説明

スチフニン酸の塩

本発明の対象は、スチフニン酸の塩、その製造方法およびその使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、スチフニン酸の塩、その製造方法およびその使用である。
【0002】
従来、たとえば車両安全システムにおいて使用されている点火剤は、低い分解温度に基づいて、自動車のエンジンルーム内で使用することができないという欠点を有している。自動車のエンジンルームでは、140℃以上の温度に達し、このため300℃を超える点火剤の分解温度が要求される。たとえばカリウムジニトロベンゾフルオロキサネートは、約220℃の分解温度を有しており、従ってこの目的のためには不適切である。
【0003】
本発明の課題は、点火剤として適切であり、かつ従来技術の欠点を克服する物質を提供することであった。別の課題は、300℃を上回る分解温度を有し、重金属を含有せず、たとえば車両安全システム、軍需品およびボルト打ち込み装置のための推進カートリッジのために使用することができる、機械的な点火システムにも電気的な点火システムにも適切な、かつ/またはその製造が簡単な技術的方法により可能である点火剤を提供することであった。
【0004】
本発明によれば前記の課題は意外にも、請求項1、4、11および12に記載されている特徴によって解決される。有利な実施態様は、従属請求項に記載されている。
【0005】
意外なことに、前記課題は、本発明によるスチフニン酸(2,4,6−トリニトロ−1,3−ジヒドロキシベンゼン)のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩(以下ではスチフニン酸塩と呼ぶ)、その製造および本発明による使用により解決されることが判明した。
【0006】
本発明によれば、点火剤としてスチフニン酸カリウム、スチフニン酸カルシウム、ならびにこれらの混合塩であるスチフニン酸カリウム−カルシウムが有利である。本発明によれば、塩基性のスチフニン酸カルシウムならびに塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウムが有利である。
【0007】
本発明による点火剤の製造は、スチフニン酸マグネシウムの水溶液から出発する:
スチフニン酸カリウムを製造する場合には、スチフニン酸マグネシウム溶液から硝酸カリウムの添加により沈殿させる。
【0008】
スチフニン酸カルシウムを製造する場合には、スチフニン酸マグネシウム溶液から硝酸カルシウムの添加により沈殿させる。塩基性のスチフニン酸カルシウムはスチフニン酸カルシウムの懸濁液にアルカリ金属水酸化物を添加することにより形成される。
【0009】
スチフニン酸カリウム−カルシウムを製造する場合には、スチフニン酸カリウム溶液から、化学量論的な量の硝酸カルシウムの添加により沈殿させる。塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウムは、スチフニン酸カリウム−カルシウムの懸濁液に、アルカリ金属水酸化物を添加することにより形成される。
【0010】
これらのスチフニン酸塩は、本発明によれば点火剤として単独で、あるいはまた相互の混合物として、および/または場合により慣用の添加剤、たとえば酸化剤、還元剤、鋭感剤、結合剤、エネルギー量の高い添加剤ならびに燃焼変性剤および加工助剤との混合物として使用することができる。
【0011】
本発明による物質をたとえば点火システムにおける点火剤として使用する場合、本発明によれば添加剤として以下のものを使用することができる:
1.酸化剤(単独で、または混合物として):
アルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアンモニウムの硝酸塩、たとえば硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属またはアンモニウムの過塩素酸塩、アルカリ土類金属または亜鉛の過酸化物、有利には過酸化亜鉛、
2.還元剤(単独で、または混合物として):
アルミニウム、チタン、水素化チタン、ホウ素、水素化ホウ素、ジルコニウム、水素化ジルコニウム、ケイ素、グラファイト、活性炭、カーボンブラック、有利にはチタン、
3.鋭感剤(単独で、または混合物として):
テトラゼン、カリウムジニトロベンゾフロキサネート、ジベンゾジニトロフェノール、
4.結合剤(単独で、または混合物として):
付着物質、セルロースならびにセルロース誘導体、ポリビニルブチラール、ポリニトロポリフェニレン、ポリニトロフェニルエーテル、プレキシガム、ポリ酢酸ビニルおよびコポリマー、有利には付着物質、
6.エネルギー量の高い添加剤(単独で、または混合物として):
ヘキソーゲン、オクトーゲン、ニトロペンタおよびニトロセルロース、
7.燃焼変性剤および加工助剤(単独で、または混合物として):
ニトロセルロースビーズ粉末、アセトニルアセテート、サリチレート、シリケート、シリカゲル、窒化ホウ素、有利にはニトロセルロースビーズ粉末。
【0012】
本発明による物質を添加剤として使用する場合、該物質は重金属を含有していないこと、熱安定性が高いこと、およびスチフニン酸カルシウムおよびスチフニン酸カリウム−カルシウムの場合には、カルシウムの含有率によって優れており、このことは水性系に対する炭酸カルシウムの有利な摩擦学的な特性に基づいて燃焼残留物中の炭酸カルシウムの形成により有利である。本発明によるスチフニン酸塩の分解温度は約335℃である。点火剤は機械的にも電気的にも点火することが可能である。
【0013】
本発明の対象は具体的には以下のとおりである:
点火剤としてのスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、その際、スチフニン酸カリウム、スチフニン酸カルシウムおよびこれらの混合塩であるスチフニン酸カリウム−カルシウム、有利には塩基性のスチフニン酸カルシウムおよび塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウム、
カリウムを10〜15質量%、有利には12〜14質量%と、カルシウムを5〜10質量%、有利には6〜8質量%含有するスチフニン酸カリウム−カルシウム、
カリウムを10〜15質量%、有利には11〜13質量%と、カルシウムを10〜15質量%、有利には11〜13質量%含有する塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウム、
スチフニン酸マグネシウムの水溶液から硝酸カリウムの添加により沈殿させることによるスチフニン酸カリウムの製造方法、
スチフニン酸マグネシウムの水溶液から硝酸カルシウムの添加により沈殿させることによるスチフニン酸カルシウムの製造方法、
スチフニン酸カルシウムの懸濁液に、アルカリ金属水酸化物を添加することによる塩基性のスチフニン酸カルシウムの製造方法、
硝酸カルシウムの添加による、有利には硝酸カルシウムの化学量論的な量の添加によるスチフニン酸カリウム溶液からの沈殿によるスチフニン酸カリウム−カルシウムの製造方法、
スチフニン酸カリウム−カルシウムの懸濁液にアルカリ金属水酸化物を添加することによる塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウムの製造方法、
点火剤としてのスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、および/またはスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の1もしくは複数の混合塩の使用、
点火用バッチの成分として、有利には点火用バッチにおける点火剤としてのスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、および/またはスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の1もしくは複数の混合塩の使用、
車両安全システム、軍需品および/またはボルト打ち込み装置のための推進カートリッジのための点火システムにおけるスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、および/またはスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の1もしくは複数の混合塩の使用、
車両安全システムのための添加システムにおける、有利には自動車のエンジンルームにおいて使用されるシステム中でのスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、および/またはスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の1もしくは複数の混合塩の使用、
電気的に点火される点火システムにおけるスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、および/またはスチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩の1もしくは複数の混合塩の使用。
【0014】
以下では本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない:
例1:スチフニン酸カリウム−カルシウム:
スチフニン酸カリウム溶液から、化学量論的な量の硝酸カルシウムの添加下に製造した塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウムを、原子吸光分析により試験した。以下のカリウム−カルシウムの含有率が検出された:
カリウム:約13質量%、
カルシウム:約7質量%。
【0015】
例2:塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウム:
スチフニン酸カリウム−カルシウムの懸濁液にアルカリ金属水酸化物を添加することにより製造されたスチフニン酸カリウム−カルシウムを、原子吸光分析により試験した。以下のカリウム−カルシウムの含有率が検出された:
カリウム:約11.5質量%、
カルシウム:約12質量%。
【0016】
第1表には、前記物質の分解温度、摩擦感度および衝撃感度が記載されている。摩擦感度および衝撃感度の測定は、材料研究のための連邦施設(BAM)の方法により行い、他方、分解温度の測定は、毎分10℃の加熱速度での熱重量測定法分析装置(Mettler社)を用いて行った。
【0017】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチフニン酸の塩において、該塩が、スチフニン酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩、有利にはスチフニン酸カリウム、スチフニン酸カルシウム、スチフニン酸カリウム−カルシウムの混合塩、特に有利には塩基性のスチフニン酸カルシウムであるか、または塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウムであることを特徴とする、スチフニン酸の塩。
【請求項2】
前記スチフニン酸カリウム−カルシウムが、カリウムを10〜15質量%、有利には12〜14質量%、およびカルシウムを5〜10質量%、有利には6〜8質量%含有していることを特徴とする、請求項1記載のスチフニン酸カリウム−カルシウム。
【請求項3】
前記塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウムが、カリウムを10〜15質量%、有利には11〜13質量%、およびカルシウムを10〜15質量%、有利には11〜13質量%含有していることを特徴とする、請求項1記載の塩基性のスチフニン酸カリウム−カルシウム。
【請求項4】
請求項1記載のスチフニン酸の塩を製造する方法において、スチフニン酸カリウムを製造するために、スチフニン酸マグネシウムの水溶液に硝酸カリウムを添加し、スチフニン酸カルシウムを製造するために、スチフニン酸マグネシウムの水溶液に硝酸カルシウムを添加することを特徴とする、請求項1記載のスチフニン酸の塩を製造する方法。
【請求項5】
請求項1記載の塩基性のスチフニン酸カルシウムを製造する方法において、スチフニン酸カルシウムの懸濁液に、アルカリ金属水酸化物を添加することを特徴とする、請求項1記載の塩基性のスチフニン酸カルシウムを製造する方法。
【請求項6】
請求項1または2記載のスチフニン酸カリウム−カルシウムを製造する方法において、スチフニン酸カリウムの溶液に、硝酸カルシウム、有利には化学量論的な量の硝酸カルシウムを添加することを特徴とする、請求項1または2記載のスチフニン酸カリウム−カルシウムを製造する方法。
【請求項7】
請求項1または3記載の塩基性のスチフニン酸のカリウム−カルシウムを製造する方法において、スチフニン酸カリウム−カルシウムの懸濁液に、アルカリ金属水酸化物を添加することを特徴とする、請求項1または3記載の塩基性のスチフニン酸のカリウム−カルシウムを製造する方法。
【請求項8】
点火剤としての請求項1から3までのいずれか1項記載のスチフニン酸の1もしくは複数の塩の使用。
【請求項9】
点火用バッチの成分として、有利には点火用バッチ中の点火剤としての、請求項1から3までのいずれか1項記載のスチフニン酸の1もしくは複数の塩の使用。
【請求項10】
車両安全システムのための点火システム、軍需品および/またはボルト打ち込み装置のための推進カートリッジにおける、請求項1から3までのいずれか1項記載のスチフニン酸の1もしくは複数の塩の使用。
【請求項11】
車両安全システムのための点火システムにおける、有利には自動車のエンジンルームにおいて使用されるシステムにおける請求項1から3までのいずれか1項記載のスチフニン酸の1もしくは複数の塩の使用。
【請求項12】
電気的に点火される点火システムにおける請求項1から3までのいずれか1項記載のスチフニン酸の1もしくは複数の塩の使用。

【公表番号】特表2009−519997(P2009−519997A)
【公表日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546415(P2008−546415)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069846
【国際公開番号】WO2007/071649
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(506207886)ルアグ アモテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (5)
【氏名又は名称原語表記】RUAG Ammotec GmbH
【住所又は居所原語表記】Kronacher Strasse 63, D−90765 Fuerth, Germany
【Fターム(参考)】