説明

スケール防止方法および炭酸カルシウムスケール防止剤

【課題】冷却水配管などを構成する金属管表面に対して、より汎用的に、スケールを防止することができる技術を提供する。
【解決手段】カチオン性イオン導電型の樹脂材料からなる被膜を金属部材の水との接触面に形成して、炭酸カルシウムを主成分とするスケールの形成を防止する。例えば、銅管を常温硬化型シリコーンコーティング材を20倍に希釈した溶液に5分間浸漬し、24時間常温で乾燥して下地層を形成した後、ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩を主成分とする樹脂材料をエタノールで20倍に希釈した溶液に5分間浸漬し、24時間常温で乾燥させて、ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩単量体単位を必須構成成分として含む重合体を主鎖とする樹脂材料の被膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水配管などを構成する金属管表面に対して炭酸カルシウムスケールが付着するのを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、給湯機用接水部品の水と接する部分には、主に無機物の炭酸カルシウムからなる堆積物(以下、「スケール」という)が付着しやすい。そのメカニズムは以下のように考えられている。すなわち、水中に含有されている炭酸カルシウムが、給湯機内部における水温上昇により溶解度が低下し、過飽和状態となるために、湯中に析出し給湯機配管の接水表面に付着する。一方、給湯機配管等の給湯機用接水部品は熱伝導性、耐熱性に優れたリン酸脱酸銅を使用しているが、この材質は炭酸カルシウムと極めて親和性が良好である。そのために、その最表面層と炭酸カルシウムとが一次結合し強固なスケールとなる。そして、強固な一次結合したスケールの形成は、給湯機の熱伝達を低下させ、出湯温度の低下や燃料の浪費となる原因となっていた。そこで、従来より給湯機配管内を水と一緒にスポンジボールを定期的に流してスケールを掻き取ったり、スケール析出の溶解度の低下を抑えるため最高出湯温度を低下させるなどが取られていたが、抜本的な解決には至っていない。
【0003】
特許文献1には、冷却水配管内面にシリコーン皮膜を施しスケール付着を抑制するとあるが、そのメカニズムは明確ではなく、あらゆるケースでスケール防止できるものとはなっていないと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−208285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スケール付着抑制技術として世の中には様々な技術及び製品があるが、いずれも明確なメカニズムの根拠がなく、非常に限定された条件下のみで有効であり汎用が乏しいものしか知られていない。
【0006】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、冷却水配管などを構成する金属管表面に対して、より汎用的に、スケールを防止することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的のため鋭意研究した結果、炭酸カルシウムを主成分とするスケールが形成する際には、前記スケールに対する金属部材の表面状態が大きく影響することを見出し、この表面状態の改善に、カチオン性イオン導電型の樹脂材料からなる被膜が有効に用いられることを見出した。
【0008】
〔構成1〕
即ち、本発明のスケール防止方法の特徴構成は、金属部材に被膜を形成して、その金属部材に接触する水からの炭酸カルシウムを主成分とするスケールの形成を防止するスケール防止方法であって、
カチオン性イオン導電型の樹脂材料からなる被膜を前記金属部材の水との接触面に形成して、炭酸カルシウムを主成分とするスケールの形成を防止する点にある。
【0009】
〔作用効果1〕
つまり、本発明者の検討によると、スケールが付着する環境を決定する条件として、スケール付着対象の金属部材表面の電気的特性とスケールを構成する物質の電気的特性との関係が大きく関与する。この点に着目して種々検討した結果、スケール付着対象物表面にカチオン性イオン導電型の樹脂材料の被膜を形成しておくことにより、炭酸カルシウムを主成分とするスケールの付着を大幅に減少させられることを実験的に確認した。
【0010】
このような効果を奏することができる原因は、具体的には、一般的なスケール発生条件下で炭酸カルシウムが正に帯電しやすいのに対して、カチオン性イオン導電型の樹脂材料を用いることにより、金属部材の表面が静電気等によって、正電荷に偏る傾向に改質することができるために、前記金属部材と炭酸カルシウムとの接触を電気的に防止することができるものと考えられる。そのため、金属部材に炭酸カルシウムを付着しにくくすることができる。
【0011】
〔構成2〕
また、特に、前記カチオン性イオン導電型の樹脂材料として、4級アンモニウム基を含有する樹脂材料単量体単位を必須構成成分として含む重合体を主鎖とする樹脂材料を用いることができる。
【0012】
〔作用効果2〕
前記カチオン性イオン導電型の樹脂材料として、4級アンモニウム基を含有する樹脂材料単量体単位を必須構成成分として含む重合体を主鎖とする樹脂材料を用いることにより、前記金属部材に非常に高い帯電防止効果を発揮させることができる。
尚、カチオン性イオン導電型の樹脂としては、アンモニウム基を有する共塩基性のものの他、アミノ基を有する弱塩基性のものを用いることもできる。
【0013】
〔構成3〕
さらに、前記カチオン性イオン導電型の樹脂材料として、アクリル系樹脂材料を用いることができる。
【0014】
〔作用効果3〕
前記カチオン性イオン導電型の樹脂材料として、アクリル系樹脂材料を用いると、前記樹脂材料は成膜性に優れ、かつ、耐環境性能が高い物となるので好ましい。
尚、前記カチオン性イオン導電型の樹脂材料として、アクリル樹脂系材料以外に、骨格としてポリエステル、ポリエチレン、ポリアルキレングリコール等を主鎖に有する樹脂材料が同様に用いられる。
【0015】
〔構成4〕
さらに具体的には、前記金属部材がpH7〜8の冷却水を30〜40℃で流通する熱交換器用銅管である場合には、前記カチオン性イオン導電型の樹脂材料がジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩単量体単位またはジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド塩単量体単位の少なくとも一方を必須構成成分として含む重合体を主鎖とする樹脂材料をもちいることが好ましい。
【0016】
ちなみに、ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩単量体およびジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド塩単量体は、以下の構造を有する化合物である。
【0017】
ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩:
CH2=C(CH3)−COOCH2CH2+(CH33・Cl-
【0018】
メチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド塩:
CH2=CH−CONHCH2CH2CH2+(CH33・Cl-
【0019】
〔作用効果4〕
前記ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩単量体およびジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド塩単量体はいずれもアクリル樹脂の構造中にトリメチルアルキルアンモニウムクロライド構造(以下アンモニウム基と称する)を有するので、表面にアンモニウム基を配置した状態で被膜を形成しやすく、このために、界面活性剤的性質をもち、被膜表面における高い帯電防止効果を発揮しやすくなっているものと考えられる。また、これらの樹脂材料は、後述の実験例より、前記金属部材がpH7〜8の冷却水を30〜40℃で流通する熱交換器用銅管である場合に、前記帯電防止効果に基く高いスケール防止効果が確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】スケール付着量測定装置の概略図である。
【図2】実施例1の銅管のスケール防止効果を示す図である。
【図3】比較例1の銅管のスケール防止効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明のスケール防止方法を説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0022】
前記金属部材として、pH7〜8の冷却水を30〜40℃で流通する熱交換器用銅管を用い、その表面に、カチオン性イオン導電型の樹脂材料を主成分とする重合体を主鎖とする樹脂材料を被覆した。
【0023】
具体的には、前記銅管を、常温硬化型シリコーンコーティング材(信越化学社製シリコーンコーティング剤KR−400)を20倍に希釈した溶液に5分間浸漬し、24時間常温で乾燥し、下地層(厚み10μm程度)を形成した後、ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩(大成ファインケミカル社製帯電防止ポリマー1SX−3000)を主成分とする樹脂材料をエタノールで20倍に希釈した溶液に5分間浸漬し、24時間常温で乾燥させ、ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩単量体単位を必須構成成分として含む重合体を主鎖とする樹脂材料の被膜を形成した。被膜の厚みは10μm程度である。この被膜は、アンモニウム基を備えたカチオン性で、アクリル樹脂骨格を有するイオン導電型樹脂である。このような薄膜でスケールの発生を防止できるのは、薄膜の正電気的性質により、金属表面の電位を良好にコントロールできるためであると考えられる。
【0024】
この被膜を形成した銅管の表面に、図1に示すスケール付着量測定装置により、スケールを発生させて、前記被膜によるスケール防止効果を実証した。その結果、図2に示すように、前記銅管の表面における上記被膜のある部分にはスケールが付着せず、上記被膜の無い部分のみにスケールが付着していることが確認できた。
【0025】
前記スケール付着量測定装置は、図1に示すように、ガス吸収式冷温水機の吸収器・凝縮器部分を模擬した試験対象管1とアクリル管2との二重管を設け、冷却水を流通する管路3に、冷却水を所定温度に制御する冷却部4を設けて、所定の温度、pHの冷却水を試験対象管1の外側に流通させ、他方、温水を流通する管路5に、温水を所定温度に加熱するヒータ6を設けて、前記試験対象管1の表面温度が所定温度になるように、試験対象管1内面に温水を流通させ、これらの流量を制御することで、前記試験対象管1の表面温度(冷却水の温度)におけるスケールの発生を重量により知ることができるように構成してある。
【0026】
〔実施例〕
図1に示すスケール付着量測定装置により、前記試験対象管として、種々の銅管のスケール付着量の測定を行った場合のスケール重量測定結果を以下に示す。短期間で評価を実施するため、水道水1Lあたり塩化カルシウムを660mg、炭酸水素カルシウムを1000mg溶かしpHを調整剤で8.0としこれを模擬冷却水とした。この冷却水を試験対象管(外径15mm、内径14mm、長さ320mm)の外側に温度35℃に流通させ、銅管内面に温度45℃の温水を流通させ流量を制御することで冷却水の温度を35℃に保った。25時間おきに冷却水は交換し100時間連続で運転して、試験対象管に付着したスケール(CaCO3)の重量を測定することでスケール付着抑制効果を検証した。
【0027】
〔実施例1〕
銅管にジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩単量体単位を必須構成成分として含む重合体を主鎖とする樹脂材料の被膜を形成し、試験対象管とし、スケール付着量を調べた結果を図2に示す。図2において黒色部分が金属部材の表面部分(スケールの発生していない部分)、白色部分がスケールである。
【0028】
〔比較例1〕
銅管をそのまま試験対象管とし、スケール付着量を調べた結果を図3に示す。図3においては、全体が白いスケールに覆われているのがわかる。
【0029】
その結果、比較例1における銅管にはスケールが0.131g発生したが、実施例1における上記被膜を形成した銅管にはスケールが0.024gしか発生していなかった。これにより、金属部材がpH7〜8の冷却水を30〜40℃で流通する熱交換器用銅管の場合、上記被膜を形成した場合に、有効に用いられることがわかる。尚、ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩単量体単位を必須構成成分として含む重合体は、アンモニウム基を備えたカチオン性で、アクリル樹脂骨格を有するイオン導電型樹脂であるが、他のカチオン性イオン導電型樹脂や、アクリル骨格以外でカチオン性のイオン導電型樹脂であっても、帯電防止効果が有効に発揮される被膜であれば、種々の樹脂材料を採用できるものと考えられる。
【符号の説明】
【0030】
1 : 試験対象管
1L : 水道水
2 : アクリル管
3 : 管路
4 : 冷却部
5 : 管路
6 : ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材に被膜を形成して、その金属部材に接触する水からの炭酸カルシウムを主成分とするスケールの形成を防止するスケール防止方法であって、
カチオン性イオン導電型の樹脂材料からなる被膜を前記金属部材の水との接触面に形成して、炭酸カルシウムを主成分とするスケールの形成を防止するスケール防止方法。
【請求項2】
前記カチオン性イオン導電型の樹脂材料が、4級アンモニウム基を含有する樹脂材料単量体単位を必須構成成分として含む重合体を主鎖とする樹脂材料である請求項1に記載のスケール防止方法。
【請求項3】
前記カチオン性イオン導電型の樹脂材料が、アクリル系樹脂材料である請求項1または2に記載のスケール防止方法。
【請求項4】
前記金属部材がpH7〜8の冷却水を30〜40℃で流通する熱交換器用銅管であり、前記カチオン性イオン導電型の樹脂材料がジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩単量体単位またはジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド塩単量体単位の少なくとも一方を必須構成成分として含む重合体を主鎖とする樹脂材料からなる請求項1〜3のいずれか一項に記載のスケール防止方法。
【請求項5】
ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド塩単量体単位またはジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライド塩単量体単位の少なくとも一方を必須構成成分として含む重合体を主鎖とする樹脂材料からなる炭酸カルシウムスケール防止剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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