説明

スタンプ耐火物

【課題】 炉熱で組織が焼結を開始する前の段階においても充分な強度を発揮することができるスタンプ耐火物を提供する。
【解決手段】 本発明のスタンプ耐火物は、耐火材料を主体とした粉体組成物100質量%に、結晶水を30質量%以上含む含水塩を外掛けで2〜12質量%、非水系液状物を外掛けで1〜10質量%それぞれ加えてなる。含水塩には、例えば燐酸3ナトリウム12水塩を用い、非水系液状物には、例えばポリブテンを用いる。非水系液状物が、含水塩の結合作用を助長する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、各種窯炉の耐火ライニングに使用することができるスタンプ耐火物に関する。
【0002】
本明細書において、スタンプ耐火物とは、付き固めの方法によって施工される不定形耐火物をいい、ラミング耐火物、パッチング耐火物、及びプラスチック耐火物と称されるものを含みうる概念とする。
【背景技術】
【0003】
スタンプ耐火物には、粉体組成物に非水系液状物を加えてなるウエット系スタンプ耐火物と、粉体組成物のみで構成されるドライ系スタンプ耐火物とがある。
【0004】
特許文献1は、マグネシアクリンカーよりなる粉体組成物100質量%に、非水系液状物である樹脂溶液を外掛けで5質量%、ピッチを外掛けで1〜10質量%それぞれ加えてなるウエット系スタンプ耐火物を開示している。
【0005】
特許文献2は、マグネシアクリンカー及びドロマイトクリンカーよりなる粉体組成物100質量%に、非水系液状物であるポリブテンを外掛けで3.5質量%、ピッチを外掛けで2質量%それぞれ加えてなるウエット系スタンプ耐火物を開示している。
【0006】
特許文献3は、ドロマイトクリンカーよりなる粉体組成物100質量%に、非水系液状物であるポリグリセリンを外掛けで5質量%、ピッチを外掛けで2質量%それぞれ加えてなるウエット系スタンプ耐火物を開示している。
【0007】
特許文献4は、マグネシアクリンカー及びドロマイトクリンカーよりなる粉体組成物100質量%に、結晶水を含む酸性燐酸塩を外掛けで0.5〜5質量%加えてなるドライ系スタンプ耐火物を開示している。
【特許文献1】特公昭56−16118号公報
【特許文献2】特公昭53−9248号公報
【特許文献3】特公昭53−43163号公報
【特許文献4】特公昭59−6838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スタンプ耐火物は、キャスタブル耐火物等の他の不定形耐火物と異なり、施工後は乾燥工程を経ることなく直ちに被施工物の稼動環境に晒される。具体的には、窯炉内壁にスタンプ耐火物を施工した後は、スタンプ耐火物の乾燥及び焼結を待つことなく、窯炉の稼動を再開する。このため、スタンプ耐火物は、施工後、被施工物の熱(例えば、炉熱)で焼結するまでの間(以下、稼動初期という。)においても、充分な強度を有していることが必要である。
【0009】
特許文献1〜3のスタンプ耐火物は、この点、粉体組成物に加えた液状物が稼動初期に揮発するため、液状物が揮発する際の圧力でスタンプ耐火物の組織が脆弱化し易い。即ち、ウエット系スタンプ耐火物において液状物は、施工時の発塵を抑え、付き固め施工による成形性を高める効果をもつ反面、稼動初期に施工体の強度低下を招き易い欠点をもつ。
【0010】
特許文献4のスタンプ耐火物は、含水塩が稼動初期に結晶水を媒体として拡散し、強度を発現する。また、このスタンプ耐火物はドライ系であり、液状物を含まないため、液状物の揮発に起因する強度低下の問題も生じない。従って、稼動初期の強度をある程度確保できるが、より一層稼動初期の強度を高めうるスタンプ耐火物が望まれている。
【0011】
本発明の目的は、稼動初期の強度を改善したスタンプ耐火物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、非水系液状物を含水塩と共に用いると、予想外のことに、非水系液状物の揮発に起因する強度低下を生じることなく、含水塩による稼動初期の強度向上の効果が飛躍的に高められうることを見出した。従来、非水系液状物を含水塩と組み合わせて使用した例は知られていない。
【0013】
本発明の一観点によれば、耐火材料を主体とした粉体組成物100質量%に、結晶水を30質量%以上含む含水塩を外掛けで2〜12質量%、非水系液状物を外掛けで1〜10質量%それぞれ加えてなるスタンプ耐火物が提供される。
【発明の効果】
【0014】
稼動初期、非水系液状物の揮発に先立って含水塩が結晶水を放出する。この結晶水に伴って含水塩が施工体内に拡散し、結合作用を発揮する。これにより、施工体の強度が高められる。非水系液状物は、含水塩によるこの強度向上の効果を助長する。
【0015】
このメカニズムは次の如くと推定される。即ち、本スタンプ耐火物は、適量の非水系液状物を含むため、付き固めた際に組織がよく締まる。組織がよく締まった状態で、含水塩が結合作用を発揮することにより、強度向上の効果が高められる。また、非水系液状物の存在によって含水塩が施工体内に拡散しやすくなり、施工体内に強度のむらができにくくなると考えられる。
【0016】
含水塩と非水系液状物とにより施工体の強度が高められた後に、非水系液状物が揮発するため、その揮発の際の圧力で施工体の強度が損なわれることを防止できる。このため、稼動初期の強度を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
実施形態によるスタンプ耐火物は、粉体組成物、含水塩、及び非水系液状物よりなる。
【0018】
粉体組成物は、耐火材料を主体として構成される。耐火材料には、例えば、マグネシア質原料やドロマイト質原料等の塩基性原料の他、シリカ質原料(但し、シリカフラワーは除く)、アルミナ質原料、ジルコニア質原料、炭化珪素質原料、及び粘土質原料から選択される一種以上を用いることができる。
【0019】
粉体組成物に占める炭素質原料の割合は、5質量%未満に抑える。ここで炭素質原料としては、例えば、ピッチ、コークス、黒鉛、カーボンブラック等が該当する。これにより、含水塩に酸化物を用いた場合であっても、それが炭素質原料によって還元されることを防止でき、含水塩の作用効果をいかんなく発揮することができる。粉体組成物に占める炭素質原料の割合は、3質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0020】
粉体組成物は、耐火材料のみで構成してもよいが、耐火材料に加え、フリットやシリカフラワー等の焼結助剤、Al粉等の金属粉、有機又は無機の繊維といった添加剤を含んでもよい。
【0021】
含水塩は、非水系液状物の沸点よりも低い温度で結晶水を放出する性質をもつ。含水塩には、結晶水を30質量%以上含むものを用いる。結晶水の含有量が30質量%未満であると、稼動初期に充分に結晶水を放出できず、施工体内にむらなく行き渡ることができないため、施工体の強度を改善する効果が不充分となる。
【0022】
含水塩のうち、結晶水を30質量%以上含むものとしては、例えば、燐酸1ナトリウム(NaHPO・2HO)、燐酸2ナトリウム(NaHPO・12〜2HO)、燐酸3ナトリウム(オルソ燐酸ナトリウム、NaPO・12HO)、及びピロ燐酸ナトリウム(Na・10HO)、LiPO・12HO、Al(P・10HO等の含水燐酸塩、メタ珪酸ナトリウム(NaO・SiO・xHO)、NaSiO・9HO等の含水珪酸塩、NaSO・10HO、MgSO・7HO、Al(SO・18HO、KAl(SO・12HO等の含水硫酸塩、NaCO・10HO等の含水炭酸塩から選択される一種以上を用いることができる。
【0023】
これらの中でも、47〜75℃の低温域で結晶水を放出し結合作用を発揮できるという点で、含水燐酸塩又は含水珪酸塩が好ましい。
【0024】
含水塩の添加量は、粉体組成物100質量%に対する外掛けで2〜12質量%とする。2質量%未満であると、強度改善の効果が得られない。12質量%より多いと、結晶水の放出量が多くなりすぎ、却って施工体の強度及び保形性が低下する。また、耐火性粉体に塩基性材料を用いた場合には、それが結晶水によって消化され易くなる。
【0025】
非水系液状物としては、残炭率が3質量%未満のものを用いる。これにより、含水塩に酸化物を用いた場合であっても、それが炭素によって還元されることを防止でき、含水塩の作用効果をいかんなく発揮することができる。
【0026】
本明細書において、残炭率とは、被測定物(非水系液状物)を加熱し、実質的に全量が炭化されたときの残分を質量百分率で表したものであり、具体的には、JISK2425に規定する固定炭素分定量方法に従って測定される固定炭素分[質量%]のことをいう。
【0027】
非水系液状物のうち、残炭率が3質量%未満のものとしては、例えば、ポリブテンやポリグリセリン等の石油系ポリマー、フェノール樹脂溶液等の樹脂溶液、グリス等の油脂、グリセリンやエチレングリコール等の多価アルコール、灯油やマシン油等の石油系油類から選択される一種以上を用いることができる。
【0028】
非水系液状物の添加量は、粉体組成物100質量%に対する外掛けで1〜10質量%とする。1質量%未満であると、施工体の組織を緻密化できないためか、含水塩による強度向上の効果を助長できない。10質量%より多いと、却って施工体の組織が疎となり、また非水系液状物の揮発による圧力で施工体の強度が低下する。
【0029】
本実施形態によるスタンプ耐火物の作用は次の通りである。
【0030】
まず、本スタンプ耐火物は、付き固めの方法によって、窯炉内壁の対象箇所に施工される。付き固め施工には、例えばランマーや木槌が用いられる。本スタンプ耐火物は、適量の非水系液状物を含むため、ドライ系スタンプ耐火物に比べると、付き固めた際の成形性が良好で、組織がよく締まる。
【0031】
次に、本スタンプ耐火物の施工後、窯炉の稼動を再開する。稼動初期、非水系液状物の揮発に先立って含水塩が結晶水を放出する。この結晶水に伴って含水塩が本スタンプ耐火物の施工体内に拡散し、結合作用を発揮する。これにより、施工体の強度が高められる。非水系液状物は、含水塩によるこの強度向上の効果を助長する。
【0032】
このメカニズムは次の如くと推定される。即ち、本スタンプ耐火物は、適量の非水系液状物を含むため、付き固めた際に組織がよく締まる。組織がよく締まった状態で、含水塩が結合作用を発揮するため、強度向上の効果が高められる。また、非水系液状物の存在によって含水塩が施工体内に拡散しやすくなり、施工体内に強度むらができにくくなると考えられる。但し、以上はあくまでもメカニズムの推定であり、本発明の解釈を拘束するものではない。
【0033】
含水塩と非水系液状物とにより施工体の強度が高められた後に、非水系液状物が揮発するため、その揮発の際の圧力で施工体の強度が損なわれることはない。このため、本スタンプ耐火物は、稼動初期の強度を改善することができる。
【0034】
粉体組成物に占める炭素質原料の割合を5質量%未満に抑え、また非水系液状物として残炭率が3質量%未満のものを用いることにより、含水塩が炭素によって還元されることを防止できるため、上述した作用効果をいっそう確実なものとすることができる。
【実施例】
【0035】
表1に、本発明の実施例及び比較例によるスタンプ耐火物の構成と評価結果とを示す。
【0036】
表1で、非水系液状物には、残炭率0質量%のポリブテンを用いた。また、含水塩には、結晶水の含有量が60質量%の燐酸3ナトリウム12水塩を用いた。
【0037】
曲げ強さ指数は、次のようにして求めた。各例のスタンプ耐火物を、40mm×40mm×160mmの形状に約7MPaで付き固め成形した後、T℃に1時間保持した試料の曲げ強さをJISR2575に従い測定する。各例につき、T=100、400、及び800である場合の曲げ強さをそれぞれ測定し、各測定値を実施例3の100℃における曲げ強さで割って100倍した値が曲げ強さ指数である。曲げ強さ指数は、スタンプ耐火物の稼動初期の強度を表す指標である。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1〜8のスタンプ耐火物は、いずれも本発明の規定を満たしており、組織がまだ焼結していない800℃以下の温度域において、比較例1〜4に比べて格段に高い曲げ強さ指数を達成した。
【0040】
比較例1のスタンプ耐火物は、実施例3をベースとして、非水系液状物の添加量をゼロにしたもので、非水系液状物による充填性向上の効果が得られず、付き固め成形時に組織の緻密化が図られなかったため、含水塩の結合作用が充分に発揮されず、実施例3に比べると曲げ強さ指数が著しく劣る。
【0041】
比較例2のスタンプ耐火物は、実施例3をベースとして、非水系液状物の添加量を本発明規定の上限値(10質量%)を上回る15質量%に増やしたもので、非水系液状物が多すぎて却って施工体の組織が疎になったため曲げ強さ指数が小さい。また、非水系液状物に用いたポリブテンは約200℃で蒸発を開始するところ、その蒸発の圧力で施工体が多孔質化した影響が出たためか、400℃における曲げ強さ指数が特に小さくなった。
【0042】
比較例3のスタンプ耐火物は、実施例3をベースとして、含水塩の添加量をゼロにしたもので、非水系液状物が蒸発を開始する前の段階で施工体の強度を充分に高めておくことができなかったため、非水系液状物の蒸発に起因する強度低下が生じ、これが400℃における曲げ強さ指数に反映されている。
【0043】
比較例4のスタンプ耐火物は、実施例5をベースとして、含水塩の添加量を本発明規定の上限値(12質量%)を上回る15質量%に増やしたもので、100℃未満の温度域で含水塩が放出する結晶水の量が多すぎ、施工体の保形性が低下したためか、特に100℃における曲げ強さ指数が小さい。
【0044】
図1は、表1の実施例3、6、及び7と、比較例1及び3との曲げ強さ指数をプロットしたグラフである。これらの各例については、さらに、600℃、1000℃、及び1200℃における曲げ強さ指数も測定し、その測定結果も併せて図1にプロットした。
【0045】
スタンプ耐火物の組織は、1200℃付近で焼結を開始するため、この温度ではいずれの例のスタンプ耐火物も曲げ強さ指数が向上している。但し、既述のようにスタンプ耐火物においては、焼結前にいかに強度を確保できるかが重要な課題となる。
【0046】
この点、実施例3、6、及び7(折線A、B、及びC)は、焼結前の温度、即ち100〜1200℃の温度域で、比較例1及び3(折線D及びE)に比べて飛躍的に大きな曲げ強さ指数を達成している。
【0047】
折線Bが示すように、実施例6は、600℃以上の温度域で、折線Aが示す実施例3よりも大きな曲げ強さ指数を達成している。実施例6は、実施例3をベースとして、これにフリットを加えたものである。図1で、実施例6が600℃以上の温度域で実施例3よりも大きな曲げ強さ指数を達成したのは、600℃付近でフリットが溶融し、焼結を促進したことによる。
【0048】
折線Cが示すように、実施例7は、1000℃以上の温度域で、折線Aが示す実施例3よりも大きな曲げ強さ指数を達成している。実施例7は、実施例3をベースとして、これにシリカフラワーを加えたものである。図1で、実施例7が1000℃以上の温度域で実施例3よりも大きな曲げ強さ指数を達成したのは、1000℃付近でシリカフラワーが溶融し、焼結を促進したことによる。
【0049】
これらの結果から、粉体組成物に焼結助剤としてフリット及びシリカフラワーの少なくともいずれか一方を含めると、稼動初期の強度を一層高めることができるといえる。焼結助剤の配合量は、耐火性粉体100質量%に占める割合で、4〜12質量%程度が妥当である。
【0050】
折線Dが示すように、比較例1は、折線Aが示す実施例3に比べると、100〜1200℃における曲げ強さ指数が小さい。比較例1は、実施例3をベースとして、非水系液状物の添加量をゼロにしたものである。折線Aを折線Dと比較することにより、非水系液状物が、含水塩による強度向上の効果を助長したことが分かる。
【0051】
折線Eが示すように、比較例3は、折線Aが示す実施例3に比べると、特に400〜800℃における曲げ強さ指数が著しく小さい。比較例3は、実施例3をベースとして、含水塩の添加量をゼロにしたものである。図1で、比較例3の400〜800℃における曲げ強さ指数が著しく小さくなったのは、含水塩を添加しなかったため、非水系液状物の蒸発に起因する強度低下の影響が反映されたことによる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のスタンプ耐火物は、例えば、転炉、取鍋、高炉、タンデイッシュ、混銑炉、電気炉、樋、加熱炉、均熱炉、非鉄金属工業炉、石油工業炉、ガラス工業炉、廃棄物処理炉等の各種窯炉の耐火ライニングに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】スタンプ耐火物の稼動初期における曲げ強さの温度依存性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火材料を主体とした粉体組成物100質量%に、結晶水を30質量%以上含む含水塩を外掛けで2〜12質量%、非水系液状物を外掛けで1〜10質量%それぞれ加えてなるスタンプ耐火物。
【請求項2】
前記含水塩が、含水燐酸塩及び含水珪酸塩の少なくともいずれか一方よりなる請求項1に記載のスタンプ耐火物。
【請求項3】
前記粉体組成物が、フリット及びシリカフラワーの少なくともいずれか一方を含む請求項1又は2に記載のスタンプ耐火物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−215107(P2009−215107A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60606(P2008−60606)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】