説明

スタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物

【課題】氷雪上性能及びウェット性能を共に向上するようにしたスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物を提供する。
【解決手段】変性ブチルゴムを3〜20重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを10重量部以上含む補強性充填剤を30〜100重量部配合し、かつ前記シリカ重量に対し硫黄含有シランカップリング剤を3〜15重量%配合したゴム組成物であって、前記変性ブチルゴムが、ハロゲン化ブチルゴム100重量部に対し単官能性ヒンダードアミンを0.1〜3.0重量部配合すると共に、前記ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位に対し、(メタ)アクリルシラン化合物を0.1〜10モル当量、酸化マグネシウムを0.1〜5.0モル当量配合したものを温度150℃以上で混練して得られたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物に関し、更に詳しくは氷雪上性能及びウェット性能を共に向上にするようにしたスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤ(氷雪路用空気入りタイヤ)は、トレッドゴムの硬度を低温でも柔軟に維持することにより氷雪路面に対する凝着性を高め、グリップ性能を向上するようにしている。近年、スタッドレスタイヤには、上述した氷雪路面での走行性能と共に、氷雪に覆われていない湿潤路面(ウェット路面)でもグリップ性能を向上することが求められている。
【0003】
このウェットグリップ性能を高くするため、ガラス転移温度(Tg)が高いスチレンブタジエンゴムやハロゲン化ブチルゴム、再生ブチルリクレイムをトレッド用ゴム組成物に配合することが行われている(例えば特許文献1参照)。これらのゴム成分は、トレッドゴム全体のtanδを高くすることによりウェット性能を改良する役割を果たす。しかし、同時に低温でのゴム硬度が大きくなるため氷雪路面に対する凝着性が悪化するという問題があった。
【0004】
したがって、氷雪路面でのグリップ性能を低下させることなく湿潤路面でのグリップ性能と改良することは困難であった。また氷雪上グリップ性能を一層向上させることも求められており、これら二つのグリップ性能をより高いレベルで両立させたスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物は未だ得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−1177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、氷雪上性能及びウェット性能を共に向上にするようにしたスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物は、変性ブチルゴムを3〜20重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを10重量部以上含む補強性充填剤を30〜100重量部配合し、かつ前記シリカ重量に対し硫黄含有シランカップリング剤を3〜15重量%配合したゴム組成物であって、前記変性ブチルゴムが、ハロゲン化ブチルゴム100重量部に対し単官能性ヒンダードアミンを0.1〜3.0重量部配合すると共に、前記ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位に対し、(メタ)アクリルシラン化合物を0.1〜10モル当量、酸化マグネシウムを0.1〜5.0モル当量配合したものを温度150℃以上で混練して得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物に配合する変性ブチルゴムは、ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位の少なくとも一部を(メタ)アクリルシラン化合物で置換したので、シリカを含む補強性充填剤との親和性を高くして補強性充填剤の分散性を良好にすることができる。この変性ブチルゴム及びシリカを共に使用したスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物は、tanδ高くしてウェット性能を改良すると共に、シリカの分散性を改良するので、低温でのトレッドゴム組成物の硬度を柔軟に維持することにより氷雪上性能を向上することができる。
【0009】
スタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物は、前記ジエン系ゴム100重量部に対し、熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜20重量部配合するとよく、氷雪上性能を一層高くすることにより、氷雪上性能とウェット性能とのバランスを改良することができる。
【0010】
このスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物は、スタッドレスタイヤのトレッド部を構成するのに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物は、変性ブチルゴムを含むジエン系ゴムをゴム成分にする。変性ブチルゴムは、ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位の少なくとも一部を(メタ)アクリルシラン化合物で置換したので、シリカ、カーボンブラック等の補強性充填剤を配合したときに変性ブチルゴムと補強性充填剤との親和性を高くし、補強性充填剤の分散性を良好にする。すなわちシリカと共に配合することにより、tanδを高くすると共に、低温でのゴム組成物の硬度を柔軟に維持することができる。また補強性充填剤の分散性を改良することにより、ゴム組成物の補強性を高め耐摩耗性を改良することができる。
【0012】
変性ブチルゴムの含有量は、ジエン系ゴム100重量%中3〜20重量%、好ましくは5〜15重量%にする。変性ブチルゴムの含有量が3重量%未満であると、ウェット性能を高くする効果が十分に得られない。また変性ブチルゴムの含有量が20重量%を超えると低温でのゴム組成物の硬度が大きくなり氷雪上性能が低下する。
【0013】
変性ブチルゴム以外のジエン系ゴムとしては、例えば天然ゴム、ポリイソプレンゴム、各種スチレンブタジエン共重合体ゴム、各種ポリブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム、ブチルゴム等を例示することができる。なかでも天然ゴム、各種スチレンブタジエン共重合体ゴム、各種ポリブタジエンゴムが好ましい。これら変性ブチルゴム以外のジエン系ゴムは、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明のスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物は、シリカを配合することにより、トレッドゴム組成物のウェット性能を改良することができる。シリカの配合量はジエン系ゴム100重量部に対し10重量部以上、好ましくは10〜30重量部にする。シリカの配合量が10重量部未満であると、ウェット性能を改良する効果が十分に得られない。
【0015】
本発明では、シリカ以外の補強性充填剤を配合することができる。シリカ以外の補強性充填剤としては、例えばカーボンブラック、クレイ、タルク、アルミナ、二酸化チタン、シリケート等を例示することができる。なかでもカーボンブラック、クレイが好ましい。カーボンブラックを配合することにより、ゴム組成物の補強性を高くして耐摩耗性を改良することができる。
【0016】
シリカ及びシリカ以外の補強性充填剤の配合量の合計は、ジエン系ゴム100重量部に対し30〜100重量部、好ましくは40〜70重量部にする。シリカを含む補強性充填剤の配合量が30重量部未満であると、ゴム組成物における補強性充填剤の機能を十分に発現することができない。また補強性充填剤の配合量が100重量部を超えると、氷雪上性能が低下する。
【0017】
本発明において、シリカと共に硫黄含有シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を改良することができる。硫黄含有シランカップリング剤としては、例えばビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0018】
硫黄含有シランカップリング剤の配合量は、シリカ重量に対し3〜15重量%、好ましくは5〜10重量%にする。硫黄含有シランカップリング剤が、シリカ配合量の3重量%より少ないと、シリカの分散性が低下する虞がある。また、硫黄含有シランカップリング剤が、シリカ配合量の15重量%を超えると、低温時のゴム硬度が大きくなり氷雪上性能を改良する効果が十分に得られない。
【0019】
本発明において、熱膨張性マイクロカプセルを配合することが好ましく、氷雪上性能を一層向上することができる。熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。このため、熱膨張性マイクロカプセルを混合したゴム組成物からなるトレッド部を有する未加硫タイヤを成形し、その加硫時にゴム組成物中の熱膨張性マイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、トレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡を形成する。これにより、氷の表面に発生する水膜を効率的に吸収除去すると共に、ミクロなエッジ効果が得られるため、氷上摩擦力を向上させる。
【0020】
熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対し好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは0.5〜10重量部にする。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が0.5重量部未満の場合、トレッドゴムに形成される樹脂被覆気泡の容積が不十分になり、熱膨張性マイクロカプセルによる氷上摩擦力の改良効果が十分に得られない。また、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が20重量部を超えると、ゴム強度が低下し耐摩耗性が悪化する。
【0021】
上述した変性ブチルゴムを含むゴム組成物は、0℃のtanδが大きくウェット制動性能が優れると共に、シリカの分散性が良好であるため、低温でのゴム組成物の硬度を柔軟にし、氷雪上性能を改良することができる。また、シリカやカーボンブラックと共に配合することにより補強性を高くするので耐摩耗性を改良することができる。このゴム組成物は、スタッドレスタイヤのトレッド部を構成するのに好適である。また、このゴム組成物でトレッド部を構成したスタッドレスタイヤは、ウェット性能及び氷雪上性能を共に向上することができる。また、従来のスタッドレスタイヤと比べ耐摩耗性を維持・向上することができる。
【0022】
本発明のスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物に配合する変性ブチルゴムは、ハロゲン化ブチルゴムに、(メタ)アクリルシラン化合物、酸化マグネシウム及び単官能性ヒンダードアミンを配合し、これを温度150℃以上で混練して得られたものである。
【0023】
ハロゲン化ブチルゴムとしては、特に制限されるものではなく、例えば塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムから選ばれる少なくとも1種であればよい。なかでも臭素化ブチルゴムが好ましい。ハロゲン化ブチルゴムは、ハロゲンの含有量が好ましくは0.1〜3.0モル%、より好ましくは0.5〜2.0モル%であるとよい。これらのハロゲン化ブチルゴムは、市販品を使用することができる。或いは通常知られた方法で製造したハロゲン化ブチルゴムを使用してもよい。
【0024】
この変性ブチルゴムは、上述したハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位に対し、0.1〜10モル当量、好ましくは0.5〜5モル当量の(メタ)アクリルシラン化合物を配合し、そのハロゲン化部位を(メタ)アクリルシラン化合物で置換する。すなわち(メタ)アクリルシラン化合物の(メタ)アクリロイル基がハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位に作用して変性ブチルゴムが生成する。この変性ブチルゴムが有するシラン化合物が、カーボンブラックやシリカ等の補強性充填剤との親和性を高くする。これによりシリカを含む補強性充填剤を配合したときに、変性ブチルゴム中のシリカやカーボンブラック等の補強性充填剤の分散性を良好にすることができる。
【0025】
上述した変性ブチルゴムの製造方法について説明する。ハロゲン化ブチルゴムに酸化マグネシウム及び(メタ)アクリルシラン化合物を配合し温度150℃以上で混練することにより、先ずハロゲン化ブチルゴムの少なくとも一部のハロゲン化部位が脱ハロゲン化水素して共役ジエン構造が生成する。この共役ジエン構造に(メタ)アクリルシラン化合物の(メタ)アクリロイル基が付加反応することにより(メタ)アクリルシラン化合物が付加した変性ブチルゴムが生成する。この変性ブチルゴムは、シラン化合物を側鎖に有するためシリカやカーボンブラック等の補強性充填剤との親和性を高くする。
【0026】
上述したように酸化マグネシウムは酸受容体として機能し、ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位に作用して脱ハロゲン化水素が起こりやすくする。酸化マグネシウムの配合量は、ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位に対して0.1〜5.0モル当量、好ましくは0.5〜2.0モル当量とする。酸化マグネシウムの配合量が0.1モル当量未満であると、ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位の脱ハロゲン化水素を十分に促進することができない。また、酸化マグネシウムの配合量が5.0モル当量を超えると、酸化マグネシウムの分散不良が生じ、力学物性に悪影響を及ぼす可能性がある。ここで酸化マグネシウムのモル当量とは、ハロゲン化ブチルゴムのすべてのハロゲン化部位に対して反応可能な酸化マグネシウムを1モル当量とした。
【0027】
この酸化マグネシウムの作用により形成されたハロゲン化ブチルゴムの共役ジエン構造に(メタ)アクリルシラン化合物の(メタ)アクリロイル基が付加反応する。これによりハロゲン化部位が(メタ)アクリルシラン化合物で置換された変性ブチルゴムが生成する。(メタ)アクリルシラン化合物としては、メタクリロキシシラン化合物、アクリロキシシラン化合物のいずれでもよく、例えばγ−(メタ)アクリロキシプロピル(トリメトキシシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(トリエトキシシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(ジエトキシメトキシシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(トリプロポキシシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(ジプロポキシメトキシシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(トリブトキシシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(ジブトキシメトキシシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(ジメトキシメチルシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(メトキシジメチルシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(ジエトキシメチルシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(エトキシジメチルシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(ジプロポキシメチルシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(プロポキシジメチルシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(ジイソプロポキシメチルシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(イソプロポキシジメチルシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(ジブトキシメチルシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(ブトキシジメチルシラン)、β−(メタ)アクリロキシエチル(トリメトキシシラン)等が例示される。なかでもγ−(メタ)アクリロキシプロピル(トリメトキシシラン)、γ−(メタ)アクリロキシプロピル(トリエトキシシラン)が好ましい。とりわけγ−(アクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシランが好ましい。
【0028】
変性ブチルゴムを製造するとき、(メタ)アクリルシラン化合物の配合量は、ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位に対するモル当量として0.1〜10モル当量、好ましくは0.5〜5モル当量とする。(メタ)アクリルシラン化合物の配合量が0.1モル当量未満であると、シリカなどの補強性充填剤との親和性が十分に得ることができず、所望の物性が発現しない。また(メタ)アクリルシラン化合物の配合量が10モル当量を超えると、未反応の(メタ)アクリルシラン化合物が系内に過剰に存在し、力学物性に悪影響を及ぼす可能性がある。(メタ)アクリルシラン化合物のモル当量は、酸化マグネシウムのモル当量と同様に、ハロゲン化ブチルゴムのすべてのハロゲン化部位に対して反応可能な(メタ)アクリルシラン化合物を1モル当量とした。
【0029】
また、ハロゲン化ブチルゴムに単官能性ヒンダードアミンを配合することにより、ハロゲン化ブチルゴム及び変性ブチルゴムの分子量の低下を抑制し、変性ブチルゴムの物性を維持する作用を行う、単官能性ヒンダードアミンとしては、特に限定されないが、例えば6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、p,p′−ジオクチルジフェニルアミン、p,p′−ジクミルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミンなどが例示される。なかでもp,p′−ジクミルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミンが好ましい。
【0030】
単官能性ヒンダードアミンの配合量は、ハロゲン化ブチルゴム100重量部に対し、0.1〜3.0重量部、好ましくは0.3〜2重量部にする。単官能性ヒンダードアミンの配合量が0.1重量部未満であるとハロゲン化ブチルゴム及び変性ブチルゴムの分子量が低下するおそれがある。また単官能性ヒンダードアミンの配合量が3.0重量部を超えるとハロゲン化ブチルゴムに対する(メタ)アクリルシラン化合物の付加反応が阻害されて反応率が低下するおそれがある。
【0031】
変性ブチルゴムを製造するとき、ハロゲン化ブチルゴムに、(メタ)アクリルシラン化合物、酸化マグネシウム及び単官能性ヒンダードアミンを配合し、温度150℃以上、好ましくは160〜190℃で混練することにより行う。混練温度が150℃未満であると、ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位を(メタ)アクリルシラン化合物に置換するのが不十分になる。
【0032】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
表1に示す配合からなる13種類のゴム組成物(実施例1〜4、比較例1〜9)を、それぞれ硫黄、加硫促進剤及び熱膨張性マイクロカプセルを除く配合成分を秤量し、1.7リットル密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。このマスターバッチを1.7リットル密閉式バンバリーミキサーで、硫黄、加硫促進剤及び熱膨張性マイクロカプセルを加え混合し、スタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物を調製した。得られた13種類のゴム組成物を所定形状の金型を使用して、160℃で20分間プレス加硫を行いシート状ゴム試験片を作成した。このシート状ゴム試験片を用い下記の方法により氷上摩擦力、ウェットスキッド及び耐摩耗性を評価した。
【0034】
氷上摩擦力
得られた各シート状ゴム試験片を偏平円板状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機にて、測定温度−1.5℃、荷重0.54MPa、ドラム回転速度25km/hで、氷上摩擦係数を測定した。得られた結果は、比較例1を100とする指数として表1,2に示した。この指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷雪上性能が優れることを意味する。
【0035】
ウェットスキッド
得られた各シート状ゴム試験片のウェットスキッドを、スタンレー社製ポータブルスキッドテスターを用いて、湿潤路面の条件下で、ASTM E−303−83の方法に従って測定した。得られた結果は、比較例1を100とする指数にし「ウェットスキッド」として表1,2に示した。この指数が大きいほどウェット摩擦力が大きく、ウェット性能が優れることを意味する。
【0036】
耐摩耗性
得られた各シート状ゴム試験片を用いJIS K6264に準拠して、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所社製)を使用して、温度20℃、荷重15N、スリップ率50%、時間10分の条件で摩耗量を測定した。得られた結果は、比較例1の摩耗量の逆数を100とする指数で表わし表1に示した。この指数が大きいほど耐摩耗性に優れることを意味する。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表1,2において使用した原材料を下記に示す。
NR:天然ゴム、RSS#3
BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220
Br−IIR:臭素化ブチルゴム、LANXESS社製Bromobutyl X2
再生ブチルリク:再生ブチルリクレイム、村岡ゴム工業社製ブチルチューブリク
変性IIR−1:変性ブチルゴム1、以下の方法により調製したもの。
変性IIR−2:変性ブチルゴム2、以下の方法により調製したもの。
カーボンブラック:東海カーボン社製シースト6
シリカ:日本シリカ社製Nipsil AQ
シランカップリング剤:硫黄含有シランカップリング剤、エボニックデグサ社製Si69
酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
老化防止剤:フレキシス社製サントフレックス 6PPD
アロマオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ−G
熱膨張性マイクロカプセル:松本油脂製薬社製マイクロスフェアーF100
【0040】
変性ブチルゴム1の調製
臭素化ブチルゴム(LANXESS社製Bromobutyl X2、臭素の含有量1.71モル%)120.0g(ブチルユニット2.08モル、臭素化部位0.0354モル)、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン1.7g(0.0067モル、臭素化ブチルゴムの臭素化部位に対し0.190モル当量)、酸化マグネシウム1.43g(0.0354モル、臭素化ブチルゴムの臭素化部位に対し1.0モル当量)ならびにp,p′−ジクミルジフェニルアミン1.2g(臭素化ブチルゴム100重量部に対し1.0重量部)を温度90℃に設定した加圧ニーダーに入れ、3分間混合した。得られた混合物を、185℃に温度設定した加圧ニーダー中で15分混練し、変性ブチルゴム1(変性IIR−1)を調製した。得られた変性ブチルゴム1の一部をトルエンに溶解し、再沈殿操作によりポリマーを単離精製した。精製品を用いてIR分析ならびに1H−NMR分析を行った。これにより、ブチルゴムへのシランの導入が確認され、その導入率は0.02モル%であった。
【0041】
変性ブチルゴム2の調製
γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシランの添加量を3.4g(0.0134モル、臭素化ブチルゴムの臭素化部位に対し0.380モル当量)に変更したこと以外は、上記変性ブチルゴム1の調製と同様にして、変性ブチルゴム2(変性IIR−2)を調製した。得られた変性ブチルゴム2の一部をトルエンに溶解し、再沈殿操作によりポリマーを単離精製した。精製品を用いてIR分析ならびに1H−NMR分析を行った。これにより、ブチルゴムへのシランの導入が確認され、その導入率は0.034モル%であった。
【0042】
表1,2の結果から明らかなように、実施例1〜6のスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物は、氷雪上性能(氷上摩擦力)とウェット性能(ウェットスキッド)を共に向上することが確認された。
【0043】
表1の比較例2及び3は、本発明の変性ブチルゴムの代わりに、臭素化ブチルゴム及び再生ブチルリクレイムを配合したので氷雪上性能が低下する。表2の比較例4は、変性ブチルゴムの含有量が3重量%未満であるので、氷雪上性能を改良することができない。比較例5は、変性ブチルゴムの含有量が20重量部を超えるので、氷雪上性能が却って悪化する。
【0044】
比較例6は、シリカの配合量が10重量部未満であるので、ウェット性能が不足する。
比較例7は、シリカを含む補強性充填剤の配合量が100重量部を超えるので、氷雪上性能が低下する。比較例8は、硫黄含有シランカップリング剤の配合量がシリカ重量の3重量%未満であるので、氷雪上性能が低下する。比較例9は、本発明の変性ブチルゴムの代わりに臭素化ブチルゴムを使用し、熱膨張性マイクロカプセルを配合したので、耐摩耗性が悪化する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ブチルゴムを3〜20重量%含むジエン系ゴム100重量部に対し、シリカを10重量部以上含む補強性充填剤を30〜100重量部配合し、かつ前記シリカ重量に対し硫黄含有シランカップリング剤を3〜15重量%配合したゴム組成物であって、前記変性ブチルゴムが、ハロゲン化ブチルゴム100重量部に対し単官能性ヒンダードアミンを0.1〜3.0重量部配合すると共に、前記ハロゲン化ブチルゴムのハロゲン化部位に対し、(メタ)アクリルシラン化合物を0.1〜10モル当量、酸化マグネシウムを0.1〜5.0モル当量配合したものを温度150℃以上で混練して得られたことを特徴とするスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴム100重量部に対し、熱膨張性マイクロカプセルを0.5〜20重量部配合したことを特徴とする請求項1に記載のスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物でトレッド部を構成したことを特徴とするスタッドレスタイヤ。

【公開番号】特開2012−167240(P2012−167240A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31620(P2011−31620)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】