説明

ステアリング装置

【課題】設計の自由度およびメンテナンス性の向上を図ることができるステアリング装置を提供する。
【解決手段】ステアリング装置1は、ハウジング10、ハウジング10に収容されていて操舵に伴って移動するラック軸8およびタイロッド12、および、ハウジング10の内周面10Bとラック軸8やタイロッド12との隙間Pを封止して当該隙間Pへの異物の侵入を防ぐベローズ14を含む。ステアリング装置1は、ハウジング10の内周面10Bに形成された周溝36と、ベローズ14の一端部に設けられ、ハウジング10の内周面10Bに対して内嵌される内嵌部20と、内嵌部20の外周面20Aに設けられ、周溝36に嵌まり込む弾性部材28と、ベローズ14の他端部に設けられ、ラック軸8およびタイロッド12の外周面に対して外嵌される外嵌部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置の一例として、下記特許文献1および2では、車輪転舵機構が開示されている。車輪転舵機構では、ラック・ピニオン機構を覆うギヤハウジングが、ラック・ピニオン機構におけるラックバーの途中まで延長されている。そして、ギヤハウジングの車体幅方向外方端の外側には、ゴム等で形成された蛇腹管状のダストブーツの一端が嵌合されて、ブーツ留めワイヤで締付固定されている(引用文献1の図4および引用文献2の図3参照)。ダストブーツの他端は、ラックバーの端部に連結されたタイロッドの端部に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−28782号公報
【特許文献2】実開平6−6164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2で開示された構成の場合、ギヤハウジングの車体幅方向外方端の外周面には、ダストブーツの一端が外嵌される構造上、他の構造物(たとえば、ギヤハウジングを車体に固定するためのステーや係合部)等を配置することができず、設計の自由度が制約される虞がある。
また、ギヤハウジングに対するダストブーツの着脱等に関し、メンテナンス性の向上は常に求められている。
【0005】
この発明は、かかる背景のもとでなされたもので、設計の自由度およびメンテナンス性の向上を図ることができるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、ハウジング(10)、前記ハウジングに収容されていて操舵に伴って移動する移動部材(8,12)、および、前記ハウジングの内周面(10B)と前記移動部材との隙間(P)を封止して当該隙間への異物の侵入を防ぐベローズ(14)を含むステアリング装置(1)であって、前記ハウジングの内周面に形成された周溝(36)と、前記ベローズの一端部に設けられ、前記ハウジングの内周面に対して内嵌される内嵌部(20)と、前記内嵌部の外周面(20A)に設けられ、前記周溝に嵌まり込む弾性部材(28)と、前記ベローズの他端部に設けられ、前記移動部材の外周面(12A)に対して外嵌される外嵌部(21)と、を含むことを特徴とする、ステアリング装置である。
【0007】
請求項2記載の発明は、前記弾性部材は、前記内嵌部の外周面において、周方向における同じ方向へ向けて傾斜しながら張り出す複数の張出部(29)を含むことを特徴とする、請求項1記載のステアリング装置である。
請求項3記載の発明は、前記ハウジングには、前記移動部材をはみ出させる開口(35)が設けられ、前記内嵌部の外周面に設けられ、前記ハウジングの端面(10A)において前記開口を縁取る部分に対して前記ハウジングの外側から密着するリップ(26)を含むことを特徴とする、請求項1または2記載のステアリング装置である。
【0008】
請求項4記載の発明は、前記周溝に設けられ、前記弾性部材に接触する弾性部分(37)を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のステアリング装置である。
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、ベローズの内嵌部は、ハウジングにおいて外周面でなく、内周面に対して取り付けられるので、ステアリング装置(特に、ハウジングの外周面)における設計の自由度の向上を図ることができる。
ここで、内嵌部の外周面の弾性部材がハウジングの内周面の周溝に嵌まり込むので、ベローズの内嵌部がハウジングの内周面から不意に外れることを防止できる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、周方向において各張出部が張り出す方向とは逆の方向に内嵌部を捩じれば、各張出部を張り出さないように変形させることによって、ハウジングの内周面の周溝から弾性部材を外すことができる。これにより、メンテナンス等のために、ハウジングの内周面に対して内嵌されたベローズの内嵌部をハウジングの内周面から容易に取り外すことができるので、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、ハウジングの端面において開口を縁取る部分と移動部材との隙間がリップによって塞がれるので、外部からの異物が当該隙間からハウジング内部に侵入することを防止できる。これにより、ハウジング内部において異物を除去する頻度を少なくすることができるので、メンテナンス性の向上を図ることができる。
請求項4記載の発明によれば、弾性部材と周溝の弾性部分とが弾性的に接触することによって、弾性部材と周溝との間における接触音の発生を防止できる。これにより、弾性部材や、周溝におけるハウジングの摩耗を防げるので、その分、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、ステアリング装置1における1つのベローズ14の斜視図である。
【図3】図3(a)は、ベローズ14に取り付けられた抜止リング25を軸方向から見た側面図であり、図3(b)は、図3(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図4】図4(a)は、ステアリング装置1におけるハウジング10の一部を軸線方向に沿って切断したときの断面図であり、図4(b)は、図4(a)のB−B線に沿う断面図であり、図4(c)は、図4(a)のC−C線に沿う断面図である。
【図5】図5(a)は、図4(a)においてベローズ14がハウジング10に取り付けられる直前の状態を示しており、図5(b)は、図5(a)のD−D線に沿う断面図である。
【図6】図6(a)は、図4(a)においてベローズ14がハウジング10に取り付けられる最中の状態を示しており、図6(b)は、図6(a)のE−E線に沿う断面図である。
【図7】図7(a)は、図4(a)においてベローズ14がハウジング10に取り付けられた直後の状態を示しており、図7(b)は、図7(a)のF−F線に沿う断面図である。
【図8】図8は、変形例に係る抜止リング25の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
ステアリング装置1は、操舵部材としてのステアリングホイール2が連結されたステアリングシャフト3と、ステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪(図示せず)を転舵するステアリング機構4とを備えている。
【0014】
ステアリングシャフト3は、前後に傾いた状態で上下方向に延びている。ステアリング装置1は、第1自在継手5と、中間軸6と、第2自在継手7とをさらに含む。ステアリングシャフト3は、第1自在継手5を介して中間軸6に連結されている。中間軸6は、第2自在継手7を介してステアリング機構4(具体的には、後述のピニオン軸9)に連結されている。したがって、ステアリングホイール2は、ステアリングシャフト3、第1自在継手5、中間軸6および第2自在継手7を介して、ステアリング機構4に機械的に連結されている。そのため、ステアリングホイール2の回転は、ステアリングシャフト3等を介してステアリング機構4に伝達される。
【0015】
ステアリング機構4は、たとえば、ラック&ピニオン機構である。ステアリング機構4は、ラック軸8およびピニオン軸9を備えている。ピニオン軸9は、第2自在継手7を介して中間軸6に連結されている。ピニオン軸9は、ラック軸8に設けられたラック8Aに噛み合うピニオン9Aを有している。ステアリングホイール2の操舵に伴うピニオン軸9の回転は、ラック8Aおよびピニオン9Aによって、ラック軸8の軸方向Qへの往復直線移動に変換される。ラック軸8は、車両(図示せず)の左右方向に延びている。ラック軸8は、車体側部材(図示せず)に固定される中空円筒状のハウジング10内に収容されている。ハウジング10は、ステアリング装置1の一部である。ラック軸8の各端部は、ハウジング10から突出している。ラック軸8の各端部は、タイロッド12およびナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪(図示せず)に連結される。転舵輪(図示せず)は、軸方向Qへのラック軸8の移動に連動して転舵される。
【0016】
ステアリング装置1は、ラック軸8の両端部に連結された左右一対のインナーボールジョイント11と、インナーボールジョイント11に連結された左右一対のタイロッド12と、タイロッド12に連結された左右一対のアウターボールジョイント13と、ラック軸8の端部を覆う左右一対の管状のベローズ14とを含む。
ラック軸8の端部と、インナーボールジョイント11と、タイロッド12においてインナーボールジョイント11に連結された端部とは、ベローズ14内に収容されている。ベローズ14は、軸方向Qにおけるハウジング10の端部から各タイロッド12まで延びている。ベローズ14の一端部および他端部は、それぞれ、ハウジング10およびタイロッド12に取り付けられている。アウターボールジョイント13は、ベローズ14の外に配置されている。
【0017】
アウターボールジョイント13は、ナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪(図示せず)に連結される。したがって、ラック軸8は、インナーボールジョイント11、タイロッド12およびアウターボールジョイント13を介して、転舵輪(図示せず)に連結される。前述したようにステアリングホイール2の操舵に伴ってラック軸8が軸方向Qへ移動する際、ラック軸8、インナーボールジョイント11、タイロッド12およびアウターボールジョイント13のまとまりは、移動部材として、一体となって軸方向Qへ移動する。なお、インナーボールジョイント11、タイロッド12およびアウターボールジョイント13をラック軸8の一部とみなしてもよい。
【0018】
図2は、ステアリング装置1における1つのベローズ14の斜視図である。
図2を参照して、ベローズ14全体は、所定方向に長手の管状であり、可撓性を有する材料(ゴム等)で形成されている。ベローズ14において、当該所定方向(長手方向)における一端部は、ハウジング10に取り付けられる内嵌部20とされ、当該所定方向における他端部は、タイロッド12に取り付けられる外嵌部21とされ、内嵌部20と外嵌部21との間の部分は、中間部22とされる。
【0019】
内嵌部20および外嵌部21は、軸方向に所定の幅を有する円環状であり、中間部22は、蛇腹の管状である。内嵌部20において中間部22に接続された側とは反対側の端(図2における左端)に、丸い一端開口23が形成されている。外嵌部21において中間部22に接続された側とは反対側の端(図2における右端)に、丸い他端開口24が形成されている。ベローズ14の内部空間は、一端開口23および他端開口24から外部に連通している。
【0020】
内嵌部20の外周面20Aには、一端開口23から近い順に、抜止リング25と、リップ26とが設けられている。抜止リング25およびリップ26は、ベローズ14の一部である。
抜止リング25は、金属製の環状であり、内嵌部20の外周面20Aにおける一端開口23側の端部に対して外嵌されていて、外れ不能に固定されている。抜止リング25は、成型後のベローズ14に対して接着等によって取り付けられてもよいし、インサート成形によって、ベローズ14の成型と同時に、ベローズ14と一体化されてもよい。
【0021】
抜止リング25は、リング本体27と、弾性部材28とを含んでいる。
図3(a)は、ベローズ14に取り付けられた抜止リング25を軸方向から見た側面図であり、図3(b)は、図3(a)のA−A線に沿う断面図である。
図3(a)を参照して、リング本体27は、内嵌部20とほぼ同じ外径を有する円環状であり、内嵌部20の外周面20Aに対して外嵌および固定される(図2参照)。弾性部材28は、リング本体27の外周面27Aに一体的に設けられている。弾性部材28は、リング本体27の外周面27Aの接線方向に大体沿いながら径方向外側へ延び出る複数(ここでは4つ)の張出部29を含んでいる。各張出部29は、リング本体27の外周面27Aの接線方向に長手であって当該接線方向に沿って略直線状に延びる板状であり、リング本体27の径方向において薄い。なお、張出部29は、リング本体27の外周面27Aに沿うように多少湾曲していてもよい。複数の張出部29は、リング本体27の周方向(内嵌部20の周方向でもある)において等間隔で設けられており、リング本体27の外周面27A(内嵌部20の外周面20Aとみなしてもよい)において、当該周方向における同じ方向(図3(a)における反時計回りの方向)へ向けて当該周方向に対して傾斜しながら張り出している。各張出部29は、その先端29Aがリング本体27の外周面27Aに対して接離するように、基端29Bを中心として弾性的に揺動可能である(図3(a)の破線矢印を参照)。各張出部29は、自身の弾性力によって、リング本体27の外周面27Aから離れる方向へ付勢されている。
【0022】
図3(b)に示すように、各張出部29の断面形状は、リング本体27の径方向外側へ向けて幅狭となる略等脚台形状をなしていて、その輪郭は、上底部29Cと、下底部29Dと、一対の傾斜側部29Eとを有している。一対の傾斜側部29Eの間隔は、上底部29Cから下底部29Dへ向かって徐々に広くなっている。
図2を参照して、リップ26は、抜止リング25よりも中間部22側に設けられている。リップ26は、内嵌部20と同軸状をなす環状であって、内嵌部20の外周面20Aから径方向外側かつ一端開口23側へ傾斜して延びている。リップ26は、内嵌部20の一部である。
【0023】
外嵌部21の外周面20Aには、環状の締付リング30が外嵌されている。締付リング30は、外嵌部21をタイロッド12に取り付けられる際に用いられる(詳しくは後述する)。
図4(a)は、ステアリング装置1におけるハウジング10の一部を軸線方向に沿って切断したときの断面図であり、図4(b)は、図4(a)のB−B線に沿う断面図であり、図4(c)は、図4(a)のC−C線に沿う断面図である。
【0024】
図4を参照して、前述したハウジング10について詳説する。
図4(a)に示すように、ハウジング10において、前述した軸方向Qにおける両側(図4(a)では右側のみ図示)の端面10Aには、丸い開口35が形成されている。そして、ハウジング10には、両側の開口35から連続して軸方向Qにおける内側へ延びる内周面10Bが形成されている。内周面10Bに囲まれた内部空間10Cに、ラック軸8が軸方向Qに沿って収容されていて、ラック軸8の軸方向Qにおける両端部と、当該両端部に接続された各タイロッド12は、軸方向Qにおける同じ側の開口35からハウジング10の外側へはみ出ている(図1参照)。
【0025】
ハウジング10の内周面10Bは、開口35とほぼ同径の円周面であるが(図4(b)参照)、内周面10Bにおいて、各開口35から軸方向Qで所定量Xだけ内側の領域には、径方向外側へ窪む周溝36が形成されている。周方向から見た周溝36の断面は、径方向外側へ向かって幅狭となる略等脚台形状になっている。そのため、ハウジング10の内周面10Bは、周溝36の底を区画する底面36Aと、軸方向Qにおける底面36Aの両端から径方向内側へ傾斜しながら延びる一対の側面36Bとを有している。一対の側面36Bの間隔は、径方向内側へ向かって徐々に広がっている。周溝36には、底面36Aおよび一対の側面36B(少なくとも底面36A)の全域において、ゴム等の弾性部分37が設けられている。弾性部分37は、底面36Aや側面36Bに塗布されるグリースや、ゴムのコーティング層も含む。
【0026】
そして、図4(c)を参照して、周溝36は、周方向における一方側(図4(c)における反時計回りの方向)に向かうに従って徐々に深くなる複数の溝部38を周方向に連続させることによって形成されている。溝部38の数は、前述した抜止リング25の張出部29(図3(a)参照)の数と一致していて、ここでは4つである。各溝部38の底面36Aは、前記周方向における一方側へ向かうに従って、径方向外側へ円弧状に湾曲していて、溝部38が最も深くなる部分(前記一方側における端部)において径方向内側へ屈曲し、隣の溝部38の底面36Aにつながっている。
【0027】
図5(a)は、図4(a)においてベローズ14がハウジング10に取り付けられる直前の状態を示しており、図5(b)は、図5(a)のD−D線に沿う断面図である。図6(a)は、図4(a)においてベローズ14がハウジング10に取り付けられる最中の状態を示しており、図6(b)は、図6(a)のE−E線に沿う断面図である。図7(a)は、図4(a)においてベローズ14がハウジング10に取り付けられた直後の状態を示しており、図7(b)は、図7(a)のF−F線に沿う断面図である。
【0028】
次に、図5〜図7を参照しながら、ベローズ14をハウジング10に取り付ける手順について説明する。なお、以下では、ハウジング10の軸方向Qにおける一方側の端部(右端部)にベローズ14を取り付ける手順について説明するが、他方側の端部(左端部)にベローズ14を取り付ける手順も、当該一方側の端部(右端部)にベローズ14を取り付ける手順と同じである。また、図5(b)、図6(b)および図7(b)では、説明の便宜上、ベローズ14において抜止リング25だけ(図6(b)および図7(b)ではハウジング10も)を図示している。
【0029】
図5(a)に示すように、ベローズ14の一端開口23をハウジング10の開口35に対して軸方向Qにおける外側から対向させて、一端開口23(ベローズ14)と開口35とを同軸状にする。このとき、ベローズ14の抜止リング25では、各張出部29の先端29A側がリング本体27の外周面27Aから離れている(図5(b)参照)。ここで、前述した所定量Xは、軸方向Qにおける各張出部29の寸法Yよりも小さく設定されている。また、ハウジング10の開口35の直径は、現時点における抜止リング25の最大外径(張出部29の先端29Aにおける外径)よりも小さく、リング本体27の外径よりも僅か(張出部29の厚さ程度)に大きい。
【0030】
次いで、図6(a)に示すように、指等によって各張出部29をリング本体27の外周面27A側へ押さえつけて(畳んで)外周面27Aに密着させてから(図6(b)も参照)、ベローズ14の内嵌部20および抜止リング25を開口35に通し、ハウジング10の内部空間10C内に挿入する。開口35から周溝36までの間における内周面10Bと張出部29とが軸方向Qにおいて同じ位置にある場合、各張出部29は、リング本体27の外周面27Aに引き続き密着している(図6(b)参照)。なお、図6(b)においてドットで塗り潰された部分は、ハウジング10の内周面10Bと抜止リング25との間の隙間Sである(後述する図7(b)においても同様)。
【0031】
引き続きベローズ14の内嵌部20および抜止リング25をハウジング10の内部空間10C内に挿入すると、図7(a)に示すように、弾性部材28の各張出部29が周溝36と軸方向Qにおいて同じ位置になり、その直後に、各張出部29が周溝36におけるいずれかの溝部38に対して、径方向内側から嵌まり込む(図7(b)参照)。この状態では、各張出部29が周溝36に嵌まり込む方向(径方向外側)へ付勢されているとともに、張出部29に対して開口35側には、周溝36の一方の側面36Bが位置しているので、弾性部材28の各張出部29が周溝36から開口35側へ外れ不能になっている。そのため、ベローズ14の内嵌部20は、ハウジング10の開口35付近の内周面10Bに対して外れ不能に内嵌されている。
【0032】
つまり、ベローズ14の内嵌部20は、ハウジング10において外周面10Dを覆うのでなく、内周面10Bに対して取り付けられるので、ステアリング装置1(特に、ハウジング10の外周面10D)における設計の自由度の向上を図ることができる。そのため、ハウジング10の外周面10Dに、他の構造物(たとえば、ハウジング10を車体に固定するためのステーや係合部)を設けることができる。
【0033】
そして、このような弾性部材28を用いた内周面10Bに対するベローズ14の内嵌部20の取り付け構造は簡素であり、内周面10Bに対するベローズ14の内嵌部20の取り付けも容易である。
そして、内嵌部20の外周面20Aの弾性部材28がハウジング10の内周面10Bの周溝36に嵌まり込むので、ベローズ14の内嵌部20がハウジング10の内周面10Bから不意に外れることを防止できる。ここで、弾性部材28は、ベローズ14(弾性部材28以外のゴム部分)とは別の材料(金属等)で形成されていることから、ベローズ14のゴム部分が経年劣化しても、弾性部材28が引き続き周溝36に嵌まり込んでいるので、ベローズ14の内嵌部20がハウジング10の内周面10Bから外れることを防止できる。
【0034】
前述したように各張出部29が溝部38に嵌まり込むのと同時に、リップ26が、ハウジング10の端面10Aにおいて開口35を縁取る周縁部に対して全域に亘ってハウジング10の外側から密着する。このような構成によって、ハウジング10の端面10Aにおいて開口35を縁取る部分とラック軸8およびタイロッド12との隙間Pがリップ26によって塞がれるので、外部からの異物が当該隙間Pからハウジング10内部に侵入することを防止できる。これにより、ハウジング10内部において異物を除去する頻度を少なくすることができるので、メンテナンス性の向上を図ることができる。また、ベローズ14がリップ26においてハウジング10に位置決めされるので、ベローズ14のかたつきを抑えることもできる。
【0035】
ここで、前述した所定量X(図5(a)参照)は、張出部29が周溝36に嵌まり込むまでの間において内嵌部20を開口35からハウジング10の内部空間10Cまで軸方向Qに押し込んだ量に相当する。前述したように、このXを、軸方向Qにおける各張出部29の寸法Yよりも小さく設定することにより(図5(a)参照)、内嵌部20において内部空間10Cに押し込まれる部分の剛性が高くなっている。そのため、張出部29が開口35を通過してから周溝36に嵌まり込むまでの間に、内嵌部20を、変形することなく内部空間10Cに対して確実に押し込むことができる。
【0036】
そして、図1を参照して、ハウジング10の内周面10Bにベローズ14の内嵌部20を内嵌する前または後に、ハウジング10の内部空間10Cには、ラック軸8が収容される。ベローズ14の内嵌部20は、ラック軸8の外周面8Bを径方向外側から非接触で取り囲んでいる(図7(a)も参照)。一方、ラック軸8においてハウジング10の開口35から外側にはみ出した部分(厳密にはタイロッド12)の外周面(タイロッド12の外周面12A)に対して、ベローズ14の外嵌部21が外嵌されている。このとき、外嵌部21は、締付リング30によって縮径されていて、タイロッド12の外周面12Aに対して隙間なく密着している。
【0037】
そのため、各ベローズ14は、内嵌部20においてハウジング10の内周面10Bに固定され、外嵌部21においてタイロッド12の外周面12Aに固定されている。そして、各ベローズ14の中間部22は、ラック軸8の端部、インナーボールジョイント11およびタイロッド12の端部(インナーボールジョイント11の周囲の部分)を非接触で外から覆っている。
【0038】
このような状態では、ハウジング10の内周面10Bとラック軸8(タイロッド12も含む)との隙間Pがベローズ14によって封止されていて、当該隙間Pへの外部からの異物の侵入がベローズ14によって防がれている(図7(a)も参照)。
そして、ラック軸8およびタイロッド12がステアリングホイール2の操舵に伴って移動(スライド)すると、ベローズ14では、引き続き内嵌部20がハウジング10に固定されて外嵌部21がタイロッド12に固定された状態で、中間部22が自在に伸縮(弾性変形)する。
【0039】
ここで、図7(a)を参照して、弾性部材28の各張出部29は、周溝36に嵌まり込んだ状態において、周溝36の弾性部分37に対して弾性的に接触している。そのため、ラック軸8およびタイロッド12がスライドしている最中等において、弾性部材28と周溝36との間における接触音の発生を防止できる。これにより、弾性部材28や、周溝36におけるハウジング10の摩耗を防げるので、その分、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0040】
また、各張出部29の軸方向Qにおける両端の(一対の)傾斜側部29Eの間隔が、径方向外側へ向けて狭くなっていて(図3(b)も参照)、周溝36の軸方向Qにおける両端の(一対の)側面36Bの間隔も、径方向外側へ向けて狭くなっている(図4(a)も参照)。そのため、周溝36に嵌まり込んだ各張出部29は、周溝36の各溝部38に対してくさび状に食い込んだ状態になっているので、弾性部材28や周溝36におけるハウジング10に摩耗が生じたとしても、張出部29の傾斜側部29Eと周溝36の各側面36Bとの間に、軸方向Qにおけるがたつきが生じることを防止できる。
【0041】
一方、メンテナンスのためにベローズ14をハウジング10から取り外したい場合には、内嵌部20を、周方向において各張出部29が張り出す方向(図7(b)における反時計回りの方向)とは逆の方向に内嵌部20を捩じる(回転させる)。すると、各張出部29は、当該逆の方向に向かって次第に浅くなる溝部38の底面36Aに径方向外側から押圧されることによって、張り出さないように変形してリング本体27の外周面27Aに密着する(図6(b)参照)。このとき、各張出部29が溝部38から径方向内側へ外れ(つまり、ハウジング10の内周面10Bの周溝36から弾性部材28が外れ)、抜止リング25の最大外径が、ハウジング10の内周面10Bにおいて周溝36が形成されていない部分の内径よりも小さくなる。そのため、メンテナンス等のために、ハウジング10の内周面10Bに対して内嵌されたベローズ14の内嵌部20をハウジング10の内周面10Bおよび開口35から容易に取り外すことができるので、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0042】
この発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
図8は、変形例に係る抜止リング25の斜視図である。
たとえば、張出部29は、リング本体27に対して溶接等によって取り付けられてもよいし(図3(a)参照)、図8に示すように、リング本体27において、その周方向に細長いU字形状の切込み39を複数形成して、切込み39に囲まれた部分を切り起こして張出部29としてもよい。
【0043】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…ステアリング装置、8…ラック軸、10…ハウジング、10A…端面、10B…内周面、12…タイロッド、12A…外周面、14…ベローズ、20…内嵌部、20A…外周面、21…外嵌部、26…リップ、28…弾性部材、29…張出部、35…開口、36…周溝、37…弾性部分、P…隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング、前記ハウジングに収容されていて操舵に伴って移動する移動部材、および、前記ハウジングの内周面と前記移動部材との隙間を封止して当該隙間への異物の侵入を防ぐベローズを含むステアリング装置であって、
前記ハウジングの内周面に形成された周溝と、
前記ベローズの一端部に設けられ、前記ハウジングの内周面に対して内嵌される内嵌部と、
前記内嵌部の外周面に設けられ、前記周溝に嵌まり込む弾性部材と、
前記ベローズの他端部に設けられ、前記移動部材の外周面に対して外嵌される外嵌部と、
を含むことを特徴とする、ステアリング装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記内嵌部の外周面において、周方向における同じ方向へ向けて傾斜しながら張り出す複数の張出部を含むことを特徴とする、請求項1記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記ハウジングには、前記移動部材をはみ出させる開口が設けられ、
前記内嵌部の外周面に設けられ、前記ハウジングの端面において前記開口を縁取る部分に対して前記ハウジングの外側から密着するリップを含むことを特徴とする、請求項1または2記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記周溝に設けられ、前記弾性部材に接触する弾性部分を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−103636(P2013−103636A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249551(P2011−249551)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】