説明

スクロース−6−エステルの塩素化

スクロース−6−アシレートを塩素化して4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−β−アシレートを製造する方法であって、(i)スクロース−6−アシレートの4位、V位及び6’位を塩素化するよう、第三級アミドを含む反応媒体中で該スクロース−6−アシレートを塩素化剤と反応させること、並びに(ii)(i)の生成物流をクエンチして、4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アシレートを製造する、クエンチを含み、上記クエンチの前に、該第三級アミドの一部が除去される、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクラロースの改良された製造方法に関する。特に、本発明は、スクロース−6−アシレートの塩素化方法に関する。スクロース−6−アシレートは、スクラロースの製造における重要な中間体である。
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
反応媒体中でスクロース−6−アシレートを含む供給流からスクラロースの中間体及びスクラロースを製造する方法は既知である。例えば、特許文献1は、第三級アミド反応媒体中でスクロース−6−アシレートを塩素化して、スクラロース−6−アセテート等のスクラロース−6−アシレートを製造するプロセスを開示している。このプロセスにおいては、塩素化剤として大過剰の酸塩化物、例えばホスゲンが使用される。塩素化反応の後、その過剰の塩素化剤を好適な塩基を使用してクエンチするが、それにより塩基の塩化物塩が形成される。したがって生じた生成物流は、スクラロース−6−アシレート、第三級アミド反応媒体、水、及び塩を含む。
【0004】
スクラロース−6−アシレート、第三級アミド反応媒体、水、及び塩を含む生成物流から、スクラロース−6−アシレート中間体を単離することなくスクラロースを得る既知の方法が特許文献2に開示されている。該プロセスは、第三級アミド反応媒体の除去の前又は後にスクラロース−6−アシレートを脱アシル化すること、及びその後スクラロースを単離することを含む。第三級アミド(通常はジメチルホルムアミド[DMF]である)の除去は、水蒸気ストリッピングにより実行される。
【0005】
特許文献2によると、反応媒体の除去の後に脱アシル化を実行することが、そうしなければ脱アシル化工程中に反応媒体(この場合は第三級アミド)の塩基で触媒される分解が起こるため、好ましいとされる。これは、その後のスクラロースの単離の妨げとなり、また、第三級アミドを効率的に回収及び再利用することができないことを意味している。したがって、第三級アミド反応媒体をスクラロース−6−アシレートの水溶液から除去した後に、スクラロース−6−アシレートの脱アシル化が実行される。
【0006】
脱アシル化の前の第三級アミドの回収プロセスは、特許文献3に開示されている。このプロセスは、水蒸気ストリッピングを含む。
【0007】
これらの従来技術の方法による水蒸気ストリッピングは、非常に大量のエネルギーを消費する。
【0008】
反応媒体を除去する既知の水蒸気ストリッピングプロセスの不利点は、特許文献4及び特許文献5において論じられている。これらの参照文献には、塩素化反応のクエンチの後、塩素化供給流から全ての液体を除去して固体残渣をもたらし、その後この固体残渣からスクラロースを得ることが提案されている。この従来技術によると、液体の除去は好ましくは攪拌薄膜乾燥機を用いて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第0409549号
【特許文献2】欧州特許第0708110号
【特許文献3】米国特許第5,530,106号
【特許文献4】国際公開第2005/090376号
【特許文献5】国際公開第2005/090374号
【発明の概要】
【0010】
上記の点を念頭に置いて、本発明者らは、スクラロースの改良された製造プロセスを考案した。
【0011】
本発明は、収率に対する任意の潜在的な負の影響を最低限に抑えながら、よりエネルギー効率の良いDMFのような第三級アミドの存在下での塩素化プロセスを提供しようとするものである。
【0012】
本発明は、スクロース−6−アシレートを塩素化して4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アシレートを製造する方法であって、
(i)スクロース−6−アシレートの4位、1’位及び6’位を塩素化するよう、第三級アミドを含む反応媒体中で該スクロース−6−アシレートを塩素化剤と反応させること、並びに
(ii)(i)の生成物流をクエンチして、4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アシレートを製造することを含み、前記クエンチの前に、該第三級アミドの一部が除去される、方法をここに提供する。
【0013】
4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アシレートはまた、スクラロース−6−アシレートとも称することができ、そのため、4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アセテートはまた、スクラロース−6−アセテートとも称することができる。両方の専門用語が本明細書中で使用される。
【0014】
塩素化の反応媒体(DMFのような第三級アミドを含む)の大部分は、クエンチ前の蒸留により反応混合物から直接除去され得ることが、これまでに見出されている。生じる蒸留物は通常、主として幾つかの酸(特にホスゲン又はアーノルド試薬が塩素化剤として使用される場合には、通常HCl)とともに第三級アミドを含む反応媒体で構成される。蒸留物は、主として第三級アミドを含む反応媒体であるため、はるかにエネルギー効率の良い方法で第三級アミドを含む反応媒体を精製することが可能となる(水の分離は皆無かそれに近いため、水蒸気ストリッピングは不要である)。濃縮された残渣が通常通り、苛性溶液で最終的にクエンチされる場合、驚くべきことに、塩素化生成物、したがってスクラロースの収率に対してほとんど負の影響が見られない。第三級アミドを含む反応媒体の大部分は、クエンチ工程において水を添加する前に除去することができ、蒸留が用いられる場合、第三級アミドを含む反応媒体の残余を除去するための下流蒸留プロセスで要されるエネルギーは、劇的に低減する。さらに、ストリッピングされた第三級アミドは、再利用前にほんのわずかな加工処理(例えば、酸を除去するための加工処理)を要する。
【0015】
本発明のプロセスはまた、塩素化のクエンチにおいて、及び同様に続く脱アシル化工程において(残存する第三級アミドの除去前に脱アシル化が実行される場合)、塩基性条件への第三級アミドの暴露を減少させるという利点、したがって加水分解に起因する第三級アミドの損失を低減させるという利点を有する。さらに、材料が、本発明の方法による第三級アミドの除去の時点で乾燥している(即ち、本質的に水含有量がない)ため、クエンチされていない塩素化混合物から第三級アミドを除去するのに要するエネルギーは小さい。ストリッピングされた第三級アミド反応媒体は乾燥しており、許容可能な品質である。幾つかの実施の形態では、ストリッピングされた第三級アミド反応媒体は、さらなる処理なしでさらなる使用に再利用することができる。他の実施の形態では、ストリッピングされた第三級アミドは、再利用前にわずかな加工処理(例えば、酸を除去するための加工処理)を要するに過ぎない。
【0016】
好ましくは、第三級アミドは蒸留により除去される。好ましくはまた、この蒸留は、減圧下、通常1トール〜200トール(0.13kPa〜26.7kPa)、より好ましくは10トール〜100トール(1.3kPa〜13.3kPa)、最も好ましくは35トール〜65トール(4.7kPa〜8.7kPa)下で実施される。このようにして蒸留された第三級アミドは再利用されて、スクロースからのスクラロースの合成における工程で溶媒として使用され得る。例えば、このようにして蒸留された第三級アミドは再利用されて、全体的な反応順序の塩素化工程における溶媒として使用され得る。
【0017】
第三級アミドの除去は通常、40℃〜150℃、より典型的には50℃〜90℃の内部温度で実行される。第三級アミドの除去は、バッチ方式又は連続方式で実行することができる。バッチ方式では、第三級アミドの除去は通常、1時間〜24時間の期間にわたって実行される。必要とされる温度、圧力及び時間は相関しており、当業者は最適条件を使用されるプロセス及び設備の運転要件に従って決定することができる。概して、第三級アミドの除去は、できる限り迅速に実行される。第三級アミドの除去に使用される期間がより長くなる場合、炭水化物の分解を最低限に抑えるように、より低温を使用することが好ましい。
【0018】
除去された第三級アミドは、上記方法におけるさらなる使用、又はスクロースからのスクラロースの合成における他の工程に再利用することができる。必要とされる場合、除去された第三級アミドは、塩基で処理することができ、必要に応じて、再利用される前に濾過して塩化水素を除去することができる。好適な塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸カルシウムのようなアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物並びに炭酸塩である。アンモニアも使用することができる。塩基は、無水塩基又は塩基の水溶液若しくは懸濁液であり得る。
【0019】
除去される第三級アミドの量は通常、(i)の生成物流の5重量%〜80重量%、より好ましくは(i)の生成物流の10重量%〜50重量%、さらに好ましくは(i)の生成物流の20重量%〜50重量%、最も好ましくは(i)の生成物流の30重量%〜45重量%である。同様に好ましくは、除去される第三級アミドの量は、生じる濃縮混合物が5重量%〜90重量%の第三級アミド、好ましくは10重量%〜85重量の第三級アミド、より好ましくは40重量%〜80重量%の第三級アミド、さらに好ましくは50重量%〜70重量%の第三級アミド、最も好ましくは50重量%〜60重量%の第三級アミドを含有するようなものである。特に、共溶媒(以下でさらに論述される)が用いられない場合、除去される第三級アミドの量は、生じる濃縮混合物が25重量%〜85重量%の第三級アミドを含有するようなものであることが好ましい。
【0020】
濃縮残渣を冷却させた場合、粘性が高すぎて、容易に取り扱うことができないため、残渣は濃縮された後に温かい状態のままである(典型的には40℃〜150℃、より典型的には40℃〜125℃、最も典型的には40℃〜60℃)ことが好ましい。
【0021】
本発明による塩素化及び第三級アミド反応媒体の一部の除去の後に、プロセス流を、例えば塩基でクエンチして、スクラロース−6−アシレート及び塩基の酸塩を得る。
【0022】
多数の異なる塩基をクエンチに使用することができる。クエンチに好ましい塩基としては、アルカリ金属水酸化物若しくはアルカリ土類金属水酸化物、又は水酸化アンモニウムが挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが特に好適である。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウムが特に好適である。水酸化ナトリウムが、その入手し易さ及びコストの低さのためにクエンチに最も好ましい塩基である。当業者に既知の他の塩基をクエンチに使用することもできる。クエンチは好ましくは、塩基の水溶液を用いて実行される。水溶液は、約5重量%〜約50重量%、通常約8重量%〜約40重量%の塩基を含有し得る。これらの範囲内で、塩基の溶液は、「濃」又は「希」のいずれかであり得る。塩基の溶液が濃である場合、塩の沈降が想定され、これらの場合、好適な濃度は、13重量%〜50重量%、好ましくは25重量%〜45重量%、より好ましくは約35重量%である。塩基の溶液が希である場合、塩の沈降は想定されず、この場合、好適な濃度は、5重量%〜15重量%、好ましくは8重量%〜13重量%、より好ましくは10重量%〜11重量%である。
【0023】
クエンチの間、プロセス流のpHを制御するのが好ましいが、これは概して、クエンチが起こっている間脱アシル化を最小限に抑えるのが好ましいためである。このpH制御は、プロセス流中のpHをモニタリングしながら塩基の水溶液の添加速度を制御することによって容易に達成可能である。当業者に既知の任意のpH制御添加方法を使用することができる。
【0024】
好適には、クエンチの間、流のpHを約7.5〜約10.5、好ましくは約8.5〜約10.5、より好ましくは約9.5〜約10、より好ましくは約9.5〜約9.75の範囲に維持する。任意で、添加の間pHをより低いレベル、例えば約4.5に維持し、次いで全ての塩基が添加された時点で好ましいpHまで上昇させてもよい。ただし、脱アシル化が独立した工程として実行される場合、一般にクエンチの間pHが約10を越えるのは避けるべきである、なぜなら脱アシル化が続いて起こる可能性があるからである。pHが局所的に極端になることを避けるためには、反応混合物はクエンチ手順の間中、十分に混合されるべきである。
【0025】
クエンチ中の流の温度は、0℃超〜約80℃の範囲、例えば10℃〜60℃の範囲、好ましくは約12℃〜約35℃の範囲に維持するのが好適であり得る。
【0026】
クエンチは、特許文献5及び米国特許第5,498,709号に記載される「二重流(dual stream)クエンチ」方法によって実施してもよい。
【0027】
二重流プロセスにおいては、反応容器に供給材料をゆっくりと添加すると同時に、塩基水溶液をゆっくりと添加することによってクエンチ条件が達成される。DMF等の第三級アミドの水溶液を反応容器に初めに入れておいてもよい。塩基水溶液及び供給材料をゆっくりと添加することによって、添加の間pH及び温度の両方を制御することが可能となる。供給材料及び塩基水溶液は、所望の量の供給材料が添加されるまで同時にゆっくりと添加する。所望のpHに達するまで、さらなる塩基水溶液を添加する。次いで、反応の残りの時間中、温度及びpHを所望のレベルに維持する。好ましくは、クエンチ反応の時間中、pHは約10.5を超えないようにする。
【0028】
クエンチは代替的に循環プロセスによって実行することができる。循環プロセスにおいては、クエンチ条件は、供給混合物を容器から循環ループを通して循環させることによって達成される。供給混合物及び塩基水溶液はこの循環ループ内にゆっくりと添加される。塩基水溶液及び供給材料をゆっくりと添加することによって、添加の間pH及び温度の両方を制御することが可能となる。所望のpHに達するまで、十分な塩基水溶液を添加する。次いで、反応の残りの時間中、温度及びpHを所望のレベルに維持する。このプロセスはバッチモードで行っても、又は連続モードで行ってもよい。好ましくは、クエンチ反応の時間中、pHは約10.5を超えないようにする。
【0029】
クエンチの後、反応混合物は、酸性水溶液、例えば塩酸水溶液の添加により中和することもできる。続いて、スクラロース−6−アシレートは、望ましい場合には従来の手段により単離することができるか、又はスクラロース−6−アシレートの単離なしで脱アシル化を実行することができる。
【0030】
本明細書中で使用される場合、「反応媒体」という用語は、その中で塩素化反応が行なわれる希釈液又は溶媒を意味する。該用語は、媒体が反応の全成分及び生成混合物を完全には溶解しない場合があることを示すことを意味する。用いられる塩素化試薬に応じて多数の種類の反応媒体を使用することができ、塩素化条件下で安定であり、出発物質、試薬、及び生成物を少なくとも或る程度溶解する任意の反応媒体を使用することができる。本発明による反応媒体は第三級アミドを含む。第三級アミド反応媒体は好ましくDMFである。塩素化反応中の第三級アミド反応媒体(例えばDMF)と全炭水化物との重量比は、約5:1〜約12:1であり得る。
【0031】
反応媒体はさらに、第三級アミドに加えて1つ又は複数の共溶媒を含んでもよい。好適な共溶媒は、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジエトキシエタン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0032】
スクロース−6−アシレートは、塩素化反応中に6−ヒドロキシ基を保護する働きをする任意のアシレートであり得る。アシレートは、好ましくは脂肪族アシレート又は炭素環式芳香族アシレートであり、より好ましくはベンゾエート又はアセテートであり、最も好ましくはアセテートである。
【0033】
本発明の方法における塩素化反応は、欧州特許第0043649号、特許文献1、米国特許出願公開第2006/0205936号、及び米国特許出願公開第2007/0100139号に開示されるもののような多数の方法により実行することができる。
【0034】
スクロース−6−アシレートの4位、1’位、及び6’位を塩素化するために、多数の塩素化剤を本発明において使用することができる。好適な例は、ホスゲン、アーノルド試薬((クロロメチレン)ジメチルイミニウムクロリド又は(クロロメチレン)ジメチルアンモニウムクロリドとしても知られる)、オキシ塩化リン、五塩化リン、塩化チオニル、塩化オキサリル、塩化メタンスルホニル、塩化スルフリル、ジホスゲン(クロロギ酸トリクロロメチル)、及びトリホスゲン(炭酸ビス(トリクロロメチル))からなる群から選択されるものを含む。当業者に既知の他の好適な塩素化剤を使用することもできる。好ましくは、塩素化剤はホスゲン又はアーノルド試薬である。
【0035】
塩素化剤はスクロース−6−アシレートに対して過剰に、好ましくは大過剰に添加するのが好ましい。4位、1’位、及び6’位を塩素化するためには、スクロース−6−アシレート1モル当たり少なくとも3モル当量の塩素化剤が必要とされる。したがって、塩素化剤の過剰量とは、スクロース−6−アシレート1モル当たり3モル当量を超える任意の量である。好ましい実施の形態では、塩素化剤は、スクロース−6−アシレート1モル当たり少なくとも7モル当量の量で添加される。典型的には、塩素化剤とスクロース−6−アシレートとのモル比は、約7:1〜約11:1である。
【0036】
本発明による塩素化を達成するために、多数の反応条件を用いることができる。Walkupの米国特許第4,980,463号(その開示が参照により本明細書中に援用される)は例えば、塩素化を2つの異なる温度(約85℃以下の温度、及び少なくとも約100℃であるが約130℃以下の温度)で実行して、塩素化を行う2段階プロセスを開示している。Fryの米国特許出願公開第2007/0100139号(その開示が参照により本明細書中に援用される)は、反応混合物を75℃〜100℃に加熱して塩素化を行うプロセスを開示している。
【0037】
概して、本発明による塩素化反応の反応温度は、典型的には85℃〜130℃である。
【0038】
本発明による塩素化の反応時間は、用いられる温度に応じて異なり、温度が低ければ必要とされる反応時間が長くなる。当業者は反応をモニタリングすることによって、所与の反応温度に対する最適反応時間を容易に決定することができる。反応時間が過度に短いと、4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アシレートへの不十分な変換が起こる。反応時間が過度に長いと、過塩素化が起こり、四塩素化副生成物のレベルが上昇する。
【0039】
本発明はまた、4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アシレートの少なくとも一部を脱アシル化して、スクラロースを形成する、脱アシル化することによって、スクラロースを製造する方法にも及ぶ。脱アシル化は、残存する第三級アミド反応媒体の除去の前又は後に実行することができるが、残存する第三級アミド反応媒体の除去の前に実行されることが好ましい。
【0040】
脱アシル化は、例えば米国特許第6890581号(参照によりその全体が本明細書に援用される)に開示される方法により実行され得る。スクラロース−6−アシレートを脱アシル化する他の方法、並びにスクラロースを単離及び/又は精製する他の方法は、米国特許第5977349号、米国特許第6943248号、米国特許第6998480号、米国特許第7049435号、米国特許第6809198号、米国特許第6646121号、米国特許第5298611号、米国特許第5498709号、米国特許出願公開第2006/0188629号、米国特許出願公開第2006/0276639号、米国特許出願公開第2007/0015916号、米国特許出願公開第2007/0160732号及び米国特許出願公開第2007/0270583号(これらの開示全てが、参照により本明細書に援用される)に開示される。
【0041】
脱アシル化は塩基を用いた処理により実行され得る。任意の好適な塩基を使用することができるが、好適な塩基はクエンチのための塩基として既に述べたものである。便宜上、脱アシル化とクエンチとで同じ塩基を使用するのが好ましい。どちらの場合でも塩基として水酸化ナトリウムを使用するのが特に好ましい。
【0042】
脱アシル化を達成するには、流のpHを、典型的にはクエンチを実行したレベルを超えるレベルまで上昇させる必要がある。第三級アミド反応媒体の分解を最小限に抑えるためには、(脱アシル化を残存する第三級アミド反応媒体の除去の前に行う場合)脱アシル化は慎重に制御した条件下で実行するのが好ましい。したがって、本発明によると、脱アシル化は好ましくはpH10〜13.5、より好ましくは10〜12、最も好ましくは10.5〜11.2で、温度60℃〜0℃、より好ましくは40℃〜0℃、最も好ましくは35℃〜25℃で実行されるが、pHが高いほどより低い温度で使用され、逆もまた同様である。
【0043】
脱アシル化が、残存する第三級アミド反応媒体の除去後に実行される場合、脱アシル化条件はあまり重要ではないが、上述の条件が依然として使用され得る。概して、脱アシル化は、pH8〜14かつ温度0℃〜60℃で、好ましくはpH10〜12かつ温度0℃〜40℃で実行され得る。
【0044】
脱アシル化反応は、HPLCにより都合良くモニタリングすることができる。最適収率のためには、脱アシル化反応の進行をモニタリングし、反応が完了した際に反応混合物を中和することが重要である。反応混合物のpHは6〜8.5、好ましくはおよそ7.5に調整するものとする。反応混合物は塩酸水溶液を用いて、又はクエン酸若しくは酢酸を用いて簡便に中和することができる。代替的には、反応混合物は気体の二酸化炭素で中和することができる。
【0045】
クエンチ及び脱アシル化は、バッチ方式又は連続方式で実行することができ、単一の容器又は複数の容器内で実行することができる。同様に、1つ又は複数の容器から1つ又は複数の容器へ、連続方式とバッチ方式との間を移行する組み合わせを使用することができる。段取りの選択は実施上の考慮点によって決まる。
【0046】
上記の好ましい実施の形態では、クエンチ及び脱アシル化は順次実行されるが、クエンチ及び脱アシル化を同時に実行することも可能である。この実施の形態では、流のpHを脱アシル化を最小限に抑えるように制御するのではなく、即座に脱アシル化が起こり得るレベルまで上昇させる点以外は、クエンチに関して上記に記載される通りに塩基の水溶液を塩素化生成物流に添加する。脱アシル化を達成するのに好適なpH条件は上記で論じられており、ここでも同様に適用可能である。
【0047】
残存する反応媒体の除去は、蒸留、減圧蒸留、水蒸気蒸留、水蒸気ストリッピング等の当該技術分野で既知の手段により、又は攪拌薄膜乾燥機若しくは噴霧乾燥機の使用により実行することができる。反応媒体の除去を水蒸気ストリッピングにより実行するのが好ましい。かかる水蒸気ストリッピングは、特許文献2に記載のように実行することができる。通常、脱アシル化の最後に(反応媒体の除去が脱アシル化後に実行される場合)、又は塩素化反応のクエンチ後に(反応媒体の除去が脱アシル化前に実行される場合)、混合物中に存在する反応媒体の少なくとも90%が、この工程中に除去される。より典型的には、少なくとも99%が除去される。
【0048】
本発明はここで、以下の実施例を参照して、及び添付の図面を参照してより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】様々な度合いのDMF除去のスクラロース−6−アセテートの収率に対する影響を示す棒グラフである。重量パーセントは、続く同質量への希釈後に重量パーセントが各々の収率に正比例するように決定された。
【図2】DMF除去を用いない場合の対照に対して、65%までのDMF除去での3回の反復実行でのスクラロース−6−アセテートの収率に対する影響を示す棒グラフである。重量パーセントは、続く同質量への希釈後に重量パーセントが各々の収率に正比例するように決定された。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0050】
DMFをストリッピングすることによってクエンチされていない塩素化塊(mass)を種々のレベルへ低減させる場合の収率を比較する。収率に対して大幅な負の影響が見られないことが見出される。したがって、腐食剤/水によるクエンチ及び混合の前の乾燥混合物からのDMF除去に関して効率が良く、かつあまりエネルギーを要求しないプロセスが実践的であることが示された。
方法
供給流はスクロースのアセチル化に由来するものであった。このような供給流は、例えば米国特許第5,470,969号に開示されている方法によって生じさせることができる。供給流の典型的な組成は以下の通りである:
【0051】
【表1】

【0052】
塩素化は下記の通りに実施される:
1.アーノルド試薬25gを、攪拌子を備える250mL容の丸底フラスコへ入れる。
2.DMFおよそ50gをフラスコへ添加する。
3.スラリーを0℃〜5℃へ冷却する。
4.炭水化物供給物20gを20℃未満の温度で滴下する。
5.添加が完了した後、混合物を室温で3時間〜4時間攪拌して、続いて100℃で11時間加熱する。
6.混合物を冷却して、以下に記載するようにクエンチする。
【0053】
クエンチ前のDMF除去の試行は下記の通りに実施する:
A.クエンチされていない塩素化材料(100g)を250mL容の丸底フラスコへ移す。フラッシングされた溶媒を捕捉するための円形ジョイントを備えた100mL容のメスシリンダーを備えるロータリーエバポレータへフラスコを取り付ける。およそ80℃に設定した水浴中にフラスコを浸漬して、真空下で種々のレベル(もとの質量の0%〜45%除去)へと溶媒をフラッシングする。除去される溶媒の量は、メスシリンダー中の容積を読み取ることによって推定され、最終的には丸底フラスコ中の残渣を秤量することによって確認される。次に、残渣を収率分析の前にクエンチ工程へと進める。
【0054】
B.塩素化残渣は、「二重流」クエンチ方法を用いて、pH9.75及び20℃で11%NaOHを使用してクエンチされる。クエンチ後、塩素化クエンチ混合物は全て、炭水化物の重量パーセントを反応収率の直接的な尺度として使用することができるように分析の前に、水を用いて同質量へ希釈する。
【0055】
C.スクラロース−6−アセテートの重量%の評価は、クロマトグラフィのような通常の分析技法により行われる。
結果
添付の図面の図1は、乾燥塩素化材料が種々のレベルへのDMF除去により濃縮された後に、標準的なプロトコルにより残渣をクエンチする場合に、三塩素化されたスクラロース−6−アセテートの収率に対して悪影響は見られないことを示す。クエンチされた塊は全て、分析比較用に水を用いて同レベルへ希釈される。濃度、及びしたがって収率は、材料質量が元の出発質量の60.2%へ低減される場合、2.07重量%〜2.29重量%でほぼ一定のままである。実行したもとの質量の100%に関する図1に与えられる結果は、任意のDMF除去を包含しない3回の実行(したがって、もとの質量の100%)の平均値である。この平均値は、プロセス性能に関する対照として使用される。繰り返しロータリーエバポレータで正確に同じレベルまでDMFを除去することを反復するのが難しいため、他のバッチは全て一回の実行である。
【0056】
もう少しこの作業の範囲を研究するため、クエンチされていない塩素化混合物を、混合物からDMFを除去することによってもとの質量のおよそ65%へ低減させる。残渣を上述するようにクエンチする(図2を参照)。スクラロース−6−アセテートに関する収率は、ストリッピングされていない対照の2.29重量%に対して2.29重量%〜2.36重量%の範囲に及ぶ。
【0057】
要約すると、腐食剤によるクエンチ及び脱アセチル化の前に、乾燥塩素化混合物からDMFを除去することが可能である。塩素化生成物収率は損なわれていない。本研究では、混合物のもとの質量の約60重量%へのクエンチされていない塩素化混合物の濃縮は、塩素化収率に対してほとんど負の影響を与えることなく実行される。
【0058】
溶媒の除去後、残渣が増粘するのを防ぐために、残渣をクエンチ容器へ移す間温かい状態を保つことが有益であることが見出される。
【0059】
回収されたDMFを、存在する不純物に関して分析すると、GCにより一貫して95%以上であることが見出される。主要な不純物構成成分は、およそ2%〜4%で存在するHClであると決定される。そのレベルでのHClの存在が許容され得る場合、回収されたDMFは、任意のさらなる精製なしで続いて使用することができる。しかしながら、多くの場合はHClを除去することが望ましい。したがって、回収されたDMFは、20%NaOH及び23%NaCOのような塩基水溶液で処理される。化学量論量の塩基を使用して、生成する固形分を濾過する。あるいは、HClが混入したDMFは、できる限り低い水レベルを保つように、乾燥条件下で様々な塩基で処理される。使用される塩基は、ソーダ灰(NaCO)、石灰(Ca(OH))、乾燥腐食剤(NaOH)及びアンモニア(NH)を包含する。運転温度は、室温〜90℃の範囲に及ぶ。得られる懸濁液を濾過する。塩基の性能は多様であるが、ソーダ灰及びアンモニアが最良の結果を与える。
実施例1
クエンチされていない塩素化材料(100g)を、250mL容の丸底フラスコへ移す。フラッシングされた溶媒を捕捉するための円形ジョイントを備えた100mL容のメスシリンダーを備えるロータリーエバポレータへフラスコを取り付ける。およそ80℃に設定した水浴中にフラスコを浸漬して、真空下で種々のレベル(もとの質量の0%〜45%を除去)へと溶媒をフラッシングする。除去される溶媒の量は、メスシリンダー中の容積を読み取ることによって推定され、最終的には丸底フラスコ中の残渣を秤量することによって確認される。次に、残渣を収率分析の前にクエンチ工程へと進める。
【0060】
塩素化残渣のクエンチは、pH9.75及び20℃で11%NaOHを使用して「二重流」クエンチ方法により実施される。クエンチ後、塩素化クエンチ混合物は全て、一貫した分析判断を与えるよう、分析の前に水を用いて同質量へ希釈する。結果を図1に示す。
実施例2
クエンチされていない塩素化材料(100g)を、250mL容の丸底フラスコへ移す。フラッシングされた溶媒を捕捉するための円形ジョイントを備えた100mL容のメスシリンダーを備えるロータリーエバポレータへフラスコを取り付ける。およそ80℃に設定した水浴中にフラスコを浸漬して、真空下でもとの質量の約35%が除去されるよう溶媒をフラッシングする。除去される溶媒の量は、メスシリンダー中の容積を読み取ることによって推定され、最終的には丸底フラスコ中の残渣を秤量することによって確認される。次に、残渣を収率分析の前にクエンチ工程へと進める。
【0061】
塩素化残渣のクエンチは、pH9.75及び20℃で11%NaOHを使用して「二重流」クエンチ方法により実施される。クエンチ後、塩素化クエンチ混合物は全て、一貫した分析判断を与えるよう、分析の前に水を用いて同質量へ希釈する。結果を図2に示す。
実施例3
HCl(4.35重量%)が混入したDMF199.5gへ、NaCO15.8gを60℃で添加する。添加が完了した後、60℃での混合物の加熱を6時間維持する。反応混合物から採取した分取量を濾過した後、分析する。分析により、285ppmへのHClレベルの低下が示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクロース−6−アシレートを塩素化して4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アシレートを製造する方法であって、
(i)スクロース−6−アシレートの4位、1’位及び6’位を塩素化するよう、第三級アミドを含む反応媒体中で該スクロース−6−アシレートを塩素化剤と反応させること、並びに
(ii)(i)の生成物流をクエンチして、4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アシレートを製造することを含み、前記クエンチの前に、該第三級アミドの一部が除去される、方法。
【請求項2】
前記第三級アミドが蒸留により除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蒸留が減圧下で実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
除去される第三級アミドの量が前記(i)の生成物流の5重量%〜80重量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
除去される第三級アミドの量が、生じる混合物が5重量%〜90重量%の前記第三級アミドを含有するようなものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第三級アミドの除去中に温度が40℃〜150℃であり、かつ前記クエンチまでこの範囲内で維持される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第三級アミドがDMFである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記塩素化剤がホスゲン又はアーノルド試薬である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記スクロース−6−アシレートがスクロース−6−アセテートである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記スクロース−6−アシレートがスクロース−6−ベンゾエートである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記除去された第三級アミドが前記方法におけるさらなる使用のために再利用される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記除去された第三級アミドがスクロースからのスクラロースの合成における工程での使用のために再利用される、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記除去された第三級アミドが再利用される前に塩基で処理されて、塩化水素が除去される、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記除去された第三級アミドが前記塩基による処理後に濾過される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシ−ガラクトスクロース−6−アシレートの少なくとも一部をスクラロースへ変換する工程をさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記スクラロースを単離及び精製する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−521976(P2012−521976A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501374(P2012−501374)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000549
【国際公開番号】WO2010/109189
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(509178806)テート アンド ライル テクノロジー リミテッド (17)
【Fターム(参考)】