説明

スタッドレスタイヤ用ゴム組成物及びスタッドレスタイヤ

【課題】氷上・雪上での良好な制動力と操縦安定性とを両立するスタッドレスタイヤ用ゴム組成物及びそれを用いた高性能なスタッドレスタイヤを提供する。
【解決手段】炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛と、オイル又は可塑剤とを含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴムを40質量%以上含むスタッドレスタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドレスタイヤ用ゴム組成物及びスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スパイクタイヤによる粉塵公害を防止するために、スパイクタイヤの使用を禁止することが法制化され、寒冷地では、スパイクタイヤに代わってスタッドレスタイヤが使用されるようになった。スタッドレスタイヤの氷上や雪上でのグリップ性能を向上させるためには、低温における弾性率を低下させて粘着摩擦を向上させる方法がある。特に、氷上での制動力は、ゴムと氷との有効接触面積による影響が大きいため、有効接触面積を大きくするために、低温で柔軟なゴムが求められている。
【0003】
他方、オイル量を増量する等の方法により、単にゴムの硬度のみを下げてしまうと、操縦安定性が低下するという問題がある。
【0004】
一般に、スタッドレスタイヤのトレッドゴムは、強度が高いがガラス転移温度が低く柔軟であるとの理由から、天然ゴムやブタジエンゴムを主成分として作製されることが多い(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、天然ゴムやブタジエンゴムは、硫黄加硫すると加硫戻り(リバージョン)を生じる。この現象は、ゴムが劣化したり、架橋状態が悪くなることであって、この際に低温での弾性率も低下するが、硬度も必要以上に低下し、操縦安定性や耐摩耗性が低下することが、本発明者らの研究の結果わかってきた。加えて、加硫戻りが起こると、不必要に高温のtanδが増大し、燃費が低下することもある。
【0005】
スタッドレスタイヤに限らず、タイヤの生産性をあげるために、より高温で加硫が行われる場合もあるが、この場合には、特に前記現象がより顕著になる。また、加硫戻りにより、更に耐摩耗性も低下するという問題も存在する。
【0006】
また、従来、タイヤなどのゴム製品に用いられる加硫可能なゴム組成物の加硫戻りを抑制し、耐熱性を改善する方法として、加硫剤である硫黄に対する加硫促進剤の配合量を増量させる方法や加硫促進剤としてチウラム系の加硫促進剤を配合する手法などが知られている。また、−(CH−S−等で表される長鎖の架橋構造を形成できる架橋剤として、フレキシス社製のPERKALINK900やDuralink HTS、バイエル社製のVulcuren KA9188などが知られており、これらの架橋剤をゴム組成物に配合することで、ゴム組成物の加硫戻りを抑制できることが知られている。しかし、これらの手法は、天然ゴムやイソプレンゴムの加硫戻りの抑制には効果があるが、ブタジエンゴムでは効果がない、又は少ないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−169500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、氷上・雪上での良好な制動力と操縦安定性とを両立するスタッドレスタイヤ用ゴム組成物及びそれを用いた高性能なスタッドレスタイヤを提供することを目的とする。更には、該ゴム組成物及びスタッドレスタイヤをより高い生産効率で生産して、より安価に消費者に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛と、オイル又は可塑剤とを含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴムを40質量%以上含むスタッドレスタイヤ用ゴム組成物に関する。
上記ゴム組成物は、更に、シリカをゴム成分100質量部に対して10質量部以上含むことが好ましい。
本発明はまた、上記ゴム組成物をトレッドに用いたスタッドレスタイヤに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛と、オイル又は可塑剤とを含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴムを40質量%以上含むスタッドレスタイヤ用ゴム組成物であるので、それを用いたスタッドレスタイヤにおいて、氷上・雪上での良好な制動力と操縦安定性とを両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物は、炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛と、オイル又は可塑剤とを含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴムを40質量%以上含む。
【0012】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴム(BR)を40質量%以上含有する。BRを配合することにより、スタッドレスタイヤの氷上制動性能や氷上操縦安定性を改善することができる。BRの含有量の下限は、45質量%が好ましく、55質量%がより好ましく、60質量%が更に好ましい。また氷雪上での制動力と操縦安定性の観点から考えるとBRの比率は高い程好ましく、80質量%以上、更には100質量%が最も好ましい。40質量%未満であると、ガラス転移温度を低くしにくくなり、氷上・雪上での制動力が低下する。他方、BRの比率が高くなりすぎると、氷雪上性能が良好となるが、機械的強度や耐摩耗性が低下する傾向がある。このような場合、BRの含有量は、好ましくは85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは65質量%以下とすることが出来る。本発明では、BRの比率をより高くすることで、耐摩耗性と氷雪上性能を両立することができる。
【0013】
BRとしては、シス含量が95質量%以上であって、25℃における5%トルエン溶液粘度が80cps以上のものを配合してもよい。このようなBRを配合することにより、加工性改善効果や耐摩耗性向上効果を高めることができる。トルエン溶液粘度は、200cps以下が好ましい。200cpsを超えると、粘度が高くなりすぎ、加工性が低下したり、他のゴム成分と混ざりにくくなる傾向にある。粘度の下限は110cps、上限は150cpsがより好ましい。
【0014】
BRの分子量分布(Mw/Mn)は、3.0以下のものを使用すると、粘度の向上、加工性を改善できるとともに、耐摩耗性も改善できる。更に、Mw/Mnが3.0〜3.4のBRを使用してもよい。このようなBRを使用することにより、加工性の改善と耐摩耗性の改善を両立することができる。
【0015】
ゴム成分としてBRと他のゴム成分との混合物を使用する場合、他のゴム成分としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)などが挙げられる。なかでも、環境に配慮することも、将来の石油供給量の減少に備えることもでき、更に、耐摩耗性も向上できるという理由から、NR及び/又はENRを含むことが好ましい。
【0016】
前記ゴム成分は、アルコキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、グリシジル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基及びシラノール基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基(以下、官能基とする)を含んでもよい。これらの官能基を有するゴムは、市販のものを用いてもよいし、適宜変性して用いてもよい。
【0017】
BRと、NR、ENR及びIRからなる群より選択される少なくとも1種とを混合して使用する場合には、ゴム成分中に、これらのゴム成分の配合量を合計70質量%以上含有することが好ましい。70質量%以上とすることにより、良好な氷雪上性能と耐摩耗性が達成でき、耐加硫戻り性の効果も大きくなる。これらのゴム成分の配合量は、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0018】
本発明のゴム組成物は、(a)炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は(b)炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛を含有する。(a)及び(b)はリバージョン防止剤として機能し得る。(a)の亜鉛塩の使用や(b)の混合物の使用により、BRの耐加硫戻り性を高めるとともに、シリカを配合した組成物の加工性も改善でき、シリカを配合した組成物のリバージョンをより効果的に抑制できる。なお、本発明のゴム組成物は、(a)の亜鉛塩と(b)の混合物との両方を含んでもよい。
【0019】
(a)の亜鉛塩における脂肪族カルボン酸、(b)における脂肪族カルボン酸は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、シクロアルキル基などの環状構造でもよい。また飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれでもよい。また、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸等の脂肪族ポリカルボン酸でもよい。(a)、(b)は液状の場合もあり、ハンドリング性が悪化することがあるが、その場合、シリカ等に担持したものを使用することもできる。
【0020】
(a)、(b)における脂肪族カルボン酸の炭素数は、4以上であり、好ましくは6以上、より好ましくは7以上である。脂肪族カルボン酸の炭素数が4未満では、分散性が悪化する傾向がある。脂肪族カルボン酸の炭素数は、12以下であり、好ましくは10以下、より好ましくは9以下である。脂肪族カルボン酸の炭素数が12を超えると、加硫戻りを充分に抑制できない可能性がある。
【0021】
(a)、(b)における脂肪族カルボン酸としては、例えば、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、イソ酪酸、イソペンタン酸、ピバリン酸、イソヘキサン酸、イソヘプタン酸、イソオクタン酸、ジメチルオクタン酸、イソノナン酸、イソデカン酸、イソウンデカン酸、イソドデカン酸、2−エチル酪酸、2−エチルヘキサン酸、2−ブチルオクタン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸等の飽和脂肪酸;ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。なかでも、加硫戻り抑制効果が高い点から、また、工業的に豊富で安価に得られる点から、2−エチルヘキサン酸が特に好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
(b)における酸化亜鉛としては、従来からゴム工業で使用されるものが挙げられ、具体的には、三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛1号、2号などが挙げられる。
【0023】
(a)の亜鉛塩中の亜鉛含有率、(b)の混合物の合計量中の亜鉛含有率は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。3質量%未満では、加硫戻りを充分に抑制できない傾向がある。また、該亜鉛含有率は95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が最も好ましい。95質量%を超えると、加工性が低下する傾向があるとともに、コストが不必要に上昇する。
【0024】
(a)の亜鉛塩の含有量、(b)の混合物の含有量(脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛の合計量)は、ゴム成分100質量部に対して0.2質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、最も好ましくは1.4質量部以上である。0.2質量部未満では、十分な耐加硫戻り性が確保できず、操縦安定性の改善効果等が得られにくい。該含有量は10質量部以下、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。10質量部を超えると、ブリードやブルームしたり、粘度の必要以上の低下や粘着性の増大により加工性が悪化するおそれがある。また、添加量に対して効果の向上が小さくなり、不必要にコストが増大する傾向もある。
【0025】
なお、ゴム組成物が(a)の亜鉛塩と(b)の混合物との両方を含む場合、上記亜鉛含有率は、(a)及び(b)の合計量100質量%中の亜鉛含有率を意味し、上記含有量は、(a)及び(b)の合計量を意味する。酸化亜鉛ウィスカを含む場合、上記含有量、上記亜鉛含有率は該酸化亜鉛ウィスカの配合量や亜鉛量を含めない値を意味する。なお、酸化亜鉛ウィスカを含む場合は、それ以外の酸化亜鉛の配合量や(a)、(b)における含有量を減じたり、配合しなくても構わない。
【0026】
上記ゴム組成物は、オイル又は可塑剤を含む。これにより、硬度を適切な低さに調整し、良好な氷上制動性能が得られる。オイル、可塑剤としては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。なかでも、低温特性を良好にし、優れた氷上性能が得られる点から、パラフィン系プロセスオイルが好適に用いられる。パラフィン系プロセスオイルとして、具体的には出光興産(株)製のPW−32、PW−90、PW−150、PS−32などが挙げられる。また、アロマ系プロセスオイルとして、具体的には出光興産(株)製のAC−12、AC−460、AH−16、AH−24、AH−58などが挙げられる。
【0027】
オイル又は可塑剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上が更に好ましい。5質量部未満であると、充分な氷上性能向上効果が得られにくい。一方、上記配合量は、ゴム成分100質量部に対して、60質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下が更に好ましい。これらの成分が多すぎると、耐摩耗性が低下してしまう上に、耐加硫戻り性も低下する場合がある。また、耐摩耗性の低下が比較的少ないアロマオイルや代替アロマオイルでも、低温特性が低下して、氷雪上性能が悪化したり、高温でのtanδが大きくなって転がり抵抗が特性が悪化する場合がある。なお、オイル及び可塑剤の両方を含む場合、上記配合量は、オイル及び可塑剤の合計配合量を意味する。
【0028】
上記ゴム組成物は、更にシリカを含有することがより好ましい。シリカを配合することにより、スタッドレスタイヤとして重要な氷上制動性能や氷雪上操縦安定性を向上させることができる。特に、(a)の亜鉛塩や(b)の混合物は、シリカ配合の加工性を改善するとともに、シリカ配合でのリバージョンをより効果的に抑制することができる。シリカとしては、例えば、湿式法で製造されたシリカ、乾式法で製造されたシリカなどが挙げられるが、特に制限はない。
【0029】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは40m/g以上、より好ましくは50m/g以上、更に好ましくは100m/g以上、特に好ましくは130m/g以上である。シリカのNSAが40m/g未満では、補強効果が不充分となるおそれがある。シリカのNSAは、好ましくは450m/g以下、より好ましくは400m/g以下、更に好ましくは300m/g以下、特に好ましくは200m/g以下である。シリカのNSAが450m/gを超えると、分散性が低下し、ゴム組成物の発熱性が増大してしまうため、好ましくない。
【0030】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、最も好ましくは35質量部以上である。シリカの含有量が10質量部未満では、氷上制動性能や氷雪上操縦安定性を向上させにくくなる傾向がある。また、シリカの含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下、更に好ましくは100質量部以下、最も好ましくは50質量部以下である。シリカの含有量が150質量部を超えると、加工性及び作業性が悪化するため、好ましくない。
【0031】
上記ゴム組成物は、シランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン等のクロロ系等が挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。シランカップリング剤の含有量が1質量部未満では、シランカップリング剤を含有することによる効果が充分得られないおそれがある。また、シランカップリング剤の含有量は、同じくシリカ100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。シランカップリング剤の含有量が20質量部を超えると、コストが増大する割にカップリング効果向上が得られず、補強性及び耐摩耗性が低下するため、好ましくない。
【0033】
上記ゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、ステアリン酸、カーボンブラックや卵殻紛等の充填剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、老化防止剤、加硫促進助剤としての酸化亜鉛、過酸化物、硫黄、含硫黄化合物等の加硫剤、加硫促進剤等を含有してもよい。
【0034】
カーボンブラックとしては、平均粒子径が30nm以下及び/又はDBP吸油量が100ml/100g以上のものが好ましい。このようなカーボンブラックを配合することによって、スタッドレスタイヤとして必要な補強性をトレッドに付与し、ブロック剛性、操縦安定性、耐偏摩耗性、耐摩耗性を確保することができる。また、カーボンブラックを配合したゴム組成物は、粘度が上昇して加工性が低下しやすいが、(a)の亜鉛塩や(b)の混合物を使用した場合、未加硫ゴムの粘度を低下させ、加工性を改善することができる。
【0035】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは4質量部以上、更に好ましくは8質量部以上、最も好ましくは20質量部以上である。カーボンブラックの含有量が2質量部未満では、補強性が不足し、必要なブロック剛性、操縦安定性、耐偏摩耗性、耐摩耗性を確保しにくくなる傾向がある。また、該カーボンブラックの含有量は好ましくは120質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは40質量部以下である。カーボンブラックの含有量が120質量部を超えると、加工性が悪化したり、硬度が高くなりすぎるおそれがある。
【0036】
シリカ及びカーボンブラックの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、更に好ましくは40質量部以上、特に好ましくは45質量部以上である。また、該合計含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下、特に好ましくは65質量部以下である。前述の成分とともに、上記合計含有量のシリカ及びカーボンブラックを使用することで、良好な氷雪上性能を有しつつ、優れた操縦安定性及び耐摩耗性を得ることができる。
【0037】
加硫促進助剤としての酸化亜鉛としては、例えば、上述した(b)における酸化亜鉛と同様のものが挙げられる。加硫促進助剤としての酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満では、配合による効果が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。10質量部を超えると、配合による効果の上昇が見られず、コストアップする傾向がある。
【0038】
上記ゴム組成物には、酸化亜鉛ウィスカを配合してもよい。酸化亜鉛ウィスカにより、氷上でのグリップ力を大幅に向上させることができる。また、(a)の亜鉛塩や(b)の混合物に酸化亜鉛ウィスカを併用して用いることにより、より一層の加硫戻り抑制効果が得られ好ましい。
【0039】
酸化亜鉛ウィスカの針状短繊維長は、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、上記針状短繊維長は、5000μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましい。針状短繊維長が1μm未満では、氷上でのグリップ力を向上する効果が小さくなる傾向がある。また、5000μmを超えると、耐摩耗性が著しく低下する傾向がある。
【0040】
酸化亜鉛ウィスカの針状短繊維径(平均値)は、0.2μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。また、上記針状短繊維径は、2000μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。針状短繊維径が0.2μm未満では、氷上でのグリップ力を向上する効果が小さくなる傾向がある。また、2000μmを超えると、耐摩耗性が著しく低下する傾向がある。
【0041】
酸化亜鉛ウィスカの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、0.3質量部以上が好ましく、1.3質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上が更に好ましい。また、上記配合量は、30質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。配合量が0.3質量部未満では、架橋効率向上効果や氷上でのグリップ力向上効果がみられない傾向がある。また、30質量部を超えると、耐摩耗性が低下する傾向がある他、コストも不必要に増大する。
【0042】
上記トレッドの硬度は、JIS−A硬度で好ましくは50度以下、より好ましくは48度以下、更に好ましくは46度以下である。硬度を50度以下にすることによって、柔軟にでき、より優れた氷雪上性能を得ることができる。一方、硬度は好ましくは40度以上である。硬度が40度未満であると、未加硫ゴムの加工性が悪化したり、操縦安定性を確保しながら好ましい硬度にすることが難しくなる傾向がある。
【0043】
本発明は、トラック・バス用等にも適用することが出来るが、特に、雪上や氷上での操縦安定性が重要である乗用車用スタッドレスタイヤに用いることが好ましい。また、スタッドレスタイヤのトレッドに好適に用いることができる。
【0044】
本発明のゴム組成物を用い、通常の方法でスタッドレスタイヤを製造することができる。すなわち、前記ゴム組成物を用いてタイヤトレッドを作製し、他の部材とともに貼り合わせ、タイヤ成型機上にて加熱加圧することにより製造することができる。
【実施例】
【0045】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0046】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:RSS#3
BR1:宇部興産(株)製のBR150B(シス1,4結合量97%、ML1+4(100℃)40、25℃における5%トルエン溶液粘度48cps、Mw/Mn3.3)
BR2:宇部興産(株)製のBR360L(シス1,4結合量98%、ML1+4(100℃)51、25℃における5%トルエン溶液粘度124cps、Mw/Mn2.4)
BR3:宇部興産(株)製のBR A(試作品、シス1,4結合量98%、ML1+4(100℃)47、25℃における5%トルエン溶液粘度122cps、Mw/Mn3.3)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ISAFカーボン、平均粒子径23nm、DBP吸油量114ml/100g)
シリカ:デグッサ社製のUltrasil VN3(NSA:175m/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi−69
ミネラルオイル:出光興産(株)製のPS−32(パラフィン系プロセスオイル)
ステアリン酸:日油(株)製の桐
脂肪族カルボン酸:和光純薬工業(株)製の2−エチルヘキサン酸
リバージョン防止剤1:シルウントザイラッハー社製のストラクトールZEH(2−エチルヘキサン酸亜鉛(II)、炭素数:8、亜鉛含有率:23質量%)
リバージョン防止剤2:フレキシス社製のパーカリンク900(1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン)
リバージョン防止剤3:三津和化学薬品(株)の酪酸亜鉛(II)(ブタン酸亜鉛(II)、炭素数:4、亜鉛含有率:27質量%)
リバージョン防止剤4:三津和化学薬品(株)のオクタン酸亜鉛(II)(炭素数:8、亜鉛含有率:19質量%)
リバージョン防止剤5:和光純薬工業(株)のラウリン酸亜鉛(ドデカン酸亜鉛(II)、炭素数:12、亜鉛含有率:14.1質量%)
ミリスチン酸亜鉛(脂肪族カルボン酸亜鉛):和光純薬工業(株)製、炭素数:14、亜鉛含有率:12.6質量%
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
酸化亜鉛ウィスカ:アムテック(株)のパナテトラWZ−0501(突起の数4個、針状短繊維長2〜50μm、針状短繊維径(平均値)0.2〜3.0μm)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエースワックス
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤BBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
【0047】
実施例1〜23及び比較例1〜13
バンバリーミキサーを用いて、表1〜2の工程1に示す配合量の薬品を投入して、排出温度が約150℃となるよう5分間混練りした。その後、工程1により得られた混合物に対して、工程2に示す配合量の硫黄及び加硫促進剤を加え、オープンロールを用いて、約80℃の条件下で3分混練りして、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材と貼り合わせ、170℃で15分間加硫することにより、各スタッドレスタイヤを作製した。
【0048】
以下に示す方法により、各サンプルを評価した。
【0049】
(耐加硫戻り性)
キュラストメーターを用い、170℃における未加硫ゴム組成物の加硫曲線を測定した。最大トルク上昇値(MH−ML)値を100として、加硫開始時点から15分後のトルク上昇値を相対値で示し、相対値を100から引いた値をリバージョン率とした。リバージョン率が小さいほど、リバージョンが抑制され、良好であることを示す。
【0050】
(硬度)
JIS K6253の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」に従って、タイプAデュロメーターにより、各実施例及び比較例の加硫ゴム試験片の硬度を測定した。
【0051】
(氷雪上性能)
各実施例及び比較例のスタッドレスタイヤを用いて、下記の条件で雪氷上で実車性能を評価した。なお、スタッドレスタイヤとして、195/65R15サイズのDS−2パターンの乗用車用スタッドレスタイヤを製造し、これらのタイヤを国産2000ccのFR車に装着した。試験場所は、住友ゴム工業株式会社の北海道名寄テストコースで行い、氷上気温は−1〜−6℃、雪上気温は−2〜−10℃であった。
・ハンドリング性能(フィーリング評価):上記車両を用いて発進、加速及び停止についてフィーリングによる評価を行った。フィーリング評価は、比較例1を100とした基準とし、明らかに性能が向上したとテストドライバーが判断したものを120、これまでで全く見られなかった良いレベルであるものを140とするような評点付けを行った。
・制動性能(氷上制動停止距離):時速30km/hでロックブレーキを踏み停止させるまでに要した氷上の停止距離を測定した。そして、比較例1をリファレンスとして、下記式から算出した。
(制動性能指数)=(比較例1の制動停止距離)/(停止距離)×100
指数が大きいほど、制動性能が良好であることを示す。
【0052】
(耐摩耗性)
タイヤサイズ195/65R15にて、国産FF車に装着し、走行距離8000km後のタイヤトレッド部の溝探さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を算出し下記式により指数化した。
(耐摩耗性指数)=(1mm溝深さが減るときの走行距離)/(比較例1のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
指数が大きいほど、耐摩耗性が良好であることを示す。
【0053】
上記各試験の評価結果を表1〜2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
実施例のサンプルでは、リバージョン率が低く、耐加硫戻り性が良好であった。また、硬度も適正でいずれも高い雪上ハンドリング性能と氷上制動性能を両立していた。特に、BR比率を高めたり、シリカ含有量を高めた実施例では、更に氷上制動性能が高く、また、雪上ハンドリング性能も良好であった。
【0057】
更に、実施例7〜9、11〜14では、シス含量95%以上、25℃における5%トルエン溶液粘度が80〜200cps(更には110〜150cps)で、かつMw/Mnが3.0以下のBR又は3.0〜3.4のBRを配合することで、加工性改善効果や耐摩耗性向上効果がみられた。特に加工性の改善により、シリカの分散状態を良好とし、シリカの多い配合での耐摩耗性も改善できた。また、炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩とBRとを用いることにより、耐加硫戻り性もより改善できた。従って、特にBR比率が高くなった際に、耐摩耗性を良好に維持するとともに、優れたハンドリング性能及び氷上制動性能が得られた。
【0058】
一方、BRを含む配合にリバージョン防止剤を配合していない比較例1、3、5及び7では、リバージョン率が大きく、耐加硫戻り性が劣っているとともに、ハンドリング性能も劣っていた。BRを含む配合にリバージョン防止剤2を配合した比較例2、4、6及び8では、ハンドリング性能が劣り、耐加硫戻り性もやや劣っていた。
【0059】
ゴムとしてNRのみを含む配合にリバージョン防止剤を配合していない比較例9や同じくNRのみを含む配合にリバージョン防止剤2を配合した比較例11では、耐加硫戻り性が劣り、また、氷雪上でのハンドリング性能や制動性能にも劣っていた。ゴムとしてNRのみを含む配合にリバージョン防止剤1を配合した比較例10では、良好な耐加硫戻り性を有しているものの、雪上でのハンドリング性能や氷上での制動性能が劣っていた。また、BR比率が30質量%と少ない状況でリバージョン防止剤1を配合した比較例12でも、良好な耐加硫戻り性を有しているものの雪上でのハンドリング性能や氷上での制動性能が劣っていた。
【0060】
また、2−エチルヘキサン酸及び酸化亜鉛の混合物を配合した実施例17〜18でも、リバージョン防止剤を配合していない比較例5やリバージョン防止剤2を配合した比較例6に比べて、改善効果がみられ、特に耐加硫戻り性、ハンドリング性能、耐摩耗性に優れていた。リバージョン防止剤3又は5を配合した実施例19及び22〜23でも、耐加硫戻り性や雪上ハンドリング性能が改善され、耐摩耗性も良好であった。特に、酸化亜鉛ウイスカを配合した実施例19及び23では、氷上での制動性能が改善された。また、リバージョン防止剤4を配合した実施例20〜21でも、同じ炭素数の分岐の脂肪酸亜鉛塩からなるリバージョン防止剤1を配合した実施例5や実施例15と比べるとやや劣るものの、耐加硫戻り性や雪上ハンドリング性能、氷上での制動性能が改善され、耐摩耗性も良好であった。一方、炭素数が本発明の範囲外であるミリスチン酸亜鉛を配合した比較例13では、耐加硫戻り性が悪い上に、性能のバランスも悪く、特に耐摩耗性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸の亜鉛塩、又は炭素数4〜12の脂肪族カルボン酸及び酸化亜鉛と、オイル又は可塑剤とを含み、ゴム成分100質量%中にブタジエンゴムを40質量%以上含むスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
更に、シリカをゴム成分100質量部に対して10質量部以上含む請求項1記載のスタッドレスタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のゴム組成物をトレッドに用いたスタッドレスタイヤ。

【公開番号】特開2011−16976(P2011−16976A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88013(P2010−88013)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】