説明

スチールコード被覆用ゴム組成物およびそれを用いたタイヤ

【課題】ゴム強度および転がり抵抗特性をともに向上させることができるスチールコード被覆用ゴム組成物ならびにそれを用いたタイヤを提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対して、補強剤を30〜100質量部、下記一般式
−(R−Sxn
(式中、Rは(CH2−CH2−O)m−CH2−CH2、xは3〜6の整数、nは10〜400の整数であり、mは2〜5の整数である)で示される有機加硫剤を5〜40質量部、および有機酸コバルトを含有するスチールコード被覆用ゴム組成物およびそれで被覆したスチールコードを有するタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチールコード被覆用ゴム組成物およびそれを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイヤにはタイヤを補強するためにタイヤコードが設けられている。このタイヤコードには、スチールや有機繊維などが用いられ、主にタイヤのカーカス層やベルト層に設置される。とくにスチールコードを用いる場合には、スチールコードとゴムとの接着性を高める必要があり、そのためにスチールコードをスチールコード被覆用ゴム組成物(コーティングゴム)によって被覆することが一般的に行われている。このようなゴム組成物には、耐久性(ゴム強度)だけでなく、環境問題や経済性を考慮して低燃費性(低転がり抵抗)が要求される。
【0003】
これらの要求性能を達成するために、スチールコード被覆用ゴム組成物にシリカを配合することが考えられるが、転がり抵抗は低減するものの、ゴム強度が低下するという問題がある。また、スチールコード被覆用ゴム組成物に配合するカーボンブラックの量を低減することも考えられるが、この場合も、転がり抵抗は低減するものの、ゴム強度が低下するという問題がある。
【0004】
一方、特許文献1には、ゴム成分、カーボンブラック、有機酸コバルト、所定のシランカップリング剤および硫黄を含有するスチールコーティング用ゴム組成物が開示されているが、硫黄を含有する特定のシランカップリング剤を使用するので、コストが増大し、加工性が悪化してしまうという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2005−75888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ゴム強度および転がり抵抗特性をともに向上させることができるスチールコード被覆用ゴム組成物ならびにそれを用いたタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ジエン系ゴム100質量部に対して、補強剤を30〜100質量部、下記一般式
−(R−Sxn
(式中、Rは(CH2−CH2−O)m−CH2−CH2、xは3〜6の整数、nは10〜400の整数であり、mは2〜5の整数である)で示される有機加硫剤を5〜40質量部、および有機酸コバルトを含有するスチールコード被覆用ゴム組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、前記のスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆したスチールコードを有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ジエン系ゴム、補強剤および所定の有機加硫剤を所定量ならびに有機酸コバルトを含有したゴム組成物を、スチールコード被覆用に使用すると、タイヤのゴム強度および転がり抵抗特性をともに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、ジエン系ゴム、補強剤、特定の有機加硫剤および有機酸コバルトを含有する。
【0011】
ジエン系ゴムとしては、とくに制限はなく、たとえば、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、スチレンイソプレンゴム、イソプレンブタジエンゴムなどがあげられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、転がり抵抗を低減させるという理由から、NR、ENRが好ましく、NRがより好ましい。
【0012】
NRとしては、従来ゴム工業で使用されるRSS♯3、TSR20などのグレードのNRを用いることができる。
【0013】
NRを含有する場合、ジエン系ゴム中のNRの含有率は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。NRの含有率が50質量%未満では、転がり抵抗が増大する傾向がある。とくに、NRの含有率は、100質量%が最も好ましい。
【0014】
補強剤としては、たとえば、カーボンブラック、シリカ、クレー、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタンなどがあげられ、これらの補強剤は単独で用いても、2種以上を組みあわせてもよい。なかでも、補強性および加工性に優れるという理由から、カーボンブラックおよび/またはシリカが好ましく、カーボンブラックがより好ましい。
【0015】
補強剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して30質量部以上、好ましくは35質量部以上である。補強剤の含有量が30質量部未満では、ゴムの補強性が悪化する。また、補強剤の含有量は100質量部以下、好ましくは95質量部以下である。補強剤の含有量が100質量部をこえると、未加硫時の粘度が高くなって加工性が悪化し、さらに、燃費が悪化する。
【0016】
有機加硫剤としては、ゴム強度および転がり抵抗特性をともに向上させるため、硫黄の代わりに分子内に硫黄原子を含むポリマーを用いるという理由から、下記一般式
−(R−Sxn
(式中、Rは(CH2−CH2−O)m−CH2−CH2、xは3〜6の整数、nは10〜400であり、mは2〜5の整数である。)で表される構造を有する有機加硫剤を用いる。
【0017】
式中、xは3以上、好ましくは4以上である。xが3未満では、加硫が遅延する。また、xは6以下、好ましくは5以下である。xが6をこえると、ゴム組成物の製造が困難となる。
【0018】
式中、nは10以上、好ましくは50以上である。nが10未満では、有機加硫剤が揮発しやすく、取り扱いが困難となる。また、nは400以下、好ましくは300以下である。nが400をこえると、ゴムとの相溶性が悪化する。
【0019】
式中、mは2以上である。mが2未満では、得られたゴム組成物の屈曲性能が低下する。また、mは5以下、好ましくは4以下である。mが5をこえると、ゴム組成物の充分な硬度が得られない。
【0020】
有機加硫剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して5質量部以上、好ましくは10質量部以上である。有機加硫剤の含有量が5質量部未満では、充分なゴムの補強性が得られない。また、有機加硫剤の含有量は40質量部以下、好ましくは35質量部以下である。有機加硫剤の含有量が40質量部をこえると、ゴムの硬度が著しく増大し、ゴムがもろくなる。
【0021】
有機加硫剤は、硫黄などの加硫剤とともに使用することもできる。
【0022】
有機酸コバルトとしては、たとえば、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、オレイン酸コバルト、マレイン酸コバルトなどがあげられる。なかでも常温において固体で、空気下で安定性が優れており、さらに加工助剤としてはたらく(粘度を低下させる)という理由から、ステアリン酸コバルトを用いることが好ましい。有機酸コバルトを配合すると、有機酸コバルトは、コードとゴムとを架橋する役目を果たすため、コードとゴムとの接着性を向上させることができる。
【0023】
有機酸コバルトの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、コバルトに換算して0.03質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましい。有機酸コバルトの含有量が0.03質量部未満では、コードとの接着性が低下する傾向がある。また、有機酸コバルトの含有量は3質量部以下が好ましく、1.0質量部以下がより好ましい。有機酸コバルトの含有量が3質量部をこえると、ゴムの強度が悪化する傾向がある。
【0024】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物は、ジエン系ゴム、補強剤および所定の有機加硫剤を所定量ならびに有機酸コバルトを含有することにより、ゴム強度および転がり抵抗特性をともに向上させることができる。
【0025】
本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物には、前記ジエン系ゴム、補強剤、有機加硫剤および有機酸コバルト以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、たとえば、各種オイル、各種老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄、各種加硫促進剤などを、必要に応じて適宜配合することができる。
【0026】
本発明のタイヤは、本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造することができる。すなわち、必要に応じて前記配合剤を配合した本発明のスチールコード被覆用ゴム組成物を、未加硫の状態で、カレンダーロールなどを用いて、ライン速度をゴム組成物が過度に発熱しないように適宜調節し、所定サイズの未加硫ゴムシートを作製し、スチールコードを被覆することでカーカスまたはベルトの形状に成形し、タイヤの他の部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを成形する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより本発明のタイヤを得る。
【実施例】
【0027】
実施例にもとづいて、本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0028】
つぎに、実施例および比較例で用いた各種薬品について、まとめて説明する。
天然ゴム(NR):TSR20
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックLH(N326、N2SA:84m2/g)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
プロセスオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスPS32
老化防止剤:フレキシス社製のサントフレックス13(N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日本油脂(株)製の桐
有機酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のCOST−F(ステアリン酸コバルト、コバルト元素を10質量%含有)
硫黄:フレキシス製のクリステックスHSOT20(硫黄80質量%およびオイル分20質量%含む不溶性硫黄)
有機加硫剤:ポリ−3,6−ジオキサオクタン−テトラスルフィド(x=4、n=200、m=2)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルファンアミド)
【0029】
実施例1〜3および比較例1〜3
表1に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製1.7Lバンバリーミキサーにて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を140℃の条件下で5分間以上混練りし、混練物を得た。次に、得られた混練物に、硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールにて、100℃以下の条件下で3分間混練りし、未加硫ゴムシートを作製した。さらに、未加硫ゴムシートを175℃の条件下で10分間プレス加硫し、実施例1〜3および比較例1〜3の加硫ゴム組成物を作製した。
【0030】
(引張り試験)
前記加硫ゴム組成物から、3号ダンベルの加硫ゴム試験片を作成し、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム―引張特性の求め方」に準じて引張試験をおこない、破断強度(TB)および破断時伸び(EB)を測定し、その積(TB×EB)を算出した。なお、TB(MPa)×EB(%)が大きいほど、ゴム強度に優れることを示す。
【0031】
(粘弾性試験)
前記加硫ゴム組成物を所定のサイズの加硫ゴム試験片に成形し、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVES−F−3を用いて、初期歪10%、動歪2%および周波数10Hzの条件下で、60℃における実施例1〜3および比較例1〜3の加硫ゴム試験片の損失正接(tanδ)を測定した。tanδが小さいほど転がり抵抗が小さく、優れることを示す。
【0032】
上記試験の評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
比較例1は、有機加硫剤を配合しない従来のスチールコード被覆用ゴム組成物である。
【0035】
実施例1〜3では、ゴム成分、補強剤および有機加硫剤を所定含有量ならびに有機酸コバルトを配合したことにより、ゴム強度および転がり抵抗特性がともに向上している。
【0036】
比較例2では、有機加硫剤の含有量が大きいため、ゴム強度が低下している。
【0037】
比較例3では、有機酸コバルトを配合しなかったことにより、ゴム強度が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、
補強剤を30〜100質量部、
下記一般式
−(R−Sxn
(式中、Rは(CH2−CH2−O)m−CH2−CH2、xは3〜6の整数、nは10〜400の整数であり、mは2〜5の整数である)
で示される有機加硫剤を5〜40質量部、および
有機酸コバルトを含有するスチールコード被覆用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1記載のスチールコード被覆用ゴム組成物で被覆したスチールコードを有するタイヤ。

【公開番号】特開2007−297593(P2007−297593A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61496(P2007−61496)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】