説明

スケール防止剤、およびスケール防止方法

【課題】スケール防止効果の高い新規なスケール防止剤を提供すること。
【解決手段】蒸気発生設備用のスケール防止剤であって、分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を少なくとも含有するスケール防止剤を提供する。本発明に係るスケール防止剤を用いておよびスケール防止方法は、従来のスケール防止技術に比べて著しくスケール防止効果が優れているため、ボイラ等の蒸気発生設備に好適に用いることができる。このスケール防止効果は、硬度成分やシリカ濃度が従来よりも高い場合においても発揮することができるため、従来に比べ、ブロー水を削減した高濃縮運転が可能となり、その結果、エネルギーコストを削減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スケール防止剤、およびスケール防止方法に関する。より詳しくは、ボイラなどのような蒸気発生設備に適用可能なスケール防止剤、およびスケール防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟水を補給水とするボイラ等の蒸気発生設備においては、軟水中に微量に存在する硬度成分や、軟水器からリークし前記蒸気発生設備などの水系に混入した硬度成分が、軟水中に含まれている炭酸イオンやシリカ成分と結合してスケールが生じる。一旦生じたスケールは再び水に溶けることは無く、水系設備内に付着または堆積して水系設備自体の障害を起こす場合がある。
【0003】
このスケールを防止する技術として、従来から、ポリアクリル酸ソーダなどを用いたスケール防止剤が使用されている。例えば、非特許文献1には、スケール成分を微細なスラッジとしてブローから排出することによって、スケール化を防止する分散剤としてポリアクリル酸塩が開示されている。
【0004】
特許文献1には、分子量500〜100000もしくは500〜20000のポリアクリル酸ソーダを含む各種ポリマーが含まれている軟水用ボイラ添加剤が提案されている。そして、分子量が100000以上では凝集作用が生じるため好ましくないこと、合成上の容易性の観点からポリアクリル酸は分子量1000〜20000が良いこと、が記載されている。
【0005】
特許文献2には、ジエチルヒドロキシルアミン(DEHA)と不飽和カルボン酸重合体を含むボイラ水処理剤が提案されており、不飽和カルボン酸重合体の1つにポリアクリル酸が含まれている。そして、不飽和カルボン酸重合体の分子量については、鉄スラッジ分散による防食効果が優れる範囲として、通常500〜100000、好ましくは1000〜20000であるとされている。なお、本文献では、DEHAは、硬度やシリカ系成分のスケール防止に用いられるものではなく、脱酸素剤および鉄スラッジの発生抑制による堆積防止の機能を有すると記載されている。
【0006】
特許文献3には、重量平均分子量3000以下、分子量分布が1.8以下のポリアクリル酸を含むカルボン酸系ポリマーが含まれている金属防食剤が提案されている。
【0007】
以上のように、スケール防止剤としてポリアクリル酸ソーダなどが有効であることが分かっているが、近年、ポリアクリル酸ソーダなどのスケール防止剤の中でも適切なものを使用しないと、添加量を増加しても硬度系のスケールを防止できないことが分かってきた。上述の通り、特許文献1〜3では、ポリアクリル酸の好適な分子量が開示されてはいるが、実際にスケール防止効果の違いについてポリマーの分子量の違い等による明確な検討はされていないのが現状である。
【0008】
そこで、本願出願人は、特許文献4において、分子量10000〜20000の(メタ)アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体および脱酸素剤を含有することを特徴とする、蒸気中の臭気とアルデヒドを抑制するスケール防止効果の高いボイラ水処理剤を提案した。本文献では、(メタ)アクリル酸の最適な分子量を検討しているが、(メタ)アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体の方がアクリル酸のホモポリマーに比べて処理効果が優れるとして、ポリアクリル酸については検討していない。また、脱酸素剤をボイラ水処理剤の必須成分としているが、脱酸素剤を含有することによるスケール防止効果への影響については検討していない。
【0009】
なお、硬度成分と結合してスケール化するシリカについては、JIS B−8223(2006)において、ボイラ水中のPアルカリ度/1.7を上限としている(43頁参照)。そして、低圧ボイラにおけるPアルカリ度の基準値は、最大でも600mgCaCO/Lであることから、シリカ濃度の上限は事実上350mg/Lとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−092097号公報
【特許文献2】特開2006−225742号公報
【特許文献3】特開2001−254191号公報
【特許文献4】特開平11−197648号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】社団法人日本ボイラ協会「ボイラーの水管理」平成13年発行、p.242
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、スケール防止剤の中でも適切なものを使用しないと、添加量を増加しても硬度系のスケールを防止できないことから、スケールを十分に防止できる最適なスケール防止剤の開発が期待されている。硬度成分やシリカの濃度が高い場合においても、スケールの生成を防止することができれば、スケールによるエネルギー効率の低下が防止できると考えられる。
【0013】
そこで、本発明では、従来のスケール防止剤に比べて、スケール防止効果の高い新規なスケール防止剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者らは、スケールを十分に防止できる方法について鋭意研究した結果、スケール防止剤として用いるポリアクリル酸塩の分子量に着目することにより、よりスケール防止効果の高いスケール防止剤を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明ではまず、蒸気発生設備用のスケール防止剤であって、
分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を少なくとも含有するスケール防止剤を提供する。
本発明に係るスケール防止剤は、前記ポリアクリル酸塩を少なくとも含有していれば、本発明の目的を損なわない限り、他の物質を含有させることも可能である。例えば、配管等の腐食の防止や薬液中のスライム防止を目的として、アルカリを更に含有させることができる。
この場合、アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを挙げることができる。
また、本発明に係るスケール防止剤には、ポリアクリル酸塩の分解抑制を目的として、脱酸素剤を更に含有させることも可能である。
この場合、前記脱酸素剤は、エリソルビン酸またはその塩、アスコルビン酸またはその塩を挙げることができる。
【0016】
本発明では、次に、蒸気発生設備のスケール防止方法であって、
分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を添加する添加工程を少なくとも行うスケール防止方法を提供する。
本発明に係るスケール防止方法における前記添加工程においては、配管等の腐食の防止や薬液中のスライム防止を目的として、アルカリを併用することも可能である。
この場合、アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを挙げることができる。
また、前記添加工程においては、ポリアクリル酸塩の分解抑制を目的として、脱酸素剤を更に併用することも可能である。
この場合、前記脱酸素剤は、エリソルビン酸またはその塩、アスコルビン酸またはその塩を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来のスケール防止剤に比べて、スケール防止効果が著しく高いスケール防止剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な形態について、詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0019】
<スケール防止剤>
本発明に係るスケール防止剤は、所定の分子量からなるポリアクリル酸塩(1)を必須成分とする。また、必要に応じて、アルカリ(2)、脱酸素剤(3)などを含有させることも可能である。以下、各成分について、詳細に説明する。
【0020】
(1)ポリアクリル酸塩
本発明に係るスケール防止剤に用いるポリアクリル酸塩は、分子量20000以上70000以下であり、分子量をこの範囲に限定することで、優れたスケール防止効果を発揮することができる。スケール防止効果は、スケール防止剤に用いるポリアクリル酸塩の分子量が20000未満になっても、分子量が70000を超えても低下する(実施例1参照)。
【0021】
本発明に係るスケール防止剤に用いることができるポリアクリル酸塩は、前記分子量を呈するものであれば、その塩の種類は特に限定されず、自由に選択して用いることができる。例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。ポリアクリル酸のナトリウム塩とカリウム塩のスケール防止効果は同等であるが、経済面を考慮すると、本発明においてはナトリウム塩を用いることが好ましい。
【0022】
本発明に係るスケール防止剤に含有させるポリアクリル酸塩の量は特に限定されず、補給水中の硬度成分やシリカの量、併用する他の水処理薬剤などとのバランスに応じて自由に設定することが可能である。本発明においては特に、蒸気発生設備中のポリアクリル酸塩濃度が5mg/L以上1250mg/L以下となるように、スケール防止剤に含有させるポリアクリル酸塩の量を設定することが好ましい。蒸気発生設備中のポリアクリル酸塩濃度が5mg/L未満であると、蒸気発生設備中の硬度成分やシリカの濃度によっては、スケール防止効果が不足する場合があり、1250mg/Lを超えると経済性が劣るほか、水系が泡立ちやすくなる場合があり、キャリーオーバーの発生が懸念される場合もある。
【0023】
また、蒸気発生設備に添加する薬液中のポリアクリル酸塩濃度も特に限定されず、補給水中の硬度成分やシリカの量、併用する他の水処理薬剤などとのバランスに応じて自由に設定することが可能である。本発明においては特に、1%以上30%以下とすることが好ましい。1%未満であると、同等の効果を得るためには添加量を増やす必要があり、製剤コストもかかるため、経済性が低下する場合があるからである。また、30%を超えると、粘度上昇によるハンドリング低下を招く場合があるからである。
【0024】
更に、給水に対するポリアクリル酸塩の添加量も特に限定されず、補給水中の硬度成分やシリカの量、併用する他の水処理薬剤などとのバランスに応じて自由に設定することが可能である。本発明では特に、給水中の硬度に対して、好ましくは同量以上、より好ましく1.5倍以上となるように添加することで、硬度成分のスケールが付着することなく、かつブローのストレーナも閉塞させることなく運転できる。
【0025】
(2)アルカリ
本発明に係るスケール防止剤には、必須成分ではないが、アルカリを含有させることが可能である。
【0026】
ポリアクリル酸塩をスケール防止剤として単独で水溶液にて使用する場合、薬液タンクに投入後の滞留期間が長いと、スライム状物質が生じて薬注ポンプを閉塞させ、注入が不安定になる場合がある。また、注入配管や注入直後の給水配管(特に鋳鉄製配管継手など)を短期間で腐食させ破孔に至らしめるという問題が生じる場合がある。しかし、アルカリを含有させることで、配管等の腐食性を低下させることができる。また、薬液中の経時的なスライムの発生を防止することもでき、その結果、薬注タンク等におけるスケール防止剤の安定的な保存が実現でき、更に、安定的かつ持続的にスケール防止効果を発揮することができる。
【0027】
本発明に係るスケール防止剤に用いることができるアルカリの種類は特に限定されず、水系処理に用いることが可能なアルカリを1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。この中でも、本発明においては特に、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムなどの苛性アルカリが好適である。これらは、配管等の腐食性についても優れた低下作用を有し、かつ、薬液中のスライム発生についても優れた防止効果を有するからである(実施例3参照)。
【0028】
蒸気発生設備に添加する薬液中のアルカリ濃度も特に限定されず、補給水中の水質、併用する清缶剤などの水処理薬剤からのアルカリ発生量、ポリアクリル酸塩濃度とのバランス、などに応じて自由に設定することが可能である。本発明においては特に、0.1%以上30%以下とすることが好ましい。薬液中のアルカリ濃度が0.1%未満であると前記の各効果が劣る場合があり、30%を超えるとハンドリング低下が生じる場合があるからである。
【0029】
(3)脱酸素剤
本発明に係るスケール防止剤には、必須成分ではないが、脱酸素剤を含有させることが可能である。
【0030】
ブローによるエネルギーロスを削減するために高濃縮した場合や、蒸気使用量の減少により蒸気発生設備が低負荷運転となった場合、或いは運転圧力が高い場合には、添加したポリアクリル酸塩が缶水中で分解してしまい、十分なスケール防止効果を発揮しなくなるという問題が生じる場合がある。しかし、脱酸素剤を含有させることで、ポリアクリル酸塩の経時的な分解を抑制することが可能である。その結果、安定的かつ持続的にスケール防止効果を発揮することができる。
【0031】
本発明に係るスケール防止剤に用いることができる脱酸素剤の種類は特に限定されず、
水系中の溶存酸素を低減する作用を有するものであれば、1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、ヒドラジン、亜硫酸またはその塩、重亜硫酸またはその塩、タンニン系物質、タンニンとアルカリを配合して生成する没食子酸等の多価フェノール類、糖類や糖とアルカリの反応物、グルコン酸またはその塩やαグルコヘプトン酸またはその塩などの糖のアルドン酸またはその塩、エリソルビン酸またはその塩、アスコルビン酸またはその塩、1−アミノピロリジンや1−アミノ−4−メチルピペラジンなどのN−置換アミノ基を有する複素環化合物、ジエチルヒドロキシルアミンやイソプロピルヒドロキシルアミンなどのヒドロキシアミン類、カルボヒドラジド、などが挙げられる。この中でも本発明では特に、エリソルビン酸またはその塩、アスコルビン酸またはその塩が好適である。これらは、安全性が高く、缶水への着色が少なく、かつポリアクリル酸塩の分解抑制効果が高いからである。
【0032】
脱酸素剤の添加量は特に限定されず、蒸気発生設備中のポリアクリル酸塩濃度などに応じて自由に設定することが可能である。本発明においては特に、蒸気発生設備中に、脱酸素剤成分が残留するように、脱酸素剤を添加することが好ましい。
【0033】
以上説明した本発明に係るスケール防止剤が適用可能な水質条件は、特に制限はないが、濃縮過剰によるキャリーオーバー防止などの観点から見た現実的な水質の目安としては、水系中のシリカ濃度が1300mg/L以下、硬度は700mgCaCO/L以下であることが好ましい。
【0034】
また、本発明に係るスケール防止剤が適用可能な蒸気発生設備における圧力も特に限定されないが、3.0MPa以下とすることが好ましい。3.0MPaを越えると、前記脱酸素剤併用した場合に安定化効果が低下する場合があるからである。
【0035】
<スケール防止方法>
本発明に係るスケール防止方法は、所定の分子量からなるポリアクリル酸塩(1)を添加する工程を少なくとも行う方法である。また、必要に応じて、前記添加工程において、アルカリ(2)、脱酸素剤(3)などを併用して添加することも可能である。なお、各成分の種類、添加量、および本発明に係るスケール防止方法が適用可能な水質条件、蒸気発生設備などは、前記スケール防止剤と同一であるため、ここでは説明を割愛する。
【0036】
本発明に係るスケール防止方法は、少なくとも前記添加工程を行う方法であれば、通常の水系処理で行う他の工程は、自由に選択して行うことができる。本発明においては、例えば、水系中の硬度を連続もしくは半連続的に検知し、その硬度に応じてスケール防止剤の給水に対する添加量を自動制御することで、安定的かつ持続的なスケール防止効果を発揮することができる。この際、使用する硬度検知の方法としては、Caイオン電極式のものや比色式のものが挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するとともに、本発明の効果を検証する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0038】
<実験1>
実験1では、本発明に係るスケール防止剤のスケール防止効果について検討した。具体的には、ポリアクリル酸塩の分子量の違いによるスケール防止効果を調べた。なお、本実施例においては、ポリアクリル酸塩の一例として、ポリアクリル酸ソーダ(ポリアクリル酸ナトリウム、表1中種類「A」と表記)、およびポリアクリル酸カリウム(表1中種類「B」と表記)を用いて行った。
【0039】
ステンレス製テストボイラ(保有水量4L)に、町水(栃木県下都賀郡野木町で採取、Ca硬度:30mgCaCO/L、Mg硬度:15mgCaCO/L、シリカ:25mg/L、Mアルカリ度:30mgCaCO/L、以下同じ)と、町水をナトリウム型イオン交換樹脂に通水した軟化水を下記の表1に示す比率で混合した常温の水を給水しながら、圧力0.7MPa、蒸発量8L、ブロー量を下記の表1に示す濃縮倍数となるように調整し、下記の表1に示すポリアクリル酸塩をそれぞれ添加しながら48時間運転した。運転後に伝熱チューブ(ステンレス製、表面積200cm×3本)を取り出し、そのうちの2本の伝熱チューブに付着したスケールをかき取り、スケール付着量を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示す通り、分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を用いた実施例1〜10では、分子量20000未満若しくは分子量70000を超えるポリアクリル酸塩を用いた比較例1〜11に比べ、スケールの付着量が飛躍的に減少することが分かった。この結果から、同じポリアクリル酸塩であっても、分子量の違いにより、スケール防止効果に大きな差が生じることが分かった。また、分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩は、分子量20000未満若しくは分子量70000を超えるポリアクリル酸塩に比べ、スケール防止効果が格段に高いことが分かった。
【0042】
更に、比較例においては、町水の比率が高く比較的硬度の高い比較例8〜11においては、ポリアクリル酸塩の給水に対する添加量を増やした場合であっても、比較例1〜7に比べスケール付着量が増加していた。一方、実施例においては、町水の比率が高く比較的硬度が高い実施例7〜10においても、スケール付着量が低く保たれることが分かった。この結果から、比較的、硬度が高い水を給水した場合であっても、分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を用いることにより、スケールを防止することができることが分かった。
【0043】
加えて、濃縮倍率を40倍とした実施例5および6と、比較例7とを比べると、分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を用いた実施例5および6におけるスケール付着量が、飛躍的に減少することが分かった。この結果から、分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を用いれば、ブロー水を削減した高濃縮運転が可能となり、エネルギーコスト等の削減にもつながることが分かった。
【0044】
<実験2>
実験2では、本発明に係るスケール防止剤の、従来よりも高いシリカ濃度におけるスケール防止効果を検討した。なお、本実施例においては、実施例1と同様に、ポリアクリル酸塩の一例として、ポリアクリル酸ソーダ(ポリアクリル酸ナトリウム、表2中種類「A」と表記)、およびポリアクリル酸カリウム(表2中種類「B」と表記)を用いて行った。
【0045】
前記実施例1〜10と同条件において、メタケイ酸ナトリウムやケイ酸ナトリウム溶液を用いて、NaとSiOのモル比が1:1になるように調整した薬剤を、該薬剤から上乗せされるシリカ濃度が100〜110mg/Lになるように給水中に添加し、前記実施例1〜10と同一の方法で電熱チューブに付着したスケール付着量を測定した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示す通り、分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を用いた実施例11〜18では、分子量20000未満若しくは分子量70000を超えるポリアクリル酸塩を用いた比較例12〜21に比べ、従来よりも高いシリカ濃度においてもスケールの付着量が飛躍的に減少することが分かった。
【0048】
また、比較例においては、町水の比率が高く比較的硬度の高い比較例18〜21においては、ポリアクリル酸塩の給水に対する添加量を増やした場合であっても、比較例12〜17に比べスケール付着量が増加していた。一方、実施例においては、町水の比率が高く比較的硬度が高い実施例15〜18においても、スケール付着量が低く保たれることが分かった。即ち、シリカ濃度が高い場合に、比較的、硬度が高い水を給水した場合であっても、分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を用いることにより、スケールを防止することができることが分かった。この結果から、本発明に係るスケール防止剤を用いれば、従来よりも硬度成分やシリカ濃度が高い場合においてもスケールを確実に防止することができるため、従来に比べてブロー水を削減した高濃縮運転が可能になり、エネルギーコストの削減も可能にできることが分かった。
【0049】
<実験3>
実験3は、本発明に係るスケール防止剤にアルカリを含有させた場合の効果について検討した。具体的には、本発明に係るスケール防止剤にアルカリを含有させた場合に、配管等の腐食性および薬液中のスライムの発生への影響について調べた。なお、本実施例においては、ポリアクリル酸塩の一例としてポリアクリル酸ソーダ(ポリアクリル酸ナトリウム)を、アルカリの一例として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および炭酸ナトリウムを用いて行った。
【0050】
まず、下記の表3に示す濃度のポリアクリル酸ソーダ(ポリアクリル酸ナトリウム)とアルカリを混合した薬液を調整した。次に、それぞれ容量1Lのポリエチレンビーカーに調整した薬液を1L入れ、60℃の恒温水槽に入れ、SGP(炭素鋼鋼管)およびFC(銅管)の試験片(50×30×3mm、400番研磨)をこの薬液に浸漬し、155rpmの速度で試験片を取り付けた冶具を回転させた。165時間後に取り出し、脱錆処理して重量を測定し、試験前の重量との比較より腐食速度(mdd:mg/(dm・day))を算出した。
【0051】
また、薬液各1Lを容量1Lのポリプロピレン製瓶に入れ、直径5mm空気穴をあけた蓋をして、室温にて静置保管した。2ヶ月後に目視観察し、薬液中のスライムの有無を確認した。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示す通り、アルカリを含有する実施例22、25〜33については、SGP(炭素鋼鋼管)およびFC(銅管)共に、アルカリを含有しない実施例19〜21、23、24に比べ、腐食速度が大幅に低減していた。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いた実施例25〜33については、アルカリを含有しない実施例19〜21、23、24に比べ、腐食速度が飛躍的に低減していた。この結果から、本発明に係るスケール防止剤に、アルカリを含有させることで、配管等の腐食を軽減できることが分かった。また、アルカリの中でも特に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好ましいことも分かった。
【0054】
更に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いた実施例25〜33については、2ヶ月後の薬液中のスライムの発生が全くないことが分かった。この結果から、本発明に係るスケール防止剤に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリを含有させることで、薬液中のスライムの発生を防止できることも分かった。
【0055】
<実験4>
実験4では、本発明に係るスケール防止剤に脱酸素剤を含有させた場合の効果について検討した。具体的には、本発明に係るスケール防止剤に脱酸素剤を含有させた場合に、ポリアクリル酸塩の分解への影響について調べた。なお、本実施例においては、ポリアクリル酸塩の一例としてポリアクリル酸ソーダ(ポリアクリル酸ナトリウム)を、脱酸素剤の一例としてエリソルビン酸ソーダ(表4中種類「A」と表記)、アスコルビン酸ソーダ(表4中種類「B」と表記)、タンニン(表4中種類「C」と表記)、α−グルコヘプトン酸ソーダ(表4中種類「D」と表記)を用いて行った。
【0056】
前記実施例1〜10と同一のテストボイラを用いて、町水とその軟化水を2:8で混合した常温の水を給水しながら、下記の表4に示す条件にてポリアクリル酸ソーダ(ポリアクリル酸ナトリウム)と脱酸素剤を添加しながら運転し、48時間運転後の缶水中のポリアクリル酸ソーダ(ポリアクリル酸ナトリウム)の濃度を測定した。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
表4に示す通り、脱酸素剤を含有する実施例38〜45については、脱酸素剤を含有しない実施例34〜37に比べ、48時間後のポリアクリル酸ソーダ(ポリアクリル酸ナトリウム)の残存率が飛躍的に高いことが分かった。
【0059】
また、脱酸素剤を含有する実施例38〜45について、実施例1と同一の方法で電熱チューブに付着したスケール付着量を測定したところ、実施例38〜45全てにおいて、スケール付着量は20mg以下であった。
【0060】
この結果から、本発明に係るスケール防止剤に、脱酸素剤を含有させることで、経時的なポリアクリル酸塩の分解を抑制することができ、スケール防止効果を安定的に持続的に発揮することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係るスケール防止剤を用いておよびスケール防止方法は、従来のスケール防止技術に比べて著しくスケール防止効果が優れているため、ボイラ等の蒸気発生設備に好適に用いることができる。このスケール防止効果は、硬度成分やシリカ濃度が従来よりも高い場合においても発揮することができるため、従来に比べ、ブロー水を削減した高濃縮運転が可能となり、その結果、エネルギーコストを削減することができる。
【0062】
また、本発明に係るスケール防止剤は、経時的なスライム発生防止効果を有するため、薬注タンク等における保存時の経時安定性が非常に優れ、ボイラ等の蒸気発生設備において無駄のないスケール防止処理を行うことができる。
【0063】
更に、本発明に係るスケール防止剤は、注入配管や注入後の給水配管などに対する腐食性が著しく低いため、ボイラ等の蒸気発生設備の長期的な使用を可能とする。
【0064】
加えて、本発明に係るスケール防止剤は、ブローによるエネルギーロスを削減するために高濃縮した場合や、蒸気使用量の減少により蒸気発生設備が低負荷運転となった場合、或いは運転圧力が高い場合であっても、添加したポリアクリル酸塩の分解を抑制することができるため、ボイラ等の蒸気発生設備において、安定的かつ持続的なスケール付着の防止を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気発生設備用のスケール防止剤であって、
分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を少なくとも含有するスケール防止剤。
【請求項2】
アルカリを更に含有する請求項1記載のスケール防止剤。
【請求項3】
前記アルカリは、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムである請求項2記載のスケール防止剤。
【請求項4】
脱酸素剤を更に含有する請求項1から3のいずれか一項に記載のスケール防止剤。
【請求項5】
前記脱酸素剤は、エリソルビン酸またはその塩、アスコルビン酸またはその塩、から選ばれる請求項4記載のスケール防止剤。
【請求項6】
蒸気発生設備のスケール防止方法であって、
分子量20000以上70000以下のポリアクリル酸塩を添加する添加工程を少なくとも行うスケール防止方法。
【請求項7】
前記添加工程において、アルカリを併用する請求項6記載のスケール防止方法。
【請求項8】
前記アルカリは、水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムである請求項7記載のスケール防止方法。
【請求項9】
前記添加工程において、脱酸素剤を更に併用する請求項6から8のいずれか一項に記載のスケール防止方法。
【請求項10】
前記脱酸素剤は、エリソルビン酸またはその塩、アスコルビン酸またはその塩、から選ばれる請求項9記載のスケール防止方法。

【公開番号】特開2010−172816(P2010−172816A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17593(P2009−17593)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】