説明

スチレン系樹脂フィルム

【課題】高速機械加工適性、接着性、外観特性に優れた環境負荷の少ないチスレン系樹脂フィルムを供給すること。
【解決手段】スチレン系樹脂に体積平均粒子径が1〜10μmのフッ素粒子を0.01〜2質量部とその分散剤としてC14〜C24の高級脂肪酸塩及び/又はC14〜C24のヒドロオキシ変性された脂肪酸塩0.01〜1質量部からなり、少なくとも一表面の残留静電気が0〜±10KVであることを特徴とするスチレン系樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低帯電性、透明性、接着性に優れ、封筒窓材をはじめとする各種包装材料、食品包装容器用ラミネート材等に使用されるスチレン系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂フィルムは、透明性、剛性、成形性等に優れていることから封筒用窓材をはじめとし、各種包装材料、食品容器用ラミネート材などに利用されている。
上記用途では、加工適性を向上させる目的で、コロナ放電処理、帯電防止剤等がコーティングされているのが一般的である(例えば、特開平10−119978号公報、特開2001−219939号公報等)。しかし、これらの公知技術を利用したスチレン系樹脂フィルムでは、例えば封筒加工機械においては、コーティング剤が固定ロールに堆積し、それがフィルムに再転写することにより、筋状の外観不良を発生させる等の問題があった。また、ロール状に巻き取られたフィルム製品では、フィルム同士のブロッキングが発生し、この傾向は巻き芯に向かって強くなるため、フィルム末端まで使用できない場合があった。
【0003】
一方、コーティングを施さないスチレン系樹脂フィルム(ポリスチレン系ノンコートフィルム)としては、例えば特開平2−72051号公報では、封筒窓加工工程において摩擦で発生するフイルムダストを減少させる目的で、スチレン系樹脂にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)よりなるフッ素系粒子等を添加した技術が提案されているが、フッ素系粒子には、溶融押出において二次凝集が起り易い性質があり、得られたフィルムでは表面が粗面化するなど、外観上、良好なフィルムを得ることは困難であった。このため、高度な透明性や光沢そして平滑性等、優れた外観特性が要求される各種包装材料用途や食品容器用ラミネート材用途には不十分であった。また、封筒窓加工では、フィルムに帯電した静電気により、フィルムの貼り合わせ位置がずれてしまうと言った問題もあった。
フッ素系粒子以外の粒子を使用した発明としては、定形アルミノシリケートよりなる無機粒子を添加する技術(特開2003−138038号公報)が開示されているが、封筒窓加工における吸引シリンダーとの摩擦傷や給紙工程(単能機)における封筒との摩擦傷が発生してしまうと言った問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−119978号公報
【特許文献2】特開2001−219939号公報
【特許文献3】特開平2−72051号公報
【特許文献4】特開2003−138038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、スチレン系樹脂フィルムにおいて、封筒窓材、各種包装材料、食品容器用ラミネート材などの用途に必要な要求特性を満足するフィルムを提供すること、すなわち、フィルムに帯電防止剤をコーティングしなくても二次加工工程で発生する帯電が少なく、高速加工適性に優れ、且つ、接着性、外観特性にも優れたスチレン系樹脂フィルムを供給することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、スチレン系樹脂に特定の粒子を添加し、且つ、製品の残留静電気レベルを特定の範囲にすることで、その後の二次加工工程で発生する摩擦や剥離による帯電を極めて低いレベルに抑制する効果があることを見出した。また、該粒子と同時に特定の分散剤を添加することで、フッ素系粒子の二次凝集を防止し、スチレン系樹脂の優れた外観特性を維持する効果を見出し、更には特定の熱可塑性エラストマーを添加することにより、接着性が向上する効果を見出したことにより、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
1.スチレン系樹脂とフッ素系粒子と、その分散剤として脂肪酸塩又は/及びヒドロオキシ変性された脂肪酸塩からなり、少なくとも一表面の残留静電気が0〜±10KVであることを特徴とするスチレン系樹脂フィルム。
2.スチレン系樹脂100質量部に対し、フッ素系粒子が0.01〜2質量部添加されたことを特徴とする1.記載のスチレン系樹脂フィルム。
3.フッ素系粒子の体積平均粒子径が1〜10μmであることを特徴とする1.又は2.記載のスチレン系樹脂フィルム。
4.分散剤がC14〜C24の高級脂肪酸塩又は/及びC14〜C24のヒドロオキシ変性された高級脂肪酸塩であり、スチレン系樹脂100質量部に対し、0.01〜1質量部添加されたことを特徴とする1.〜3.のいずれかに記載のスチレン系樹脂フィルム。
5.スチレン系樹脂が100質量部に対し、親水性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーより選ばれる少なくとも一種類以上の成分が0.1〜10質量部添加されたことを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載のスチレン系樹脂フィルム。
6.スチレン系樹脂が、スチレン系再生原料を40質量%以上混合した樹脂であって、スチレン系再生原料のメルトインデックスが1〜10g/10minであることを特徴とする1.〜5.のいずれかに記載のスチレン系樹脂フィルム。
7.フィルムにおける押出し方向又はその垂直方向の最大熱収縮応力が0.1〜5.4MPaの範囲の一軸以上に延伸されたことを特徴とする1.〜6.のいずれかに記載のスチレン系樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスチレン系樹脂フィルムは、特定の粒子と特定の脂肪酸塩を添加することにより、低帯電性と優れた外観特性を有するフィルムを得ることが可能である。また、特定の熱可塑性エラストマーを添加することにより、接着性に優れた効果が得られる。更には、スチレン系樹脂として特定の再生原料を使用することにより、環境負荷の低減と資源の有効利用に効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施態様を詳細に説明する。
本発明では、スチレン系樹脂にフッ素系粒子とその分散剤として脂肪酸塩を添加し、更には、製膜後のフィルムの残留静電気を特定の範囲まで除電することにより、外観特性に優れ、且つ二次加工で発生する帯電を極めて低いレベルに抑制するといった効果(低帯電性)が得られる。
すなわち、本発明に使用されるフッ素系粒子とは、フッ素系重合体よりなる粒子であって、例えば、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、パーフルオロエチレン(アルキルビニルエーテル)等の含フッ素ビニル単量体より選ばれる少なくとも1種を必須成分とし、必要に応じてエチレン、プロピレン等のその他のビニル重合体成分を用い重合することによって得られたものが挙げられ、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。
【0010】
本発明において好ましく使用されるフッ素系粒子は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、フッ素系粒子の添加量は、スチレン系樹脂100質量部に対し、0.01〜2質量部が好ましく、より好ましい範囲は0.05〜1質量部であり、更に好ましくは0.1〜0.5質量部を添加する。該粒子の添加量を0.01質量部以上にすることで、封筒窓加工等の二次加工で発生する帯電を抑制する効果が得られ、2質量部以下にすることで、実用的な透明性、耐衝撃性などを維持することが可能となる。
また、該粒子は、体積平均粒子径が1〜10μmの範囲が好ましく、より好ましくは2〜8μmであり、更に好ましくは2〜6μmである。体積平均粒子径1μm以上にすることにより、加工工程で発生する帯電を抑制し、ブロッキング性を低減する効果も得られる。また、10μm以下にすることにより、フィルム表面の粗面化を防ぎ、透明性、平滑性などの外観特性が維持される。尚、体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定機を用いて得られる値である。
【0011】
スチレン系樹脂原料に混合されたフッ素系粒子では、溶融押出し段階で、粒子同士が容易に二次凝集し、フィルム表面が粗面化する問題があった。このため、スチレン系樹脂の特徴である優れた透明性、平滑性を維持することは非常に困難であった。
この問題に対し、種々の分散方法を検討した結果、フッ素系粒子の分散剤として特定の脂肪酸塩を用いることで、二次凝集を防止する効果を見出した。
すなわち、この脂肪酸塩としては、C14〜C24の高級脂肪酸塩又は/及びC14〜C24のヒドロオキシ変性高級脂肪酸塩が好ましい。前記化合物において、C14以上を選定することにより、フッ素系粒子の分散をより均一にさせることが可能である。また、C24以下にすることにより、製膜安定性を維持することが可能である。これらの内、好ましくはステアリン酸塩類、12−ヒドロオキシステアリン酸塩類である。より好ましくは、ステアリン酸アルミニウム、12−ヒドロオキシステアリン酸塩類が挙げられる。
【0012】
前述の脂肪酸塩は単独又は二種以上を混合して使用することも可能であり、この場合には、スチレン系樹脂100質量部に対し、0.01〜1質量部添加することが好ましく、より好ましくは0.02〜0.5質量部、更に好ましくは0.03〜0.1質量部である。脂肪酸塩を0.01質量部以上にすることにより、フッ素系粒子の分散をより均一にすることが可能である。また、1質量部以下にすることにより、フィルムの透明性(白濁)、製膜安定性が良好となる。
フッ素系粒子を添加したスチレン系樹脂フィルムは、摩擦や剥離による帯電が起り難い点に大きな特徴があるが、この特徴を最大限に発揮させるためには、製膜段階の残留静電気を特定の範囲まで除去する必要があることを見出した。
【0013】
つまり、前記残留静電気とは、スチレン系樹脂の原料(ペレット)の静電気や原料供給時にペレット同士又は管壁との摩擦で生じる静電気、そして溶融押出しにおけるせん断等が挙げられる。これらの残留静電気に対し、フッ素系粒子は、帯電防止機能を有する界面活性剤のような減衰(大気放電)作用を持たないため、製造直後のフィルムには様々な事象によって生じた静電気が蓄積し、高レベルの静電気が残留してしまう。このようなフィルムを、例えば封筒窓加工に供した場合では、残留静電気によって、フィルムの貼り合わせ位置がずれてしまう場合があることを突き止めた。更に、この問題について検討したところ、残留静電気を特定の範囲にすることにより、位置ずれを防止することが可能であることを見出した。
【0014】
すなわち、封筒窓加工における位置ずれを防止するための残留静電気の範囲は、フィルムの少なくとも一表面の残留静電気が0〜±10KV以内、好ましくは0〜±5KV以内であり、より好ましくは0〜±2KV以内である。フィルムの静電気除去にはイオンブローなどの公知技術により可能である。また、残留静電気は、ロール状に巻き取られたフィルムより、一定速度でフィルムを引き出し、帯電圧測定器(商品名「SK−030」/キーエンス(株)製)により測定した(図2参照)。
近年、封筒窓加工は、年々高速化を辿っているが、その様な状況の中で、フィルムを所定の位置へ、正確に貼り合わせるため、フィルムに対する品質要求も厳しさを増す傾向にある。
【0015】
本発明品は、前述の厳しい要求を満たすため、フィルムの残留静電気を特定の範囲まで除去し、その後はフッ素系粒子の添加により、高速機械加工でも摩擦や剥離による帯電を極めて低いレベルに抑制することを可能にした。
しかし、封筒窓加工を高速で行うにあたって、度々問題となるのが糊飛び問題や接着性不良の問題であり、この点について以下に詳述する。
封筒窓加工に使用される糊には、一般的に主成分としてエチレン−酢酸ビニル共重合体よりなる水性エマルジョンが用いられるが、これを金属回転ロール上に配置したスポンジ状のスタンプ(ガマー)に含浸せしめた後、封筒側又はフィルム側に塗布し、封筒とフィルムを接着させる。
【0016】
糊飛び問題は、スタンプに含浸した糊が遠心力によって飛び散る現象であり、加工速度が増せば、ガマーの回転数増加に伴い、遠心力も増大するため、糊飛びが発生しやすく、糊が封筒に飛散した場合には、製品同士が強く接着し、製品不良を招くことがある。このような問題を防止するため、加工速度に応じて糊の含浸量を少なくする等の対策を講じるのが一般的である。
しかしながら、上記の対策を講じることによって、糊の塗布量が減少するため、糊の種類によっては十分な接着性が得られない場合がある。この問題点について検討を重ねた結果、特定の熱可塑性エラストマーを添加することにより、接着性の改善が図られることを見出した。
【0017】
すなわち、特定の熱可塑性エラストマーとしては、親水性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの内、親水性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマーが接着性に対する効果が高く、好適に使用できる。
親水性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマーとは、スチレン単量体を10〜60質量%含むスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン(SEPS)共重合体、スチレン−ブチレン−ブタジエン(SBBS)共重合体等が挙げられ、該共重合体に例えば、カルボニル化合物、ヒドロオキシ化合物、エポキシ化合物等をグラフト共重合したものを言い、少なくとも一成分以上を添加する。尚、SEBS、SEPS、SBBSはスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)及びスチレン−イソプレン−スチレン共重合体を水添して得られる。
【0018】
これらの内、カルボニル化合物として、例えば無水マレイン酸をスチレン系熱可塑性エラストマーにグラフト共重合させたものは、スチレン系樹脂との分散性に優れ、これが接着性にも高い効果をもたらすことから、最も好適に使用できる。
スチレン系樹脂に前記の熱可塑性エラストマーを添加し、接着性を改善するにはスチレン系樹脂100質量部に対し、0.1〜10質量部添加することが好ましく、より好ましくは0.3〜5質量部、更に好ましくは0.5〜3質量部である。添加量0.1質量部以上にすることにより、実用的接着強度(例えば封筒加工後の高速自動封入封緘工程でのフィルム剥離が起こらない接着力)を発現させるための範囲であり、10質量部以下にすることにより、フィルムに要求される透明性を維持することが可能である。
【0019】
これらの発明により、封筒窓加工においては、500枚/min以上の高速加工でも所定の位置に正確にフィルムを貼り合せることが可能であり、フィルム貼り合わせ後の後工程においても剥離などの問題を起こさず、安定した機械加工が可能となる。
次に、本発明において構成されるスチレン系樹脂について説明する。
本発明に使用されるスチレン系樹脂とは、スチレン系単量体からなるホモポリマー及び/又はスチレン系単量体を50質量%以上含有する共重合体であって、スチレン系単量体にはスチレン及びα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン等のアルキルスチレン等が挙げられる。また、スチレン系共重合体には、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体類、スチレン−酸無水物共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体等が挙げられる他、コアシェルタイプ又は/及びサラミ構造のゴム粒子よりなる耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)等の熱可塑性樹脂が挙げられ、これらの単独または二つ以上の混合物であってもよい。
【0020】
更には、前記スチレン系樹脂にスチレン単量体20〜60質量%含むスチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS、SEPS)を混合することも可能であり、その混合割合は、透明性を損なわない範囲で、0〜20質量%添加することができる。
これらのスチレン系樹脂の中では、剛性及び透明性の観点より、汎用ポリスチレン(GPPS)及び/又はスチレン系再生原料が好ましい。
前記GPPSとしては、GPCにより測定される重量平均分子量が16万〜50万が好ましく、より好ましくは18万〜40万の樹脂である。該分子量を16万以上にすることで製膜安定性と十分な配向度を与え、該分子量50万以下にすることで溶融押出しに必要な樹脂の流動性を与えることが可能である。
【0021】
また、スチレン系再生原料とは、スチレン系樹脂シート及び/又はフィルム等の製品が市場に供給され、例えば弁当用蓋材、封筒窓などの二次加工に供された時に発生する屑等で、分別、回収された後、少なくとも1回以上の熱履歴を経て、再ペレット化された原料を言う。
このスチレン系再生原料では、再ペレット化による熱履歴によって、分子量低下やオリゴマーの生成、そして酸化劣化が進行しており、このような原料を使用し、フィルムを得ることは、製膜安定性や品質を確保する点において極めて困難であった。
この問題点に対し、鋭意検討を重ねた結果、スチレン系再生原料には、特定のMI(メルトインデックス)値を有した樹脂を使用することで、製膜安定性及び品質が確保されることを見出した。
【0022】
すなわち、スチレン系再生原料として好ましく使用されるMI値は1〜10g/10min、より好ましくは1.5〜8g/10minである。MI値を1g/10min以上にすることで溶融押出し時における熱分解生成物(カーボン、ゲル)の流出を実用可能なレベルまで減少させ、更にはダイより漏洩したベーパーが壁面に付着後、凝集滴下することによるフィルム汚染を低減する効果が得られる。また、10g/10min以下にすることで製膜安定性や厚み分布を小さくすることが可能である。尚、前記のMI値は、ASTM D−1238(200℃、49N)に準拠し、測定された値である。
本発明におけるスチレン系再生原料の混合割合については、環境負荷の低減、資源の有効利用、製膜安定性の観点より、フィルム全体の40〜90質量%が好ましく、より好ましくは50〜80質量%である。
【0023】
次にフィルムの製造方法及びその特性について説明する。
本発明のスチレン系樹脂フィルムは、一軸以上の延伸であって、その製造方法には溶融押し出し後、ロール延伸法及び/又はテンター法で得られる一軸又は逐次二軸延伸フィルム、インフレーション法による一軸又は同時二軸延伸フィルム等、公知技術により製造されるが、特に好ましくは、二軸延伸フィルムであり、押出し方向又はその垂直方向の少なくとも一軸方向の最大熱収縮応力値が0.1〜5.4MPaであることが好ましく、より好ましくは0.3〜5.0MPa、更に好ましくは0.7〜4.0MPaである。この値は、主に延伸倍率、延伸温度により決まる特性値であり、フィルム表面のフッ素系粒子による突起の形成や封筒加工時のカット性に影響を及ぼす。すなわち、最大熱収縮応力値を0.1MPa以上にすることで、フィルム表面にフッ素系粒子の突起を適度に形成し、フィルム加工工程での摩擦や剥離による静電気をより小さくする効果と引裂き強度が小さくなることで、封筒加工機械でのカット性も向上する。また、5.4MPa以下にすることで、フッ素系粒子とスチレン系樹脂(基材)との界面で空隙が拡大することによって生じる光散乱(透明性低下)を抑えることが可能である。尚、最大熱収縮応力値は、120℃(Tg+15℃)のシリコーンオイル浴中に浸漬して得られる最大収縮応力である。ASTM D−1504に準拠し、測定した。
【0024】
更には、本発明のスチレン系樹脂フィルムの厚みについては、特に制限はないが、一般に好ましくは5〜100μm、より好ましくは10〜80μm、更に好ましくは20〜50μmである。この範囲は作業者が取り扱う上での作業性や封筒加工機械の様な機械適性等により決められる範囲である。
以下、実施例及び比較例について詳述する。尚、各試験において「○」以上の判定が実用上求められる基準である。
【実施例】
【0025】
[フィルム製造例1]
GPPS(商品名「PSJポリスチレン」#685/PSジャパン(株)製)に表1、2に記載のフッ素系粒子と分散剤及び熱可塑性エラストマーをドライブレンドしたものをφ65mm押出し機(スクリュ:ダルメージ5個、L/D=29、三菱重工業(株)製)にて溶融混錬し、Tダイにより流出した溶融シートをロール延伸機にて縦延伸(ロール設定温度=125℃、倍率=1.8倍)した後、テンターにて横延伸(オーブン設定温度=134℃、倍率4倍)することにより、25μmの厚さのフィルムを得た。
【0026】
[フィルム製造例2]
サーキュラーダイを備えた押出し機(ベントスクリュ、L/D=28、日本製鋼所(株)製)において溶融混錬し、インフレ−ション法により、同時二軸延伸(縦6.5倍、横5倍)を行い、厚さ25μmのフィルムを製膜した。この時、フッ素系粒子と分散剤は、それぞれ独立したテーブルフィーダーより、所定量を配管空輸し、押出し機ホッパーに供給され、押出し機内でポリスチレン系樹脂と溶融混練した。
【0027】
[帯電性試験]
フィルムの帯電性の評価は、図1に示した様な帯電性試験装置を製作し、実施した。該装置には、金属固定ロール(Φ30mm、ステンレス製ロール)が1箇所、フィルムのテンションをコントロールするための金属ロール(Φ25、ステンレス製ロール)が1箇所、走行速度をコントロールするためのゴム製モーターロール(Φ60、イソプレン製)が1箇所、フリーロール(Φ50、SUS製ロール)が3箇所に配置されている。この試験装置に、サンプルとして、100mm巾×1200mm長のフィルムを装着し(図1参照)、試験前に予めイオンブロー型除電機(商品名「KD−410」/春日電機(株)製)により、フィルムの静電気を0〜±0.3KV以内まで除電処理した。
試験は、フィルムのテンションコントロールするための金属ロールを低摩擦エアシリンダー(φ25mmシリンダー×2台)により、張力=20Nになるように調整し、速度=20m/minでゴム製モーターロールを3分間駆動させた。この時、フィルム表面には、各ロールで剥離と摩擦を繰り返され、次第に静電気が蓄積するが、これを該装置の一箇所(図1参照)に配置した帯電圧測定器(商品名「SK−030」/キーエンス(株)製)により、フィルムから5cm離れた位置で、500ms(ミリセカンド)間隔で測定した。
【0028】
同様の試験を同一サンプルに付き3回繰り返し、それぞれの測定データは10点移動平均処理した後、3分後の平均帯電圧を求めた。帯電性の評価は以下の基準に従った。尚、この時の試験雰囲気は、23℃×20%RHである。
×:+10.1KV以上、又は−10.1KV以下
△:+5.1〜+10KV、又は−5.1〜−10KV
○:+2.1〜5.0KV、又は−2.1〜―5KV
◎:0〜+2KV、又は0〜−2KV
【0029】
[残留静電気]
フィルム表面に残留する静電気は、ロール状に巻き取られたフィルムより、一定の速度で引き出し、帯電圧測定器(商品名「SK−030」/キーエンス(株)製)により測定した(図2参照)。この時の測定条件は、フィルム引き出し速度を5m/min、測定長さが30m、フィルムと帯電圧測定器の測定距離が5cm、測定間隔500msの条件である。また、フィルムの帯電圧は、測定値の最大値をサンプルの代表値として以下の判定基準に従い、評価した。尚、測定にあたっては、周囲の静電気の影響を受けず、フィルムに帯電した静電気が放電しない環境で実施する。
×:+20.1KV以上、又は−20.1KV以下
△:+10.1KV〜+20.0KV、又は−10.1〜−20.0KV
○:+5.1〜+10KV、又は−5.1〜−10KV
◎:0〜+5KV、又は0〜−5KV
【0030】
[熱収縮応力]
熱収縮応力は、120℃のシリコーンオイル浴中に浸漬して測定される収縮応力のピーク値より求めた。(ASTM D−1504準拠)
[分散性]
実態顕微鏡を用い、20倍で拡大観察し、以下の規準に従い、評価した。
×:2個以上の凝集粒子は粒子全体の50%以上存在する。
△:2個以上の凝集粒子が粒子全体の30%以上、50%未満存在する。
○:2個以上の凝集粒子が粒子全体の10%以上、30%未満存在する。
◎:2個以上の凝集粒子が粒子全体の10%未満である。
[メルトインデックス]
ASTM D−1238(200℃、49N/G条件)に準拠し、測定した。
【0031】
[封筒加工工程時の静電気]
高速封筒加工機(商品名「ヘリオス」627GSV/WINKLER+DUNNEBIER社製)においてフィルム加工速度600枚/min(フィルム速度40.8m/min)で窓加工したときの静電気を評価した。静電気は、図3に示したように、フィルムが複数のロールを通過し、窓加工される手前の位置に帯電圧測定器(商品名「KSD−0103」/春日電機(株)製)を設置(フィルムとの距離100mm)し、測定した。判定基準は以下の通りである。
×:+20.1KV以上、又は−20.1KV以下
△:+10.1KV〜+20.0KV、又は−10.1〜−20.0KV
○:+5.1〜+10KV、又は−5.1〜−10KV
◎:0〜+5KV、又は0〜−5KV
【0032】
[封筒加工時の位置ずれ]
前記の高速封筒加工を実施した後、位置ずれは封筒50枚を抜き取り、フィルムの流れ方向に対し、所定の位置よりも1mm以上ずれた枚数でもって評価を実施した。貼り合わせの所定の位置とは、低速で位置決めした時の貼り合わせ位置を言い、以下の判定基準に従い、評価した。
×:5枚以上
△:3枚以上、5枚未満
○:1枚以上、3枚未満(但し、2mmを超えないこと。超えた場合の判定は△)
◎:0枚
【0033】
[接着性]
前記の高速封筒加工機を実施した後、接着性の評価は、製袋完了から10分後にフィルムを引き剥がし、以下の基準により判定した。尚、この時に使用した窓用糊は「商品名:JW−7346−U9」(日本フーラー社製)であり、封筒材質にはクラフト紙(白色、古紙=70%)を用いた。
×:封筒の材料破壊が全く起こらない。
△:封筒の材料破壊が接着面の1〜50%発生する。
○:封筒の材料破壊が接着面の51〜90%発生する。
◎:封筒の材料破壊が接着面の91〜100%発生する。
【0034】
[実施例1〜3]
実施例1〜3は、[フィルム製造例1]の条件により、体積平均粒子径が2〜10μmのフッ素系粒子を添加したフィルムである(表1)。フッ素系粒子を含有するフィルムでは、一度除電処理することにより、いずれも[帯電性試験]で帯電圧は極めて低いレベルを維持し、低帯電性を示した。平均粒子径の違いによる帯電性の差異は軽微であった。
【0035】
[比較例1〜3]
表1の比較例1〜3は、前記と同じ条件で得たフィルムであり、比較例1は粒子が無添加の場合、比較例2は球状アルミノシリケートを添加した場合、比較例3は球状シリコーンレジン粒子を添加した場合である(表1)。これらの場合、いずれも[帯電性試験]において、フッ素粒子添加フィルム(実施例1〜3)よりも劣っていた。
【0036】
[実施例4〜7]
実施例4〜7は、前記と同じ条件で、分散剤としてステアリン酸亜鉛(C18)、ステアリン酸マグネシウム(C18)、1,2−ヒドロオキシステアリン酸マグネシウム(C18)、ステアリン酸アルミニウムを(C18)、それぞれフッ素系粒子に混合して得たフィルムである(表2)。これらは、いずれもフッ素系粒子の分散性は良好であり、透明性、平滑性に優れていた。
【0037】
[比較例4]
比較例4は、前記と同じ条件で、分散剤を添加せずにフッ素系粒子のみを添加したフィルムである(表2)。この場合、フッ素系粒子の二次凝集が甚だしく、フィルム表面が粗面化状態となった。
【0038】
[比較例5,6]
比較例5、6は、前記と同じ条件で、ラウリン酸亜鉛(C12)、t−ブチル安息香酸亜鉛を、それぞれフッ素系粒子と併用し、添加した場合を示した(表2)。これらの場合でも、フッ素系粒子の分散は不十分であり、外観特性が損なわれる結果となった。
【0039】
[実施例8]
実施例8は、[フィルム製造例2]により、フッ素粒子とステアリン酸マグネシウムを添加して得たフィルムである(表3)。製品化前段階においてイオンブローにより除電したことにより、封筒窓加工時の静電気の発生は殆ど認められず、位置ずれも発生しなかった。
【0040】
[実施例9、10]
実施例9と実施例10は、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)を混合した場合とポリスチレン再生原料を混合した以外は、実施例8と同じ条件で行った(表3)。いずれも、実施例8と同様、良好な結果が得られた。
【0041】
[実施例11、12]
表3の実施例11、12は、特定の熱可塑性エラストマーを添加した以外は実施例8と同じ条件で行った(表3)。いずれも封筒窓加工後の接着性は、極めて良好であった。
【0042】
[比較例7]
表3の比較例7は、イオンブローによる除電処理を施していないこと以外は、実施例8と同じ条件で行った(表3)。この場合、除電処理をしていないために、残留静電気によって位置ずれが発生した。
以上の結果より明らかな様に、フッ素系粒子と特定の分散剤を添加したフィルムでは、良好な外観特性が維持され、残留静電気を特定の範囲まで除電処理することにより、その後の摩擦や剥離に対し、帯電性が極めて低いこと。更に特定の熱可塑性エラストマーを添加することにより、より高度な接着性が得られる。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のスチレン系樹脂フィルムは、良好な外観特性、低帯電性を有していることから機械加工適性に優れ、各種包装材料、封筒窓材用途、食品包装用ラミネート材用途等において好適である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】フィルムの帯電性評価に用いた帯電性試験装置(概略図)を示す。
【図2】フィルムの残留静電気測定方法(概略図)を示す。
【図3】封筒加工適性(残留静電気と位置ずれ)の評価に用いた高速封筒加工機械の窓加工工程(概略図)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂とフッ素系粒子と、その分散剤として脂肪酸塩又は/及びヒドロオキシ変性された脂肪酸塩からなり、少なくとも一表面の残留静電気が0〜±10KVであることを特徴とするスチレン系樹脂フィルム。
【請求項2】
スチレン系樹脂100質量部に対し、フッ素系粒子が0.01〜2質量部添加されたことを特徴とする請求項1記載のスチレン系樹脂フィルム。
【請求項3】
フッ素系粒子の体積平均粒子径が1〜10μmであることを特徴とする請求項1又は2記載のスチレン系樹脂フィルム。
【請求項4】
分散剤がC14〜C24の高級脂肪酸塩又は/及びC14〜C24のヒドロオキシ変性された高級脂肪酸塩であり、スチレン系樹脂100質量部に対し、0.01〜1質量部添加されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系樹脂フィルム。
【請求項5】
スチレン系樹脂が100質量部に対し、親水性官能基を有するスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーより選ばれる少なくとも一種類以上の成分が0.1〜10質量部添加されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスチレン系樹脂フィルム。
【請求項6】
スチレン系樹脂が、スチレン系再生原料を40質量%以上混合した樹脂であって、スチレン系再生原料のメルトインデックスが1〜10g/10minであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスチレン系樹脂フィルム。
【請求項7】
フィルムにおける押出し方向又はその垂直方向の最大熱収縮応力が0.1〜5.4MPaの範囲の一軸以上に延伸されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のスチレン系樹脂フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−193556(P2006−193556A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4159(P2005−4159)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(303046266)旭化成ライフ&リビング株式会社 (64)
【Fターム(参考)】