説明

スタヒロコッカス・アウレウスORF0657Nを標的とする抗原結合性タンパク質

本発明は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する防御をもたらすために標的化されうるエピトープを有することが判明している領域に結合する抗原結合性タンパク質に関する。該領域は本明細書においては「CS−D7」標的領域と称される。CS−D7標的領域は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染の可能性または重症度を減少させるために標的化されうるスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)ORF0657nエピトープを与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタヒロコッカス・アウレウスORF0657nを標的とする抗原結合性タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願の全体にわたって引用されている参考文献は、特許請求されている本発明の先行技術であると自認するものではない。
【0003】
スタヒロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.aureus)は、多種多様な疾患および状態を引き起こす病原体である。スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)により引き起こされる疾患および状態の具体例には、菌血症、感染性心内膜炎、毛包炎、フルンケル、カルブンケル、インペチゴ、水疱性インペチゴ、フレグモーネ、ボトリオミセス症、毒性ショック症候群、火傷様皮膚症候群、中枢神経系感染症、感染性および炎症性眼疾患、骨髄炎ならびに関節および骨の他の感染症、ならびに気道感染症が含まれる(The Staphylococci in Human Disease,Crossley and Archer(編),Churchill Livingstone Inc.1997)。
【0004】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染およびスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)の広がりを抑制するためには、免疫学に基づく方法が用いられうる。免疫学に基づく方法には受動免疫化および能動免疫化が含まれる。受動免疫化は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)を標的とする免疫グロブリンを使用する。能動免疫化はスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する免疫応答を誘導する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】The Staphylococci in Human Disease,Crossley and Archer(編),Churchill Livingstone Inc.1997
【発明の概要】
【0006】
発明の摘要
本発明は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する防御をもたらすために標的化されうるエピトープを有することが判明している領域に結合する抗原結合性タンパク質に関する。該領域は本明細書においては「CS−D7」標的領域と称される。CS−D7標的領域は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染の可能性または重症度を減少させるために標的化されうるスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)ORF0657nエピトープを与える。
【0007】
したがって、本発明の第1の態様は、第1可変領域および第2可変領域を含んでなる単離された抗原結合性タンパク質に関する。これらの可変領域はCS−D7標的領域に結合する。CS−D7標的領域はモノクローナル抗体CS−D7(mAb CS−D7)により特異的に標的化される。MAb CS−D7は、配列番号1のアミノ酸配列を有する2本の軽鎖と、配列番号2のアミノ酸配列を有する2本の重鎖とを有する免疫グロブリンである。
【0008】
「単離(された)」なる語は、天然で見出されるものとは異なる形態を示す。そのような異なる形態は、例えば、天然で見出されるものとは異なる純度および/または天然で見出されない構造体でありうる。天然で見出されない構造体には、異なる領域が一緒になった組換え構造体、例えば、1以上のマウス相補性決定領域がヒトフレームワークスカフォールド上に挿入された又はヒト抗体の表面残基を模倣するためにマウス抗体の表面が修飾されたヒト化抗体、抗原結合性タンパク質由来の1以上の相補性決定領域が別のフレームワークスカフォールド内に挿入されたハイブリッド抗体、ならびに軽可変ドメインおよび重可変ドメインをコードする遺伝子が互いにランダムに組合された天然ヒト配列に由来する抗体が含まれる。
【0009】
単離されたタンパク質は、好ましくは、血清タンパク質を実質的に含有しない。血清タンパク質を実質的に含有しないタンパク質は、ほとんど又は全ての血清タンパク質を欠く環境中に存在する。
【0010】
「可変領域」は重鎖または軽鎖からの抗体可変領域の構造を有する。抗体重鎖および軽鎖の可変領域は、フレームワーク上に間隔をあけて存在する3つの相補性決定領域を含有する。該相補性決定領域は主として、特定のエピトープの認識をもたらす。
【0011】
標的領域は、mAb CS−D7が結合するORF0657n領域(配列番号47)に関して定義される。CS−D7標的領域に結合するタンパク質は、Luminexに基づく抑制アッセイを用いて過剰量および等量の該競合タンパク質およびモノクローナル抗体を使用した場合、ORF0657nへのmAb CS−D7の結合を少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約50%軽減する。
【0012】
「タンパク質」なる語は連続的アミノ酸配列を示し、最小または最大サイズ限界を示すものではない。該タンパク質中に存在する1以上のアミノ酸はグリコシル化またはジスルフィド結合形成のような翻訳後修飾を含有しうる。
【0013】
好ましい抗原結合性タンパク質はモノクローナル抗体である。「モノクローナル抗体」なる語は、同じ又は実質的に同じ構造を有する一群の抗体を示す。モノクローナル抗体における変異は、該抗体が同一構築物から製造された場合に生じるものである。
【0014】
モノクローナル抗体は、例えば、特定のハイブリドーマから、および該抗体をコードする1以上の組換え遺伝子を含有する組換え細胞から製造されうる。該抗体は2以上の組換え遺伝子によりコードされることが可能であり、この場合、1つの遺伝子は重鎖をコードし、1つの遺伝子は軽鎖をコードする。
【0015】
本発明のもう1つの態様は、抗原結合性タンパク質V領域またはV領域の一方または両方をコードする1以上の組換え遺伝子を含む核酸を記載し、ここで、該抗原結合性タンパク質はCS−D7標的領域に結合する。例えば、1つの遺伝子が抗体重鎖、またはV領域を含有するそのフラグメントをコードし、もう1つの遺伝子が抗体軽鎖、またはV領域を含有するそのフラグメントをコードする、複数の組換え遺伝子が有用である。
【0016】
組換え遺伝子は、適切な転写およびプロセシングのための調節要素(これは翻訳および翻訳後要素を含みうる)と共にタンパク質をコードする組換え核酸を含有する。該組換え核酸は、その配列および/または形態の点で、天然では見出されない。組換え核酸の具体例には、精製された核酸、天然で見出されるものとは異なる核酸を与える一緒になった2以上の核酸領域、互いに天然で付随している1以上の核酸領域(例えば、上流または下流領域)の非存在が含まれる。
【0017】
本発明のもう1つの態様は、抗原結合性タンパク質V領域またはV領域の一方または両方をコードする1以上の組換え遺伝子を含む組換え細胞に関する。好ましくは、該組換え細胞はVおよびV領域の両方を発現する。
【0018】
本発明のもう1つの態様は、抗体可変領域を含むタンパク質の製造方法を含む。該方法は、(a)該タンパク質が発現される条件下、該タンパク質をコードする組換え核酸を含む組換え細胞を増殖させ、(b)該タンパク質を精製する工程を含む。好ましくは、該タンパク質は完全な抗原結合性タンパク質である。
【0019】
本発明のもう1つの態様は医薬組成物を記載する。該組成物は、本明細書に記載されている抗原結合性タンパク質の治療的有効量および医薬上許容される担体を含む。
【0020】
治療的有効量は、有用な治療効果または予防効果をもたらすのに十分な量である。スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に感染した患者の場合、有効量は、以下の効果の1以上を達成するのに十分な量である:該患者におけるスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)の増殖能の軽減、または該患者におけるスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)の量の減少。スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に感染していない患者の場合、有効量は、以下の1以上を達成するのに十分な量である:スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する感受性の軽減、または慢性疾患を招く持続感染を該感染細菌が確立する能力の軽減。
【0021】
本発明のもう1つの態様は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染を(治療的または予防的に)治療するための医薬の製造における、抗原結合性タンパク質の治療的有効量の使用を記載する。
【0022】
本発明のもう1つの態様は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する患者の治療方法に関する。該方法は、本明細書に記載の抗原結合性タンパク質(その医薬組成物を含む)の有効量を患者に投与する工程を含む。治療される患者はスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に感染していても感染していなくてもよい。好ましくは、患者はヒトである。
【0023】
本発明のもう1つの態様は、配列番号47のアミノ酸42−342に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド(該ポリペプチドは350アミノ酸長以下である)に関する。
【0024】
「含む(含んでなる)」のような非限定的用語に対する言及は追加的な要素または工程を許容する。場合によっては、「1以上」のような表現は、追加的な要素または工程の可能性を強調するために非限定的用語と共に又はそれを伴わずに用いられる。
【0025】
明示的に示されていない限り、単数表現は単数を示すと限定されるものではない。例えば、「細胞」は複数の細胞を除外するものではない。場合によっては、可能な複数の存在を強調するために、1以上のような表現が用いられる。
【0026】
本発明の他の特徴および利点は、種々の実施例(具体例)を含む本明細書に記載の更なる説明から明らかである。記載されている実施例(具体例)は、本発明の実施に有用な種々の成分および方法を例示する。該実施例(具体例)は、特許請求されている本発明を限定するものではない。本開示に基づき、当業者は、本発明の実施に有用な他の成分および方法を特定し使用することが可能である。
【0027】
発明の詳細な説明
本明細書に記載の抗原結合性タンパク質は、CS−D7標的領域に結合するそれらの能力により、例えば、ORF0657nに基づく抗原の製造、特徴づけ若しくは研究における手段として、および/またはスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染を治療するための物質として使用されうる。ORF0657nはスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)の種々の株において良く保存されていることが判明している(Andersonら,国際公開番号WO 2005/009379、国際公開日2005年2月3日)。スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する防御免疫応答を引き起こすために、種々のORF0657n誘導体が使用されうる(Andersonら,国際公開番号WO 2005/009379、国際公開日2005年2月3日)。
【0028】
I.抗原結合性タンパク質
抗原結合性タンパク質は、エピトープへの特異的結合をもたらす抗体可変領域を含有する。該抗体可変領域は、例えば、完全抗体、抗体フラグメント、および抗体または抗体フラグメントの組換え誘導体において存在しうる。
【0029】
抗体は、そのクラスによって異なる構造を有する。IgGに関して、種々の抗体領域が例示されうる(図1)。IgG分子は4つのアミノ酸鎖(2つの、より長い重鎖、および2つの、より短い軽鎖)を含有する。重鎖および軽鎖はそれぞれ、定常領域および可変領域を含有する。可変領域内には、抗原特異性をもたらす3つの超可変領域が存在する(例えば、Breitlingら,Recombinant Antibodies,John Wiley & Sons,Inc.およびSpektrum Akademischer Verlag,1999;およびLewin,Genes IV,Oxford University Press and Cell Press,1990を参照されたい)。
【0030】
超可変領域(相補性決定領域とも称される)は、より保存されたフランキング領域(フレームワーク領域とも称される)の間に介在している。フレームワーク領域および相補性決定領域に関連したアミノ酸は、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services,1991に記載されているとおりに番号付けされ、整列(アライン)されうる。
【0031】
2つの重鎖カルボキシル領域は、Fc領域を形成するようジスルフィド結合により連結された定常領域である。Fc領域はエフェクター機能をもたらすのに重要である(Presta,Advanced Drug Delivery Reviews 55:640−656,2006)。Fc領域を構成する2つの重鎖のそれぞれはヒンジ領域を介して異なるFab領域へと伸長している。
【0032】
高等脊椎動物においては、2つのクラスの軽鎖および5つのクラスの重鎖が存在する。軽鎖はκまたはλである。重鎖は抗体クラスを定め、α、δ、ε、γまたはμである。例えば、IgGはγ重鎖を有する。異なるタイプの重鎖に関しては、ヒトγ、γ、γおよびγのようなサブクラスも存在する。重鎖は、ヒンジおよびテイル(尾)領域に、特徴的なコンホメーションをもたらす(Lewin,Genes IV,Oxford University Press and Cell Press,1990)。
【0033】
抗体可変領域を含有する抗体フラグメントには、Fv、FabおよびFab領域が含まれる。各Fab領域は、可変領域および定常領域から構成される軽鎖と、可変領域および定常領域を含有する重鎖領域とを含有する。軽鎖は定常領域を介してジスルフィド結合により重鎖に連結される。Fab領域の軽鎖および重鎖可変領域は、抗原結合に関与するFv領域を与える。
【0034】
抗体可変領域は組換え誘導体中に存在しうる。組換え誘導体の具体例には、一本鎖抗体、ジアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、テトラボディ(tetrabody)および小型抗体(miniantibody)が含まれる(Kipriyanovら,Molecular Biotechnology 26:39−60,2004)。
【0035】
該抗原結合性タンパク質は、同じ又は異なるエピトープを認識する1以上の可変領域を含有しうる(Kipriyanovら,Molecular Biotechnology 26:39−60,2004)。
【0036】
II.CS−D7標的領域に対する抗原結合性タンパク質の作製
CS−D7標的領域に対する抗原結合性タンパク質は、種々の技術(例えば、CS−D7標的領域に結合する抗原結合性タンパク質を利用し、該標的領域に結合する追加的な結合性タンパク質に関してスクリーニングするもの)を用いて得られうる。CS−D7標的領域への抗体の結合能は、LuminexアッセイおよびmAb CS−D7を用いて評価されうる(後記実施例2を参照されたい)。CS−D7標的領域に結合する抗原結合性タンパク質は、追加的な結合性タンパク質を得るための種々の方法(例えば、該抗原結合性タンパク質からの配列情報を用いる、および/または該抗原結合性タンパク質を修飾するもの)において使用されうる。
【0037】
II.A.可変領域の設計
抗原結合性タンパク質に対する可変領域は、CS−D7標的領域に結合する可変領域に基づいて設計されうる。Luminexアッセイに基づいて、CS−D7、CS−E11、CS−D10、CS−A10、BMV−H11、BMV−E6、BMV−D4およびBMV−C2と称されるmAbは同一領域に結合することが判明した。図2は、これらの異なる抗体に関する軽鎖可変領域の配列比較を示す。図3は、これらの異なる抗体に関する、異なる重鎖可変領域の配列比較を示す。
【0038】
図2および3における配列比較は、抗原結合性タンパク質に関する種々の可変領域CDRおよびフレームワーク配列の具体例を示す。図2および3に示す抗体可変領域は末梢血リンパ球ライブラリー(「BMV」と称される)または脾臓リンパ球(「CS」と称される)のいずれかから誘導された。
【0039】
CDRは、主として、個々のエピトープへの結合をもたらす。個々のCDR内には、エピトープへの結合に非常に重要な少数の特異性決定残基(SDR)が存在する(Kashmiriら,Methods 36:25−34,2005,Presta,Advanced Drug Delivery Reviews 55:640−656,2006)。SDRは、例えば、抗原−抗体三次元構造および抗体結合部位の突然変異分析の助けにより特定されうる(Kashmiriら,Methods 36:25−34,2005)。
【0040】
フレームワーク領域は全体構造を与えるのを助け、CDRと比べて種々のアミノ酸変異に対する許容性がある。多種多様な天然に存在するフレームワーク領域が当技術分野でよく知られている(例えば、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services,1991を参照されたい)。
【0041】
mAb CS−D7、CS−E11、CS−D10、CS−A10、BMV−H11、BMV−E6、BMV−D4およびBMV−C2の可変領域ならびに対応するCDR配列番号が図2および3の配列比較において示されている。表1はCDR配列番号の要約を示す。
【0042】
【表1】

【0043】
図2および3に例示されている配列比較はフレームワークおよびCDR領域内の種々のアミノ酸置換の具体例を示す。改変はフレームワーク領域およびCDRの両方に施されることが可能であり、CS−D7結合領域に対する特異性を尚も保有する。
【0044】
II.B.追加的結合性タンパク質に関するスクリーニング
CS−D7標的領域を標的とする追加的結合性タンパク質は、完全長ORF0657nを使用して、またはmAb CS−D7により認識されるエピトープを与えるポリペプチドを使用して得られうる。CS−D7標的領域はORF0657n(配列番号47)のアミノ酸約42−342内に位置するらしい。
【0045】
抗原を認識するタンパク質を選択するためには、種々の技術が利用可能である。そのような技術の具体例には、ファージ提示技術およびハイブリドーマ産生の利用が含まれる。ヒト抗体は、ヒトファージ提示ライブラリーから出発して、あるいはゼノマウス(XenoMouse)またはトランスクロモ(Trans−Chromo)マウスのようなキメラマウスを使用して製造されうる(例えば、Azzazyら,Clinical Biochemistry 35:425−445,2002,Bergerら,Am.J.Med.Sci.324(1):14−40,2002)。
【0046】
非ヒト抗体、例えばマウス抗体も入手可能である。ヒト抗マウス抗体の潜在的生成は、マウス抗体のヒト化、脱免疫化(de−immunization)およびキメラ抗体産生の技術を用いて軽減されうる(例えば、O’Brienら,Humanization of Monoclonal Antibodies by CDR Grafting,p81−100,From Methods in Molecular Biology Vol.207:Recombinant antibodies for Cancer Therapy:Methods and Protocols(WelschofおよびKrauss編)Humana Press,Totowa,New Jersey,2003;Kipriyanovら,Molecular Biotechnology 26:39−60,2004;Gonzalesら,Tumor Biol.26:31−43,2005,Presta,Advanced Drug Delivery Reviews 55:640−656,2006,Tsurushitaら,Methods 36:69−83,2005,Roqueら,Biotechnol.Prog.20:639−654,2004を参照されたい)。
【0047】
抗原結合性タンパク質が標的に選択的に結合する能力を更に増強するために、アフィニティ成熟のような技術も用いられうる。アフィニティ成熟は、例えば、CDR領域内に突然変異を導入し、結合に対する該突然変異の効果を判定することにより行われうる。該突然変異を導入するためには、種々の技術が用いられうる(Rajpalら,PNAS 102:8466−8471,2005,Presta,Advanced Drug Delivery Reviews 58:640−656,2006)。
【0048】
II.C.追加的成分
抗原結合性タンパク質は、可変領域以外の成分、または有用な活性を付与する若しくは付与するのを助ける追加的可変領域(これらに限定されるものではない)を含む追加的成分を含有しうる。有用な活性には、抗体エフェクター機能、例えば抗体依存性細胞傷害性、貪食、補体依存性細胞傷害性および半減期/消失速度が含まれる(Presta,Advanced Drug Delivery Reviews 55:640−656,2006)。他の有用な活性には、該結合性タンパク質によりスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に運搬されうる傷害性基の利用、およびCS−D7標的領域を標的とする第1の抗原結合性タンパク質の安定性または活性を増強するための、宿主または外来抗原を標的とする第2の抗原結合性タンパク質の利用が含まれる。
【0049】
抗体エフェクター機能は、Fcγ受容体、新生児Fc受容体(FcRn)およびC1qのような種々の宿主成分により媒介される(Presta,Advanced Drug Delivery Reviews 55:640−656,2006,Satohら,Expert Opin.Biol Ther.5:1161−1173,2006)。エフェクター機能を増強するために、種々のタイプの抗体成分または改変が用いられうる。有用な成分または改変の具体例には、非フコシル化オリゴ糖、FcRnへの増強された結合を伴うアミノ酸、およびFcγ受容体への増強された結合を伴うアミノ酸改変が含まれる(Presta,Advanced Drug Delivery Reviews 55:640−656,2006;Satohら,Expert Opin.Biol Ther.6:1161−1173,2006;Lazarら,米国特許出願公開US 2004/0132101;Shieldsら,The Journal of Biological Chemistry 275:6591−6604,2001;Dall’Acquaら,The Journal of Biological Chemistry 257:23514−23524,2006)。
【0050】
本発明の1つの実施形態においては、CS−D7標的領域を標的とする抗原結合性タンパク質は二重特異性である。CS−D7を標的とする二重特異性抗原結合性タンパク質は2以上の結合領域を含有し、ここで、1つの領域はCS−D7標的部位を標的とし、もう1つの領域は別のエピトープを標的とする。追加的な領域が存在しうる。二重特異性抗原結合性タンパク質の一般的なタイプの具体例には、二重特異性抗体および異種重合体が含まれ、それらは共に、例えば二価、三価、四価などの多価の形態で提供されうる。
【0051】
1つの実施形態においては、該二重特異性抗原結合性タンパク質は二重特異性抗体である(例えば、MarvinおよびZhu,Acta Pharmacologica Sinica 26:649−658,2005;Zuoら,Protein Engineering 75:361−367,2000;Ridgwayら,Protein Engineering 9:617−621,1996;Altら,FEBS Letters 454:90−94,1999;Carter,J Immunol.Methods 248:7−15,2001を参照されたい)。もう1つの実施形態においては、CS−D7標的領域を標的とする二重特異性抗体は宿主または外来抗原をも標的とする。宿主抗原は、例えば安定性または活性を増強するために標的化されうる。二重特異性抗体に関連した種々の実施形態に具体例には、以下の任意の組合せが含まれるが、それらに限定されるものではない:抗体エフェクター機能をもたらしうるFcまたは修飾Fcドメインを含有する二重特異性抗体;二価、三価または四価である二重特異性抗体;およびC3b様受容体または別の外来抗原、例えばインビボ感染中に細菌表面上で発現されるスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)またはスタヒロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)抗原(例えば、LTA、莢膜;O’RiordanおよびLee,Clin.Micro.Rev.17:218−234,2004;Lees A.,KoKai−kun J.,LopezAcosta A.,Acevedo J.,Mond J.2005.Lipotechoic Acid Conjugate Vaccine for Staphylococcus[abstract].In:8th Annual Conference on Vaccine Research;2005 May 8−11;Baltimore.S1:p.58;Fischerら,米国特許第6,610,293号;Stinsonら,米国特許第7,250,494号)に特異的に結合する第2の抗原結合性タンパク質を含む二重特異性抗体。
【0052】
もう1つの実施形態においては、CS−D7標的領域を標的とする二重特異性抗原結合性タンパク質は、宿主または外来抗原を標的とする第2の抗原結合性タンパク質と共に異種重合体複合体内に含有されうる。宿主抗原は、該抗原結合性タンパク質の安定性または活性を増強するために標的化されうる。種々の実施形態の具体例には、以下の任意の組合せが含まれる:抗体エフェクター機能をもたらしうるFcまたは修飾Fcドメインを含有する異種重合体;二価、三価または四価である二重特異性抗体;およびC3b様受容体または別の外来抗原、例えばインビボ感染中に細菌表面上で発現されるスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)またはスタヒロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)抗原に特異的に結合する第2の抗原結合性タンパク質を含む異種重合体。異種重合性複合体を形成させるために2つの抗体を化学的に架橋する方法は当技術分野で公知である(Taylorら,Proc.Natl Acad.Sci.USA 88:3305−3309,1991;Powersら,Infection and Immunity 63:1329−1335,1995)。
【0053】
赤血球のC3b様受容体への標的化は、該病原体を血流から排除するのを助けうる(Lindorferら,Immunological Reviews 183:10−24,2001;Mohamedら,Current Opinion in Molecular Therapeutics 7:144−150,2005を参照されたい)。霊長類におけるC3b様受容体はCR1またはCD35および因子II(他の哺乳類におけるもの)として公知である。正常な免疫粘着条件下、病原体に特異的に結合する抗体に結合した該病原体を含む免疫複合体(「IC」)は、補体タンパク質(例えば、C3b、C4b)で標識され、ついでこれは赤血球(「RBC」)の表面上のCR1に結合する。RBCは、Fc受容体(すなわち、FcγR)を発現する貪食細胞(例えば、マクロファージ)にICを運搬して、該ICのFc部分と該細胞表面上のFc受容体との相互作用を介して該貪食細胞にICを移す。該ICは該貪食細胞により破壊され、一方、RBCは循環へと戻る。1つの抗原結合性タンパク質がCR1に特異的である二重特異性抗原結合性タンパク質複合体を含む異種重合体は、補体カスケードを活性化する必要性を回避する。なぜなら、抗CR1抗体は、CR1の天然リガンドであるC3bの代用物として働くからである。これは、標的消失のための自然免疫粘着過程の効率を改善しうる。
【0054】
他の実施形態においては、二重特異性抗体または異種重合体はCS−D7標的領域およびCR1の両方を標的とし、更にFc定常領域を含有する。この実施形態における異種重合体は2つの異なる抗体を含有し、該抗体の一方または両方はFc定常領域を含有する。本発明の1つの実施形態においては、該異種重合体の抗CR1抗体はマウスCR1に特異的に結合する。もう1つの実施形態においては、該抗CR1抗体はヒトCR1に特異的に結合する。CR1特異的抗体は当技術分野で公知である(例えば、Nickellsら,Clin.Exp.Immunol.112:27−33,1998を参照されたい)。
【0055】
本発明のもう1つの実施形態においては、CS−D7標的領域を標的とする抗原結合性タンパク質は、該抗原結合性タンパク質の物理化学的特性を改変して有意な薬理学的利点をもたらす追加的成分を含む。例えば、分子へのポリエチレングリコール(「PEG」)の結合は、治療用物質として使用された場合の該分子の安全性および効率を改善するのを助けうる。物理化学的改変には、該治療用物質の全身的保持を促進するよう一緒になって働きうる、コンホメーション、静電的結合および疎水性における変化が含まれる(これらに限定されるものではない)。また、PEG部分を結合させることにより該抗原結合性タンパク質の分子量を増加させることによる薬理学的利点には、循環寿命の延長、安定性の増強、および宿主プロテアーゼからの保護が含まれる。また、PEGの結合は細胞受容体への該治療用部分の結合アフィニティに影響を及ぼしうる。PEGは、4000〜15,000以上の分子量範囲の重合体(例えば、400,000までの分子量を有するPEG重合体が商業的に入手可能である)を形成する反復単位(−O−CH−CH−)から構成される非イオン性重合体である。
【0056】
II.D.種々の実施形態の具体例
CS−D7標的領域を標的とする抗原結合性タンパク質は第1可変領域および第2可変領域を含有し、第1および第2可変領域は該標的領域に結合する。本明細書に記載されている指針に基づき、種々のCDRおよびフレームワークアミノ酸を有する、CS−D7標的領域を標的とする抗原結合性タンパク質が製造されうる。ヒンジ領域、Fc領域、毒性部分および/または追加的抗原結合性タンパク質もしくは結合性領域のような追加的成分(前記第II.C節を参照されたい)が存在しうる。
【0057】
該抗原結合性タンパク質に関する第1の実施形態においては、第1可変領域は、以下のCDRのいずれか1つ、2つ又は3つ全てを含むV領域である。
【0058】
配列番号46または配列番号46と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第1 V CDRは配列番号35および40に基づく。配列番号46は以下のアミノ酸配列GGSIXSSSYYWG(ここで、Xは任意のアミノ酸である)を有する。好ましくは、Xはセリンまたはアルギニンである。
【0059】
配列番号36、配列番号38、配列番号39、配列番号41、配列番号43もしくは配列番号44または配列番号36、38、39、41、43もしくは44と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第2 V CDR。好ましくは、第2 V CDRは配列番号36、38、39、41、43または44を含む。
【0060】
配列番号37、配列番号42もしくは配列番号45または配列番号37、42もしくは45と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第3 V CDR。好ましくは、第3 V CDRは配列番号37、42または45を含む。好ましくは、該V領域は第1 V CDR(CDR1)、第2 V CDR(CDR2)および第3 V CDR(CDR3)を含む。
【0061】
第2の実施形態においては、第1可変領域は、
a)それぞれ配列番号35、配列番号36および配列番号37;
b)それぞれ配列番号35、配列番号38および配列番号37;
c)それぞれ配列番号35、配列番号39および配列番号37;
d)それぞれ配列番号40、配列番号41および配列番号42;
e)それぞれ配列番号40、配列番号43および配列番号45;ならびに
f)それぞれ配列番号40、配列番号44および配列番号42
よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む第1、第2および第3 CDRを含むV領域である。もう1つの実施形態においては、第1可変領域は、配列番号35を含む第1 V CDR、配列番号36を含む第2 V CDR、および配列番号37を含む第3 V CDRを含むV領域である。
【0062】
第3の実施形態においては、第2可変領域は、以下のCDRのいずれか1つ、2つ又は3つ全てを含むV領域である。
【0063】
配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29もしくは配列番号32または配列番号17、20、23、26、29もしくは32と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第1 V CDR。好ましくは、第1 V CDRは配列番号17、20、23、26、29または32を含む。
【0064】
配列番号18、配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30もしくは配列番号33または配列番号18、21、24、27、30もしくは33と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第2 V CDR。好ましくは、第2 V CDRは配列番号18、21、24、27、30または33を含む。
【0065】
配列番号19、配列番号22、配列番号25、配列番号28、配列番号31もしくは配列番号34または配列番号19、22、25、28、31もしくは34と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第3 V CDR。好ましくは、第3 V CDRは配列番号19、22、25、28、31または34を含む。好ましくは、該V領域は第1 V CDR(CDR1)、第2 V CDR(CDR2)および第3 V CDR(CDR3)を含む。
【0066】
第4の実施形態においては、第2可変領域は、
a)それぞれ配列番号17、配列番号18および配列番号19;
b)それぞれ配列番号20、配列番号21および配列番号22;
c)それぞれ配列番号23、配列番号24および配列番号25;
d)それぞれ配列番号26、配列番号27および配列番号28;
e)それぞれ配列番号29、配列番号30および配列番号31;ならびに
f)それぞれ配列番号32、配列番号33および配列番号34
よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む第1、第2および第3 CDRを含むV領域である。もう1つの実施形態においては、第1可変領域は、配列番号17を含む第1 V CDR、配列番号18を含む第2 VhlCDR、および配列番号19を含む第3 V CDRを含むV領域である。
【0067】
第5の実施形態においては、該結合性タンパク質は、第1または第2の実施形態において記載されているV領域、および第3または第4の実施形態において記載されているV領域を含有する。
【0068】
第6の実施形態においては、該抗原結合性タンパク質は、第1、第2および第3 CDRをそれぞれが含むV領域およびV領域を含有し、ここで、第1、第2および第3 V CDRならびに第1、第2および第3 V CDRは、それぞれ、
a)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号17、配列番号18および配列番号19;
b)配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号20、配列番号21および配列番号22;
c)配列番号35、配列番号38、配列番号37、配列番号23、配列番号24および配列番号25;
d)配列番号35、配列番号39、配列番号37、配列番号26、配列番号27および配列番号28;
e)配列番号40、配列番号41、配列番号42、配列番号29、配列番号30および配列番号31;
f)配列番号40、配列番号43、配列番号45、配列番号29、配列番号30および配列番号31;
g)配列番号40、配列番号44、配列番号42、配列番号29、配列番号30および配列番号31;
h)配列番号40、配列番号43、配列番号45、配列番号32、配列番号33および配列番号34
よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含み、ここで、配列番号の順序はV CDR1、V CDR2、V CDR3、V CDR1、V CDR2およびV CDR3に対応する。もう1つの実施形態においては、V CDR1、V CDR2、V CDR3、V CDR1、V CDR2およびV CDR3は、それぞれ、アミノ酸配列配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号17、配列番号18および配列番号19を含む。
【0069】
第7の実施形態においては、該結合性タンパク質は、前記の第1〜第6の実施形態に記載されている1以上の可変領域を有する抗体である。もう1つの実施形態においては、該抗体はIgGである。
【0070】
第8の実施形態においては、前記の第1〜第7の実施形態で提供される可変領域は、mAb CS−D7、CS−E11、CS−D10、CS−A10、BMV−H11、BMV−E6、BMV−D4およびBMV−C2軽鎖または重鎖フレームワークの少なくとも1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有するフレームワーク領域を有する(図2および3を参照されたい)。
【0071】
基準配列に対する配列同一性(同一性比率とも称される)は、配列を該基準配列とアライン(整列)させ、対応領域内の同一アミノ酸の数を決定することにより決定される。この数を該基準配列(例えば、配列番号1のフレームワーク領域)内のアミノ酸の総数で割り算し、ついで100を掛け、最も近い整数に丸める。配列同一性は、当技術分野で認識されている多数の配列比較アルゴリズムにより、または目視検査により決定されうる(全般的には、Ausubel,FMら,Current Protocols in Molecular Biology,4,John Wiley & Sons,Inc.,Brooklyn,N.Y.,A.1E.1−A.1F.11,1996−2004を参照されたい)。他の実施形態においては、該配列同一性はmAb CS−D7、CS−E11、CS−D10、CS−A10、BMV−H11、BMV−E6、BMV−D4およびBMV−C2のいずれかのフレームワークに対して少なくとも95%または少なくとも99%同一であり、あるいは該mAbフレームワークのいずれかと0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20アミノ酸だけ異なる。
【0072】
第9の実施形態においては、本発明の抗原結合性タンパク質は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14および配列番号16のアミノ酸1−126よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含むV領域である第1可変領域を含む抗体である。もう1つの実施形態においては、該V領域は配列番号2のアミノ酸1−126を含む。
【0073】
第10の実施形態においては、本発明の抗原結合性タンパク質は、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13および配列番号15のアミノ酸1−108よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含むV領域である第2可変領域を含む抗体である。もう1つの実施形態においては、該V領域は配列番号1のアミノ酸1−108を含む。
【0074】
第11の実施形態においては、該抗原結合性タンパク質は、
a)配列番号1のアミノ酸1−108を含む軽鎖可変(V)領域、および配列番号2のアミノ酸1−126を含む重鎖可変(V)領域;
b)配列番号3を含むV領域、および配列番号4を含むV領域;
c)配列番号5を含むV領域、および配列番号6を含むV領域;
d)配列番号7を含むV領域、および配列番号8を含むV領域;
e)配列番号9を含むV領域、および配列番号10を含むV領域;
f)配列番号11を含むV領域、および配列番号12を含むV領域;
g)配列番号13を含むV領域、および配列番号14を含むV領域;ならびに
h)配列番号15を含むV領域、および配列番号16を含むV領域
のいずれかを含有する抗体である。もう1つの実施形態においては、V領域は配列番号2のアミノ酸1−126を含み、V領域は配列番号1のアミノ酸1−108を含む。
【0075】
第12の実施形態においては、該結合性タンパク質は、IgG、IgG、IgGまたはIgGサブタイプからのヒンジ、CH、CHおよびCH領域を含む重鎖、ならびにヒトカッパCHまたはヒトラムダCHのいずれかを含む軽鎖を含む、前記の第7〜第11の実施形態に記載されている抗体である。
【0076】
第13の実施形態においては、該結合性タンパク質は、軽鎖が配列番号1を含み、重鎖が配列番号2を含む抗体である。
【0077】
第14の実施形態においては、該結合性タンパク質は、以下の1以上を含有する前記の第7〜第13の実施形態に記載されている抗体である:フコシル化されていない又は実質的にフコシル化されていない(すなわち、存在する炭水化物に対してモル換算で10%未満)グリコシル化パターン;Fcγ受容体結合を増強する1以上のアミノ酸改変;新生児Fc受容体(FcRn)結合を増強する1以上のアミノ酸改変;およびC1q結合を増強する1以上のアミノ酸改変。
【0078】
第15の実施形態においては、前記の第1〜第14の実施形態に記載されている示されている領域(例えば、可変領域、CDR領域、フレームワーク領域)は、示されている配列からなる又は示されている配列から実質的になる。可変領域、CDR領域またはフレームワーク領域のような領域に関する「から実質的になる」なる語は、アミノおよび/またはカルボキシル末端における1以上の追加的アミノ酸の、可能な存在を示し、ここで、そのようなアミノ酸は該標的への結合を有意に軽減しないものである。
【0079】
第16の実施形態においては、前記の第1〜第15の実施形態に記載されている抗原結合性タンパク質は、該標的抗原に対する100nMまたはそれ未満のアフィニティK、または500pMまたはそれ未満のKを与えるVおよびV領域を有する。該標的抗原への結合は、実施例8に記載されているとおりに決定されうる。
【0080】
第17の実施形態においては、前記の第1〜第16の実施形態に記載されている抗原結合性タンパク質は、毒性部分、該抗原結合性タンパク質の物理化学的および/または薬理学的特性を増強する分子(これらに限定されるものではない)ならびに第2の抗原結合性タンパク質(前記第II.C節を参照されたい)を含む少なくとも1以上の追加的成分に結合している。もう1つの実施形態においては、該抗原結合性タンパク質は、第2の抗原結合性タンパク質(例えば、抗CR1抗体)に化学的に架橋されたCS−D7標的領域を標的とする抗原結合性タンパク質を含む異種重合体である。もう1つの実施形態においては、該抗原結合性タンパク質は1以上のPEG部分を有する。
【0081】
種々の実施形態に記載されているアミノ酸相違(配列同一性における相違をもたらすものを含む)はアミノ酸の欠失、挿入または置換でありうる。活性を維持するアミノ酸置換においては、置換されるアミノ酸は、1以上の類似した特性、例えば、ほぼ同じ電荷、サイズ、極性および/または疎水性を有するべきである。CDRは、標的への結合をもたらしつつ様々なものであることが可能であり、尚も標的特異性を保有する。フレームワーク領域配列も様々でありうる。
【0082】
図2および3に示す配列比較はCDRおよびフレームワーク領域内の変異の例を示す。図2および3に例示されているもののほかの変異も生成されうる。アミノ酸相違に関する実施形態においては、追加的変異は保存的アミノ酸置換である。保存的置換はアミノ酸を、類似特性を有する別のアミノ酸で置換するものである。表2は、群内の1つのメンバーが別のメンバーに対する保存的置換であるアミノ酸群の一覧を示す。
【0083】
【表2】

【0084】
II.E.抗原結合性タンパク質混合物
CS−D7標的領域を標的とする抗原結合性タンパク質は、抗原結合性タンパク質混合物を形成させるために、異なるORF0657nエピトープまたは異なるタンパク質を標的とする1以上の追加的結合性タンパク質と共に製剤化されうる。本発明の1つの実施形態は、少なくとも2つの抗原結合性タンパク質の組合せ又はそれらの複合体を含む抗原結合性タンパク質混合物に関するものであり(前記第II.C節を参照されたい)、この場合、該抗原結合性タンパク質の少なくとも1つは本明細書に記載のCS−D7標的領域を標的とする。該追加的抗原結合性タンパク質は、好ましくは、インビボ感染中に細菌細胞表面上で発現される、以下のものを含む追加的なスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)またはスタヒロコッカス・エピデルミディス(S.epidermidis)抗原に特異的である:LTAおよび莢膜(O’RiordanおよびLee,Clin.Micro.Rev.17:218−234,2004;Lees A.,KoKai−kun J.,LopezAcosta A.,Acevedo J.,Mond J.2005.Lipotechoic Acid Conjugate Vaccine for Staphylococcus[abstract].In:8th Annual Conference on Vaccine Research;2005 May 8−11;Baltimore.S1:p.58;Fischerら,米国特許第6,610,293号;Stinsonら,米国特許第7,250,494号);sai−1関連ポリペプチド(Andersonら,国際公開番号WO 05/79315);ORF0594関連ポリペプチド(Andersonら,国際公開番号WO 05/086663);ORF0826関連ポリペプチド(Andersonら,国際公開番号WO 05/115113);PBP4関連ポリペプチド(Andersonら,国際公開番号WO 06/033918);AhpC関連ポリペプチドおよびAhpC−AhpF組成物(Kellyら,国際公開番号WO 06/078680);スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)5型および8型莢膜多糖(Shinefieldら,N.Eng.J.Med.346:491−496,2002);コラーゲンアドヘシン、フィブリノーゲン結合性タンパク質およびクランピング因子(Mamoら,FEMS Immunology and Medical Microbiology 10:47−54,1994,Nilssonら,J.Clin.Invest.101:2640−2649,1998,Josefssonら,The Journal of Infectious Diseases 184:1572−1580,2001);ならびに多糖細胞間アドヘシンおよびその断片(Joyceら,Carbohydrate Research 338:903−922,2003)。
【0085】
1つの実施形態においては、CS−D7標的領域を標的とする該混合物中に含まれる抗原結合性タンパク質は、本明細書に記載されているモノクローナル抗体である。もう1つの実施形態においては、該抗体混合物中に含まれる各抗原結合性タンパク質はモノクローナル抗体である。もう1つの実施形態においては、該抗原結合性タンパク質混合物は、該混合物の治療的有効量および医薬上許容される担体を含有する医薬組成物の一部である。
【0086】
したがって、該抗原結合性タンパク質の少なくとも1つがCS−D7標的領域を標的とする抗原結合性タンパク質複合体(前記第II.C節を参照されたい)の混合物が本発明のこの部分に含まれる。例えば、本発明は更に、少なくとも2つの異種重合体複合体(ここで、1つの異種重合体複合体は、CR1に特異的に結合する抗体に化学的に架橋された、本明細書に記載のCS−D7標的領域を標的とする抗原結合性タンパク質を含む)の組合せを含む、第II.C節に記載されている異種重合体複合体の混合物に関する。この異種重合体は、CR1に特異的に結合する抗体に化学的に架橋されたインビボ感染中に細菌細胞表面上で発現される追加的なスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)抗原(例えば、LTA、莢膜)に特異的に結合する抗原結合性タンパク質を含む第2の異種重合体複合体との抗原結合性タンパク質混合物の形態で組合されうる。
【0087】
III.タンパク質の製造
抗原結合性タンパク質およびその領域は、好ましくは、組換え核酸技術またはハイブリドーマの使用により製造される。V領域およびV領域を含有する一本鎖タンパク質、例えば一本鎖抗体、およびその抗体またはフラグメント、ならびに別のタンパク質の一部としてVおよびV領域を含有する多鎖タンパク質を含む種々の抗原結合性タンパク質が製造されうる。
【0088】
組換え核酸技術は、タンパク質合成のための核酸鋳型を構築することを含む。ハイブリドーマ技術は、該抗原結合性タンパク質を製造するために不死化細胞系を使用することを含む。適当な組換え核酸およびハイブリドーマ技術は当技術分野でよく知られている(例えば、Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,2005,Harlowら,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照されたい)。
【0089】
III.A.組換え核酸
抗原結合性タンパク質をコードする組換え核酸は、実際に該コード化タンパク質の生産工場として働く宿主細胞内で発現されうる。該組換え核酸は、宿主細胞ゲノムから自律して又は宿主細胞ゲノムの一部として存在する該抗原結合性タンパク質をコードする組換え遺伝子を与えうる。
【0090】
組換え遺伝子は、タンパク質の発現のための調節要素と共に、タンパク質をコードする核酸を含有する。一般には、組換え遺伝子内に存在する調節要素には、転写プロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、および場合によって存在するオペレーターが含まれる。真核細胞内でのプロセシングのための好ましい要素はポリアデニル化シグナルである。抗体に関連するイントロンも存在しうる。抗体または抗体フラグメントの製造のための発現カセットの具体例は当技術分野でよく知られている(例えば、Persicら,Gene 187:9−18,1997,Boelら,J.Immunol.Methods 239:153−166,2000,Liangら,J.Immunol.Methods 247:119−130,2001,Tsurushitaら,Methods 36:69−83,2005)。
【0091】
遺伝暗号の縮重のため、特定のタンパク質をコードするために多数の異なるコード化核酸配列が用いられうる。ほとんど全てのアミノ酸は、異なる組合せのヌクレオチドトリプレット、すなわち「コドン」によりコードされているため、遺伝暗号の縮重が生じる。アミノ酸は、以下のとおりに、コドンによりコードされる。
A=Ala=アラニン:コドンGCA、GCC、GCG、GCU。
C=Cys=システイン:コドンUGC、UGU。
D=Asp=アスパラギン酸:コドンGAC、GAU。
E=Glu=グルタミン酸:コドンGAA、GAG。
F=Phe=フェニルアラニン:コドンUUC、UUU。
G=Gly=グリシン:コドンGGA、GGC、GGG、GGU。
H=His=ヒスチジン:コドンCAC、CAU。
I=Ile=イソロイシン:コドンAUA、AUC、AUU。
K=Lys=リシン:コドンAAA、AAG。
L=Leu=ロイシン:コドンUUA、UUG、CUA、CUC、CUG、CUU。
M=Met=メチオニン:コドンAUG。
N=Asp=アスパラギン:コドンAAC、AAU。
P=Pro=プロリン:コドンCCA、CCC、CCG、CCU。
Q=Gln=グルタミン:コドンCAA、CAG。
R=Arg=アルギニン:コドンAGA、AGG、CGA、CGC、CGG、CGU。
S=Ser=セリン:コドンAGC、AGU、UCA、UCC、UCG、UCU。
T=Thr=トレオニン:コドンACA、ACC、ACG、ACU。
V=Val=バリン:コドンGUA、GUC、GUG、GUU。
W=Trp=トリプトファン:コドンUGG。
Y=Tyr=チロシン:コドンUAC、UAU。
【0092】
細胞内の組換え遺伝子の発現は、発現ベクターを使用して促進される。好ましくは、発現ベクターは、組換え遺伝子に加えて、宿主細胞内での自律的複製のための複製起点、選択マーカー、限られた数の有用な制限酵素部位および潜在的な高コピー数をも含有する。
【0093】
所望により、当技術分野でよく知られた技術を用いて(例えば、Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,2005,Marksら,国際出願番号WO95/17516(国際公開日1995年6月29日)を参照されたい)、抗体をコードする核酸を宿主染色体内に組込むことが可能である。
【0094】
III.B.組み換え核酸の発現
組換え抗原結合性タンパク質の発現には、原核生物(例えば、大腸菌(E.coli)、バシラス属種(Bacillus sp)およびストレプトマイセス属種(Streptomyces sp.)(または放線菌属))および真核生物(例えば、酵母、バキュロウイルスおよび哺乳類)に由来する細胞系を含む多種多様な細胞系が使用されうる(Breitlingら,Recombinant Antibodies,John Wiley & Sons,Inc.and Spektrum Akademischer Verlag,1999,Kipriyanovら,Molecular Biotechnology 26:39−60,2004,Tsurushitaら,Methods 36:69−83,2005)。
【0095】
組換え抗原結合性タンパク質の発現のための好ましい宿主は哺乳類翻訳後修飾をもたらす。翻訳後修飾には、化学的修飾、例えばグリコシル化およびジスルフィド結合形成が含まれる。もう1つのタイプの翻訳後修飾はシグナルペプチドの切断である。
【0096】
グリコシル化は抗体エフェクター機能に重要でありうる(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002、Presta,Advanced Drug Delivery Reviews 58:640−656,2006,Satohら,Expert Opin.Biol.Ther.6:1161−1173,2006)。
【0097】
効率的な翻訳後修飾を得るために、哺乳類宿主細胞および非哺乳類細胞を含む種々のタイプの宿主細胞が使用されうる。哺乳類宿主細胞の具体例には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、HeLa、C6、PC12、ヒト胎児腎(HEK293)および骨髄腫細胞が含まれうる。哺乳類宿主細胞は、例えば、グリコシル化をもたらすために修飾されうる(Yooら,Journal of Immunological Methods 261:1−20,2002,Persicら,Gene 187:9−18,1997、Presta,Advanced Drug Delivery Reviews 58:640−656,2006,Satohら,Expert Opin.Biol.Ther.6:1161−1173,2006)。非哺乳類細胞は、所望のグリコシル化をもたらすために修飾されうる(Liら,Nature Biotechnology 24(2):210−215,2006)。糖操作(glycoengineered)されたピチア・パストリス(Pichia pastoris)は、そのような修飾された非哺乳類細胞の一例である(Liら,Nature Biotechnology 24(2):210−215,2006)。
【0098】
III.C.種々の実施形態の具体例
抗原結合性タンパク質V領域もしくはV領域をコードする又はそれらの領域の両方をコードする1以上の組換え遺伝子を含む核酸は、CS−D7標的領域に結合する完全な結合性タンパク質または該結合性タンパク質の成分を製造するために使用されうる。完全な結合性タンパク質は、例えば、一本鎖抗体のようなV領域およびV領域を含有する一本鎖タンパク質をコードする単一の組換え遺伝子を使用することにより、あるいは例えば、個々のVおよびV領域を製造するために複数の組換え遺伝子を使用することにより得られうる。また、結合性タンパク質の領域は、例えば、別々の細胞内でV領域またはV領域を含有するポリペプチドを製造することにより得られうる。
【0099】
したがって、本発明は、抗原結合性タンパク質V領域またはV領域(該VまたはV領域を含むタンパク質はCS−D7標的領域に結合する)をコードする少なくとも1つの組換え遺伝子を含む核酸を含む。もう1つの実施形態においては、該核酸は2つの組換え遺伝子を含み、第1の組換え遺伝子は抗体結合性タンパク質V領域をコードし、第2の組換え遺伝子は抗原結合性タンパク質V領域をコードする。
【0100】
種々の実施形態において、1以上の組換え遺伝子は該抗原結合性タンパク質、またはV領域もしくはV領域(前記第II.Dに記載されているとおり)をコードする。好ましくは、該組換え遺伝子は、抗原結合性タンパク質を製造するために単一の宿主細胞内で発現される。該タンパク質は該細胞から精製されうる。
【0101】
IV.抗原結合性タンパク質の用途
適当なエピトープを認識する抗原結合性タンパク質は治療用途および他の用途を有しうる。他の用途には、ORF0657n抗原およびワクチンの製造、特徴づけ又は研究を促進するための、ORF0657n標的領域を認識する抗原結合性タンパク質の使用が含まれる。あるORF0657n領域を含有する抗原は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する防御免疫応答をもたらすために使用されうる(Andersonら,国際公開番号WO2005/009379(国際公開日2005年2月3日))。
【0102】
標的タンパク質の製造、特徴づけ又は研究においてモノクローナル抗体のような抗原結合性タンパク質を使用するための技術は当技術分野でよく知られている(例えば、Ausubel,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley,2005,Harlowら,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988,Harlowら,Using Antibodies,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999,Lipmanら,ILAR Journal 46:258−268,2005を参照されたい)。
【0103】
本発明の1つの実施形態においては、抗原結合性タンパク質を使用して、溶液中の又はミクロスフェアに結合した又は細胞上のORF0657n抗原の存在を確認する。溶液または細胞に存在するタンパク質への該結合性タンパク質の結合能は、ウエスタンブロット、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、フローサイトメトリーおよびルミネックス(Luminex)イムノアッセイのような種々の技術を用いて測定されうる。
【0104】
VI.治療
適当な標的領域に結合する抗原結合性タンパク質を使用して、治療的および予防的治療が患者に対して行われうる。治療的治療は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に感染した者に対して行われる。予防的治療は一般集団または一般集団の小集団に対して行われうる。一般集団の好ましい小集団としては、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染のリスクの高い者の小集団が挙げられる。
【0105】
治療的および予防的治療は、本明細書に記載の抗原結合性タンパク質またはその医薬組成物を患者に投与する工程を含む、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対して患者を防御または治療する方法を含む。所望により、本発明で提供する抗原結合性タンパク質組成物は抗原結合性タンパク質の混合物の一部として提供されうる(例えば、前記第II.E節を参照されたい)。また、該抗原結合性タンパク質組成物は、追加的医薬物質も与えられる組合せ療法(併用療法)計画の一部として投与されうる。したがって、該抗原結合性タンパク質の投与は、単独で又は追加的物質と組合されて、医薬的に活性な担体を含む組成物の形態をとりうる。
【0106】
組合せ療法は、医学的効果を有する1以上の追加的成分(限定的なものではないがワクチン抗原または抗生物質を含む)と共に、本明細書に記載されている抗原結合性タンパク質(例えば、前記第II節を参照されたい)を使用して行われうる。治療の時機は、予防的および/または治療的治療が達成されるよう設計されうる。例えば、該追加的成分は、該抗原結合性タンパク質での治療と同時に、または該抗原結合性タンパク質での治療の前または後の短期間のうちに投与されうる。短期間のうちの投与は、患者のための最良の治療計画に応じて、抗原結合性タンパク質の投与から約2週間以内の期間を意味する。
【0107】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対して有効な抗生物質の投与は当技術分野でよく知られている(例えば、Ansteadら,Methods Mol.Bio.391:227−258,2007;Micek,Clin.Infect.Dis.45:S184−S190,2007;Moellering,Clin.Infect.Dis.46:1032−1037,2008)を参照されたい)。組合せ治療のための可能な抗生物質には、例えば、バンコマイシン(vancomycin)、リネゾリド(linezolid)、クリンダマイシン(clindamycin)、ドキシサイクリン(doxycycline)、リファンピン(rifampin)、ダプトマイシン(daptomycin)、キヌプリンチン−ダルフォプリスチン(quinuprintin−dalfopristin)、チゲサイクリン(tigecycline)、オリタバンシン(oritavancin)、ダルババンシン(dalbavancin)、セフトビプロール(ceftobiprole)、テラバンシン(telavancin)およびイクラプリム(iclaprim)が含まれる。
【0108】
組合せ治療のための可能な抗原には、例えば、ORF0657n関連ポリペプチド(Andersonら,国際公開番号WO 05/009379);sai−1関連ポリペプチド(Andersonら,国際公開番号WO 05/79315);ORF0594関連ポリペプチド(Andersonら,国際公開番号WO 05/086663);ORF0826関連ポリペプチド(Andersonら,国際公開番号WO 05/115113);PBP4関連ポリペプチド(Andersonら,国際公開番号WO 06/033918);AhpC関連ポリペプチドおよびAhpC−AhpF組成物(Kellyら,国際公開番号WO 06/078680);スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)5型および8型莢膜多糖(Shinefieldら,N.Eng.J.Med.346:491−496,2002);コラーゲンアドヘシン、フィブリノーゲン結合性タンパク質およびクランピング因子(Mamoら,FEMS Immunology and Medical Microbiology 10:47−54,1994,Nilssonら,J.Clin.Invest.101:2640−2649,1998,Josefssonら,The Journal of Infectious Diseases 184:1572−1580,2001);ならびに多糖細胞間アドヘシンおよびその断片(Joyceら,Carbohydrate Research 338:903−922,2003)が含まれる。
【0109】
「患者」は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に感染しうる哺乳動物を意味する。好ましくは、患者はヒトである。しかし、他のタイプの哺乳動物、例えばウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ウマ、イヌ、ネコ、サル、ラットおよびマウスもスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に感染しうる。非ヒト患者の治療は、ペットおよび家畜を防御するのに、ならびに特定の治療の効力を評価するのに有用である。
【0110】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染のリスクの高い者には、医療従事者、入院患者、低下した免疫系を有する患者、手術を受けている患者、カテーテルまたは血管装置のような異物インプラントを受け入れている患者、免疫低下を招く療法を受けている患者、および火傷または創傷のリスクの高い職業の者が含まれる(The Staphylococci in Human Disease,Crossley and Archer(編),Churchill Livingstone Inc.1997)。
【0111】
1つの実施形態においては、手術または異物インプラントと共に、1以上の抗原結合性タンパク質を患者に投与する。「手術または異物インプラント」なる語は、異物インプラントの付与を伴う又は伴わない手術、および手術を伴う又は伴わない異物インプラントの付与を含む。投与の時機は、予防的治療および/または治療的治療が達成されうよう計画されうる。投与は、好ましくは、手術または移植とほぼ同時に開始されうる。
【0112】
医薬投与全般に関する指針は、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences 20th Edition,Gennaro編,Mack Publishing,2000;ならびにModern Pharmaceutics 2nd Edition,BankerおよびRhodes編,Marcel Dekker,Inc.,1990に記載されている。
【0113】
医薬上許容される担体は抗原結合性タンパク質の保存および投与を促進する。タンパク質溶液製剤を安定化するために使用される物質には、炭水化物、アミノ酸および緩衝化塩が含まれる(Middaughら,Handbook of Experimental Pharmacology 137:33−58,1999)。
【0114】
適当な投与計画は、好ましくは、患者の年齢、体重、性別および医学的状態;投与経路;所望の効果;ならびに使用する個々の抗原結合性タンパク質を含む、当技術分野でよく知られた要因を考慮して決定される。有効用量範囲は約0.1mg/kg〜20mg/kg、または0.5mg/kg〜5mg/kgとなると予想される。投与頻度は該化合物の有効性および安定性によって異なりうる。投与頻度の具体例には、隔週、毎週、毎月および隔月が含まれる。
【0115】
VI.CS−D7標的断片
ORF0657n領域(配列番号47)内に存在しmAb CS−D7が結合するCS−D7標的断片は、例えば、前記II.Bに記載されているとおり、追加的な抗体を生成させるために使用されうる。CS−D7標的断片は、免疫応答を惹起するためにも使用されうる。好ましくは、CS−D7標的断片はCS−D7標的領域を含有する。したがって、CS−D7標的領域はORF0657nにより提供される。CS−D7標的断片はORF0657n領域のアミノ酸約42−342内に含有されているようであり(実施例6を参照されたい)、この領域に由来する、より小さな断片中に存在しうる。
【0116】
潜在的CS−D7標的断片は、以下に記載する種々の実施形態により提供される。第1の実施形態においては、CS−D7標的断片は、配列番号47のアミノ酸42−342、配列番号47のアミノ酸42−285および配列番号47のアミノ酸103−285よりなる群から選ばれるORF0657n(配列番号47)の部分に対して少なくとも95%の配列同一性を有するポリペプチドであり、ここで、該ポリペプチドは350アミノ酸長以下である。該ポリペプチドの長さに関する追加的な実施形態においては、該ポリペプチドは250アミノ酸以下または200アミノ酸以下である。追加的アミノ酸は、好ましくは、追加的ORF0657n領域である。
【0117】
第1の実施形態を更に詳しく記載する第2の実施形態においては、配列番号47関連ポリペプチドは、配列番号47のアミノ酸42−342、アミノ酸42−285またはアミノ酸103−285に対して少なくとも95%または少なくとも99%同一であり、あるいは配列番号47のアミノ酸42−342、アミノ酸42−285またはアミノ酸103−285と0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20アミノ酸の改変だけ異なり、あるいは配列番号47から実質的になる。各アミノ酸改変は、独立して、アミノ酸の置換、欠失または付加である。該改変は配列番号47領域内に存在することが可能であり、あるいは配列番号47領域に付加されうる。
【0118】
示されているアミノ酸の「から実質的になる」なる語は、言及されているアミノ酸が存在し、追加的なアミノ酸が存在しうることを示す。追加的なアミノ酸はカルボキシルまたはアミノ末端に存在しうる。種々の実施形態において、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の追加的なアミノ酸が配列番号47のアミノ酸42−342、アミノ酸42−285またはアミノ酸103−285付加される。追加的なアミノ酸の一例はアミノ末端メチオニンである。
【0119】
免疫応答の惹起は、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染を治療的または予防的に治療するのを助けるのに有用でありうる。当技術分野でよく知られた技術と共に本明細書に記載の指針を用いて、免疫原が製剤化され、患者に投与されうる。医薬投与全般に関する指針は、例えばVaccines,PlotkinおよびOrenstein編,W.B.Sanders Company,1999;Remington’s Pharmaceutical Sciences 20th Edition,Gennaro編,Mack Publishing,2000;ならびにModern Pharmaceutics 2nd Edition,BankerおよびRhodes編,Marcel Dekker,Inc.,1990に記載されている。
【0120】
医薬上許容される担体は免疫原の保存および患者への免疫原の投与を促進する。医薬上許容される担体は、種々の成分、例えばバッファー、無菌注射用水、正常食塩水またはリン酸緩衝食塩水、スクロース、ヒスチジン、塩およびポリソルベートを含有しうる。
【0121】
免疫原は種々の経路(例えば、皮下、筋肉内または粘膜)で投与されうる。皮下および筋肉内投与は、例えば針またはジェット・インジェクターを使用して行われうる。
【0122】
適当な投与計画は、好ましくは、患者の年齢、体重、性別および医学的状態;投与経路;所望の効果;ならびに使用する個々の化合物を含む、当技術分野でよく知られた要因を考慮して決定される。該免疫原は多用量ワクチン形態で使用されうる。用量は全ポリペプチド1.0μg〜1.0mgの範囲よりなると予想される。種々の実施形態において、該範囲は5.0μg〜500μg、0.01mg〜1.0mg、または0.1mg〜1.0mgである。
【0123】
投与の時機は、当技術分野でよく知られた要因に左右される。初回投与後、1以上の追加用量を投与して抗体価を維持または増強することが可能である。投与計画の一例としては、第1日、第1ヶ月、第3投与としての第4、6または12ヶ月の投与、および必要に応じて行う、間隔をあけて投与する追加的な追加投与が挙げられるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】図1はIgG分子の構造を例示する。「V」は可変領域の軽鎖を意味する。「V」は重鎖可変領域を意味する。「C」は軽鎖定常領域を意味する。「CH」、「CH」および「CH」は重鎖定常領域である。点線はジスルフィド結合を示す。
【図2】図2は、mAb CS−D7軽鎖可変領域(配列番号1のアミノ酸1−108)、mAb CS−E11軽鎖可変領域(配列番号3)、mAb CS−D10軽鎖可変領域(配列番号5)、mAb CS−A10軽鎖可変領域(配列番号7)、mAb BMV−H11軽鎖可変領域(配列番号9)、mAb BMV−E6軽鎖可変領域(配列番号11)、mAb BMV−D4軽鎖可変領域(配列番号13)およびmAb BMV−C2軽鎖可変領域(配列番号15)の配列比較を示す。相補性決定領域1、2および3が、異なるCDR配列を特定する配列番号(SEQ ID NO)と共に、太字で示されている。
【図3】図3は、mAb CS−D7重鎖可変領域(配列番号2のアミノ酸1−126)、mAb CS−E11重鎖可変領域(配列番号4)、mAb CS−D10重鎖可変領域(配列番号6)、mAb CS−A10重鎖可変領域(配列番号8)、mAb BMV−H11重鎖可変領域(配列番号10)、mAb BMV−E6重鎖可変領域(配列番号12)、mAb BMV−D4重鎖可変領域(配列番号14)およびmAb BMV−C2重鎖可変領域(配列番号16)の配列比較を示す。相補性決定領域1、2および3が、異なるCDR配列を特定する配列番号(SEQ ID NO)と共に、太字で示されている。
【図4】図4は、オプソニン貪食活性(OPA)アッセイを用いて、mAb CS−D7がスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御をもたらしうることを例示する。
【図5】図5は、オプソニン貪食活性(OPA)アッセイを用いて、mAb CS−D10がスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に対する防御をもたらしうることを例示する。
【図6】図6は、mAb CS−D7がスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)菌血症を軽減しうることを例示する。
【0125】
VII.実施例
本発明の種々の特徴を更に詳しく例示する実施例を以下に記載する。該実施例は本発明の実施のための有用な方法をも例示する。これらの実施例は、特許請求されている本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0126】
scFvライブラリーからの抗0657n mAbの単離
ファージ提示ライブラリーを使用して、ORF0657nに特異的なscFvを特定した。該ライブラリーをORF0657nHでパンニングした。ついでscFVを対抗スクリーニング(counter screen)して、それらがORF0657tに結合するかどうかを判定した。配列番号47はORF0657nスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)配列を示す。ORF0657tはORF0657nのアミノ酸42−486に対応する。ORH0657nHはORF0657nのアミノ酸42−609に対応する。ORF0657nHおよびORF0657tを酵母内で発現させた。
【0127】
固相パンニングを用いて、3つのケンブリッジ(Cambridge)抗体ライブラリー(BMV:末梢血リンパ球;CS:脾臓リンパ球;およびDP47:CSライブラリーのV CDR3およびVを伴う生殖系列DP47フレームワーク)をORF0657nH(10μg/ml)に対するscFVに関してスクリーニングした。特定された264個中190個がORF0657tに特異的であった。264個中172個は、可変領域DNA配列決定から重複物を除去した後に特定された。DNA配列分析は、重複配列および終止コドン含有配列の除去の後、DP47スクリーニングからは41個、BMVスクリーニングからは57個、およびCSライブラリースクリーニングからは74個の重複無し(ユニーク)の配列を特定した。
【0128】
ファージELISAスクリーニング − 選択されたscFv−ファージクローンの抗原特異性を実証するために、ラウンド2における各ライブラリーからの172個のファージクローンおよびそれぞれの第3ラウンドのライブラリーからの88個のクローンをELISAにおいて試験した。ELISA陽性体の組をフローサイトメトリーにより及び競合ルミネックス(luminex)アッセイにおいて更に試験した。フローサイトメトリーにより測定された、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)の細胞表面上のORF0657nに結合したscFvを、後記のとおりに完全IgGに変換した。
【0129】
フローサイトメトリースクリーニング − 種々のscFvのORF0675n結合部位を決定するために、フローサイトメトリー分析を行った。この分析に使用したスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)を鉄欠損規定培地(RPMI1640)内で増殖させた。固相ファージ提示パンニングのラウンド2から単離された100個を超えるscFvを、2×RPMI内で増殖させたスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)Becker細胞に対してフローサイトメトリーにより検査した。試験したscFvのほとんどは種々の度合の結合を示した。これらの実験から得られたデータは、パンニングから単離されたscFvがスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に結合することを証明した。
【0130】
IgG変換 − IgG変換のために12個のscFvクローンを特定した。可変領域の配列をPCR増幅し、重鎖可変領域をコードするDNAを、IgG1定常領域をコードするDNAにインフレームで融合させ、一方、軽鎖可変領域をコードするDNAを、対応定常領域をコードするDNAにインフレームで融合させた。得られた抗体発現ベクターのクローニング法を以下に説明する。
【0131】
軽鎖および重鎖の両方の発現をヒトCMVプロモーターおよびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルにより駆動した。前方部のリーダー配列は培地内への抗体の分泌を引き起こした。重鎖リーダー配列はMEWSWVFLFFLSVTTGVHS(配列番号49)であった。軽鎖リーダー配列はMSVPTQVLGLLLLWLTDARC(配列番号50)であった。発現ベクターは、293EBNA細胞内での持続的発現のためのEBVウイルスゲノム由来のoriP、およびカナマイシン選択マーカー用の細菌配列、および大腸菌(E.coli)内の複製起点を含有する。
【0132】
該可変領域をPCR増幅した。高忠実度PCRマスター混合物、1μlの鋳型容量ならびにフォワードおよびリバースプライマー(それぞれ1μl)を含有する25μlの容量中でPCR反応を行った。PCR条件は以下のとおりであった:94℃で2分間の1サイクル;以下の25サイクル:94℃で1.5分間;60℃で1.5分間;72℃で1.5分間および72℃で7分間;取り出し、ならびに5末端におけるリーダー配列および3’末端における定常領域へのインフレームでのクローニング(In−Fusion法を利用)まで4℃。例えば、以下のプライマー(軽鎖フォワード,5’−ACAGATGCCAGATGCGAAATTGTGATGACACAGTCT(配列番号51);軽鎖リバース,5’−TGCAGCCACCGTACGTTTAATCTCCAGTCGTGTCCC(配列番号52);重鎖フォワード,5’−ACAGGTGTCCACTCGCAGGTGCAGCTGCAGGAGTCG(配列番号53)および重鎖リバース,5’−GCCCTTGGTGGATGCACTCGAGACGGTGACCAGGGT(配列番号54))を使用して、クローンCS−D7抗体をクローニングした。
【0133】
該クローンの残りを同様にして変換した。それらの全てのクローンのDNA配列を配列決定により確認した。以下に更に詳しく説明するとおり、mAb BMV−H11、BMV−D4、BMV−E6、BMV−C2、CS−D7、CS−D10、CS−A10およびCS−E11は、Luminex結合アッセイを用いた場合、同一エピトープへの結合に関して競合する。
【0134】
DNA配列から推定された抗体CS−D7の完全長アミノ酸配列を以下の表3に示す。可変領域が太字で示されており、CDRが下線で示されている。
【0135】
mAb BMV−H11、BMV−D4、CS−D7、CS−D10、CS−A10、CS−E11、BMV−E6およびBMV−C2軽鎖および重鎖可変領域の配列比較を図2および3に示す。重鎖定常領域の配列は全て同一であり、軽鎖定常領域の配列はカッパまたはラムダのいずれかである。MAb CS−D7はカッパ配列を含有し、これは、配列番号1のアミノ酸109−210に対応する。MAb BMV−H11、BMV−D4、CS−D10、CS−A10、CS−E11、BMV−E6およびBMV−C2は、配列番号48により示されるラムダ配列を含有する。
【0136】
該抗体を293EBNA単層細胞内で発現させた。PEIに基づくトランスフェクション試薬を使用して、該プラスミドをトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞をOpti−MEM無血清培地内でインキュベートし、プロテインA/Gアフィニティクロマトグラフィーを用いて、分泌された抗体を培地から精製した。精製された抗体の濃度をOD280nmにより決定し、純度をLabChipキャピラリー電気泳動により決定した。
【0137】
【表3】

【実施例2】
【0138】
Luminex(ルミネックス)結合研究
CAT scFvの選択物(実施例1を参照されたい)を、マウスmAb(2H2、13C7、1G3および13G11)およびCAT mAb(CS−D3、CS−D7、CS−D10、CS−E11、BMV−E6、BMV−D4、mAb1およびmAb2)のパネルに対するスクリーニングにより特徴づけして、それらがORF0657n上の同一エピトープに関して競合するかどうか、または異なるエピトープに結合するかどうかを判定した。これらのアッセイにおいては、単一のCAT scFv(またはCAT mAb)を単一のmAb(マウスまたはCAT)に対して競合させた。
【0139】
マウス2H2、1G3、13C7または13G11は2007年1月23日付け出願の国際出願PCT/US07/01687(これを参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。PCT/US07/01687(国際公開番号WO 2007/089470)は、ブダペスト条約に従い2005年9月30日にAmerican Type Culture Collection,10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110−2209に寄託されている、mAb 1G3.BD4、mAb 2H2.BE11、mAb 13C7.BC1およびmAb 13G11.BF3を産生するハイブリドーマ細胞系に関するものである。該細胞系はATCC No.PTA−7124(mAb 2H2.BE11を産生する),ATCC No.PTA−7125(mAb 13C7.BC1を産生する)、ATCC No.PTA−7126(mAb 1G3.BD4を産生する)およびATCC No.PTA−7127(mAb 13G11.BF3を産生する)と命名された。
【0140】
ORF0657n−ビーズの構築 − 9.4×10個のRadixマレイミドミクロスフェア(Georgetown,TX)を750μgのORF0657n−Se(カルボキシル末端システイン基を含有するORF0657n)に室温で2時間にわたって結合(カップリング)させた。ビーズを1mlのPBSで3回洗浄し、ついで1M N−アセチル−L−システイン(Sigma)で室温で2時間クエンチした。ミクロスフェアをPBS中で3回洗浄した。ビーズを計数し、500ミクロスフェア/μlの最終濃度で再懸濁させた。
【0141】
CAT scFvとマウスAbとの競合の検出 − CAT scFvをPBS−TBN(0.05% Tween 20、1% BSAおよび0.05% アジ化ナトリウム)中、1:4、1:8、1:16および1:32で希釈し、5000個のORF0657n結合ミクロスフェアと共にマルチスクリーン(Multiscreen)フィルタープレート(Millipore)内で室温で1時間15分にわたってインキュベートした。ついで該ビーズを、0.05% Tween 20を含有するPBS(PBS/Tween20)で3回洗浄した。結合したCAT scFvを伴うORF0657n−ビーズをマウスモノクローナル抗体(2H2、1G3、13C7または13G11)と共にインキュベートした。該マウスmAbはR−フィコエリトリン(PE)コンジュゲート(Chromoprobe Inc.)で商業的に標識されていた。該標識mAbをPBS−TBN中で2μg/mlの最終濃度に別々に希釈した。該希釈mAb(50μL/ウェル)をプレートに加え、これを室温で更に1時間15分インキュベートした。ミクロスフェアをPBS/Tween20で3回洗浄した。ミクロスフェアをPBS/Tween20に再懸濁させ、Bio−Plexルミノメーター(BioRad)を使用して中央値蛍光シグナルを読取った。
【0142】
scFvと該マウスAbとの結合競合に基づき、被験抗体の結合部位を以下の群に分類した:群1,scFv BMV−C2、BMV−E6、BMV−D4、BMV−H11、CS−E11、CS−A10、CS−D10およびCS−D7は該マウスmAbのいずれとも競合しなかった;群2,2つのscFvがマウスmAb 2H2と競合した;群3,2つのscFvがmAb 1G3と競合した;群4,該scFvのいずれもmAb 13C7と競合しなかった;ならびに群5,該scFvのいずれもmAb 13G11と競合しなかった。scFv CS−D10およびCS−D7に関しては、Biacoreを用いた結果は、Luminexを用いた本研究における分析と異なっていた(後記実施例5を参照されたい)。
【0143】
CAT mAbとマウスmAbとの間の競合の検出 − マウスmAb 2H2と競合するscFvであるscFv BMV−D4、CS−D7、CS−D10、CS−A10およびBMV−C2ならびに1G3と競合する2つのscFvを、実施例1に記載されているとおりにIgG抗体に変換した。CAT mAbをPBS−TBN中、2μg/mlの濃度に希釈し、5000個のORF0657n結合ミクロスフェアと共にマルチスクリーン(Multiscreen)フィルタープレート(Millipore)内で室温で1時間15分にわたってインキュベートした。ついで該ビーズを、0.05% Tween 20を含有するPBS(PBS/Tween20)で3回洗浄した。結合したCAT mAbを伴うORF0657n−ビーズをマウスモノクローナル抗体(2H2、1G3、13C7または13G11)と共にインキュベートした。該マウスmAbはR−フィコエリトリン(PE)コンジュゲート(Chromoprobe Inc.)で商業的に標識されていた。該標識mAbをPBS−TBN中で2μg/mlの最終濃度に別々に希釈した。該希釈mAb(50μL/ウェル)をプレートに加え、これらを室温で更に1時間15分インキュベートした。ミクロスフェアをPBS/Tween20で3回洗浄した。ミクロスフェアをPBS/Tween20に再懸濁させ、Bio−Plexルミノメーター(BioRad)を使用して中央値蛍光シグナルを読取った。
【0144】
マウスmAbに対する競合に関してCAT mAbを試験した。前記のscFvおよびマウスmAb競合の場合と同様にして、同じ5つの群を観察した。
【0145】
CAT scFvとCAT mAbとの間の競合の検出 − Luminex cLIAアッセイにおいて、CAT scFvをCAT抗体に対して個々に競合させた。scFvをPBS−TBN(0.05% Tween 20、1% BSAおよび0.05% アジ化ナトリウム)中、1:4、1:8、1:16および1:32で希釈し、5000個のORF0657n結合ミクロスフェアと共にマルチスクリーン(Multiscreen)フィルタープレート(Millipore)内で室温で1時間15分にわたってインキュベートした。ついで該ビーズを、0.05% Tween 20を含有するPBS(PBS/Tween20)で3回洗浄した。それらの個々の抗体をPBS−TBN中で2μg/mlの最終濃度に希釈し、別々のプレートに加えた。50μL/ウェルの該希釈抗体を該プレートに加え、これらを室温で更に1時間15分インキュベートした。該プレートをPBS/Tween20で3回洗浄した。Biotrendの抗ヒトIgG(Fc特異的)抗体HP6043(R−フィコエリトリンで標識されたもの)を1:50に希釈した。50μL/ウェルの希釈抗体を該プレートに加えた。該プレートを室温で1時間15分インキュベートした。該ミクロスフェアをPBS/Tween20で3回洗浄した。ミクロスフェアをPBS/Tween20に再懸濁させ、Bio−Plexルミノメーター(BioRad)を使用して中央値蛍光シグナルを読取った。少なくとも2つの希釈度で非競合的scFvに関して検出されたシグナルに対して該中央値蛍光シグナルが少なくとも30%減少した場合、scFvは競合的であるとみなされた。
【0146】
個々のmAb BMV−D4、BMV−E6、CS−D7、CS−D10およびCS−E11に対する個々のscFvs BMV−H11、BMV−D4、BMV−E6、BMV−C2、CS−D7、CS−D10、CS−A10およびCS−E11に関する競合の結果を表4に示す。第1列における各scFvは、第2列に示されているmAbの全てに対して個々に競合することが判明した。
【0147】
【表4】

【実施例3】
【0148】
ORF0657nへの結合のBIACORE(登録商標)測定
ORF0657nへの抗体結合をBIACORE(登録商標)により測定した。BIACORE(商標登録)は、カルボキシルメチルデキストランでコーティングされた(CM5)センサーチップの表面に直接照射される偏光の屈折率の変化をモニターすることにより質量変化を検出するために、ミクロフルイディクス技術および表面プラズモン共鳴(SPR)を組合せたものである。応答単位(Response Unit)として測定される応答の変化は結合アナライト(例えば、抗原または抗体)の量に相関されうる。
【0149】
ORF0657nへのアフィニティ結合を、抗スタヒロコッカス(anti−Staph)抗体mAb 13C7.D12を使用して、BIACORE(登録商標)により測定した。該抗体を該CM5センサーチップの表面上に共有結合させた。該結合Abを、まず、ORF0657nにさらし、ついで、低濃度(5μg/mL)で試験される抗体にさらした。ORF0657n+抗体の各サイクルの後、20mM HClを使用して、該センサーチップの表面を該固定化13C7.D12へと再生させた。
【0150】
各実施において最初に結合した(捕捉された)抗原の量を正規化するために、各試験抗体/抗原複合体に関する以下の比を計算する。
【0151】
【数1】

【0152】
結果を表5に示す。mAb CS−D4およびmAb CS−D6に関する有意な結合は示されなかった。IgG結合の欠如の理由には、IgGタンパク質の非存在または不正確な値、抗体凝集、非常に低い結合活性、あるいは捕捉抗体との完全な重複(該抗原が単量体形態でのみ存在する場合)が含まれる。mAb CS−D4およびmAb CS−E6の結合は、抗体濃度を有意に増加させるペア形態(pairwise)結合研究において観察された(後記実施例4)。
【0153】
【表5】

【実施例4】
【0154】
ペア形態の競合結合
ORF0657nへの抗体の相対結合を測定するために、ペア形態の結合実験を行った。抗スタヒロコッカス抗体mAb 13C7.D12を該CM5センサーチップの表面上に共有結合(固定化)させた。該固定化Abを、まず、該ORF0657nにさらし、ついでマトリックス(行列)形態で抗体のペアにさらした。ORF0657nタンパク質+抗体ペアの各サイクルの後、20mM HClを使用して、センサーチップの表面を固定化13C7.D12へと再生させた。各抗体ペアの全ての組合せが分析されうるよう、マトリックス形態でORF0657nタンパク質に対して抗体を試験した。
【0155】
mAb CS−D7、CD−D10、BMV−D4およびBMV−E6に関するマトリックス設計を表6に要約する。
【0156】
【表6】

【0157】
各実施において最初に結合した(捕捉された)抗原の量を正規化するために、各試験抗体/抗原複合体に関する以下の比を計算する。
【0158】
【数2】

【0159】
各抗体に残存している利用可能なエピトープの割合(%)は、以下のとおりに、マッピングペアに関して計算されうる。
【0160】
【数3】

【0161】
モノクローナル抗体CS−D7、CS−D10、BMV−D4およびBMV−E6は、同じ又は有意に重複する領域に対するものであった。表7は該ペア形態結合研究の結果の要約を示す。
【0162】
【表7】

【0163】
該mAbの相対フットプリントサイズは以下のとおりである:CS−D7 > CS−D10 > BMV−D4 > BMV−E6。モノクローナル抗体CS−D7は最大の「フットプリント」(それが結合一次抗体である場合、最高比率のmRUAb/RUAb)を有していた。実施例3に記載されている結合研究とは対照的に、mAb BMV−D4およびmAb BMV−D6を使用した場合には、抗体濃度を有意に増加させ、結合を観察した。
【実施例5】
【0164】
追加的なエピトープ・フットプリント法
CAT scFvおよびmAbのサブセットに関して、BIACoreを用いて、追加的なエピトープ・フットプリント研究を行った。これらの研究においては、群1および群2結合競合は実施例2におけるものと同じであった。しかし、CS−D7およびCS−E7はmAb 1G3と競合することが判明した(群3)。
【0165】
特に示さない限り、BIACore 2000でエピトープ重複に関して抗体をアッセイし、すべての試薬はBIACore(Piscataway,NJ)から供給された。各実験において、フローセルをEDC/NHS(NHS,N−ヒドロキシスクシンイミド;EDC,(N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド))混合物で活性化し、これらの活性化表面上に酢酸ナトリウム(pH5.0)中の種々のモノクローナル抗体を注入し、ついで該表面を1.0M エタノールアミン−HCl(pH8.5)でブロッキングした。各実験サイクルにおいて、150μLのORF0657tを、共有的に固定化されたモノクローナル抗体上に10μL/分で注入した。ついで、120μLの別のモノクローナル抗体を該コンジュゲート上に10μL/分で注入した。該実験の全体にわたって、表面プラズモン共鳴データを得、保存した。30秒の接触時間で60μL/分で流動する20mM HClの単一注入で再生を行った。すべての実験工程は25℃の制御温度下で行った。後続の分析は、Maltlabプラットフォーム(7.2.0.232 R2006a,Mathworks Inc.,Natick,MA)上で実行する内部で開発されたソフトウェアを使用して行った。
【0166】
実施例2で示したとおり、競合的Luminexアッセイにおいては、mAb CS−D7はmAb 1G3と競合しない。該競合的Luminexおよび連続的BIACoreアッセイは、この不一致を可能にする相違を有する。第1に、ビーズに基づく該競合的Luminexアッセイは1つの抗体を別の抗体で置換させ、一方、Biacore 2000上の表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにおいては、1つの抗体が共有的(不可逆的)に結合している。第2に、該競合アッセイは、該抗体の1つに特異的な標識を使用し、一方、SPRアッセイは標識を使用せず、該表面上の物質の量のみに感受性である。該競合アッセイにおいては、予め結合している低アフィニティ抗体が、標識された高アフィニティ抗体により置換されて、無エピトープ重複の偽結果が生じうるであろう。いずれのアッセイにおいても、両方の抗体が干渉無しに結合する場合には、重複は存在しない。しかし、逆の場合、エピトープが異なりうる場合には、立体障害が見掛け上のエピトープ重複を引き起こしうるであろう。結合工程が連続的であり同時でない場合、どちらのアッセイにおいてもこの効果が増強されうる。
【0167】
実施例3および4における実験と実施例5における実験との相違は、実験3および4においては、ORF0657nがまず、13C7 mAbで捕捉され、ついで、もう1つのペアの抗体が、それらがORF0657nに結合しうるかどうかを調べるために連続的に流される点にある。これらの抗体のいずれかがmAb 13C7とエピトープを共有する場合には、それはORF0657nに結合できない。したがって、それは、有効に、mAb 13C7、「一次抗体」および「二次抗体」の間の三者比較となる。これに対して、実施例5は二者比較である。
【実施例6】
【0168】
mAb CS−D7エピトープマッピング
ORF0657tの直鎖状配列の化学的切断、およびどの断片がmAb CS−D7に結合するのかの決定により、mAb CS−D7標的領域のエピトープマッピングを行った。ORF0657tをCNBrで2時間にわたって化学的に切断した。得られた切断産物をSDS PAGEにより分析した。SDS PAGE分析は、約47、44、37、35、32、26、16、13および10kDaの分子量を有する10個のバンドを示した。mAb CS−D7でのウエスタンブロット分析は、47、44、37、35および32kDaのバンドのみがmAb CS−D7により認識されることを明らかに示した。mAb CS−D7により認識される短い配列の非存在は、mAb CS−D7がORF0657nの直鎖状配列を認識しないことを示している。
【0169】
該ウエスタンブロットバンドを該SDS PAGEゲルから切り出し、ゲル内消化を行った。タンデム質量分析により特定された得られたペプチドは、ORF0657n内の対応配列に一致した。結果を表8に示す。
【0170】
【表8】

【0171】
表8に示されているORF0657nは以下に基づくものである:ゲル内消化において特定されたペプチド、タンデム質量スペクトルにより特定されたC末端メチオニン残基、CNBr消化の全断片はメチオニン切断部位で始まり終わるという仮定、およびSDS PAGEゲル内のバンドの見掛け分子量。ウエスタンブロット分析においてmAb CS−D7により特定可能であったORF0657tの最小内部断片はアミノ酸42−342であった。
【実施例7】
【0172】
mAb CS−D7エピトープ切断
mAb CS−D7への結合のための、ORF0657tの、より高い分子量の断片の要件を、エピトープ切断により確認した。詳細に説明すると、該エピトープ切断実験のそれぞれに関して、臭化シアン活性化セファロース(Amersham cat no 17 0430 01)への化学的架橋により、mAb CS−D7を固定化した。ついで元のORF0657tを該固定化抗体に結合させ、リン酸緩衝食塩水での十分な洗浄により未結合ORF0657tを洗い落とした。該結合ORF0657tにトリプシンを加えた。インキュベーション中に該プロテアーゼにより切り出されたペプチドを十分に洗い落とし、mAb CS−D7に特異的に結合したORF0657t断片をSDSローディングバッファーで遊離させた。
【0173】
mAb CS−D7に特異的に結合した断片をSDS PAGEにより分析した。該エピトープ切断実験は、該SDS PAGE分析において約48、23および19.5kDaの分子量を有する3つのバンドを示した。該SDS PAGEゲルから全バンドを切り出し、ゲル内消化を行い、該バンドに対応するORF0657nのペプチドをタンデム質量分析により特定した(表9)。タンデム質量分析により特定された各ORF0657nペプチドの計算分子量は、SDS PAGEにより特定された対応バンドの分子量より小さい(表9)(該実験計画の結果である)。したがって、この実験におけるmAb CS−D7に結合した断片は、実際には、質量分析により特定されたものより大きなORF0657nポリペプチド領域にわたっている可能性がある。例えば、バンド3は、ORF0657nのアミノ酸117−224に対応するものとして質量分析により特定され、12.5kDaの計算分子量を有する。それは、SDS−PAGEによる特定では、19.5kDaの分子量を有する。約7kDa(計算分子量とSDS PAGE特定分子量との差)に対応するアミノ酸領域が該質量分析特定ペプチドのNおよびC末端部分の両方に付加されるとすると、ORF0657nのアミノ酸約42−285に対応する断片が生じるであろう。この場合、該特定断片のNおよびC末端部分の両方に7kDaの領域が付加されるため、mAb CS−D7結合を達成するのに必要なORF0657nの最小部分はアミノ酸42−285内の領域に対応する可能性がある。アミノ酸42−254に対応する断片はmAb CS−D7に結合しないことを実施例6の化学的切断実験が示しているため、アミノ酸254−285に対応する領域またはその一部が、適切な抗体結合に重要である可能性がある。
【0174】
【表9】

【実施例8】
【0175】
アフィニティ測定
scFv CS−D7および完全長IgG CS−D7の表面プラズモン共鳴(SPR)評価を、Biacoreを用いて行った。該結合ドメインと該抗原との間の1:1相互作用を測定するために、抗体フラグメントを分析するのか又は完全長IgGを分析するのかに応じて、Biacoreの実験設定を変更した。IgGの測定の場合には、該IgGをリガンドとして該表面に捕捉させ、ORF0657tをアナライトとして使用した。抗体フラグメントの分析の場合には、0657tをリガンドとして該表面に結合させ、該抗体フラグメントをアナライトとして使用した。それらの2つの方法の比較は同様の結果を示した(表10)。それぞれに関して、2つの独立した実験から標準偏差を導き出した。
【0176】
【表10】

【実施例9】
【0177】
留置カテーテルモデル
ラットにおける留置カテーテルモデル実施における効力に関して、モノクローナル抗体を試験した。頚静脈内に外科的に移植され縫合により適所に保持され該マウスの背側中央線上の出口から出る留置カテーテル(PE50シリコーンゴム)を有するSprague Dawleyラットを購入した。実験開始前の>7日間、該ラットを収容した。スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)による定着からの留置カテーテルの抗体防御を試験するために、チャレンジの1時間前に0〜4mgのmAbをラットに注射(ip)した。動物を尾静脈から4×10 CFUでチャレンジした。24時間後、動物を犠死させ、無菌技術を用いてカテーテルを取り出した。定着の評価のために、カテーテル(外部口を伴うカテーテル全体を取り出した)をマンニトール塩寒天またはTSA(Teknova)上に配置した。プレートを37℃で24〜48時間培養した。コロニー成長のいずれかの徴候を培養陽性として評価した。5つの別々の実験の結果を表11および12に示す。表11における、4mg用量のmAb CS−D7を4mg用量のmAb 20C2HA(イソタイプ対照)と比較するp値は、<0.0001である。表11における、4mg用量のmAb CS−D7をPBS対照と比較するp値は、<0.0001である。
【0178】
【表11】

【0179】
【表12】

【0180】
実験5(表12)において調べたカニューレ挿入ラットに、チャレンジの1時間前に、4mgのモノクローナル抗体(CS−D7またはイソタイプ対照)またはPBSのみを注射(ip)した。ついでそれらを1〜2×10 CFUのスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)株Beckerでチャレンジした。示されている時点で全てのラットから採血した。最終時点(32時間)において、採血し、動物を犠死させ、該カテーテルを取り出した。TSAプレート上に50μLを広げ、一晩培養することにより、血液を細菌に関して評価した。マンニトール塩プレート上で一晩プレーティングすることにより、該カテーテルをスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に関して評価した。図6に示すとおり、mAb CS−D7の注射により血液CFUの減少が示された。
【実施例10】
【0181】
エクスビボモデル
受動防御の方法を用いて、モノクローナル抗体を評価した。腹腔内(ip)経路による致死的注射の前に、細菌をエクスビボでmAbで前オプソニン化した(エクスビボ法)。6匹のBalb/cマウスに十分な細菌の量(6×LD100)を、穏やかに振とうしながら、800μgのIgGと共に4℃で1時間インキュベートした。ついで細菌をペレット化し、未結合mAbを除去した。抗体オプソニン化細菌を2.4mLのPBSに再懸濁させ、0.4mL(1×LD100)を5匹のマウスのそれぞれに注射した。同等のCFUが全群のマウスに与えられたこと、および該mAbが該細菌を凝集していなかったことを保証するために、チャレンジ後、TSA上にプレーティングすることにより、各接種物を定量した。チャレンジ後の3日間、生存をモニターした。この方法が有効となるためには該標的抗原が該細菌の表面上に存在しなければならないため、オプソニン化の前に該細菌上でORF0657nが発現されることが保証されるよう留意した。該チャレンジ株はスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)RN4220であり、これを低鉄培地RPMI内で2継代した。各マウスに注射されたオプソニン化細菌の用量は1〜2×10 CFU/マウスであった。結果を表13に示す。
【0182】
【表13】

【実施例11】
【0183】
オプソニン貪食アッセイ
抗体のオプソニン貪食能を評価するために、オプソニン貪食活性(OPA)アッセイを開発した。該アッセイは、顆粒球エフェクター細胞によるこれらの細菌の貪食のレベルの増加をもたらす、細菌表面への補体(C’)の結合および固定をもたらす抗体の能力を測定する。
【0184】
ORF0657nは、ヘム/Feの獲得に関与していると思われるスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)の表面上の鉄調節タンパク質である。このアッセイにおいて使用するスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)は、プロテインAを産生しない株である。そのような株の一例はスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)SH1000である。このアッセイでは、ORF0657nの発現を増強するために、該株を鉄枯渇させる。また、この株はプロテインAの産生能を欠く。プロテインAは任意のIgGのFc部分に結合することが可能であり、この非特異的結合性抗体の存在はOPA反応を妨げうるであろう。
【0185】
HL60細胞を、より顆粒球性の表現型への該細胞の分化を誘導するために、ジメチルホルムアミド(DMF)に5〜6日間さらした。つぎに2% C’−充足ノトバイオートブタ血清を該抗体結合細胞に加えた。最後に、該抗体およびC’曝露細胞を次いで、蛍光性化合物5’,6’−FAM−SEで標識した。
【0186】
オプソニン化蛍光標識細菌および未標識HL60 DMF細胞のインキュベーションの後、フローサイトメトリーにより、標識細菌を含有するHL60 DMF細胞の比率を測定することにより、貪食のレベルを決定した。飲み込まれた細菌を含有するHL60細胞の比率は、該抗体により誘導されたオプソニン化の量に比例する。ORF0657nに対するマウスおよびヒトの両方のmAbをこのアッセイにおいて試験した。結果を図4および5に示す。
【0187】
ORF0657n特異的mAbは、このアッセイにおいて、力価測定可能な活性を示すことが可能であった。マウスmAb 2H2.BE11はマウスイソタイプ対照mAb,6G6.A8より大きな活性を有していた。ヒトmAb CS−D7およびmAb CS−D10も、それらのIgG1イソタイプ対照より高いオプソニン活性を有していた。最高レベルの貪食をもたらすのに必要なmAbの量はマウスmAb 2H2.BE11に関する0.5μgからヒトmAbに関する0.06〜0.25μgまでの範囲であった。ヒトAb CS−D7は、最高レベルの貪食をもたらすのに0.06μgを要したに過ぎず、これに対して、マウスmAb 2H2.BE11は0.5μgを要した。
【実施例12】
【0188】
追加的配列
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)ORF0657n配列を示す配列番号47は以下のとおりである。
【0189】
【化1】


【0190】
ヒトラムダ配列を示す配列番号48は以下のとおりである。
【0191】
【化2】

【実施例13】
【0192】
mAb CS−D7の治療投与
カニューレ挿入ラットを尾静脈から1〜2×10 CFUのスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)でチャレンジした。1時間後、4mgのモノクローナル抗体(mAb CS−D7またはイソタイプ対照)またはPBSのみをラットに注射(ip)した。チャレンジの24時間後、該ラットを犠死させ、該カテーテルを取り出した。マンニトール塩プレート上で一晩プレーティングすることにより、該カテーテルをスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に関して評価した。4つの異なる実験の結果を表14に示す。
【0193】
【表14】

【実施例14】
【0194】
組合せ療法−バンコマイシンおよびmAb CS−D7
2〜4×10 CFUのスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)Beckerでのivチャレンジの1時間(1H)前に、カニューレ挿入ラットにバンコマイシン(20mpk)を投与(sub.cu.)した。チャレンジの1時間後、6mg/ラットのmAb CS−D6、イソタイプ対照mAb 20C2HAまたはPBSのいずれかを該ラットに注射した。チャレンジの24時間後、該動物を犠死させ、頚静脈カテーテルを回収し、カテーテル上の細菌負荷に関して評価した。選択的ブロス培地内への配置およびピッコロ(Piccolo)インキュベーション系上での増殖により、カテーテルの評価を行った。該実験カテーテル上のCFUの数を計算するために、同一条件下のスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)増殖の標準曲線に対して増殖を比較した。第1の実験においては(表15)、該系を試験するために少数の動物を使用した。第2の実験においては(表16)、多数のラットを使用した。どちらの場合も、mAb CS−D7の存在下においては、イソタイプ対照mAbの存在下と比べて、バンコマイシンの活性の有意な増強が示された。これは、mAb CS−D7が、バンコマイシンのみの場合と比べて細菌消失を増強しうることを示している。患者が手術または他の侵襲的方法を受け経験的または予防的抗生物質投与を受ける臨床状況を模擬するように、このモデルを設計した。該モデルにおいては、手術中の感染に対する補助的mAb治療を模擬するよう、細菌曝露後に該mAbを注射した。これらの非常に厳密な条件下、該mAbは有益な効果を示した。
【0195】
【表15】

【0196】
他の実施形態も以下の特許請求の範囲の範囲内である。いくつかの実施形態が示され記載されているが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく種々の修飾が施されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1可変領域および第2可変領域(該第1および第2可変領域はCS−D7標的領域に結合する)を含んでなる単離された抗原結合性タンパク質。
【請求項2】
該第1可変領域が、
配列番号46または配列番号46と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第1 V CDR、
配列番号36、配列番号38、配列番号39、配列番号41、配列番号43もしくは配列番号44または配列番号36、38、39、41、43もしくは44と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第2 V CDR、
配列番号37、配列番号42もしくは配列番号45または配列番号37、42もしくは45と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第3 V CDR
よりなる群から選ばれる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む重鎖可変(V)領域である、請求項1記載の結合性タンパク質。
【請求項3】
該V領域が該第1 V CDR、該第2 V CDRおよび該第3 V CDRを含む、請求項2記載の結合性タンパク質。
【請求項4】
該第1、第2および第3 V CDRが、それぞれ、
a)配列番号35、配列番号36および配列番号37;
b)配列番号35、配列番号38および配列番号37;
c)配列番号35、配列番号39および配列番号37;
d)配列番号40、配列番号41および配列番号42;
e)配列番号40、配列番号43および配列番号45;ならびに
f)配列番号40、配列番号44および配列番号42
よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む、請求項3記載の結合性タンパク質。
【請求項5】
該第2可変領域が、
配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29もしくは配列番号32または配列番号17、20、23、26、29もしくは32と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第1 V CDR、
配列番号18、配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30もしくは配列番号33または配列番号18、21、24、27、30もしくは33と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第2 V CDR、および
配列番号19、配列番号22、配列番号25、配列番号28、配列番号31もしくは配列番号34または配列番号19、22、25、28、31もしくは34と1アミノ酸だけ異なる配列を含む第3 V CDR
よりなる群から選ばれる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む軽鎖可変(V)領域である、請求項1〜4のいずれか1項記載の結合性タンパク質。
【請求項6】
該V領域が該第1 V CDR、該第2 V CDRおよび該第3 V CDRを含む、請求項5記載の結合性タンパク質。
【請求項7】
該第1、第2および第3 V CDRが、それぞれ、
a)配列番号17、配列番号18および配列番号19;
b)配列番号20、配列番号21および配列番号22;
c)配列番号23、配列番号24および配列番号25;
d)配列番号26、配列番号27および配列番号28;
e)配列番号29、配列番号30および配列番号31;ならびに
f)配列番号32、配列番号33および配列番号34
よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む、請求項6記載の結合性タンパク質。
【請求項8】
該結合性タンパク質が抗体である、請求項1〜7のいずれか1項記載の結合性タンパク質。
【請求項9】
該第1 V CDR、該第2 V CDRおよび該第3 V CDRが、それぞれ、配列番号35、配列番号36および配列番号37を含み、該第1 V CDR、該第2 V CDRおよび該第3 V CDRが、それぞれ、配列番号17、配列番号18および配列番号19を含む、請求項8記載の結合性タンパク質。
【請求項10】
該V領域が、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14および配列番号16のアミノ酸1−126よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む、請求項8記載の結合性タンパク質。
【請求項11】
該V領域が、配列番号1、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9、配列番号11、配列番号13および配列番号15のアミノ酸1−108よりなる群から選ばれるアミノ酸配列を含む、請求項10記載の結合性タンパク質。
【請求項12】
該抗体が、
a)配列番号1のアミノ酸1−108を含むV領域、および配列番号2のアミノ酸1−126を含むV領域;
b)配列番号3を含むV領域、および配列番号4を含むV領域;
c)配列番号5を含むV領域、および配列番号6を含むV領域;
d)配列番号7を含むV領域、および配列番号8を含むV領域;
e)配列番号9を含むV領域、および配列番号10を含むV領域;
f)配列番号11を含むV領域、および配列番号12を含むV領域;
g)配列番号13を含むV領域、および配列番号14を含むV領域;あるいは
h)配列番号15を含むV領域、および配列番号16を含むV領域
のいずれかを含む、請求項8記載の結合性タンパク質。
【請求項13】
該V領域が配列番号2のアミノ酸1−126を含み、該V領域が配列番号1のアミノ酸1−108を含む、請求項12記載の結合性タンパク質。
【請求項14】
該抗体が、IgG、IgG、IgGまたはIgGサブタイプからのヒンジ、CH、CHおよびCH領域を含む重鎖、ならびに該V領域、およびヒトカッパCまたはヒトラムダCのいずれかを含む軽鎖を含む、請求項8〜13のいずれか1項記載の結合性タンパク質。
【請求項15】
該結合性タンパク質が、配列番号1を含む軽鎖と、配列番号2を含む重鎖とを含む抗体である、請求項1記載の結合性タンパク質。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項記載の抗原結合性タンパク質重鎖可変(V)領域または抗原結合性タンパク質軽鎖可変(V)領域をコードする少なくとも1つの組換え遺伝子を含んでなる核酸。
【請求項17】
該核酸が2つの組換え遺伝子を含み、第1の組換え遺伝子が抗原結合性タンパク質V領域をコードし、第2の組換え遺伝子が抗原結合性タンパク質V領域をコードする、請求項16記載の核酸。
【請求項18】
請求項16または請求項17記載の組換え核酸を含んでなる組換え細胞。
【請求項19】
抗体可変領域を含むタンパク質の製造方法であって、
a)該タンパク質が発現される条件下、請求項18記載の組換え細胞を増殖させ、
b)該タンパク質を精製する工程を含んでなる製造方法。
【請求項20】
請求項1〜15のいずれか1項記載の結合性タンパク質および医薬上許容される担体を含んでなる医薬組成物。
【請求項21】
請求項1〜15のいずれか1項記載の結合性タンパク質の有効量を患者に投与する工程を含んでなる、患者におけるスタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染に対する防御または治療方法。
【請求項22】
該患者がヒトであり、手術または異物インプラントと共に該抗原結合性タンパク質を投与する、請求項23記載の方法。
【請求項23】
該患者が、スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)に感染したヒトである、請求項21記載の方法。
【請求項24】
スタヒロコッカス・アウレウス(S.aureus)感染を治療するための医薬の製造における、請求項1〜15のいずれか1項記載の抗原結合性タンパク質の使用。
【請求項25】
配列番号47のアミノ酸42−342に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、350アミノ酸長以下であるポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−528607(P2010−528607A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510333(P2010−510333)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/006791
【国際公開番号】WO2009/029132
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(390023526)メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション (924)
【Fターム(参考)】