説明

スケール除去方法及びスケール除去剤

【課題】ボイラを運転しながら使用でき、煩雑な設備や制御が不要で、腐食の発生がないスケール除去方法及びスケール除去剤を提供する。
【解決手段】水系システムを運転しながら、その水系に、グルコン酸(塩)及びグルコヘプトン酸(塩)などのアルドン酸(塩)と、EDTAなどのキレート剤とを添加する。また、必要に応じて、これらの化合物に加えて、カルボン酸系ポリマーを添加する。その場合、各成分の比が、質量比で、アルドン酸又はアルドン酸塩:キレート剤:カルボン酸系ポリマー=(3〜10):(5〜20):(3〜25)となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系のスケール除去方法及びスケール除去剤に関する。より詳しくは、ボイラ水系の水処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーコストを削減するため、系外にブローされる水の量を減らして、高濃度で運転する水系システムが増加している。このような水系システムでは、水中のカルシウム、マグネシウム及びシリカなどのスケール成分も高濃度となるため、これらの成分がスケール化して析出することにより、熱効率の低下や閉塞などを引き起こすことがある。
【0003】
特に、ボイラ水系では、ボイラ缶内に持ち込まれたカルシウム、マグネシウム、シリカ及び鉄などのスケール成分は、熱負荷の高い伝熱面でスケール化して付着するため、鋼材の過熱による膨張、湾曲、破裂や熱効率の低下を引き起こす原因となる。また、伝熱面へのスケールの付着は、伝熱阻害を引き起こし、エネルギーロスが生じるため、燃料費の増加にもつながる。
【0004】
このため、ボイラ水系などの水系システムでは、スケールの付着を防止するために、原水中の硬度成分であるカルシウムやマグネシウムを軟水器によって取り除き、軟水化したものを給水としている。また、スケール抑制剤を添加することにより、缶内に持ち込まれたスケール成分の系内への付着を抑制すると共に、ブローよってこれらの成分を系外に排出する水処理方法も行われている。
【0005】
ここで、スケール抑制剤とは、水系システムに持ち込まれた硬度成分をスケール化しにくくするものであり、例えばリン酸三ナトリウムやトリポリリン酸ナトリウムなどのリン酸塩、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリマーが使用されている。また、従来、水に、ポリリン酸やアルドン酸などのスケール発生を抑制する成分と、アミノ基を有する酸及び/又はその塩からなる金属部の浸食を抑制する成分とを配合したスケール抑制剤も提案されている(特許文献1参照)。更に、リン酸系化合物を使用しない水系スケール抑制剤も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
一方、このようなスケール防止方法を採用した場合でも、不測の硬度リークなどが発生することがあるため、スケールの付着を完全に防ぐことは困難である。このため、従来はボイラの運転を停止し、ボイラ水を全ブローにより排出した後、スケール除去剤を用いた化学洗浄が行われている(例えば、特許文献3参照。)。その際、スケール除去剤としては、例えば高濃度のエチレンジアミン四酢酸(ethylene diamine tetraacetic acid:EDTA)などのキレート剤やスルファミン酸などの有機酸が用いられている(例えば、特許文献4参照。)。
【0007】
また、近年、ボイラの運転を停止することなく、スケールを除去する方法も提案されている(特許文献5,6参照)。例えば、特許文献5に記載の除去方法では、ボイラの運転中に、ボイラ缶中に、EDTAなどの特定のキレート剤とポリマレイン酸などの特定の分散剤とを添加している。また、特許文献6に記載の除去方法では、伝熱管に流す熱水の流れを変えることにより管壁からスケールを剥離し、その破片を熱交換器よりも下流に設けられた熱水ライン途上で捕集している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−35789号公報
【特許文献2】特開2009−240929号公報
【特許文献3】特開2003−14396号公報
【特許文献4】特開平4−193971号公報
【特許文献5】特開2000−154996号公報
【特許文献6】特開2010−38438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述したボイラの運転を停止せずにスケールを除去する従来の技術には、以下に示す問題点がある。先ず、特許文献5に記載されているようなボイラ運転中にキレート剤と分散とを添加する方法、又はこれらと清缶剤を併用する方法は、ボイラの母材である鉄に対してもキレート剤が作用して、腐食が生じる虞があるという問題点がある。
【0010】
この腐食を防止するには、亜硫酸塩などの脱酸素剤を併用することが考えられるが、その場合、脱酸素剤に対するキレート剤と分散剤の混合比を、給水温度の変動による溶存酸素濃度の変動に合わせて変化させる必要がある。これは、脱酸素剤が給水の溶存酸素濃度に対して添加濃度を変化させて使用するのに対して、キレート剤と分散剤は缶内に一定濃度で保持して使用するためであり、特にボイラ水系でドレン回収が変動するなどの理由で給水温度が変動する場合は、この操作が必要となる。
【0011】
このため、脱酸素剤を併用する方法は、キレート剤と分散剤用の薬注設備とは別に、脱酸素剤用の薬注設備を追加設置しなければならず、設備費及びメンテナンス費の増加を招く。そこで、各薬剤を予め混合して薬注設備を1つにすると、溶存酸素濃度の最大値見合いで脱酸素剤濃度を一定にして混合する必要があるため、薬品使用量が多くなると共に、脱酸素剤が高濃度で添加されることになるため、ボイラ水の電気伝導率が上昇し、ブローを増加させる必要が生じる。よって、この方法は、経済的でない。
【0012】
一方、脱酸素剤を最小値見合いで配合した場合、給水中の酸素が十分に除去されず、腐食防止効果が十分に得られない。また、例えば、コハク酸やクエン酸などのように、缶内に一定濃度保持して使用するタイプの防食剤もあるが、これらの化合物では十分に防食することができない。
【0013】
これに対して、特許文献6に記載の方法のように伝熱管に流す熱水の流れを変えることによりスケールを剥離する方法は、薬剤を使用しないため、キレート剤による腐食の問題は生じないが、ボイラ水系で運転を止めずに熱水の流れを変更することは難しく、現実的ではない。
【0014】
このように、水系システムを運転しながら、腐食の問題を発生させず、かつ、煩雑な薬注設備や制御を行うことなしに、スケールを除去することができる技術は、未だ実現されていない。
【0015】
そこで、本発明は、ボイラを運転しながら使用でき、煩雑な設備や制御が不要で、腐食の発生がないスケール除去方法及びスケール除去剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るスケール除去方法は、ボイラ水系システムにおいて生じたスケールを除去する方法であって、ボイラを運転中に、前記水系に、アルドン酸又はアルドン酸塩と、キレート剤とを添加する。
本発明においては、ボイラ水系に、アルドン酸又はその塩とキレート剤とを添加しているため、アルドン酸又はその塩によって腐食を抑制しつつ、キレート剤によりスケールを除去することが可能となる。
この方法では、前記水系に、更に、カルボン酸系ポリマーを添加してもよい。
その場合、アルドン酸又はアルドン酸塩、キレート剤及びカルボン酸系ポリマーの添加量を、質量比で、アルドン酸又はアルドン酸塩:キレート剤:カルボン酸系ポリマー=(3〜10):(5〜20):(3〜25)とすることが望ましい。
また、水系におけるキレート剤とカルボン酸系ポリマーの合計濃度を300mg/L以上にすることもできる。
更に、前記水系におけるアルドン酸又はアルドン酸塩濃度を100〜1000mg/Lにしてもよい。
更にまた、前記水系におけるキレート剤濃度を100〜1000mg/Lにすることもできる。
更にまた、アルドン酸又はアルドン酸塩として、グルコン酸、グルコヘプトン酸、又はこれらの塩を使用してもよい。
更にまた、キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸を使用してもよい。
【0017】
本発明に係るボイラ水系用スケール除去剤は、アルドン酸又はアルドン酸塩と、キレート剤と、を少なくとも含有するものである。
本発明においては、アルドン酸又はその塩により、スケールが付着していない部分にもキレート剤が作用し、腐食が発生することが防止される。
このスケール除去剤では、前述した成分に加えて、更に、カルボン酸系ポリマーを含有させることもできる。
その場合、アルドン酸又はアルドン酸塩、キレート剤及びカルボン酸系ポリマーの配合比を、質量比で、アルドン酸又はアルドン酸塩:キレート剤:カルボン酸系ポリマー=(3〜10):(5〜20):(3〜25)とすることが望ましい。
また、アルドン酸又はアルドン酸塩は、グルコン酸、グルコヘプトン酸、又はこれらの塩であってもよい。
更に、キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸でもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アルドン酸又はアルドン酸塩とキレート剤とを使用しているため、煩雑な設備や制御が不要であり、また、ボイラを停止することなく、腐食を抑制しながらスケールを除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るスケール除去方法について説明する。本実施形態のスケール除去方法は、ボイラ水系システムにおいて発生したスケールを除去するものであり、ボイラ運転中に、その水系に、アルドン酸又はアルドン酸塩と、キレート剤とを添加する。
【0021】
[アルドン酸・アルドン酸塩]
アルドン酸及びアルドン酸塩は、水系で、腐食抑制剤として作用する。ここで、アルドン酸とは、アルドースのアルデヒド基だけが酸化されて生じるヒドロキシモノカルボン酸の総称であり、例えば、グルコン酸、グルコヘプトン酸、マンノン酸、マンノヘプトン酸、ガラクトン酸及びガラクトヘプトン酸などが挙げられる。また、アルドン酸塩としては、例えば、前述した化合物のナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアンモニウム塩などが挙げられる。
【0022】
なお、本実施形態のスケール除去方法で使用するアルドン酸及びアルドン酸塩は、特に限定されるものではないが、入手の容易さ、安全性の観点から、グルコン酸又はその塩、グルコヘプトン酸又はその塩が望ましい。また、前述したアルドン酸又はその塩は、単独で使用してもよく、また複数種を併用することもできる。
【0023】
更に、これらアルドン酸又はアルドン酸塩は、水系中の濃度が、100〜1000mg/Lとなるように添加することが望ましく、その濃度のより好ましい範囲は150〜600mg/Lである。これにより、スケール除去されたボイラ本体にキレート剤が作用し、腐食が発生することを、経済的かつキャリーオーバーすることなく抑制することができる。
【0024】
[キレート剤]
キレート剤は、金属イオンと配位結合を形成する化合物からなり、系内に付着するスケールを剥離する効果がある。本実施形態のスケール除去方法で使用するキレート剤は、金属イオンと配位結合を形成することが可能な官能基を2個以上有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、EDTA、ニトリロ三酢酸(nitrilo triacetic acid:NTA)、ジエチレントリアミン5酢酸(diethylene triamine pentaacetic acid:DTPA)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸(N-(2-Hydroxyethyl)ethylenediamine-N,N',N'-triacetic acid:HEDTA),メチルグリシン二酢酸(methyl glycine diacetic acid :MGDA)、ビス(ポリ−2−カルボキシルエチル)ホスフィン酸、及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0025】
また、前述した各キレート剤の中でも、効果、入手の容易さ及び安全性の観点から、EDTA及びその塩を使用することが望ましい。更に、本実施形態のスケール除去方法においては、キレート剤を単独で使用してもよいが、複数のキレート剤を併用することも可能である。
【0026】
更に、キレート剤は、水系中の濃度が、100〜1000mg/Lとなるように添加することが望ましく、その濃度のより好ましい範囲は150〜500mg/Lである。これにより、キャリーオーバーを発生することなく、短期間で効率的にスケールを除去することができる。
【0027】
[添加方法]
前述したアルドン酸又はその塩及びキレート剤を、ボイラ水系に添加する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ボイラ運転中に、ボイラ缶又はボイラ給水に対して、混合した状態で又はそれぞれ単独で添加すればよい。なお、本実施形態のスケール除去方法は、pHがアルカリ領域(pH10〜12程度)においてもスケール除去効果を発揮し、またボイラ運転中の高温・高圧下で使用しても、腐食を生じることがないため、ボイラを停止する必要がない。
【0028】
また、これらを水系に添加する際は、アルドン酸又はアルドン酸塩とキレート剤との比(アルドン酸(塩):キレート剤)が、質量比で、3〜10:5〜20となるようにすることが望ましい。これにより、スケールの除去効率が向上する。なお、これらの添加量の比が、前述した範囲から外れると、具体的には、キレート剤の添加量に対して、アルドン酸又はアルドン酸塩の添加量が少ないと、腐食防止効果が低下することがあり、また、アルドン酸又はアルドン酸塩の添加量が多いと、コストが高くなる。一方、キレート剤の添加量が少ないと、スケール除去効率が低下し、処理時間が長くなることがあり、例えば、これらが混合された状態のものを使用する場合は、その添加量が増加するため、アルドン酸又はアルドン酸塩の使用量も増加することとなる。
【0029】
また、本実施形態のスケール除去方法は、ボイラなどのスケール付着が起こる水系システムに適用可能であり、あらゆる給水種に適用することができる。更に、ボイラ水系に適用する場合、そのボイラの種類は特に限定されるものではなく、特殊循環ボイラ、水管ボイラ、丸ボイラ及び排熱回収ボイラなど、あらゆるボイラに適用することができる。ただし、水系内の圧力が高いと、キレート剤が分解する可能性があるため、本実施形態のスケール除去方法を適用する場合は、3.0MPa以下の圧力で運転することが望ましい。
【0030】
[カルボン酸系ポリマー]
本実施形態のスケール除去方法においては、前述したアルドン酸又はその塩及びキレート剤と共に、pH調整剤、防食剤及び脱酸素剤などを添加することができるが、特に、カルボン酸系ポリマーを添加することが好ましい。カルボン酸系ポリマーには、スケールの結晶成長を抑制し、スケールを分散する効果がある。このため、カルボン酸系ポリマーを併用することで、キレート剤により剥離したスケール成分を水中に分散して、再スケール化を防止することができる。
【0031】
このようなカルボン酸系ポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸及びアクリル酸−アクリルアミド共重合体などが挙げられ、これらは単独で使用してもよく、また、複数種を組み合わせて使用することもできる。また、その分子量は、大きすぎるとゲル化しやすくなるため、7万以下であることが望ましい。更に、カルボン酸系ポリマーは、水系において、キレート剤と合わせた総濃度が、300mg/L以上となるように添加することが望ましく、総濃度が500mg/L以上となるように添加することがより望ましい。これにより、スケール除去効果をより高めることができる。
【0032】
更にまた、カルボン酸系ポリマーを添加する場合、アルドン酸又はアルドン酸塩とキレート剤との比(アルドン酸(塩):キレート剤:カルボン酸系ポリマー)が、質量比で、3〜10:5〜20:3〜25となるようにすることが望ましい。これにより、スケールの除去効率がより向上する。なお、カルボン酸系ポリマーの添加量が少ないと、スケール成分を分散させる効果が低下することがあり、また、カルボン酸系ポリマーの添加量が多いと、水系中でゲル化することがある。
【0033】
一般的に、スケールの付着状態は一様ではなく、その厚さや密度にばらつきがあるため、スケール付着面には、既にスケールが除去され、鉄などの鋼材が露出している箇所と、スケールが残存している箇所が存在している。このような部分のスケールを除去する場合、キレート剤のみで処理すると、鉄などの鋼材が露出した箇所にも、キレート剤が作用するため、その部分に腐食が生じてしまう。
【0034】
これに対して、本実施形態のスケール除去方法では、水系に、キレート剤と共にアルドン酸又はアルドン酸塩を添加しているため、幅広い溶存酸素に対応するアルドン酸(塩)の防食効果によって腐食の発生が抑制される。そして、キレート剤の作用により、スケールのみを選択的に除去することができる。
【0035】
また、この方法は、pHがアルカリ領域(pH10〜12程度)においてもスケール除去効果を発揮し、またボイラ運転中の高温・高圧下で使用しても、腐食を生じることがないため、運転を停止しなくても、スケールの除去を行うことが可能となる。更に、本実施形態のスケール除去方法では、アルドン酸(塩)がキレートに対して一定濃度存在することで、溶存酸素などの変動因子に左右されず腐食を抑制することができるため、煩雑な設備や制御が不要である。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るスケール除去剤について説明する。本実施形態のスケール除去剤は、前述した第1の実施形態のスケール除去方法で使用されるものであり、少なくとも、アルドン酸又はその塩と、キレート剤とを含有しており、更に、カルボン酸系ポリマーを含有していることが望ましい。
【0037】
これらの配合比は、適用する水系の状態に応じて適宜設定することが可能であるが、例えば、アルドン酸又はその塩とキレート剤とを含有する場合は、質量比で、アルドン酸(塩):キレート剤=3〜10:5〜20となるようにすることが望ましい。また、カルボン酸系ポリマーも含有させる場合は、質量比で、アルドン酸(塩):キレート剤:カルボン酸系ポリマー=3〜10:5〜20:3〜25となるようにすることが望ましい。
【0038】
これにより、防食性及びスケール除去性に優れたスケール除去剤が得られる。なお、スケール除去剤中のアルドン酸又はアルドン酸塩の量は、が少なすぎると腐食防止効果が低下することがあり、多すぎると製造コストの増加を招く。また、キレート剤量は、少なすぎると短時間でスケール除去することができないことがあり、多すぎると製剤の安定性が低下することがある。更に、カルボン酸系ポリマー量は、少なすぎると添加効果が十分に得られないことがあり、多すぎるとスケール除去剤を水系に添加した際にゲル化することがある。
【0039】
更に、本実施形態のスケール除去剤は、前述した効果を損なわない範囲で、その他の成分、具体的には、pH調整剤、防食剤及び脱酸素剤などを含有していてもよい。
【0040】
このように、本実施形態のスケール除去剤は、アルドン酸又はアルドン酸塩とキレート剤を含有しているため、アルドン酸(塩)によって腐食発生を抑制しつつ、キレート剤によりスケールを除去することができる。また、本実施形態のスケール除去剤は、アルカリ領域で作用し、高温での腐食を発生することなくスケールを除去することができるため、ボイラ運転中に水系に添加して、スケール除去を行うことが可能である。即ち、このスケール除去剤によりスケール除去を行う場合は、ボイラの運転を停止する必要がない。
【0041】
更に、本実施形態のスケール除去剤は、脱酸素剤のように溶存酸素に応じて添加量を増減させなくても、キレート剤に対して一定濃度以上のアルドン酸が存在すれば、このアルドン酸の作用により腐食を抑制することができる。このため、キレート剤とアルドン酸又はアルドン酸塩とを一定比率で混合することができ、水系に対して一定濃度で添加することが可能となるため、適用する水系システムに煩雑な設備を増設したり、煩雑な制御を行ったりする必要がない。
【0042】
なお、従来、アルドン酸を使用したスケール抑制組成物が提案されているが、本実施形態のスケール除去剤とこの従来技術とでは、対象水系が異なる。具体的には、特許文献1に記載の技術は、pH領域が5.5〜9.5程度の水系を対象としているが、本実施形態で対象としているボイラ水系はpH10〜12程度であり、薬剤成分が作用する濃度レベルが異なる。このため、例えばボイラ水系に、特許文献1に記載されているような高濃度のスケール抑制剤を適用した場合、キャリーオーバーが生じたり、揮発性のアミン類が蒸気側に移行したりして、臭気トラブルなどを引き起こす可能性がある。このように、特許文献1に記載されている従来技術をボイラ系に適用することは困難である。
【0043】
また、本実施形態のスケール除去剤の使用方法、並びに含有成分の具体例及び作用・効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、先ず、小型貫流ボイラを用いて、下記表1に示す条件で、スケール除去試験を行った。
【0045】
【表1】

【0046】
具体的には、ボイラ立ち上げ後、缶内にスケール成分を、炭酸カルシウム換算で、約100mg/L(Ca:Mg=2:1)となるように18時間添加した後、ブロー無しで3時間運転し、運転終了時のブロー水中の硬度成分溶解量からスケール除去量を算出した。その結果を下記表2に示す。なお、亜硫酸イオンは酸素と反応すると硫酸イオンとなるため、下記表2に示す亜硫酸ナトリウムの濃度は、反応前の値である。また、コハク酸は水酸化カリウムで中和して添加した。
【0047】
【表2】

【0048】
上記表2に示すように、ブランク及び比較例3は、スケール除去量がわずかであったのに対して、実施例1〜4,7及び比較例1,2では良好なスケール除去効果が得られた。特に、実施例1,2,4及び比較例1、2の薬剤は、優れたスケール除去効果を示すことが確認された。
【0049】
次に、小型貫流ボイラを用いて、下記表3に示す条件で、腐食試験を行った。
【0050】
【表3】

【0051】
腐食試験は、エメリー紙#400で表面を研磨したSPCC製テストピース(サイズ:15mm×50mm×1mm)を、エッチング処理し、秤量したものを7枚用意して、試験片とした。なお、エッチング処理は、15質量%硝酸に30秒間浸漬後、水洗し、アセトン及びトルエンで脱水することにより行った。
【0052】
そして、この試験片を、小型貫流ボイラの下部管寄せに3枚、蒸発間(内周管及び外周管)の中部及び下部にそれぞれ1枚ずつ設置した。その後、ボイラを起動させ、起動と共に給水に対して、各薬剤を下記表4に示す条件で、給水に連動して添加した。試験時間経過後、テストピースを取り出し、脱錆した後、試験前の質量と脱錆後の質量から腐食速度(mdd)を測定した。その結果を、下記表4に併せて示す。なお、下記表4においても、前述した表2と同様に、亜硫酸ナトリウムの濃度は、反応前の値を示した。また、コハク酸は水酸化カリウムで中和して添加した。
【0053】
【表4】

【0054】
上記表3及び表4に示すように、実施例1〜4,7及び比較例3は、腐食を抑制しながらスケール除去することができたのに対して、比較例1,2は下部管寄せを除き腐食速度が増加していた。また、亜硫酸ナトリウムを使用する場合は、比較例4,6のように、脱酸素剤として大量に亜硫酸ナトリウムを添加するか、又は、比較例7のように、給水温度を高くして溶存酸素濃度を低くすれば、腐食を抑制することができるが、亜硫酸ナトリウム添加量を減らし、給水温度を25℃にした比較例5では、下部管寄せを除き、腐食性が比較例1よりも増加した。
【0055】
ここで、比較例4は、給水温度が25℃と低く、溶存酸素が約8mg/Lと高いにもかかわらず腐食を抑制できているが、これは、大量の亜硫酸ナトリウムにより、脱酸素が十分に行われたためである。また、比較例7が、比較例5と同じ脱酸素剤添加濃度でも腐食を抑制できたのは、給水温度を80℃まで上昇させて、溶存酸素濃度を約3mg/Lまで低下させたことにより、脱酸素剤濃度が少なくても十分に脱酸素が行われたためである。
【0056】
このように、亜硫酸ナトリウムを使用する場合では、給水温度が80℃の場合には、300mg/Lの添加でも防食効果が認められるが(比較例7参照)、給水温度が25℃の場合には、同量では足りず、腐食が進む結果となった(比較例5参照)。これにより、亜硫酸ナトリウムを使用する場合は、給水温度により添加量の増減が必要であることが確認された。
【0057】
これに対して、アルドン酸塩を添加した実施例5では、給水温度が80℃の場合でも、実施例1と同等の腐食抑制効果が得られた。更に、実施例6のようにアルドン酸濃度が過剰になった場合でも、腐食は十分に抑制され、過剰添加時に防食効果に悪影響を与えることはないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ水系システムにおいて生じたスケールを除去する方法であって、
ボイラ運転中に、前記水系に、アルドン酸又はアルドン酸塩と、キレート剤とを添加するスケール除去方法。
【請求項2】
前記水系に、更に、カルボン酸系ポリマーを添加することを特徴とする請求項1に記載のスケール除去方法。
【請求項3】
アルドン酸又はアルドン酸塩、キレート剤及びカルボン酸系ポリマーの添加量が、質量比で、アルドン酸又はアルドン酸塩:キレート剤:カルボン酸系ポリマー=(3〜10):(5〜20):(3〜25)であることを特徴とする請求項2に記載のスケール除去方法。
【請求項4】
前記水系におけるキレート剤とカルボン酸系ポリマーの合計濃度を300mg/L以上にすることを特徴とする請求項2又は3に記載のスケール除去方法。
【請求項5】
前記水系におけるアルドン酸又はアルドン酸塩濃度を100〜1000mg/Lにすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスケール除去方法。
【請求項6】
前記水系におけるキレート剤濃度を100〜1000mg/Lにすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスケール除去方法。
【請求項7】
アルドン酸又はアルドン酸塩として、グルコン酸、グルコヘプトン酸、又はこれらの塩を使用することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスケール除去方法。
【請求項8】
キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸を使用することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のスケール除去方法。
【請求項9】
アルドン酸又はアルドン酸塩と、
キレート剤と、
を少なくとも含有するボイラ水系用スケール除去剤。
【請求項10】
更に、カルボン酸系ポリマーを含有することを特徴とする請求項9に記載のボイラ水系用スケール除去剤。
【請求項11】
アルドン酸又はアルドン酸塩、キレート剤及びカルボン酸系ポリマーの配合比が、質量比で、アルドン酸又はアルドン酸塩:キレート剤:カルボン酸系ポリマー=(3〜10):(5〜20):(3〜25)であることを特徴とする請求項10に記載のボイラ水系用スケール除去剤。
【請求項12】
アルドン酸又はアルドン酸塩が、グルコン酸、グルコヘプトン酸、又はこれらの塩であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載のボイラ水系用スケール除去剤。
【請求項13】
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸であることを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載のボイラ水系用スケール除去剤。

【公開番号】特開2011−212591(P2011−212591A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83274(P2010−83274)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】