説明

ステアリング装置

【課題】 ラックブーツ26R,26Lの破損等、ギヤハウジング30内に異物が入る可能性のある状態を早期に検出して報知する。
【解決手段】 ギヤハウジング30に逆止弁70と圧力センサ71を設ける。逆止弁70から高圧空気を供給してギヤハウジング30内を大気圧より高い圧力に保持する。圧力センサ71によりギヤハウジング30内の圧力(気圧)検出し、検出した圧力Pxが判定基準値Prefを下回る状態が判定基準時間以上継続した場合には、転舵部20に密閉異常が発生していると判定して報知器111を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジング内に軸線方向(車幅方向)に変位可能に設けた転舵軸により車輪を転舵するステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のステアリング装置においては、操舵ハンドルに連結されたステアリングシャフトの回転運動をラック・アンド・ピニオン機構によりラック軸(転舵軸)の軸線方向運動に変換し、ラック軸の両端に連結されたタイロッド(連結軸)を介して車輪のナックルに転舵力を付与して車輪を転舵する。こうしたステアリング装置においては、ラック軸がギヤハウジング内に収納される。ラック軸は、その両端がギヤハウジングの両端開口から突出しており、ボールジョイントを介してタイロッドを揺動可能に連結する。また、電動パワーステアリング装置においては、このラック軸に減速機としてボールねじ機構を形成し、ラック軸と同軸状に設けた電動モータによりボールネジナットを回転させることにより、ラック軸を軸線方向に駆動するように構成したものも知られている。
【0003】
こうしたステアリング装置においては、ギヤハウジング内に異物が侵入しないように、ギヤハウジングの先端開口部を蛇腹管からなるブーツで覆っている。具体的には、ブーツの一端をギヤハウジングの先端外周面に固定し、ブーツの他端をタイロッドの外周面に固定することにより、ギヤハウジングの先端開口部であるラック軸とタイロッドとの接続部を覆っている。こうした構成においては、ブーツが破れた場合には、ギヤハウジング内に水が侵入しステアリング装置の劣化(錆等)が促進される。また、電動モータが配設されている場合には、侵入した水により電動モータが失陥するおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1のステアリング装置においては、ギヤハウジングの先端部に水センサを設け、ギヤハウジング内に侵入する水を検出するように構成している。
【特許文献1】特開2006−111032号
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、上述のステアリング装置においては、ギヤハウジング内への水の侵入は検出できても、砂、異物等の侵入を検出することができない。また、ブーツ破れ等の異常を即座に検出できるものではない。つまり、特許文献1に提案されたステアリング装置では、ギヤハウジング内に水が侵入してきて初めてブーツ破れを検出することができるのであって、それまでは異常を検出できない。従って、それまでの間にギヤハウジング内の減速機構等の劣化が進行してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、ブーツ破れ等の異常、つまり、ギヤハウジング内に異物が入る可能性のある状態を早期に検出して乗員に知らせることを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、操舵操作に応じて軸線方向に変位する転舵軸と、車体に固定され上記転舵軸の両端を露出して上記転舵軸を軸線方向に変位自在に収容するハウジングと、上記転舵軸の両端に揺動可能に連結され上記転舵軸の作動力を車輪に伝達する連結軸と、上記ハウジングの両端に設けられ上記ハウジング内を密閉状態に覆うカバーとを備えたステアリング装置において、上記ハウジング内に気体を供給する供給口を有し上記供給口から気体が供給されて上記ハウジング内の気圧を大気圧よりも高い状態に保持する気体封入手段と、上記大気圧よりも高い状態に保持されたハウジング内の気圧を検出する圧力検出手段と、上記圧力検出手段により検出された上記ハウジング内の気圧の低下に基づいて異常の有無を判定する異常検出手段と、上記異常検出手段により異常有りと判定された場合に異常を報知する異常報知手段とを備えたことにある。
【0008】
この発明においては、転舵軸を軸線方向に変位させ、転舵軸の両端に連結した連結軸を介して車輪を転舵する。転舵軸は、その両端(連結軸との連結部)を露出してハウジングに収容される。転舵軸を収容するハウジングの両端には、ハウジングを密閉状態に覆うカバーが設けられている。このカバーとしては、例えばブーツが用いられる。ハウジングは、気体封入手段により内部の気圧が大気圧よりも高い状態に保持される。気体封入手段は、大気圧よりも高圧の気体をハウジング内に供給するための供給口と、気体供給後に供給口から気体が抜けないように閉止する閉止機能を有するものである。従って、カバーが破損したり、ハウジングのシール異常が生じない限りハウジング内の気圧は大気圧より高い状態に保持される。
【0009】
ハウジング内の気圧は、圧力検出手段により検出される。異常検出手段は、この検出されたハウジング内の気圧の低下に基づいて異常の有無(ハウジングの密閉異常の有無)を判断する。カバー破損やシール異常が発生した場合には、その異常発生部分から気体が流出し、ハウジング内の気圧が低下する。従って、異常検出手段は、この気圧の低下により異常の発生を判定することができる。例えば、ハウジング内の検出気圧(圧力検出手段により検出された気圧)と予め設定した判定基準値とを比較し、検出気圧が判定基準値を下回ったときに異常が発生していると判定する。この異常検出結果は、異常報知手段により乗員に報知される。この結果、ハウジング内に異物が入る可能性のある状態を早期に検出して乗員に知らせることが可能となる。
【0010】
本発明の他の特徴は、上記気体封入手段は、上記ハウジング内への気体流入を許容し、上記ハウジング外への気体流出を妨げる逆止弁であることにある。
【0011】
この発明によれば、ハウジング内への高圧気体の供給と、気体供給後の閉止動作とを逆止弁で行うため、気体封入手段を簡易に構成することができる。また、ハウジング内への気体供給も容易で確実に行うことができる。
【0012】
本発明の他の特徴は、操舵操作に応じて駆動される電動モータを上記ハウジング内に備え、上記電動モータの回転運動をボールねじ機構を介して上記転舵軸の軸線方向の運動に変換することにより転舵力を付与することにある。
【0013】
この発明においては、電動モータの回転トルクをボールねじ機構を介して転舵軸に伝達し転舵力を付与する。こうしたボールねじ機構を備えている場合は、電動モータを確実に作動させるために、特に、ボールねじ機構内にゴミ、砂等の異物が侵入することを防ぐ必要がある。また、電動モータの結線部等に水が侵入することを防ぐ必要もある。これに対して本発明は、異物や水が入る可能性のある状態(異常状態)を早期に検出して乗員に知らせるため、こうした要求に応えることが可能となる。この結果、電動モータを使った転舵制御の信頼性が向上する。
尚、本発明は、運転者が行った操舵操作を電動モータによりアシストする電動パワーステアリング装置はもちろんのこと、操舵ハンドルと転舵軸とを機械的に切り離し、操舵操作に応じて作動する電動モータの力だけで転舵軸を軸線方向に変位させるバイワイヤ方式のステアリング装置にも適用することができる。
【0014】
本発明の他の特徴は、上記電動モータの推定温度情報を取得するモータ温度取得手段を備え、上記異常検出手段は、上記電動モータの推定温度情報に基づいて、上記ハウジング内の気圧の低下に基づく異常判定レベルを変更することにある。
【0015】
この発明においては、電動モータがハウジング内に設けられるため、電動モータの通電状態によりハウジング内の温度が変化する。このため、ハウジング内の気圧が変化する。一方、電動モータを駆動制御する場合、モータ過熱保護を図るために電動モータの温度を推定し、その推定温度に基づいてモータ通電量に上限制限を加える制御が組み込まれることがある。そこで、本発明においては、電動モータの推定温度情報を取得し、この推定温度に基づいて、ハウジング内の気圧の低下に基づく異常判定レベルを変更する。例えば、異常検出手段は、ハウジング内の検出気圧と判定基準値とを比較する比較手段と、推定温度が高くなるにしたがって判定基準値を増大側に変更する基準値変更手段とを備え、検出気圧が判定基準値を下回ったときに異常が発生していると判定する。
従って、異常判定レベルがハウジング内の温度状況に応じた適正なものとなり、異常判定精度が向上する。また、モータ推定温度情報を利用するため、ハウジング内の温度を検出する特別な温度センサを設ける必要が無い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のステアリング装置に係る一実施形態としての電動パワーステアリング装置について図面を用いて説明する。本実施形態の電動パワーステアリング装置は、パワーアシスト機能を備えたラック・アンド・ピニオン式のステアリング装置であって、図1の概略構成図に示すように、操作部10と、操作部10の操作により車輪を転舵する転舵部20と、ステアリング電子制御ユニット100(以下、ステアリングECU100と呼ぶ)とを備える。操作部10は、運転者が操舵操作するための操舵ハンドル11と、操舵ハンドル11を一端に連結し他端にピニオンギヤ13を固着したステアリングシャフト12を備える。ステアリングシャフト12には、その途中にトーションバーが設けられ、操舵操作によるトーションバーの捻れ角により操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ14が設けられる。
【0017】
転舵部20は、図2に示すように、ピニオンギヤ13に噛合するラック歯22を形成したラックバー21(本発明の転舵軸に相当する)と、このラックバー21を収納する中空円筒状のギヤハウジング30を備える。ギヤハウジング30は、右車輪側の第1ハウジング31、左車輪側の第2ハウジング32と、これらのハウジング31,32の間に設けられたヨークハウジング33とからなり、これらハウジング31,32,33を同軸的に連結して構成される。この3つのハウジング31,32,33の連結部には、それぞれ弾性シール部材が介装されており、連結部を通ってギヤハウジング30の外に空気が流出、あるいはギヤハウジング30内に空気が流入しないように気密状態に保たれる。
【0018】
ラックバー21は、このギヤハウジング30内に軸線方向に移動可能に収納される。ギヤハウジング30の両端は開放され、その開口部からラックバー21の先端(両端)が露出する。このラックバー21の左右の先端には、それぞれラックエンドソケット23R,23Lが固着される。ラックエンドソケット23R,23Lには、左右のタイロッド24R,24Lの一端に設けたボールジョイント25R,25Lが揺動可能に収納される。タイロッド24R,24Lは、車輪に固定したナックル(図示略)とラックバー21とを連結する本発明の連結軸に相当するもので、その一端に設けたボールジョイント25R,25Lをラックエンドソケット23R,23L内に収納することで、ラックバー21に対して揺動可能に連結される。
【0019】
また、ギヤハウジング30の両端開口部には、異物がギヤハウジング30内に侵入しないようにラックブーツ26R,26Lが装着される。このラックブーツ26R,26Lは、ゴムあるいは弾性を有する合成樹脂により蛇腹管を構成したもので、一端がギヤハウジング30の先端外周面に密着して取り付けられ、他端がタイロッド24R,24Lの中間部の外周面に密着して取り付けられる。ラックブーツ26R,26Lの取り付けは、バンド27R,27L,28R,28Lを利用して径方向内側に締め付けることで行われる。これにより、ラックブーツ26R,26Lの一端内周面とギヤハウジング30の外周面、および、ラックブーツ26R,26Lの他端内周面とタイロッド24R,24Lの外周面とが気密的に密着し、その間を空気が流入・流出しないようになっている。このラックブーツ26R,26Lは、本発明のカバーに相当するものである。
【0020】
このようなラック・アンド・ピニオン式のステアリング装置においては、運転者が操舵ハンドル11を回動操作すると、この操作力によりステアリングシャフト12が回転し、この回転運動がピニオンギヤ13を介してラックバー21の軸線方向(車幅方向)の直線運動に変換される。これによりタイロッド24R,24Lが車輪に設けられたナックルを引っ張り方向へ回動、あるいは、押し出し方向へ回転させて転舵が行われる。
【0021】
第1ハウジング31には、ラックバー21を挟んでピニオンギヤ13と対向する位置にシリンダ穴37がラックバー21の軸線と直交する方向に形成され、このシリンダ穴37にラックバーの周面に接合するラックガイド38が摺動可能に収納されている。ラックガイド38には、その背面側に設けられたスプリング39の付勢力により、ラックバー21をピニオンギヤ13に押圧している。シリンダ穴37は、キャップにより気密的に密閉されている。
【0022】
ヨークハウジング33内には、ラックバー21の周りに電動モータ40が設けられる。この電動モータ40は、ブラシレスDCモータであり、固定子となる駆動ステータ41と、回転子となるモータシャフト42とを備える。駆動ステータ41は、鉄心にコイルを巻回して構成され、ヨークハウジング33の内周面に固定されている。モータシャフト42は、中空円筒状をなし、ラックバー21の周りに同軸的に遊嵌されている。モータシャフト42の外周面には、駆動ステータ41に向かい合って永久磁石43が周方向に等間隔で固定されている。電動モータ40には、モータシャフト42の回転角を検出する回転角センサ44が設けられる。この回転角センサ44により検出される検出角は、車輪の転舵角に比例するものであるため、回転角センサ44を転舵角センサとして兼用する。
【0023】
モータシャフト42は、その一端が第1ハウジング31内まで延出しており、スラストベアリング34により第1ハウジング31に回動可能に支持され、他端がヨークハウジング33と第2ハウジング32との接続部まで延出しており、ラジアルベアリング35によりヨークハウジング33に回転可能に支持されている。また、これによりモータシャフト42は、ギヤハウジング30に対して軸線方向に相対移動不能になっている。
【0024】
モータシャフト42とラックバー21との間には、ボールねじ機構50が設けられている。ボールねじ機構50は、モータシャフト42の一端部に相対回転不能に固定されるボールナット51と、ラックバー21の外周面に形成したボールねじ52と、ボールナット51とボールねじ52との間に転動可能に設けられる複数の転動ボール53とを含んで構成される。
【0025】
このボールねじ機構50においては、電動モータ40に通電されるとモータシャフト42がラックバー21の周囲を所定のトルクで回転する。このときモータシャフト42に連結固定されたボールナット51もモータシャフト42とともに回転する。これにより、ボールナット51の回転力が転動ボール53を介してラックバー21の軸線方向の移動力に変換される。こうしてラックバー21の軸線方向の移動により、タイロッド24R,24Lが車輪のナックルを引っ張り方向へ回動、あるいは、押し出し方向へ回動させる。これにより、左右の車輪が転舵される。
【0026】
第2ハウジング32は、その中央に、ラックバー21を軸方向に相対移動可能に支持するように小径部32aが形成されている。この小径部32aの内周面には、図示しない螺旋状の連通溝が形成されており、第2ハウジング32内における小径部32aの右側の空間と左側の空間が同圧となるように両空間を連通している。従って、ギヤハウジング30は、第1ハウジング31の開口部(ラックブーツ26Rとの連結部)から第2ハウジングの開口部(ラックブーツ26Lとの連結部)までのあいだ連通しており、同圧となっている。
【0027】
第2ハウジング32は、ヨークハウジング33との接続箇所においてラッパ状に拡開したテーパー部32bが形成される。このテーパー部32b内にはラックバー21の周囲に円錐リング状の空間Sが形成される。そして、テーパー部32bには、その壁面を貫通して逆止弁70と圧力センサ71とが設けられる。逆止弁70と圧力センサ71とは、図示しないシール部材を介してテーパー部32bの壁面に気密に貫通して固定される。
【0028】
逆止弁70は、本発明の気体封入手段を構成するもので、高圧空気をギヤハウジング30内に供給するための供給口を形成するとともに、供給口から空気がギヤハウジング30の外に抜けないように閉止する機能を有する。逆止弁70は、ギヤハウジング30内部と外部(ギヤハウジング30の外部)とを連通して気体の供給口を形成する円筒状の弁ハウジング70a内に、閉弁方向に付勢された図示しない弁体を備え、ギヤハウジング30内部の気圧が外部の気圧より高いときに閉弁状態を維持し、外部の圧力がギヤハウジング30内部の圧力より所定値以上(弁体の閉弁付勢圧力以上)高いときに弁体を開弁する。従って、逆止弁70は、ギヤハウジング30内部から外部への気体流出を妨げるとともに、ギヤハウジング30内への気体流入を許容する。逆止弁70の弁ハウジング70aの先端には、空気封入時に高圧空気供給装置を接続するための接続口(図示略)が形成されている。
【0029】
圧力センサ71は、ギヤハウジング30内の圧力(気圧)を検出する気圧検出手段に相当し、ステアリングECU100に対して検出気圧値Px(以下、単に圧力Pxと呼ぶ)を表す検出信号を出力する。
【0030】
ギヤハウジング30は、車幅方向に離れた2カ所の連結部61,62において、ラバーブッシュ63,64を介在させて車体(サスペンションメンバー)に取り付けられる。
【0031】
上述した転舵部20の構成においては、外部からギヤハウジング30に接続される部品は、すべてシール部材により気密にシールされ、また、ギヤハウジング30の両端開口部もラックブーツ26R,26Lにより気密にシールされる。こうして組み立てられた操舵部20は、図示しない高圧空気供給装置を使って、逆止弁70から高圧空気がギヤハウジング30内に供給され、ギヤハウジング30の内部圧力(気圧)が大気圧よりも高い設定圧力になるように調整される。この場合、逆止弁70の機能によりギヤハウジング30内に供給された空気の流出が防止される。従って、高圧空気がギヤハウジング30内に封入され、封入後においては、ギヤハウジング30の内部圧力は、設定圧力を基準とした予め想定される所定範囲内に維持される。
【0032】
一方、ラックブーツ26R,26Lが破れたり(以下、ブーツ破れと呼ぶ)、外部部品接続箇所に設けられるシール部材に不良が生じた場合には、ギヤハウジング30内に封入されている空気が流出しギヤハウジング30の内部圧力が低下する。従って、ギヤハウジング30の内部圧力の低下に基づいて転舵部20の異常を検出することができる。
【0033】
ギヤハウジング30の内部圧力は、環境温度、電動モータ40の発熱状態、ラックブーツ26R,26Lの伸縮等により変動する。そこで、本実施形態においては、こうした内部圧力の変動が生じても正常/異常を判別できるように、ギヤハウジング30内の設定圧力が定められる。例えば、正常時におけるギヤハウジング30内の圧力変動範囲が、異常時(空気漏れ時)におけるギヤハウジング30内の圧力変動範囲における最大圧力値よりも高くなるように設定圧力を決める。
【0034】
次に、ステアリングECU100について説明する。ステアリングECU100は、CPU,ROM,RAM等からなるマイクロコンピュータを主要部として備えるとともに、電動モータ40を駆動制御するのに必要な駆動回路、電流センサ等(以上、図示略)も備えている。このステアリングECU100は、操舵アシスト制御および転舵部異常検出処理を行うために、操舵トルクセンサ14、回転角センサ44(転舵角センサ)、車速センサ110、圧力センサ71といったセンサ類を接続するとともに、運転者に対して異常情報など各種の情報を提供する報知器111を接続している。
【0035】
次に、ステアリングECU100により実行される操舵アシスト制御について説明する。この操舵アシスト制御については、本発明の特徴部分を構成するものでないため簡単な説明に留める。ステアリングECU100は、ROMに記憶された操舵アシスト制御プログラムにしたがって操舵アシスト制御を実施する。操舵アシスト制御が開始されると、ステアリングECU100は、操舵トルクセンサ14および車速センサ110からの検出信号を読み込み、検出した操舵トルクおよび車速に対応した目標アシストトルク値を演算する。続いて、目標アシストトルクが得られるために必要な電動モータ40の目標電流値を演算し、目標電流値を実電流値(電流センサにて検出した電動モータ40に流れている電流値)でフィードバックすることにより、目標電流値と実電流値との偏差に応じた電動モータ40の目標駆動電圧を設定する。そして、この目標駆動電圧に応じたモータ制御信号(例えば、PWM制御信号)によりモータ駆動回路(図示略)を制御する。この結果、運転者の操舵操作状態および車速に応じて電動モータ40が駆動制御され、最適な操舵アシストトルクが得られる。
【0036】
次に、ステアリングECU100により実行される転舵部異常検出処理について説明する。図3は、ステアリングECU100が実行する転舵部異常検出ルーチンを表すフローチャートである。この転舵部異常検出ルーチンは、ステアリングECU100のROM内に制御プログラムとして記憶され、図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると起動して所定の短い周期で繰り返される。転舵部異常検出処理は、上述した操舵アシスト制御と並行して行われる。
【0037】
転舵部異常検出ルーチンが起動すると、ステアリングECU100は、ステップS11において、圧力センサ71により検出された圧力Pxを読み込む。これにより、ギヤハウジング30内の圧力(気圧)が検出される。続いて、ステップS12において、検出された圧力Pxが判定基準値Prefを下回っているか否かを判断する。
【0038】
ギヤハウジング30内には高圧空気が封入されて大気圧よりも高い圧力に保持されている。ギヤハウジング30の内部圧力は、ギヤハウジング30内の温度やラックブーツ26R,26Lの伸縮作動状態等によって変動するが、その変動範囲は予め想定できる。従って、ステップS12において用いられる判定基準値Prefは、この想定される圧力変動範囲の最小値より小さな値に設定される。つまり、転舵部が正常である場合(ラックブーツ破れやシール異常が生じていない場合)には、判定基準値Prefがギヤハウジング30の内部圧力Pxを上回るように設定されている。
【0039】
転舵部20が正常である場合には、ステップS12において、「NO」と判断される。この場合、ステアリングECU100は、その処理をステップS13に進め、フラグFがF=0に設定されているか否かを確認する。このフラグFは、転舵部異常検出ルーチンの起動時にはF=0に設定され、後述するようにギヤハウジング30内の圧力低下が検出された直後にF=1に設定されるものである。転舵部異常検出ルーチンの開始時には、F=0に設定されているため、この場合、ステップS13の判断は「YES」となり、転舵部異常検出ルーチンをいったん終了する。
【0040】
転舵部異常検出ルーチンは所定の短い周期で繰り返される。そして、ステップS11〜13の処理が繰り返される途中で、ギヤハウジング30内の圧力Pxが判定基準値Prefを下回ると、ステップS12の判断は「YES」となり、ステアリングECU100は、その処理をステップS14に進める。このステップS14においては、フラグFの設定状態が確認され(F=0?)、F=0であればF=1に設定する(S15)。続いて、ステアリングECU100は、ステップS16において計時タイマのタイマ値を1単位だけインクリメントする。一方、ステップS14において、フラグFがF=1に設定されていると判断された場合には、フラグ設定処理を飛ばしてステップS16のタイマのインクリメント処理を行う。
【0041】
続いて、ステアリングECU100は、ステップS17において、タイマのカウント値を読み込んで、タイムアップしたか否か、つまり、タイマ値が判定基準時間に達したか否かを判断する。タイムアップしていない場合には、そのまま転舵部異常検出ルーチンをいったん終了する。転舵部異常検出ルーチンは所定の短い周期で繰り返されるが、次の制御周期においては、フラグFがF=1に設定された状態で開始される。従って、次の制御周期において、ギヤハウジング30内の圧力Pxが依然として判定基準値Prefを下回っている場合(S12:YES)には、そのままタイマのインクリメント処置と(S16)、タイムアップの判断処理とが行われる(S17)。
【0042】
一方、一旦低下したギヤハウジング30内の圧力Pxが上昇して判定基準値Prefを上回った場合には(S12:NO)、ステアリングECU100は、ステップS13のフラグFの確認により(S13:NO)、その処理をステップS19に進めてタイマをリセットする。つまり、タイマ値をゼロクリアする。続いて、ステアリングECU100は、ステップS20においてフラグFをF=0に設定する。
【0043】
ステアリングECU100は、こうした処理を繰り返すことで、ギヤハウジング30内の圧力Pxが低下している状態が判定基準時間のあいだ継続したか否かについて判断する(S11〜S17)。そして、ギヤハウジング30内の圧力Pxが低下しても一時的なもの、つまり、圧力Pxが低下している状態が判定基準時間だけ継続せず、途中で圧力Pxが判定基準値以上となった場合には(S12:NO)、その時点でタイマ値を初期値(ゼロ)に戻す(S19)。
【0044】
そして、ステアリングECU100は、ギヤハウジング30内の圧力Pxが低下している状態が判定基準時間だけ継続したと判断すると(S17:YES)、転舵部20が異常であると判定して、ステップS18において、報知器111を作動させて運転者に異常を知らせる。報知器111としては、ウォーニングランプやウォーニングブザーを用いればよいが、文字やイメージにより異常を表示する表示器を用いても良い。また、異常内容を表すエラー情報をステアリングECU100に設けた不揮発性メモリに記憶する。
【0045】
ステアリングECU100は、ステップS18により運転者に異常を報知すると、転舵部異常検出ルーチンを終了する。この場合、転舵部異常検出ルーチンは、異常検出後においても繰り返し実行してもよいし、報知器111の作動を継続させた状態で終了してもよい。
【0046】
以上説明した転舵部異常検出ルーチンによれば、ギヤハウジング30内の圧力を大気圧より高く設定しておき、圧力センサ71により検出される圧力Pxの低下が判定基準時間以上継続した場合に、転舵部20に異常(ブーツ破れやシール異常)が発生したと判断する。従って、転舵部20の異常を早期に検出できるため、ギヤハウジング30内に異物や水等が侵入してしまう前に運転者に異常を知らせることが可能となる。この結果、水の侵入による電動モータ40の結線ショート、ボールねじ機構50やラックピニオンギヤ機構における異物の引っかかり等の不具合を未然に防止することができる。
【0047】
しかも、異常判定にあたっては、一時的な圧力Pxの低下を除外しているため、異常誤判定が防止される。尚、この時間継続をチェックする判定基準時間は、種々の条件により適正値が変化するため、テスト等により適宜設定すればよい。また、必ずしも時間継続をチェックする必要もない。この場合、転舵部異常検出ルーチンのステップS13〜S17、S19〜S20を省略することができる。
【0048】
次に、転舵部異常検出処理に関する変形例について説明する。図4は、変形例としてのステアリングECU100が実行する転舵部異常検出ルーチンを表すフローチャートである。この転舵部異常検出ルーチンは、上述した図3に示す転舵部異常検出ルーチンに対して、ステップS31,332の処理を追加したもので、他の処理については同一である。従って、上述した処理と同一のものについては、図面に同一ステップ番号を付して説明を省略する。
【0049】
この変形例においては、先の転舵部異常検出ルーチンにおけるステップS11とステップS12との間に、ステップS31,S32の処理を追加している。このステップS31においては、モータ推定温度Tmが読み込まれる。ステアリングECU100は、本異常検出処理と並行して操舵アシスト制御を行っている。そして、操舵アシスト制御を実施しているときには、電動モータ40の過熱防止を図るために電動モータ40の温度を演算により推定し、推定されたモータ推定温度Tmに基づいて電動モータ40に通電する電流の上限値を設定している。従って、ステップS31においては、操舵アシスト制御により演算された最新のモータ推定温度Tm情報を読み込むようにする。
【0050】
モータ温度を推定する手法は、例えば、特開2006−115553号公報に提案されているので、ここでは簡単な説明に留める。
電動モータ40の温度は、その雰囲気温度と、通電による発熱分とから推定できる。そこで、ステアリングECU100内のモータ駆動回路に設けられた温度センサ(図示略)の温度検出値と、電動モータ40に流れる電流を測定する電流センサ(図示略)の電流検出値とを使ってモータ温度を推定する。電動モータ40とモータ駆動回路とは、熱源となるエンジンからの離隔が異なる。このため、電動モータ40の雰囲気温度Toと温度センサの検出値Tsとには温度差ΔTが存在する。この温度差ΔTは予め想定される。従って、電動モータ40の雰囲気温度Toは、温度センサの検出値Tsにこの温度差ΔTを加算して求められる。
【0051】
一方、通電による温度変動分は下記式により求めることができる。
dTm=a・dTm-1+β・(1−a)・Ix2
ここで、dTmは今回モータ温度変動分、Tm-1は前回(1制御周期前)のモータ温度変動分、Ixは電動モータに流れた電流値、値aは「0」よりも大きく「1」よりも小さな予め決められた定数、値βは予め定められた温度変換係数である。モータ温度推定演算は、早い制御周期で繰り返し実行される。
【0052】
式中の第1項a・dTm-1は、前回モータ温度変動分dTm-1が大きくなるにしたがって大きくなるとともに、前回モータ温度変動分dTm-1が小さくなるにしたがって小さくなるもので、電動モータ40の外気中への自然放熱を考慮して前回モータ温度変動分dTm-1が今回モータ温度変動分dTmに与える影響を表す項である。また、第2項β・(1−a)・Ix2は、電動モータ40にモータ電流Ixを流したことによる発熱量を表す項である。従って、電動モータの雰囲気温度Toと今回モータ温度変動分dTmを加算することによりモータ推定温度Tmを計算する。
Tm=To+dTm
【0053】
図4の転舵部異常検出ルーチンの説明に戻る。ステアリングECU100は、ステップS31においてモータ推定温度Tm情報を読み込むと、次に、モータ推定温度Tmに応じた判定基準値Prefを算出する。この判定基準値Prefは、上述したステップS12において圧力低下を検出するために用いる比較判定値である。判定基準値Prefは、例えば、図5に示すように、モータ推定温度Tmの増加にしたがって増加するように(この例では一次関数的に増加)設定される。ステアリングECU100は、このモータ推定温度Tmに対する判定基準値Prefの関係を関数、あるいは参照テーブルの形でROM内に記憶しており、この関数あるいは参照テーブルを使って判定基準値Prefを算出する。
【0054】
ステップS12においては、この算出された判定基準値Prefを用いて圧力低下の判断が行われる。ステップS12以降の処理については、上述した図3に示す転舵部異常検出ルーチンと同一である。
【0055】
この変形例の転舵部異常検出ルーチンによれば、モータ推定温度Tmを使ってギヤハウジング30内の温度状態を予測し、モータ推定温度Tmに応じて判定基準値Prefを設定するようにしている。ギヤハウジング30内の気圧は、ギヤハウジング30内の空気の温度が高くなるほど高圧になる。従って、モータ推定温度Tmが高くギヤハウジング30内が高温状態になっていると予測される場合には、それに応じた大きな判定基準値Prefが使用され、逆に、ギヤハウジング30内が常温状態である予測される場合には、それに応じた小さな判定基準値Prefが使用される。
【0056】
従って、温度状況に応じた適切な判定基準値Prefを使って転舵部異常判定をおこなうことができる。この結果、転舵部の密閉異常判定精度を高め、誤判定を防止することができる。また、先の転舵部異常検出ルーチン(図3)のように判定基準値Prefを固定している場合には、温度変化による圧力変動分を予め考慮して判定基準値Prefを設定する必要から、判定基準値Prefが低めに設定される。これに対して変形例では、温度状況に応じた判定基準値Prefを使っているため、高温状況下においても早めに異常を検出することができる。また、ギヤハウジング30内の温度検出をモータ推定温度で代用しているため、温度センサを特別に設ける必要が無く、部品点数の増加やコストアップを招かない。
【0057】
以上、本実施形態のステアリング装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、電動モータ40により操舵アシストする電動パワーステアリング装置の例について説明したが、油圧により操舵アシストするステアリング装置に適用してもよいし、操舵アシスト機能を備えないステアリング装置にも適用することもできる。また、運転者がハンドル操作する操作部と、車輪を転舵する転舵部との機械的連結を切り離したバイワイヤ方式のステアリング装置に適用することもできる。
【0058】
また、本実施形態においては、ギヤハウジング30内を高圧にするために空気を供給したが、なんら空気に限るものではなく、他の気体を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の概略構成図である。
【図2】実施形態の電動パワーステアリング装置における転舵部の断面図である。
【図3】実施形態の電動パワーステアリング装置におけるステアリングECUの実施する転舵部異常検出ルーチンを表すフローチャートである。
【図4】転舵部異常検出ルーチンの変形例を表すフローチャートである。
【図5】モータ推定温度と判定基準値との関係を表すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
10…操作部、11…操舵ハンドル、12…ステアリングシャフト、13…ピニオンギヤ、20…転舵部、21…ラックバー(転舵軸)、22…ラック歯、24R,24L…タイロッド(連結軸)、26R,26L…ラックブーツ(カバー)、30…ギヤハウジング(ハウジング)、31…第1ハウジング、32…第2ハウジング、33…ヨークハウジング、40…電動モータ、50…ボールねじ機構、51…ボールナット、53…転動ボール、70…逆止弁(気体封入手段)、70a…弁ハウジング、71…圧力センサ、100…ステアリング電子制御ユニット、111…報知器、Tm…モータ推定温度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵操作に応じて軸線方向に変位する転舵軸と、
車体に固定され、上記転舵軸の両端を露出して、上記転舵軸を軸線方向に変位自在に収容するハウジングと、
上記転舵軸の両端に揺動可能に連結され、上記転舵軸の作動力を車輪に伝達する連結軸と、
上記ハウジングの両端に設けられ、上記ハウジング内を密閉状態に覆うカバーと
を備えたステアリング装置において、
上記ハウジング内に気体を供給する供給口を有し、上記供給口から気体が供給されて上記ハウジング内の気圧を大気圧よりも高い状態に保持する気体封入手段と、
上記大気圧よりも高い状態に保持されたハウジング内の気圧を検出する圧力検出手段と、
上記圧力検出手段により検出された上記ハウジング内の気圧の低下に基づいて異常の有無を判定する異常検出手段と、
上記異常検出手段により異常有りと判定された場合に異常を報知する異常報知手段と
を備えたことを特徴とするステアリング装置。
【請求項2】
上記気体封入手段は、上記ハウジング内への気体流入を許容し、上記ハウジング外への気体流出を妨げる逆止弁であることを特徴とする請求項1記載のステアリング装置。
【請求項3】
操舵操作に応じて駆動される電動モータを上記ハウジング内に備え、上記電動モータの回転運動をボールねじ機構を介して上記転舵軸の軸線方向の運動に変換することにより転舵力を付与する請求項1または2記載のステアリング装置。
【請求項4】
上記電動モータの推定温度情報を取得するモータ温度取得手段を備え、
上記異常検出手段は、上記電動モータの推定温度情報に基づいて、上記ハウジング内の気圧の低下に基づく異常判定レベルを変更することを特徴とする請求項3記載のステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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