説明

スチレン系樹脂押出発泡体及びその製造方法

【課題】 難燃性および熱安定性に優れたスチレン系樹脂押出発泡体を提供する。
【解決手段】 スチレン系樹脂および発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂発泡体であって、臭素系難燃剤を、スチレン系樹脂100重量部に対して1〜6重量部を含有し、かつ、多価アルコール系安定剤を、該臭素系難燃剤100重量部に対して1重量部〜50重量部含有することにより、上記特性を有するスチレン系樹脂押出発泡体を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性および難燃性を両立するスチレン系樹脂発泡体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂を押出機等にて加熱溶融し、次いで発泡剤を添加し、冷却させ、これを低圧域に押出すことにより、スチレン系樹脂発泡体を連続的に製造する方法は、既に知られている。
【0003】
スチレン系樹脂発泡体には、JIS A9511記載の押出スチレンフォーム保温板の燃焼性規格を満たすために、難燃剤が添加される。
スチレン系樹脂押出発泡体に適した難燃剤の主な必要特性としては、一般的なポリスチレンの押出加工条件230℃付近であり、この温度付近では、難燃剤は分解しないことが求められる。押出条件で難燃剤が分解すると、樹脂劣化を引き起こし、得られる発泡体の成形性の悪化、難燃性の悪化、或いは発泡体セル径が制御し難い等の悪影響を及ぼす。
【0004】
スチレン系樹脂押出発泡体に適した難燃剤のもう一つの必要特性としては、ポリスチレンの分解前に効率良く難燃剤が分解することである。ポリスチレンは300℃付近から分解することが知られている。ポリスチレンの分解温度よりも低い温度において難燃剤が効率よく分解しないと、JIS A9511記載の燃焼性規格を満たさない恐れがある。若しくは、必要な難燃性能を得るために、結果として難燃剤の添加部数を多くしなければならず、製品コストアップや、得られる発泡体の成形性悪化等の悪影響を及ぼす傾向にある。
【0005】
以上のような背景から、スチレン系樹脂押出発泡体の難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカン(以下、HBCDと略する)が広く用いられてきた。HBCDは、押出条件下では比較的安定であり、且つポリスチレンの分解時には効率良く分解する事が知られており、少ない添加部数で高度な難燃性能を発現することができる。
一方、HBCDは難分解性で生態に対して高蓄積性の化合物であることから、環境衛生上好ましいものではなく、HBCD使用量の削減、およびHBCDに代わる難燃剤の開発が望まれている。
【0006】
そこで、HBCD以外の臭素系難燃剤を用いたスチレン系樹脂押出発泡体の検討がなされている。
ところで、臭素系難燃剤は大きく、2種類に分別することができる。
一つは、臭素が芳香環にのみ付加した芳香族系臭素系難燃剤であり、分解温度が高く、押出加工は比較的容易であるが、得られる難燃性能が低い傾向にあり、スチレン系樹脂発泡体に必要な性能が得られにくい傾向にある(例えば、特許文献1)。
もう一つの臭素系難燃剤として、臭素が脂肪族部位にも付加した脂肪族臭素系難燃剤がある。これは、得られる難燃性能は比較的高いが、押出加工条件では、不安定な傾向にあり、樹脂劣化等の問題を引き起こす可能性がある(例えば、特許文献2)。
【0007】
以上のような背景より、臭素系難燃剤の熱安定性を高める添加剤の検討や、臭素系難燃剤の難燃性能自体を高める添加剤の検討がなされているが、スチレン系押出発泡体の難燃化技術は、未だ改善の余地を残すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−54004号公報
【特許文献2】特開2006−316251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、難燃性スチレン系樹脂押出発泡体が有する前記課題を解決するためになされたものであって、熱安定性および難燃性に優れるスチレン系樹脂押出発泡体および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題の解決のため鋭意研究の結果、スチレン系樹脂および発泡剤を、押出機内にて溶融混練して低圧域下に押出発泡してなるスチレン系樹脂発泡体に、スチレン系樹脂100重量部に対して、臭素系難燃剤を1〜6重量部を含有し、多価アルコール系安定剤を該臭素系難燃剤100重量部に対して1重量部〜50重量部含有することにより、上記特性を有するスチレン系樹脂押出発泡体を得ることができる。
【0011】
すなわち、本発明は、
[1] スチレン系樹脂および発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂発泡体であって、
臭素系難燃剤をスチレン系樹脂100重量部に対して1〜6重量部を含有し、かつ、
多価アルコール系安定剤を該臭素系難燃剤100重量部に対して1重量部〜50重量部含有することを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体、
[2] 臭素系難燃剤が、臭素が脂肪族アルキル部位にも付加されてなる脂肪族臭素系難燃剤であることを特徴とする、[1]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体、
[3] 臭素系難燃剤が、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテル、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートおよびクロロペンタブロモシクロヘキサンより選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、[1]または[2]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体、
[4] 発泡剤が、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体、
[5] 発泡剤が、さらに、他の発泡剤として、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチルおよび塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする、[4]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体、
[6] 他の発泡剤が、水を含むことを特徴とする、[4]または[5]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体、
[7] 発泡体を形成する気泡径が、主として、気泡径0.2mm以下の気泡と気泡径0.25〜1mmの気泡より構成されることを特徴とする、[6]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体、
[8] 発泡体を形成する気泡の内、気泡径0.2mm以下の気泡の発泡体断面積あたりの占有面積率が、5〜95%であることを特徴とする、[7]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体、および
[9] スチレン系樹脂および発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂発泡体の製造方法であって、
スチレン系樹脂100重量部に対して、臭素系難燃剤を1〜6重量部を含有し、かつ、
多価アルコール系安定剤を該臭素系難燃剤100重量部に対して1重量部〜50重量部含有することを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体は、スチレン系樹脂および発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂発泡体であって、臭素系難燃剤を、スチレン系樹脂100重量部に対して1〜6重量部を含有し、多価アルコール系安定剤を、該臭素系難燃剤100重量部に対して1重量部〜50重量部含有することにより、熱安定性および難燃性に優れるスチレン系樹脂押出発泡体である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のスチレン系樹脂発泡体は、スチレン系樹脂、臭素系難燃剤、多価アルコール系安定化剤および発泡剤を用いて、押出発泡して得られるスチレン系樹脂発泡体である。
【0014】
本発明で用いられるスチレン系樹脂は、特に限定されるものではなく、スチレン単量体のみから得られるスチレンホモポリマー;スチレン単量体とスチレンと共重合可能な単量体あるいはその誘導体から得られるランダム、ブロックあるいはグラフト共重合体;後臭素化スチレン、ゴム強化スチレンなどの変性スチレンなどが挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0015】
スチレンと共重合可能な単量体としては、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、トリクロロスチレンなどのスチレン誘導体;ジビニルベンゼンなどの多官能性ビニル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリロニトリルなどの(メタ)アクリル酸系化合物;ブダジエンなどのジエン系化合物あるいはその誘導体;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸無水物などが挙げられる。これらは単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0016】
スチレン系樹脂では、押出発泡成形性などの面から、スチレンホモポリマー、スチレンアクリロニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸共重合スチレン、無水マレイン酸変性スチレン、耐衝撃性スチレンなどが好ましい。特に好ましくは、コスト面から、スチレンホモポリマーである。
【0017】
本発明では、難燃剤として臭素系難燃剤を含有することにより、得られるスチレン系樹脂発泡体に難燃性を付与することができる。
【0018】
臭素化合物の具体的な例としては、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモシクロオクタン、クロロペンタブロモシクロヘキサンなどの臭素化脂環化合物;ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、デカブロモジフェニルエーテル、2,3−ジブロモプロピルペンタブロモフェニルエーテル、ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、テトラブロモ無水フタル酸、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、ペンタブロモベンジルアクリレート、トリブロモフェニルアリルエーテルなどの臭素化芳香族化合物あるいはその誘導体;テトラブロモビスフェノール−A、テトラブロモビスフェノール−S、テトラブロモビスフェノール−F、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−S−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−F−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノール−A−ジアリルエーテル、テトラブロモビスフェノール−S−ジアリルエーテル、テトラブロモビスフェノール−F−ジアリルエーテル、などの臭素化ビスフェノール類およびその誘導体、等があげられる。
これらの物質は、単体で用いても、2種以上の混合物として用いても良い。
【0019】
これらのうちでも、発泡体に対して、比較的少ない添加部数で高い難燃性能を付与できる点で、臭素が脂肪族アルキル部位にも付加されてなる脂肪族系臭素系難燃剤が好ましく用いられる。具体的には、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテル、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、クロロペンタブロモシクロヘキサンなどが、高度な難燃性能が得られやすい理由から望ましく用いられる。
【0020】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体における臭素系難燃剤の含有量は、JIS A9511に規定される燃焼性を得られると共に、発泡体製造時の押出機中でスチレン系樹脂の熱安定性を維持できるように、臭素系難燃剤種、発泡剤添加量、発泡体密度、さらに場合によっては、他添加剤の種類あるいは添加量などにあわせて適宜調整されるものであるが、概ね、スチレン系樹脂100重量部に対して、1〜6重量部が好ましく、2〜5重量部がより好ましい。
臭素系難燃剤の含有量が1重量部未満では、難燃性などの発泡体としての良好な諸特性が得られがたい傾向があり、6重量部を超えると、発泡体製造時の安定性、表面性などを損なう場合がある。
【0021】
本発明においては、臭素系難燃剤に多価アルコール系安定化剤を併用することにより、難燃剤の難燃性能を損なうことなく、熱安定性を向上させることができる。
【0022】
本発明に使用される多価アルコール系安定化剤は、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール等を少なくとも一種含む多価アルコール、または、該多価アルコールと酢酸、プロピオン酸、等の一価のカルボン酸やアジピン酸、グルタミン酸等の二価のカルボン酸との部分エステルであって、その分子中に一個以上の水酸基を持つ化合物であれば、良い。
この場合の多価アルコール系安定化剤は、多価アルコールまたは多価アルコールと有機酸との部分エステルを、それぞれ単独で用いても良いし、これらの混合物であっても良い。
【0023】
具体的な多価アルコール安定剤としては、ジペンタエリスリトールとアジピン酸との部分エステルおよび多価アルコールとの混合物であって、該混合物中の多価アルコールの含有率が10〜80重量%である混合物(例えば、味の素ファインテクノ(株)製プレンライザーST−210、プレンライザーST−220等)が挙げられる。
【0024】
本発明における多価アルコール系安定化剤の配合量は、臭素系難燃剤100重量部に対して1〜50重量部であり、1〜25重量部が好ましい。
多価アルコール系安定化剤の配合量が1重量部未満では、熱安定化効果が小さい傾向にある。一方、多価アルコール系安定化剤の配合量が50重量部超では、安定化効果が大きく発揮されてしまい、難燃剤自体の難燃性能を低下させる恐れがある。
【0025】
本発明で用いられる発泡剤としては、特に限定するものではないが、炭素数3〜5の飽和炭化水素から選ばれる少なくとも1種を使用することにより、優れた環境適合性を付与することができる。
【0026】
本発明で用いられる炭素数3〜5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタンなどが挙げられる。これらの炭素数3〜5の飽和炭化水素のなかでは、発泡性の点から、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましい。また、発泡体の断熱性能の点から、n−ブタン、i−ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましく、特に好ましくはi−ブタンである。
【0027】
本発明では、さらに、他の発泡剤を用いることにより、発泡体製造時の可塑化効果や助発泡効果が得られ、押出圧力を低減し、安定的に発泡体の製造が可能となる。ただし、目的とする発泡倍率、難燃性等の発泡体の諸特性いかんによっては、その使用量などが制限される場合があり、押出発泡成形性などが充分でない場合がある。
【0028】
他の発泡剤としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、エチル−n−プロピルケトン、エチル−n−ブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどの炭素数1〜4の飽和アルコール類;蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステルなどのカルボン酸エステル類;塩化メチル、塩化エチルなどのハロゲン化アルキル、などの有機発泡剤、水、二酸化炭素などの無機発泡剤、アゾ化合物、テトラゾールなどの化学発泡剤などを用いることができる。これら他の発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
他の発泡剤の中では、発泡性、発泡体成形性などの点からは、炭素数1〜4の飽和アルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、塩化メチル、塩化エチルなどが好ましく、発泡剤の燃焼性、発泡体の難燃性あるいは後述する断熱性等の点からは、水、二酸化炭素が好ましい。これらの中では、可塑化効果の点からジメチルエーテルが、コスト、気泡径の制御による断熱性向上効果の点から水が特に好ましい。
【0030】
本発明における発泡剤を添加または注入する際の圧力は、特に制限するものではなく、押出機などの内圧力よりも高い圧力であればよい。
【0031】
本発明における発泡剤の使用量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、2〜20重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。発泡剤の添加量が2重量部より少ないと、発泡倍率が低く、樹脂発泡体としての軽量、断熱などの特性が発揮されにくい場合があり、20重量部より多いと、過剰な発泡剤量の為、発泡体中にボイドなどの不良を生じる場合がある。
【0032】
本発明においては、他の発泡剤として水を用いることにより、スチレン系樹脂押出発泡体中に、気泡径が概ね0.2mm以下の比較的気泡径の小さい気泡(以下、小気泡という)と、気泡径が概ね0.25mm〜1mm程度の比較的気泡径の大きな気泡(以下、大気泡という)が海島状に混在してなる特徴的な気泡構造を有する発泡体が得られ、得られる発泡体の断熱性能が向上させることができる。
【0033】
気泡径0.2mm以下の小気泡および気泡径0.25〜1mmの大気泡が混在してなる特定の気泡構造の発泡体においては、発泡体断面積あたりに占める小気泡の面積の割合(小気泡の単位断面積あたりの占有面積率)(以下、小気泡占有面積率という)は、5〜95%が好ましく、10〜90%がより好ましく、20〜80%がさらに好ましく、25〜70%が特に好ましい。
【0034】
本発明において、他の発泡剤として水を用いる場合には、安定して押出発泡成形を行うために、吸水性物質を添加することが好ましい。
【0035】
本発明で用いられる吸水性物質の具体例としては、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール−アクリル酸塩系共重合体、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸メチル−ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体などの吸水性高分子の他、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)[例えば、日本アエロジル(株)製AEROSILなどが市販されている]などのように表面に水酸基を有する粒子径1000nm以下の微粉末;スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩並びにこれらの有機化処理品;ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土などの多孔性物質等があげられる。
【0036】
本発明で用いられる吸水性物質の添加量は、水の添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜3重量部がより好ましい。
【0037】
本発明においては、必要に応じて、さらに、フェノール系抗酸化剤、リン系安定剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤,ラクトン系安定剤、ベンゾトリアゾール系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、などを含有させることができる。
【0038】
本発明においては、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、流動パラフィン、オレフィン系ワックスなどの加工助剤、前記以外の難燃剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有させることができる。
【0039】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法としては、スチレン系樹脂、臭素系難燃剤、多価アルコール添加剤および他の添加剤等を、押出機等の加熱溶融手段に供給し、加熱溶融手段中の任意の段階で、高圧条件下にて発泡剤をスチレン系樹脂に添加し、流動ゲルとなし、押出発泡に適する温度に冷却した後、ダイを通して該流動ゲルを低圧領域に押出発泡して、発泡体を形成することにより製造される。
【0040】
スチレン系樹脂、臭素系難燃剤、多価アルコール安定剤および他の添加剤等の加熱溶融の形態としては、スチレン系樹脂に臭素系難燃剤、多価アルコール安定剤および他の添加剤を混合した後、加熱溶融する;スチレン系樹脂を加熱溶融した後に臭素系難燃剤、多価アルコール安定剤、及び他の添加剤を添加混合する;予めスチレン系樹脂に臭素系難燃剤、安定剤、及び他の添加剤を混合した後、加熱溶融した組成物を準備し、改めて押出機に供給し加熱溶融する;などが挙げられる。
【0041】
スチレン系樹脂と発泡剤などの添加剤を加熱溶融混練する際の加熱温度、溶融混練時間および溶融混練手段については、特に制限するものではない。
加熱温度は、使用するスチレン系樹脂が溶融する温度以上であればよいが、難燃剤などの影響も含め、樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度、例えば200〜250℃程度が好ましい。
溶融混練時間は、単位時間当たりの押出量、溶融混練手段などによって異なるので一概には決定することができないが、スチレン系樹脂と発泡剤が均一に分散混合するのに要する時間が適宜選ばれる。
溶融混練手段としては、例えばスクリュー型の押出機などが挙げられるが、通常の押出発泡に用いられているものであれば特に限定はない。ただし、樹脂の分子劣化をできる限り抑えるため、スクリュー形状については、低剪断タイプのスクリューを用いる方が好ましい。
【0042】
発泡成形方法も特に制限されないが、例えば、スリットダイより圧力開放して得られた発泡体をスリットダイと密着または接して設置した成形金型および成形ロールなどを用いて、断面積の大きい板状発泡体を成形する一般的な方法を用いることができる。
【0043】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の厚さは特に制限されず、用途に応じて適宜選択される。例えば、建材などの用途に使用される断熱材の場合、好ましい断熱性、曲げ強度および圧縮強度を付与せしめるためには、通常の板状物のように厚さのあるものが好ましく、通常10〜150mm、好ましくは20〜100mmである。
【0044】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の密度については、軽量でかつ優れた断熱性および曲げ強度、圧縮強度を付与せしめるためには、15〜50kg/mであることが好ましく、25〜40kg/mであるのがさらに好ましい。
【0045】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体は、優れた熱安定性、難燃性能および断熱性能の点から、建材用途の断熱材として好適に用いられる。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の熱可塑性樹脂押出発泡体の製造方法を実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。
【0047】
実施例および比較例において使用した原料は、次の通りである。
(A)スチレン系樹脂
・バージンポリスチレン[PSジャパン(株)製、G9401]
(B)臭素系難燃剤
・ヘキサブロモシクロドデカン[アルベマール(株)製、HP900]
・テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル[第一工業製薬(株)製、ピロガードSR−130]
・テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテル[第一工業製薬(株)製、ピロガードSR−720]
(C)多価アルコール系安定化剤
・プレンライザーST−210[味の素ファインテクノ(株)製]
(D)発泡剤
・イソブタン[三井化学株式会社製]
・ノルマルブタン[岩谷産業株式会社製]
・水[水道水]
・ジメチルエーテル[三井化学株式会社製]
・二酸化炭素[岩谷産業株式会社製]
(E)その他添加剤
・タルク[林化成(株)製、タルカンパウダーPK−Z]
・ベントナイト[ウィルバーエリス(株)製、ゲルホワイトH]
・アエロジル[日本アエロジル(株)製、AEROSIL]
【0048】
実施例および比較例にて実施した評価方法は、次の通りである。
【0049】
(1)発泡体密度
発泡体密度は、発泡体密度[g/cm]=発泡体重量[g]/発泡体体積[cm]に基づいて求め、単位を[kg/m]に換算して示した。
【0050】
(2) 小気泡面積率
押出発泡体について、気泡径0.2mm以下の気泡の発泡体断面積あたりの占有面積比を、以下のようにして求めた。ここで、気泡径0.2mm以下の気泡とは、円相当直径が0.2mm以下の気泡を意味する。
a)走査型電子顕微鏡[(株)日立製作所製、品番:S−450 ] にて、30倍に拡大した発泡体の縦断面を写真撮影する。
b)撮影した写真の上にOHPシートを置き、その上に厚さ方向の直径が6.0mmよりも大きい気泡(実寸法が0.2mmより大きい気泡に相当する)に対応する部分を黒インキで塗りつぶして写しとる( 一次処理) 。
c)画像処理装置[(株)ピアス製、品番: PIAS−II] に一次処理画像を取り込み、濃色部分と淡色部分を、すなわち、黒インキで塗られた部分か否かを識別する。
d)濃色部分のうち、直径6.0mm以下の円の面積に相当する部分(すなわち、厚さ方向の径は長いが、面積的には直径6.0mm以下の円の面積にしかならない部分)を淡色化して、濃色部分の補正を行う。
e)画像解析計算機能中の「FRACTAREA(面積率)」を用い、画像全体に占める気泡径6.0mm以下(濃淡で分割した淡色部分)の面積比を、次式により求める。
小気泡占有面積比[%]=(1−濃色部分の面積/ 画像全体の面積)×100
【0051】
(3)燃焼性
JIS A9511に準じて、厚さ10mm×長さ200mm×幅25mmの試験片を用い、以下の基準で評価した。測定は、製造後、前記寸法に切削した後、7日経過した発泡体について行った。
燃焼時間
◎:消炎時間が5本すべて3秒以内となる
○:消炎時間が5本の内、少なくとも1本が3秒を越えるが、残りの3本以上は3秒以内となる
△:消炎時間が5本の内、少なくとも3本が3秒を越えるが、残りの1本以上は3秒以内となる
×:消炎時間が5本すべて3秒を超える
燃焼距離
◎:5本全てで、限界線以内に停止する
○:5本の内、少なくとも1本は減少が限界線を越えるが、残りの3本以上は限界線以内で燃焼が停止する
△:5本の内、少なくとも3本は燃焼が限界線を越えるが、残りの1本以上は限界線以内で燃焼が停止する
×:5本全てで燃焼が限界線を越える
燃焼状況
◎:発泡剤の燃焼が全く見られない
○:発泡剤の燃焼が若干見られる
△:発泡剤の燃焼が見られるが、全焼には至らない
×:発泡剤の燃焼も見られ、全焼する
【0052】
(4)ηsp
押出発泡体の相対粘度ηspの測定は、以下の方法による。
得られた押出発泡体約1gを共栓付き試験管内で約30mLのメチルエチルケトンに溶解させ、試験管に栓をして6時間以上静置する。静置後、試験管中の上澄み液をビーカーに取り出し、エタノールを添加して樹脂分を再沈させ、70℃雰囲気のオーブン中にて溶剤を完全に揮発させる。
得られた樹脂分250mgをトルエン25mLに溶解させ、得られたトルエン溶液10mLに対して、ウベローデ粘度管を用いて、30℃におけるトルエンに対する相対粘度を測定する。
相対粘度ηspは、次式により算出する。
ηsp={(樹脂分トルエン溶液の通過時間)/(トルエンの通過時間)}−1
【0053】
(5)熱伝導率
熱伝導率は、JIS A9511に準じて測定した。測定には、発泡体製造後30日経過した発泡体について行った。
【0054】
(実施例1)
スチレン系樹脂100部に対して、臭素系難燃剤としてテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル4.0部、多価アルコール安定剤としてプレンライザーST210を0.1部、タルク0.5部、ベントナイト1.0部およびアエロジル0.1部からなる樹脂混合物をドライブレンドした。
得られた樹脂混合物を口径65mmの単軸押出機(第一押出機)と口径90mmの単軸押出機(第一押出機)を直列に連結したタンデム型二段押出機へ、約50kg/hrの割合で供給した。
第一押出機に供給した樹脂混合物を、樹脂温度200℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、以下に示す発泡剤を第一押出機の先端付近で樹脂中に圧入した。その後、第一押出機に連結された第二押出機中にて、樹脂温度を120℃に冷却し、第二押出機の先端に設けた厚さ2mm×幅50mmの長方形断面の口金より大気中へ押出発泡させた後、口金に密着させて設置した成形金型とその下流側に設置した成形ロールにより、厚さ50mm×幅150mmである断面形状の押出発泡板を得た。
なお、発泡剤としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、水0.7重量部、イソブタン4重量部およびジメチルエーテル2重量部を用いた。
得られた発泡体の特性を、表1に示す。
【0055】
(実施例2〜6)
表1に示すように、発泡剤の種類・使用量、難燃剤の種類・使用量、他の配合剤の種類・使用量を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、発泡体を得た。
得られた発泡体の特性を表1に示す。
【0056】
(比較例1〜3)
表1に示すように、発泡剤の種類・使用量、難燃剤の種類・使用量、他の配合剤の種類・使用量を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、発泡体を得た。得られた発泡体の特性を表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜5および比較例1〜3を比較して明らかなように、スチレン系樹脂100重量部に対して、臭素系難燃剤を1〜6重量部を含有し、多価アルコール系安定剤を該臭素系難燃剤100重量部に対して、1重量部〜50重量部含有することにより、高度な難燃性を維持しつつ、熱安定性が改善された押出発泡体を安定して得られることが判る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂および発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂発泡体であって、
スチレン系樹脂100重量部に対して、臭素系難燃剤を1〜6重量部を含有し、かつ、
多価アルコール系安定剤を該臭素系難燃剤100重量部に対して1重量部〜50重量部含有することを特徴とするスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項2】
臭素系難燃剤が、臭素が脂肪族アルキル部位にも付加されてなる脂肪族臭素系難燃剤であることを特徴とする、請求項1に記載のスチレン系樹脂押出発泡体、
【請求項3】
臭素系難燃剤が、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテル、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートおよびクロロペンタブロモシクロヘキサンより選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1または2に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項4】
発泡剤が、炭素数が3〜5である飽和炭化水素から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項5】
発泡剤が、さらに、他の発泡剤として、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチルおよび塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする、請求項4に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項6】
他の発泡剤が、水を含むことを特徴とする、請求項4または5に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項7】
発泡体を形成する気泡径が、主として、気泡径0.2mm以下の気泡と気泡径0.25〜1mmの気泡より構成されることを特徴とする、請求項6に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項8】
発泡体を形成する気泡の内、気泡径0.2mm以下の気泡の発泡体断面積あたりの占有面積率が、5〜95%であることを特徴とする、請求項7に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
【請求項9】
スチレン系樹脂および発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂発泡体の製造方法であって、
スチレン系樹脂100重量部に対して、臭素系難燃剤を1〜6重量部を含有し、かつ、
多価アルコール系安定剤を該臭素系難燃剤100重量部に対して、1重量部〜50重量部含有することを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2012−172140(P2012−172140A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38838(P2011−38838)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】