説明

ステアリング装置のシール構造

【課題】 車室内が車室外に対して負圧になった場合でも、シャフトシールとホールカバーの内周面に隙間が生じて、車室内と車室外との水密性および遮音性が損なわれることを防止することができるステアリングシャフトのシール構造を提供する。
【解決手段】 ステアリングシャフトの外周側にシャフトシール1の内周面を嵌合し、ホールカバー2の内周面にステアリングシャフトとともに車室内から嵌合してなるステアリング装置のシール構造において、当該シャフトシール1の外周面に外周側に突出しながら車室内側に指向するシールリップ1aを設けるとともに、当該シャフトシール1の前記ホールカバー2の車室内側端面2aに対向する面に、シャフトシール1の軸線方向に車室内から車室外に向けて突出しながら、当該シャフトシール1の外周側から内周側に向けて指向する付加シールリップ1cを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のステアリング装置において、ステアリングホイール側の車室内とステアリングギアボックス側の車室外との間の水密性と遮音性を保つために使用されるシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にステアリング装置は、ステアリングホイール、ステアリングシャフト、ステアリングギアボックス、タイロッド等から構成されており、このうちステアリングホイールは車室内に設けられ、ステアリングギアボックスおよびタイロッドは車室外(通常はエンジンルーム内)に設けられているため、当該ステアリングホイールとステアリングギアボックスを連結して、操作力を伝達するためのステアリングシャフトは、車室内と車室外を隔てる車体パネルを貫通することになり、当該車体パネルには貫通穴を設ける必要がある。この貫通穴を通じて、車室内に車室外から雨水や騒音が浸入することを防止するため、通常は、当該貫通穴を外から包み込んで車室内に突出するホールカバーを設け、当該ホールカバーの内周側と、ステアリングシャフトとの間にはシャフトシールが設けられている。
【0003】
このシャフトシールは、例えば特許文献1に記載され、図5中51に示すようなものがあり、円筒状のホールカバー52を貫通するステアリングシャフト53の外周側に、嵌合されるとともに、図6(a)に示すように、当該シャフトシール51の外周側に外周側に突出するシールリップ51aを設け、ホールカバー52の車室内側から、シャフトシール51とともに車室外側に挿入することにより、図6(b)に示すように、当該シールリップ51aがホールカバーの内周面に押し付けられて、車室内と車室外との水密性および遮音性を保持している。
【0004】
なお、シャフトシール51の外周側には金属環よりなる外筒54が加硫接着により接合されて設けられ、シール固定バンド55により樹脂等よりなる可撓性を有するホールカバー52を外周側から内周側に向けて締め付けて、シャフトシール51のホールカバー52からの抜けを防止している。加えて、シャフトシール51の車室内側に、ここでは図示しない遮音カバーを嵌合して設けて、車室外から車室内へ騒音が漏れることを二重に防止している。
【0005】
ところがこのような形態のシャフトシール51によるシール構造では、前記シールリップ51aが、外周側に突出するにつれて、前述した車室内から車室外に向けての挿入方向αと、反対方向に指向するように形成されているため、高速走行時や標高の高い山から低地に下りてきた場合等に、車室内が車室外に対して負圧になった場合に、シールリップ51aが車室内側に吸い寄せられて、シールリップ51aの外周側が、ホールカバー52の内周面から離隔して、シールリップ51とホールカバー52との間に隙間が生じ、車室内と車室外との水密性および遮音性が低下するという問題点があった。
【特許文献1】特開平10−250602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述した課題を解決することであり、車室内が車室外に対して負圧になった場合でも、シャフトシールとホールカバーとの間に隙間が生じて、車室内と車室外との水密性および遮音性が損なわれることを防止することができるステアリングシャフトのシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るステアリングシャフトのシール構造は、ステアリングシャフトの外周側にシャフトシールを嵌合し、ホールカバーの内周面にステアリングシャフトとともに車室内から嵌合してなるステアリング装置のシール構造において、当該シャフトシールの外周面に外周側に突出しながら車室内側に指向するシールリップを設けるとともに、当該シャフトシールの前記ホールカバーの車室内側端面に対向する面に、シャフトシールの軸線方向に車室内から車室外に向けて突出しながら、当該シャフトシールの外周側から内周側に向けて指向する付加シールリップを設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
これによれば、シャフトシールの前記ホールカバーの車室内側端面に対向する面に、シャフトシールの軸線方向に車室内から車室外に向けて突出しながら、当該シャフトシールの外周側から内周側に向けて指向する付加シールリップを設けることにより、車室内が車室外に対して負圧になった場合には、当該付加シールリップがホールカバーの車室内側端面に押し付けられるため、シャフトシールとホールカバーの間に隙間が生じることを防いで、車室内と車室外との水密性および遮音性が損なわれることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係るステアリング装置のシール構造の一実施形態をシャフトシールの中心軸線を含む断面にて示す模式図である。
図1(a)は、ホールカバーにステアリングシャフトとシャフトシールを挿入して嵌合する前の状態を示し、図1(b)は、ホールカバーにステアリングシャフトとシャフトシールを挿入して嵌合した後の状態を示す。
【0010】
ここでは図示しないステアリングシャフトの外周側にシャフトシール1の内周面を嵌合し、ホールカバー2の内周面にステアリングシャフトとともに車室内から嵌合してなるステアリング装置のシール構造において、当該シャフトシール1の外周面に外周側に突出しながら車室内側に指向するシールリップ1aを設けるとともに、当該シャフトシール1の前記ホールカバー2の車室内側端面2aに対向する面(シャフトシール1の最も車室内側に形成される鍔部1bの車室外側端面)に、シャフトシール1の軸線方向に車室内から車室外に向けて突出しながら、当該シャフトシール1の外周側から内周側に向けて指向する付加シールリップ1cを設ける。(請求項1に相当)
【0011】
請求項1に相当する構成によれば、シャフトシール1のホールカバー2の車室内側端面2aに対向する面に、シャフトシール1の軸線方向に車室内から車室外に向けて突出しながら、当該シャフトシール1の外周側から内周側に向けて指向する付加シールリップ1cを設けることにより、車室内が負圧になった場合には、当該付加シールリップ1cがホールカバー2の車室内側端面2aに押し付けられるため、シャフトシール1とホールカバー2の間に隙間が生じることを防いで、車室内と車室外との水密性および遮音性が損なわれることを防止することができる。
【0012】
なお、シャフトシール1の外周側には金属環よりなる外筒3が加硫接着により接合されて設けられ、シール固定バンド4(ワイヤークランプ)により樹脂等よりなる可撓性を有するホールカバー2を外周側から内周側に向けて締め付けて、シャフトシール1のホールカバー2からの抜けを防止している。加えて、シャフトシール1の車室内側に、遮音カバー5を嵌合して設けて、車室外から車室内へ騒音が漏れることを防止している。
【0013】
図2は本発明に係るステアリング装置のシール構造の他の実施形態をシャフトシールの中心軸線を含む断面内にて示す模式図である。
図2(a)は、ホールカバーにステアリングシャフトとシャフトシールを挿入して嵌合する前の状態を示し、図2(b)は、ホールカバーにステアリングシャフトとシャフトシールを挿入して嵌合した後の状態を示す。
【0014】
ここでは図示しないステアリングシャフトの外周側にシャフトシール1の内周面を嵌合し、ホールカバー2の内周面にステアリングシャフトとともに車室内から嵌合してなるステアリング装置のシール構造において、当該シャフトシール1の外周面に外周側に突出しながら車室内側に指向するシールリップ1aを設けるとともに、当該シャフトシール1の前記ホールカバー2の車室内側端面2aに対向する面(シャフトシール1の最も車室内側に形成される鍔部1bの車室外側端面)に、シャフトシール1の軸線方向に車室内から車室外に向けて突出しながら、当該シャフトシール1の外周側から内周側に向けて指向する付加シールリップ1cを設ける。(請求項1に相当)
請求項1に相当する構成による作用効果は前述したので割愛する。
【0015】
加えて、前記ホールカバー2の車室内側端面2aに前記シャフトシール1の車室内から車室外に向けての挿通を許容するとともに、車室外から車室内への挿通を防止するストッパ2bを設ける。(請求項2に相当)
【0016】
請求項2に相当する構成によれば、ホールカバー2にステアリングシャフトとシャフトシール1を挿入して嵌合した後に、シャフトシール1がホールカバー2に対して、車室内側に抜けることをストッパ2bにより防止することができるので、図1に示した形態のステアリング装置のシール構造に比べて、シール固定バンドを省略することができ、部品点数を削減するとともに、シャフトシール1をホールカバー2に嵌合する作業工数を削減することができる。
【0017】
前記ストッパ2bは、ホールカバー2の車室内側端面2aの最外周側から、車室内方向に突出する基部2bbと、当該基部途中2btの先端から車室内側から車室外側に延びる爪部2btとから、ホールカバー2の一部として一体的に構成される。
なお、付加シールリップ1cを設けた部分のシャフトシール1の、軸線方向長さの自由長は、ホールカバー2の車室内側端面2aとストッパ2bの爪部2btの先端との間の中心軸線方向長さよりも長くして、当該ストッパ2bにより、付加シールリップ1cを中心軸線方向に水密性および遮音性を確保するにあたり必要なだけ圧縮させる必要があることは言うまでもない。
【0018】
図3は本発明に係るステアリング装置のシール構造の他の実施形態をシャフトシールの中心軸線を含む断面内にて示す模式図である。
図3は、ホールカバーにステアリングシャフトとシャフトシールを挿入して嵌合した後の状態を示し、右上の図はホールカバーにステアリングシャフトとシャフトシールを挿入して嵌合する前の状態を示す。
【0019】
ここでは図示しないステアリングシャフトの外周側にシャフトシール1の内周面を嵌合し、ホールカバー2の内周面にステアリングシャフトとともに車室内から嵌合してなるステアリング装置のシール構造において、当該シャフトシール1の外周面に外周側に突出しながら車室内側に指向するシールリップ1aを設けるとともに、当該シャフトシール1の前記ホールカバー2の車室内側端面2aに対向する面(シャフトシール1の最も車室内側に形成される鍔部1bの車室外側端面)に、シャフトシール1の軸線方向に車室内から車室外に向けて突出しながら、当該シャフトシール1の外周側から内周側に向けて指向する付加シールリップ1cを設ける。(請求項1に相当)
請求項1に相当する構成による作用効果は前述したので割愛する。
【0020】
加えて、前記ホールカバー2の車室内側端面2aに前記シャフトシール1の車室内から車室外に向けての挿通を許容するとともに、車室外から車室内への挿通を防止するストッパ2bを設ける。(請求項2に相当)
請求項2に相当する構成による作用効果も前述したので割愛する。
【0021】
ここではさらに、前記ストッパ2bの基部2bbの内周面に、前記シャフトシール1の鍔部1bの外周面を外周側から内周側に向けて押圧する凸状部2cを設ける。(請求項3に相当)
【0022】
請求項3に相当する構成によれば、図示しないステアリングシャフトおよびシャフトシール1を凸状部2bにより外周側から内周側に向けて、周方向に均等に押圧することにより、ホールカバー2の中心軸線に対して、シャフトシール1の中心軸線を一致させて、正確なセンタリングを行うことができる。
【0023】
なお、凸状部2cによりシャフトシール1の鍔部1bの外周面を外周側から内周側に向けて押圧するためには、凸状部2cの内径dがシャフトシール1の鍔部1bよりも小さいことが必要である。
【0024】
さらに、シールリップ1aの弾性によりシャフトシール1のセンタリングを行うことに比べて、シールリップ1aよりも凸状部2bの径方向の剛性が高いことに起因して、ホールカバー2によるシャフトシール1およびステアリングシャフトの支持剛性を高めることができるとともに、シールリップ1aに付加される応力を低減することができるので、シールリップ1aの耐久性を高めることができる。
【0025】
図4は本発明に係るステアリング装置のシール構造の他の実施形態をシャフトシールの中心軸線を含む断面内にて示す模式図である。
図4は、ホールカバーにステアリングシャフトとシャフトシールを挿入して嵌合した後の状態を示す。
【0026】
ここでは図示しないステアリングシャフトの外周側にシャフトシール1の内周面を嵌合し、ホールカバー2の内周面にステアリングシャフトとともに車室内から嵌合してなるステアリング装置のシール構造において、当該シャフトシール1の外周面に外周側に突出しながら車室内側に指向するシールリップ1aを設けるとともに、当該シャフトシール1の前記ホールカバー2の車室内側端面2aに対向する面(シャフトシール1の最も車室内側に形成される鍔部1bの車室外側端面)に、シャフトシール1の軸線方向に車室内から車室外に向けて突出しながら、当該シャフトシール1の外周側から内周側に向けて指向する付加シールリップ1cを設ける。(請求項1に相当)
請求項1に相当する構成による作用効果は前述したので割愛する。
【0027】
加えて、前記ホールカバー2の車室内側端面2aに前記シャフトシール1の車室内から車室外に向けての挿通を許容するとともに、車室外から車室内への挿通を防止するストッパ2bを設ける。(請求項2に相当)
請求項2に相当する構成による作用効果も前述したので割愛する。
【0028】
ここではさらに、前記シャフトシール1の鍔部1bの外周面に、前記ストッパ1の内周面を内周側から外周側に向けて押圧する凸状部1dを設ける(請求項4に相当)
請求項4に相当する構成によれば、ストッパ1を凸状部1dにより内周側から外周側に向けて、周方向に均等に押圧することにより、その反力により、ストッパ1の外周面が外周側から内周側に向けて周方向に均等に押圧されて、ホールカバー2の中心軸線に対して、シャフトシール1の中心軸線を一致させて、正確なセンタリングを行うことができる。
【0029】
なお、凸状部1dによりストッパ2bの基部2bbの内周面を内周側から外周側に向けて押圧するためには、凸状部1dの外径が基部2bbの内径よりも大きいことが必要である。
【0030】
さらに、シールリップ1aの弾性によりシャフトシール1のセンタリングを行うことに比べて、シールリップ1aよりも凸状部1dの径方向の剛性が高いことに起因して、ホールカバー2によるシャフトシール1およびステアリングシャフトの支持剛性を高めることができるとともに、シールリップ1aに付加される応力を低減することができるので、シールリップ1aの耐久性を高めることができる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のステアリング装置のシール構造は、全ての車に用いて好適なものであり、車室内と車室外との水密性および遮音性を高めて、車室内の快適性を高めることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明に係るステアリング装置のシール構造の一実施形態をシャフトシールの中心軸線を含む断面にて示す模式図である。
【図2】本発明に係るステアリング装置のシール構造の他の実施形態をシャフトシールの中心軸線を含む断面内にて示す模式図である。
【図3】本発明に係るステアリング装置のシール構造の他の実施形態をシャフトシールの中心軸線を含む断面内にて示す模式図である。
【図4】本発明に係るステアリング装置のシール構造の他の実施形態をシャフトシールの中心軸線を含む断面内にて示す模式図である。
【図5】本発明に係るステアリング装置のシール構造の他の実施形態をシャフトシールおよびホールカバーをその中心軸線を含む断面内にて半部を削除して示す模式図である。
【図6】従来のステアリング装置のシール構造の他の実施形態をシャフトシールの中心軸線を含む断面内にて示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1 シャフトシール
1a シールリップ
1b 鍔部
1c 付加シールリップ
1d 凸状部
2 ホールカバー
2a 車室内側端面
2b ストッパ
2bb 基部
2bt 爪部
3 外筒
4 シール固定バンド
5 遮音シール
51 シャフトシール
51a シールリップ
52 ホールカバー
54 外筒
55 シール固定バンド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトの外周側にシャフトシールを嵌合し、ホールカバーの内周面にステアリングシャフトとともに車室内から嵌合してなるステアリング装置のシール構造において、当該シャフトシールの外周面に外周側に突出しながら車室内側に指向するシールリップを設けるとともに、当該シャフトシールの前記ホールカバーの車室内側端面に対向する面に、シャフトシールの軸線方向に車室内から車室外に向けて突出しながら、当該シャフトシールの外周側から内周側に向けて指向する付加シールリップを設けることを特徴とするステアリング装置のシール構造。
【請求項2】
前記ホールカバーの車室内側端面に前記シャフトシールの車室内から車室外に向けての挿通を許容するとともに、車室外から車室内への挿通を防止するストッパを設けることを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置のシール構造。
【請求項3】
前記ストッパの内周面に、前記シャフトシールの外周面を外周側から内周側に向けて押圧する凸状部を設けることを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置のシール構造。
【請求項4】
前記シャフトシールの外周面に、前記ストッパの内周面を内周側から外周側に向けて押圧する凸状部を設けることを特徴とする請求項2に記載のステアリング装置のシール構造。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−315609(P2006−315609A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142625(P2005−142625)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】