説明

スチールコードコンベヤベルト

【課題】本発明は、走行抵抗のうち高い割合を占めるキャリアローラの乗り越え抵抗を抑えることで走行抵抗を低減し、省エネ化を図ることができるスチールコードコンベヤベルトを提供する。
【解決手段】ベルト強力Kn(N/mm)とスチールコードの公称コード径から求められる断面積A(mm2)とを、90≦Kn/A≦150の関係を満たすようにし、下面カバーゴム1bは損失係数0.08以下の低損失係数ゴムを用いて形成し、下面カバーゴム1bに補強布3を埋設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコードの心体が埋設されているコンベヤベルトに関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、地球温暖化防止策として、CO2の排出量を削減する様々な試みがなされている。例えば、自動車の排ガスを削減するための燃費改善の技術開発や、ビルや工場等の設備の省エネ化などが進められている。このような取り組みの一環として、ベルトコンベヤの省エネ化、つまり、コンベヤベルトの走行抵抗を低減することで、ベルトコンベヤの消費電力を抑える試みが為されている。具体的には、心体帆布が埋設されているコンベヤベルトにおいて、心体帆布の上側及び/又は下側に、補強用帆布をベルト幅方向中央部に位置させて埋設し、ベルト幅方向中央部の剛性を高めたコンベヤベルトが実用に供されている(例えば、特許文献1参照)。このコンベヤベルトは、三点式キャリアローラを通過する際、ベルト幅方向中央部が屈曲することなく略フラットな状態が維持されるため、キャリアローラの乗り越え抵抗が減少し、走行抵抗が低減されるのである。また、上記特許文献1において、キャリアローラの乗り越え抵抗をより抑えるため、粘弾性特性のロスファクターが小さく且つ摩擦係数の小さいゴム材料を用いる提案も為されている。
【特許文献1】特開2004−18202号公報(第3頁、第1及び2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1の発明のコンベヤベルトは、心体として帆布が埋設されているコンベヤベルトに対応する技術であるが、スチールコードを心体として埋設しているコンベヤベルトについても走行抵抗の低減が求められている。
【0004】
そこで、本発明は、走行抵抗の中でも高い割合を占めるキャリアローラの乗り越え抵抗を少なくすることで走行抵抗を低減し、省エネ化を図ることができるスチールコードコンベヤベルトの提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載のスチールコードコンベヤベルトは、
(1)ベルト強力Kn(N/mm)とスチールコードの公称コード径から求められる断面積A(mm2)とを、90≦Kn/A≦150の関係を満たすようにすること。
(2)下面カバーゴムを損失係数0.08以下の低損失係数ゴムとすること。
(3)前記下面カバーゴムに補強布を埋設すること。
を特徴としている。
【0006】
この請求項1のスチールコードコンベヤベルトによれば、上記(1)のように、前記ベルト強力Knと前記断面積Aとを、90≦Kn/A≦150の関係を満たすようにすることで、前記公称コード径とコードピッチとの関係を、キャリアローラの乗り越え抵抗を減少させるとともに、ジョイントに適した関係とすることができる。
【0007】
つまり、前記スチールコードコンベヤベルトがキャリアローラを通過する際、前記下面カバーゴムに圧縮変形が生じるが、前記下面カバーゴムは粘弾性体であるため、変形によるエネルギーロスが生じる。このエネルギーロスが、前記スチールコードコンベヤベルトの前記キャリアローラの乗り越え抵抗となる。
【0008】
そこで、90≦Kn/Aの関係を満たすようにすれば、前記公称コード径及び前記コードピッチが小さくなり、前記スチールコードと前記キャリアローラとの間に集中する応力を分散し緩和することができる。その結果、前記下面カバーゴムと前記キャリアローラとの面圧が下がり前記下面カバーゴムの変形が抑えられ、前記ローラの乗り越え抵抗が減少する。
【0009】
また、Kn/A≦150の関係を満足させることによって、前記公称コード径及び前記コードピッチが実質的にジョイントできない関係になることを回避することができる。つまり、Kn/Aが150を超えれば、前記公称コード径と前記コードピッチとが小さくなりすぎて、ジョイント部で前記スチールコード間の距離が確保できなくなる。そうすると、ジョイント不可能となるか、強度を確保するためにジョイント部における前記スチールコードの配置が非常に複雑になり、ジョイント部が長くなって実質的にジョイントが不可能となるからである。ジョイント部は、ジョイント作業性やベルト使用量の節約の面からすれば、接合強度が確保され且つ長さが短い方が望ましく、ジョイント構造は、ジョイント作業性の面からすれば、簡単なものが望ましい。
【0010】
前記公称コード径と前記コードピッチとの関係をベルト強力Kn/断面積Aで定義しているのは以下の理由による。即ち、前記スチールコードの一本当たりの引張強さをFbs、前記スチールコードコンベヤベルトのベルト幅をb、前記スチールコードの打ち込み本数をn、前記コードピッチをpとすれば、ベルト強力Knは次式で表される。
【0011】
n=Fbs×n/b・・・(I)
上記(1)式においてn/bの逆数、つまり、前記スチールコードコンベヤベルトには耳部があるため若干の誤差はあるものの、b/nは前記コードピッチpに相当し、次の(II)式で表すことができる。
【0012】
n=Fbs/p・・・(II)
ベルト強力Knは、前記スチールコードの一本当たりの引張強さFbsが一定、つまり、前記スチールコードの径が同一の場合は、前記コードピッチpを変えることによって、所定の前記ベルト強力Knを確保することができる。また、前記コードピッチpが一定の場合、前記スチールコードの一本当たりの引張強さFbsは前記スチールコードの断面積Aに比例するので、前記スチールコードの断面積Aを変えることにより、所定の前記ベルト強力Knを得ることができる。なお、前記公称コード径が同じ場合でも、素線の構造が違えば実断面積が異なり、前記スチールコードの一本当たりの引張強さFbsは相違するが、このような素線の構造の違いによる影響は少ないと見なし、前記スチールコードの径を公称コード径で示している。
【0013】
そこで、JIS規格及びISO規格における、前記ベルト強力Knと断面積A/コードピッチpとの関係を、表1(JIS規格)及び表2(ISO規格)に示す。また、表1及び表2に示した関係を散布図で示すと図1のようになる。図1は、縦軸を断面積A/コードピッチpとし、横軸をベルト強力Knとしている。
【0014】
図1の散布図により、前記ベルト強力Knに対する断面積A/コードピッチpの値は、ほぼ同一直線状になっており、前記ベルト強力Knと断面積A/コードピッチpとが比例関係にあることがわかる。そこで、一般的にベルトの仕様の設計がベルト強力を基準にして行われることから、前記公称コード径と前記コードピッチpとの関係をベルト強力Kn/断面積Aで定義することとした。このように定義している理由は、例えば、断面積A/ベルト強力Knとすれば小数点以下の数値となり扱いづらいからである。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

上記(1)の構成に加えて、上記(2)のように前記下面カバーゴムを損失係数0.08以下の低損失係数ゴムとすれば、前記下面カバーゴムのエネルギー吸収を抑え、前記下面カバーゴムの変形によるエネルギーロスを小さくすることができる。よって、前記キャリアローラの乗り越え抵抗を大幅に減少させることができる。
【0017】
この低損失係数ゴムは、JIS規格(日本工業規格)K6394の加硫ゴム及び熱可塑性ゴム(動的性質の求め方)一般指針に準拠し求めた損失係数(損失正接とも言う)が0.08以下のエネルギーを吸収しにくいゴムである。損失係数(tanσで表される)は、貯蔵弾性係数をE′、損失弾性係数をE″とすれば、tanσ=E″/E′で表すことができ、表3に前記損失係数を求めるための諸条件を示す。
【0018】
【表3】

さらに、上記(3)のように、前記下面カバーゴムに前記補強布を埋設すれば、前記下面カバーゴムにおいて、前記スチールコードと前記キャリアローラとの間に生じる応力集中を分散し緩和することができる。これにより、前記下面カバーゴムと前記キャリアローラとの面圧が下がり、前記下面カバーゴムの変形が抑えられるためエネルギーロスが少なくなり、前記キャリアローラの乗り越え抵抗を減少させる。
【0019】
なお、前記補強布は、前記スチールコードコンベヤベルトがトラフ型のキャリアローラを通過する際、トラフ角に応じて湾曲しやすいものが良く、例えば、伸びが大きく柔軟性を備えたナイロン繊維の補強布などが好適である。
【0020】
請求項2に記載のスチールコードコンベヤベルトは、補強布をベルト全幅にわたり埋設することを特徴としている。
【0021】
この請求項2のスチールコードコンベヤベルトによれば、前記スチールコードと前記キャリアローラとの間に生じる応力集中を、前記下面カバーゴムの全幅に分散し緩和させることができるため、前記下面カバーゴムと前記キャリアローラとの面圧を下げる効果が向上する。
【0022】
請求項3に記載のスチールコードコンベヤベルトは、ベルト強力Knと断面積Aとを、100≦Kn/A≦130の関係を満たすようにすることを特徴としている。この請求項2のスチールコードコンベヤベルトによれば、公称コード径とコードピッチとの関係を、キャリアローラの乗り越え抵抗を減少させつつも、従来と同等の長さでジョイントを行うことを可能にする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1のスチールコードコンベヤベルトは、ジョイント作業の複雑化を伴うことなく、従来のスチールコードコンベヤベルトに比べて走行抵抗を格段に低減させることができる。したがって、小さい動力で駆動することができ、省エネ効果の高い運転が可能になる。しかも、走行抵抗が低減するため、従来と同じベルト強度でありながらベルトの安全率を高めることができる。また、スチールコードの径が小さくなるため、ベルト総厚を薄くすることができ、ゴム材料の使用量を節約することができる。
【0024】
請求項2のスチールコードコンベヤベルトは、下面カバーゴムとキャリアローラとの面圧を下げる効果が向上し、少ない抵抗で走行することが可能となるため、省エネ効果の向上を図ることができる。
【0025】
請求項3のスチールコードコンベヤベルトは、従来と同等のジョイント作業性でありながら、上記請求項1又は2のスチールコードコンベヤベルトと同様の省エネ効果や安全率の向上、ゴム材料の節約などの効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係るスチールコードコンベヤベルトの実施形態を図1〜8を参照しつつ説明する。
【0027】
スチールコードコンベヤベルト1(以下、コンベヤベルト1とも称する)は、図2(a)のベルト幅方向断面図に示すように、複数本のスチールコード2が埋設されているコンベヤベルトである。スチールコード2は、コンベヤベルト1の全長にわたって埋設されており、ベルト長さ方向Xに平行で且つベルト幅方向Yに一定のピッチで設けられている。スチールコード2の上下には、カバーゴム1a・1b(上面カバーゴム1a、下面カバーゴム1b)がそれぞれ設けられており、下面カバーゴム1bは、表4に記載した配合の低損失係数ゴムが用いられている。
【0028】
【表4】

この低損失係数ゴムは、JIS規格(日本工業規格)K6394の加硫ゴム及び熱可塑性ゴム(動的性質の求め方)一般指針に準拠し求めた損失係数tanσが0.05のゴムを示している。上記損失係数tanσを求めたときの諸条件を表5に示す。
【0029】
【表5】

この低損失係数ゴムは、エネルギーを吸収しにくいゴムであるため、コンベヤベルト1がキャリアローラを乗り越える際のエネルギーロスが抑えられ、乗り越え抵抗を減少させることができる。
【0030】
また、下面カバーゴム1bの中間層には、ナイロン繊維からなる補強布3が全幅にわたり埋設されている。これにより、下面カバーゴム1bにおけるスチールコード2とキャリアローラとの間に生じる応力集中を、下面カバーゴム1bの全幅に分散し緩和することができる。したがって、面カバーゴム1bとキャリアローラとの面圧が低くなり、下面カバーゴム1bの変形が抑えられ、コンベヤベルト1がキャリアローラを乗り越す際のエネルギーロスが少なくなり、乗り越え抵抗が減少する。ナイロン繊維は、伸びが大きく柔軟性があるため、コンベヤベルト1がトラフ型のキャリアローラを通過する際、トラフ角に応じて湾曲しやすくなっている。また、ナイロン繊維は高い強度を備えているため、コンベヤベルト1は耐久性にも優れている。
【0031】
このコンベヤベルト1は、ベルト強力をKnとし、公称コード径から求められるスチールコード2の断面積をAとすれば、90≦Kn/A≦150の関係を満足するように構成されている。ベルト強力Kn/断面積Aがこの条件を満たしていれば、公称コード径とコードピッチとのサイズを、キャリアローラの乗り越え抵抗が減少し、且つ、ジョイントに適した範囲で小さくすることができる。
【0032】
つまり、コンベヤベルト1がキャリアローラを通過する際、下面カバーゴム1bには圧縮変形が生じる。通常、下面カバーゴム1bは粘弾性体であるため、この変形によるエネルギーロスが生じる。このエネルギーロスが、コンベヤベルト1がキャリアローラを乗り越える際の乗り越え抵抗となり、コンベヤベルト1の走行抵抗の要因になっている。そこで、ベルト強力Knと断面積Aとを90≦Kn/A≦150の関係を満たすようにすることで、スチールコード2とキャリアローラとの間に集中する応力を分散し緩和することができる。その結果、下面カバーゴム1bとキャリアローラとの面圧が下がり、下面カバーゴム1bの変形が抑えられるため、キャリアローラの乗り越え抵抗が減少する。
【0033】
n/Aが90未満になれば、公称コード径とコードピッチとのサイズを、省エネ効果が期待できるほどに小さくすることができず、Kn/Aが150を超えれば、公称コード径及とコードピッチとが小さくなりすぎ、ジョイント部でスチールコード2間の距離が確保できなくなる。そうすると、ジョイント不可能となるか、若しくは、強度を確保するために3段以上のオーバーラップジョイントが必要になり、スチールコード2の配置が非常に複雑になるとともにジョイント部が長くなり、実質的にジョイント不可能となるからである。
【0034】
次に、走行中のコンベヤベルト1が、キャリアローラを乗り越す際に受ける抵抗を測定した走行試験結果について説明する。
【0035】
この走行試験に用いた試験装置10は、図2(b)に示すように直径500mmの駆動プーリ11と従動プーリ12とが3000mm離間させて配置し、これらのプーリ間に無端のコンベヤベルト1を掛け回すようになっている。そして、キャリア側の一箇所にフラットのキャリアローラ13が配置されており、このキャリアローラ13は、プーリ間に掛け回したコンベヤベルト1のベルト長さ方向に往復移動が可能な移動台車14上に固定されている。移動台車14の駆動プーリ11側にはロードセル15が配置されており、移動台車14が、コンベヤベルト1の走行方向に押された際の移動台車14にかかる負荷を測定できるようになっている。キャリアローラ13の上方にはコンベヤベルト1に対し、垂直荷重をかける負荷装置16が配置されている。この負荷装置16のコンベヤベルト1との接触面には複数のローラ17が配置され、コンベヤベルト1の走行に影響を与えることなく垂直荷重を付加できるようになっている。
【0036】
このような試験装置1に500mm幅のコンベヤベルト1を取り付け、ベルト速度170m/minで走行させつつ、垂直荷重5kN/m(幅方向の1m当たり)を付加し、移動台車14が受ける荷重を測定して、コンベヤベルト1がキャリアローラ13を乗り越える際の抵抗を調べた。なお、走行試験は、公称コード径やコードピッチが異なる本発明の四種類のコンベヤベルト(実施例1〜4)と、標準的な仕様のコンベヤベルト(比較例2)の他に、比較例2のコンベヤベルトの仕様を一部変更した五種類のコンベヤベルト(比較例1、3〜6)とについて行った。各実施例及び比較例の下面カバーゴムの厚みは、目安となるスチールコードのコード径に応じて設定し、比較例4〜6及び各実施例のコンベヤベルトについては、走行抵抗低減効果を見込み、ベルト強力を標準的な仕様から1ランク下げた2250N/mmとした。各実施例及び比較例コンベヤベルトの仕様を表6に示す。
【0037】
【表6】

表4において、下面カバーゴム種の普通とは、汎用の普通コンベヤベルトに使用されている天然ゴムを主成分とした損失係数tanσ0.15のゴムを示しており、その配合は表1に示している。なお、上記走行試験の測定結果は、表4に走行抵抗指数として記載している。走行抵抗指数は、比較例2のコンベヤベルトの走行試験で測定された荷重を基準にし、この荷重を100として指数で表したものである。
【0038】
比較例1と比較例2とを比べると、比較例1の方が公称コード径及びコードピッチが大きく、走行抵抗指数も大きくなっている。したがって、公称コード径及びコードピッチを大きくすることは、キャリアローラの乗り越え抵抗を増加させる要因となることが推察される。
【0039】
比較例3と比較例2とを比較すれば、公称コード径及びコードピッチは同一であるが、比較例3は走行抵抗指数が半減している。したがって、下面カバーゴムに低損失係数ゴムを使用すれば、キャリアローラの乗り越え抵抗を大幅に減少させることが推察される。
【0040】
比較例4と比較例5とを比較すれば、比較例5の方が走行抵抗紙数は小さくなっている。したがって、公称コード径及びコードピッチを小さくすれば、キャリアローラの乗り越え抵抗は減少することが推察される。
【0041】
比較例6は、公称コード径とコードピッチとが小さくなりすぎ、3段以上のオーバーラップジョイントを行う必要があるため、構造やジョイント作業が複雑になり現実的でないため走行試験は省略した。
【0042】
比較例4と実施例1とを比較すれば、実施例1の方が走行抵抗紙数は小さくなっている。したがって、補強布を下面カバーゴムに埋設すると、キャリアローラの乗り越え抵抗を減少させる効果のあることが推察される。
【0043】
実施例1〜4を比較すると、公称コード径及びコードピッチの小さい方が、走行抵抗は小さくなることが推察される。しかも、いずれの実施例のコンベヤベルトも比較例2の走行抵抗指数と比べると60%以下になっており、本発明にかかる実施例1〜4のコンベヤベルトが、走行抵抗を大幅に減少させるベルトであることが推察される。
【0044】
これらの比較検討と、ベルト強力Kn/断面積Aと走行抵抗指数との関係を見てみると、Kn/Aが90〜150の範囲であれば、公称コード径及びコードピッチが、キャリアローラの乗り越え抵抗を大幅に減少させる、つまり、極めて少ない抵抗で走行可能となるサイズであることが推察される。また、比較例2のジョイント長さを目安にすれば、現実的にジョイント可能なサイズになっており、特に、Kn/Aが100〜130の範囲であれば、ジョイントを比較例2と同等の長さでジョイントが行えるので、ジョイント構造の複雑化や作業性の低下を避けることができて好適である。
【0045】
次に、FEM(有限要素法)解析で解析した結果を説明する。
1)コンベヤベルトの仕様
上記走行試験で用いた実施例1〜4及び比較例1〜6のコンベヤベルト。
2)使用条件
搬送量 1200t/h
ベルト速度 170m/min
比重 1.6
張力 112.5kN(ベルト幅1/2モデル上、全幅225kN相当)
S.F.=10、ベルト強力2500N/mmより設定
キャリアローラ径 114.3mm
キャリアローラピッチ 1.5m
3)解析モデル
解析モデルを図3に示す。この解析モデルは、三点式のキャリアローラ101上をコンベヤベルト102が走行している状態を示し、ベルト幅方向中心をベルト長さ方向と平行にカットしたものである。図中の符号103はスチールコードを示している。
4)出力項目
スチールコード中心から下面カバーゴム表面までのゴム部要素一層のひずみエネルギーの合計値を出力した。このひずみエネルギーの合計値に損失係数を乗じた値が損失エネルギーで、この値が走行抵抗と相関関係のあることが確認されている。なお、比較例2の損失エネルギーを100として指数で表している。
5)解析結果
FEM解析結果を表7に示す。
【0046】
【表7】

比較例1と比較例2とを比べると、比較例1の方が公称コード径及びコードピッチが大きく、損失エネルギー指数が大きい。また、ベルト断面におけるMises応力分布図によれば、比較例1(図4(a))の方が比較例2(図4(b))よりも赤色〜黄色の領域が広く、高い応力集中が発生していることがわかる。なお、応力は高い方から順に赤色、黄色、緑色、青色で示している。したがって、公称コード径及びコードピッチを大きくすることは、キャリアローラの乗り越え抵抗を増加させる要因となることが推察される。
【0047】
比較例3と比較例2とを比較すれば、Mises応力分布図においては、比較例3(図5(a))と比較例2(図4(b))とで、FEM解析の入力条件である応力−ひずみ特性がほぼ同一のため違いはないが、下面カバーゴムの違いによる損失係数の差により、比較例3の方は損失エネルギー指数が約1/3に低下している。したがって、公称コード径及びコードピッチが同一であることから、下面カバーゴムに低損失係数ゴムを使用すれば、キャリアローラの乗り越え抵抗は大幅に減少することが推察される。
【0048】
比較例4と比較例5とを比較すれば、比較例5の方が損失エネルギー指数は小さくなっている。また、Mises応力分布図によれば、比較例5(図6(a))の方が比較例4(図5(b))よりも赤色〜黄色の領域が小さく、応力集中が緩和されていることがわかる。したがって、公称コード径及びコードピッチを小さくすれば、キャリアローラの乗り越え抵抗の低下が期待できる。
【0049】
比較例6は、損失エネルギー指数が最も小さい値を示しており、Mises応力分布図(図6(b))においても赤色〜黄色の領域が見られず、応力集中が大幅に緩和されていることがわかる。しかしながら、公称コード径とコードピッチとが小さくなりすぎ、3段以上のオーバーラップジョイントを行う必要があるため、構造やジョイント作業が複雑になり現実的でない。
【0050】
比較例4と実施例1とを比較すれば、実施例1の方が損失エネルギー指数は小さくなっている。また、Mises応力分布図によれば、実施例1(図7(a))の方は、赤色〜黄色の領域がほとんど見られず、比較例4(図5(b))に比べて応力集中が緩和されていることがわかる。したがって、補強布を下面カバーゴムに埋設すると、キャリアローラの乗り越え抵抗は減少することが推察される。
【0051】
実施例1〜4を比較すると、公称コード径及びコードピッチを小さくする方が、損失エネルギー指数は小さくなっている。また、Mises応力分布図(図7(a)、(b)〜図8(a)、(b))によれば、差は少ないが公称コード径及びコードピッチの小さい方が緑色〜青色の領域は広く、応力集中がより緩和されることがわかる。つまり、公称コード径及びコードピッチを小さくする方が、キャリアローラの乗り越え抵抗を減少させることが推察できる。しかも、いずれの実施例のコンベヤベルトも比較例2の損失エネルギー指数と比べると60%以下になっており、本発明にかかる実施例1〜4のコンベヤベルトが、損失エネルギー指数を大幅に減少させるベルトであることが推察される。
【0052】
これらの比較検討と、ベルト強力Kn/断面積Aと損失エネルギー指数との関係及びMises応力分布図を見てみると、Kn/Aが90〜150の範囲であれば、公称コード径及びコードピッチが、キャリアローラの乗り越え抵抗を大幅に減少させる、即ち、極めて少ない走行抵抗となるサイズであることが推察される。また、比較例2のジョント長さを目安にすれば、現実的にジョイント可能なサイズであり、特に、Kn/Aが100〜130の範囲であれば、ジョイントを比較例2と同等のジョイント長さで行えるため、ジョイント構造の複雑化や作業性の低下を避けることができ好適である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】JIS規格及びISO規格に規定されている数値に基づいて公称コード断面積とコードピッチ及びベルト強度との関係を示す散布図。
【図2】(a)本発明に係るコンベヤベルトのベルト幅方向断面図。(b)発明を実施するための最良の形態に示した走行試験機の概念図。
【図3】応力の分布状態を解析する解析モデル。
【図4】(a)比較例1のMisesの応力分布図。(b)比較例2のMisesの応力分布図。
【図5】(a)比較例3のMisesの応力分布図。(b)比較例4のMisesの応力分布図。
【図6】(a)比較例5のMisesの応力分布図。(b)比較例6のMisesの応力分布図。
【図7】(a)実施例1のMisesの応力分布図。(b)実施例2のMisesの応力分布図。
【図8】(a)実施例3のMisesの応力分布図。(b)実施例4のMisesの応力分布図。
【符号の説明】
【0054】
1 スチールコードコンベヤベルト(コンベヤベルト)
1a 上面カバーゴム
1b 下面カバーゴム
2 スチールコード
3 補強布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト強力Kn(N/mm)とスチールコードの公称コード径から求められる断面積A(mm2)とが、90≦Kn/A≦150の関係を満たし、下面カバーゴムが損失係数0.08以下の低損失係数ゴムであり、この下面カバーゴムに補強布が埋設されていることを特徴とするスチールコードコンベヤベルト。
【請求項2】
前記補強布が、ベルト全幅にわたり埋設されていることを特徴とする請求項1記載のスチールコードコンベヤベルト。
【請求項3】
前記ベルト強力Knと前記断面積Aとが、100≦Kn/A≦130の関係を満たしていることを特徴とする請求項1又は2に記載のスチールコードコンベヤベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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