説明

スクリーニング方法

一態様において、本発明は、ウイルス侵入の阻害剤を同定する方法であって、レポーター遺伝子を発現し、かつエフェクター粒子による侵入を支援することができる指標細胞を提供すること、ウイルス侵入の候補阻害剤を提供すること、該候補阻害剤および該指標細胞を共区画化すること、該指標細胞とエフェクター粒子とを接触させること、任意のエフェクター粒子侵入を生じさせるようにインキュベートすること、ならびに該指標細胞をレポーター遺伝子活性についてアッセイし、その際、レポーター遺伝子活性の検出により候補阻害剤がウイルス侵入の阻害剤として同定されることを含む前記方法に関する。エフェクター粒子はHIVであることが好ましく、レポーター遺伝子はCD4-β-ラクタマーゼ融合体またはtPA融合体であることが好ましく、レポーター遺伝子活性は不活性基質を切断して蛍光生成物を得ることによりアッセイすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染および/または細胞へのエフェクター粒子侵入を試験するためのアッセイに関する。典型的なエフェクター粒子は、偽型ウイルス粒子または野生型ウイルス粒子である。さらに、本発明は、感染に耐性のある細胞の選択、および感染/侵入の阻害剤の同定に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染は、世界中において健康(特にヒトの健康)に対する絶えることのない脅威である。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)だけでも死亡者数は2003年に3百万人、肝炎の死亡者数は百万人を超えた。さらに、鳥インフルエンザウイルス(「鳥インフルエンザ」と呼ばれることが多い)等の新しいウイルスが同定され続けており、ヒト等の他種にとって極めて危険となり得る。
【0003】
これらのウイルスを試験するためのツール、特にウイルス侵入および感染に対する可能性のあるモジュレーターのアッセイの必要性は明白である。
【0004】
既存のウイルス感染アッセイは、ウイルス感染の際のレポーター遺伝子の発現に基づいている。例えば、いわゆるLTR駆動型レポーター遺伝子が、HIV感染をモニタリングするために確立されている。このような先行技術の系においては、緑色蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光色素をコードする遺伝子を、HIV感染の際に細胞中で発現されるように配置する。アッセイの読み出しはこのGFPの蛍光である。この系の問題の1つは、陽性シグナルが、阻害ではなく感染に結び付けられることである。
【0005】
従って、ウイルス感染の阻害についての公知のアッセイは、陽性の読み出し(例えば、蛍光シグナル)を、感染自体に結び付けその阻害には結び付けない。これらの系は、ウイルス細胞侵入の際の宿主細胞中でのレポーター遺伝子(例えば、gfp)の発現に基づいている。可能性のあるウイルス感染阻害剤についてスクリーニングする場合、ウイルス粒子および宿主細胞を薬剤候補の存在下でインキュベートする。その後、レポーター遺伝子発現(例えば、蛍光)を決定する。従って、(薬剤を全く含まない対照サンプルと比べた場合の)所与のサンプルにおけるシグナル低下は、ウイルス細胞侵入の有効な阻害剤により生じるはずである。しかし、ウイルス細胞侵入ではなくレポーター遺伝子発現を(例えば、宿主細胞を殺すことにより)阻害する薬剤候補は、従来技術の系においては必然的に偽陽性として選択される。さらに、宿主細胞に対する薬剤候補の有害な副作用も同様の問題を生じる。
【0006】
Adelsonら(Antimicrob Agents and Chemotherapy 2003 501-508頁)は、HIV1に対抗する新規化合物を研究するためのウイルス細胞利用型アッセイの開発を開示している。この文献で開示される系は、確立されている複製欠損HIV利用型ベクターの使用を伴う。これらのベクターは、GFP等のレポーター遺伝子を備えている。アッセイは、部分的にプロデューサー細胞系で行われ、部分的にはパッケージング細胞系で行われる。これらのウイルスベクターのプロセシングおよびライフサイクルを、これらの異なる細胞状況においてモニタリングする。これらのアッセイのレポートおよび読み出しは全て、ウイルスベクターに担持されるGFP等のレポーター遺伝子に基づいている。レポーター遺伝子をスイッチオフする化合物は興味深く考えられている。明らかに、これらのアッセイは一般的に細胞傷害性化合物とウイルスライフサイクルに対して特定の作用を示す化合物とを区別できない。これらの方法で使用される細胞系はレポーター遺伝子を発現しない。
【0007】
US6,884,576は、HIV薬剤耐性をモニタリングする方法を開示している。この系は、組換え細胞にHIVウイルスが感染する際にHIVウイルスのゲノムにより発現されるHIVウイルスに特異的なタンパク質によりその発現が調節されるレポーター遺伝子を含む組換え細胞の使用に基づいて構築されている。このレポーター遺伝子の発現の調節は、US 6,884,576の第9欄で議論されている。そこでは、レポーター遺伝子の発現をモジュレートするのに関与する調節タンパク質が、HIV転写活性化因子、HIV補助タンパク質、HIV構造タンパク質またはHIV酵素タンパク質であり得ると説明されている。これらの異なる可能性についての例が記載されている。従って、US 6,884,576は、特定のプロモーターに対するウイルス作用を利用してアッセイを行うことを主に意図していると思われる。Dongの系は、レポーターの発現と感染とを結び付け、それにより、ウイルスが細胞に感染する場合に陽性の読み出しを生成する。Dongが記載するアッセイは、ウイルス複製を必要とし、従って、この系においては、ウイルスライフサイクルのいずれかの要素が妨害されることにより陽性シグナルが生じる。最後に、Dongの系は、非感染関連事象(ウイルス受容体の欠失等)を区別することができず、従ってこの理由により偽陽性の選択を起こしがちである。
【0008】
Siegertら(2005 AIDS Res. and Therapy vol. 2、7頁)は、MLV/HIV-1偽型ベクターを用いたHIV-1侵入阻害剤の評価を開示している。Siegertらは、HIV-1 envタンパク質で偽型化され、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするレトロウイルスベクターゲノムを担持するMLV粒子を開示している。同じく、この系は、感染が成功すると侵入するウイルスゲノムからGFPが発現され、従って感染の阻害によりシグナルが欠如するという原理に基づいている。この系は、シグナリング系自体のいずれかの要素の阻害により「偽陽性」読み出しが生じるという問題を抱えている。
【0009】
本発明は、従来技術に関連する問題を克服することを追求する。
【発明の開示】
【0010】
発明の要旨
本発明は、ウイルス粒子侵入によって媒介される特定の遺伝子(例えば、CD4等のウイルス受容体)の細胞性のダウンレギュレーションを使用して、代替的なアッセイを作製できるという驚くべき発見に基づく。
【0011】
本発明の利点は、感染を陽性シグナルと結び付ける従来技術とは異なり、これらの系が感染の阻害を陽性シグナルと結び付けることにある。この特徴により、感染/侵入に対して特異的な阻害作用無しになんらかのメカニズムによりシグナルを阻害する化合物等の偽陽性化合物の選択が有利に減少する。
【0012】
従って、本発明は、エフェクター粒子感染(例えばウイルス感染)の不在下では安定状態のシグナルを生成するが、感染するとシグナルエレメントのダウンレギュレーションが生じて読み出しの損失をもたらすアッセイ系を提供する。従って、感染していないままの細胞のみがシグナルを生成し続け、それにより感染の阻害剤の存在を同定する。これは、シグナルを損なう系へのあらゆるインプットが「陽性」結果につながってしまう従来技術の系とは全く対照的で、本発明は感染自体の予防または阻害が持続的なシグナルをもたらし、アッセイの偽陽性が減るかさらには排除される系を有利に提供する。
【0013】
一態様において、本発明は、ウイルス侵入の阻害剤を同定する方法であって、レポーター遺伝子を発現し、かつエフェクター粒子による侵入を支援することができる指標細胞を提供すること、ウイルス侵入の候補阻害剤を提供すること、該候補阻害剤および該指標細胞を共区画化(co-compartmentalise)すること、該指標細胞をエフェクター粒子と接触させること、インキュベートして任意のエフェクター粒子侵入を生じさせること、ならびに該指標細胞をレポーター遺伝子活性についてアッセイし、その際、レポーター遺伝子活性の検出により候補阻害剤をウイルス侵入の阻害剤として同定されること、を含む方法に関する。
【0014】
共区画化とは、エレメントが同じ水相の中にあり、従って互いと接触可能であることを意味することが好ましい。共区画化は、エレメントが実際の細胞内にあることを意味してもよく、例えば、候補阻害剤が指標細胞により発現された場合にはそれは該細胞と「共区画化された」とみなされ得る。
【0015】
候補阻害剤は、試験されることが望ましい化学物質などの任意の薬剤であり得る。は、有機化合物または他の化学物質であり得る。薬剤は、任意の適切な由来源から得られるかまたはそれにより生成される、天然または人工の化合物であり得る。薬剤は、アミノ酸分子、ポリペプチド、それらの化学誘導体、またはそれらの組合せであり得る。薬剤は、ポリヌクレオチド分子であり得る。薬剤は抗体であり得る。薬剤は、ペプチドおよび有機小分子等の他の化合物を含み得る化合物のライブラリーから設計または入手できる。例として、薬剤は天然物質、生物学的高分子、または細菌、菌類もしくは動物(特に、哺乳動物)の細胞もしくは組織等の生物学的材料から調製された抽出物、有機もしくは無機分子、合成薬剤、半合成薬剤、構造的もしくは機能的模倣体、ペプチド、ペプチド模倣体、誘導体化薬剤、タンパク質全体から切断されたペプチド、または合成法により(例えば、ペプチド合成機の使用、組換え技術、もしくはそれらの組合せにより)合成されたペプチドであり得る。典型的には、薬剤は有機化合物である。典型的には、有機化合物は2つ以上のヒドロカルビル基を含む。本明細書において、「ヒドロカルビル基」という用語は、少なくともCおよびHを含み、かつ任意に1つ以上の他の適切な置換基を含み得る基を意味する。このような置換基の例としては、ハロ-、アルコキシ-、ニトロ-、アルキル基、環状基等が挙げられ得る。置換基は、非分枝鎖または分枝鎖であり得る。置換基が環状基である可能性に加えて、置換基の組合せで環状基が形成されてもよい。ヒドロカルビル基が2つ以上のCを含む場合、これらの炭素は互いに結合している必要は必ずしもない。例えば、少なくとも2つの炭素が適切なエレメントまたは基を介して結合していてもよい。従って、ヒドロカルビル基はヘテロ原子を含み得る。適切なヘテロ原子は当業者には明白であり、例えば、硫黄、窒素および酸素を含む。一部の用途のためには、薬剤は少なくとも1つの環状基を含むことが好ましい。環状基は、非融合多環式基等の多環式基であり得る。
【0016】
候補阻害剤はポリペプチドであることが好ましい。候補阻害剤がポリヌクレオチドまたはポリペプチド等のポリマーの場合、候補阻害剤は指標細胞中で生成されて提供されることが好ましい。これは、ペプチドライブラリー等、候補阻害剤をコードする発現ライブラリーを導入することにより行ってもよい。
【0017】
侵入を支援することができる、とは、阻害剤が存在しない限りは、エフェクター粒子が細胞表面を破り(breach)し、その核酸を細胞内部に通常通りに送達できることを意味する。細胞が侵入を支援することができるようになるためには、適切なウイルス受容体/補助受容体を、それらの発現を誘導できる構築物のトランスフェクションまたは形質導入等により供給する必要があり得る。
【0018】
細胞はレポーター遺伝子を発現する。これは、レポーター遺伝子のトランスフェクションまたは形質導入、好ましくは形質導入によってもたらされ得る。このトランスフェクションまたは形質導入は、一過性でも安定的であってもよく、好ましくは安定的であり得る。最も好ましくは、指標細胞が細胞のゲノムに安定して組み込まれているレポーター遺伝子を発現する。これは、エフェクター粒子と接触する前に達成されていることが好ましい。
【0019】
インキュベーションステップは、可能な場合に、任意の侵入を生じさせるためのものである。明らかに、阻害剤が存在する場合には侵入は不可能である(すなわち阻害される)。インキュベーションは、阻害剤が存在しない場合には通常の侵入が生じてレポーター遺伝子の予想されるダウンレギュレーションが生じるように適切な持続時間でなればならない。これに必要な時間は、選択した細胞、エフェクター粒子および/またはレポーター系に応じて異なる。所与の系のための厳密なインキュベーション時間は、阻害剤無しで一定の時間の間アッセイを行い、侵入が生じレポーター遺伝子発現が止まった際の時間を選択することにより、決定され得る。
【0020】
レポーター遺伝子は、以下に記載するように任意の適切な手段によりアッセイされ得る。
【0021】
レポーター遺伝子は、蛍光色素、発色団、または直接検出が可能な他の実体をコードし得る。
【0022】
レポーター遺伝子は、蛍光性または発色性基質を蛍光色素または発色団に変換し、それによりその存在が検出可能となる酵素またはその活性断片をコードすることが好ましい。酵素は、細胞内酵素であるか、または細胞表面上に提示され得る。酵素または断片は、細胞表面上に提示されることが好ましい。この細胞表面局在化は好ましくは、ウイルス受容体または膜貫通ドメイン、好ましくはウイルス受容体への融合により達成され得る。この好適な実施形態は、細胞表面上の酵素またはその一部の存在が、ウイルス受容体が細胞表面上で正確に発現および提示されてアッセイの容易な内部検証を可能にする指標であるというさらなる利点を有する。
【0023】
レポーター遺伝子産物は細胞表面に方向付けられることが好ましい。これは、CD4等の細胞表面タンパク質への融合、または膜貫通ドメイン(例えばPDGFR-TM)等の適切なシグナル配列の取り込み(例えば、融合)によるものであり得る。検出を媒介するレポーター遺伝子産物部分は細胞外のものであることが好ましい。これは、検出に使用される試薬/基質を、細胞膜を横切るように推進させることなく容易に利用可能にする。
【0024】
レポーター遺伝子は組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)またはβ-ラクタマーゼであることが好ましい。
【0025】
レポーター遺伝子は、エフェクター粒子(ウイルス粒子等)の侵入の際にダウンレギュレートされることが知られている遺伝子に融合することが好ましい。この融合は、レポーターエレメントおよびエフェクター粒子の侵入の際にダウンレギュレートされることが知られているエレメントを含む遺伝子産物が単一(融合)ポリペプチドとして生成されるよう誘導されるようなコード配列の融合であることが好ましい。
【0026】
ウイルス侵入の際にダウンレギュレートされることが知られている遺伝子はCD4であることが好ましい。
【0027】
レポーター遺伝子は、CD4-tPA融合体またはCD4-βラクタマーゼ融合体等のCD4-レポーター融合体を含むことが好ましい。
【0028】
レポーター遺伝子は、ウイルス侵入の際にダウンレギュレートされることが知られているプロモーターの制御下にあることが好ましい。
【0029】
エフェクター粒子は、レポーター遺伝子の発現を阻害することができるエレメントをコードする核酸を含むことが好ましい。
【0030】
エフェクター粒子は、レポーター遺伝子の発現を阻害することができるshRNAをコードする核酸を含むことが好ましい。
エフェクター粒子は、ウイルスを含むことが好ましく、好ましくは該ウイルスは組換えウイルス、好ましくはウイルスは偽型ウイルスである。別の実施形態では、ウイルスは、生物学的状況に近いアッセイを提供する利点をもたらす野生型ウイルスであることが好ましい。
【0031】
共区画化は、候補阻害剤および指標細胞の両方を含む1滴以上の水滴を形成することによるものであるのが好ましい。一部の実施形態では、共区画化は、候補阻害剤、指標細胞およびエフェクター粒子を含む1滴以上の水滴を形成することによるものであるのが好ましい。
【0032】
水滴は、油中水型エマルジョンの一部であることが好ましい。
【0033】
水滴は、水中油中水型エマルジョンの一部であることが好ましい。
【0034】
候補阻害剤は指標細胞により生成されることが好ましい。これは、候補阻害剤の発現を誘導することができる遺伝子のトランスフェクションによるものであり得る。トランスフェクションは、安定的または一過性であってよく、好ましくは安定的である。
【0035】
レポーター遺伝子は酵素またはその活性断片をコードし、レポーター遺伝子活性の検出は、該指標細胞を該酵素の基質と接触させること、インキュベートして該酵素を該基質に作用させること、および酵素生成物の存在を検出すること(生成物の存在はレポーター遺伝子活性を示す)を含むことが好ましい。
【0036】
検出は、適切な波長における、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)による、蛍光および/もしくは吸光度の変化による、蛍光および/もしくは吸光度の廃止(abolition)による、または蛍光および/もしくは吸光度の生成/開始によるものであり得る。検出は、蛍光(または吸光度)の生成/開始によるものであることが好ましい。この際、基質は非蛍光性(または非吸光性)のものであるが、切断生成物は蛍光性(または吸光性)である。換言すると(または代替的に)、検出は、基質および生成物の目に見えて異なる蛍光(または吸光度)スペクトルによるものであり得る。
【0037】
別の態様では、本発明は、上記方法であって、レポーター遺伝子活性の検出が、指標細胞をレポーター遺伝子産物と反応することができる抗体と接触させること;該抗体と該レポーター遺伝子産物とを結合させるようにインキュベートすること;および該指標細胞上に結合した抗体の存在を検出すること(抗体の存在はレポーター遺伝子発現を示す)により該レポーター遺伝子発現を検出することを含む方法を、提供する。抗体検出を使用する場合、レポーター遺伝子は、ペプチドタグ(HAタグ、mycタグ、flagタグまたは任意の他の適切なタグ等)を含んでその検出が容易になるよう有利に適応され得る。「〜と反応」というのは、抗体がレポーター遺伝子産物と会合した状態となり、抗体の検出(または局在化)がレポーター遺伝子産物の存在(または場所)を示すとみなされ得るような、結合、会合または他の相互作用を意味する。
【0038】
エフェクター粒子はHIVであることが好ましく、レポーター遺伝子はCD4-tPA融合体を含むことが好ましく、レポーター遺伝子活性は、蛍光生成物を生じる不活性基質の切断によりアッセイされることが好ましい。
【0039】
発明の詳細な説明
本発明は、化合物(例えば、小分子、ペプチド、タンパク質、抗体)を、ウイルス感染を阻害するそれらの能力についてスクリーニングおよび選択するための汎用的な迅速かつ感度のよいアッセイを提供する。これは、特定のウイルス等のエフェクター粒子による感染の際にダウンレギュレーションを生じるような、標的細胞中のレポーター遺伝子の発現に基づいている。従って、本明細書に記載のアプローチは、陽性シグナルを、既存のアッセイのように感染自体ではなく、感染の阻害と結び付ける。
【0040】
従来技術とは対照的に、本発明の陽性シグナルウイルス阻害アッセイ(PSVIA)は、陽性の読み出しシグナルをウイルス感染の阻害と結び付ける系に関する。このため、偽陽性の選択の可能性が有意に低くなり、この系は宿主細胞に害を与えない薬剤候補を優先する。さらに、陽性シグナルと所望の性質との直接的な結び付けは、指向進化(directed evolution)戦略およびハイスループットスクリーニング(HTS)のために非常に有利である。
【0041】
本発明は、膜結合アフィニティータグおよび/またはレポーター酵素を(好ましくは構成的に)発現する遺伝子操作された宿主細胞(指標細胞)を利用する。このため、これらの細胞は、抗体で染色されるか、および/または非蛍光性基質の蛍光性生成物への変換についてアッセイされ得る。ウイルス細胞侵入の阻害をアッセイするために、指標細胞をエフェクター粒子(例えば、ウイルス粒子)とインキュベートしてもよい。これらは、レポーター遺伝子発現を(例えば、shRNA、アンチセンスRNA、転写リプレッサーもしくは自殺遺伝子に基づいて)ダウンレギュレートする遺伝子を形質導入するか、またはそれ自身の侵入のメカニズムにより発現をダウンレギュレートし得る。従って、エフェクター粒子侵入がレポーター遺伝子シグナルの低下を生じる一方で、非形質導入細胞は最大シグナル強度を示す。
【0042】
好適な実施形態では、本系は、ヒト組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA-HA)の膜結合形態およびHAタグ付け形態を発現する指標細胞を利用する。この酵素は、プラスミノーゲンをプラスミンに変換し、プラスミンがその後非蛍光性基質を蛍光性生成物に変換する。エフェクター粒子として、MLV(VSV-G Env)偽型粒子が好ましい。これらの粒子はtPA-HAに対するshRNAをコードするベクターをパッケージングした。エフェクター粒子の細胞侵入の際、shRNAが指標細胞中で発現され、tPA-HAのダウンレギュレーションを生じる。
【0043】
明らかに、一部の実施形態では、tPAの検出は、プラスミンに対する作用やその後の発色性または蛍光性基質に対するプラスミンの作用ではなく、発色性または蛍光性基質に対する直接作用によるものであり得る。
【0044】
本発明の利点は、本アッセイが従来技術と比べて偽陽性阻害剤を選択する可能性を低くしたことである。
【0045】
本発明は、最適な阻害剤濃度の簡単な決定を可能にする。
【0046】
指向進化アプローチとの適合性は、本明細書に開示するアッセイにより提供される。
【0047】
本発明は、高い柔軟性を提供し、異なるウイルス種の阻害剤の選択を可能にする。
【0048】
本発明は、野生型ウイルスを用いて作業する必要性を緩和する(例えば偽型粒子の使用)等の多数の安全な特徴を有する。しかし、一部の実施形態は、実際のウイルス粒子の使用を伴い、これは、最も臨床的に関連するウイルスサンプルの挙動を研究するのに有利である。
【0049】
好適な実施形態において、本発明は、野生型ウイルスの代わりに複製能を示さないレトロウイルス偽型粒子を使用できるため、既存の技術よりもさらに利益をもたらす。まず、この実施形態では、生ウイルスが必要ないため、全ての作業が封じ込めレベル1(containment level one)の研究室において行うことができる。
【0050】
さらに、偽型化のモジュール系(modular system)は、異なるウイルス種の阻害剤の選択を可能にする。この目的のため、適用するエンベロープタンパク質のみを交換しなければならない。レトロウイルス粒子の指向性はそのエンベロープタンパク質(Env)により決定するため、VSV-Gタンパク質を、他のウイルス種(例えば、HIV、HCV、SARS関連コロナウイルス、インフルエンザ)のエンベロープタンパク質に対して交換することで、多種多様のウイルスのための細胞侵入アッセイが得られる。適用される指標細胞系は、対応する受容体がその細胞系により発現される(内因的に、または細胞系の遺伝子組換えにより、受容体発現される)限り、異なるウイルス種についても同様でありうることは有利である。従って、本発明のアッセイは様々な用途のために簡単に改変され得る。
【0051】
定義
本明細書で使用する「指標細胞」という用語は、レポーター遺伝子発現を支援することができ、かつエフェクター粒子侵入を支援することができる任意の適切な細胞を意味する。エフェクター粒子がウイルスの場合、指標細胞は該ウイルスの天然宿主種から誘導されることが好ましい。好ましい指標細胞は293 EBNA T細胞またはHEK293T細胞であり;指標細胞はHEK293T細胞から誘導されることが好ましい。
【0052】
本明細書で使用する「エフェクター粒子」という用語は、病原体による感染、形質導入または細胞侵入を模倣することができる任意の粒子を意味する。この粒子は、病原体による感染のシミュレーションまたは模倣に有用な任意の粒子であり得る。この粒子は、核酸成分を担持することができ、これを指標細胞の内部に、好ましくはウイルス等の病原体のメカニズムに類似するメカニズムにより、好ましくはウイルス等の病原体のメカニズムと同一のメカニズムにより、送達できることが最も好ましい。好ましくは、粒子はウイルスまたはウイルス様粒子であり(またはそれらから誘導されたものであり)、好ましくはγ-レトロウイルスまたはレンチウイルス、好ましくはレンチウイルスであり;好ましくは組換えウイルス;より好ましくは異種エンベロープタンパク質で偽型化された組換えウイルスである。
【0053】
レポーター遺伝子のダウンレギュレーションを生じ得る核酸(shRNA、転写因子、アンチセンスRNA、または自殺遺伝子等;好ましくはshRNA)を含み、目的のウイルス種のエンベロープタンパク質を提示している偽型粒子等の組換えエフェクター粒子を用いることができる。このエンベロープタンパク質は、所望であれば修飾され得る(例えば、C末端の平滑末端化)。偽型化および関連技術は当該分野で周知である。
【0054】
組換えエフェクター粒子を使用することで、本発明のアッセイは、異なるウイルス種用に簡単に改変され得る。パッケージング細胞中で発現され(そしてその後粒子上で提示され)るウイルスエンベロープタンパク質を交換することにより簡単に、多種多様な種に対する阻害剤が選択できる。ベクターのパッケージングされた核酸エレメントの性質を変える必要も、新しいレポーター遺伝子構築物を作製する必要もない。有利なことに、対応するウイルス受容体が発現される限り、種特異的指標細胞の必要さえもない。
【0055】
本明細書で使用する「レポーター遺伝子」という用語は、当該分野における通常の意味を持ち、すなわち、例えばその遺伝子の発現状態についての情報を得るためにその生成物を容易に検出することができる遺伝子である。典型的なレポーター遺伝子は、蛍光タンパク質または酵素を含む。好ましいレポーター遺伝子はβ-ラクタマーゼ(ベータラクタマーゼ)または組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)であり、これらは両方とも当該分野で周知である;レポーターはtPAであることが好ましい。
【0056】
レポーター遺伝子は、細胞表面に方向付けられるレポーター遺伝子産物をコードすることが好ましい。これは、CD4等の細胞表面受容体との融合により達成され得るか、またはPDGF-TM等の膜貫通ドメインとの融合により達成され得る。
【0057】
レポーター遺伝子は、細胞膜への遺伝子産物の輸送を誘導するシグナル配列を含むことが好ましい。
【0058】
レポーター遺伝子は、CD4-tPA融合体もしくはCD4-βラクタマーゼ融合体等のCD4-レポーター融合体、またはPDGF-TM-tPA融合体もしくはPDGF-TM-βラクタマーゼ融合体等のPDGF-TM-レポーター融合体を含むことが好ましい。
【0059】
レポーター遺伝子は、HAタグ、mycタグ、flagタグまたは他のエピトープ、好ましくはHAタグ等の抗体認識配列を含むことが好ましい。
【0060】
レポーター遺伝子は、小胞体へのタンパク質の細胞内経路指定を確実にするシグナル配列を含むことが好ましい。これはIG-K鎖配列であることが好ましい。これは、細胞外ドメインを有するタンパク質(例えば、膜結合または放出タンパク質)についての基本的な必要条件である。細胞膜の細胞外の側への経路指定を確実にするあらゆる配列がIG-Kの代わりに使用できる。
【0061】
本明細書で使用する「レポーター融合体」という用語は、別の遺伝子に融合したレポーター遺伝子を指す。これは、レポーター遺伝子のコード配列のみを他方の遺伝子のコード配列の一部または全体に融合させたものを含んでもよく、それにより、融合したコード配列の全体は、プロモーター、エンハンサー等の他の遺伝子の制御エレメントの制御下に置かれたままである。これは単純に、当該分野で周知なように、レポーター融合タンパク質の生成をもたらす。本発明の好ましいレポーター融合体は、tPAのβ-ラクタマーゼと細胞膜貫通ドメイン(血小板由来成長因子受容体膜貫通ドメイン;PDGFR-TM)もしくはCD4との融合体、または以下により詳細に記載されているものとの融合体である。
【0062】
用途
本発明は、偽陽性化合物(所与の感染アッセイの選択基準を回避するが、感染を特異的に阻害しない化合物)の選択を劇的に減らすため、ハイスループットスクリーニングおよび指向進化技術を含む多くの分野において用途がある。さらに、本発明は、異なる種類、種または分岐群のウイルスに有利に適用できる。さらなる利点は、本発明の方法では偽型粒子を使用でき、従って生または無傷ウイルスの使用を有利に回避できることである。これは、作業手順から高い封じ込めレベルの作業を減らすかまたは失くすことができ、これにより安全性が改善され、本発明のプロセスの費用および管理上の負担が少なくなるという点でさらなる利益を有する。さらなる用途および利益は本明細書に記載する。
【0063】
本発明のアッセイは、宿主細胞ゲノムへのウイルス細胞侵入および/または逆転写および/または組込みを阻害することについて薬剤候補をスクリーニングすることを可能にする。
【0064】
特に、本発明は、マイクロタイタープレートまたは微小流体デバイス(エマルジョン)における小分子のスクリーニング、およびFACSを用いたペプチド、shRNAまたは抗体の遺伝的にコードされたライブラリーのスクリーニングにおける用途を有する。この用途は、有利なことに、新規薬剤および新規薬剤標的の同定を可能にする。
【0065】
さらに、本発明を使用して、サンプル中のウイルスまたは感染力を検出してもよい。この実施形態では、本発明の指標細胞を、目的のウイルスを含むと思われるサンプルと接触させることになる。指標細胞中のレポーター遺伝子は、感染の不在下では「オン」のままである(すなわち、継続的に読み出される)が、感染の際にはシャットオフ(shut off)される(すなわち、シグナルが失われる)。従って、サンプルとの接触後にもしシグナルが失われた場合には、サンプルが目的のウイルスをおそらく含むことを示す。
【0066】
本発明のアッセイ
本発明は、感染または侵入に必要となり得る任意の補助受容体と共に利用する、目的のウイルス受容体を発現している遺伝的に改変された標的細胞(安定した細胞系を含み得る指標細胞)に基づくものである。これらの細胞は、基質を蛍光性、発色性または発光測定生成物に変換することができる、アフィニティータグ、蛍光タンパク質、または酵素等のレポーター遺伝子を発現するように遺伝的に改変される。この種のレポーターシグナルをウイルス感染の阻害と結び付けることは、目的のウイルスによる感染の際にレポーター遺伝子の発現が大幅に低下する(ダウンレギュレートされる)ように構成することによって達成される。原理上、これは、任意の適切な手段により確実になるが、特に好ましいのは以下の通りである。
【0067】
A)レポーター遺伝子産物自体を、目的のウイルスでの感染の際にそれ自体がダウンレギュレートされる細胞性タンパク質に融合させる。例えば、レポーター遺伝子産物は、感染の際に大抵はダウンレギュレートされる対応するウイルス受容体に融合され得る。
【0068】
このような系の具体的な例は、HIV感染の際のCD4受容体のダウンレギュレーションである。この筋書きにおいては、レポーター遺伝子を、nef、envおよびvpu等のHIV遺伝子の同時発現の際には発現が大幅に低下するCD4に融合させる。
【0069】
B)レポーター遺伝子の発現を妨害する遺伝子産物をコードする核酸をパッケージングしたエフェクター粒子を使用する。このようなエフェクター粒子の例は組換えウイルス粒子である。特に、ショートヘアピンRNA(shRNA)、アンチセンスRNA、または他の転写、翻訳および/もしくは翻訳後リプレッサーもしくは自殺遺伝子をコードするベクターをパッケージングしたウイルス粒子を、アッセイにおいて使用できる。
【0070】
このような系の具体的な例は、tPAレポーター遺伝子に対するshRNAをコードするベクターを形質導入する(この例においては、shRNAはレポーター遺伝子のPDGFR-TMドメインに標的化される)MLV由来組換え偽型化粒子の細胞侵入の際の、細胞表面提示されたtPAのダウンレギュレーションである。
【0071】
従って、本発明は、完全に異なるウイルス種の阻害剤をスクリーニング可能なモジュラー組換えウイルス粒子(組換えエフェクター粒子)を生成する戦略を提供する。この目的のために、γレトロウイルス、例えば、レポーター遺伝子に対して標的化されたshRNAをコードするベクターを指標細胞系にパッケージングしており、多種多様の異なるエンベロープタンパク質を機能的に取り込むかまたはその表面上に提示できる、マウス白血病ウイルス由来(MLV由来)またはレンチウイルス(例えばHIV由来)粒子が生成され得る。従って、得られた偽型粒子は、対応するエンベロープタンパク質により媒介される宿主範囲の指向性を示すし、阻害アッセイにおいて野生型ウイルスの代わりに使用できる。これは強力な安全性の利益をもたらすのみでなく、本発明の適用範囲を有利に広げる。
【0072】
従って、一つの態様では、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)によるCD4陽性細胞の感染を阻害する能力について化合物ライブラリーをスクリーニングし得る。CD4受容体(融合タンパク質がHIV粒子の細胞侵入を媒介しない場合には野生型CD4受容体が追加的に発現され得る-これは当業者により容易に決定できる)、および1つ以上の必要とされる補助受容体(CXCR4、CCR5等)に融合させたレポーター遺伝子を安定して発現する適切な指標細胞系が、作製される。これらの指標細胞をマイクロタイタープレートに播種し、各ウェルにおいて様々な化合物の存在下で、HIV-1粒子(すなわち、エフェクター粒子)と共にインキュベートする。感染の際は、ウイルス遺伝子env、vpuおよびnefの発現により、レポーター-CD4融合タンパク質がダウンレギュレートされる。その結果、HIVに感染していない細胞のみがレポーター遺伝子を発現する。従って、陽性レポーターシグナルを示すウェルは、HIV感染を阻害する化合物を含む。これらのアッセイの変更および改変は、アッセイの個々の部分をより詳細に説明する本明細書の関連する節から明らかであろう。
【0073】
本発明は、研究のために選択された任意の適切なウイルス系に適用できる。特に好ましいのはHIV(受容体:CD4、補助受容体:CXCR4、CCR5と共に用いることが好ましい);C型肝炎(HCV)、インフルエンザ、および鳥インフルエンザ(シアル酸受容体を介した細胞侵入)等の近縁種、またはコロナウイルス(CEAファミリー等のコロナウイルス受容体/アミノペプチダーゼを介した細胞侵入)である。
【0074】
アッセイ形式
微小流体の取扱い技術、エマルジョンベースの液滴区画化およびマイクロタイタープレートウェル(12、24または96ウェル形式等)は本発明のアッセイにとって全て有用な形式である。これらの技術は当該分野で周知である。特に、WO99/02671およびWO00/40712を参照されたい。これらは両方とも本明細書に記載の方法に適用する光学選別方法を記載している。読み出しを回収する手法、および最適なアッセイ形式は操作者の優先傾向に依存する。考慮する要素には、処理するサンプルの数が含まれ得る。例えば、サンプル数が少ない場合には、手動ピペット操作によりマイクロタイタープレートにおいて手動で処理することが都合がよいかもしれない。この実施形態では、「共区画化」は同じマイクロタイターウェルに入れられたエレメントを指し得る。しかし、サンプル数が多い場合には、自動化または半自動化処理装置を使用して、スクリーニングおよび選択を行うことがより便利かもしれない。これらの選択は本発明を行う当業者の技術範囲内にある。
【0075】
レポーター基質/読み出し
レポーターは、直接的に(例えば、抗体利用型検出により)または間接的に(例えば、レポーター活性のアッセイにより)検出され得る。レポーター遺伝子活性の直接検出は、転写、翻訳の検出、または遺伝子産物の直接的検出等の遺伝子活性に基づくものであってよい。間接的検出とは、例えば、基質を供給してその切断をモニタリングするか、またはなんらかの類似する技術により、酵素活性等の遺伝子産物の活性についてアッセイすることを主に指す。
【0076】
レポーター酵素を選択する上で、好ましくは、基質の迅速な代謝回転を媒介する(すなわち、高いKcat/Kmを有する)べきである。蛍光性および/または発色性基質が利用できる酵素であることが好ましい。
【0077】
レポーター酵素またはその断片が細胞表面上に提示されることが好ましい。レポーター遺伝子は、膜貫通ドメイン等の表面標的化エレメントを含み、レポーター酵素またはその断片の細胞表面局在化を達成することが好ましい。好ましい細胞表面標的化エレメントは、1回貫通型膜タンパク質、または複数回膜貫通型タンパク質由来の1回貫通型ドメインである。例えば、レポーター遺伝子を、レトロウイルスenvタンパク質のSUドメインに融合、好ましくはそのN末端に融合させ得る。特に好ましい細胞表面標的化薬剤は、CD4受容体に融合されるか、またはPDGF(PDGF-TM)の膜貫通ドメインに融合させる。
【0078】
レポーター遺伝子の発現は、強力なプロモーターにより駆動されることが好ましい。
【0079】
レポーター遺伝子は、細胞表面に活性が保持される酵素活性をコードすることが好ましい。
【0080】
レポーター酵素活性が細胞表面に局在化する場合、発色性または蛍光性生成物に変換させるための基質も細胞表面で利用可能であるようにする必要があることに留意されたい。典型的には、これは、基質を細胞外に提示して、細胞表面に局所化されたレポーター酵素活性によりそれに作用させることができるようにすることにより達成される。これらの実施形態では、液滴の細胞外部分において、切断された基質のプールが検出可能になり、それにより液滴中の細胞と関連付けられる点で、液滴の共区画化が有利であることが明らかである。従って、細胞外読み出しに基づいて細胞を選択する場合には液滴形式が有利に使用される。あるいはまた、レポーター遺伝子産物自体が、例えば抗レポーター抗体との反応によりタグ付けされ得る。これにより、有利に、液滴の共区画化を行う必要なく個々の細胞が選択可能になる。当業者であれば、本発明の用途に最も適した形式を容易に選択し得る。
【0081】
本明細書に記載するように、一部のレポーター遺伝子は、中間ステップにより読み出しをもたらしうることは留意されたい。例えば、レポーターがtPAの場合、好ましくは、読み出しはプラスミノーゲンに対するtPAの作用によるものであり、これがプラスミンを生成し、プラスミンがHDLVK-Amc等の基質に作用し、それにより蛍光性生成物が生成される。従って、このように複数ステップの読み出しを使用する場合、必要な各エレメントを指標細胞に提供しなければならない。tPA読み出しの場合、これは、プラスミノーゲンならびにHDLVK-Amcの両方を指標細胞に供給して、読み出しを生成することを含み得る。
【0082】
レポーター遺伝子がβ-ラクタマーゼの場合、フルオロシリン(商標)グリーン(FluorocillinTM Green)495/525 β-ラクタマーゼ基質(Molecular Probes)が基質であることが好ましい。
【0083】
プラスミノーゲンは、Roche, Switzerlandから入手できる。プラスミン基質HDLVK-Amcが使用されることが好ましく、Bachem, USAから入手できる(実施例を参照)。あるいはまた、Molecular Probes, USAから出ているローダミン110-bisCBZ-L-Phe-L-Arg等の他のプラスミン基質が使用できる。
【0084】
ダウンレギュレーション
本発明の重要な特徴は、感染(エフェクター粒子侵入/形質導入)の不在下で安定状態のシグナルが存在することである。これにより、有利に、2倍のアウトプットが可能になり、すなわち。第1に、感染またはエフェクター粒子侵入が生じない(または下流点において阻害されている)こと、および第2に、細胞が生きたままである(すなわち、細胞傷害性が無いかごく限られている)ことがある。本発明のこの重要な利点を得るために、感染またはエフェクター粒子侵入がレポーター遺伝子をダウンレギュレートすることが必要である。これは、全体的な組換え手段(例えば、組換えレポーター遺伝子に対するshRNAの発現)により達成してもよく、組換えレポーター遺伝子の天然のダウンレギュレーション(例えば、レポーター遺伝子が融合した受容体のダウンレギュレーション)により達成するのも好ましく、またはウイルス特異的タンパク質による発現の媒介等の当業者に公知の任意の他の手段により達成してもよい。重要な特徴は、レポーターのダウンレギュレーションが感染と結び付けられて、耐性のまたは阻害された細胞(非感染細胞)がレポーター読み出しを維持し続けることである。
【0085】
広い意味において、ダウンレギュレーションとは、レポーター遺伝子活性またはレポーター遺伝子産物活性のダウンレギュレーションを指す。この意味において、これは、通常の意味の転写および/または翻訳および/または翻訳後不活化、ならびにダウンレギュレーションを指し得る。例えば、検出可能なシグナル損失を生じるダウンレギュレーションは、誤った折畳みの誘導、毒性阻害剤の損失、輸送の阻害、翻訳後修飾の不全または損失(除去)、破壊的翻訳後修飾の導入(例えば、活性に対して破壊的なもの、例えば、不活性状態にするリン酸化反応、もしくは存在に対して破壊的なもの、例えば、分解のためのユビキチン化)、活性の阻害、またはシグナルをノックダウンする他のメカニズムにより、もたらされ得る。
【0086】
tPA等の組換え型細胞表面提示レポーター遺伝子のダウンレギュレーションが本発明において用いられ得る。tPAは線維素溶解に関与する酵素である。これは、不活性のプラスミノーゲンを活性のプラスミンに変換し、これがその後、人工的な蛍光性または発色性基質を含むさらなる基質を変換できる。好適な実施形態では、tPAを細胞膜貫通ドメイン(好ましくは血小板由来成長因子受容体膜貫通ドメイン;PDGFR-TM)に融合させて、細胞表面提示を達成する。その結果、レポーター遺伝子に対するshRNAをコードするベクターをパッケージングした偽型粒子は、エフェクター粒子侵入(形質導入)の際に指標細胞においてレポーター遺伝子構築物のダウンレギュレーションを媒介する。このメカニズムが本発明のアッセイにおいて活用され、また図12に図示されている。
【0087】
CD4等のウイルス受容体に融合させたレポーター遺伝子のダウンレギュレーションも本発明において使用され得る。これらの実施形態では、レポーター遺伝子をPDGFR-TM等の非ウイルス膜貫通ドメインに融合させるのではなく、CD4等のウイルス受容体と融合させる。CD4は、細胞に侵入するための受容体としてHIVによって使用されるケモカイン受容体である。HIVタンパク質Nef、VpuおよびEnvは感染後のCD4のダウンレギュレーションを媒介する。これは、CD4のエンドサイトーシス/分解により生じる。対応するウイルス種による感染後のウイルス受容体のダウンレギュレーションは、HIVおよび多種多様なウイルスについてよく特徴決定されている。このメカニズムは本発明のアッセイにおいて活用され、また図1等に図示されている。
【0088】
以下、ダウンレギュレーションがどのように本発明のアッセイに取り入れられるかを述べる。
【0089】
本発明は、多くの様々な選択戦略における用途を有する。一実施形態において、本発明は、ウイルス感染を阻害する抗体またはペプチド等の、遺伝的にコードされた阻害剤の選択において使用され得る。図13は、このような実施形態の1つを図示する図を示す。別の実施形態では、本発明は、ウイルス感染を阻害する際の活性について小分子をスクリーニングするために使用され得る。これらの用途は、本発明により有利に提供される陽性選別シグナルの恩恵を受ける。
【0090】
図13に示すように、阻害が陽性選択を可能にする。
【0091】
阻害アッセイの原理は、候補阻害剤によるウイルス細胞侵入またはウイルスライフサイクルの初期段階(逆転写または宿主細胞ゲノムへの組込み等)の阻害が、レポーター遺伝子が細胞表面に留まり、tPA等の細胞表面レポーターの作用によって基質から生成物が生成されることにより蛍光等の読み出しを維持することを意味するというものである(図13)。これらのウイルスライフサイクルの初期段階の阻害は、ウイルス構築または出芽のような後期段階の阻害に比べて治療上優れている。なぜなら、この後期段階では、ウイルスゲノムは宿主細胞ゲノムに既に組み込まれているため、必然的に保存されているからである。代替的な読み出し方法は、レポーター遺伝子に対して生じさせた抗体で細胞を染色することである(図14)。
【0092】
候補物質が有効でない阻害剤である場合の原理を、感染の有意な阻害が認められない(この例においては、候補阻害剤は小分子である)図13Bおよび14Bに示す。これは、エフェクター粒子が標的指標細胞に形質導入できることを意味する。これが生じた場合、tPA等の細胞表面に提示されるレポーターの発現はダウンレギュレートされ、表面上にはtPA等のレポーターが存在しないため蛍光は認められない。
【0093】
別の実施形態では、本発明を使用して、所与の阻害剤の最適な濃度を決定することができる。エフェクター粒子および指標細胞が異なる阻害剤濃度で共区画化された場合、得られる蛍光は形質導入事象の数と相関する(図15A)。従来技術アッセイを上回る本発明の主要な利点は、本アッセイにおいては、細胞に対する阻害剤の有害な副作用が蛍光シグナルの低下を招くという事実である。これは、生存可能な細胞のみがレポーター遺伝子を発現し、陽性の読み出しシグナルを生じるという事実によるものである。対照的に、従来技術アッセイでは、有害な副作用が強力な阻害と解釈される。なぜなら、この場合、阻害の成功は陰性読み出しシグナルと結び付けられているからである(図15B)。
【0094】
図16〜19にデータを示すが、これらは本発明による選択効果を実証している。
【0095】
広範な態様では、本発明は、HIV、HCVまたはインフルエンザ感染等のウイルス感染を阻害する抗体、ペプチドおよび小分子を選択する技術に関する。この技術は区画化に基づくものであることが好ましい。
【0096】
本発明のアッセイは、指標成分融合タンパク質を発現する1つ以上の安定した細胞系を使用することが好ましい。
【0097】
本発明は、ウイルス細胞侵入またはウイルスライフサイクルの後期段階(逆転写および宿主細胞ゲノムへの組込み等)の阻害を陽性シグナルと有利に結び付ける新規アッセイを提供する。
【0098】
有利には、シグナル対ノイズ比は本発明の選択手順を強化する。
【0099】
本発明は、多くの異なる選択戦略において用途を有する。一実施形態において、本発明はHIV感染を阻害する抗体またはペプチドの選択において使用され得る。選択手順自体は、上記したようにレポーター遺伝子産物の蛍光性もしくは発色性基質の酵素的変換、または抗体染色に焦点を当てている。有利に、ウイルス受容体(または本明細書で使用する受容体-レポーター融合体)のダウンレギュレーションは、天然の現象であり、これはウイルス自体をエフェクター粒子として使用することを可能にするものである。図1はこのような実施形態を示す。
【0100】
別の実施形態では、本発明は、HIV感染を阻害する際の活性について小分子をスクリーニングするために使用され得る。これらの用途は、本発明により有利に提供される陽性選別シグナルを必要とする。
【0101】
図4に図示するように、発現は陽性選択を可能にする。
【0102】
液滴内での選択が実施できることは本発明の利点である(図4を参照)。
【0103】
阻害の原理は、強力な阻害剤等によるHIV感染の阻害が、レポーター遺伝子産物(CD4-β-lac融合体等)が細胞表面上に留まり、β-lacの作用により基質から生成物が生成されることで蛍光を生じることを意味する、というものである(例えば、図5を参照)。
【0104】
候補物質が有効でない阻害剤である場合の原理は、感染の有意な阻害が認められない図6に示す(図6中、候補阻害剤は小分子である)。これはエフェクター粒子が図7に示すように細胞侵入を生じ得ることを意味する(この筋書きにおけるエフェクター粒子はHIV粒子である)。これが生じる場合、細胞表面レポーター(CD4-β-lac融合体等)の発現がダウンレギュレートされ、また、表面上にβ-lacが無いため蛍光も認められず、選択が可能になる。
【0105】
本発明による選択効果を実証するデータを図8および9に示す。
【0106】
広範な態様において、本発明は、HIV感染等のウイルス感染を阻害する抗体、ペプチドおよび小分子を選択する技術に関する。この技術は区画化に基づくものであることが好ましい。
【0107】
ダウンレギュレーションアッセイは、GFP-CD4融合体を用いて上手く機能しないかもしれないことが認められている。理論に囚われることを望まないが、これは、ダウンレギュレーション後に残存する蛍光によるものであるかもしれない。あるいはまた、この特定の融合体の分解が遅すぎることによるのかもしれない。GFP-CD4融合体の特定の特性を打開するために、例えばより遅い時点(翌日)において測定する等、時点を最適化することも可能である。いずれにせよ、指標成分はGFPでないことが好ましい。CD4が指標成分に融合される場合、指標成分はGFPでないことがより好ましい。
【0108】
本発明のアッセイは、指標成分融合タンパク質を発現している1つ以上の安定した細胞系を使用することが好ましい。
【0109】
本発明は、HIV阻害を陽性シグナルと有利に結び付ける新規アッセイを提供する。
【0110】
有利に、シグナル対ノイズ比は、本発明の選択手順を強化する。
【0111】
さらなる態様
別の態様では、本発明は、ウイルス感染を阻害する能力について化合物をスクリーニングする方法であって:(a)目的のウイルスに対する受容体を発現する指標細胞系および目的のウイルスでの感染の際にダウンレギュレートされる細胞性タンパク質に融合したレポータータンパク質を生成または使用し、そして陽性レポーターシグナルを感染の阻害と結び付けるステップ;(b)スクリーニングすべき化合物の存在下で指標細胞をウイルス粒子と共にインキュベートし、その後レポーター遺伝子シグナルを測定することにより、ウイルス感染に対する阻害作用について化合物をスクリーニングするステップ、を含む方法を提供する。
【0112】
別の態様では、本発明は、ウイルス感染を阻害する能力について化合物をスクリーニングする方法であって:(a)指標細胞系においてレポーター遺伝子の発現を妨害する遺伝子産物をコードする核酸をパッケージングした組換えエフェクター粒子を生成または使用し、そして陽性レポーターシグナルを形質導入の阻害と結び付けるステップ;(b)スクリーニングすべき化合物の存在下で指標細胞を組換えエフェクター粒子と共にインキュベートし、その後レポーター遺伝子発現を測定することにより、ウイルス細胞侵入に対する阻害作用について化合物をスクリーニングするステップ、を含む方法に関する。
【0113】
指標細胞、ウイルス/エフェクター粒子および化合物は、マイクロタイタープレート内でインキュベートすることが好ましい。
【0114】
指標細胞、ウイルス/エフェクター粒子および化合物は、微小流体デバイス内でインキュベートすることが好ましい。
【0115】
指標細胞、ウイルス/エフェクター粒子および化合物は、エマルジョンの水滴中でインキュベートすることが好ましい。
【0116】
指標細胞、ウイルス/エフェクター粒子および化合物は、エマルジョンの水滴中でインキュベートし、その後、蛍光活性化細胞選別FACSを用いて選別することが好ましい。
【0117】
指標細胞、ウイルス/エフェクター粒子および化合物は、エマルジョンの水滴中でインキュベートし、その後、微小流体選別デバイスを用いて選別することが好ましい。
【0118】
指標細胞、ウイルス/エフェクター粒子および化合物は、エマルジョンの水滴中でインキュベートし、その後、感染細胞と非感染細胞を親和性に基づき選別できるようにそれを壊すことが好ましい。
【0119】
本発明の方法は、しばしばウイルス侵入の阻害剤に関連して述べてある。明らかに、使用する読み出しは、ウイルス侵入により誘発される遺伝子のダウンレギュレーションであることが好ましい。しかし、このダウンレギュレーションは、ウイルス侵入により誘発してもよく、またはウイルスライフサイクルの初期段階の阻害(逆転写もしくは宿主細胞ゲノムへの組込みの阻害等)により誘発されることに留意することが重要である。当業者の読み手は、所望であれば、本明細書に記載する技術を簡単に適用して、これらをこのような下流事象とより密接につなげることができる。
【0120】
野生型ウイルスの使用を回避できることは本発明の利点である。実際、試験する任意の所与のウイルスについて、本発明のアッセイを使用して、ウイルスのenvタンパク質以外の全てのエレメントを排除することが可能である。envタンパク質は、通常、野生型ウイルスの代わりに用いるエフェクター粒子の偽型化のために必要となる。これは、野生型ウイルスを回避する場合に、アッセイを低レベルの封じ込め施設で実施可能なことから安全性および費用等の面で利益をもたらす。さらに、偽型化エフェクター粒子を使用することにより細胞性タンパク質のウイルス媒介ダウンレギュレーションについての知識が必要ないため、あまり特性決定されていないウイルスの試験を可能にする。
【0121】
シグナル増幅が可能なことは本発明の利点である。レポーター遺伝子活性の直接的または間接的な検出のいずれを使用しても、増幅を容易に導入できる。例えば、直接的な検出を用いる場合には、抗体サンドウィッチ技術を使用してシグナルを増幅でき、また、これらのまたは酵素活性を伴う間接的な技術を使用する場合には、各酵素分子が基質分子を繰り返し代謝回転してより多くのシグナルを提供することができる。厳密な1:1化学量論がシグナル系に付き物であるGFP発現等の従来技術とは対照的である。
【0122】
読み出しが有利に細胞表面でなされることは本発明の利点である。これにより、基質は、細胞を貫通できる必要がなく、細胞外に容易に供給され得る。
【0123】
以下、本発明を、本発明の範囲を限定するのではなく本発明が機能できる方法を説明することを意図して、実施例により説明する。実施例では、以下の図面を参照する。
(図面の簡単な説明は後述)
【実施例】
【0124】
全般的な技術
本発明のアッセイ系の原理は実証されている。この場合、β-ラクタマーゼをCD4受容体のN末端(シグナルペプチドのC末端側)に融合させて、β-ラクタマーゼの非蛍光性基質を蛍光性生成物に変換させた。そのコードしているプラスミドを、HIV遺伝子nef(HIV感染をシミュレートするため)をコードする追加のプラスミドまたは無関係の対照プラスミド(両方のトランスフェクションサンプル中の合計DNAを確実に同量にするため)のいずれかと共に、293 EBNA T細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクションの二日後、細胞を回収し、β-ラクタマーゼ基質と共にインキュベートし、蛍光光度計で分析した。nefを発現している細胞は、対照プラスミドでトランスフェクトした細胞と比べて蛍光性シグナルについて7倍を超える低下を示した。この比率は、対応する構築物を安定して発現する細胞の生成によりさらに大きくなる。これは結果的に、特定のウイルス遺伝子が発現されない限り蛍光性シグナルを示す(すなわち、陽性シグナルを感染の欠如と結び付ける)、所与のウイルスに対する指標細胞系がどのようにして生成され得るかをはっきりと示す。以下の実施例において、MLV偽型ベクターに言及する場合、p-SIREN-RetroQ-MRC1(図22/23)がshRNAコードベクターである。より詳細については配列表を参照。(CD4構築物は典型的にはpcDNA3.0骨格(一般的に入手できるため配列表には示していない)を使用する)。
【0125】
実施例1:HIV感染の阻害についての小分子スクリーニング
本実施例においては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のCD4陽性細胞の感染を阻害する能力について化合物ライブラリーをスクリーニングする。
【0126】
CD4受容体に融合したレポーター遺伝子を安定して発現する指標細胞系を生成する。本実施例におけるレポーター遺伝子はB-lacである。
【0127】
野生型CD4受容体は、融合タンパク質がHIV粒子の細胞侵入を媒介しない場合に追加的に発現され得る。本実施例において、融合したCD4がウイルス侵入させるようにし、野生型CD4のさらなる発現が必要ない点でCD4-B-lac融合体は機能的である。
【0128】
必要であれば、1つ以上の必要とされる補助受容体(CXCR4、CCR5等)が発現されて、ウイルスを侵入し易くできる。
【0129】
これらの指標細胞は、マイクロタイタープレートに播種され、各ウェルにおいて異なる化合物の存在下でHIV-1粒子とインキュベートされる。
【0130】
B-lac活性は、B-lac活性によって切断されて蛍光部分を生じる基質の添加により評価される。従って、B-lacの作用は、適切な波長での蛍光測定によりモニタリングされる。
【0131】
感染の際、レポーター-CD4融合タンパク質は、ウイルス遺伝子env、vpuおよびnefの発現によりダウンレギュレートされる。そのため、HIVに感染しなかった細胞のみがレポーター遺伝子を発現する。従って、陽性レポーターシグナルを示すウェルは、HIV感染を阻害する化合物を含む。
【0132】
従って、本実施例において、HIVエフェクター粒子への曝露後の蛍光は感染の阻害を示し、従って蛍光を示すウェル中の小分子候補が感染に対して阻害作用を有することを示す。
【0133】
実施例2:偽型エフェクター粒子を使用したアッセイ
概説
本実施例では、野生型ウイルスの代わりに偽型エフェクター粒子を使用する。これらはshRNAを送達して、レポーター遺伝子発現を阻害するために使用する。
【0134】
このように偽型エフェクター粒子を用いた本発明の適用は、有利なことに、実際のウイルスをエフェクター粒子として使用する場合よりも広い適用範囲を有する。なぜなら、特定のタンパク質のウイルス媒介型ダウンレギュレーションの知識が必要ないからである。shRNAは、特定のレポーター遺伝子に対して設計されるが、営利的供給業者から購入することもでき、操作者の側のそれ以上の手間を省き得る。さらに、shRNA積載物を担持する偽型粒子等の複製能を示さない粒子の適用は、アッセイを行うのに必要な封じ込めレベルを低くするという事実から、主に安全性の利点がある。
【0135】
方法
適切なパッケージング細胞系/核酸シャトル系を使用して、指標細胞系のレポーター遺伝子に対して生じさせたショートヘアピンRNA(shRNA)をコードする核酸ベクターをパッケージングした組換えMLV由来偽型粒子(エフェクター粒子)を調製する。これらの系は当該分野で周知である。
【0136】
より詳細には、目的のウイルスのエンベロープタンパク質を機能的に提示し、それがその特定の種の宿主範囲指向性をもたらすようなMLV由来粒子を生成する(偽型化)。さらに、これらの粒子を操作して、指標細胞系において発現したレポーター遺伝子に対して生じさせたshRNAをコードするベクターをパッケージングする。その結果、レポーター遺伝子の発現は、エフェクター粒子の細胞侵入の際に生成されたshRNAにより直接ダウンレギュレートされる。
【0137】
組換えエフェクター粒子を使用することにより、アッセイ全体が、異なるウイルス種用に簡単に改変され得る。パッケージング細胞において発現される(そしてその後、粒子上に提示される)ウイルスエンベロープタンパク質を交換することにより簡単に、多種多様な種に対する阻害剤を選択できる。shRNAコードベクターの性質を変える必要もないし、新しいレポーター遺伝子構築物を作製する必要もない。有利なことに、対応するウイルス受容体が発現される限り、種特異的指標細胞の必要さえもない。
【0138】
その後のアッセイは実施例1に記載するように行う。
【0139】
実施例3:指標細胞において発現される候補阻害剤の選択
抗体またはペプチド等の遺伝的にコードされた阻害剤を、指向進化アプローチにおいて選択する。この目的のために、阻害剤のライブラリーおよびさらに、膜に固定化されたアフィニティータグ(レポーター遺伝子)を発現する指標細胞系(感染の候補阻害剤)を構築する。
【0140】
アフィニティータグに対して生じさせたshRNAをコードするベクターをパッケージングしたエフェクター粒子を使用する。
【0141】
選択のために、単一の指標細胞およびエフェクター粒子を共区画化し(本実施例においては、これらは水滴として共区画化する)、さらにインキュベートしてエフェクター粒子を細胞侵入させる。
【0142】
形質導入/侵入した場合、shRNAの作用により膜固定型アフィニティータグはダウンレギュレートされる。
【0143】
対照的に、特定の候補阻害剤変異体がエフェクター粒子の細胞侵入を防ぐ場合、アフィニティータグはなお効率的に発現される。
【0144】
これは、操作者が形質導入されていない細胞を特異的に選択することを可能にする。これは、区画の内容物をプールした後、または任意に細胞を再培養した後にも行うことができる。
【0145】
選択のために、細胞をアフィニティータグに対して生じさせた抗体で染色し、磁気または蛍光活性化細胞選別(MACS、FACS)にかける。
【0146】
形質導入されていない細胞を選択した後は、回収した非感染細胞由来の候補阻害剤をコードする核酸を配列決定することにより、細胞侵入を防いだ阻害剤の正体を決定する。
【0147】
実施例4:微小流体取扱い技術への適用
遺伝的にコードされていない小分子ライブラリーを、所与の種のウイルス感染を阻害する能力について、自動化デバイスを利用してスクリーニングする。
【0148】
本実施例においては、指標細胞およびエフェクター粒子(本実施例において、エフェクター粒子は野生型ウイルス粒子である)を、区画内で、単一の候補阻害剤化合物の存在下でインキュベートする。
【0149】
区画は、マイクロタイタープレートのウェル、または微小流体デバイスの液滴でありうるが、これらは両方とも当該分野で公知である。重要な要素は、各区画中の化合物が何であるかが分かっていることである。
【0150】
次に、レポーター遺伝子シグナルを決定する。
【0151】
これは、レポーター遺伝子の選択に関して適切な方法で行い、すなわち、レポーター遺伝子の対応する基質を添加した後に蛍光測定、発光測定または発色測定を行う。
【0152】
形質導入されていない指標細胞は、良好なシグナルの存在により特定され得る。感染した細胞は、そのシグナルをダウンレギュレートした。結果として、良好なシグナルに対応するウェルに存在する化合物は、細胞侵入/ウイルス感染に対する阻害作用を有するとして同定される。
【0153】
実施例5:エフェクター粒子侵入と読み出しシグナルとの相関関係
異なる量のエフェクター粒子を指標細胞と共にインキュベートした。その後、非蛍光性プラスミン基質の蛍光性生成物への変換に基づく蛍光アッセイを行った。エフェクター粒子と共にインキュベートしていない指標細胞は、高濃度のエフェクター粒子と共にインキュベートした指標細胞よりも最大10倍強い蛍光シグナルを示した。さらに、指標細胞とのインキュベーションの前に行ったエフェクター粒子の希釈は、中程度の強さの蛍光シグナルをもたらした。これは、形質導入事象の数が、読み出しシグナルと直接相関することをはっきりと示す。
実施例6:AZT阻害剤を用いたアッセイ阻害シグナルの実証
読み出しシグナルに対する強力なウイルス阻害剤の影響を調べるために、指標細胞およびエフェクター細胞を、逆転写酵素阻害剤AZTの存在下または不在下でインキュベートした。AZTの不在下では、指標細胞は最も弱い蛍光シグナルを示し、阻害剤の濃度を高めるとシグナル強度が強くなった。
【0154】
指標細胞に対する阻害剤の有害な副作用が読み出しシグナルの低下を生じることを示すためにさらなる実験を行った。この目的のために、エフェクター粒子および指標細胞を、最大1 mM(細胞傷害性阻害剤濃度)のAZT濃度の存在下でインキュベートした。蛍光利用型読み出しを用いたところ、シグナル強度は特定の最適なAZT濃度まで(10 μm)上昇したが、さらに高濃度の阻害剤では読み出しシグナルの低下を招いた。これと十分に一致するように、あらゆる粒子の不在下においてAZTで処理された指標細胞の蛍光シグナルは、阻害剤濃度の増加と共に蛍光強度の低下を示した(AZTの細胞傷害作用による)。その後、異なる種類の粒子で実験を繰り返した。
【0155】
感染の際にGFP誘導を用いる従来技術の発現誘発ウイルス阻害アッセイとの比較として、エフェクター粒子侵入の際にgfp遺伝子を指標細胞系に形質導入するMLV(VSV-G Env)粒子を生成した。予想通り、細胞傷害範囲内で最も高い阻害剤濃度を使用した場合に最も低い蛍光シグナル(このようなアッセイにおいては、最適な阻害剤濃度の表現型)を得た。これは、従来技術の発現誘発利用型アッセイが細胞傷害性阻害剤に有利なように偏っている可能性があることをはっきりと示す。対照的に、本発明は、有利なことに、細胞傷害性阻害剤または阻害剤の細胞傷害性濃度の同定を可能にする。
【0156】
実施例7:発現ライブラリースクリーニング
本発明はまた、指向進化アプローチにおいて、ウイルス細胞侵入の遺伝的にコードされた阻害剤(またはその後の逆転写ステップの阻害剤)を選択するためにも使用できる。この目的のために、可能性のある阻害剤(例えば、細胞内ペプチド)のライブラリーを発現する指標細胞を、エフェクター粒子と共にインキュベートする。形質導入ステップの後、エフェクター粒子の細胞侵入の際に低下するであろう表面提示されたtPA-HAのレベルによって、形質導入されていない指標細胞が特異的に同定/選択され得る。これらの形質導入されていない指標細胞は、エフェクター粒子侵入に抵抗したのであろうが、あるいは細胞内ペプチドライブラリーを使用した場合には強力な逆転写酵素阻害剤変異体等の下流の阻害剤の発現により形質導入に抵抗したのかもしれない。
【0157】
tPA-HAに対して生じさせた抗体を使用して、蛍光活性化細胞選別(FACS)は、形質導入事象に対する何百万もの指標細胞のスクリーニングを可能にする。形質導入されていない指標細胞の特異的選択の後、選択した指標細胞由来のDNAに対するPCRにより、コードされた阻害剤変異体が回収できる。
【0158】
本発明のこの用途を実証するために、指標細胞を、(遺伝的にコードされた阻害剤の基質としての)AZTの存在下または不在下においてエフェクター粒子とインキュベートし、その後α-HA 抗体で染色した。25μM AZTを含むサンプルおよび形質導入されていない対照サンプルがたった1つの(蛍光陽性)集団しか示さないのに対して、阻害剤無しのサンプルでは指標細胞の大部分が蛍光陰性である2つの集団を示す。これは、本発明のアッセイが、ウイルス感染(エフェクター粒子侵入)の有効な阻害剤を発現している可能性のある形質導入されていない細胞の特異的な選択を可能にすることをはっきりと示す。
【0159】
実施例8:細胞表面提示されるレポーター遺伝子のダウンレギュレーション
本発明のアッセイ系の原理の実証を行った。本実施例では、細胞表面に提示されるレポーター遺伝子は組換えtPA融合体である。
【0160】
HAタグ付けバージョンのヒトtPAをPDGFR-TMのN末端(IG-K鎖シグナル配列のC末端側;図12B)に融合する。得られる融合タンパク質は、プラスミノーゲンをプラスミンに変換することができ、次にプラスミンが非蛍光性基質(本実施例においてはHDLVK-Amc)を蛍光性生成物に変換する。このレポーター遺伝子構築物を安定して発現する指標細胞系は、対応する遺伝子によるHEK293T細胞のレトロウイルス形質導入により生成される。エフェクター粒子として、MLV(VSV-G Env)偽型粒子が生成される。これらの粒子は、tPA-HAに対するshRNAをコードするベクターをパッケージングした。エフェクター粒子の細胞侵入の際に、shRNAは指標細胞中で発現され、tPA-HAのダウンレギュレーションを生じる。
【0161】
シグナルはエフェクター粒子侵入と相関する
様々な量のエフェクター粒子を指標細胞と共にインキュベートした(図16)。その後、非蛍光性プラスミン基質の蛍光性生成物への変換に基づく蛍光アッセイを行った。エフェクター粒子と共にインキュベートしていない指標細胞は、濃縮されたエフェクター粒子と共にインキュベートした指標細胞よりも最大10倍強い蛍光シグナルを示した。さらに、指標細胞とのインキュベーションの前に行ったエフェクター粒子の希釈は、中程度の強さの蛍光シグナルをもたらした。これは、形質導入事象の数が読み出しシグナルと直接相関することをはっきりと示す。
感染の阻害はシグナルを維持する
読み出しシグナルに対する強力なウイルス阻害剤の影響を示すため、指標細胞およびエフェクター粒子を逆転写酵素阻害剤AZTの存在下または不在下でインキュベートした(図17)。AZTの不在下では、指標細胞は最も低い蛍光シグナルを示し、一方、阻害剤の濃度を増加させる(0.5〜50μM)ことによりシグナル強度が高まった。
【0162】
細胞傷害性はシグナルを低下させる
さらなる実験(図18)を行い、指標細胞に対する阻害剤の有害な副作用が読み出しシグナルの低下をもたらすことを示した。この目的のため、最大1mMのAZT濃度(細胞傷害性阻害剤濃度)の存在下で、エフェクター粒子および指標細胞をインキュベートする。蛍光利用型読み出しを用いたところ、シグナル強度は特定の最適なAZT濃度まで増加し(10μm)、一方で、さらに高い濃度の阻害剤は読み出しシグナルの低下をもたらした。これに十分に一致するように、あらゆる粒子の不在下でAZTにより処理した指標細胞の蛍光シグナルは、阻害剤濃度の上昇と共に蛍光強度の低下を示した(AZTの細胞傷害作用による)。
【0163】
比較例
異なる種類の粒子を用いて上述と同様にして比較実験を行った。従来技術のgfp利用型ウイルス阻害アッセイのモデルとして、エフェクター粒子侵入の際に指標細胞系へgfp遺伝子を形質導入するMLV(VSV-G Env)粒子を生成し、(本発明のようにシグナルが感染の阻害と相関するのではなく)シグナルが感染と相関するようにした。予想通り、十分に細胞傷害性範囲内にある最も高い阻害剤濃度を使用した場合に、(このようなアッセイにおいては、最適な阻害剤濃度の表現型とみなされる)最も低い蛍光シグナルが得られた。これは、感染を発現と結び付けるウイルス阻害アッセイ(従来技術のgfp利用型アッセイ等)が、細胞傷害性阻害剤に有利なように偏っている可能性のあることをはっきりと示す。対照的に、本発明のアッセイは、細胞傷害性阻害剤(またはその細胞傷害性濃度)の同定を可能にする。
【0164】
実施例9:発現ライブラリーのスクリーニング
本発明のアッセイはまた、指向進化アプローチにおいて、ウイルス侵入(エフェクター粒子侵入)の遺伝的にコードされた阻害剤を選択するためにも使用できる。この目的のために、可能性のある阻害剤(例えば、細胞内ペプチド)のライブラリーを発現する指標細胞を、エフェクター粒子と共にインキュベートする。形質導入ステップの後、エフェクター粒子の細胞侵入の際に低下する表面提示されたtPA-HAのレベルによって、(おそらく強力な阻害剤変異体の発現により)形質導入されていない指標細胞が特異的に同定/選択され得る。
【0165】
選択を行うために、tPA-HAに対して生じさせた抗体を用いて、標準的な細胞選別技術(FACSおよびMACS等)は、形質導入事象についての何百万もの指標細胞のスクリーニングを可能にする。形質導入されていない指標細胞の特異的な選択の後、細胞(ライブラリー)DNAに対するPCRにより、コードされた阻害剤変異体が回収できる。
【0166】
本発明のこの用途を実証するために、指標細胞を、(遺伝的にコードされた阻害剤の代わりとしての)AZTの存在下または不在下においてエフェクター粒子と共にインキュベートし、その後α-HA 抗体で染色した(図19)。25μM AZTを含むサンプルおよび形質導入されていない対照サンプルが1つの(蛍光陽性)集団しか示さないのに対して、阻害剤無しのサンプルでは大多数の指標細胞の蛍光が陰性である2つの集団を示す。これは、本発明のアッセイが、ウイルス感染の強力な阻害剤を発現している可能性のある形質導入されていない細胞についての特異的な選択を可能にすることをはっきりと示す。
【0167】
明らかに、このアッセイは、感染後の下流の事象(逆転写ステップ等)の阻害剤を検出するために簡単に使用できる。発現された内部ペプチドはこのアッセイに特に適している。なぜなら、逆転写酵素ステップは細胞の内部で起こるからである。
【0168】
実施例10:受容体に融合させたレポーター遺伝子のダウンレギュレーション
レポーター遺伝子を膜貫通ドメイン(非ウイルスPDGF-TMドメイン等)に融合させる代わりに、レポーターを、ウイルス感染の際にダウンレギュレートされることが知られている細胞性タンパク質(例えば、CD4等のウイルス受容体;図20)に融合させることができる。
【0169】
本実施例においては、HIV nefの発現の際のCD4のダウンレギュレーションを用いてこの戦略を実証した。
【0170】
本実施例においては、β-ラクタマーゼをCD4受容体のN末端(シグナルペプチドのC末端側;図21Aおよび21B)に融合させて、β-ラクタマーゼの非蛍光性基質を蛍光性生成物に変換することができた。コードしているプラスミドを、HIV遺伝子nef(HIV感染をシミュレートするため)をコードする追加のプラスミドまたは無関係の対照プラスミド(両方のトランスフェクションサンプル中の合計DNAを確実に同量にするため)のいずれかと共に、HEK293 EBNA T細胞中にトランスフェクトした。トランスフェクションの二日後、細胞を収穫し、β-ラクタマーゼ基質と共にインキュベートし、蛍光光度計で分析した。nefを発現している細胞は、対照プラスミドを用いてトランスフェクトされた細胞と比べて7倍を超える蛍光性シグナルの低下を示した(図9)。この比率は、対応する構築物を安定して発現する細胞の生成によりさらに大きくなった。結果的に、これは、特定のウイルス遺伝子が発現されてそれが(ウイルス侵入をシミュレートするように)対応するレポータータンパク質のダウンレギュレーションを生じるのでない限り、ウイルス受容体に融合したレポーター遺伝子がどのように陽性蛍光シグナルを生成するかをはっきりと示す。従って、陽性シグナルを感染の欠如と結び付けることが達成される。
【0171】
レポーター-ウイルス受容体融合タンパク質が対応するウイルス粒子(エフェクター粒子)の細胞侵入を支援しない適用の場合、エフェクター粒子侵入を支援するために野生型ウイルス受容体も指標細胞において発現され得る。
【0172】
実施例11:感染の阻害についての小分子のスクリーニング
本実施例においては、目的のウイルス種を許容する細胞の感染を阻害する能力について化合物ライブラリーをスクリーニングする。
【0173】
指標細胞系を、非ウイルス膜貫通ドメインまたはウイルス受容体のいずれかに融合されたレポーター遺伝子を安定して発現するものにより生成する。本実施例において、指標細胞は肝細胞から作製される。本実施例のレポーター遺伝子はPDGFR-TMに融合されたHA-tPAである。この構築物および目的のウイルス種の細胞侵入のために必要な全ての受容体が指標細胞系において発現される。
【0174】
これらの指標細胞をマイクロタイタープレートに播種し、レポーター遺伝子構築物(ここでは:HA-tPA-PDGFR-TM)に対するshRNAをコードするベクターをパッケージングしたエフェクター粒子と共にインキュベートし、目的のエンベロープタンパク質で偽型化する。本実施例のエフェクター粒子は、MLV粒子上に提示されるC型肝炎ウイルス(E1およびE2)のエンベロープ糖タンパク質を含む。
【0175】
tPA活性は、プラスミノーゲン、および(プラスミノーゲンのプラスミンへのtPA媒介型変換の際に)プラスミン活性によって切断され蛍光部分を生じる基質を添加することにより、評価する。従って、tPAの作用は適切な波長での蛍光の測定によりモニタリングされる。
【0176】
細胞侵入/形質導入の際、レポーター融合タンパク質は、shRNAコードベクターの発現によってダウンレギュレートされる。その結果、エフェクター粒子により形質導入されなかった細胞のみがレポーター遺伝子を発現する。従って、陽性レポーターシグナルを示すウェルは、目的のウイルス種(エンベロープタンパク質の由来する種)の感染を阻害する化合物を含む。
【0177】
従って、本実施例においては、エフェクター粒子へ曝露した後の蛍光は、感染の阻害を示し、従って、蛍光を示すウェル中の小分子候補が感染の阻害作用を有することを示す。
【図面の簡単な説明】
【0178】
【図1】ウイルス感染後のCD4のダウンレギュレーションの図を示す。
【図2】本発明の適用を図示する図を示す。
【図3】図3aはGFP-CD4 融合体を示す図を示す。図3bは本発明に係るβ-ラクタマーゼ-CD4融合体を示す。
【図4】本発明の液滴ベースの適用を図示する図を示す。
【図5】小分子阻害剤の選択を図示する図を示す。
【図6】有効でない阻害剤が感染を進行させることを図示する図を示す。
【図7】感染の際のシグナルのシャットダウンを図示する図を示す。
【図8】融合タンパク質の発現を示すグラフを示す。
【図9】Nefによる融合タンパク質のダウンレギュレーションを示すグラフを示す。
【図10】細胞の2枚の顕微鏡写真を示す。
【図11】5つのプロットを示す。
【図12】ウイルス粒子(A)および tPA-PDGFR-TM融合タンパク質(B)の細胞侵入の後のレポーター遺伝子のダウンレギュレーションの図を示す。
【図13】基質変換に基づく選択を図示する図を示す。
【図14】抗体染色に基づく選択を図示する図を示す。
【図15】本発明(A)または従来技術(B)による最適な阻害剤濃度の測定の比較図を示す。
【図16】ウイルス価と読み出しシグナルとの間の相関を示すグラフを示す。
【図17】阻害剤濃度と読み出しシグナルとの間の相関を示すグラフを示す。
【図18】本発明による最適な阻害剤濃度を決定する方法を、従来技術での同じ試みと比較する3つのグラフを示す。
【図19】遺伝的にコードされた阻害剤についての選択手順を示す3つのプロットを示す。
【図20】感染の際のウイルス受容体のダウンレギュレーションを図示する図を示す。
【図21】感染の際のβ-lac-CD4(A)および本発明によるβ-lac-CD4融合タンパク質(B)のダウンレギュレーションを図示する図を示す。
【図22】クローニング図を示す。
【図23】クローニング図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)レポーター遺伝子を発現し、かつエフェクター粒子による侵入を支援することができる指標細胞を提供すること;
(ii)ウイルス侵入の候補阻害剤を提供すること;
(iii)該候補阻害剤および該指標細胞を共区画化すること;
(iv)該指標細胞をエフェクター粒子と接触させること;
(v)任意のエフェクター粒子侵入を生じさせるようにインキュベートすること;ならびに
(vi)該指標細胞をレポーター遺伝子活性についてアッセイし、その際、レポーター遺伝子活性の検出により候補阻害剤がウイルス侵入の阻害剤として同定されること、
を含む、ウイルス侵入の阻害剤を同定する方法。
【請求項2】
前記レポーター遺伝子産物が細胞表面に方向付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
検出を媒介するレポーター遺伝子産物の部分が細胞外部分である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レポーター遺伝子が、β-ラクタマーゼまたは組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)をコードする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記レポーター遺伝子が、ウイルス侵入の際にダウンレギュレートされることが知られている遺伝子に融合される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルス侵入の際にダウンレギュレートされることが知られている遺伝子がCD4である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記レポーター遺伝子がCD4-β-ラクタマーゼ融合体を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記レポーター遺伝子が、ウイルス侵入の際にダウンレギュレートされることが知られているプロモーターの制御下にある、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エフェクター粒子が、レポーター遺伝子の発現を阻害することができるエレメントをコードする核酸を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エフェクター粒子が、レポーター遺伝子の発現を阻害することができるshRNAをコードする核酸を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記エフェクター粒子がウイルスを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ウイルスが野生型ウイルスである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ウイルスが組換えウイルスである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ウイルスが偽型ウイルスである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記共区画化が、前記候補阻害剤および前記指標細胞の両方を含む1滴以上の水滴を形成することによるものである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記水滴が油中水型エマルジョンの一部である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記水滴が水中油中水型(water-in-oil-in-water)エマルジョンの一部である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記候補阻害剤が前記指標細胞によって生成される、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法であって、前記レポーター遺伝子が酵素またはその活性断片をコードし、かつ前記レポーター遺伝子活性の検出が、以下:
(i)前記指標細胞と該酵素の基質とを接触させること;
(ii)該酵素が該基質に作用するようにインキュベートすること;および
(iii)酵素反応生成物の存在、レポーター遺伝子活性を示す生成物の存在を検出すること、
を含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記レポーター遺伝子活性の検出が、
(i)前記指標細胞を、該レポーター遺伝子産物と反応可能な抗体と接触させること;
(ii)該抗体と該レポーター遺伝子産物とを結合させるようにインキュベートすること;および
(iii)該指標細胞上に結合した抗体の存在、レポーター遺伝子発現を示す抗体の存在を検出すること、
によりレポーター遺伝子発現を検出することを含む、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記レポーター遺伝子が組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)をコードする、請求項4に記載の方法。
【請求項22】
配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4のヌクレオチド配列を含む、核酸。
【請求項23】
配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を含む、ポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2008−532484(P2008−532484A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552728(P2007−552728)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000316
【国際公開番号】WO2006/082385
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(597166578)メディカル リサーチ カウンシル (60)
【Fターム(参考)】