1に記載のチタンインゴットの溶解方法。
【請求項9】
前記添加材が、Ti、Fe、Al、V、Sn、Siから選択される単体金属、または、Ti、Fe、Al、V、Sn、Si、OまたはNのうち一または複数を含む合金または酸化物であることを特徴とする請求項1に記載のチタンインゴットの溶解方法。
【請求項10】
チタンスクラップをチタンインゴット原料の一部として溶解するチタンインゴットの溶解装置であって、
一または複数種類の各々のチタンスクラップに付与された、その化学組成、質量、およびそれ以外の前記チタンスクラップ固有の情報から選択される一または複数の情報からなる個体識別情報および前記チタンスクラップに対して既に実施された処理の種類および回数の情報からなる処理履歴情報を取得する自動読取手段と、
前記取得した個体識別情報および処理履歴情報を格納するデータサーバコンピュータと、
前記処理履歴情報から予測される前記チタンスクラップの化学組成の変化分に基づいて前記個体識別情報中の化学組成の情報を補正するとともに、インゴット製造の最初の段階において前記データサーバコンピュータに格納された前記個体識別情報の中から目的とするインゴット製品の化学組成および生産速度を満たすように、前記チタンスクラップ、スポンジチタン、および/または添加材のうちの必要な組み合わせおよびそれぞれの供給速度を算出する演算手段と、
前記チタンスクラップ、前記スポンジチタン、および/または前記添加材を供給する供給手段と、
前記組み合わせおよび供給速度の算出結果に対応した電気信号によって、前記チタンスクラップ、前記スポンジチタン、および/または前記添加材の各々の供給手段を動作させる供給速度制御手段と、
インゴット製造開始後の段階において、インゴット製品の引き抜き部位に装備され前記インゴット製品の実際の生産速度を読み取る検出手段とを備え、
前記演算装置は、前記実際の生産速度に基づいて、前記チタンスクラップ、前記スポンジチタン、および/または前記添加材の供給速度を制御することを特徴とするチタンインゴットの溶解装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−31870(P2013−31870A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169174(P2011−169174)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】